◇
エンシェントビートモン。
あらゆる昆虫型デジモンを継ぎ接ぎ状に纏った歪なその姿は、現代において雷の闘士の二つ名で呼び習わされる。古代世界に生きた究極の昆虫型デジモン、他の九体の盟友と共に傲慢の魔王を討ち果たした救世主。全ての昆虫型デジモンにその系譜を繋いでいると言われる英雄は、一般的には巨大なカブテリモン種とクワガーモン種の合成獣として認知されているし、古文書も大方そのように描かれている。
合成獣、故にキマイラ。
かつてキメラモンという合成獣がいた。究極の機械竜と共に選ばれし子供と相争い、千年魔獣を生み出す礎となったとされる世界の邪悪なる意思そのもの。伝承によって完全体とも究極体とも言われるその魔獣は、果たして様々なデジモンの姿を繋ぎ合わせることで形成されていた。
銀狼の足。鎧竜の尾。恐竜の胴。翼竜の髪。
天使の翼。悪魔の腕。白骨の腕。鍬形の腕。
そして──甲虫の頭。
カブテリモン種は元よりそうした合成獣の統率を担わされているのだという説がある。
なればこそエンシェントビートモンも同様に無数の昆虫型デジモンの特性を併せ持ちながら、カブテリモン種を中心としているだろうことは間違いない。
伝説に謳われる彼の甲虫の得意技テラブラスター。それは現代の究極の蟲王とされるヘラクルカブテリモンが得意とするギガブラスターを遥かに上回る威力を持つとされている。だが如何に古代英雄とて同じ究極体として現生種とそこまでの差があるものだろうか。世界で初めて生まれた進化の頂点は、現代を生きる者達では到底届かない高みにいたのだろうか。
だから疑念を抱いている。炎の闘士の時と同じだ。
雷の闘士、古代世界の英雄は当時生きた究極の昆虫型デジモン、即ちヘラクルカブテリモンが時を経て伝説化したものではないかと。
【コテハナ紀行】
メアリー・スーを超えて行け!
【雷の闘士編】
天気のいい昼下がり。海を見下ろす崖上に立つレストランで遅い昼食を取りながらのこと。
「究極体って、そもそも何なんダネ?」
ふと目の前に座るネーモンのハナビが呟いた言葉に、ボコモンのコテツは顔を上げた。
「……言っている意味がよくわからないでやんすが」
「完全体より上の進化があるってのが、オイラにはわからないんダネ。それって本当に“完全”なんダネ?」
相変わらずの惚けた顔ではあるが、ハナビの声は真面目な色だ。
外の世界に住む者達によって元々この世界が“発見”された時、世界には完全体を頂点とした理が根付いていたという。屈強な成熟期同士が鎬を削った果てに辿り着く選ばれしモンスター、それこそが完全体であり、メタルグレイモンやマメモン、もんざえモンといった今も名を馳せる種族はその代表格だ。同時に当時の時点で存在を確認されていた完全体とは皆、数多の戦闘に勝ち抜いた強者であり、少なくとも古代世界が解明されて過去に数多の究極体が存在したことが判明するより以前、完全体とはまさしく完全なモンスターの代名詞であったそうだ。
「この世界に初めて現れた究極体が十闘士、そういった話は有名でやんすが……」
チラリと横目でレストランの厨房の方を見る。確かこの店の店主も究極体だったと思った。
「でも十闘士の伝説が発見されたのって最近なんダネ? そもそも彼らは伝説でしかない……だったら、初めて発見された究極体に目をやってもいいかとオイラは思うんダネ」
「なるほど。ハナビにしては冴えてるでやんすね」
「褒められると照れるんダネ」
鼻の頭を掻くハナビと、改めてもの知りブックを机の上に広げるコテツ。
確かに十闘士が世界初の究極体であるという前提は崩せない。圧政を敷いたルーチェモンの進化形態が完全体と定義されていることからもそれは頷けよう。だが彼らの実在を確認できていない以上、究極体という概念そのものがこの世界に認知されたタイミングを確認しておくのも無意味ではないというハナビの考えには大いに賛同できた。
最初に確認された完全体であるメタルグレイモンとマメモン、そしてもんざえモン。
机に置いた分厚い本をパラパラと捲っていく。ならば同様に初めて世界に確認された究極体は──
「……あら? 懐かしいお顔ですね~」
「やんす?」
いきなり隣からもの知りブックを覗き込まれてコテツは驚く。
「学者さんなんですか?」
柔らかな声音はこのレストランのオーナーである女性型デジモンのもの。
ミネルヴァモン。オリンポス十二神の一体に数えられる究極体であり、コテツやハナビとそう変わらない小柄ながら大剣オリンピアを難なく振るう担い手。世界の安寧に務める調停者の役割を持つ神族の一人である彼女は、その高貴なる立場に反して長らくこの森と海に挟まれたレストランのオーナーとして知られていた。
「何年か前まで、この裏手の森で支配者さんをされてたんですよ」
「ほう……で、誰が?」
「この子ですよ、この子」
ミネルヴァモンの細い指がコテツの開いたページに記された三体のデジモンの内の一体を指し示す。
それは。
大地を疾走する古代獣サーベルレオモンではなく。
鋼鉄の肉体を得た道化師メタルエテモンでもなく。
出自を同じくする雷の闘士が持ち得ない黄金の体躯を誇る雄々しき昆虫王。
ヘラクルカブテリモン。
仄暗い密林に閃かれる軌跡。
それは一閃された黄金の刃の煌めきだった。
「がはっ……!」
胸元を深々と抉られたオオクワモンが仰向けに倒れ伏す。
密林エリアにおける暴れん坊の片割れとして名を馳せた彼だ。一撃で命を奪われるような無様は晒さない。それでも彼我の戦闘力は圧倒的であった。完全体二体がかりの攻撃を目の前の黄金の刃の主は難なく捌き、ただ一振りでオオクワモンに多大なダメージを与えた。それはきっとこのエリアから出たことの無い彼らにとって初めて味わう難敵であったに違いない。
「どうだよ! これでオレサマがこのエリアのボスってわけだ!」
「……っざけんなぁ!」
嘯く金色の戦士にもう一体、紅の外骨格を身に纏う完全体が挑みかかる。
放たれるは必殺のホーンバスター。だがそんなアトラーカブテリモン自慢の一撃すら眼前の敵に脅威にはならない。オオクワモンを一撃で半死半生に追い込んだ刃を盾代わりにすると、今までこのエリアの如何なる敵も仕留めてきた甲虫の必殺技は一瞬で霧散した。
「立ちやがれオオクワモン! このままで終われっかぁ!」
「な、なんでテメエなんぞに言われなきゃならねえんだ……」
両者の声は実に忌々しげ。実際、平時であれば彼らが肩を並べて戦うことなど有り得なかった。
このエリアで生まれた時より啀み合ってきた彼らは完全体、アトラーカブテリモンとオオクワモン。共に不敗の勇士の異名を取る昆虫型デジモンにして密林エリアの双王。顔を合わせれば殺し合いを始める程度には不仲なことでも著名な、一帯を二分する勢力それぞれの長でもあった。
それが手を組み、打ち倒された。目の前に立つ金狼はそれだけの高みである。
「オレサマはロイヤルナイツになる! その為にこの密林エリアはオレサマが頂いてやるぜ!」
名をクーレスガルルモン。データ種の究極体。
この時代のデジタルワールドにおいて滅多に姿を現すことのない、進化の行き着く先に立つ者。
「ロイヤルナイツ……だぁ?」
体勢を立て直したアトラーカブテリモンの声には訝しげな色が乗る。
ロイヤルナイツ。確かにその名はこの世界において至高の存在とされている。この世界の“神”とやらに仕え、ネットワークの守護者と謳われるその聖騎士達は時代の節目に現れて世界を救ってきたと言われる十三体の聖騎士達。。中立を保つと言われるオリンポス十二神、伝説の中にしかその姿を見せない十闘士とは明確に異なり、彼ら最強の聖騎士達は実像を伴う形で我々にとって憧憬と畏怖の対象となっている。中でも選ばれし子供と呼ばれる人間と共に世界の闇を払った“最後”の聖騎士の英雄譚は、今でも幼年期や成長期にとって憧れであった。
だがこの時代、長らく彼らは姿を見せていない。一説では騎士団そのものが崩壊したとも言われている。
ロイヤルナイツ、十闘士やオリンポス十二神と共に讃えられながらまるで違う特質を持つ世界最強の英雄。それは確かに現在では実在し得ない幻の存在であったはずなのに。
「……ロイヤルナイツはいるぜ」
だが目の前の金狼は言う。明確な実感と共にその言葉を。
「そしてオレサマはそれになる。だから手始めにこのエリアは頂くんだ!」
「何を言ってやがる! 理屈が通らねえ!」
オオクワモンが背後からクーレスガルルモンに躍りかかる。
必殺のシザーアームズΩ。近隣のあらゆるデジモン達を圧倒してきたその一撃は、果たして金狼の装甲を前に容易く凌がれる。
見ればクーレスガルルモンは先程から技という技を使っていない。彼にとって当エリア最強の二体の完全体との立ち会いは戦いと呼べるものですらなかった。天下無双と謳われた黄獣偃月刀を僅か数度、彼が無造作に振るっただけで、アトラーカブテリモンもオオクワモンも既に半死人にされている。痛い程の次元の差は種族の違いなのか、それとも完全体と究極体の間に存在する明確な格差なのか。
そもそも現代において究極体なる存在は姿を見ることが殆どないのだ。選ばれしモンスターである完全体の更に上であり、進化の頂点に位置するとされるモンスター。だが当代、荒廃した世界では完全体のモンスターを目にすることも稀であり、況してや究極体などそれ自体が伝説と化している。そしてロイヤルナイツとはそんな究極体の中でも更に上澄みに位置する存在であるはずなのだ。
故に各地で名を馳せる猛者達は皆完全体であり、十三体の聖騎士など風説で語られるのみ。
それでも目の前に究極体は現れた。ロイヤルナイツになるなどと嘯く酔狂な金狼は、けれどその言葉を妄言としないだけの強さと共に立ちはだかるのだ。
「へっ、これが究極体って奴かよ……」
「思った以上に、大した強さじゃねえか……」
このままでは勝てないと知っている。抵抗を続ければ容赦なく殺されるだろうこともわかる。
それでも自然と笑ってしまうのは、果たして何故なのか。
その答えをアトラーカブテリモンもオオクワモンも互いに知っていた。
「……よう、オオクワモン」
「皆まで言うな。わかってんよ」
だから彼らは顔を見合わせ、もう一度笑うのだ。
エンシェントグレイモンとは古代種であるインペリアルドラモンの活躍が時代の変遷と共に脚色された存在である。
「面白い説ですね~」
椅子を引いてコテツの隣に座り込んだミネルヴァモンがそう言って笑う。
「いや仕事はどうしたでやんす」
「他にお客様0ですし」
それはそれでいいのかと思うが、まあともかくとして。
上記はコテツが長らく提唱してきた持論であるが、その根拠の一つに十闘士の中でも一際目を引くその姿が挙げられよう。エンシェントビートモン、全ての昆虫型デジモンの先祖にあたるとされる雷の闘士。その姿を初めて見た時、コテツの頭に浮かんだのは無論ヘラクルカブテリモンであった。
カブテリモン種とクワガーモン種の融合、両者の特質を備えた究極の昆虫型デジモン。確かに一見して伝説に残る雷の闘士は極めてその現生種に近しい姿をしている。だが彼の英雄の両腕は明らかにスナイモン種であり、背中の翼や雄々しく地を踏み締める幾対もの足もカブテリモン種やクワガーモン種とは異なる。言わばそれは昆虫型デジモンの合成獣、後の世において昆虫型デジモンの起源とされるエンシェントビートモンは、彼らの発祥として数多の昆虫の特性を有していた。
「なるほど。ではエンシェントビートモンさんも、エンシェントグレイモンさんと同様に……」
「そう、古代にいたヘラクルカブテリモンがモデルなのではとコテツは考えているわけなんダネ」
「い、一番いいところを勝手に言うなでやんす!」
しかし先のハナビの言葉を思い出してみる。
この世界で一番最初に確認された究極体に、ヘラクルカブテリモンは名を連ねている。そしてそれと同様の特質を持つエンシェントビートモンは伝承の中で世界最古の究極体と言われている。
これは偶然なのか、それとも。
「んー、でもそうなると変ですよね」
「……何がでやんす?」
隣でもの知りブックを立てて適当に捲りながらミネルヴァモンが首を傾げる。
「コテツさんの推測だと、例えばこの世界ができた頃に生きていたインペリアルドラモンやヘラクルカブテリモンの活躍が盛られて十闘士伝説になったってことでしたよね?」
「うむ、寸分の狂いもないでやんす」
「それだったらやっぱりおかしいんですよ!」
ミネルヴァモンは勢い付いて言うのだが、コテツもハナビも理解が及ばずに顔を見合わせた。
「だってエンシェントビートモンさん、金色じゃないですもん!」
「……は?」
「金色って如何にも強そうなのに、ヘラクルカブテリモンから盛られたはずのエンシェントビートモンさんが青と赤に変えられてるの、絶対おかしいじゃないですか!」
そこに果たして理屈はあるのだろうか。
目の前の金狼、自分達は未だ辿り着けていない究極体の姿と力に魅せられた。
それは悔しいが認めざるを得ない事実だった。
けれど同時に初めて見据えられるものがあった。完全体より上の進化があったということを自分達は忘れていた。奇しくもライバルとして切磋琢磨してきた互いが同じ“完全”の身に到達した時点で、気付かない内に自分達は停滞してしまっていた。それ以上を目指すことをしてこなかった。馴れ合っていたと言ってもいい。本来は生きるか死ぬかの闘争を永遠に続ける生き物として生まれ落ちたはずなのに、アトラーカブテリモンとオオクワモンは長らく喧嘩や啀み合いと言ったレベルで時を浪費してきた。
それが今、改められる。消えるのは果たして自分か、相手か。
「ああ、感謝はしといてやるぜ……」
金狼に向けられた言葉を告げたのは果たして自分か、相手か。
「ああ、すっかり忘れていたな……」
この時より肉体の主導権を握るのは果たして自分か、相手か。
それだけだ。
彼らの脳裏にあったのはそれだけだった。
互いに溶け合う意識が消えまいとぶつかり合う。故にその場に構成されていく新たなるワイヤーフレームはカブテリモン種であり、同時にクワガーモン種でもある。高みを知った時点で彼らにはこの道が示され、この場で敗れることを是としない時点で彼らにはこの道以外に選ぶものは存在しなかった。だから彼らに迷いなどない。彼らにとって勝つことが、負けないことが最も重要なのだ。それでこそのデジタルモンスターだろう?
願いは一つ。もっと力を、もっと先へ、もっと上へ!
ロイヤルナイツ、十闘士、オリンポス十二神。そんなものはどうでもいい。元よりデジタルワールドは単純明快、如何に高位な存在が後付けで舞い降りようと、如何に尊ぶべき伝説で過去が書き換えられようと、物を言うのは強さと力ただそれだけ。絶対的な強さこそが唯一の理、それだけが我々の世界の真実のはずだ。
どんな組織、偉人、伝説が相手であろうと、自分達はただ勝つ為に高みを目指し続けるだけだ!
「ヘラクル──」
「──カブテリモン!」
宿敵同士が一つとなり君臨する蟲の王。その体躯は伝説の十闘士を超える眩いばかりの黄金。
この世界で初めて確認された究極種は、ただ強さのみを以って伝説の聖騎士と嘯く金狼と対峙する。
「カッコ良かったんですよ~、あの時の支配者さん!」
「ほう、究極体へのジョグレス進化……ワテら、まだ見たことないでやんす」
「それなら是非お見せしたかったです! 凄かったですよ!」
前のめりになって言うミネルヴァモンだが、そういえば彼女もまた究極体であったか。
自分の専門は十闘士であり、オリンポスとロイヤルナイツは別の研究者がまた動いているのをコテツは知っている。ただ研究対象としては専門外だったとしても、今の世界を神の眷属としての彼女がどう思っているのかはふと気になった。一般には強者として称えられるのは完全体であり、それこそ数多謳われる伝説の存在どころか究極体そのものがある種の伝説となっている時代、これは世界が平和という証なのか、それとも。
「エンシェントビートモンさんもあの時の支配者さんには勝てないでしょう!」
「……何か根拠があるんダネ?」
首を傾げるハナビ。ミネルヴァモンは確信を持っているように見えた。
「私達はデジモン、進化していくものですからね!」
高らかに言う。
伝説は伝説、いずれ未来に追い抜かれていくべきものだと。
崇め敬うだけでは届かない。憧れだけでは掴めない。
だから高みを目指すんだ。だから強さを求めるんだ。
黄金を纏う昆虫王。古代闘士の上を行くべきその姿。
暗雲に包まれた世界でも彼のような者がいるならば。
伝説は、きっと更に進化していくだろう──
伝説とは超えるものであり、塗り替えられるべきものだ。
過去が頂点であるという確証はない。伝承が絶対であるという道理もない。より強く、より高く我々の世界は発展と研鑽を続けている。弱肉強食と謳われたこの世界で我らは己が姿を変え、互いに切磋琢磨し、更なる強さを求め、その果てに死んでいく。そこに際限はなく過去に生きた伝説や伝承に縛られる義務も道理もない。きっとそれだけが世の摂理だ。
だから当然、とうの昔に超えていることも十分有り得るだろう。
十闘士が一、雷の闘士エンシェントビートモン。上半身と下半身に異なる特質を備え、明確にカブテリモン種とクワガーモン種を掛け合わせたものとわかるその姿。同時に数多の昆虫型デジモンの能力も取り込んだとされる蟲の王は、姿だけでなく同系統の必殺技までもが伝えられていることからも間違いなくカブテリモン種に連なる存在であろう。事実、伝承の中で見る雷の闘士の姿は、その姿形だけで見るなら紛れもなく現生種の中で頂点と言われる黄金の甲虫の姿に酷似しているのから。
けれど、それは十闘士の中においては異質だった。この蟲王は明確に現生種と繋がり過ぎていた。
黄金の甲神ヘラクルカブテリモンだけではない。漆黒の甲神グランクワガーモンも同様だ。
各々が支配する密林の光と闇を体現する二体は蟲王の直系の後継者達であることは明白であろう。
しかしカブテリモン種とクワガーモン種、相反する二種族の頂点に立つ彼らは、古代の蟲王には持ち得なかった輝きを纏っている。見る者を眩く照らす黄金、世界を暗く染める漆黒、それらはどちらも様々な昆虫型の特質を数多兼ね備えたエンシェントビートモンが唯一持たない彼らだけが纏う光と闇。
雷の闘士。光に砲(つつ)を与える者。
だからきっと、このお話は、そうだ。
既に十闘士を超えた、かもしれないデジタルモンスターのお話。
「そういえば今、そのヘラクルカブテリモンはどうしてるんでやんす?」
「あー、その支配者さんなんですけど、最近やられちゃったんですよね……」
「やられた? どういうことなんダネ?」
「ここ来るまでに森が一部焼け尽きてませんでした? そこで凄く強い敵と戦って負けて、あれは何ヶ月前だったかな……」
「今の時代、究極体がやられる敵なんているんでやんすか?」
「私も飛び去っていくのしか見ませんでしたけど……何だったんでしょうね、あれ」
「コテツ、それってもしかしてなんダネ」
「うむ。……まさか、二体の聖騎士……?」
「ああ、始まりの町のニュースは私も聞きましたね。でも私がその時見たのは一体だったかと思います。でも黒くて大きくて、何ていうか……」
「ロイヤルナイツ……!」
「……確かに人型、騎士のようにも見えましたからきっとそうなんでしょう。……だけど、絶対何か別のモノのような……」
【解説】
・ボコモンのコテツ&ネーモンのハナビ
例によって主人公達。よく考えたら今回レストランで飯食ってただけで紀行してねえ。
・ミネルヴァモン
オリンポス十二神の一人。正面を見渡す限りの海、背後を鬱蒼と茂る密林に挟まれた崖の上に立つレストランを経営している。
穏やかな性格で戦いを好まないが大昔は颯爽と大剣を振るう戦乙女(メルヴァ)であったらしい。
・アトラーカブテリモン&オオクワモン⇒ヘラクルカブテリモン
十闘士を超えし(?)者。今回の作者の1推しはエンシェントビートモンではなくヘラクルカブテリモン。テラブラスターの所為で1000倍弱い扱いされるが、初代究極体であるヘラクルがそんな弱いわけあるかァ!!
何年か前の密林エリアで暴れていた二体の暴れん坊が友情合体を遂げた姿。この時代(※コテハナ紀行から数年前)において究極体は極めて稀な存在となっていたが、反目し合う互いがジョグレスすることで誕生した。黄金の体躯だから恐らく雷の闘士の50べえ強い(CV野沢雅子)。なお本編時点では既に死んでいる模様。
界王神「す、凄い! あのクーレスガルルモンが手も足も出ない! ジョグレスによる合体がここまで凄いものとは」
じっちゃん「バカタレあの二人だからここまで行けたんじゃ、この世とあの世で五本の指に入る達人中の達人がry」
・クーレスガルルモン
古代の英雄、最後の聖騎士の片割れに近しい姿を持つ究極体。現在(※コテハナから見ると数年前)では途絶えて久しい究極体デジモンであり、根拠は不明だがロイヤルナイツに内定していると嘯いている。
何故今回の敵がクーレスガルルモンかと言うと、コイツ近年の初代デジモン復刻でガルルモン系究極体、即ちメタルマメモンの進化先に後付けで収まった奴だからです。その為、土の闘士編に登場したブリッツグレイモンと対になる登場ながらワーガルルモン:サジタリウスモードの登場は無し! メタルマメモンからの進化と考えてくれ!
・黒き聖騎士(仮名)
現在の世界に立ち込める暗雲の正体。本作を(一応)続き物として読めるようにしている要素の一つ。ロイヤルナイツの一員と思われ、ミネルヴァモン曰く圧倒的な力で密林の王者であったヘラクルカブテリモンを仕留めたとのこと。
〇の闘士編と×の闘士編を合わせて見れば、なんとなーく正体が掴める、かも。
【後書き】
気付けば思い付きで始めたコテハナ紀行も残り二人ですが皆様いかがお過ごしでしょうか。
この雷の闘士編、十闘士を否定気味に描く話ですので元々は二番目か三番目に持ってくるはずだったのですが、なんとなく筆が乗らなくて何度か書き直している内にほぼトリにまで回されてしまいました。コテツとハナビが飯食ってるだけで終わるのもその為だったりします。密林エリアに直接赴く話、木の闘士編で書いちゃったんだもん!
というわけで、今回は十闘士だけでなくロイヤルナイツやオリンポス、名前は出していませんが三大天使や七大魔王など後から設定されたのに「実は古代から世界の中心に関わっていました」とされる連中に対する自分なりの回答であります。アイツが副題な理由は察して頂けると思いますが、なんとなく漫画ZOIDSの眼鏡娘の所為でメリッサ・スーと覚えちゃってたんだよな……。
ロイヤルナイツ“だから”強い、一般デジモン“だから”弱いという要素の否定を書きたかった! 言うまでもなくロイヤルナイツもロイヤルナイツで大好きですが! 同時にエンシェントビートモンがテラブラスターなる露骨な技でヘラクルカブテリモンのギガブラスターが踏み台にされたのの否定も込めました。金色の方が強いに決まってんだろォ!?
さて、いよいよ残りは大トリになったアイツ! 多分8月中に書ける!
◇
・
こんにちは、快晴です。この度も『1推し一万弱』へのご参加、本当にありがとうございます!
今回は雷の闘士編と銘打ってあるものの、ヘラクルカブテリモンのお話しという事で。
かっこいいですよね、ヘラクルカブテリモン……。
エンシェントビートモンは、昆虫型のキメラモン的存在。図鑑でも触れられている通り、この様々な要素を持つデジモンが昆虫型の祖、という設定はなかなか好きだったりします。それはさておき、デジモン公式くんは、既存のデジモンと技の威力を比べて一方を下げるやり方はやめていただきたく……。(ベリアルヴァンデモンのうらみ)
というか、言われてみればキメラモンの頭部もカブテリモンのもの……なんだか因縁を感じるような気がしてきます(いや、左の中腕も、本文にあった通り昆虫由来ではありますが、そこも含めて)
夏P(ナッピー)様の着眼点には、毎回驚かされるばかりです。
時々鋭いハナビさんシリーズ、本当に好きです。こういう、旅の相方のひとことが起点になる話の運び方、とてもいいですよね。
そこからミネルヴァモンさんを通じて展開される、とある森の物語も大変浪漫があると言いますか。敵対する種族同士が、強敵を倒すためにジョグレスして……シンプルにシチュエーションがカッコイイ。それだけで本当にカッコイイのに、その黄金が、伝説を超えていく風に描写されるのもすごくいい……! 「俺達は一つになってここにいる。伝説を今書き換えるのさこの手で」……なんて、脳内で『The last elements』がかかりっぱなしでしたよ。神話になれる時代へ……!
今回は十闘士の伝説の要素(エンシェントビートモンは黄金では無い)さえ、その引き立て役でしかないという点に、ヘラクルカブテリモンへの愛を感じます。
……とはいえ現代では無情、さらにそんな彼らをさらに超えていく存在が。
都合良く最強のままではいられない。「メアリー・スーを超えて行け」……ですか。
古代十闘士としては、サロン民は多分皆大好き(私も大好き)『『『奴』』』に触れる回という事で、終わりが近づいていることを少々寂しく思いつつも、次回も楽しみにしております。
改めて、1推しへのご参加、本当にありがとうございました!