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エリクシル・レッド:第3話 遊園地を守れ! ナゾのパペット型デジモン登場!?
「まったく、勇気も隅に置けないな~」
そんなんじゃないよ! と歯を磨きながらオレがムキになると、とうちゃんはもっとニヤニヤしながらオレの頭を小突いてきた。
ホントにそんなんじゃないから困ってしまう。でもそういえば、キョウヤマさんから最初に手紙をもらった時はホントにドキドキしたんだっけか。オレのジュンジョーを返してほしいよ、ホントにもー。
今日は土曜日。学校はお休み。
でも、対デジモン用デジモン専門調律者(チューナー)組織『D.M.T』の一員になった調律者のオレには、大人みたいにお仕事があるのだ。
オレはからかってくるとうちゃんから逃げるみたいにさっさと歯磨きを終わらせて、階段の影に逃げ込んで、昨日クラスメイトのキョウヤマさんから送られてきたメールを確認する。
――『D.M.T』業務連絡。『どりヰむらんど』に自我持ちデジモン出現の可能性有リ。私、京山瑪瑙と調査に向かってもらいます。
――追伸。断るなら舞踏会です。
なんて漢字だらけな上にそっけない文章といっしょに、『どりヰむらんど』のチケットのQRコードが添付されていて。
「それで? タキ、『どりヰむらんど』というのは?」
「わっ、びっくりした」
ひょこ、と階段の影から顔(っていっても、相変わらずのっぺらぼーなんだけど)を出すオメカモンに、思わず身体が飛び跳ねる。オメカモンはオレの一番のトモダチだけど、全然気配がないのだけはカンベンしてほしいよな。
でもやっぱりトモダチだから、オレはオメカモンが知りたがっている事を説明してあげる。ふふん、なんだかすごく大人な対応だ。
「隣町にある遊園地だよ。結構広くて、お城やサーカスまであるんだぜ」
「サーカス? ふうん、ピエロはいるのかい?」
「? いるけど、それがどうかしたの?」
「いいや、別に」
とは言いつつ、ちょっとだけ声が弾んでいるオメカモン。
ひょっとしてサーカス、好きなのかな? 一緒に見に行った事は無い筈なんだけど。でも、テレビや本で見たのかも。
キョウヤマさんがいいよって言ってくれるとはショージキ思えないんだけど、もしも仕事が早く終わったら、フツーに遊ぶのもいいかもしれない。そのくらいだったら、許してくれる筈だ。
「ユウキ、早くご飯食べちゃいなさい? デートで女の子を待たせちゃダメなんだから」
「もぉー、かあちゃんまで! ホントにそういうのじゃないんだってば!」
だけどぐぅと鳴るお腹はホンモノだから、オレは急いでリビングに向かった。ソーセージを焼いたのかな? そんな匂いがする。
「まあ、なんにせよ楽しくやろうじゃないか。トモダチである君がいれば、きっとどこに行っても楽しい筈だからね」
まあ、それはオメカモンの言う通りだ。
ようし、はりきっていこう! なんたってオレとオメカモンの、初任務なんだからな。
*
「……、……。……遅刻しなかっただけ、褒めてあげるわ」
『どりヰむらんど前駅』を出てすぐ、正門前のベンチに腰かけて腕組みしていたキョウヤマさんは、オレを見るなり言いたいことをいっぱいガマンしたような顔をしてから、はあ、と大きなため息をついた。
「なんだよー」
「タキ、ご婦人を待たせた時は、たとえ定刻を守っていたとしてもひとまず謝っておくものだよ」
スマホの中から、そう、オメカモン。キョウヤマさんがもっと大きなため息をついた。
「そういうのいいから。……何その荷物、って思っただけ」
「荷物? リュックの中身のこと? えっと、お弁当と、水筒と、ビニールシートに――」
「タナカくんが遠足気分なのは解った。いっそあなたは遠足しててくれていいから、頼むから、私とピノッキモンの邪魔だけはしないで」
「えー、キョウヤマさんが一緒に行こうって言ったんじゃん」
「リーダーの指示じゃ無かったら連れてこなかった」
相変わらずぴしゃりと言いながら、これ以上は何にも言いたくないみたいに、ポケットからスマホを取り出して『どりヰむらんど』の入口へと歩いていくキョウヤマさん。
言われてみれば、キョウヤマさんが持っているのはスマホだけっぽい。いや、ハンカチとティッシュは持ってるかもだけど。お出かけの時は、持たなきゃいけないんだ。
あわてて後を追いかけて、でも別々のゲートで園内へと入る。受付のピンク色のうさぎさんのフードを被ったお姉さんが、にっこり笑って「いってらっしゃい」と送り出してくれた。
門を潜り抜けると真っ先にお城が見えて、だからやっぱり、ここに来ると仕事だって言ってもワクワクしてしまう。
「随分と色彩豊かなお城だね」
「そうかな?」
言われてみるとそうかもしれないけれど、オレは見慣れてるから、あんまりイシキした事ってなかったな。
いや、オメカモンが地味なだけかも。……って思ったけど、一色とはいえ赤色って別に、地味じゃないしなぁ。なんて言ったらいいんだろう? シンプル?
なんて首をひねっている間に、キョウヤマさんがずんずん前に進んでいってしまう。
オレはまた走って追いかけるはめになってしまった。
「……さっきも言ったけど、別に、遊んでてくれて、いいんだけど」
「オレだってお仕事する気で来たんだもん。なー? オメカモン」
「ふふ、そういう事にしておいてあげよう、タキ」
「本当にその気なら、軽々しくデジモンに声かけないで。第一、調査はもう始まってるんだから」
「え?」
キョウヤマさんは、はてなマークを浮かべるオレに、心からめんどくさそうな顔で振り返って、ゲートの方を指さした。
「シスタモンシリーズ。ゲートの3体は、3体ともパペット型のデジモンよ」
気付いてなかったでしょう、とキョウヤマさん。
ええっ!? とびっくりしてここから目を凝らしてみても、次々とやって来るお客さんににこにこ笑って手を振っている、それぞれ別の動物のフードを被ったお姉さんたちは、人間のお姉さんにしか見えなくて。
「キョウヤマさんまでオレのことからかってない?」
「まで、って何? ……まあいいわ。シスタモンシリーズ――右からノワール、ブラン、シエルは、パペット型達の中でも特別人間に似たデジモンなの。おじいさまによれば、他のデジモンに戦闘の稽古をつけるための機能を持ったデジモンだったとか。だからきっと、ある程度親しみやすい『キャラクター』が設定されてるんでしょうね」
そんな話を聞きながらよーくシスタモン達を見ていると、確かに、シスタモン達は何種類かの反応を同じパターンでくりかえしているみたいだった。
ずぅっと見ていると、デジモンだったいうのがだんだん判ってくる。
「園内にも複数のデジモンがいるわ」
あれくらいはタキくんでも知ってるでしょう? と(シツレイな)キョウヤマさんが指さす先には、黄色いクマの着ぐるみ――もんざえモンだ。
知らないワケがないじゃないか。もんざえモンは、この遊園地の名物デジモンなんだから。
だけど、それを知らないオメカモンは、ひゅう、と、スマホの中で口笛を鳴らす。
「すごいじゃないか。あれはLevel5の中でもなかなかの部類だろう?」
「サイバードラモンを一撃で倒せるあなたの「なかなか」がどのくらいのレベルかは知らないけど、この遊園地に強力なデジモンがそこそこ配置されているのは、本当」
おじいさまがかかわってるからね、と、キョウヤマさん。
「そうなの!?」
それは、オレも知らないハナシだ。
ええ、と。キョウヤマさんは何でもない風に、すずしい顔でうなずいて見せる。
「調律者間では有名な話よ。当時の『どりヰむらんど』は、デジモンが本当に人間にとって有益かつ安全かを確認するための最終試験場も兼ねていたの。園内にいるLevel5は、全部かつておじいさまの調律を受けているわ」
「つまり、交換された個体はいない――問題を起こしたデジモンは開園以来存在しない、という訳か」
「相変わらず物分かりが良過ぎて気持ち悪いけれど、話が早いのは助かるわ」
オレもとりあえずうんうんうなずいて見せた。ショージキ2人が何を言ってるのか、あんまりわかってないんだけど。
「しかし我々が駆り出されたという事は、何らかの不都合が発生した。ただし、人間に直接被害が出ない範囲で。……そうだね? ミス・メノウ」
「……園内のLevel3デジモンが、数体。この一週間で行方不明になっているらしいの」
「ええ!?」
おどろいて声を上げると、たちまち「うるさい」と怒るキョウヤマさん。
でも、実際大変な事じゃないか。デジモンが、いなくなっちゃうだなんて。
「だから調査に来たって言ってるでしょう。……デジモンは条件次第では姿が変わる――俗っぽい言い方になるけど、『進化』する事がある。園内にこの『条件』を満たす何かがあって、Level3達がLevel4に進化しただけなら、その詳細を報告・再調律の手続きを園に促す」
でもまあこれは、ある種希望的な観測ね。と言いながら、キョウヤマさんは続ける。
「悪質な調律者がLevel3の窃盗もしくは削除(デリート)を行っているようなら、これは『D.M.T』の管轄外。リーダーに報告して、別の専門家を派遣してもらう」
「えー、悪の調律者と戦ったりしないの?」
「しない。管轄外。……私達が直接関与するのは、一連のLevel3消失が「デジモンの手によるもの」――もっと言うと、「自我持ちのデジモンによるもの」だった場合に限られる」
キョウヤマさんが言うには、自我持ちのデジモンは自分をもっと強くするためにほかのデジモンを襲う事があるんだって。
あんまり力の強くない、マスコット的な仕事をすることがほとんどのLevel3以下のデジモンは、特に襲われやすいんだとか。
ゲームの経験値稼ぎみたいだ。
「所謂「雑魚狩り」をするような奴なら、恐らくLevel4クラス。ただしある程度はスニーキングに優れた種類の可能性が高い、っていうのがリーダーの判断」
「ボクと同じぐらいの強さ、という訳か」
「冗談。あなたみたいなLevel4、そうそういてたまるものですか。……だから、そうね。もしもの時は、タナカくんでも十分に相手取れるレベル、って事。じゃなきゃ、絶対にあなたなんて連れてこなかったんだから」
「もぉー。いちいちキツいんだから」
チクチクことばだ。と、人さし指でつつくまねをしたら、キョウヤマさんは舌打ち混じりにオレの手を払いのける。
コワ~。
「そういう訳だから」
イーッとこっちも対抗して口を横に引っ張っていると、ずん、と一歩、オレの前にキョウヤマさんが大きく足を踏み出した。
「あなたは好きにして頂戴。ジェットコースターでも、コーヒーカップでも、メリーゴーラウンドでも。お城でもサーカスでも好きなところに行ってくれていいわ。私、その間に園のネットワークをピノッキモンで調査してるから」
「え? オレは?」
「聞いてなかったの? 勝手に遊んでてって言ったの。余計な事しないで大人しくしていてって意味」
それじゃ、と、そう言い残して、キョウヤマさんはあっという間に人ごみの中に紛れて行ってしまう。
「……ちぇー」
遊びたいとは思ってたけど、こんな風に、ソデ? にされると、すっごくなんだかなー、ってカンジだ。
でもキョウヤマさんがそう言ったんだし、と思って早速ジェットコースターに乗ってきたけれど、なんだか家族で行った時とくらべて全然楽しくなくて、1回で飽きちゃって。
とりあえず、サーカステントの近くに来て、空いているベンチに座ることにした。
ここならたまにピエロも出てくる。そういえばオメカモン、見たがってたし。
「っていうか、ネットワーク上の調査って、オメカモンもできないの?」
「まあ出来るか出来ないかで言えば「出来なくはない」が答えになるけれど、それは多分、ミス・メノウの卓越した技能と、ピノッキモンの「コンピューターを欺く」能力があってこそだからね」
「コンピューターをあざむく能力?」
「ピノッキモンは噓を吐くのが得意なデジモンでね。その性質を応用すれば、色んなことが出来るのさ。悪質なエラーを引き起こしたり、セキュリティに感知されないままサーバに侵入したり」
「へぇー、オメカモン、くわしいんだ~」
「タキはデジモンが好きだろう? タキのトモダチとして、君が好きそうな情報を予め収集しておくのも愛玩デジモンの役割の1つだからね。ただまあ、裏を返せばボクに出来るのはせいぜいがその程度、というワケだ。防犯も仕事の内だから多少戦闘はこなせるけれど、Level4の身に特殊な技能は期待しないでくれたまえ」
わかったような。わかんないような。
そんな風にスマホでオメカモンとおしゃべりしながら、あたりを見回す。
一番目立つのは、風船を配っている黄色いクマのきぐるみ……みたいなデジモン・もんざえモンだけど、向こうじゃトイアグモンがオレより小さい子と背くらべしてアトラクションに乗れるか測っているし、もっと別のところでは、列に並んでいる人たちをタイクツさせないために、ガワッパモンとカメモンが踊りを披露している。
キョウヤマさんの言ってた通り、たくさんデジモンがいる遊園地だ。
「……そんな中で、『ただのLevel4』が誰にも気づかれないでLevel3をどこかに連れて行っちゃうなんて、できるのかな?」
ふと、オレの頭の中に、そんな考えがひっかかる。
キョウヤマさんが聞いたら、また怒り出しそうなハナシだけど、ちょっとだけ間を置いて「それは最もな疑問だね」と、オメカモンも言ってくれた。
「言われてみれば。そも、これだけデジモンがいるという事は、それを調律する調律師も少なくない数が在中している筈だ。他者からの悪用を避けるために、強力なプロテクトや、高精度の発信機も設定されている事だろう。もちろんLevel4にもスニーキングに優れた種族はいるが……」
「ねえ、ねえ。キョウヤマさんに伝えに行かなくていいのかな? オレたちの推理!」
「ふむ……」
だけどけっきょく、オメカモンは「行こう」とは言わなかった。
何かを考えて、それをオレに伝えるよりも前に――
「失敬、坊や。こちらの席は空いているかな?」
――男の人が、声をかけてきたんだ。
あわてて顔を上げたら、そこにいたのはとうちゃんよりちょっと若そうなおじさんだった。でもとうちゃんよりだいぶ……そう、スタイリッシュ! 金髪に赤いジャケットにごっついベルト! 先のとんがったブーツに、ピカピカのサングラス。その上めちゃくちゃムキムキだ。
でも、ふしぎとコワい感じのしない、優しそうな笑みを浮かべたおじさん。
「えっと、だいじょうぶです。どうぞ」
オレはベンチに詰めて座る。
ありがとう、と、おじさんは丁寧に頭を下げて、それから、オレの横に腰かけた。
ええっと……人がいる時は、オメカモンとおしゃべりしない方がいいんだっけ。
オレは電話が終わったようなフリをして、スマホをポケットにしまい込んだ。
でも、どうしよう。急に立ったらなんかシツレーな感じになっちゃうかな。それに、他に行くアテも無いし。
「ところで坊や。君はデジモンが好きなのかな?」
「!」
なんていろいろ考えてたら、おじさんが話しかけてきた。
「えっと……」
「ああ、すまない。先ほどデジモン、という単語が聞こえたのと、この遊園地はデジモンで有名だから。……おじさんもデジモンが好きでね。同好の士を見かけると、つい声をかけたくなってしまうんだよ。怖がらせてしまったなら、謝罪しよう」
「その、大丈夫です。オレも、デジモン、好きだし」
ちょっと悩んだけれど、悪い人にはやっぱり見えないし、オレにはオメカモンもいるからね。もしもの時は、サイバードラモンの時みたいに、オメカモンが守ってくれるハズだ。せーとーぼーえーなら、キョウヤマさんだって怒らない……いや、キョウヤマさんはオレが何したって怒るもんな。やんなっちゃう。
そうか、と、オレの心の中を知るよしもないおじさんが、またにっこり笑った。
「じゃあ君は、デジモンのどんなところが好きなのかな?」
「うーん。つよくてカッコイイところ!」
「ふむ。では、弱くて格好悪いデジモンが居たとしたら、君は、そんなデジモンは嫌いかな?」
「?」
弱くて、格好悪いデジモン?
「Level2ぐらいのデジモンのこと?」
「……。そうだな。一先ずそう思ってくれて構わない。ああ、ただ、彼らほど愛らしい姿はしていないものと考えてくれたまえ。見てくれも悪く、力も弱く、人間にとって大した利益にもならないデジモンが居たとしたら」
んー。そんなデジモン、見たことないからうまく想像できない。
あ、女子とかたまに、メカノリモンの目がコワいとか気持ち悪いとか言う子いるよな。あんな感じかな。でもオレはカッコイイと思うんだけどな~。
「見た目はわかんないけど、弱っちいのは調律者がなんとかしてあげればいいと思う」
「もし君が調律者だとしたら、そうしてあげるのかい? どんなデジモンだったとしても?」
「うん! いつかホントにそんな調律者になるんだ!」
ホントはもう調律者だけど、そこはナイショだ。ヒミツの調律者だもんね。
おじさんは、うん、とうなずいて、また優しそうに笑ってから口を開く。
「では、最後に。そんな君にとって、ずばりデジモンとは?」
なんだかインタビューされてるみたいだ。いつかすっごい調律者になったら、ニュースでおじさんがオレのこと話してたりして。
じゃあオレもかっこよく答えなきゃ。えっと、ええっと……。
……よく考えたら、知らない人だし、逆に、言っちゃってもいいかも。
「あのね、これはみんなにナイショなんだけど」
「うん?」
「オレ、デジモンのトモダチが居るんだ」
「……」
耳打ちしたオレに、向き直ったおじさんが「それは素晴らしいね」とやっぱり笑っていて。
でも――なんだろう。なんとなくだけど、ちょっとだけ、寂しそうにも――
なんて思っていた、その時だった。
「わあっ!?」
急に、ジェットコースターの方から女の子の声がした。
そっちを見ると、声を上げたっぽい女の子の前で、トイアグモンがバラバラに崩れている。
「ママー!」
「もう、変なところ触ったんじゃないの?」
「そんなのしてないもん!」
女の子はああ言ってお母さんに抱きついてるけど、トイアグモンはセンサイなデジモンなんだ。急にたたいたりしたんじゃないかな? イジョーを感じると、誤作動して危なかったりしないように、崩れちゃうって図鑑に書いてあったと思うんだけど。
「あっちゃー、ごめんね! エラーが起きたのかも!」
と、「怖がらせちゃってごめんね!」と、奥からもんざえモンがてとてと走ってきた。
「ぼくがちゃぁんと直してくれるところに連れて行くからねぇ。びっくりさせちゃっったお詫びに、ぎゅーしてあげよう。さ、おいで」
『どりヰむらんど』のマスコットのもんざえモンにそう言われて、女の子もごきげんになったらしい。ぎゅー、と2人は抱き合って、トラブルは無事解決。女の子から離れたもんざえモンは散らばったままのトイアグモンのブロックを拾って、元来た道を戻っていく。
にしても、すごく上手に調律してあるな~って。オレは思わずもんざえモンに目をとられて――
それで、気づいてしまった。
みんながもんざえモンから目を離したタイミングを見計らうみたいに、もんざえモンは、トイアグモンのブロックからぐにぐに立ち上ってきた『何か』を、体の中へと吸い込んでいたのだ。
「……! おじさん、ごめん、オレ行くね!」
オレは思わずベンチから飛び出した。
結局急になっちゃったけど、キンキュージタイだ。おじさんの返事も聞かずに駆け出して、もんざえモンを追いかける。
「オメカモン、さっきの――」
「周辺のデータスキャンで確認していたよ」
お手柄かもね、タキ、ってオメカモンは言ってくれたけれど、なんだかイヤな感じがする。
オメカモンにスマホの中からキョウヤマさんにメールを送ってもらいながら、遊具や建物の陰にかくれて忍者か探偵みたいにもんざえモンの後をつける。
もんざえモンはサーカステントの裏側に回って、ちょっとした塀の代わりになっている植え込みを跨いで敷地の外へと歩いて行ってしまった。……遊園地のデジモンなら、絶対にこんなこと、しないハズだ。
音を立てないように気をつけながら、植え込みの隙間に体を突っ込んで、もんざえモンの消えた方角をのぞき込む。
「……!」
ごくり、と、息をのまずにはいられなかった。
「えへへ、えへへへへ。かわいいなあ、あまくておいしいなあ」
もんざえモンは、背中からあふれ出したさっきの『ぐにぐに』でバラバラのトイアグモンをこね回しながら、えへへ、えへへとずっと笑い声を上げていた。
顔はいつも通り、半円の目で笑っているみたいなのに、どこかうっとりしているみたいで、それが、よけいに、ものすごく、怖い。
そして、次の瞬間。
「……あ、もうなくなっちゃった! かわいそう……!」
ぐにぐにの中で、トイアグモンのブロックが全部、溶けて無くなってしまう。
こわれ、ちゃったんだ。
「ひっ」
口から息が漏れて、急いでふさいだけどもう手遅れ。
もんざえモンの顔が、ゆっくりとこっちに向いた。
「わあ、かわいい!」
かわいい。
トイアグモンにも、言っていたセリフだ。
それが、オレに向けられてる。
「せっかくかわいいこがいっぱいいるから遊園地に来たのに、穢らわしいおおきなデジモンもニンゲンもたくさんいるんだもん! ひどいよね? ぼく、かわいそうでしょう? かわいそうだよね? そう思うでしょう? だから、ぼくとともだちになってくれるよね? きみはかわいいもんね? いいにおいもするもんね? かわいいこは、やさしくて、おいしいもんね??」
まくしたてるみたいに言いながら、こっちに歩いてくる。体がすくんで、動けない。
ともだち。
ともだち。
オレは、デジモンが好きで、ともだちになれるなら、なりたいって、思うけれど。
でも、このもんざえモンの言うともだちって、オレのおもってるともだちじゃなくて――
「おっと、悪いけれど、タキはボクのトモダチだからね。そういうのは、他を当たってほしいかな」
オメカモンが、また勝手にスマホの中から飛び出してきた。
「お、オメカモン……!」
「大丈夫。ボクはタキのトモダチだからね。他の子にあげたりなんかしないよ」
「《ナイトメアレイン》」
振り返ったオメカモンにほっとしたのもつかの間。もんざえモンの背中からまたあのぐにぐにが飛び出して、今度はオメカモンを包み込んでしまう。
「!?」
「なあに? きみもちいさくてかわいいね! ぼくのともだちになってよ!」
「なんだ、タキじゃなくてもいいのかい? 全く、無節操なデジモンだね」
「えへへ、まずは味見からだね! きみは、どんな、味――」
と、とつぜんもんざえモンが動きを止める。
それからいきなり全身をぶるぶる震わせたかと思うと、がば、と両手で顔をおおって、
「オ、エエエエエエエ!?!?」
オエー! って、ゲーするみたいな悲鳴を上げて、ぐにぐにの中からオメカモンを弾き飛ばした。
「っ、オメカモン!!」
「どうやらボクは彼のお口に合わなかったようだね。赤いシロップはお嫌いかな?」
「い、言ってる場合かよぉ!?」
「それもそうだ」
オメカモンは改めて、うずくまるもんざえモンに向き直って、その場からぴょん! と大きくジャンプする。
「ミス・メノウの仕事を奪うのは少々気が引けるが、タキに手を出そうとしたことは看過できないからね。おとなしくお縄についてもらおう」
短い足が、まっすぐにもんざえモンの頭に向けられる。
「《オメカキック》」
オメカモンの必殺キックが、ずぼん! ともんざえモンの頭に――沈み込む。
「え?」
「うわあああああああん!!」
もんざえモンが、ほとんど悲鳴みたいな泣き声を上げる。と同時に、オメカモンのキックが当たったところから、さっき以上の量のぐにぐにが噴き出した。
「!?」
「うえええん、きたないよお! くさいよお! 穢らわしいよおおおおぉっ!! 《ファンシーファンタジスタ》ッ!!」
ぶん! ともんざえモンが右手をぶんまわすと、めりめりと腕を突き破りながら飛び出てきたぐにぐにがでっかいハンマーの形になって、体が沈み込んだオメカモンを、自分の頭ごと殴り飛ばしてしまう。
「おっと!」
「オメカモン!!」
ぐしゃり、とオメカモンの体がへこんでしまった。ぐにぐにからは抜け出せたけれど、オメカモンはいつもみたいにスタッとは着地できなくて、ゴン! といやな音を立てながら、地面をバウンドして。
なのに、泣いているのはもんざえモンの方だ。しゃくり声を上げながら、消し飛んだ頭の目があった位置を、ごしごしとぐにぐにでこすっている。
「ひどいよお、ひどいよお。小さい子のフリしてぼくをいじめた! にがくてきもちわるいよお……! うええええええん!!」
そうしているうちに、もんざえモンの表面がずるりと裏返るみたいに剥がれ落ちて――中から出てきたのは茶色い毛皮と、もっとたくさんのぐにぐに。
毛皮の部分はフツーのもんざえモンよりぬいぐるみっぽい感じがするけれど、RPGの毒薬みたいな色のぐにぐにのせいで、全然かわいい感じはしない。
むしろ――怖い。
「かわいくないヤツなんて、ぼくをいじめるヤツなんて――みんなみんな、殺してやる!! 《スイートラブリーアタック》!!」
ぐにぐにのもんざえモンの左目――ぬいぐるみに空いた穴から見える金色の丸い目だ――から、ちっとも名前に似合わないビームが発射される。
オメカモンはどうにかよけたけれど、ビームの当たったじめんがジュッと音と煙を立てて、大きくえぐれた。
喉からかすれた悲鳴が出た。もんざえモンが、わわ、と、今更みたいに腕を大きく上下に振る。
「こわがらせちゃってごめんね! きみには怒ってないんだよ? コレを殺したら、あとでた~っくさん『かわいいかわいいあそび』してあそんであげるからね?」
「ヒッ」
「全く、精神だけ幼稚なままその位に至るというのも考え物だね」
「おまえはくさい口でしゃべるな!! 《ファンシーファンタジスタ》!!」
「そんな君には、是非ともミス・メノウを見習ってほしいものだ」
次の瞬間、もんざえモンがハンマーに変えて振りかぶった右腕が、スパン! と勢いよく切断される。
「!?」
「敵性デジモンに講釈を垂れる前に、「余計なことをしない」っていう最低限の指示ぐらいは守ってほしかったわね」
もんざえモンの腕を切断した物体――ピノッキモンの《フライングクロスカッター》は、きれいなカーブを描きながら、このエリアに入ってきたキョウヤマさんのとなり、ようするにピノッキモンのところへと戻っていく。
「……わあ! びっくりしたけど、かわいいこがまたふえた! うれしいなあ、そっちから会いに来てくれるだなんて!」
振り返ったもんざえモンは、地面に落ちずにその場にぷかぷか浮かんでいた腕を元通りにくっつけてしまう。
チッ、と、キョウヤマさんの大きな舌打ちがこっちにまで聞こえてきた。
「しんもんざえモン。パペット型の、Level6。……笑っちゃうわね」
Level6。
ニコリともしていなおキョウヤマさんの方へと走って行くと、そんな言葉がオレの耳に届いた。
「なんだよー! ぜんぜんLevel4とかじゃないじゃん!」
「あんな人の多い環境で誰にも何にも気づかれずにデジモン1体連れ去ってしまえるデジモンがLevel4な訳がないでしょう。施設の設備を借りてサーチしながら、デジモンが園から出て行く反応を探してたのに……あなたときたら」
「はあ!? 最初と言ってること違うじゃん」
「上位レベルのデジモンが相手だと判ったら、見たい見たいってだだをこねそうなお馬鹿さんが居たものだから。でも実際は逆効果だったわね。私が思っていたよりあなたは浅はかだったわ」
け……けちょんけちょんに言うじゃん……。
「タキが気付くことにミス・メノウが気付かないのも妙だとは思ったけれど、もう少し手心を加えてやってくれないかい? ミス・メノウ」
「お、オメカモンもめちゃくちゃヒドいこと言ってない……?」
なんだよー、みんなして、もう……。
だけどオレが凹んでいる間にも、キョウヤマさんはスマホを操作してピノッキモンを動かし続けている。
十字のブーメランを剣みたいにして、もんざえモン――しんもんざえモンのぐにぐにをアイツの体から切り離し続けて。
でも
「あはは、あははは、たーのしいねぇ!」
しんもんざえモンのぐにぐには、切っても切っても、すぐにくっついてしまうのだ。
「でも、ちょっとあきてきちゃった」
その上、体から離れた分は離れた分で、さっきと一緒で自由に動かせるみたいだった。
翼みたいに広がっていた分が、ピノッキモンのひじのあたりにまとわりつく。
ピノッキモンは、腕を十分に振りかぶれなくなってしまった。
なのに、しんもんざえモンからすれば、せっかく動きを止めたはずなのに――
「おっげえええええ!! ぺっ! ぺっ!!」
はじくみたいにして、すぐにピノッキモンをはなしてしまう。
オメカモンの時ほどじゃないけれど、今回もすっごくマズそうな反応だ。
「やだああああ! こいつもおいしくない!! またぼくにいじわるした!?」
「ピノッキモンは、あなたと同じLevel6。知らないあんたが悪いのよ、ヘンタイ野郎」
ピノッキモンは自由になった手を伸ばして、何本もの糸を発射する。
糸はしんもんざえモンの、毛皮の部分に巻き付いた。
「ボサッとしてないで、タナカくん」
「え?」
「もういい、仕事して、オメカモン」
「やれやれ、君、とことん新人教育には向いていないね」
オメカモンがまた《オメカキック》の構えを取って
合わせるみたいに、ピノッキモンが糸を出しているのとは反対の手で、十字のブーメランをしんもんざえモンに向けて投げつける。
2体とも、狙っているのはおんなじところだ。
胸の真ん中。デジモンの、心臓がある場所。
「《オメカキック》」
「《フライングクロスカッター》」
オメカモンとキョウヤマさんの声が重なる。
……でも、オメカモンとピノッキモンの攻撃が重なる事は、結局無かった。
「いやだ……いやだいやだいやだー! きらいだーっ!!」
ぐにぐには内側から針が生えたみたいにいろんな方向から飛び出して、オメカモンも、ブーメランも、はじき飛ばしてしまう。
「チッ……!」
キョウヤマさんはなんとかしようとスマホを操作するけれど、間に合わない。しんもんざえモンは自分の毛皮部分に絡まっていた糸をぐにぐにの一つでたぐり寄せて、ピノッキモンの体を宙に持ち上げたかと思うと、そのままばしん! と地面に叩き付けた。
ピノッキモンの腕が折れて、木の破片が、たくさん飛び散る。
「っ、ピノッキモンが!」
「あとで直せる。タナカくんはオメカモンの調律にいい加減集中して!」
そ、そうは言っても……
「やれやれ……少々不本意だが、さすがに――」
「しゃべるなしゃべるなぼくをいじめるなー!!」
「オメカモン!!」
しんもんざえモンは空っぽになった毛皮をずるずる引き寄せながら、また別のぐにぐにをオメカモンへと叩き付ける。
オメカモンはそのまま、立ち上がりかけていたピノッキモンにぶつけられて、またいっしょくたになって倒れてしまった。
こんなの、こんなのどうしたら――
「ひどい、ひどいよ。かわいいことともだちになりたいだけのぼくを、よってたかっていじめるなんて! くさいヤツなんて、きもちわるいヤツなんて、きたないヤツなんて――」
しんもんざえモンの右腕が、さっきよりもずっとずっと大きなハンマーを形作って、そのまま振りかぶられる。
「穢らわしいやつはみんなみんな、死んじゃえばいいんだ! 《ファンシーファンタジスタ》ッ!!」
「や――やめてよ! オレのトモダチに――」
オレの話なんてまるで聞かないまま、ハンマーは、2体へと振り下ろされて――
「……今の台詞は流石に聞き逃せんな」
ぐしゃり、と。
潰れたのは、オメカモンとピノッキモンじゃなくて、ハンマーの方だった。
「え……?」
ハンマーを受け止めて、その半分近くをぐちゃぐちゃにしてしまったのは、さっきオレがおしゃべりしていたおじさんだった。
見間違えるはずがない、こんなハデなおじさん、遊園地だからって、そうそういるわけが無いもん。
「な……なんだよおまえ。どうして、どうしてボクのからだが再生しないんだよぉ……!」
「『消滅』させたからな。……ふん、自我持ちのもんざえモン種が居ると聞いて、同胞やもしれんと足を運んではみたが、とんだ無駄骨であったな。……いいや、完全にそうとは言いきれんやもしれんが……」
「なにブツブツ言ってるんだ、きもちわるい!! おまえも死んじゃえ!! 《スイートラブリーアタック》!!」
ハンマーがダメならと、しんもんざえモンがビームを放つ。
一方でおじさんはハンマーを壊した拳を前に構えたまま、ビームに向かってとびだしたんだ。
「あ――危ない!!」
だけど、おじさんがビームに焼かれてしまうような事は無かった。
「《ダークスピリッツ・スーパーデラックス》!!」
おじさんが叫ぶなり、おじさんの拳に黒い雷がまとわりついて、その拳でビームを消し飛ばしながらおじさんはそのまま走って行く。
……あれって。
「デジモンの……必殺技?」
オレのギモンに答えるみたいに、にっと笑ったおじさんは、赤いジャケットを反対の手で脱ぎ捨てる――いや、脱ぎ捨ててない。ひるがえって、マントに変わっちゃったんだ。
赤いマント。
『大王』と書かれた金ぴかの鎧と、鎧にも負けないぐらいムキムキの体。
そして、でっかい王冠。
王様の、デジモン。
「《キングモンキック》!!」
黒い雷は王様のデジモンの足へと移動して、王様のデジモンの勢いをそのままに、しんもんざえモンへと叩き付けられる。
「がはぁっ!?」
オメカモンやピノッキモンの攻撃と違って、めちゃくちゃ痛そうな声を上げるしんもんざえモン。おなかまわりのぐにぐにが、塵になって、消し飛んだ。
「王の御前であるぞ。跪け、下郎」
「ひ、ひい……!」
地面に横たわったしんもんざえモンは、おびえたように体を震わせてから、毛皮を内側にしまい込むようにして全身をぐにぐにに変えて、すごい勢いで地面を這いながら、どこかへと逃げ去っていった。
「っ、待ち――」
ピノッキモンを操るためにスマホを構えたキョウヤマさんに向けて、王様のデジモンはすっと手を前に出した。
「やめておけ。追ったところで今の貴様らに彼奴を仕留める手段は無かろう。私とてこれ以上深追いするつもりは無い」
「……あのしんもんざえモンを庇う気? そのつもりなら、あなたも削除(デリート)対象に加えるけれど」
「結果的に庇い立てされたのは貴様の方だろうに、礼の一つも無いのかね? 全く、『親』の顔が見てみたいものだ」
「見たければ好きなだけ見せてあげるわよ。捕縛後、『D.M.T』の『ケージ』の中でね……!」
「お、おじさん!」
イッショクソクハツ、って感じの王様のデジモンとキョウヤマさんの間に割って入る。
「……何してるの、タナカくん」
「お、お礼。やっぱりお礼は、言わなきゃだよ。だって、おじさんが助けてくれなかったら、今頃……」
「デジモンにいちいちお礼なんて言う必要は無いの。それも、自分の役割から外れた自我持ちなんかにね」
「じゃあ、キョウヤマさんは、あの時ピノッキモンが潰されちゃっても良かったの!?」
「……」
「オレはヤだよ! オメカモンが壊されちゃったら」
キョウヤマさんは何か言い返そうとしたけれど、結局何も言ってこなかった。……あきれてものも言えないって、そんな顔にも見えるけど、ううん、それは後!
「おじさん、オメカモンを助けてくれて、ありがとう」
「……」
振り返って、王様のデジモンにぺこ、と頭を下げる。
ふっ、と、頭の上で、笑う声がした。
「無駄骨、と、言ったが」
下げた視界の中で、王様のデジモンがオレに背を向けたのが見えた。
「君との出会いは、なかなか良い収穫だったよ、坊や。……タナカクン、と呼ぶべきか?」
「え、えっと……タキ。オレは、調律者の、タキ!」
「タキ。その名前、覚えておこう。そして叶うなら――いいや、柄にも無い希望を口にするのは止めておこう。為政者たるもの、理想では無く現実と向き合うべきだ」
「待ちなさい」
しんもんざえモンが消えたのとは違う方向に歩いて行こうとする王様のデジモンの腕に、ピノッキモンの糸が絡みついた。
「こっちも自我持ちのLevel6個体をみすみす見逃すわけにはいかないの――キングエテモン!」
「勤勉な姿勢には敬意を払い、私の方こそ《さるしばい》で終わらせておこう。若き調律者よ。『ジャッジ』にはこう伝えると良い。このキングエテモンは「『糸切鋏』程野蛮な真似をするつもりは無い」……とな」
「! あなた、どこでその名前を――ッ!!」
王様のデジモン――キングエテモンは簡単にピノッキモンの糸を引きちぎって、そのまま悠々と――一度だけ、ちらっとオメカモンの方を見て――立ち去ってしまう。
糸が切れたショーゲキで尻もちをついたピノッキモンとキングエテモンの背中を、キョウヤマさんは悔しそうに交互に見つめていた。
「……って、そうだ、オメカモン!!」
忘れてたワケじゃないけれど、急いでオメカモンのところに駆け寄った。
あちこち凹んで、ぼろぼろだ。でも、動けなくなったりはしてないみたい。オメカモンは、なんてことなさそうにその場から立ち上がった。
「ふふ、今日はモテモテだったね、タキ。それに引き換え、今回のボクはいいところ無しだ」
「そ、そんな事……オレ、オレ、オメカモンが無事で、本当に……」
「何より、トモダチを心配させてしまった」
「それは……そうかもだけど……」
オレは、オメカモンにぎゅっと抱きついた。
「オメカモンが壊れちゃわなくて、本当に、良かった……! オレのほうこそ、ちゃんとサポートできなくて、ゴメン……!」
「タキ……」
オメカモンは、そんなオレの腕に、上下にしか動かない手を重ねた。
「タキがそんな反省を口にするだなんて、明日は大嵐にでもなりそうだ」
「すぐそんなジョーダン言う!! オレ、本当に心配――」
「本当に、冗談はほどほどにして欲しいわね」
すっっっごくでっかいため息と一緒に、そんなセリフを、キョウヤマさん。
おそるおそる振り返ったら、もう、オニみたいな顔! こわいのなんのって。
「あからさまに有害なデジモンが負傷したとはいえ市街地に逃亡。新たなLevel6の出現。本当に最悪。今すぐ帰って始末書よ」
「シマツショ」
「反省文のもっと長いヤツよ」
「ええー!?」
抗議の声を上げるオレを無視して、ピノッキモンをスマホに仕舞ったキョウヤマさんはどんどん出口のある方角に歩いていく。
こうなったらホントに遊園地だなんて言ってられない。それに、あのしんもんざえモンってヤツをそのままにしない方がいい、っていうのは多分本当だ。……思い出すだけで、こわくてぶるっと体がふるえちゃう。
あ、でも、お弁当だけ食べちゃわないと。食べてなかったら、またかあちゃん達に、心配かけちゃうかもしれないし。これからキョウヤマさんの家に行くなら、シマツショ? の前に食べてもいいのかなぁ。
とりあえずこのままだと置いていかれちゃうと、オレもオメカモンをスマホにしまってからキョウヤマさんを追いかける。
「キミといると退屈しないよ、タキ。さすがは、ボクのトモダチだね」
オメカモンが、そんなことを呟いたような気がした。
サヴァイブの遊園地ってバトル始まると無駄にフィールドだだっ広くて嫌だったんだよなー、あと何より究極体への初進化を果たした後確定で仲間の誰かが死ぬのが何も守れてねえじゃねえか感あって嫌だった夏P(ナッピー)です。
というわけで、相変わらずミス・メノウで噴きつつ、今回本人が言っていた通りオメカモンいいとこ無しで流石にLevel4としての戦闘力の限界が見えた(?)気がしますがホントか? ホントにここで限界か? どりヰむらんど(遊園地)でもんざえモンということでサヴァイブを彷彿とさせますが、そういえば幹部としてもんざえモン出てきた時は個人的に盛り上がったなサヴァイブ……そして前フリあったので今回のメイン敵かと思ったら単なる受付のお姉さんだったらしいシスタモンズ萌え。トイアグモンがサクッとやられてしまいましたが、どうもこのもんざえモン口に出してはいけない(禁則事項)の持ち主らしい……ぐにぐにと表現されるぐにぐにの勇姿。
キングエテモンって道化の王っぽいイメージだったのに、このおじ様なんかやたら威厳あってカッコいいぞ!? 手札1枚捨てて所属「ロイヤルナイツ」を得るでもしてるのか!? てっきりワルもんざえモンかと思いきやしんもんざえモンでしたね。むしろ3話にして既にLevel6のピノッキモンがビターンしてやられるような事態に!
ミス・メノウのデレなど一切無い感じ心地良いですが、何だかんだ始末書の書き方は教えてくれてそうな気がしないでもない。
それでは次回もお待ちしております。
あとがき
『エリクシル・レッド』は毎話1万字以内に収められる。
そう思っていた時期が私にもありました。
と、いうわけでご機嫌麗しゅう紳士淑女のオメカモンファンの皆様。超大作風一大スペクタクル風近未来風ダークファンタジー風与太話風人形劇『エリクシル・レッド』の3話をご覧いただき、ありがとうございます。『デジモンサヴァイブ』に登場した遊園地の名前に聞き覚えがあり過ぎて、プレイ当時お茶噴き出した快晴です。その昔、畿内にはででにーらんどを誘致しようとして失敗した夢の跡地みたいな遊園地があったのじゃよ。
遊園地でバトルといえば文字書きとしては一度はあこがれるシチュエーションだと思う(諸説あり)のですが、いかがでしたでしょうか。戦闘シーン自体に遊園地が関係ないのはご愛敬。だって園内でがっつりトラブル起きたら事後処理の話とか大変じゃないですか。いやまあ、どっちにしたってこの後処理は大変なんでしょうけれど、『エリクシル・レッド』は面倒な部分は書かない点を売りにしている娯楽風小説なので(曇りなき眼)。
今回はぽっと出のやばい奴と、なんかやばそうな奴が出てきましたね。ナゾのパペット型デジモンはどちらかといえば後者の奴です。前者のやばい奴は一般通過やばい奴です。ゴスゲのピータモンみたいなもんです。しんもんざえモンについては初登場時から「ゴスゲのピータモンとキャラ被っとるやないか」と思っていたので、同じ方向性でさらにきもちわるい奴を目指して書きました。きもちわるいやつだなぁと思ってもらえれば、きもちわるいやつだなぁと思いながら書いていた快晴も幸いです。
さて、次回予告です。
次回は三人称視点で、しんもんざえモンとの決着編になります。ピノッキモンのブリットハンマーがなかなかのバ火力なので、ミス・メノウは普段未装備で使用しているのですが、次のお話ではちゃんと装備して戦ってもらいます。これで不定形のしんもんざえモンもしばき倒せるぜ。
あと快晴が面倒くさがらなければヨシキパパも戦闘に参加してくれる筈なので、あんまり期待せずにお待ちください。
こんな感じでぐだぐだがんばっていきますので、次回もお付き合いいただければ幸いです。
以下、感想返信です。
夏P(ナッピー)様
この度も感想をありがとうございます!
ミス・メノウ、作者も響きで呼ばせているのですが、肝心の本人は多分そんなに気に入ってはいないでしょうね……何言ってるんだコイツとオメカモンには思っていると思います。
学校で絡むと絶対何かしらタキくんが口を滑らせると踏んで、ミス・メノウはお休みしたのでした。彼女はクレバーであり、作者は面倒くさがりだったのです。
暴走デジモンに関しては自分の脳内もまっことその通りなんですよね……超特急……。
やだな~、ちょっとペン持ってなくて塗装も違う感じだけれど、紛う事無きオメカモンですよ。タキ君自慢のトモダチです。
リーダーは……どうでしょう。案外このまま尻に敷かれ続けているかもしれませんよ? やっぱり子供だけに戦わせるのも何なので、次のお話くらいでは彼にもがんばってもらいたいところです。
それでは、改めて感想をありがとうございました!