支部の加筆修正・書下ろしです
1.
「蝙蝠太夫」
とある遊郭に「織簾(おりす)」という大変美しい花魁がいた。
玉のように白く柔い肌。
夜の闇に蕩ける黒髪。
艶めかしく色を帯びた深い青い瞳。
緩く弧を描くつややかな唇。
薄幸な雰囲気を醸し出す泣きぼくろ。
群を抜いた美貌に、いつも蝙蝠柄の着物を着ている為、「蝙蝠太夫」とも呼ばれていた。
その美貌のおかげで遊郭は大変繁盛していたが、ある日凄惨な事件が起きた。
店の関係者・遊女・来客していた男達。
押入の中に隠れていた小さな女児1人を覗いて皆殺しにされたのだ。
特に遊女達は顔を中心に悉く、腐敗した顔を掻き乱され見る影も無く凄惨な死に方であった。
客も、主人も、身体が腐敗し凄まじい形相で息絶えていたという。
残された女児に話を聞くが、こういうばかり。
「美しい蝙蝠太夫に、小じわがあると姉様が言ったから。
それを聞いた蝙蝠太夫が鬼になって、みんなを……」
蝙蝠太夫の部屋には、蝙蝠太夫の悪口を言っただろう遊女の腐り果てた骸に、この時期見つかるはずもないカラスアゲハが群がっていた。
蝙蝠太夫の行方は、誰も知らない。
「獣神信仰怪異録」より
2.
「紅白武者と烏の大魔縁」
昔、某村に烏の大魔縁がいた。
部下を引き連れぬ大魔縁は大変横暴で、特に家畜、作物、人間、全て喰らい尽くすその暴食に村は怯えていた。
ある日、村にやってきた旅人がこれを退治すると言った。
半信半疑であったが、その夜、旅人は白銀の甲冑と深紅の外套を纏った武者に姿を変え、烏の大魔縁と死闘を繰り広げた。
互いに一進一退、引けを取らずに戦い、結局大魔縁も紅白武者は全ての力を使い果たして相討ちとなった。
相討ちとなった烏の大魔縁と紅白武者は村人から篤く弔われ、その後社も建てられ永い時間村人達を見守る明神社となった。
烏の大魔縁も紅白武者も、獣神信仰と深い関係があると考察されるが、村ごとダムの底に沈んでしまった今では確認することも儘ならない。
「獣神信仰口伝記録」より
3.
「双子の獣神」
とある村の男が畑仕事からの帰り道に、双子の獣神に遭ったという。白と茶色の毛並みの獣神2匹は手を繋いで畦道を歩いていくところであった。
双子の獣神は何かを喋っていたので、男は声を殺して耳をすませた。
「怖かったね」
「怖かったね」
「早くあっちの山に行こう」
「行こう」
「あの家はもうダメだね」
「やってきたお嫁さん怖いもんね」
「女郎蜘蛛には太刀打ちできないよ」
「かわいそうだけどしかたないね」
そう言って畦道を歩いていった。
後日、男が住んでいる村の庄屋で一族が皆殺しにされる事件が起こった。
先日嫁いできた女は行方不明。
双子の獣神の言葉のとおりになったのだ。
「遠野・獣神伝承集」より
4.
「風の魔」
とあるマタギが山に入った時のことである。
酷く風が強い日であったが、山鳥を探して深く入っていくうちに、山の木々が騒ぐように風に煽られていた。
山鳥も、それ以外の獣も見つからない。
その時、びょう、と殊更強い風が木々の間を吹き抜けた。
くすくすくす
ふふふ
強い風の音に混じり、女の笑い声が響く。
マタギが気配を感じて後ろを振り向くと、高い木の枝に、女が2人。
1人は蝶の羽をもち、目元を隠している。
もう1人は頭と背中から鳥の翼が生えて、口元を隠している。
2人とも裸のように見えたが、美しい恵体に見たことないような薄桃の服を身にまとっていた。
「山に深入りするな!凶兆だ!」
「怪我しちゃうわよー!はやくはやくー」
「風が貴様の首を切り離すぞ!」
「きゃきゃきゃ!全身切り刻んでやるわよー!」
かしましく脅しかける女2人。
怯えたマタギは大切な銃を投げ出して急いで山を下った。
2人の周りの木々に鋭い裂傷を見たからだ。
数日後、マタギの家の前にズタズタに切り刻まれた銃が突き刺さっていた。
それを見つけた時、屋根の方からくすくすと女が笑う声が風に混じり聞こえた。
それを理由に、マタギは山に入ることをすっかりやめてしまった。
「次に山に入ったら、木霊と女天狗に玩具にされてしまいそうで恐ろしくなった」
と。
「遠野・獣神伝承集」より
風土記というか洒落怖風味だ! 夏P(ナッピー)です。
こーいうデジモン名を明記しない作品、コイツは何モンだ……と考えるのが楽しくて好きです。3・4のテリアモンロップモン(+アルケニモン?)とフェアリモンシューツモンはわかりましたが、1・2は誰だ……!? 烏の大魔縁はカラテンモンだと思いますが紅白武者とは。1はリリスモンかと思ってましたが蝙蝠柄の着物じゃないしな……。
デジモンサヴァイブやゴーストゲームもそうですが、デジモンをデジモンとして扱わず未知の存在・怪異・妖として扱うのって非常に大好物なので是非他作品もお読みしたいです。
短めで申し訳ございませんが、今回はこの辺で感想とさせて頂きます。