悪は必ず根絶やしにせねばならない
『この世界を救って』
『悪を滅ぼしてくれ』
『あんな奴ぶったおせ』
『あいつを断罪しろ』
『あいツを粛清シろ』
『ぜつめつさセろ』
『ケせ』『ころせ』『八ツ裂キにシろ』
『みんなをタスケテ』
『オマえしかイないンだ』
『おネがイ、オメガモン!!!!』
「了ォ解シた」
ブツンッ
この日、巨大なデジタマから白い騎士が産み落とされた。頭を垂れ、這いつくばりながら殻を破り周りを見渡しながらか弱き者が触れれば忽ち消え失せてしまう強力な武器を構える
生みの親である人間たちの思いを背負い生まれた彼らの救世主
彼らの我欲から生まれた愛を知らぬデジモン
我が名はオメガモン
人々の善を望む強い意志によって生まれたデジモン
みんなの願いのために
そう、みんなのために
私にしかできないことをする
武器を振るい願われたことを求められた善を実行することしか知らない
今日も悪の根絶を目指し、数多の世界を救う日々を送っている
私に感謝は必要ない、次の敵を倒さねばならないから。お礼は不要だ、時間の無駄だ。いつ会えるかだと?何故そんなことを聴く?会えるのはお前たちの世界に危機が訪れた時だけだ。災害と人災は手の施しようがない。悪がいない、全員の責任放棄で招いた事件は自業自得の案件に私は介入できない。悪がいなければ話にならない。例え敵が一人ではなく一つの国である場合は別だが
打ち倒す相手がいなければオメガモンの、私の存在価値はないのだから
ブチッ
「!」
初めの死はアーマゲモンに捕食された時だった
トドメを刺したと思いきや不意を突かれて奴の餌食となってしまった。初めての敗北だ
自らの体がデータとなって霧散していくのを目の当たりしても恐怖がない。不思議と安堵する自分がいる。ああ…これで役目が終わったのだと
私(オメガモン)の代わりはいくらでもいる
そう思っていた
『タスケテ』
誰かが助けを求める声がする
パキパキパキッ
『ダレかタスケテ!!!』
その声に応えなければ!
パキンッ
「!」
目覚めると私はデジタマから孵っていた
転生して再びオメガモンとして生まれ落ちたのだ。いや、もしくはそう願われたからだろう。この世界に必要とされる、ならばまた殺し続けなければ、他でもない私にしか出来ない任務だ
善意の想いがある限りオメガモンは不滅
死しても希望がある限り何度でも私は実行する
「…了解した」
我が身はみんなの為に捧げるのみ
それから何度も何度も殺され、溶かされ、犯され、焼かれ、憑かれ、洗脳され、撃たれ生まれ変わってもオメガモンに転生し続けた。悪は必ずどの時代、どの世界にも存在する
悪は絶対に許さない
必ず滅ぼさねばならない
討ち果たさねばならない
ならば公開処刑しよう。見せしめで悪の因子全てを黙らせよう。敵の要求を呑むフリをして撃とう。人質? はて?敵に捕まれば死んだも当然だろう?爆弾テロ?何故平和を唱えながら自殺をする?愚かだ。敵は全員愚か者ばかり。何故私はソイツらを処さねばならぬのだ。私しか倒せるデジモンはいないのか?
ああ…疲れた
いい加減殺し飽きた
何度転生した?
105回目だ
私はこの世界を何度救った?/救ってもその後すぐに滅ぶのに
何故全員救えない?/犠牲のない勝利などないのに
倒しても倒してもどの時代、世界に悪は湧く
そして私(オメガモン)は必要とされる
繰り返し世界を救い、死に、また転生して世界を救わなければならない
…いい加減休みたい
この戦いが終われば今度こそ…
ボロボロとなった重たいグレイソードとガルキャノン。ガリガリと地面を引き摺り先端が欠けて削れて錆び付きながらも次の悪を倒しに死んだ瞳で別世界へ繋がるゲートを開き、フラつきながら歩みを進める
ゲートを潜り抜け、そこで目にしたのは暴走し世界を破滅させんとするオグドモンを抑えようとする終焉のデジモン、アポカリモンの姿があった
「コロス!コロス!コロス!ミンナしンじゃヱ!!!」
「落ち着け!世界はお前を拒んではいない!お前は全ての罪を贖罪する力がある!その力を使えば誰かの役に…」
「ウルサイ!!ダマレ!!!」
オグドモンは怒りのまま暴れ回っている
オメガモンの他にも派遣されたロイヤルナイツが他にも居たようだ
オグドモン周辺に漂うデータの残痕。オメガモン以外のロイヤルナイツは全員デジタマに孵ったようだ
オグドモンに近づくと少しでも悪意を持つデジモンは即消滅してしまう
だから奴に殺意を出してはならない
オメガモンの様な善意から生まれたデジモンであろうと数十秒足りとも身が持たないだろい。
ロイヤルナイツが束にかかっても敵わない。それをアポカリモン一匹で抑え込んでいるようだ。だがそれも時間の問題であった
Xプログラム
オグドモンの足元に転がっている奴の切り札
奴がX抗体になってしまえば存在するだけでデジタルワールドが崩壊しかねないパワーを持ってしまう
「ニクイ!ツライ!カナシイ!こんナ、こんな、セ界イラナイ!!イキタクナイ!!!」
「仕方がない、そこにいるオメガモン!頼む手を貸してくれ」
「!?」
「オグドモンを救いたい。ヤツはただの殺戮マシーンに変えられ暴走しているだけだ!」
確かにオメガモンの力があれば、オグドモンを抑え、アポカリモンの言う通りに従えば救えるだろう
だが何故?
「敵を、そいつを救うだと?」
有り得ない
敵は敵、悪は悪
おかしい。明らかにこのアポカリモンはおかしすぎる。何故そんなことをする?お前も私と同じ定められたデジモンではないのか?
「オマえ、ナゼ消えナイ!?シネ!!ハヤク死ネよ!!!!」
「我は不死身だ。世界に負の感情がある限り我々は消えん!」
「チクショウ!!チクショウ!!!!!」
「オメガモン!!お前は救世主なんだろ?早くコイツを抑えろ!!」
「私は力の加減ができない、半殺しにしてしまっても?」
「それくらいの力でなきゃヤツを抑えるのは困難だろう」
「ならば」
ドシュッ
「ギャァアアアアアア!!!!????」
グレイソードでオグドモンを地面にはっ倒し、動かぬよう体をガルルキャノンで押さえつける
「私も長くは持たんぞ」
「感謝する!」
杜子春経(とししゅんきょう)
アポカリモンがお経を唱え始める
するとお経を聴いたオグドモンは次第に抵抗をやめて大人しくなった
「アレ…ココは?」
「お前に僅かに残っていた良心のお陰で正気に戻ったようだな、これで安心だ」
「だがオグドモン、お前が再び暴れれば世界は瞬く間に火の海になるだろう、そうなる前に!」
ここで消そう
オメガモンは正気に戻ったオグドモンにグレイソードを向ける
「やめろ!生まれたてでこの世の理(システム)を理解してなかったオグドモンに何者かが接触し洗脳していたんだ!」
「アポカリモンよ、お前は何故そこまで善人ぶる?何か裏があるのではないか?」
オメガモンはもう片方のガルルキャノンをアポカリモンへ向ける
銃口の奥から熱が発するのが分かる
「オメガモン!やめろ!話せば分かり合えるはずだ!」
「悪に対話など不要!」
オグドモンをアポカリモンの方へ投げ飛ばし二匹まとめてグレイソードで串刺しにする
「ギャァアア!!!」
「ぐふっ…!!!」
しかしオグドモンもアポカリモンどちらも消滅はできない
「消滅するまで切り刻むか」
「そうは、させるか!!!」
アポカリモンの触手がオメガモンの体を掴む
「強制退化させてやる」
「残念だったな」
「なっ!?」
アポカリモンの触手が無惨に弾け飛ぶ
「私は生まれてこのかた一生涯究極体オメガモンでね、退化などしないのだよ」
「くっ」
オメガモンはアポカリモンの触手を全て切り裂き、本体にグレイソードを突き立てトドメを刺そうと身構える
「何を企んでるか知らんがここでお前を消せば世界は平和になる」
その言葉がアポカリモンの逆鱗に触れたのか余裕のなかった彼が涼し気な顔で睨みつけてくる
「平和のため?ふふ、…我々を消せば解決すると?それで平和が訪れるとでも思っているのか?笑わせる!」
突然アポカリモンから発するオーラが変わり思わずオメガモンはたじろぐ
「何がおかしい」
「お前は考えた事があるか、デジモンは誰しも生を全うすればデジタマに還る、ならば還れなかった命はデータは何処にいくというのだ?」
アポカリモンは肩に突き刺さったグレイソードを握り、自らの肉体へ深々と押し刺していく
引き抜こうにもアポカリモンは頑としてグレイソードを離そうとはしない。何故?そこまでして何故私と対話しようというのか?その目で見るな。悪として生まれたお前が私を生み出した希望を求める人々と同じ顔をするな!!!
それではまるで、私は、私が
悪ではないか
死を恐怖しないオメガモンは生まれて初めて恐怖というものをこの瞬間知る
愕然と立ち尽くすオメガモンにアポカリモンは問う
「我々を消せば全てが丸く収まると思っているのか?怨念は、恨みは許してもらえるまで漂い続けるぞ。今ここで我々を亡き者にした後もいずれ新たなアポカリモンが誕生して繰り返すだけだと知っていても構わないというのか?」
「だからなんなのだ?第2第3のアポカリモンが誕生しようと私たちは何度もお前を倒してやるだけだ。」
そうだ、私は今までそうやってきた
それが間違いだと言うのか?
「その通りだ」
「!?」
「だが我々はまだ消えたくない、生きて、この世全ての怨念を何とかしてから逝かねばならない」
コイツ、この世界の為なら自殺も厭わないというのか!?
「…本気で言っているのか!?」
「105代目オメガモンよ、お前もそう思わないか?お前だって今のデジタルワールドの在り方に疑問を抱いたことは無いのか?」
アポカリモンの言う通り
過去何度も抱いたことは…ある
これはきっと余計な感情とだとずっと蓋をしていた
私が、オメガモンがこんなに頑張っているのに何故誰も同じ過ちを繰り返す?何故学ぼうとしない?誰も私に頼ればそれで解決するとでも思っているのか?
年々デジモンたちは進化し、データも容量も拡張していくこのデジタルワールドに争いはますます絶えることはない、今後も、これから先ずっと
私はこのまま戦い疲労し続ける道しかないのだろうか
「…」
「この怨念が世界の染みならば我々の手でこの流れを終わらせるのだ、オメガモン、お前も手を貸してくれ」
アポカリモンの手の平がオメガモンの目の前に差し出される
これは握手?というものか?
「何故暗黒デジモンである、お前がそこまでする?」
何か企んでるのではないか?
どの時代、世界の奴らはそうやって人々を私を騙してきた。だが何故だろう、お前からは嘘の香りもオーラも感じない。寧ろこの私でさえアポカリモンから善意を感じ取れる
「お前は、生まれ変わって最初に言われたい言葉はあるか」
「なんの話だ?」
「我々、いや、"私"にはある、『生まれてきてくれてありがとう』という恵、祝福の言葉だ。だがそれを言ってもらうにはもっと善行を積まねばならぬ」
「!?」
その言葉にオメガモンはハッと我に返った
私はこの世界のために今まで何をしてきた?
悪を滅する
ただそれしか行動理由がない感情のない機械(プログラム)そのものだ
アポカリモンは暗黒デジモンとして生を受けたにも関わらず自己犠牲で世界を救おうとしている。全ては感謝の言葉を貰うため、その為なら自死も怖くないのだと
私はどうだ
オメガモンであること、皆に要求されてばかりで嫌気がさして、終いには疲れたと自分自身を蔑ろにしている。我知らず善意を貫き通すあまり身も心も悪人と同等。見方を変えれば私の行動は悪人よりよっぽど腐っているではないか
「アポカリモン…」
同じ身も心も役割を与えられた不死同士
どうして我々はこんなに違うんだ
私はお前が羨ましいよ
「もしも最終的に我々が消えることが答えとするならばその時、お前がトドメを刺せ」
死ぬことは恐ろしいことだ
105回も死んだ私だから言える
楽な死に方なんて我々にはない
死ねないお前だって分かるだろう
体の痛みを、心の苦痛を
それでも
「いいのか?」
「その時のことは…なるべく考えないようにしている、ただ我々は…」
最後まで私はこの世界を愛してみせよう
「そこまで言うのなら私も約束しよう」
お前がその道を踏み外した時
私がお前を屠ろう
ロイヤルナイツ、オメガモンと交わされた契約
来るべき時、終焉の王を処刑すること
あれから何万年もの時が経った
あの日以来彼の処刑は実行されていない
何代もロイヤルナイツが交代しようとオメガモンだけはその椅子に座り続け約束を守った
アポカリモンは今も救済を模索しながら日々耐え続けている
私も彼を見習わなければ
彼の善意に答える為に
この武器が彼を救う一つの武器としてあり続ける為、Ω(オメガ)として
私がお前の救世主となろう
感想ありがとうございます!!
前回【世界を愛した王様】はアポカリモン視点、今回はオメガモン視点で話は始まりました
生まれながら強者であれと願われ誕生したデジモンたちの短い(?)お話
世界を支える側、壊す側の代表としてオメガモンとアポカリモン&オグドモンの和解END
生き物全て欲を持って生まれますが、オメガモンの場合無欲過ぎたのですね。使命、役割、仕事として本人の有無関係無しにただこなすだけの毎日。これを社畜といいますが、やり甲斐が無いことにすら気づいていなかった。
その点、我が家のアポカリモンは欲を持って行動し、目的の為なら自己犠牲を厭わない精神
全くもって2人は正反対でありますが、後日お互いを認め、お互いを尊敬し合う仲になります
ヒーローとして描かれるオメガモン
ヴィランとして描かれるアポカリモン
今後も2人の活躍を是非とも見ていただきたい!
ありがとうございました
ワシの転生も108式まであるぞ。夏P(ナッピー)です。
まるでTYPE-MOONの守護者の如き自由意志など無いまま世界の安寧を守る為のシステムとして働かされ続けるオメガモン。でも彼が最終的にああなったのは転生や激務の中で摩耗したが故というよりは、彼は最初からそう在ったのでしょう。アグモンやガブモン、それどころかウォーグレイモンやメタルガルルモンであったことさえ無い彼にとって、ロイヤルナイツである自らに与えられた使命こそが絶対唯一のものであったでしょうから。それはそうと矢尽き刀折れの状況からして、てっきり執行者とかAlter-Bとかになるものと思っていたのは内緒です。
オグドモンとアポカリモン、アポカリモンの存在意義は思えばオメガモンと真逆、というか最初のデジモンカードではダークマスターズ同士のジョグレスで生まれるデジモンだったことを思えば、まさしくオメガモンと対となる存在。転生した際に祝福の言葉を受けたいという叫びは、そもそも人々の願いに応える形で生まれるのが道理であったオメガモンとは正反対。
でも最後、悪を悪とただ断じるのではなく、悪として生まれ落ちた彼もしくは彼らの善意を信じられるようになったと思えば、オメガモンも変わっていくのでしょう。その先にどんな結末が待っていたとしても──
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。