その夜の天気は雨だった。
まるでバケツの中身を上からぶちまけたような豪雨。
地面に溜まったものは至る所を埋め尽くし、干し尽くされるまでに数日はかかるだろう。
ばしゃり、ばしゃりとゴム長靴を半ば水に浸からせながら車道を歩く人影。
青のレインコートが光を吸って濡れ光った。
「こんなに降るとはなぁ…苗が心配でしかたねえ」
レインコートの下に手を差し込み、汗を拭う。
雨にぐっしょりと濡れた先から重くなったズボンを引き上げていた時。
突如のライト。
視界を真っ白に染めながらそれは突っ込んできた。
ーー
「が……ぁ……」
走り去るタイヤの音。
後には先程のレインコートの人物が残されていた。
「ぁ…あ…」
レインコートの人物は立ちあがろうとするが、手足に力が入らない。
1トンに近い重量に押し潰されて身体の半分はすでに機能していなかった。
そのとき、闇に光る二つの目があった。
目の主は、レインコートの人物の元へと足早に駆け寄り、鼻を近づける。
「……っ、ぁ…ぐ、す…さ…」
レインコートのフードが跳ねあがる。
御歳70〜80は超えていよう老人だ。
その老人に鼻を近づけて鳴らす、巨大な狼のような獣。
「……殺ス。必ズ」
その目に宿るは強烈な殺意。
その殺意に老人は刹那に思いを馳せることなく息絶えていた。
ガツッ
鋭く頑強な爪がアスファルトを削る。
獣は走り出した。
こちら、五十嵐電脳探偵所 #6 その罪裁くは兇牙か人の法か
五十嵐探偵所に電話が入ったのはある午後の事。
クマのぬいぐるみにじゃれついて遊ぶパオモン。
…否。
その姿はすでにパオモンではない。
パオモンの丸みを帯びた身体は生き物らしい形になり、四つの足が生えた姿となっている。
子犬をミニチュア化したようなその姿は、シャオモンというデジモンのものだった。
そのシャオモンとクマのぬいぐるみを脇に、美玖は受話器を取る。
「お電話ありがとうございます。こちら五十嵐探偵じ…」
『もしもし、美玖?』
「お母さん?」
美玖は少し驚いた。
美玖の実家はB地区にある。
元々あるデジモンの暴走によって更地となる前に避難したが、家が無事なため戻ってきた人たちのうちの一世帯だ。
農家であるためすでに復活した畑では苗植えのため多忙と聞いていたが…。
「美玖、最近身体とか大丈夫?お仕事ちゃんとやっていけてる?」
「大丈夫、仕事もこなせるようになってるの。とても頼りになる助手がいて…それで、どうしたの?」
「実はね……」
少し短くも長い時間。
「おじいちゃんが…!?」
ーーー
「いい加減、車買おうかしら」
「そうだな」
後ろからしがみつきながら呟く美玖に、シルフィーモンは肩をすくめた。
今、シルフィーモンは美玖とシャオモンを肩にしがみつかせながら飛んでいる。
なぜこんなことになったのか。
「おじいちゃんが死んじゃったなんて…それも、事故みたいなの」
詳細を聞くと。
土砂降りの夜、午後21時を過ぎた時間に畑の様子を見に行った祖父の帰りが遅いことに気づいた家族。
そこで、五十嵐家で一番下の兄弟である建人(たけと)が様子を見に行くと、道路の真ん中で倒れた祖父を見つけたとの事である。
「まだ警察が来てないから話はこれから聞きに行こうと思ってる。今はお通夜が先」
そのために、急ぎ黒のフォーマルスーツに着替え、正面口に留守中のプレートを掛けた後は車代わりにシルフィーモンにB地区へ飛んでもらったのである。
今回はシャオモンも一緒だ。
「あそこ、あの青いトタン屋根がうちの倉庫。家はその隣」
場所はB地区でも農家が多かった場所。
B地区は五つの区画の中でも自然が多く、山が近い立地だ。
畑ともほど近い地点に着地することにした。
降りた場所が家の位置的に勝手口の近くであるため、玄関へと大きく回り込んだ。
戸と鍵は今となっては非常に珍しい、引き戸と回すタイプの鍵であり、美玖は勝手知ったそれをガラガラと開ける。
「ただいまー」
足早に駆ける音が聞こえたかと思うと、高校生ほどの少年が出てきた。
「姉ちゃん、お帰り」
「ただいま、卓也。…お母さんは?」
「父ちゃんと奥で……………」
そこで少年…美玖の弟である次男の卓也は固まった。
美玖の後ろにいるシルフィーモンとその腕に抱えられたシャオモン。
「どうしたの?」
「………母ちゃーん!父ちゃん!兄ちゃんに建人ーっ!!!」
どたどたどたどたどた!!!
ダッシュで廊下を走っていく卓也。
「卓也!こら、走らな…」
「姉ちゃんが!姉ちゃんがぬいぐるみ抱っこしたコスプレの男連れてきたあー!!」
「こら!!卓也!!言い方ぁあ!!!」
黒のパンプスを脱ぎ、弟の後を追いかける美玖。
足拭き用のタオルを用意されるまで、シルフィーモンは玄関に立たされる羽目になった。
ーー
「……改めて!この人…デジモンはシルフィーモンさん。私の仕事の助手で、とても頼りになる人。こっちもぬいぐるみではなくてデジモンのシャオモン。どちらも、今いる私の職場で一緒に暮らしてるの」
「あらあら、始めまして!デジモンのお客さんは珍しいわ。どんどんあがって頂戴な」
「…どうも」
「わーい!」
美玖の母の葉子が、茶呑みと茶請けの煎餅を出す。
煎餅を一枚バリバリと齧りだすシャオモン。
シルフィーモンが会釈すると、卓也がぼそり。
「デジモンだったのかよ。姉ちゃん男の趣味めっちゃ変だって思ったんだけどなあ」
「んもう!コスプレじゃなくてデジモンのちゃんとした武装だから。失礼なこと言っちゃだめ!」
「それにデジモンは性別がないよ」
大学生である長男の陽介が言うと、卓也と建人がにわかに食いついた。
「え、じゃあアレないの?」
「へえ、変なの!」
「……アレ?」
シルフィーモンが聞くと、ニヤニヤ顔をしながら卓也が顔を近づけて。
「アレったらアレ!ひひひっ、ち・ん・ち……いただだっ」
「バカ言わないのっ!それより、おじいちゃんの御顔見に行くわ、お母さん」
卓也の言葉を顔真っ赤に羽交い締めでさえぎる美玖。
葉子は神妙な顔で頷いた。
「ええ、御顔も、お身体も綺麗にしてあるから……ご挨拶にいってらっしゃい。美玖が帰ってくるの、おじいちゃんずっと待ってたのよ」
仏間まで、シルフィーモンとシャオモンを連れて歩く。
自然と足が重く感じた。
仏間に入った瞬間鼻につく線香の強烈に香る匂い。
改めて白木の棺を前にすると、辛かった。
「…おじいちゃん…」
棺の窓を覗けば、目を閉じて眠る顔がある。
そばでシャオモンが鼻を棺に近づけた。
「せんせ、なか、なにはいってるの?」
たどたどしくあるが、言葉を口にするシャオモン。
そんなシャオモンを抱き上げ、棺の窓から花に囲まれ安らかに眠る老人の顔が見えるようにした。
「私のね、おじいちゃん。子どもの頃から私が…大好きだった人」
シルフィーモンは仏間を見回した。
仏壇とその上には神棚が備え付けてある。
「おじいちゃん?」
「うん…わかりやすく言うと…お父さんの、お父さん」
「おとうさんのおとうさん?」
「お母さんのお母さんが、おばあちゃんね」
「おばあちゃん?」
シャオモンは目をぱちぱちしながら棺を覗き見る。
デジモンは生殖行為を必要としないため、頭の中を捻り出しつつもシャオモンに説明する美玖。
「おじいちゃんはね、のんびり屋で優しい人。私が子どもの頃、よく一緒にデジモンが空飛ぶとこ見に行ってくれたの」
今思えば、孫の嬉しそうな顔が見たかった、というのもあるのだろう。
それでも思い出す。
まだデジモンが人間の世界に移住し始めた頃の事。
多くの空を飛ぶデジモン達が頭上を横切っていったものだ。
『おじいちゃん!あそこにかっこいいデジモンが飛んでる!はやく、はやく!』
はしゃぎながら祖父の手を引っ張って、困らせていた頃が懐かしい。
それ以外にも、祖父と過ごした時間は多い。
畑仕事を手伝っていた事。
アケビや山ぶどうなどを採って初めて食べたその反応を祖父に微笑まれた事。
大好きな豆大福を弟達と祖父とで一緒に、縁側で食べた事。
「……おじいちゃん、こうなる前に一度帰ってくれば良かったな…」
涙ぐみ、ハンカチで目元を拭う。
「これは、どういうものなんだ?」
シルフィーモンの問いになに?と振り向くと、神棚を見上げている。
「それはね、おじいちゃんが実家の頃からずっと通っていた神社の神様とかお祀りしているもの」
「神を…?」
「ちょっとややこしいけれど、うちは神様も仏様も祀っているのよ」
美玖はシルフィーモンの隣へ歩き、指差した。
「人間の宗教というのはまた複雑で分かりづらいな」
「でも、デジモンにも神様や仏様はいるんでしょう?」
「そうだが…」
「うちは仏教だからお葬式も仏式でやるけれど、おじいちゃんは神様をよく崇めてたの。毎年一回は、神社に行って"御眷属様"を拝借してる。あそこに置いてるのが、御眷属様ね」
「御眷属様?」
シルフィーモンが美玖の指差すものを見ると、そこには墨で字が書かれた様々な木の札があり、そのうちの一つに神社の名前と共に『御眷属守護』と書かれたものがある。
「おじいちゃんの実家が通っていた神社には、神様の使いである狼が祀られているの。それが、御眷属様。お犬様とかオオカミ様とか呼ばれてるって言ってた」
「護符のようなものか?」
美玖は頷いた。
「年に一度、御眷属様を拝借して、火事とか盗難とか家に降りかかる災いから護ってくれるようお祈りする。それで、ちょうど一年経ったら、御眷属様を神社へお返しに行くの」
「大層な受け売りだな」
「霊験あらたかな神社として昔から有名だったりするのよ」
そういえば、まだその神社に行ったことがなかったな…と美玖。
「今年分はもう拝借しているはずだから、返納する来年にお母さんに頼んで一緒に行こうかしら」
「遠い場所なのか?」
「遠い…し、高い山の上にあるっておじいちゃんは言っていた。シルフィーモンならひとっ飛びで行けると思うけどね」
神棚を見上げながらそう話していたところへ、美玖の父親である康平が顔を見せた。
「美玖、お昼ができたから食べよう。シルフィーモンさんもご一緒でしょう?」
「そうね」
「すまない。美玖の付き添いゆえ厄介になる」
「もうじき、左東さん達がやってくるし、夕方に親戚の人達も集まるから忙しくなるよ」
ーー
美玖にとって家族との食事は実に2年ぶりだった。
まだ探偵の師匠たるアグモンが来る前、アパート暮らしだったのを引き払って戻ってきたのだ。
今思い出せば、随分と迷惑をかけてしまったと思いつつ、美玖はやけに賑やかな隣を見る。
「へぇー、しっかしデジモンとはねえ!」
「は、はあ」
「綺麗な顔したいい男じゃないか。歌舞伎の女形に負けねぇなあ」
「お、おんながた…?」
「おう、歌舞伎座に興味あるんなら今度連れてったらぁ。ほれ、一杯やらんか?んん?」
……三人の男がほろ酔いもそこそこに顔を赤く染め、シルフィーモンに絡んでいた。
美玖もよく知る三人で、祖父の友人であり農家仲間である。
三度の飯より呑むことが大好きな酒豪揃いだ。
「伊東さん、ちょいと時期には早いけれどウドの天ぷらができましたよ」
葉子が大皿にいっぱいの天ぷらを載せてくる。
「やあ葉子さん、すまんの!やれ、ノブの奴も、珍妙な格好しとるがこんな綺麗な顔した男がみっちゃんの連れ合いと聞いたらさぞたまげたろうに!」
「あ、あの、左東さん…デジモンに、性別は…」
美玖が流石に横から訂正を求めるものの、酔っぱらい達の耳には入らない。
シルフィーモンはひとまずと美玖に勧められた烏龍茶をコップに注いでもらっただけで、三人から立て続けに絡まれている。
「んで、みっちゃんとは付き合っとるんか?」
「さっきからみっちゃんとは…美玖の事か?」
「うんよ」
三人が一様に頷く。
「私は、あくまで彼女の助手であり、用心棒だ。さすがにそこまで深い関係には」
「なんだとぉ!?みっちゃんこんなにめんこいのに勿体ないなあ!なあっ!?」
「加東さん、それ以上はもうそこまでにしてください!」
恥ずかしさに聞きかねて美玖が腰をあげた時。
「ちょっと外へ出るわね」
葉子が言いながら勝手口へ行く。
手に持っているものに気づき、美玖は尋ねた。
「それなに?お赤飯?」
「ええ」
葉子が返した。
「美玖には言ってなかったっけ。美玖が警察学校受かったって時から、おじいちゃんが『御眷属様が出た』って嬉しそうにして、それ以来お赤飯を出しに外へ行くの」
「え?」
美玖は目を瞬かせた。
そんな話、初耳だ。
「私が、警察学校受かった頃…?」
「そう。その頃、美玖まだ高校生なのにうちから離れて一人暮らし始めてたでしょ。美玖はいないけどお祝いしようって、お赤飯炊いたの。…それ以来ね、おじいちゃん、週に一回、お赤飯を外に持ってくようになったのよね」
「でも、なんでお赤飯?」
「さあ…」
葉子は首を傾げながら、勝手口を開けた。
「でもね、そのおじいちゃんが呼んでる『御眷属様』、今もいるのは確かなの」
「今も?」
「ほら、こないだの雨でだいぶ形がなくなっちゃったけど、足跡があるでしょ?」
葉子が指差す場所に、美玖は目を凝らした。
それは犬よりも非常に大きい獣の足跡だった。
ーーー
夕方になると、続々と他の地区や県から親族達が集まってきた。
血縁の遠近に差はなく、顔が集まれば挨拶が交わされ取り止めのない話が始まる。
こういう場において、集まりに連れられてきた子供たちは遊びやケンカに興ずるわけなのだが。
今回は事情が違った。
「すごい!パパのより高ーい!」
「次、ユウ!ユウが乗るー!」
「あすかも!」
「……頼むから、騒がないようにな。それとそこの子、名前は…アキラか。アキラは近くを走り回らないでくれ。危ないから」
シルフィーモンとシャオモンはたちまち子供たちに群がられていた。
デジモンを間近で見た事のない子どもが多いせいだろう。
もの珍しさに注目を浴びていた。
シルフィーモンに至っては、彼の見た目そのものも注目の的だった。
「デジモンってさ、名前の最後に必ずモンって言うんでしょ?」
「そうだな」
「ねー、ねー!デジモンって何食べるのー?」
「…デジモンによるな」
「シルフィーモンは何食べるの?」
「私は…」
「ねー、ねー!」
「シルフィーモンって強いー?」
「デジモンっていつ寝てたりしてるの?」
「質問は順番に頼むよ、一度に何人も答えられないだろ」
肩車をしたり、質問されたりと忙しいシルフィーモン。
シャオモンはというと、女の子達に人気で代わる代わる順番に触られたり抱っこされている。
「ふかふかであったかい!」
「あたしも触りたーい!」
「じゅんばーん!」
「むぎゅう…」
あちらこちら触られたり、強く抱っこされたり。
住職のお迎えや通夜の準備のため家族を手伝っていた美玖は、横目に見て冷や汗を垂らしていた。
今も、シルフィーモンは子ども達にたかられながら、肩車をしてやっている。
葉子もその様子に苦笑いしながら声をかけた。
「すみませんね、シルフィーモンさん。子ども達の相手をしてもらって」
「私はいいのだが、シャオモンが…」
「きゅううう…」
子ども達の間を回されて目を回すシャオモン。
美玖は間に入ると、シャオモンを抱いている女の子たちに声をかけた。
「ごめんなさいね。この子、すっかり疲れちゃってるみたい。休ませてあげて」
「えー…」
「はーい…」
惜しげな顔をする少女達からシャオモンを受け取ると、美玖は台所へと連れていった。
「大丈夫?ここで休んでてね」
「せんせえ、ありがと…」
「ジュース飲む?」
「うん」
「まってて…オレンジジュースが良いか」
その間に、シャオモンが抜けたため女の子達もシルフィーモンへと標的が変わっていた。
「その足ってほんものの鳥の足?」
「鳥…ああ、アクィラモンのことか」
「それもデジモン?」
「ほんとだー、にわとりの足みたい!羽ふかふか!」
「あ、あまり触らないでくれ…」
さしものシルフィーモンもタジタジだ。
子ども達による質問責めは延々と続き、シルフィーモンはその対応に追われながら次の子どもを肩車に担ぐのだった。
ーーー
「…まさか、五十嵐の所のじいさんだったとはな」
通夜が明け、告別式が済んだ翌日。
警察署を訪れた美玖に、阿部警部は俯いた。
「…ご家族に協力頂いた事に感謝を」
阿部警部は言いながら、美玖に署から出ることを促した。
外でシルフィーモンが待っている。
「ここ数週間前から、B地区で同一犯による轢き逃げ事件が起こってる。今回のもそいつの仕業に間違いない」
「轢き逃げ犯…!?」
「目撃者の証言によれば使われた車両は白の軽量トラック。犯行が行われるのは夜。それも地域を転々としてやってやがる」
「……」
ぎゅっ、と拳を握る。
言いようのない怒りが込みあげた。
「それでお前達にも調査を依頼したい。大丈夫か?」
「…美玖が良いのなら」
シルフィーモンも美玖を見やりながら応える。
家族を殺されたのだ。
たとえ血縁関係というものがないデジモンであろうと、理解できないわけがない。
「…やります」
絞り上げた声で、美玖が答えた。
「すまんな。辛い思いをさせてしまうが…」
「いいえ。でも、必ず捕まえましょう」
「そうか。…それでなんだが、気がかりなことがあってな」
阿部警部は煙草を一本取り出し、火をつけた。
「お前のじいさんが轢かれた日から、B地区で一体の獣型デジモンの目撃情報が相次いでいる」
「獣型デジモン?」
シルフィーモンが聞き返す。
「うむ。狼のような姿をした、四本足で走る大きな獣型デジモンだ。俺はまだ直接姿を見てないんだがそいつが度々目撃されている。特に被害があるわけではないが…」
阿部警部は煙草を一服。
紫煙をゆっくり吐きながら、続けた。
「そいつは必ず、轢かれた被害者のいる場所に姿を現す」
「つまり、それは」
「そいつと犯人になんらかの関係があると言う事だ」
「……御眷属様…」
美玖は呟いた。
通夜の日に見た、大きな獣の足跡。
祖父が御眷属様と呼び、周に一回赤飯をあげていたという存在。
「まさか、おじいちゃんを轢いた犯人を、探して…」
「何か心当たりがあるようだな」
阿部警部は美玖の顔を見ながら言った。
「ひとまず、そいつについての手がかりもあればお前達に収集を任せたい。何か進展があったら連絡してくれ」
「わかりました」
阿部警部と別れると、シルフィーモンは美玖に尋ねた。
「美玖、先程なんて言ったんだ?」
「……通夜の時になんだけど…」
美玖は顔を上げ、シルフィーモンと視線を合わせた。
「お母さんから聞いたの。8年前に私が警察学校に受かった時に、おじいちゃんが御眷属様に会ったって話を」
「神の使いだという狼の事だったな?」
「それで、足跡を見せてもらったんだけど…あれは…」
美玖は少し言い淀みながら、続けた。
「…あれは、間違いなくデジモンのものよ」
「獣型デジモンか」
シルフィーモンが唸る。
「シルフィーモン、デジモンにも狼のようなデジモンっていたわよね」
「ああ。それなりに数は多い」
「だから、会ってみる必要があるの」
美玖は空を見上げた。
「…明日、うちに行こう」
…………
昔語りによれば。
昔、ある大工がいた。
明日必要になる道具を取りに行くため峠へ向かう途中、子どもが産まれた友人の家へ立ち寄る。
提灯を借りて夜中の峠を越えると言う大工に産婆が言った。
『今、夜道を歩くとお産の血の匂いを嗅ぎつけて山犬が出る。行っちゃならねえ』
しかし、大工は急ぎの暇を告げて、友人と産婆に見送られながら峠を越えはじめた。
暗い山の中を歩いてしばらく、大工は恐ろしげな二匹の山犬に出会い、道を塞がれてしまった。
万事休す、と思ったその時。
亡くなった爺様の言葉を思い出す。
(山犬にもし出会ってしまったならば、親しい友人のように振る舞え)
大工がその通りに振る舞ってみると。
山犬たちはすぐ襲いかかるそぶりもなく、大工の後へついていく。
途中で足を踏み外した際とっさに休もう、と言えば、山犬たちも大工の両脇に座ってその通りに休んだ。
そうして家の近くまで来た大工は、山犬たちにお礼として赤飯を炊くので食べに来るよう言うとそのまま無事に帰り着く。
大工は早速山犬たちのために赤飯を炊き、外へ置いておいた。
翌朝には赤飯は綺麗にたいらげられていたという。
今は見かけられなくなったが、人々から恐れられた山犬にも、人の言葉や気持ちは伝わるのだという話。
………
「あら美玖、おかえり。シルフィーモンさんもいらっしゃい」
「ただいま。お母さん、おじいちゃんが呼んでた御眷属様の事なんだけど…」
美玖が尋ねると、葉子はああ、と声をあげた。
「おじいちゃんがいなくなっても、お赤飯、食べてくれたわ。お通夜から明けた朝に見たら、綺麗になくなっていたもの」
「足跡って新しく残ってる?」
「もちろんよ。くっきり残ってるわ」
勝手口を開けると、土の上に美玖が前に見たものより新しい足跡。
「…失礼」
一言告げると、シルフィーモンが勝手口を出て足跡を見た。
足跡は、犬のものにしても狼にしても大きすぎる。
かといって、熊にしては形も爪痕もまるで違う。
「…美玖、足跡から主のデジモンを検知はできるのか?」
「やってみる」
ツールのライトを当てると、足跡の輪郭はくっきりと浮かぶ。
しかし。
「…だめ、該当データがないって出るわ。多分、何のデジモンか検知するには他のデータが必要なのかも」
「そうか…私で試せるか?」
シルフィーモンが言うなり、土に自身の足を踏みしめて足跡を作った。
美玖が試しにシルフィーモンのつけた足跡にライトを照らす。
「…該当データ、有り!」
先程までは【NO DATA】と出たのに【DATA EXIST】という表記と共にワイヤーフレームで構築されたシルフィーモンの全身の3Dモデルが表示された。
「となると、直接そのデジモンのデータを収集する必要がありそうだな」
シルフィーモンが言いながら、土を足で慣らし自身の付けた足跡を消す。
葉子が不思議そうな顔で見ているのを、美玖は説明した。
「おじいちゃんを轢いた犯人がいるの」
「それを、御眷属様、とかいうものが追跡しているらしく美玖の祖父が轢かれた日にちを境に、ある獣型デジモンの目撃情報が相次いでいる。私達はそれについての詳しい情報も集めて欲しいと頼まれた」
「あら…そうなの…」
葉子は瞠目した。
「そう…そうね。おじいちゃんは御眷属様をとても大事にしていたんですもの。オオカミ様は恩に厚いなんて言ってたこともあったわ。……そう。御眷属様って、デジモンのことだったのね」
「誰も姿を見てない?おじいちゃん以外、誰も?」
「そうね。おじいちゃんは私にもお父さんにも誰にも見せたがらなかったわ。でも、お赤飯をあげに外へ出た時、怖くて低い声で誰かがおじいちゃんと話してるのは何度も聞いた」
シルフィーモンが尋ねる。
「具体的に何を話していたか覚えて…?」
葉子は思い出しながら続けた。
「確か…おじいちゃんが天気のことを言うと、おれは神の使いじゃないからわからない、とか。おじいちゃんが今日は塩気がよくきいてるぞ、って言えばもう少しない方が良い、って」
「塩気…お赤飯の?」
「そうみたい。濃いめにお塩を入れて出すの。身体に悪いんじゃないかって思うわ」
美玖も不思議げな顔になった。
赤飯に初めから塩を入れるなど初耳だ。
覚えている限り、いつも赤飯にはごま塩をかけるのが常である。
「私が警察学校に受かったってお祝いに炊いたお赤飯は…」
「もちろん、ごま塩かけて食べたわ。その後、外に出ていたおじいちゃんが、大喜びな顔で帰ってきて塩を入れたお赤飯をーー」
「!」
何者かの気配。
シルフィーモンがとっさに振り返る。
がさっ、と近くの茂みが揺れた。
「今のは…?」
「野うさぎかしら。最近暖かくなってきたから、近くの山から降りてきたのかも」
「………」
シルフィーモンは動いた茂みをじっと見ていたが。
やがて首を横に振った。
「探すしかないな」
……………
ーーー俺は腹が減っていた。
むしょうに、むしょうにひもじくて仕方なかった。
デジタルワールドからここへ彷徨い出て以来、腹の足しになるようなものに満足してありつけていない。
ゴミを漁ることも考えたが、人間どもに俺の姿は恐ろしく映るらしく、一度はそれで騒がれて逃げた。
…面倒だ。
デジタルワールドと人間の世界との取り決めで、俺達デジモンが人間に手を出すことは正当防衛以外は基本ご法度。
おかげでままならない。
が、都合の良い事にどうにか食いでのある獲物にありつけそうな場所へ来た。
人間からすれば恐ろしいらしいが、俺からすれば実に狩りやすいものばかり。
耳の長い小さい奴は捕まえづらいので、それよりもでかい奴を狙った。
一番食いでがあったのは黒い毛皮を着た一番大きな奴。
いくぶんかしぶといが、すぐ逃げないので却って楽な奴だ。
しかし、それでも気がつけば腹が減っている。
なぜだ。
骨までかじりきっても、なお満たされないまま。
……いや、原因は、わかっている。
俺達デジモンは普通、デジタルワールドのものしか食べない。
それ以外は、他のデジモンを殺して得るデータくらいだ。
それ以外のものの摂取に、身体が順応してないのだろう。
「……アア、腹ガ、減ッタ」
でかい奴(人間はそいつを熊と呼んでいた)の味にも飽きてきた。
なら、どうする?
俺の頭はそんな問いに答えられないまま、堂々巡りを繰り返していた。
そんな、ある昼のことだ。
俺は、人間が猪と呼ぶ獲物を追い回し、仕留めた。
だが、場所が人間の家から近い。
食ったらすぐに離れようと思った時だ。
「おお、これは、…御眷属様ですか!なんと喜ばしい!」
…なんだと?
ゴケンゾクサマ?
俺が振り返ると、一人の人間が顔を真っ赤にしながら俺の方へ歩いてくる。
その人間は十分俺を戸惑わせた。
これまで俺を見た時の人間の反応は決まって、逃げ出すかその場で腰を抜かすかのどちらかなのに。
「御眷属様がデジモンの姿でいらしてくれた…!」
なんだと?
「オマエ…俺ニ何ノ用ダ?」
「申し訳ない。私は五十嵐春信と言いまして…あああ、御眷属様がデジモンの姿で現れたと知ったら、美玖が驚いたろうに…!」
名前はどうでもいい。
正直に訳がわからない。
「御眷属様、ここへおいでになられたのも何かの御縁。お赤飯を召し上がられては?」
……セキハン、とはなんだ?
人間の説明を聞くところ、どうやら食べ物のようだが。
「ちょうど、孫娘が警察学校に受かりまして、その祝いに娘が赤飯を炊いたのですよ。持って参りますので、お待ちを」
どうでもいい。
腹が満たせるなら、早くしろ。
そうして人間が持ってきたのは、豆の入った赤い飯。
俺は困惑の眼差しを向けたが、人間はにこにこと笑うばかり。
ええい、くそ。
毒入りだろうが俺達デジモンが人間の仕込む毒なんぞでそうそう死ぬものか。
「はぐ…はぐっ、はぐっ…んぐ…」
飯はしょっぱかった。
とりわけ美味い、というものでもなかった。
が。
(何ダ…コノ、満タサレタモノハ)
なぜか、不思議と腹が満たされるものを覚えた。
見た目は、豆を入れただけの赤い飯なのに。
「如何ですか、御眷属様。少し多めにですが、御眷属様の好きなお塩を入れておりまして」
そう人間は言いながら、俺に向かって両手を叩いて拝んだ。
正直変な人間だと思ったが、腹の足しがマシになった事を思えば無視はできん。
「…腹ノ足シニハナッタ」
そう一言だけ言って去ろうとした俺の後ろからそいつは
「週に一度。ここへおいで下され。赤飯を必ず用意して、待っております」
……それ以来、俺はその人間と会うようになった。
人間は俺に赤飯の塩加減がどうか聞いてきたり、やたら世間話をするなど変わった奴だった。
気がつけば、8年。
8年もそいつに付き合ってしまった。
だが、それだけの年月の間、俺は人間から色々と話を聞いた。
人間がよく話すのは、自分の"孫娘"のことだった。
俺には何のことだかわからんが、人間には血のつながりというものがあるらしい。
「美玖が貴方様を見たらきっと喜びます」
「あの子はデジモンが、それはそれは大好きな子でしたので」
「あの子の子どもの頃を思い出します。毎日、空を飛ぶデジモンを見ては私の腕を引っ張り一緒に眺めに行ったものです」
それから、あっという間だった。
残酷なまでに、あっという間だった。
「……殺ス。必ズ」
殺した奴に、復讐を。
ーーー
「ここにも足跡があったか」
集合墓地にやってきた美玖とシルフィーモン。
シルフィーモンが目敏く見つけた墓石周りには、勝手口で見たものと同じ足跡。
「おじいちゃんがここに眠ってるって、知ってるからかしら…」
美玖は呟きながら墓前で膝をつく。
「おじいちゃん…」
「足跡はかなり新しいな。昨日か、一昨日ほどのものか」
注意深く足跡を見ながらシルフィーモンは独りごちた。
「近くに毛かせめてウンチくらいは落ちても良いのだが」
「ウ…ウン……」
なんとも言えない眼差しを美玖は彼に向けた。
わかっている。
デジモンは生殖こそしないが、排泄はする生き物なのだ。
だが、デジモンのウンチも、彼らデジモンが摂取し、あるいは吸収したものの残り滓。
データサンプルにはうってつけだ。
「どこを探す?」
「まずはこの墓地の周辺、それと美玖の実家…の近辺だな」
もし件の獣型デジモンが頻繁に徘徊を行なっているのなら、痕跡も見つかりやすいはず。
そうシルフィーモンは踏んだ。
それから一時間。
薮の多い場所を探し回って、二人は顔を見合わせた。
「…ウンチもないか」
「そうね…」
獣が通る、いわゆる獣道も探してみたが、結果は同じだ。
タヌキの貯め糞と思しき糞の山くらいしかない。
「なら、次は美玖の実家だ。降りるぞ」
「わかった……あ、待って」
共に歩きかけて、美玖が思い出したように声をあげた。
「どうした?」
「猟友会の人たちならきっと!」
B地区は野生動物の出やすい場所であるため、必然と猟友会も存在している。
野生動物の動向や一般人がまず踏み入るには危険な地形など、彼らでなければ担当し得ないことは多い。
「確か、今日は区民館で猟友会の会議があったはず。そこに向かってくれる?」
「ふむ…わかった」
ーー
猟友会の話すところ。
ここ10年ほど前から、熊や猪の数が減り続けているという。
地元の猟師たちのなかには、巨大な獣によるものと思しき死体を見たという者もいた。
「畑を荒らす鹿や猪、人への被害が危ぶまれる熊が畑や街中に姿を現す危険が減ることは大変好ましいのですが…同時に不安もあってなぁ」
「なぜだ?」
シルフィーモンが問うと、猟師の一人は眉根を寄せながら続けた。
「鹿や猪はともかく、熊には天敵がいません。つまり、熊以上に恐ろしいものが地元にいることになる。それだけで、この地区の不安を煽ることにもなるんだ」
「熊を簡単に殺せるほどの動物なら…デジモンなら」
熊にとって天敵と呼んで差し支えなかろう。
「最近、何か動物の死体を見たことは?」
「一昨日ほどに鹿でしたら」
「やはり、大きな獣に襲われたような…?」
猟師達が頷いたため、その死体を見せてもらえるよう協力を得た美玖とシルフィーモンは美玖の実家からも近い山へと向かった。
同行者は50歳半ばと40歳のベテラン二人。
万が一の時に備え狩猟用のライフルを携行。
人の足では進みにくい場所では、一人が先行しロープを張り、レシーバーを通して下方にいるもう一人に状況を報告する。
「連携が取れているな」
シルフィーモンはその様子を眺めながら足を進めた。
普段は個人からの依頼が多く、人間と同行しても中々見られたものではない人間同士のこうしたチームワークを組んでの行動は彼には新鮮みに映るようだ。
やがて、鹿の死体があるポイントへたどり着く。
深い茂みに隠された場所に、鹿の死体は確かにあった。
推定五歳ほどの雄鹿だと猟師二人は話す。
人間の死体とはまた違ったものに咳き込むも、美玖は状態を見るため近寄った。
腹部は空になっており、肋骨の一部も半ば折りとられたようになくなっている。
すでに腐乱が進んでおり、蛆が動いて見える。
「内臓が綺麗に食べられているだけなら、他の肉食動物とそう差はないんだが…」
猟師の一人は言いながら、頭部を見た。
そこは無惨に噛み砕かれ、中身がほとんどなくなっている。
「脳や目も食べられている。ここまで食べる動物はそういねぇなあ」
「相当に食欲が旺盛ってことでしょうか?」
「うーん」
猟師達も気難しげにうなる。
シルフィーモンは鹿の脚を一本手に掴むと持ち上げた。
「……」
バラバラと腐肉のかけらや蛆が落ち、死体の下にいたたくさんの虫達が蠢く。
それに構わず片腕で持ち上げた死体を注意深くシルフィーモンは観察する。
気持ち悪さのあまり美玖は思わず口元を押さえた。
「シルフィーモン、何見てるの?」
「……どうやら、食い方が雑な分、手がかりは出たようだな」
シルフィーモンは言いながら鹿の空になった腹部に手を伸ばす。
「な、何を?」
「見てみろ」
折れた肋骨の部分から、つまむように取り出されたのは毛の束。
白い獣の毛だ。
ただの毛ではなく、かすかにデジタルの歪みがちらついているのはデジモンが残したデータである証。
「美玖、スキャンを」
「ま、待って」
ツールを展開、プレパラートの上にシルフィーモンは毛を置く。
訝しげに見つめる猟師達。
数分もの分析の後、ホログラムに浮かび上がったものを見て美玖は思わず口に出しかけた。
「ガルルモン…」
「いや」
シルフィーモンが即答する。
「確かに姿かたちはよく似ているが…名前が表示されてるだろ?」
美玖がホログラムの下部にある名前を確認する。
そこに表記された名前は
『グルルモン』
「グルルモン?」
「ガルルモン系デジモンの亜種だ。ガルルモン系の中ではとりわけ好戦的な性格の持ち主として知られている」
「それが、御眷属様…」
改めてホログラムを見れば、ガルルモンとは幾分か違う特徴が体色に見られた。
シルバーブルーが美しいガルルモンとは別に、グルルモンは抜けるような白だ。
今まさに分析に使われている毛と同じ色。
そしてガルルモンの縞模様が紫に近い青色なら、グルルモンのそれは群青色だ。
「ともかく、デジモンのデータが得られたのはありがたい。ご協力感謝します」
「いやあ、私らとしては、そのデジモンをなんとかお願いできますかな…?」
「そこは私達もやってみます」
美玖は頷いた。
猟友会の人間達が不安がっているように、デジモンというものは一般人にとって脅威的なものである。
しかし、一方で疑問も残る。
気性の激しいグルルモンはなぜ、週に一度とはいえ人間の食べる赤飯を祖父の手から受け取り続けたのだろう。
それをシルフィーモンに尋ねようとしたその時。
けたたましく鳴る携帯電話。
画面を確認すると、阿部警部からだ。
「はい、五十嵐です」
『五十嵐、すぐ来れるなら来てくれ!例の轢き逃げ犯が現れた』
「!」
「それだけじゃない。白い、ガルルモンみたいな奴がその後を追っていった。噂の獣型デジモンで間違いない!』
「わかりました…!」
通話を終えて、シルフィーモンの方を向き直る。
「轢き逃げ犯が出た…それを白いガルルモン……グルルモンが追っていったって、阿部警部が」
「わかった。すぐに飛ぼう。…掴まれ」
猟師二人は、美玖を背負ってはるか高く上へと跳び上がるシルフィーモンを、ただただ呆然と見ていたのだった。
「…デジモンって、すげぇなあ」
「……そうだなあ」
…………
昔語りによれば。
埼玉県飯能市の赤工(あかだくみ)という村に、一人のお大尽、所謂お金持ちがいた。
ある夜、その家で50両、現在に換算すれば1000万円以上もの大金が盗まれる事件が起きた。
盗賊による侵入の痕跡もなく、そのお大尽は悩むあまり誰とも口を聞かなくなる有様。
そこへ、事情を聞いた村の物知りがやってきて、こう進言した。
「二度とこういうことが起こらないよう、三峰神社から御眷属をお借りして来るがいい」
お大尽は早速、末弟の久四郎を使いとして三峰神社へ向かわせた。
神社に着けば、高い山の上、周辺に杉や桧の巨木を生い茂らせる社。
清廉にして厳かな御山の空気に打たれたかのような心地で本殿への参拝を済ませ、社務所を訪れると一人の神官が控えていた。
緊張を隠さず御眷属の拝借を申し込むと神官はこう尋ねる。
「表かね、裏かね?」
「ハア?」
訳が分からず久四郎はきょとんとした。
説明によれば、目に見える御犬様か見えない御犬様どちらかをお借りすることらしいのだが。
久四郎にははたしてどちらにしたらいいものか分からず、立ち入って相談すれば神官から
「あんたはほんとうに何も知らないんだね」
と返されてしまう始末。
このままでは兄の代参としても、一家の主としても面子が立たぬ。
久四郎は表にすることを選んだ。
「ほんとうに表でいいんですね」
「結構でごぜえます」
念を押されたものの、必死に心の中で自分に言い聞かせた。
表で良いのだ、と。
でなければ、御犬様を確かにお借りした証もないまま、自分かあのずるそうな神官に高額な奉納金をネコババされたと兄に疑われるのでは?
そんな心配があった。
久四郎が村へ帰り着くまでの間に、山からついてくるものの気配。
それが御犬様、御眷属様だとすぐに気づいた。
久四郎は後に、意味を知ることになるのだが、裏を選ぶと御眷属は代参の前に決して姿を現さないが表だと顔を出しに現れるという。
狼に見張られながら帰るというのは大変心地のよくないため、大抵は裏を選んでいく人々が多かったそうな。
御犬様をお借りしたという確かな証拠のために仕方ないからと表を頼んだが、久四郎は気が気ではない。
例え自分に危害を加えることがないと約束されていても、相手は恐ろしい狼なのだから。
そうして無事に村へ帰り着いた久四郎が、兄に事の次第を話していた時だ。
「ギャーッ!!」
裏の物置小屋の方ですさまじい叫び声がした。
二人は慌てて立ち上がり、物置小屋へ駆けて行ってみれば。
お大尽の長男の清太郎が何者かに噛み殺され、血まみれになって倒れていた。
その時久四郎のみが、三峰神社から借りてきた御犬様が神社の山の方へと立ち去るのを見たが、彼が終生兄にその事を話すことはなかったという。
物置小屋の中一杯に散らばった大量の小判を見て誰が盗人かを知ったお大尽。
彼は、息子が盗人だという事実を世間に知られたくないあまりに、死因について口外することを家族の者や使用人に固く禁じた。
息子の死因は事故死として世間に広められる事となる。
ただ、その後。
お大尽は久四郎と二人だけになることがあると、こう愚痴をこぼすことが何度もあったという。
「あの時、お前を三峰神社へ代参に行かせなければ、せがれをあんな目に合わせなくても済んだのだなあ」
……………
B地区の一角、避難民用の仮住宅がある場所に集まる数台のパトカー。
それを目当てに到着したシルフィーモンが近くへ着地する。
「おうい、五十嵐!シルフィーモン!こっちだ」
阿部警部が急ぎ足で駆けつけた。
彼の説明によると。
今から50分前。
パトロール中の警察官二人が、背後から走ってきた白い軽トラックの接近に気づいた。
人がいるにも関わらず、猛スピードを維持する軽トラに異常を察知した一人は回避したが、もう一人は間に合わず強い追突を受け意識不明の重態。
軽トラが走り去ってまもなく、それを追うように現れたのが…
「白いガルルモンのような奴だった」
「グルルモン…!」
「軽トラはどこへ向かったかわかるか?」
シルフィーモンの問いに阿部警部はマップを出して指差した。
「今我々がいるのはこの道路。軽トラはここを行った更にひと気のない道へと向かって行った」
「それなら、すぐ追わないと…」
阿部警部は頷き、パトカーへ向かう。
「俺もすぐ追跡する。五十嵐は俺のパトカーに…」
「いいえ、それより阿部警部」
なんだ?と振り向く阿部警部に、美玖は神妙な顔で尋ねた。
「二輪免許を持ってますので、バイクを貸していただけませんか?」
………
ついに見つけた。
かすかな血の臭いを俺は追った。
ひと目でわかる。
あれは速く走るのが苦手な乗り物だ。
よくもまあ、俺の前からそんな乗り物で逃げようなどと片腹痛い。
「殺シテヤル。ソノ腹ワタ引キズリ出シテ、泣キワメコウガ苦シメテヤル!!」
殺意に満ちた目で目の前の標的を見据え、白い獣グルルモンは咆哮した。
………
夜中、エンジン音を鳴らしつつも走る一台のオートバイ。
そのやや前方を飛んでいくはシルフィーモン。
そして後方から走ってくるは阿部警部の乗るものを含む4台のパトカーだ。
「……それが、例の獣型デジモン、グルルモンの狙いで間違いないかと」
『なんてこった』
頭に装着したインカムを通して阿部警部にこれまでの事を説明する。
美玖達が得た調査結果と、美玖の祖父と獣型デジモン・グルルモンとの関係を知った阿部警部も頭を抱えた。
『確かにここ数週間もの間に轢き逃げ犯による被害者はすでに20人にのぼる。重罪を問われる可能性はデカい。それを個人の報復で殺されでもしたら大事だぞ!』
「その前に、グルルモンを止める必要があります。私とシルフィーモンにお任せして貰えれば…」
『そのつもりだ!』
美玖が警察署からオートバイを拝借したのは、グルルモンを足止めする目的の一端である。
ガルルモン系統、特にワーガルルモンのような二足歩行型を除けば殆どの系統のガルルモン系デジモンはたいへんな俊足と敏捷性の持ち主だ。
パトカーでも最悪振り切られるおそれがある。
そこでオートバイだ。
オートバイならよほどの道でない限り車では歩行できない場所でも侵入が可能だ。
グルルモンが万が一車では通れないコースから軽トラを追跡するような行動を取った場合、シルフィーモンのみで止めなければいけない状況が生まれてしまう事は避けられる。
シルフィーモンも、美玖による補助行動を今では全面的に信頼しているためこの判断に頷いた。
そうでなくても、麻痺光線機能が大きな足止め要素となりうる事は何度も見ているし体験もしている。
「シルフィーモン、グルルモンの姿はまだ捉えてない!?」
前方を飛ぶシルフィーモンに美玖が叫ぶ。
「待て……いや、あれがそうか!」
ちらりと見えた標的補足のアイコンをディスプレイが捉えた。
今、シルフィーモンのゴーグルの裏では180°の広い視界をバーチャルリアリティのそれとして展開されている。
赤いヘルメットのようなヘッドマウントディスプレイと、両耳のレーダーで捉えた情報を画像処理した視界だ。
それによって、昼夜問わず標的を確実に捕捉できる。
今まさに、白い軽トラとそれを追って走るグルルモンが見えた。
ーーー
グルルモンは高速で軽トラの背後まで追いすがる。
軽トラを運転している相手は、すぐ後ろのグルルモンに気がついたようでスピードを上げるためアクセルを踏み込む。
「ーー遅イ!」
車体がスピードを上げるよりも早く跳躍し、荷台に乗り上がった。
ギギギーッ!!
軽トラが激しく揺れる。
グルルモンを振り落とそうとドリフトを始めた。
「コノッ…往生際ノ悪イ…!」
後ろ足を強く踏み締め、ルーフへ前足を掛ける。
しがみつきながらグルルモンの耳は、遠く響くパトカーのサイレンを聴いた。
「チィッ…コイツハ俺ガ殺スンダ…邪魔ナド…!」
悪態をつきながら、どうしたものかと。
そう思考を巡らせながらグルルモンは、見てしまった。
パトカーよりも近い位置にやってきていた別の追跡者を。
(…空ニイルノハ、…デジモン!ソレモ、成熟期ノモノジャナイ…完全体!!)
「『トップガン』!」
軽トラに狙いを定めてシルフィーモンが必殺技を放った。
狙いはわずかに車体をズレるが…むしろそれが狙いだ。
軽トラのスピードがエネルギー弾を受けた車体への衝撃によって大きく削がれる。
「今のうちに距離を!」
軽トラとその上にしがみついた状態のグルルモンを前方に認め、美玖はオートバイの速度を上げた。
「…お願い、グルルモン。おじいちゃんの為にも、止まって…!!」
『トップガン』による車体へのダメージはそれそのものが十分といえた。
まともに車体に直撃させようものなら間違いなく運転手もろとも消し飛ぶところだろう。
シルフィーモンの"射撃"の腕は、様々な戦闘を潜り抜けてきた結果培われたものといって差し支えない技量だった。
ギギギィイイギギギイイイィィ!!
軽トラが激しく揺れ、グルルモンがそれにしがみつきながら助手席側のドアに爪をかけた。
爪による引っかけは軽く窓に亀裂を入れる。
「シルフィーモン!」
美玖が叫ぶとシルフィーモンもそれを理解してグルルモンの背へと急襲した。
自身より何倍もの大きな背中にしがみつき、引き剥がそうと試みる。
「離レロ!」
「そうはいかせない」
ドアの窓に爪をかけ、引き剥がそうとしたところを邪魔されかけて。
グルルモンは後ろを振り返り、牙を向けたがそれに臆するシルフィーモンではない。
「く、来るな化け物ぉ!!」
運転席から悲鳴が響く。
グルルモンの喉からより低く唸り声が漏れた。
「モウ逃ゲ場ハナイ。オ前ハ必ズ殺ス!!」
「そうはさせないと言ってるだろう!」
シルフィーモンが言いながらグルルモンの耳を掴む。
激しくドリフトし、左右に揺れた軽トラだったが突如ガクンっと縦に大きく揺れが。
路上にあった大きめの石に乗り上げたようだ。
姿勢の崩れたシルフィーモンにはもう構わず、前足でドアを無理やり引き剥がすグルルモン。
「ひいっ!!」
噛み殺すために頭を突っ込もうと乗り出した。
だったが…。
「グアッ!?」
突如身体を弛緩させ、軽トラから振り落とされた。
美玖の指輪型デバイスの麻痺光線機能だ。
ギギギギギギギギッ!!
だが、グルルモンの体躯が振り落とされた反動から軽トラのバランスは大きく崩れる。
そして。
ガードレールに激突し、前側をひしゃげながら止まる軽トラ。
美玖が軽トラの近くへ来ると、グルルモンにドアを引き剥がされた助手席から一人の男が出てきた。
オートバイをガードレールの近くに停めて美玖は走った。
「待ちなさい!!」
美玖の怒り混じりの叫びに男は構わず逃亡を図る。
…それも、仕切り直しのためグルルモンから離れ中空で待機していたシルフィーモンに蹴り倒されるまでだったが。
「うぐっ」
「大人しくしろ」
シルフィーモンが上から男を押さえつけ、美玖が阿部警部から預かった手錠を取り出す。
男は年齢30代ほど、中肉中背の無精髭にまばらな金髪の身なり。
「……祖父の仇!」
美玖は告げると、シルフィーモンが押さえている所で手錠をかけようと近寄る。
だが。
背後に強烈な殺気。
美玖とシルフィーモンが向き直ると、口から不気味な色の炎をあふれさせてグルルモンがそこにいた。
連続轢き逃げ犯の男は、その地獄の猟犬めいた姿に逃げようともがく。
「オ前ラ……!ヨクモ邪魔ヲ…完全体相手ダロウガ構ウモノカ!揃ッテ八ツ裂キニシテヤル!!」
怒りを剥き出しにグルルモンの口からあふれた炎がたちまち、美玖達の両脇へと吐き出された。
グルルモンの必殺技、『カオスファイアー』。
ガルルモンの吐く青い炎『フォックスファイアー』よりも不気味な色彩の炎が、美玖達の逃げ場をふさぐように囲む。
ゆっくりとした足取りで歩み寄りながら、グルルモンが口を開く。
鋭く大きな牙の合間から涎が糸を引いた。
(…美玖に轢き逃げ犯を任せて、私が!)
臨戦態勢のためシルフィーモンが立ち上がりかけるよりも早く。
突如自分に放り投げられた光るものを、反射的に受け取る。
手錠だ。
グルルモンの前に立ったのは美玖だった。
「待って!グルルモン……御眷属様!!」
「…!?」
その目に浮かぶは困惑。
その叫びに、グルルモンの足は止まった。
「オ前、ナゼアノ人間ガ俺ニ付ケタ呼ビ名ヲ…!」
美玖は答えず、ヘルメットを脱ぐ。
シュシュを解いていた髪がこぼれ落ちた。
ヘルメットをアスファルトの上に落としつつ、美玖は口を開く。
「初めまして、御眷属様。……私は五十嵐美玖。あなたがお世話になった五十嵐春信の、孫娘です」
「……ミク……美玖……アイツガ言ッテイタ…」
グルルモンの様子に変化が生じた。
戸惑いながら、美玖に向けて鼻をうごめかす。
「……嘘ジャナイナ……確カニアイツト、同ジ匂イ」
空気に匂いが混じる。
ぽつり、ぽつりと肌に雫の落ちる感覚。
シルフィーモンが男に手錠を掛けると、グルルモンが思い出したように前へ踏み出した。
それを、美玖がさえぎる。
両腕をいっぱいに広げて、一歩前へ。
「ドケ。オ前ダケナラ勘弁シテヤル」
「だめ」
「美玖!」
シルフィーモンの声に美玖は振り向かず。
「ごめんなさい。……また、馬鹿をしちゃうけど、私に任せて」
グルルモンの前足の爪がアスファルトに強く食い込む。
「イイカラ、ドケ!オ前ハアイツノ家族ダロウ?カタキヲ取ッテヤル」
「だから、だめ!」
「ナゼダ!オ前、ソイツニ恨ミガナイノカ!?」
グルルモンの声に混じるは苛立ちと理解不能の意志。
けれど退くわけにはいかない。
やがて、雨が降り出した。
沈黙してなおどかない美玖に、グルルモンはどうしたものかと考えて。
「アイツノ大切ナヤツダカラト遠慮シタノガ間違イナラ、オ前モ…」
「…もん」
「ア?」
不意に聞こえた言葉。
美玖の足元に落ちたのが、雨なのか、涙なのか。
上げたその顔は、どうしようもなく涙をこぼし、激しい感情に歪んでいた。
「私だって、憎いもん!おじいちゃんを殺したんだもの!殺してやりたいくらい、憎いよ!!」
「美玖……」
「でも…でも!」
美玖の胸をよぎるは、ある復讐者を主人公とした小説の登場人物の言葉。
『復讐とはエゴよ。日頃の行いの善悪など関係ない。エゴの強い奴が勝ちなだけだ』
その小説のなかで主人公を導く立場として登場した老獪な人物の台詞。
印象強く残ったわけでもないその台詞が、なぜかよぎっていた。
だからこそ。
そのエゴを制するためにあるのが法だ。
でなければ……。
わたしも彼も、人殺しになってしまう。
「必ずも殺しだけが復讐の手段じゃないの、グルルモン」
「ナンダト?」
…それは、賭けでもあった。
自身が前に立ちふさいで通すまいとしている相手は、ヒグマやライオンとは訳が違う。
ヒグマの倍以上もの巨体にライオン以上の咬合力、火を吐く能力を持った狼型デジモンだ。
さらに言えば、攻撃的な性格の持ち主。
襲われれば人間などひとたまりもない。
「ナラ、ドウスルツモリダ?」
怪訝そうな眼差しで獣は美玖を見下ろす。
自身が親しくしていた相手の家族である事が、グルルモンに美玖への攻撃を躊躇わせている唯一の理由だ。
シルフィーモンが同じ立場であれば問答無用で戦闘に入っていただろう。
それがまた、交渉の余地に入れる唯一の望みでもあった。
すかさず、美玖は答えた。
「この人を法廷に引きずっていく。おじいちゃんだけじゃなく、何人もの人が轢かれた。それだけで重い罰を受けられる可能性は十分ある」
言いながら、目線も鋭く後ろを振り返る。
シルフィーモンに手錠をかけられた轢き逃げ犯は、一斉に集まった視線に目をそらした。
グルルモンはなお訝しげではあるが、美玖が視線を戻したことで自然とそちらへ目を合わせた。
すぐに逃げられない状態である事を確かめたせいか、美玖の話を聞く姿勢に移りつつある。
「法廷…アア、オ前タチノヤリ方デ仕返シスルノカ。牙ノ一本二本クライハ、カブリツカセテ欲シイトコロダガ」
「だめ!」
美玖が首を横に振ると、グルルモンは少し口角を吊り上げた。
どうやら苦笑いのつもりらしい。
「とにかく、おじいちゃんの仇をとりたいなら、一緒に法廷に来て。絶対に、殺すのも傷つけるのもダメ。してしまった事の代価を、必ず払わせる!…おじいちゃんだって、自分の友達にそんなことしてほしいと思ってる人じゃない」
わかっている。
復讐は、我欲すなわちエゴだ。
成し遂げられればそれで満足するのは復讐者自身だ。
たとえ復讐者にとっての被害者がそれを望んだ、望まなかったという証が得られなくとも。
けれど。
中学のある夏の昼下がり。
祖父が、自分の父親の体験談を話して聞かせてくれたことがある。
……戦争に行った時の話をだ。
祖父自身も当時はまだ五歳かそこらで、記憶こそ曖昧ながら疲れた顔の母親の顔を覚えていたという。
戦争での激しい殺戮の応酬、ジャングルの中という未知の環境、感染病に飢餓や玉砕覚悟。
復讐や報復という言葉すら生温い惨状だったと、戦場から帰還した曽祖父は語ったと言う。
曽祖父はその時の戦場で片脚を失い、農作業がおぼつかなくなってしまって仕事を見つけることがやっとだった。
だからこそ、と曽祖父は息子である祖父に遺していった言葉がある。
「親父はなぁ、こう言っとったよ。自分の子どもや孫、子孫がな、誰かの血で自分らの手を染めて喜ぶような生き方をしてほしくない、と」
おれも、そんな生き方はしょうに合わねえなあ。
そう安らかに笑う祖父が、復讐を望んでいる人物でないことは、自分がよく知っていた。
だから。
グルルモンはしばらく美玖と目を合わせたまま考え込んでいた。
一分、一秒が、あまりにも長く感じるほどに。
シルフィーモンも、成り行きを見守った。
やがて、グルルモンは、静かにその場でおすわりの姿勢をとった。
「……ワカッタ」
そこへ、サイレンの音。
パトカー4台が到着し、警察官達が一斉に降りてきた。
「五十嵐!」
阿部警部が駆けつけようとして、グルルモンの姿を見るやその場で足を止めた。
他の警察官達も身構えに入る。
「大丈夫です、阿部警部!……必ず連れて行くから、大人しくしてて」
「……ソコマデオ前ガ言ウナラ」
「……というわけで、連れてって下さい、阿部警部」
「お、おう…」
警察官達はシルフィーモンから男を受け取ると、一台のパトカーの中へと連行する。
阿部警部が美玖達の元へ来ると、美玖が尋ねた。、
「阿部警部、その、良いですか?」
「おう、なんだ」
「刑事裁判での話なんですが……」
美玖がグルルモンと共に行く事を伝えると、阿部警部はグルルモンを見上げながら正気を疑うような顔をした。
「本気か?確かにデジモンが入っちゃならんって決まりはないが」
「約束したんです、連れて行くって」
言いながら、美玖はグルルモンを見た。
「そうでないと…彼は、本当に被疑者を自分の牙で殺すでしょう」
「……なるほど。一応俺も出るつもりだ。他の被害者のご親族に、原告として出ることを名乗り出ている人がいる」
「でしたら、その時に」
「まずは、取調べでの事情聴取が先だがな…まあ、待て」
それから阿部警部はグルルモンの方を見た。
「あんたがやりたい事はわかったが、これは俺達人間が解決すべき問題だ。あんたらデジモンがやらかしちまったら、イグドラシルとかいった向こうのお偉いさんとのやりとりが面倒になる。だから人殺しはマジでやめてくれ、いいな?」
「…イイダロウ」
先程より落ち着いてグルルモンの返答が返る。
阿部警部はパトカーに戻ると振り返り、
「それじゃ俺たちは署へ戻る。五十嵐もシルフィーモンも早く帰って風呂入れ。風邪引くぞ」
「そうする」
冷たい雨の降るなかに立っていたのだ。
美玖の身体はずぶ濡れである。
「バイクを…」
「おう、そうだな」
阿部警部が警察官の一人に声をかけた。
その一人がバイクへ乗りに行く。
それを見届けると、グルルモンは静かに立ち上がり、どこかへと歩き去って行った。
ーーー
「せんせい、おかえり!」
「ただいま、シャオモン…くしゅっ!」
探偵所に帰ってきた美玖達を留守番していたシャオモンが迎える。
「典子さんは…帰っていったのね」
「おふろ、のりこがわかした!」
「そうなんだ…典子さんにお礼、言わないと」
ともあれご厚意に甘えて入ろう。
典子がスクールを休みにしていたその暇に、シャオモンとの留守番にと呼んでしまったのだが、なにからなにまで頭が下がるばかりだ。
風呂場へ入り、服を脱ぎ始めた美玖だったが。
「私も入るとしよう」
「!?」
後ろからシルフィーモンが入ってきた事に思わず動揺した。
「ちょ、ちょっと!?」
いくらどちらも雨の中にいたとはいえ。
デジモンに性別がないとはいえ。
狭い風呂場の着替えスペースの中に突然入られるのは慣れない。
いや、それ以前に。
「ま、待って。ただでさえここ狭いから二人同時はお風呂入りづらいし恥ずかしいから!!」
「……確かに狭かったな。仕方ない」
防具の胸当てだけ外して出て行ったシルフィーモン。
美玖は赤面したまま入浴する。
(危なかった……まさか一緒に入って来ようとするなんて)
今まで暮らしていてそんな事は今までなかったので油断していた。
さすがに人間の男性みたく下心はないだろうが、今のは不意打ちがすぎる。
ーー
風呂から出た美玖が顔を出すと、シルフィーモンはキッチンにいた。
どうやら待ち時間を利用して夕飯を作っている様子。
「シルフィーモン」
美玖が声をかけると、シルフィーモンはコンロの火を止めエプロンを外した。
「美玖。簡単なものだが、先にシャオモンと食べていてくれ。私は入ってから食べる」
「シャオモン、ご飯にしよっか」
「はーい」
シャオモンとテーブルに着いた美玖はそこで気づく。
「私、デバイスとツールを置き忘れてた!」
待っててとテーブルを立ち、風呂場へと戻る。
「シルフィーモン、ごめんなさい」
ドアを開けて風呂場に足を踏み込む。
「私、デバイスとツールを洗濯カゴに置……き………」
硬直した。
そこにまだシルフィーモンはいた。
しかしそれはまだ良い。
ゴーグルとヘッドマウントディスプレイを外した素顔を見るまでは。
普段、シルフィーモンが頭の装備を外した素顔を、美玖は一度も見たことがなかった。
そもそもなんらかの装備で顔が隠れたデジモン達のほとんどが、その素顔を明らかにする事がないというのもある。
なんとなくカッコいい顔なんだろうなと、そう思った程度だ。
想像していたものと、実際に見たものと。
それが、全然違うんだな、と。
それも……恐ろしく、良い意味で。
どさり
「美玖、どうした!?こんなところで倒れるな、美玖!」
ーー
刑事裁判の日は、美玖達にとって緊張の一日となった。
話はついていたようで、グルルモンの容姿に怯える人もいたもののすんなりと傍聴席で座らせてもらえた。
そして始まった裁判。
被告側には轢き逃げ犯の男と弁護人。
原告側には被害者のある一人の父親である男性。
E地区警察署から検察官も出所していた。
美玖はグルルモンが飛び出さないよう、シルフィーモンと両側から前脚に腕をかけている。
指輪型デバイスをじかに触れさせる位置だ。
…わかってはいたが、裁判の流れは原告側に有利だった。
やりとりの間、グルルモンが身を乗り出そうとしかけた事が何度も起こり。
美玖かシルフィーモンが注意すると姿勢を正すのだが、気が気でなかった。
傍聴席でのそうした一幕はあったものの、裁判官からの判決を以っての終わりに、美玖達は胸を撫で下ろしていた。
ーーー
「良かった…」
判決は『公務執行妨害並びに殺人罪による無期懲役』。
それがどういう意味かわからなかったグルルモンに、美玖は丁寧に説明をした。
「…ツマリ、ソイツヘノ復讐ガデキタ。ソウ思ッテイイノカ?」
「うん。控訴と再審といって、またやり直しの裁判がなければの話だけれど、被疑者の動機からして正直に厳しいのよね」
今回の犯人は、区域に住んでいた役員の息子で複雑な家庭内の事情から荒んでいた。
今回以前から、恐喝や窃盗の前科もあり、軽トラも元は地区内の農家から盗んできたものである事がわかった。
動機は単に通り魔的な「誰でも良い、スカッとしたかった」というどうしようもないもので、故意がある。
「呆れるばかりだったな…あれは罪の軽減をしてもどうしようもない」
うんざりしたようにシルフィーモンが首を振る。
「ともかく、控訴の意思が被疑者になければ大丈夫。様子見は必要だけれど…」
美玖はグルルモンに向き直った。
「墓前に、今から報告に行こうと思うの。…あなたも、一緒に」
「アア。……乗レ」
グルルモンは言うなり、身体を低くした。
「え?」
「乗レト言ッテルンダ。ソコノチビスケ、オ前モ来イ」
「わぁい!」
シャオモンが無邪気にグルルモンの身体をよじ登る。
シルフィーモンがそれを助けてやると、シャオモンはグルルモンの背の上で跳ねた。
「せんせぇ、乗ろ!」
………
今でも、思い出す。
2年前。
いつものにこにこ顔で俺に赤飯を出すあいつが泣き顔だったのが、俺を驚かせた。
「ドウシタ?」
「すみません、御眷属様。いえ、美玖がですね…あの子、が…」
話を聞くと。
なんでも、謎のデジモンが美玖という孫の働いている警察署に現れたという。
そして、そのデジモンは警察署の人間をほとんど皆殺しにしていった。
孫は殺されず生き残ったが、精神的に病んだ(俺にはその意味がよくわからなかったが…)。
薬を頼りに実家へ戻ってきても、ひどい有様だとあいつは泣いた。
「あの子が…あの子が、どうしてこんなことに…」
「……」
悲しそうで、悔しそうな声色。
俺にかける言葉はない。
いや、あったとしてもそれに意味はないだろう。
黙って目の前の赤飯を食うしかなかった。
しばらく、泣いていたあいつは、絞り出すような声で俺にこう頼んできた。
「御眷属様、どうか、お願いがあります。生き先短い私の、たった一度の頼みです」
「…ナンダ」
「もし、私に何かあったその時は…」
あの子を、よろしくお願いします……
残酷にも、その時は来てしまった。
この牙で復讐をしてやれなかったのは業腹だが、それでも他ならないあいつの頼みだ。
デジタルワールドでは俺に良い感情を持つデジモンはいなかったが、リアルワールドで得られた、たった一人の"友"の頼みを守る時だ。
………
墓石の前に立ち昇る線香の煙。
その前で、美玖は手を合わせていた。
シルフィーモンも、シャオモンも、グルルモンも、途中から合流した阿部警部も沈黙を守っていた。
「……」
目に浮かぶ涙を拭い、美玖は立ち上がる。
墓前には、線香とは別に、祖父の好きな豆大福と銘柄の焼酎がひと瓶供えてあった。
「…これで終わりでなかったとしても」
美玖は呟いた。
「おじいちゃんがどうか、安心できると良いな…」
「そうだな」
阿部警部は言いながら傍らに歩み寄った。
「お疲れ様だ、五十嵐。俺達の所も結構ギリギリの案件だったのをよく収めてくれた」
「…おじいちゃんのおかげです」
「それもそうか」
ところで、と阿部警部はグルルモンの方を向いた。
「あんたはどうする?実は、あんたの事で一部の区域から不安の声が度々あってだな」
「…ソレハ、俺ニココヲ出テイケト言ウコトカ?」
「近いかね。もっとも、中型以上のサイズのデジモンが出歩くことの増えてきた御時世だから目くじらたてるのもどうかと俺は思ってるけどな」
阿部警部の言葉に、沈黙が再び訪れ…たかに思えた。
「ねー、ねー」
シャオモンが阿部警部のスーツをくわえて引っ張る。
「ん?どうした?」
「せんせいのたんていじょにすんだらいいとおもうの。せんせいも、しるふぃーもんも、いいでしょ?」
「……」
美玖とシルフィーモンが互いに顔を見合わす。
「…確かに、人手不足だし…」
「しかし、このサイズのデジモンが入れる場所は…」
「あるわよ?」
「え?」
「ガレージが」
「あの、車をしまう場所か?」
スペース的にも、グルルモンほどのサイズなら問題なく入れるだろうと美玖。
「それに、もし背中に乗せてくれるんなら車買わなくて済むし…」
「そういう問題か!?」
「それに、シルフィーモンの負担減らせると思うけど」
「それはそれで……お前はどうする、グルルモン?私は美玖が良いのなら構わないが」
シルフィーモンの問いにグルルモンはゆっくりとうなずいた。
「アア、俺ハツイテイク」
「ほんと?」
「アイツノ頼ミダ」
阿部警部はほっとしたような顔を見せた。
「良かったな五十嵐。新人が加わったようで」
「おじいちゃんのおかげですから」
「それはさっきも…まあ、いいか。今度また事件があった時にはあんたの力も借りる。頼んだぞ」
「でもその前にひとつ」
美玖はグルルモンに言った。
「その前にしたいことがあるの。一緒に来て」
ーーー
「えっ?御眷属様が、あなたの探偵所に?」
「うん。それで…」
所変わって、美玖の実家。
事情を話す美玖に、葉子はきょとんとした顔をした。
「それで、その前に、御眷属様を皆に会わせたいの。良い?」
「構わないわよ。陽介と卓也と健人も呼んでくるわね?」
「皆さん、集まっていただき、ありがとうございます」
区民館の駐車スペースにて。
美玖の家族一同に農家、猟友会、区域の役員や駐在員達が顔を突き合わせる。
そして。
全員の目は一体のデジモンの姿に集まった。
「皆さん、このデジモンが…私の祖父が御眷属様と呼んでいたものであり、今回の轢き逃げ事件を追い続けていた噂の獣型デジモンの…グルルモンです」
どよめく声。
子ども達からはそれとは違う声色で
「かっけええ!」
「ガルルモンじゃないんだ!?」
「でっけえ…すっごい牙…ガブリって噛まれたら痛いだろうなあ」
といった声が頻出した。
グルルモンは、戸惑いの声を一斉に受けながらも頭を下げた。
「俺ハ長イコト、ココニイタ」
そして、デジタルワールドからここに至るまでの経緯をぽつぽつと話した後。
「アイツニハ本当ニ世話ニナッタ。俺ニトッテアイツハ今思イ返セバ、初メテノ友トイウ奴ダッタンダナト思ワサレタ。ソシテ俺ハ、コイツノ元ヘ行クツモリダ。俺ガイナクナッテセイセイスルダロウガ、別レハ言ッタ方ガ良イト言ワレテココニイル」
言いながら、グルルモンは美玖をちらりと見た。
「赤飯ヲゴチソウニナッタ礼ハ、忘レナイ」
「美玖から聞いたよ。だから、これからも、週に一度食べにこっちへおいでよ」
「……ナニ?」
グルルモンが驚いたように葉子へ視線を移す。
葉子もにこにこしながら、美玖に赤飯の入ったパックを渡した。
「美玖もはい、これ。御眷属様に食べさせてあげな」
「お母さん…」
「おじいちゃんの友達なら、デジモンだろうと我が家は大歓迎だよ。それに…」
葉子が農家の人々の方を向くと、一斉にグルルモンに向け彼らから声がかけられた。
「あんたのおかげで皆助かってんだよ。ありがとよ」
「畑を荒らす鹿や猪にはほんと参ってたからなあ。そりゃ熊より強いってだけでビビってるのもいるが、俺にとっちゃありがたいよ!」
「怖そうなデジモンだけど、美玖ちゃんとノブの友達なら心配いらね!今度うちにも来な!」
「……」
唖然とした様子で農家達を見るグルルモン。
それを見た猟友会の猟師達は、少しばかり安堵した様子を見せた。
「それじゃ、私はグルルモンと一緒に探偵所へ戻ります」
「おう、またな美玖ちゃん!」
「今度来るときにゃ、シルフィーモンによろしく言ってくれ!早くみっちゃんとにゃんにゃんしろよって!」
「なんでこういう時にそんなこと言うんですか左東さん!?…それじゃ、行こう、グルルモン」
ーーー
こうして、グルルモンは五十嵐探偵所のガレージを寝床に、新しい生活を始めることとなった。
そんなある時。
「そういえば」
「ん?」
シルフィーモンの問いに美玖は振り向く。
「この前に動物の本というのを読んだのだが、狼というのは肉を食べるが穀物は食べないという話があった。なぜ、狼…御眷属様に赤飯を美玖の祖父はあげていたんだ?」
「あー…その話なんだけど」
美玖は思い出したように言った。
「この間電話で聞いたの」
「誰に?」
「大叔父さん…うちのおじいちゃんの兄弟に。そうしたら、こんな話を聞いたの」
昔から、ニホンオオカミについて絶滅に至ってなお、その生態はあまり知られていない。
しかし、昔の人々から言い伝えとして残っているものがあり、そのひとつに塩をよく舐めるというものがあった。
「海水や岩塩を舐めたり、山盛りの塩を舐めてたり、畑の肥料用に貯めてあった人間のおしっこを飲みに現れたりと塩分をとにかく摂っていたようなの」
「それと赤飯がどう関係あるんだ?」
「大叔父さんの推測だと、昔はお赤飯に塩がたくさん入っていたから、それで狼は塩を摂るために赤飯を食べていたんじゃないかって」
さらに、と美玖は言った。
「おじいちゃんがグルルモンにお赤飯をあげてた件なんだけど、それを大叔父さんに話したらおじいちゃんや大叔父さんの家が通う神社の慣習を真似してるんじゃないかって」
「慣習?」
「毎月19日の夕方17時に、御眷属様にお赤飯を御供えする儀式があるんだって言ってた」
美玖の説明にシルフィーモンはううむ、とうなった。
「それが赤飯をグルルモンに出し続けていたわけか」
「グルルモンにも聞いたんだけど、デジタルワールドから迷い込んできた時からお腹が空いてたまらなかったのに、お赤飯は不思議とお腹いっぱいな気分にさせてくれたって」
「それは…」
シルフィーモンが考え事に浸るそぶりを見せる。
「それは、おそらくだが、グルルモンは赤飯を食べたことで、赤飯に込められた人間の想いを腹の中に収めていたのではないかな」
「どういうこと?」
「前にも言ったが、私達デジモンは人間に影響を受けやすい。絆であれ、悪感情であれ、強い影響をな」
シルフィーモンは言いながら、美玖に尋ねた。
「美玖。デジモンがデジタルワールドで何を食べているかわかるか?」
「ええ、と……デジタルワールドで…?」
美玖は必死に答えを探すが、思いつかない。
だが、あっ、と声が出た。
「そういえば、デジタルワールドで遭難してた人が…」
「なんだ?」
「木になってた骨つき肉を食べてしのいだって話を聞いたことあるけど…そういうの?」
「……微妙に正解からズレているがその通りだ。私達デジモンはデジタルワールドのものしか食べない。ここで生活しているデジモンのほとんどは、食事を作る人間の感情を料理ごと戴くことで腹を満たしてる」
もちろん人間の料理も体内で消化はするが、それ以上に肝心なのが込められた人間の"気持ち"だとシルフィーモンは話す。
デジモンは人間の感情に密接することで、著しく変化が身体に及ぶことがある。
なら、グルルモンは。
「赤飯から、美玖の家族の想いを、食べていたんだろう」
基本的に赤飯とは、お祝いの気持ちを込めて炊かれる事が多い。
加えて、週に一度出す赤飯は毎週美玖の祖父が必ず炊いていた。
御眷属、狼を大事にする祖父の感情が、グルルモンの腹を満たし続けていたのなら。
「だが、これからもその心配はなさそうだ」
シルフィーモンは言いながら、ガレージを見た。
先程、パックの赤飯を食べ終えたグルルモンが横になっている。
ガレージの幅的には幾分か狭そうだが、"犬小屋"としては申し分のない様子。
その脇には、シャオモンが一緒に眠っていた。
グルルモンの脇腹に埋もれるようにして見事な安眠ぶりである。
「けれど…本当に、良かった」
そう呟き、美玖は目を閉じた。
うららかで温かな空気は、ひんやりと冷たいものへ変わってきているが。
それでも、美玖にとって、目の前の光景ほど、温かいものはないと思うのだった。
ps.
最近ピクシブに投稿した方にて
「反抗理由(おそらく犯行理由の誤字)がない」というコメントをいただきましたのでそれへの補足。
書くにあたり、今回描写した犯罪が裁判によってこの結果となった場合の参考にと調べたものの思うような内容が出てこず、それゆえ裁判の描写も含め全て地の文に投げざるを得なかった経緯となります。
この辺りは、私自身の知識不足、学識不足もあります。
なので、「この犯人はこういう理由で今回の事件起こしたんだろうか」的な風に読者任せとなってしまってます。
お詫びと共にご了承願います…(土下座