「柳さんッ!」
雑木林の奥から溢れてくる硫黄臭、何かあったと察するには十分なそれにバイクのアクセルを一段深く入れる。
しかし、それは突然目の前に現れた夏音がバイクを手で抑えられたことで止められ、猗鈴は地面に投げ出された
「ごめんね、猗鈴。でも、これ以上近づいたらガスで死んじゃうから」
その声に、猗鈴は少なからず動揺した。
青みがかった骨の意匠、自分達のベルトに似たベルト、骨の兜から流れる髪の色、そしてヒールでいると自分よりほんの少し高い背丈。
姉だ。姫芝の言っていた組織の幹部として活動している美園夏音。
一瞬だけ、猗鈴は真珠のことを忘れた。
何を口に出せばいいか、どうすればいいのかも忘れて固まって、立ち上がることはおろか呼吸さえもできなかった。
しかしそれも一瞬。
猗鈴と夏音の間にセイバーハックモンメモリが割り込んできたことで猗鈴の呼吸は再開し、真珠のことを思い出して足にも力が入る。
「柳さんに……何をした?」
胸元からベルトのバックルを取り出し、猗鈴はそう聞いた。
「久しぶりの再会の、第一声がそれ?」
夏音はそうため息を吐いた。
「……再会じゃないし、話す気がないなら構ってる暇もない」
『サンフラウモン』
「させない」
猗鈴が左手にメモリを取ると、夏音は一息に距離を詰めてその手を取った。
「この姿じゃお姉ちゃんだってわからなかった?」それって結構ショックよ?」
夏音は逆の手を自分の顔を覆う仮面に手をかけると、眼の部分に開いた穴に手をかけてそれを割って顔を見せた。
「もう顔も忘れちゃった?」
その微笑み方は、猗鈴の記憶にある夏音そのもので、それに一瞬、揺らぎそうになった。
だけどこの硫黄臭の先にいる筈の真珠とその子供の事を思うと、目の前の甘い現実に呑まれずに済んだ。
「……顔は、覚えている。でも、私には姉さんに見えない」
メモリを持つのと逆の手をポケットに入れ、筒状のアイテムを取り出すと、抑えられた手に持ったメモリを迎えに行った。
『サンフラウモン』
筒ががちゃんと変形し、辺りに光が溢れる。
それに思わず夏音が手を離す。
猗鈴は目を瞑ったままその手からサンフラウモンメモリと筒を手放し、セイバーハックモンメモリがいるだろう方に手を伸ばす。
「姉さん、力を貸してッ!」
セイバーハックモンメモリは、その言葉に、夏音に飛びかかろうとしていた足を止める。
「ただ守ろうとしないで! 一緒に戦って、姉さん!」
そして、さらにかけられた言葉に向けて跳んだ。
『トロピアモン』
セイバーハックモンメモリが猗鈴の手の中に変形しておさまる。
逆の手でバックルを腰に回して穴に挿そうと構える。
「姫芝、いくよ」
『暴走しないでしょうね?』
繋がった心から、杉菜の疑心が伝わってくる。
「そうなったら、姫芝がまた止めてくれるでしょ?」
『……しょうがないですが、相棒の頼みですからね!』
杉菜の言葉に、少し猗鈴は口角が上がる。
『ザッソーモン』
両のスロットにメモリが入ったのを確認し、猗鈴はそれを押し込んだ。
『トロピアモン』『ザッソーモン』
猗鈴の姿が変わっていく。
「……まぁ、まだ私は相棒だと思ってないけど」
「余裕ッ、ですね」
そう口にはしたものの、杉菜も猗鈴が気を張っているのは伝わっていた。心がベルトで繋がっている。
猗鈴が内心で動揺し、同時に何かを確信して、悲しみと怒りに胸が張り裂けそうなのも、それを無理やり押さえ込むほどに真珠とその子供を助けたいことも、伝わっていた。
「私は、強いから」
その言葉に、トロピアモンメモリの力が肉体を満たし全身のエネルギーが溢れんばかりに膨らんで暴走しようとするのを感じていた。
改めて繋がったことで猗鈴と杉菜は何故このメモリが暴走するのか理解した。
このメモリは、あの日、セイバーハックモンの力のみならず、盛実が細工をする前に戦ったスカルバルキモンメモリの力も入っている。複数のメモリを同時に一つのスロットに差し込んでいる様なもので、中でウッドモンが制御してるから問題なく見えたメモリだったのだ。
あの時は、吸血鬼王の洗脳から猗鈴を守る事に力を向けすぎて、今はさらに増した力をウッドモンが制御し切れてなくて、暴走した。
猗鈴は、一線を引いて自分を守ってきた。悲しい時、辛い時、苦しい時、強い自分でいようとして。
でも、激情もトロピアモンの力も、抑えようと猗鈴が思えば思うほど、猗鈴の中で高まり溢れ出しそうになる。
「私達は、でしょう。この姿の時は、その気持ちも何もかも、二人で一人」
杉菜の言葉に、猗鈴の気持ちが落ち着いていく。
今にも溢れんばかりだったエネルギーが落ち着いて、しかしそれは無くなった訳ではなく、体を心地よく満たす。
「……ねぇ猗鈴、あなたには何が見えてるの?」
夏音はそう質問すると、ゆっくりと近づいてくる。
「私が見えているの? 答えて」
夏音はそう言いながら手を前に伸ばす。ただそれだけで、肌に焼け付く様な重圧を感じる。巨大な肉食獣に睨まれている様なそんな重さ。
「……柳さんを助けることを邪魔しないなら、私達はあなたに用はない」
それに対してディコットは構える。すると、不意に硫黄臭が強くなった。
ふと足元を見れば黒い雲が地を這い、草木をどろりと溶かして足を絡め取ろうとする。
「これは……メフィスモンのデスクラウド」
よく見る間もなく、ひゅるるという音と共に赤熱した拳大の石が降り注ぐ。
夏音はそれに大して反応をせず、ディコットに向けて歩を進める。体から発する冷気の壁が雲を押し留め、岩は翼や尾で片手間に弾く。
真っ赤な目はただディコットだけを見つめていた。
対するディコットは、最初に飛んできたいくつかを避けると、自分の周りに向けて手から花粉を吹く。
岩が花粉に差し掛かると、連鎖的に爆発して岩も雲も弾き飛ばした。
「……ウッドモン。あなたそこにいるのね? 猗鈴に全部話したの?」
今にも額同士がぶつかりそうな距離で、夏音はそう口にした。
トロピアモンメモリは答えない。猗鈴や杉菜もその答えを少し待ったが、答えないとわかって拳を握る。
「……私は何も聞いてない。でも、今やるべきことはわかってる」
「いいえ、猗鈴は何もわかってない。ちゃんと見て、私は夏音よ。戦う理由もない、そうでしょう? ウッドモンを渡して」
「渡さないし、今やるべきことは柳さん達を助けること」
猗鈴の言葉に、夏音は口角をあげ、やっぱりわかってないと首を横に振った。
「真珠の妊娠してるを間に受けたの? 全ての命を否定するデジモンに、メフィスモンに適合する女よ? 利己的で排他的で命を憎む、そういう女よ?」
夏音はそう言って、真顔に戻る。
「あの女は妊娠してない。想像妊娠させられてたからって被害者ぶるには加害が過ぎる、依然変わらず最低の女よ。そんな女がお姉ちゃんより大事なの?」
猗鈴は一瞬言葉に詰まった。真珠を助けなきゃと強く思った理由は妊婦だからだ。母親になる人だから、子供には罪がなく、子供には母親が必要だから。
そう思っていたのは確かで、その瞬間猗鈴の中の優先順位は揺らいだ。
「妊娠してようがなかろうが、助けられるなら助けるでいいんですよ」
だからこそ、代わりに答えたのは杉菜だった。そう答えて、右の拳を顔に向ける。
それを夏音はあっさり手で止め、邪魔と呟いた。
「……姉妹の会話をしているの。入ってこないで」
「いや、邪魔してるのは姫芝じゃない」
猗鈴がディコットの左拳を振り上げ。そして振り下ろす。
止めに入った手ごと胸に突き刺さり、夏音は骨が折れて胸がひしゃげて陥没させながら、後ろに数歩のけぞった。
「姫芝の言う通り。それに、妊娠したと思っている時の柳さんは、私には変わろうとしている風に見えた。最低だとしても、まだやり直せる」
そう猗鈴は口にして、黒い雲と強い硫黄臭の奥を見た。
「柳さん! もう大丈夫です! メモリを使うのをやめてください!!」
ぼこっと夏音のひしゃげた胸がありえない方向に曲がって見えた手首が一息に元に戻り、口から黒い血をぼたぼた垂らしながら顔を上げ、ぐりと目を剥いた。
「……殴れちゃうんだ。猗鈴ちゃんはお姉ちゃんのこと、肋骨が陥没して肺がズタボロになる勢いで流れちゃうんだ」
悲しいわぁと言いながら、夏音はふらりと立ち上がりがふっと口から血を噴いた。
「帰る。帰るわ、猗鈴ちゃん。お姉ちゃんは、私は帰る。猗鈴が悪い、私はお姉ちゃんでいようとしてるのに、それを否定するんだもの……後悔してね。深く、深く」
そう言うと、夏音は黒い雲の中に飛び込んだ。
外装が溶け、雲に触れた肉も溶ける。でもそれが骨も見せない勢いですぐに塞がっていく。そうして、あっという間にディコットから見えなくなったかと思うと、雲の中から真珠の悲鳴がこだました。
「猗鈴、ローダーレオモンメモリを使って風を……!」
「いや、まだトロピアメモリの力に慣れきってない……もしさらにメモリを足して変身自体が解除されたら……毒で昏倒する」
「……なら、アレしかないですね」
「無理やり行こう」
ディコットの左手から進行方向に向けて花粉が飛び、爆発する。爆発によって雲は一瞬弾け、その後生じた真空に雲が吸い込まれていく。
猗鈴はディコットの左右前方で花粉を爆発させ、少しでも正面の雲を左右に分けながらディコットは悲鳴の聞こえた方向に、雲の濃い方へと走っていく。
散らしきれない雲に多少なり装甲はとけるがかまってはいられない。
そうして来た雲の中心には、空を見上げる真珠がいた。メフィスモンでありながら、その肉体は瘡蓋の様に岩石に覆われ、血が滲む代わりに溶岩がだらだらと流れて地面を焼く。
あらゆるものを溶かす黒雲と、数多の生物を殺傷する火山ガスをただ立っているだけで撒き散らすその姿は、ある種の災厄だった。
「柳さん」
猗鈴の声に真珠は振り向く。そこでやっと猗鈴と杉菜は真珠の脇腹がひどく抉られていることに気がついた。
「……夏音がね、ひどいの。お腹を抉ってってたの。ほら、子供なんていないって、改めて突きつけながらお腹に穴あけてった」
真珠は目と口から血を流しながら、ディコットを、その中にいるだろう猗鈴を見た。
「ねぇ猗鈴、私の子供になって」
そう言いながら真珠は赤熱する腕を差し出す。
「……私は、柳さんの子供にはなれない」
「なれるよ、なれる。自分を信じて? 私あの日感じたもの、あなたが三歳とか五歳とかの子供に見えた。だからなれるはず」
口の端に血の泡をつけながら、彼女は笑う。
しかし、猗鈴はその手を取れなかった。理屈も何もないその言葉にどうすればいいのかわからなかった。
「独りで生きろって言うんだ? なんで夏音もメフィスモンもあなたも裏切るの? 私、あなた達に……何か悪いことした?」
顔も胸も、ディコットが辿り着くまでのほんの少しの間にぼろぼろになったその姿はあまりにも痛々しい。
それでいて、その動きも声も、まるで壊れた人形の様で、眼だけが狂気に輝いていた。
「なん、で、裏切るの? なんで? ねぇ、知らないと思うけど、私ね、夏音のこと友達と思ってたの。本当にね?」
ぼとり、ぼとりと、溶岩が地面に垂れ血は煙を上げて蒸発する。
「付き合いだと、周りを騙す為だって言いながら毎年交換してたプレゼント、アレもちゃんと選んでた。なのになんで私に猗鈴を差し向けたの夏音。夏音ェッ!」
火山弾が噴き出し、口から血と共に黒い雲が漏れる。
「柳さん、あの姉さんは……」
猗鈴が近づこうとするも、濃い黒雲が歩み寄りを拒絶する。
「死ね」
一言、低く重い呟きがあった。
そして、真珠の口から呪詛が溢れる。メフィスモンの技、生き物を殺す呪文。
ぷつぷつとディコットの右半身のスーツの表面が裂けていく。
「……姫芝は私と違ってワクチンを使ってないから」
「本当に危ないのはそこじゃないでしょう、猗鈴。聞いただけで死ぬ様な呪い……負担がある筈」
そんなことは言われなくても猗鈴にもわかっていた。今のディコットは強い。半減した死の呪いならば耐えることはできる。
けれど、真珠の身が持たない。デジモンになってなければ死んでる様な傷で、二つのメモリを同時使用、放っておけばいずれ衰弱死。それに加えてもう一つ、噴出し続けているガスが危ない。
「無理やり倒して変身解除させても、この場に残ったガスが……」
せめて体力があったなら、ガスで死ぬ前にディコットの運動能力で無理やり運び出すという手もあっただろう。しかし、極度に衰弱して仕舞えば移動にさえ耐えられないかもしれない。
「ローダーレオモンメモリの竜巻でガスを巻き上げ、ガスがまた満ちる前に倒す。それしかない」
「……それしかないなら、やるしかないですね」
猗鈴と杉菜がそう喋っていると、ディコットに取り付けられた通信機がピリリと電子音を鳴らした。
『公竜さんに連絡ついたからちょっと耐えて! エレファモンメモリの風で吹き飛ばせる!!』
盛実からの連絡に応えようとしたディコットに向けて雲の裏から火山弾が飛んでくる。
ディコットが避けると、それは数本の木を勢いよく貫通して地面に突き刺さる。
「雲を通る際に表面が溶かされ、鏃みたいな形になって飛んできている……まともに当たるとこの姿でも危ないかも」
猗鈴はそう口にし、飛ばされてきた散弾の様な火山弾を避ける。避けた先にも当然デスクラウドは満ちている。避ける先を誤ればそれも致命傷になりかねない。
「斎藤博士! ちょっとってどれくらいですか!!」
杉菜は呪いの苦痛に耐えながらそう聞く。
『十分いくかいかないかって感じ……私も現場に向かっている!!』
「それじゃあおそらく間に合わない……」
『ローダーレオモン』
メモリを取り出しボタンを押す。
そして、それを挿そうとする手を後ろから伸びてきた冷たい手が止めた。
「えっ?」
青い骨の指がメモリを掴んでおり、ディコットがそれに気づいて振り向くと、ローダーレオモンメモリは既に指の間で押し砕かれていた。
「これで、助ける手段はないわね」
ディコットは反撃にすぐうつれなかった。夏音の身体は黒雲に溶かされて、それこそ真珠に負けず劣らずの重体、でも、その身体には力が満ちていたし、先程のパンチへの反応も頭をよぎった。
あの時、ディコット確実に不意をついた。それに対して夏音の手は受け止められなかったものの間に合っていた。
今度は避けるか反撃に動き、おそらくまともにダメージを負うのはディコットのみ。
真珠もそうだったな違いない。スカルバルキモンの不死性はダメージの交換を相手のみのデメリットに変える。
「……私が死なずにここにいるのが固まるほどおかしい? スカルバルキモンも呪いにまつわるデジモン、骨だけで動き回るアンデッド。死の呪いもちょっと痛いけれど、死ねるほどじゃないわね」
じゃあまたねと夏音はあえて霧の濃い方へと消えていく。
『落ち着いて二人とも、万が一にも助けられない様にさらに煽って挑発してる』
「大丈夫、わかってます。小林さんが来た時にここにいないと彼女は救えない」
杉菜は呼吸を整えながらそう言った。
猗鈴が使う左半身は満足に動くが、杉菜の右半身はひどい風邪を引いた時の様な鈍い痛みと全身の皮がむけて肉に小石が刺さった様な痛みがあり、それは時間が経つ程強くなっていた。
呪いの性質をディコット達は見誤っていた。常に一定の効果をもたらすものと考えていたが、聞き続ければ蓄積し、いつかは必ず命を奪う。あらゆる命を否定するデジモンに相応しい、死の呪い。
公竜が来るまで耐えられるのか、耐えられたとして真珠を倒せるのか。どうしてもそんな考えが頭に過ぎる。
ディコットは大きく避けるのをやめ、半身になって当たる範囲を狭くして火山弾を待ち受ける。
自分に当たる軌道のものだけを手や足の甲で逸らす。
弱ってもなお、今までのディコットの動きじゃない動きができる。
しかし、今真珠を救うためにできることはただそこに立っている他に何もない。
ゲホッ……
死の呪いに混じって真珠の咳き込む声がする。
焦りがディコットの心を蝕んでいく。
『あと五分耐えて!』
盛実のその言葉を聞いても猗鈴の脳裏に浮かんだのは、まだ半分しか経ってないという焦りのみ。
「……メモリは舌で舐めても使える。ローダーレオモンのメモリを拾って使おう、猗鈴」
『それは駄目! 生身とベルトからと二重にやるのは普通に重なる以上に安定しなくなる! 最悪姫芝の精神が猗鈴さんの肉体からも姫芝の肉体からも放り出されて戻れなくなるかも!!」
それでもと杉菜はディコットの右腕を伸ばし、猗鈴は左手でそれを止める。
不意に、日が陰りだした。
「……え?」
そして、木がみしみしと音を立てる程の強い突風が一瞬吹く。
その風を受けた瞬間、杉菜はただ一度だけ瓦礫越しに感じたその存在を思い出し身体が固まった。
それが伝わって猗鈴も困惑し、ディコットの動きは止まった。
不意に、音を立ててセイバーハックモンメモリのレバーが三度続けて勝手に押し込まれる。
『トロピアモン』『ザッソーモン』
「ありがとう姉さん……やるべきこと見失ってた」
姿が顕になった真珠へとディコットが走り出す。
「……何が娘のようにだ」
真珠はその場に膝をつき、呪文の詠唱さえ止めていた。
真珠の前でディコットは右側の足を伸ばし捻りながら強く踏み込み、バネのようにした。
「誰か私を愛してよぉ……」
脚が真っ直ぐに伸ばすことでディコットの身体はコマのように回りながら勢いよく飛び出し、青緑色に輝く左脚での回転蹴りが真珠に向けられる。
メフィスモンの角もまとった溶岩の鎧も溶かし貫きついに足が突き刺さる。
つま先から爆発的に根が広がって、包み込み、爆発する。
そうして変身も解け宙に放り出された真珠を、ディコットは柔らかく抱き止めた。
『方向はこっちで指示する。雑木林の外で救急車を待たせてる、いいね?』
「……待ってください。搬送先はどこですか? 警察病院は……」
『アルケニモンがいた病院。鳥羽さんが警察病院がダメになった時のために色々準備してた! あそこならメモリ使用者に対して治療ができる!』
その後、真珠は病院に運び込まれ、一命を取り留めた。ただし、その意識は一週間経っても戻ることはなかった。
「奴等はこっちに向かったはず……」
一体のフェレスモンがさっきまでディコットの戦っていた雑木林の方へと歩いてくる。
「……遅かったわね。フェレスモン」
その人影は、真っ黒なレインコートの下から血の固まった真っ黒な指先をひらひらと動かした。
「な、ぜあなたがここに……?」
「私が、家出した子を心配して後を尾けるのがそんなにおかしい?」
地面にボロボロと血の塊を落としながら蠱惑的な声でそう尋ねる。
「……いえ、滅相もございません」
フェレスモンはそう声を振るわせながら口にした。
「そう……正直に答えろ。お前はどうしようとしていた?」
「い、一旦石化させあなた様の元に持ってこようとと……」
「嘘ではない、か。まぁ、組織に引き渡すか私に引き渡すか迷っていた。というのが真相か……」
吸血鬼王はレインコートの奥からフェレスモンの目を覗き込んだ。
「お前自身を含む全てのフェレスモンのメモリを集め、自殺しろ」
「な……裏切りはもう致しません、ですから何卒……」
「……そう」
フェレスモンの首にプツリと爪を刺し、引き抜くとずるりと煮凝りのように血の塊とその中に浮かんでメモリが出てくる。
「あっ」
フェレスモンの身体がぐらりと倒れ、人間の姿へと戻る。
「なら、勝手に記憶を見るからいいわ。私、これでも人間のこと大好きなのよ?」
血とメモリを口の中に放り込み、その後吐き出したメモリは色が消え、程なくして煙をあげ発火する。
あとがき
今回は、まぁなんというか……とりあえず、次回お楽しみに!
次回はウッドモンヒアリング回……かしらね?
姉妹の感動の……というにはあまりに立場が違い過ぎる再会。
割り切ったように真珠の救出を最優先に動こうとする猗鈴にはヒーローとしての成長を感じます。姫芝も相棒として揺らいだ優先順位を直し、二人掛かりでかつては暴走した力を乗りこなす。大一番を迎えるに相応しいバディとして仕上がったようで感じ入るものがあります。。
興冷めしたように夏音が嫌がらせだけで撤退したのは幸いというべきか。残る真珠は何もかもがボロボロというかあまりに見ていられない姿。ついには目の前の成人女性に自分の娘になれと迫るのは読者としてもきつかったです。
それでも目をそらすことなく、助けられる手段を手繰り、渾身の一蹴りを持って命は救われる。紛れもないヒーローへの報酬として、意識が戻ることを祈るばかりです。
やなパーこと真珠の話はこれにて終幕。夏音との接触を果たした以上、本格的に組織との接触も増えてくるのかなと思いつつ、これにて感想とさせていただきます。
どうも、お久しぶりの感想書きにやってきましたユキサーンです。
なんやかんや毎話読んでて追ってたのに気付けば感想書くのを途絶えさせちまってたやーつ。やはり継続は大事……などと前置きはここまでにして、いろいろとめっちゃくちゃになってしまったやなパー決着編の感想をば。
どうしてこんなひどいことするんですか???
いやまぁ、やなパーもやなパーで前提として大分やらかしてたというか、今回の話で夏音さんが言うてたように加害の部分がわりと濃い目っちゃ濃い目なのですけども、にしても真実が残酷すぎるといいますか、マジかー想像妊娠だったかー……メッフィー悪い子……夏音さんはしれっとお腹抉ったりもするし……やなパーがここまでされるほどの事をやらかしていたというのか!! うん。
しかしまぁ、前回の流れ的に真面目に猗鈴さんのメンタル大丈夫か? ちゃんとやなパー助けられるか? と戦々恐々としておりましたが、思っていた以上にメンタルが頑丈さを保っててゆきさん驚き。いや姫芝ァ!! が援護射撃してくれたのも間違い無く支えになってたでしょうけども、夏音さんから真実語られてもそれでも助ける方針を曲げずに貫いたのはメンタルつよつよですわ……これは間違い無くヒーローの器……。
しかし、無理難題ゲーを結果的にどうにかしてやなパーの命だけは救えたものの、当然ながら心までを救うには至らず。いやもう色々と詰んでる状況なわけですけども、少なくともこの時点で退場しなかったってことはいつか何かしらの出番はあるのか……(絶対その時もロクな目に遭わねぇわという顔)。
吸血鬼王にしれっと処されたフェレスモンに合掌しつつ、次回を楽しみに今回の感想は簡素ながらこれにて終わります。
PS しっかし夏音さんのスカルバルキモン軸のスーツ姿えっろいな……ちょっとこちらの作品でも参考にします(ぇー)