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『デジモンが人間を食べると更に強く美しくなれる』
最初に誰がそう言ったのか分からない
そんな誰かが言った世迷いごとを真に受けるデジモンたちがいた
時刻は2:59
『人間どうやって食べりゅんじゃ?
私ゃ調理師免許持っておりゃんのよ』
そもそも彼らは本物の人間を見たことがない
時たまにリアルワールドから人間が調査や旅行に来ることがあるが、辺境の地に住んでいる彼らにとって出会える確率はほぼゼロにふさわしい
『なんかネ、随分前に人間とデジモンの事件があってネ。それで人間たちがデジタルワールドに来なくなったんだってネ』
『なぁにそりゃ、私ゃ知らんわ』
『仕方ないさ、僕らはまだ生まれてなかったんだし』
『アタシだって風の噂でしか耳にしたことないのネ』
『でも人間って美味しいのかな?
皆だって気になるでしょ?』
複数に集まったデジモンのうち一人がデジタルワールドに流れ着いた人間の本を仲間たちの前に広げる
『人間ってこんな生き物らしいよ』
本の内容を見て思わず『わぁお…』と仲間たちは人の文字は読めないけれどその記事をまじまじと眺める
初めて見た彼らの最初の感想は
『醜いネ』
『私ゃ気持ち悪くなってきたぜ』
『そうなのかい?僕は美味しそうと思ったんだよ』
『えー!これのどこが美味しそうなの?』
『確かに人間ってやっちゃあ、お肉ついちょるけんど私ゃAランクの肉が食いたいんよ』
『なら僕らで人間を飼って育てて食べるってのはどうかな』
『人間を育てるぅ!?』仲間たちが引いた顔をしている中発案者は悠々と説明しだす
『僕はこの本の内容通りにやれば食べさせるものによって人間を質の良い極上肉に育てられことだって可能な筈だよ!』
『でもさぁ…私ゃ犯罪者にゃなりたかねぇよ』
『犯罪?何を言ってるんだ、現にこの本は人間が書いた本だよ!人間がやれて僕らができないことなんてないんだ』
僕はここまで話したんだ
どんな味か興味湧かない?
人間の肉食べてみたいだろ?
そうだろ?
なぁ、みんな
『うーん』と悩みながら腕を組む仲間たち
しばらくすると『オメェがそこまで言うなりゃ…』『極上肉以上の肉最近食ってないしネ…』『美容にいいなら…』と皆腰を上げる
『決まりだね!早速人間を飼う場所とエサを用意しなくちゃ!』
『でもぉ、どうやって人間を誘き出すんだぁ?』
『もしバレたら消去されちゃうネ』
『えぇっ!アタシそんなのイヤよ!』
『私ゃの能力使うにももう歳で限界があるぜ』
『安心して、僕に良い考えがあるんだ』
『それはね…』と彼が取り出したのは食べ放題ツアーのポスターだった
『これで人間を誘き寄せるんだ』
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「デジモンが運営始めたという食べ放題屋か」
この男の名は黙場(モクバ)啓士(ケイジ)
デジチューバーを始め、あらゆる医療機関や公共施設の支援を初めとする企業などを管理運営、並びに広告業といったサポートをしている実業家
今ではデジモンと人間の共存関係を深めるため、橋渡し役を担っており、主に現地視察と流通のサポート等の支援活動を行っている
「最近は企業を立ち上げるデジモンが後を絶たない上に、きな臭い商法をする奴もいるからな」
今回訪れる場所はデジタルワールドの辺境の山に囲まれ孤立したエリア596928510
田舎好きのデジモンたちが田畑を耕しながら自給自足の生活を送っている
そんな外と閉鎖された田舎に、何処か最近話題(?)と聞く昭和を思わせるような村に食べ放題屋ができたらしい
店の存在事態半信半疑だが、デジモンが企業を起こすとろくなことが起きないため問題が起きる前に開店前の調査が必要だ
村の連中に話を聞く限りここの所あの店が出来てから外部からの人が増えたとのこと
それにしては開店祝い日に客が1人も列んでいないのは不思議だが、もしや日付を間違えたか?
いや、入口付近の換気扇から大量の湯気と肉を焼いている音が聞こえてくる
「カレーや焼肉、それに寿司の匂いか?」
なんだ、ちゃんと営業できているのか
「ひとまず中に入って責任者に食材の製造ルートと食品衛生管理者がいるのかを確認、更に営業許可を取った上で開業しているのか確かめねばな」
スマホを取り出すと時刻は10:59
黙場は『今から調査に入る』と誰かにメールを打ち込み送信し終えてから、店の扉を開ける
店の外装はそっけないのれんがかかったただの古い一軒家、中は洋風のデザインで広々としており壁にそって沢山の料理がバイキング形式で並べられている
どれも出来たての物ばかりだ
「いらっしゃいませ!
食べ放題"ばけねこ"へようこそ!
お客様は栄えある我が店の最初のお客様にございます!」
「どうぞこちらの板とトングを使って好きな物をお取りくださいネ」
出迎えたのは可愛らしくメイド服を着こなすバステモンとメイクーモン
「おい、私は客ではなく取材に来ただけだ。オーナーはいないのか?」
バステモンとメイクーモンはお互い目を合わせると、慌てたバステモンが黙場の手を掴みヘコヘコと泣きそうな声で突然謝りだした
「申し訳ございません!
オーナーは今取り込み中でして…けどせっかくですし戻ってくるまでこちらの料理の試食でもしてみませんか?」
うるうるとした瞳で執拗に黙場の手を肉球で揉みだす
「猫舌の私たちでも食べられる温度です!
あ、もちろん中はちゃんと火は通ってますネ!」
メイクーモンが取り出したのは出来たてのレバー料理
しかしやや赤みを帯びている
「これはきちんと下処理をしたレバーなのか?」
「はい!ちゃんと下処理して臭みを無くして調理しました!赤いのは表面だけですのでご安心ください!」
肉食系デジモンが好みそうなレバーだな
黙場は箸を器用に使い、レバーの切れ端を一口
その様子を見ていたバステモンとメイクーモンは後ろを向いて何やらコソコソ話している
(確かに火は通っている、だがなんだ?この違和感は…)
「いかがですお客様」
「お肉、お口に合いましたネ?」
「特に問題ない…が、これは何処のルートで手に入れた肉だ?」
「それでしたら厨房に行った方が早いかと、そこで料理長が説明しますので」
「こっちなのネ」
メイクーモンに手を引かれながら案内されたのは隣の部屋の調理場…にしてはスペースは狭く暗い倉庫のような空間だ
「ここが調理場だと?何もないじゃないか…はっ!」
ピチョンッと水が落ちる音がする
だがそれの考えを凌駕する血と腐臭の匂いが部屋に充満している
とても衛生的では無いにしろ、これは
「お客様、ここからはご自分の目でお確かめ下さい」
「出口はここしかないので大丈夫なのネ
だから安心するのネ」
「ニャハハ」と朗らかに笑う2匹、その目つきはお前を逃がさないとばかりに出入口の前に立っておりこちらへ不気味に微笑んでいる
暗い部屋の中、2匹の光る瞳孔が不気味に黙場の姿を捕らえる
更に奥へ進むと別の音が段々と聞こえてくる
そこは養豚場のような場所だった
閉鎖された空間の中、濁った空気と血の匂いで充満した窓のない部屋に大量の檻とそこに"人間"がいた
「なんだこれは…!?」
視界が暗くて分かりずらいが恐らく50人以上はいるだろう
こちらの存在に気がついたのか次々と助けを求める声と何かを咀嚼する音が響く
「オーナー!入荷入りましたー!」
黙場の後ろから突然バステモンがオーナーへ呼びかける
その手には解体用の骨抜きナイフが握られていた
「お前たち、ここで何をしてるんだ!」
「あーあー、いいよ!教えてあげる
どうせお前も僕の家畜にしてあげるんだし」
暗闇の中からぴょこんぴょこんと現れたのは幼年期のデジモン
ワニャモンだった
「ようこそ僕たちの飼育場へ
そしてはじめまして!
僕はここのオーナーのワニャモン
僕が捌いたお肉はいかがだったかな?」
「ま、まさか…」
ふと口の中にまだ残っているレバーの味を思い出す。
わなわなと体が震え唾を飲み込むことを体が拒絶し始める
彼らが出していた肉の出処は…
「そうここの人間の人肉だよ」
嫌な予感はしていた
だがまさかデジモンが人間を家畜のように扱い食用として料理に出していたなんて
「おっ…うぇっ!!!」
口に人差し指を突っ込み、その場で無理矢理先程まで飲み込んでいたレバーを吐き戻す
「あー!せっかく調理したのにもったいないな!31歳オスの肥満型だったけどしっかり3日間下処理したみずみずしいレバーだったのにぃ!!!!」
無邪気で楽しげな口調で話すワニャモン
「お前、自分が何をしているのか分かっているのか?これは犯罪だぞ!!」
「見つからなきゃ犯罪にはならないよ」
「どういうことだ!」
「へへ、外の連中に助けを呼んでも無駄だだよ!ここの村の奴らにもお肉振る舞ったからね」
「!?」
「だからキミがこの村に来た時点でどうあがこうと村のヤツらも同罪で捕まっちゃうのを恐れて、キミのこと殺すまで逃がさないってワケ!あっ抵抗しないでよね、キミのお肉の質が下がっちゃうから」
身の危険を感じた黙場はズボンポケットに手を突っ込みスマホを取ろうとするが後ろで待機していたバステモンとメイクーモンが不敵な笑みで「お探し物はコチラですか?」と黙場のスマホと残りの通信端末をプラプラと見せつけると殺意が籠った笑みでスマホや機材を爪で粉々に粉砕する
黙場がじりじりと後退すると檻の中にいた人間が黙場の足を掴み助けを乞う
「うぅ…たふ…けて…けれぇ」
人間が入ってる檻から悲痛な声と悲鳴が響き渡る
この店に出されていた料理
一体何人分の人間の肉を使ったんだ?
「さぁ、仕事だ!頼んだよウッコ料理長」
「合点でぇい」
黙場が振り返った瞬間、小刀を手持ったもう1匹のデジモンに切りつけられる
「ぐあ…」
切りつけたのは小さなデジモンだった
黙場は背中をバッサリと切られ、床に膝をつく
切りつけられた傷部分から血がダラダラと溢れ滴り流れ落ちる
「食材は黙って私ゃに調理されりゃいいんだ」
そのデジモンは慣れた手つきで黙場を拘束し、軽々と檻に投げ入れると手に握った小刀に付着した血をペロリと舐めながら高揚とした顔を浮かべていた
「ワニャモンオーナーよぉ
コイツ騒ぎ出す前に先に絞めるか?」
ふよふよと浮かぶクリヨネの様な姿をしたデジモン
血塗れた小刀をしまうとワニャモンの元へ近寄る
「そだねウッコじぃ!
開店日でこれだけ美味しい素材が集まったんだ!祝杯用に捌いちゃおっか!!」
「やったー!」と喜びの声を上げるバステモンメイクーモン
その横でウッコモンは包丁を研ぎながらキランっとこちらに笑みを浮かべている
(ウッコモンだと!?)
寿命が近い電球が点滅する部屋で歳をとったウッコモンが黙場の目の前でその姿を現す
ウッコモン
太古に絶滅したかと思われたどんな願いも叶えてもらえる近年絶滅危惧種認定されたデジモン
(どうしてウッコモンがコイツらとつるんでる?これは由々しき事態だぞ)
必死に動こうにもウッコモンは黙場が逃げないよう手足をガムテープでグルグルに固定し、手に着いた血痕をホコリのように払い落とす
「あとごめんね ウッコじぃ
"今日までずっと解体作業"させちゃって」
「いいんだ、それにこの作業全然辛かねぇよ。お前さんの言う通り人間の肉はもちろん"悲鳴を聞くだけでも身も心も若返る"んだぜ」
「それはよかった!
でもまぁ新しい家畜の背中斬っちゃったし、下処理するのも面倒だからミキサーで砕いてハンバーグにしちゃおっか!」
「あらやだ!アタシの大好物じゃないの!!」
「ハンバーグだいすきネ」
「じゅるり…ハンバーグゥ…私ゃの大好物だぁ…」
「お前ら!やめろ!やめるんだ!!!!」
黙場の言うことに耳を傾けず、楽しみ♪楽しみ♪と鼻歌を歌いながらウッコモンは黙場の体をワイヤーで縛り付け持ち上げると小刀を使って宙ぶらりんになった状態で衣類を脱がし邪魔な金属ネックレスやベルトを外して全身の肌が露出するようにする
これから何をされるのか大体検討が着く
縄を解こうともがこうにも血を流しすぎて意識が朦朧とする
「最初は痛いけど大丈夫!そのうち"慣れる"から」
ワニャモンは取り出した包丁をしっぽを用いて振り回し黙場の首部分にある太い大動脈部分を迷い無くスパッと斬り入れる
ブツっと皮膚と血管が破裂した音が聞こえた瞬間、黙場の意識はここで途絶える
大量出血で気を失った黙場の体にバステモンとメイクーモンが赤色マーカー線を引いて切り取る部位、要らない部位とウッコモンの指示に従って分け引く
「キミの"最初のお肉"どんな味なんだろう」
楽しみだなぁ!とワニャモンが生き生きとした表情で線を引いた部分に沿って包丁の先端を皮膚に突き入れる
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時刻は0:29
黙場が目を覚ますと手首に大きな鎖で繋がれていた
確か自分は解体されて死んだのでは?
それにウッコモンに斬られた背中に痛みがまるで感じ無い、寧ろ無傷といってもいいほどに…
辺りを見渡すと自分と同じ様に捕まった人間たちが全身を震わせながら怯えていた
すると黙場の真正面にいた人間の男がブツブツと何かを呟いている
「もう食べられません…いい加減オラたちを眠らせてけろ…」
嘆く男の目の前にはこんもりと皿に盛られた新鮮な生のほうれん草とフカヒレ、傍に生卵と牛乳瓶が添えてある
黙場の目の前にも同じ食材が口をつけられる距離に置かれていた
「あれ?もう目覚ましたの!?」
ヨダレふきを付けたワニャモンが黙場がいる檻の前へやってくる
「普通の人間は一週間は気絶してるんだけど
キミってもしかして回復が早い方なのかな?」
「私に何をしたのか知らないが、人間の肉を使って料理を作るのをやめろ!」
「どうして?
こんなに美味しいのに我慢しなきゃいけないの?」
デジモンが人間を食べてはならないのは何故か?
それは美味しいからだ
人間を口にしたデジモンはデジタルワールドの食べ物を二度と食べなくなる
人間の肉を食べたデジモンの体は人間の遺伝子と混ざり書き換えられるからだ
デジコアも体のデータもデジタルワールドが拒絶する異物扱いされる
「お前、本当は幼年期デジモンじゃないな」
「よくわかったね!元は"究極体"だったけどパートナーたちを食べてからこの姿のままずっと生きてきたんだ」
「パートナーを…食べた!?」
「あれは事故だったんだよ!
みんな崩落で閉じ込められて餓死しちゃって…可哀想だったからせめて仲間の死体を食べて飢えを凌ごうと焼いたら思いの他香ばしく良く焼けてつい生きてる子も含めて全員を、ね…じゅるり」
「お前…殺したという自覚がないようだな」
「不謹慎だな、キミみたいな生意気な人間始めてだよ、まぁいいや!
それよりキミに一言お礼と今後のことについて説明してあげるね!」
「なんだと?」
「"キミのお肉とても美味しかったよ"
あの後キミをデミグラスハンバーグにして皆で食べたんだ!キミ、人間にしてはガタイもいいし変わった味がしたけど一体何者なんだい?」
は?
お前今なんて言った?
すると光が盛れるドアの向こうのからキャッキャッと笑い踊りながら歌う声が聞こえてくる
バステモンとメイクーモン、そしてウッコモンがマタタビを浴びて酔いつぶれている様だ
明かりが盛れるドアの下は無惨に飛び散った自分自身のものかも分からない肉片たちが散乱している
「ウッコじぃはね、無から有のものを生み出せるデジモンなんだ!
解体したキミを"元通り"再生させたんだよ」
元通りって、削ぎ落とし削った体を一から細胞から再生させたというのか!?
まさか…
「まさか、ここにいる人間たちも…」
「そう!みんな"最低7回"もお肉になってくれたよ!1度目は油っこいお肉だっけど、2度、3度餌を変えたりストレスを与えてみたお陰でAランク級のお肉になったんだ!ここまでするのにかなり苦労したんだよ?」
黙場は背筋が凍った
コイツは
このワニャモンは
デジモンじゃない
無邪気で可愛らしいワニャモンの姿をしたバケモノだ
衝撃のあまり黙場は一瞬呼吸をするのを忘れた
恐れビビるつかの間、黙場は悲しげな顔を浮かべワニャモンに向けて嘆きだす
「そうか…お前は、お前たちもうとっくに壊れていたのか」
「なんだよ、ボクらを哀れんでるの?
やめてくれよ!家畜に情が移ったら解体しずらいじゃないか」
ワニャモンは檻の鍵を開け、鎖に繋がれた黙場がいるところまで可愛らしくぴょんぴょん跳ねながら近づいて行く
「さぁて、キミは何度解体したら美味しくなるのかな?」
ニチャア…と不気味な笑を零す口から、幼年期とは思えないくらいだらしないヨダレを垂らす
するとワニャモンの足元に雑誌の切れ端が落ちる
それには昭和の時代密かに行われていた化猫信仰、現代でいうカニバリストに近しい生贄と人肉を捧げると化猫様が損傷した人体を再生なさるという伝説が記載された古い書物であった
それを見た黙場は全てを理解し、怯えていた顔が段々と余裕のある顔へと切り替える
さっきまでとは違う嫌なオーラを放ちながら顔を上げ、覚悟を決めた鋭い黄い瞳をワニャモンに向ける
「お前たちはもう救われないところまで行ってしまったのか」
せめて苦しまずに逝かせてやろう
ガチャガチャンッと手首足に繋がれていた枷が外されていく
ムクリと起き上がり
突然目の前で起きた異常現象にワニャモンは謎の悪寒に襲われる
「キミ、何をやって………っ!?」
黙場啓士の影から触手らしき蠢くものが浮かび上がる
それは辺り一面を黒く染め上げ、飛び散った血の一滴も残さず飲み込んでいく
本物のバケモノは"私たち"だけで充分だ!
黒い球体の闇が渦を巻きながら現れ、それをソッと空中に解き放つと辺りは闇に飲まれていった
『暗黒(ダークネスゾーン)』
この日、村一帯がデジタルワールドの地図から消滅した
地盤沈下による液状化現象で村全体が崩落したと次の日の新聞記事に載った
人肉を食べてしまったワニャモンたち、村人デジモン、家畜となった人間たちも皆行方不明となったままである
分かることといえば村の削れた地表から数十体もの人骨が見つかったこと
一時期ニュースで話題になったが検査の結果、遺体のどれも"400年前、戦国時代初期を生きた百姓たち"であり、遺族は愚かDNA検査をしても身元を特定できなかった
どの遺体も無傷で戦に駆り出された訳もなく、損傷も見られない
流行病で死んだのか、はたまた生贄、災害、人災なのかどれも信ぴょう性は低く謎だらけ
後日デジタルワールドの空間の歪みで人間世界の何処かの地表に埋まっていた遺体たちがデジタルワールドに移動してしまったという事が判明したが、答えは誰も分からない
真相があまりにも不完全燃焼だった為そのニュースはあっという間に世間から忘れ去られていった
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暗黒空間
時刻は08:40
「アポおかえり!お仕事どうだった?」
目を開くとそこは覗き込むピコと空と言うにはとてつもなく暗い暗黒空間が広がっていた
(そうだ、私は人間界に紛れ込むために作ったアバター黙場啓士として活動し、つい先程接続が切れたのだ)
アポカリモンはまるで長い眠りから覚めたような感覚に陥る
人を食べるデジモンの末路とはなんとも酷く哀れな最後でだろう
そして奇しくも消滅せざるを得なかったワニャモンたちの家畜と化した人間たちの体はすでに人間の体ではなくなっていた
いくら記憶操作して記憶を消しても肉体が覚えているのだ
それにワニャモンめ、人間に与えた餌に脳を直接破壊する毒を混ぜ込んでいた
そう、黙場ことアポカリモンが来た時点で彼らを救う方法はすでになかったのだ
しかしあれだけの負の感情で溢れた人間がいたというのに我が身は1ミリも負担がかかっていないのが一番不気味である
怨念の集合体である我が身は人間はもちろん、デジモンたちの負の感情まで集まってくるというのに
(今思えばあれは本当に現実にあったことなのか?
昔人間たちが行っていた生贄信仰で犠牲となった死んだ魂たちの怨念に近い気配を感じたのだが…)
頭を抱えて考えていると最愛のピコがアポカリモンに声をかける
「そうそう!ニュースでちょうどアポが調査しに行ったお店、村ごと無くなっちゃったと聞いてさ、ボク心配したけどアポが無事だってことは大丈夫だったんだね」
それとほら!とピコが今朝の新聞記事を見せる
その記事は小さく記載されていた
『発見された遺体は納骨堂へ送られる!!』に目が行く
「あぁ…そういうことか、だからお前たちは"我の中にいない"のだな」
我は最初からあの土地に呼ばれていたんだ、怨念たちを見つける為に…だからあの様な体験をさせたのか
死してずっと誰にも見つけてもらえず、それが段々と恨みとなり月日をかけてアポカリモンの元へ流れ着いたのだ
「お前たちを見つけることができて良かったが…」
地元のデジモンたちもそうだがあまりにも犠牲が多すぎた
「あのデジモンたちも無事に転生していればよいのだが…」
後日、食べ放題屋があった場所に4つのデジタマが発見される
異常は見られなかったものの、回収しに来た際デジタマの中から不気味な声が聞こえたとのこと
『オニ…きゅ…も…と…たべ…リュ』
生まれ変わってもそれはこの世界で今尚、人肉を求め彷徨い生きているのかもしれない
くれぐれも皆様、化猫にはご注意を
〜キャットカーニバル〜
[完]
あとがき
時計の数字は実は意味があります
2:59→(じごく)
10:59→(とうごく)
0:29→(おにく)
08:40→(おはよう)
舞台であるエリア596928510はなんと読むか当ててみて下さい
黙場(モクバ)啓士(ケイジ)
アポカリモンの人間界用のアバター
接客から仲介役といった企業との取引に使用
独り言が多い
【名前の由来】
アポカリプス→黙示録、啓示
怨念そのものであるアポカリモンをアバターという弱体化した状態で因習村やりたい!と思ったのが今作を書こうと思ったきっかけです
皆さんの多くの作品から刺激とやる気をもらいながら創作に眺めてますんで今後とも暖かい目で見守ってもらえると幸いです!
ここまで読んでいただきありがとうございました!
今年もピコよろです🦇