「やれやれ、うたた寝してたら遅くなってしまった」
図書館の管理人らしき男が戸締りを確認し、ひとり寂しく帰りの帰路を歩く。
片腕に挟んだ分厚い辞書サイズの本を2冊。英語で書かれた『specter(妖怪)』という本と、おどろおどろしい挿絵が入った日本妖怪図鑑。今日は図書館を利用する学生が多かった。いつもならゆっくり受け付けで読書しながら対応するのだが、夏休みに入ったことで穏やかな勤務時間は慌ただしいものとなった
(にしても真夜中なのにやけに暑いな…)
本の劣化を防ぐ為に図書館は常に冷暖房完備に徹底している、いつの間にか自分は寒暖差に弱い体となってしまったようだ。明日から運動しなければ
ズルズル…ズルズル…
「なんだ?」
誰もいない道路、点滅する街頭、辺りを見渡しても生き物の気配がないにも関わらず長い紐が引き摺られる音が聴こえてくる。ここ最近暗黒のデジモンが復活しただの、デジモンがデジタマに還らない話や突然村が消滅するといった噂をよく耳にする。あくまで噂だが、いつ我が身にかかってくるかは分からない限り警戒心を解かないようにはしている。
「気のせいか?」
早足で歩くとまたズルズル…ズルズル…と音が聴こえてくる
「妖?それともお化け?」
本物の妖怪であれば是非とも見てみたい。
実物を拝見したい!
あわよくばサインが欲しい!
「そこに居るのは誰だ!出てこい!!」
闇に声をかけるも返答は無い
瞳を輝かせ両手を広げて手招きする。その時ドサドサと抱えていた全ての本が地面に落下する
「あちゃー、大事な本が!」
汚れたら大変だ!と本を拾い上げた時ふと自分自身の靴に目がいった
「なーんだ!音の正体は俺の靴紐だったのか」
靴紐を結び直すとズルズルの音は消え、カツカツ歩く靴音しかなくなった
「まだ俺は寝ぼけてるみたいだな、自分の靴紐が解けてるのが分からないなんて…」
ふと私は疑問が過ぎる
「そもそも何でこんな本を持ち出したんだ?趣味悪すぎだろ」
まぁ、いいさ。家にいる俺のパートナーが好きそうだしな。あれ?そもそも俺にパートナーデジモンなんていたっけ?まぁいいか
男の耳元でジジジ…と何かが囁いた気がした。不可解な声が頭の中に響く。男はいつの間にか古いアパートにたどり着くと鍵のかかっていないドアを開け、虚ろな瞳で闇の中に声をかける
「ただいま戻りましたご主人様」
上品な肉が参りました
闇の中から知識に飢えたデジモンが男の頭を握りつぶす。男は人間でもデジモンでもない、図書館の管理人と思い込んだデジモンの使い魔であった。
肉片と化した男だったモノをむしゃむしゃと捕食するのは知識の王バアルモン。彼にとって生き物の記憶や媒体誌は餌に過ぎない。
男が落とした本を拾い、バリバリと音を立てながら飲み込んでいく
『次は学生と思い込んだ使い魔を試してみよう』
ケヒヒ
バアルモンはヨダレを垂らしながら一瞬レザースーツを纏うように闇の中へと沈んでいった
【怪異の御膳】
感想ありがとうございます!!
最後のレザースーツの正体はディージャンモンですね
バアルモンの知識欲が暴走し海外の妖怪図鑑といった怪異の知識を取り込みすぎた上でディージャンモンに至ったわけです(暗黒進化に近いですかね)
ちなみにジッパーを開けて相手を取り込む
渾沌亜空虚(こんとんあくうきょ)
という技があるのですが、本人も食べたものが何処に行くのか分からないみたいです
恐ろしい…!
数えてみれば自作のデジモンホラー作品サロン以外で上げてるのも含めて10作品以上あって正直自分でもびっくりしてます!
最近クトゥルフ神話に手を出したりしてますからこれからの話は神話生物×デジモンで展開するかと…?
今後とも何卒よろしくお願いいたします
おお! 夏の怪談っぽいッスね! 夏P(ナッピー)です。
デジモンの事件が起きているとかパートナーデジモンなんていたかとか、そういった文言から察するにデジモンと人間がパートナーでいるのが当然の世界観(02最終回後的な?)なのでしょうが、でも最後の描写を見るにそれすら“そう思わされているだけ”のような気がしないでもない。というか、不意打ちで上品な肉が参りましたでヒッとなりました。素で人間を操って咀嚼するタイプのデジモンかと思ったので、むしろ人の知識を持たせた使い魔だったことに安心したかもしれない。
バアルモンそういえば知識の王なんて設定がありましたが、だがしかしレザースーツを纏うようにってことはつまり……。
ざだるおんさんの短編、色々読ませて頂いておりましたがゾクッと来るものを合わせれば夏の百物語ができるな……なんて思うのでした。
それでは今回はこの辺りで感想とさせて頂きます。