会社からの帰宅途中
人通りが多いオシャレな女性向けの服屋が建ち並ぶ店の前でゆらゆらとまるで蜃気楼の様に存在そのものが揺れながらこちらを見つめる2m以上の包帯男の姿が
あれは間違いない
デジモンだ
誰も気がついていないのか道行く若者や綺麗なお姉さん達OLは何故かお店の外ガラスに釘付けで全員後ろ姿しか見えない。確かリニューアルオープンで雑誌か有名人が取材に来ているのか?
大勢の人達が店に夢中になってる間、目線を合わせぬよう恐る恐る通り過ぎるとデジモンが身につけている(?)包帯がトラックや車が通り過ぎる度に右へ左へなびく
「確か日中怪異が頻繁に起きてるって聞いたな。アイツが原因だったりして…」
けど今は夕方、人混みの多い帰宅ラッシュ
目撃例は昼間だって聞いたが人が多いこの時間帯でしかもこんな都心の真ん中で怪異がでるっておかしくないか?
デジモンは市に報告しないと連れ歩くこともましてや職場に連れて一緒に仕事もできない。野良なら警察が黙っていないはずなんだが、聞いた話によると怪異は緑のヤツと目を合わすな!だったはず…
目の前に居るのは緑じゃなくて白い怪異だぞ
ガセネタか?
まぁ、ただの噂だしな
服屋を通り過ぎ再びデジモンがいた場所を振り返って見ると既に彼の姿はなかった
夏の暑さと仕事のストレスで幻覚が見えてしまったみたいだ
前を向いて歩きだすと
ユラリ
目の前にあの包帯ぐるぐるの大男デジモンがいた。絶対こっちを見ている
目を合わすな、ウイルス種は何するか分からない。発狂するって噂だ
下を向いたままそのまま後ずさりしたその時
「あれ?」
足元を見るとデジモンの足ではない
「なんだ、ただのマネキンかよ」
このマネキンはリューアルオープンした服屋の物だ
置くスペースがなくて余ったマネキンだろう
よく見るとマネキンに包帯の様な服を着せた奴がいる。きっと見間違えたんだ
さっきから殆どの人がマネキンしか見えなかったことも気のせいだったんだ
全部錯覚だと判明しホッと一息つく
「なんかどっと疲れた、早く帰って寝よ」
そう言って男は人集りの明るい道とは反対に街灯しかない暗がりの一本道をたった一人で歩いてく
男が行った後追おうと先程見ていたデジモンが追いかけていくも途中で諦めたのか追いかけるのをやめた
「あと少しだったのに」
同刻
リューアルオープン店の前でパトカーと救急車のサイレンが鳴り響く
野次馬が店の前で集まる中、野次馬達の横で警察が事情聴取というよりか店主をこっぴどく叱っていた
「何故道路側に見える位置に鏡を設置した」「ここの通りは鏡はダメだと契約する時何度も言ったはずだ」「これで何人目だと思っている」
救急車の留守番をしていたマミーモンは野次馬の群れの中から帰ってきた救急隊員のパートナーの顔を見て悲しげな表情を浮かべながら首を横に振る
「間に合わなかったよ」
彼の魂アイツに取られちゃった
運ばれる男だった遺体
救急車と行き交う車のサイドミラーにマミーモン達を嘲笑うかのようにメルキューレモンがニッコリ歯茎を剥き出しにして耳を塞ぎたくなる様な低音の歯軋り音とヤツのけたたましい悪い笑い声が鏡の中で揺らぐ男の魂を大事そうに抱えたままぐにゃり、と消えていくのであった