
「アフターサービス、ですか?」
「そうそうそう、結構レアで高額なメモリを買ってくれた個人がいてね。事情を聞いた感じだとあなたのサポートが必要そうなの」
これがその資料、と夏音から渡された書類を見て、杉菜は思わず声が出そうになった。
「……これは、いや、そもそもなんでこんな子供にメモリを売ったんですか」
資料に映っていたのはまだ小学校も出てないような子供だった。
「買うからだけど。買う客がいるから売る。何か変なことがある?」
その夏音の言葉に杉菜は思わず眉間にしわをよせてしまった。
「今後は同じ場所での営業を増やすことも検討してるの」
「病院ですよ……? そんなのって……」
「そうだね。つまり、メモリを使わなくてもいずれ死ぬ人達。最後の夢を見せてあげるのは悪いこと、なのかしら?」
夏音の笑顔は、機械的で冷たく、しかし圧だけはおぞましいまでに感じさせた。
「悪いに、決まってます」
思わず後退りしそうになるのを堪えながら、杉菜はそう言った。その際、杉菜は思わず夏音を睨みつけてしまったが、夏音はそれを見ても何も感じていないようだった。
「そうかな。君が売ってきた人に売るよりは大分マシだと思うけれど」
夏音はそう言うと、手元のタブレットを操作して杉菜が売ってきた人間達を画面に表示した。
「君が選んで売ってきたのは、メモリの毒で死んでも構わない様なクズばかりだった。一見立派な感じだけども……クズだから全く関係ない人の被害は多いわよね」
そんなことはわかっていた筈だった。わかった上で飲み込んだ。杉菜は力が欲しかった。
だから、杉菜はなにも言えなかった。
「じゃあ、行ってくれるわね」
「……わかりました」
杉菜がそう言って部屋から出ていく背に、駒としても潮時かなとポツリと夏音の呟きが聞こえてきた。
その病院に着くと、待っていた一人の看護師に連れられて杉菜はある病室に通された。
ベッドの上に座る少女は、今にも消えてしまいそうな儚げさを持っていて、杉菜はまた飲み込んだ筈のものを吐き出しそうになった。
「……お姉ちゃん?」
杉菜の顔を見ると、少女はそう呟いて、目を輝かせてベッドから起きあがろうとして、そしてそのままうずくまった。
「永花ちゃん、無理しちゃダメよ……」
看護師の女性はそう言いながら永花と呼ばれた少女の背中をさすった。
「……でも、お姉ちゃんが」
「……私は、姫芝杉菜。メモリ販売組織から来たものです」
杉菜は、そうペコリと頭を下げると、ベッドの脇で中腰の姿勢を取って永花と目線を合わせた。
「……そっか、お姉ちゃんじゃなかったんだ。ごめんなさい……でも、杉菜お姉ちゃんって呼んでいい?」
「いいですよ。なんとでもお呼びください」
ちょっと、と看護師に促されて杉菜は廊下に出た。
「……姉がいたという話は聞いてませんでした」
「永花ちゃんが懐いていた別の病棟の女の子です」
杉菜の問いに、看護師の女はそう答えた。
「なるほど、その方は転院か何かを?」
「永花ちゃんにはそう言ってますが……実際は亡くなりました」
「病気で、ですか?」
「いえ、久々の外出日に……知りませんか? ビルが倒壊して、その後下のガス管か何かが爆発した事故。巨人が飛び出すところを見たなんて話もあったやつです。アレで、二回目の爆発の時に飛んだ瓦礫が頭に当たって……」
それは杉菜もよく知っている。ビルを崩壊させたのは杉菜が使ったダイナマイトで、その後下から飛び出したのは親友だった風切王果。
杉菜が殺したようなものに思えた。
「……ご愁傷様です」
「私は、身内とかではないので……アレなんですが、永花ちゃんのお父さんはいつからか顔出さなくなりましたし、永花ちゃんにお母さんはいませんし……それで、なるべく顔を出してもらうことはできませんか?」
「……わかりました。確か使用者は永花さんですけれど、手続きを代理で行ったのはあなたでしたものね。アフターサービスの一環です。私、姫芝が確かに承りました」
ある意味それは杉菜にとっても渡に船だった。
「ねぇねぇ、杉菜お姉ちゃん、私と×モンしよ!」
杉菜が病室に戻ると、永花はそう言って、部屋の隅に山と置かれた段ボール箱とその中に溢れているカードを指差した。
「初めて聞くカードですが……私はTCGは強いですよ。地方大会で入賞したこともあります」
「じゃあ、お店の大会とかだと優勝したりしたの!?」
「……3位なら何回か」
杉菜はどんなに小さな大会でも優勝したことがなかったので、苦虫を噛み潰した顔のまま、無理やり笑った。
「私は場に出した『バンバンシー×』の効果で、自分の手札を全て墓地に送って、杉菜お姉ちゃんの『雑草鳥・痛鳥』、『雑草獣・怨獏』と手札を一枚ブレイク」
永花はそう言って、姫芝の場のカードを2枚、手札を一枚取って墓地へと落とした。
「……ふふふっ、私の場の『雑草』モンスターが破壊されたので、私の墓地で『除草罪』が発動! 条件を満たすセメタリーの『雑草』モンスターを3体まで呼び出すことができます」
その条件はATK0であること、と杉菜は墓地から、三枚のカードを抜き取って場に出した。
「『雑草塔・鴉乃煙塔』と『雑草塔・雀乃炎塔』、そして今さっき手札から墓地に送られた……」
杉菜はそう言ってカードを取り上げながら、袖の中に仕込んだライトを使ってカードのホログラムをキラキラと光らせた。
「『雑草蛇妖・毒蛇魅』を呼び出す!」
場のカードを一掃する筈が寧ろ増えましたねと杉菜は笑う。
さらに、『鴉乃煙塔』と『雀乃炎塔』がそろっていて他に雑草モンスターがいるこの時発動する効果がある、と杉菜は続ける。
「このターンに召喚された相手モンスターは次の相手ターンまで効果が無効になります!」
まだまだ、と杉菜は続ける。
「『毒蛇廻』は1ターンに一度戦闘で破壊されず戦闘で受けるダメージは相手が受ける効果と、セメタリーからの特殊召喚に成功したターン、攻撃可能な相手モンスターは毒蛇廻を攻撃しなければいけない効果がある!」
ふふふと杉菜は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「新しいモンスターを出しても効果は無効、『バンバンシー×』の攻撃による反射ダメージで、私の勝ちです!」
すると、永花はふっと笑った。
「それはどうかな。私がセメタリーに捨てたカードをちゃんと見た?」
「まさか……」
「私がセメタリーに捨てたのは、『点心天使』! このカードはセメタリーに送られた時一度だけ、既に場にある×を持つモンスターの下に置くことができる! そして、これで『バンバンシー×』はもう一度効果を発動できる様になるよ!」
羽根の生えた点心が描かれたカードを、永花は『バンバンシー×』の下に置いた。
「くっ……いや、まだです!『バンバンシー×』の効果は手札を全てセメタリーに送って初めて発動する効果の筈! 手札0の今、発動はできません!!」
「できるよ。私がセメタリーに送ったもう一枚、『跳ね月餃子』の効果は、手札からセメタリーに送られた場合このカードをデッキの一番下に置き一枚ドローする!」
あっと杉菜の口から思わず声が漏れた。
「『バンバンシー×』の効果発動ッ! んー……杉菜お姉ちゃん、なんかいい技名ない?」
「……ふむ、確かバンバンジーは四川料理が元……四川では複雑な味を怪しい味と書いて怪味(ガイウェイ)と言うのが使えるかもしれないですね」
杉菜がそう言うと、いいねと永花は笑った。
「じゃあね、ガイウェイスクリーム! 『毒蛇魅』と『鴉乃煙塔』を破壊して、手札も捨てる!」
「私の『毒蛇魅』がぁ……」
「これで、バトル! 『雀乃炎塔』にバンバンシーで攻撃!」
トゥルルル……と言いながら杉菜が計算機で自分のLPを計算し、デンとまた口にして0以下になった数値を永花に見せた。
「私の勝ちー! 杉菜お姉ちゃん、強いのに弱いね!」
その言葉に、杉菜は思わず呻いた。確かに杉菜は負け続けていた。うまく回れば永花はそれ以上にうまく回り、うまく回らない時はあり得ない程うまく回らない、その結果杉菜は八割強負けていた。
「まぁ、勝負は時の運ですからね……私と『雑草今生』デッキは大切な時にはきっと負けませんから」
杉菜は少し強がってそう言った。
そう言うと、永花は少し明るさの下から不安さを覗かせた。
「……本当に負けないでくれる?」
「えぇ、負けませんよ」
「じゃあね……じゃあね、私、今度の花火大会に行きたいんだけど連れてってくれる?」
それを聞いて、杉菜は一瞬迷った。永花はベッドの上から動ける体調ではないのを杉菜は知っている。
だけど、その為に彼女はメモリを手にしたのだ。長くない余生を少しでもよいものとする為に。
「えぇ、行きましょう。私に憑いていれば安心ですよ」
「……そしたらね、花火大会の時にね、寄り道もしたいの。いい?」
「構いませんよ」
「ありがとう、杉菜お姉ちゃん。 じゃあ、デッキ選び手伝って!」
「……デッキ選び? 花火大会では?」
「でも、要るの。花火大会の日にはね、×モンの大会もあるの。それで、お姉ちゃん以外誰にも言ってないんだけどね……私、外に結婚を約束した男の子がいるの」
まだ体調良かった頃に、おもちゃ屋で会ったのと永花は幸せそうに微笑んだ。
「×モンもね、その子に教えてもらって……一回しか会えなかったけど、またねって約束したの。大会にも出て、花火も一緒に見ようねって。三年前に約束したの」
「それは、会わないとですね」
「うん、会わなきゃいけないの。もう私、長くないんだもん」
「……それは」
「知ってるよ、私のメモリのこと。シェイドモンって、他の人の命で生きるデジモンなんだよね。私は私の命だけじゃもう長くないから、きっと買ってくれたんだよね」
「大丈夫ですよ、私がついてますから。私は人よりしぶといのが強みなんです。私の命を使えば、永花さんの命にもきっと勢いがついて、すぐに治ります」
「……そうかな」
「きっと、そうです」
「じゃあ、それまでちゃんと生きててね? お姉ちゃんみたいにならないでね?」
「知ってたんですか?」
「うん。みんな隠すの下手だから」
そう言って、永花はふわっと微笑んだ。
「……私は、私は死にませんよ。絶対に」
杉菜は、永花の小さくて折れそうな手を握ってそう言った。
「じゃあ、花火大会の日におもちゃ屋であるカード大会、杉菜お姉ちゃんも一緒に出てね」
「いいですよ。でも、私が優勝しても知りませんよ?」
「大人の部と子供の部分かれてると思うから大丈夫。二人でどっちも優勝しようね。お姉ちゃんはできるかわからないけど」
二人はお互いに顔を見合わせてあはは声を出して笑った。その側で、杉菜のデッキそのものがほんのりと脈打つように光を放っていたことには誰も気がつかなかった。
Twitterでよく見るカードショップに行った時の彼女の反応四択じゃねーか!(※彼女ではない) どうも夏P(ナッピー)です。
既にもう一話投稿されている中で遅くなりすみません。カードが光を放ったとか魂のカードとか言うから、これはてっきり「勝ちゃんの手が光った!?」なデュエルマスターズ的な展開が来るのかと思いきやそんなことは無かった。好きな子と好きな遊びやるとついつい喋り過ぎてしまいますよねえ便五くん、気持ちはわかる。でも捕らぬ狸の皮算用で先走って外堀埋めすぎや!
猗鈴サン御令嬢だったんか……翔ちゃんではなく園咲家側の人間だったんか……そーいや妹(怖い姉がいる)だったな……。
早めに次話まで行きます。
「あなたは、魔術というものを理解しているかしら?」
その女は、真珠にそう語りかけた。
「……メフィスモンから少し」
真珠の答えに、んーと女は首を傾げながら、救急隊員の服をぐしゃぐしゃと足でいじくった。
「だからあなたの魔術下手なのかも。私があなたに基礎の魔術講座をしてあげましょう……なんか今の母親っぽくなかった? 子供はいたけど、なんだか新鮮だわ」
真珠は鏡で自分の顔色を見て、この状態の相手にそんなこと言うやつはまともな母親してなかったんだろうなと思った。
「まず、私達の世界のそれは高等プログラミング言語と言われるもの。と言っても、わからないでしょうけど、世界を構成する法則(プログラム)に本来はそのプログラムの演算結果である筈の私達の側から干渉して意図的に世界に不具合を起こさせることよ」
「……ゲームのバグ技みたいな?」
「まぁそんなもの」
「なら、デジモンの世界でしか通じない筈じゃないの……ですか?」
「それはおかしなこと言うわね。私の様なデジモンがこの世界に存在できることが、メフィスモンが魔術を使えることが、この世界にもデジタルワールドと類似する法則がある証拠でしょ?」
「……じゃあ、もしかして、人間の姿のままでも魔術って使えるの?」
「使えるわよぉ、魔道具も使えればさらにね。ちょうどこの前、変な魔力を感じた子達見つけたのよ」
「……そいつらって、デジモンの関係者なんじゃないですか。回復するまであいつらに会いたくないんですけど」
「多分違うと思うわ。催眠かけて自分語りさせたけど、カードゲーム作ってたとか言ってた。友人と経営してた会社は潰れて自己破産して、今はホームレス一歩手前らしいけど……面白いわよね。偶然で作ったものが魔道具になる確率なんて限りなく低い。そんな奇跡を起こしたクリエイターなのに、全く生活に繋がらないんだから。面白いけど可哀想よね」
可哀想だったから適合する人少なそうなメモリあげちゃったと言うその女に、真珠はこの女の声は胎教に最悪だなと思った。
「花火大会……ボクのカードを認めなかったこの街で、人が笑っているのが憎い……」
「ボクの××モンスターズの名前のどこが卑猥だったって言うんだ……! 全財産叩いたのにぃイッ!!」
その誰かは、町の掲示板に貼ってあった花火大会のチラシをビリビリに破くと、それを地面に投げ捨てようとして、少し罪悪感が胸をよぎってポケットにしまった。
そして、ポケットの中に入ったままだったそのメモリを取り出し、一度ボタンを押した。
『ワイズモン』
「そう、ボクは賢い……ボクは、ボク達のカードゲームは最高なんだ……」
その女はそう言うと、頭をバリバリバリと掻いた。
あとがき
今回もありがとうございました。今回はこんなところでひと段落かなと思ってます。理由はお分かりですね、便五くんの喋り過ぎです。
好きな人と好きなものについて話すとテンションが上がりすぎて喋りすぎる、そして当の相手は静かに一歩引いている。約束された光景です。便五くんは帰ったあと引かれなかったかなとベッドの上でゴロゴロすることになります。かわいそう。
地味に猗鈴さんのおうちの掘り下げ回でもありますが、××モンスターズの話の方が楽しいので割愛。
×モンは側から見ると、人気もないしクソなんだけどやってる当人達はなんか楽しいやつ。××を単なる伏字としか認識してなかった人が、下にカードを伏せるのと乗算の×にかかって良くない!? みたいなノリで書いてるやつです。ちょめちょめが放送禁止用語の隠語として使われていたことを知らず、伏せ字に当てる音の一つとしか認識してなかったんですね。
そして、いざ世の中に出したらなんか卑猥な名前だし、そういうちょいエロ的な名前のわりに中身にちょいエロなとこないからそういうのちょっと期待した人にも微妙な顔されるし、ほかに実績もないし、カード数やたら多いしで、見切り発車で先に品物を大量に用意してしまったのが運の尽き、みたいな潰れ方してます。最初に刷りすぎて売れ行き確認とかもできず速攻潰れたので、クソゲーワロタみたいな形でさえ話題になれませんでした。悲しいね。
姫芝のテーマはフィールドで破壊されないといけないので、ハンデスやデッキ破壊相手だと若干旗色が悪いですが、テーマのほぼ全てのカードに破壊された時発動する効果があるので除去手段が破壊だけのデッキだと結構辛かったりするデッキですね。猗鈴さんのテーマは対応力があって幅広く戦えるけどリアルラックがないと事故るデッキ。猗鈴さんはラック高めなので事故らない。
『警察の人達全員と猗鈴さんが、織田さんみたいに洗脳されてないか検査キット作るから。デジモンの世界から文献取り寄せたりイマジネーション走らせたらなんだりでベルトもワンチャン機能不全になるので、それまでは事件無い限りちょっと猗鈴さんはバイトお休みね』
盛実にそう言われ、猗鈴はまた探偵を休むことになった。大学に通い、ランニングをし、スイーツを食べる。猗鈴としてはただそれだけでよかったのだが、ふと思い出して便五の実家の和菓子屋を訪ねた。
「すみません、便五くんっていますか」
猗鈴が店に出ていた母親らしい人にそう言ってから三十分。猗鈴と一緒ではなかった高校時代のアルバムを見ていると、自転車に乗った便五が息を切らせて帰ってきた。
「おかえりなさい」
母親がおかえりと言ったのに合わせて、猗鈴もそう言うと、少し便五の口元が緩んだ。猗鈴にとってはなんの意味もなくとも、好きな相手が家で待っていておかえりと声をかけてくる状況はちょっと飛躍した幸せな妄想をさせるには十分だった。
「あ、えと、どうしたの美園さん」
「うん、それなんだけど。この前はいろいろ迷惑かけたし、ちょっとの間暇になったから何か埋め合わせでもしようかと」
「いや、いいよ!! 子供の頃とか何回か助けてもらったし……」
便五の言葉に、猗鈴は全く心当たりがなかったが、とりあえずわかってる様な顔をした。
「あ、じゃあお母さんからお願いしてもいい?」
「いや、なんでマ……母さんがお願いするのさ」
普段はママって呼んでるんだと思いながら、猗鈴はいいですよと便五の母に向かい直った。
「今度、秋の花火大会あるでしょう」
「あぁ、いつも賑やかですよね」
賑やかですよねとは言ったものの、猗鈴は一度もその花火大会を見に行ったことがなかった。
「そうそう、いつもはおじいちゃんとお父さんでやってたんだけど……おじいちゃんももう歳だし、お父さんこの頃腰が痛いって言っててなぁ」
あんこは結構重いし、機械で済むとこもあるけど和菓子屋は結構筋力使うんだよ。と少し釈然としない顔で便五はそう補足した。
「うちもね、毎年屋台を出してるのよ、クレープ屋の」
「……クレープ屋の?」
花火大会の屋台は待たさないのと量が大事だからね。生菓子とかより、生地と中身で分けられて、生地が薄いクレープが楽なんだ。と便五はまた補足した。
実のところ、猗鈴が聞き直したのはクレープ屋であることを不思議に思ったからではなかった。
便五が帰ってくる前に、子供の頃の便五はパティシエになりたくて家の仕事に興味を持ってくれなかった為、一時期店頭でクレープを売っていたという話を聞いていたのだ。
便五の補足の理由だけなら、大判焼きなんかでもいいところをクレープな理由。猗鈴はそれを聞いていて、思い出して少し微笑んだ。
「なるほど、それで荷運びとかのお手伝いって訳ですね」
「そうそうそう、いずれお嫁に来るならうちの仕事にも少しずつ触れていってもらいたいし……」
「ママ!? あ、いや、母さん!! 猗鈴さんとは付き合ってるわけじゃなくて……」
にまぁと笑っている母親に、便五は目の色を白黒させて弁解しようとしたが、猗鈴は特に動じたりしなかった。
「若い女性がどれくらいそういった仕事に抵抗ないかとか、どれくらいなら仕事振れるのかとか知りたいですもんね」
そう返されて、便五の母は便五の手を引いて猗鈴から離すと、ヒソヒソと耳打ちした。
「べっちゃん、あの子手強いけどあんた落とせるの?」
「だからそういうんじゃ……」
「それはもう今更よ。べっちゃんが初恋引きずってるのは、家族みーんな知ってるから今更よ」
「え、みんな!?」
映画デートの話も何人かのお母さん達から聞いたわという母に、便五は少し恥ずかしくなった。
「今まであの子彼氏いたことないらしいから、一回付き合っちゃえば色々あるわよ。とりあえず、ガンガン押すのよ」
保護者ネットワークは地獄耳だなと便五は思ったが、彼氏がいたことないと聞いて少しホッとする自分もまた少し嫌になった。
まぁチャンス作りは任せなさいと、便五の母は胸をどんと張った。
「じゃあ、屋台の設置と当日の材料搬入をお願いしていいかしら。既に今お父さんが屋台の組み立てしてるはず」
お願いしすぎじゃと便五は止めようとしたが、猗鈴としてはひとまず爆発物騒ぎに巻き込んだのだから、数日の手伝いじゃ足りないぐらいだと思っていた。
「よろしくお願いします」
祭り前日、屋台の設置は滞りなく進んだ。
なんせ、便五の父は口実として腰がなどと言われたものの、実際にはほとんど腰に不都合はなく、元々していた作業に体を動かすのが得意な猗鈴が加わった分早く終わったのだ。
「じゃあ、早く終わった事だし、運営のテント行って半纏四枚もらって顔見せしてきてくれるかな。僕は約束あるからここで待ってる」
「わかった。じゃあね父さん」
便五の父に促される形で、猗鈴は便五と一緒に祭りが行われる河川敷の一角へと向かうことになった。
「よっ、べっちゃん! 今年も手伝いかい!」
運営本部と書かれたテントに着くと、目元に深い笑い皺の刻み込まれた男性がそう便五に話しかけてきた。
「今年もよろしく綿貫のおじさん。それより今年はいつもより半纏一枚多く欲しいんだ」
便五の言葉にほぅと口にして、綿貫は隣の猗鈴の顔をじっくり見て、そのあとパッと目を見開いた。
そして、べっちゃんべっちゃんと便五に耳を寄せる様に促して、ひそひそと興奮しながら話し出した。
「美園さんとこの猗鈴ちゃんじゃねぇの! べっちゃんついにやったなぁ! 小学校から諦めてなかったんだなぁ!」
「なんでみんな知ってるのさ……」
「そりゃべっちゃんは俺達商店街のもんからしたら子供みてぇなもんだし、猗鈴ちゃんは美園さんとこのお嬢だからそりゃ知ってるさ」
なんならこの花火大会も、そもそも美園さんとこのそれに由来するし、今も一番のスポンサーよと綿貫は続けた。
「美園さんとこのお嬢に手を出そうなんて罪深ぇ! 恩知らずか!? とべっちゃん中学生ぐらいの時にゃあ商店街が大騒ぎに……」
「そもそも付き合ってないからね、まだ」
「んなことはわかってるよぉ。猗鈴ちゃん。うちのシュトーレン買いに来る時のがいい笑顔してるぜ」
最終的にはヒソヒソ話ですらなくなって綿貫と便五があーだこーだ話してる脇で、猗鈴は綿貫の娘と一言二言言葉を交わすと、運営公認のお店ということを示す半纏を受け取った。
「……彼、商店街の人に愛されてるんですね」
「まぁ、うちの父は私より年下の子はみんな子か孫かって認識なんで特にですけど。いい子ですからね」
綿貫の娘はそう言って笑った後、口元に手を当てると猗鈴の前にずいと身を乗り出した。
「ところで」
「はい」
「便五くんとはどういう経緯でお付き合いを? どこまで進みました?」
「……あぁ、私と彼はそういうのじゃないんです」
「えと、じゃあ……便五くんのことはどう思ってます?」
「そうですね、おうちの酒饅頭が美味しいので、あの味を早く作れる様になるといいですね」
淡々と言う猗鈴に、これ脈ないんじゃないかなと綿貫の娘は思い、便五の方をちらっとみると合掌した。
それをなんとなく見ながら、猗鈴はふふと微笑んで、その後急にすんと真顔になった。
「あー、もう! 行くよ美園さん!」
そう言って便五は猗鈴の手を取り歩き出し、数分そのまま歩いてふと自分が猗鈴の手を握っている事に気づくと顔を真っ赤にした。
それを見て、猗鈴は思わずくすりと笑ってしまった。
「便ちゃーん、俺の×モンのデッキみてよー。全然勝てねーの」
ふと、そんな風に便五に話しかけてきた少年がいた。
「千歳、今は……えっと、美園さん、ちょっとだけいい?」
「いいけど、×モンってなに?」
「あー……××(チョメチョメ)モンスターズっていうカードゲームがあって」
「メジャーなの?」
「いや、ぜーんぜん! 商店街のおもちゃ屋でしかおれも見たことねーもん!」
「……超局所的にブーム一歩手前だよ。この商店街周辺の小学校とか中学校とか高校だけだけど」
制作会社が潰れて在庫処分に困ってたのを、おもちゃ屋の店長がただ同然の価格で全部買い上げたんだって。と便五は続けた。
「面白いの?」
「まぁまぁ! でも安いし結構かっこいーのもいるんだぜ、これとか」
子供がそう言って猗鈴に見せたのは、どこかお菓子のような鎧に包まれた騎士のカードだった。
「あぁ、『卵白騎士団(アルブメンズ)ランドグシャ××』かっこいいよね。卵白騎士団(アルブメンズ)シリーズはみんなかっこいいから僕も好きだなぁ」
「アル……なに?」
「「『卵白騎士団(アルブメンズ)ランドグシャ××』」」
「えと、『卵白騎士団』っていうシリーズのカードは、みんな卵黄を使わないお菓子の名前とそのお菓子でできた武器を装備した戦士達の姿をしてるんだよ」
「……でも、それならラングドシャじゃない?」
それはまぁ作者の間違いだと思う、と便五は神妙に頷いた。
「あと、名前の××はなに」
あぁ、それはこのカードゲームの特徴でねと便五はやたらと流暢に喋り出した。
「××モンスターズのゲームとしての特徴はまさにその××のとこなんだよ。このゲームは、カードの効果が××の数だけ拡張されるんだ。例えばその『卵白騎士団ランドグシャ××』の効果は『ターンに(1+A)回まで発動できる。自分の場のカードを(1-B)枚セメタリーに送ることで発動し相手の場のカードを(1+C)枚まで選んで破壊する。』このAとかBとかってのはなにもしていなければ0なんだけど、名前の後ろの×の数だけ場に出す時に手札から一緒に他のカードを重ねて出すことができてね……ほら、わかる? 今重ねた、『卵白騎士団マキャロン』の横にA0 B1C1って書いてあるでしょ? この数が『卵白騎士団ランドグシャ××』の効果欄のA B Cに代入されるんだよ。つまり、この状態になると『ターンに(1+0)回まで発動できる。自分の場のカードを(1-1=0)枚セメタリーに送ることで発動し相手の場のカードを(1+1=2)枚まで選んで破壊する。』となって、元々は効果の発動コストと効果が釣り合うものだったのが、コスト踏み倒して2枚も破壊できる強力効果になったんだよ。そして、さっきも言ったけどこの拡張は××の数だけできる。もし、ここに A1があるモンスターを入れたりすれば……コスト0のすっごい強力な効果をターン中何度もできることになるんだ」
「つまりめっちゃつえーの!」
「めっちゃつえーんだ」
猗鈴はなるほどと軽く目を瞑り、反芻しているフリをしながら頷いた。
「だけど、拡張性が高くて効果も強力、ATKもまぁちょっと物足りないけどリリースなしで出せるラインは超えている『卵白騎士団ランドグシャ××』だけど、その分場に出す難易度が高くてね、工夫しないとせっかくの拡張性を活かせないんだ。それに、『卵白騎士団ラングドシャ××』自身はABC全部0で他のサポートにも回しにくい……一方の『卵白騎士団マキャロン』はB持ち……あ、Bはコストにほとんど当てられているんだけど、それを増やせるBに数字が入ってるモンスターはかなり少ないんだ。さらに、二箇所数字が入ってるのもかなり少ない。その分、サポート以外で使いにくい性能をしていて、手札次第では腐っちゃうことも珍しくないんだよ」
「だから卵白騎士団は難しいんだよな。つえーのはつえーけど、弱いカードめっちゃ弱いし、つえーカードは弱いカードいねぇと場にだせねーんだもん。でも、全体的に非力だからパワーで上から殴られちゃうし」
と子供と楽しそうに話す便五に、猗鈴は若干聞かなきゃよかったかなと思いつつ、聞き流すのも可哀想なのでちゃんと聞くことにした。
「……と、ルールの概要はこんなところなんだけど、あとは実際やってみないとわからないよね」
「でっかい兄ちゃんのデッキも作ろうぜ!パック一つ五十円だから四百円でデッキ作れるし!」
「こら! 美園さんはお姉ちゃん!」
「じゃあ、でっかい姉ちゃんのデッキも作ろうぜ!」
そう言うと、その子はあっという間に走り去ってしまった。
「ごめんね、美園さん」
「いいよ、大丈夫」
今言われたような事は猗鈴にはもう慣れっこの悪口で、悪意がない分むしろいい部類に思えた。
「おもちゃ屋の場所は知ってる?」
「いや……」
近所には、小学校の頃からずっといるのにも関わらず、猗鈴はその場所に心当たりすらなかった。
「じゃあ青山さんも知らないか」
「青山さん?」
「おもちゃの森田の店主の青山さん」
「森田じゃないんだ……」
「おもちゃの森だって言わせたかっただけの店名で、最初からずっと青山さんなんだよ」
ノリで生きてるなと思いながら、猗鈴は便五についていった。
そうしてついたおもちゃの森田には、黒いマントを身にまとい、漫画でしか見たことない三角形のサングラスをつけ、猗鈴以上の背丈を持つ屈強な男性がいた。
「はーっはっはは、はっははっはははっふぁー! よく来たね、青年青女よ……青女……? 少女……はアレだし……あ、もう一回やっていい?」
「……どうぞ」
やたら愉快な笑い声を上げた屈強な男性に猗鈴がそう言うと、甘やかさないでいいからと便五が割って入った。
「青山さん、今日も元気だね」
「ばははーっははっはー、はっはははーふぁーばー! よく来たね逞しき青年よ! うら若き乙女よ!」
「……やるのかよ」
「私はおもちゃの森田店主、青山! 人呼んでおもちゃマイスター、ブルーマウンテン!!」
そう言い終えると、マントをさっき走って行った少年が端を掴んでばっさばっさとはためかせた。
「……よろしくお願いします。おもちゃマイスター、ブルーマウンテン。マイスターでいいですか?」
「美園さんも、付き合わなくていいんだよ?」
「もちろんだとも! 君のことは噂で聞いていたよミス猗鈴……この度は来店誠にありがとうございます。平素よりご両親には誠にお世話になっております」
「……うちの両親がおもちゃ屋に?」
「というよりも、商店街全体が君達の家のお世話になっているのさ。この商店街はは百何十年か前の美園家がきっかけでできてるからね」
今度の花火大会も、と青山が指した協賛企業の中には美園の名前を冠する地元企業が含まれていた。
「私達から見ればプリンセスと言っても過言ではない! のかもしれないね」
青山の言葉に、猗鈴は愛想笑いを浮かべた。
「なーなー、早くねーちゃんのデッキ作ろうぜ!!
「むっ! そうだった!」
青山はそう言って店の奥に飛び込んでいくと、段ボールか発泡スチロールでできた巨大な笑った顔の様な緑色の壺を持ってきた。
「さぁ、この壺いっぱいのパックからパックを二つドローしたまえ!! 強欲に!!」
「×モン新しくやるやつはみんなニパックもらえるのがここのルールなんだぜ!!」
ちなみにこの壺は昔ここに出入りしてた子の中学生の頃の作品さと青山は言った。
「採算取れてるんですか?」
「はーっはぁーっ、ははふぁーっははー! もちろん取れてないがいいのだよ!! うちには駄菓子コーナーもある!! ほして、大人になったら大きな額のおもちゃもうちで買ってくれたりするからね!!」
「ぶっちゃけるなぁ……」
嫌な顔をする便五と対照的に、猗鈴はなら遠慮なくと壺に手を入れるとパックを二つ取り出した。
そして、それを無造作に開けようとすると、便五はすごい辛そうな顔をした。
「……どうしたの?」
「カードを、曲げないように……ハサミとか、使うといいんじゃないかなぁって、僕は、思うんだけど……」
強制もできないと苦しそうな顔をする便五をみて、猗鈴はちらと青山を見るとポケットからハサミを取り出して猗鈴にポンと渡した。
「さぁ、ねーちゃんの魂のカードは何だろうなー」
「魂のカード、ね……みんなそういうのあるの?」
「そう! この店で最初に引いた中で一番グッとくるのが魂のカード!」
マイスターは親指を押し出しながらそう言ってグッと笑った。
子供ってそういうの好きだよねと微笑み。猗鈴が一つのパックからカードを取り出すと、一枚だけキラキラと光を反射するカードがあった。
「最高レアだ! ねーちゃんつぇー!!」
なんて名前、なんて名前と子供にせがまれて、猗鈴は子供の目線に合わせてしゃがみ込むと、その手に持った濃い黄色のプリンのドレスを纏ったような乙女のカードの名前を読み上げた。
「……『卵王族(バイトルスィーズ)カスタード・プリンセス×』」
「卵王族? 聞いたことないなー……」
子供の反応に、猗鈴がそうなのと首を傾げると、代わりに便五と青山は急に色めきたった。
「もしかして……青山さん!」
「うむ!! これは、今まで未確認のカード!!」
「……未確認のカード? もう会社潰れてるのに?」
「もう会社潰れてるから、だよ。青山さんが見つけた時にはカードリストとか見つからなかったんだ。わかってるのは、広告に書かれていた内容から第一弾で1263種類のカードがあるということ」
「よくわからないけどすごく多くない?」
「一段で出す量じゃないね。二十年以上続いてる世界一難しいTCGで全10000種超えたぐらいだし、それも最初のパックは40種しかないし、最初は60もあれば十分多いよ」
そして、テーマ専用カード多いから、そのせいで適当にパック買ってもまともにデッキは作れない……のにスターターキットとかないからパック買うしかないけど、会社小さいから大手のカードゲームより1パックあたりのお値段も高かった……と便五はくやしそうにした。
子供達に配れるぐらいの印刷枚数やレアリティ用の加工もあるわけでと考えると、カードの面白さ云々とは別のところで潰れるべくして会社が潰れてるんだろうなと猗鈴は思ったが、野暮な気がしたので口に出さなかった。
「現在、この店で確認できているのは1024種類! 『卵王族』は初めて見るカードですな。名前的には『卵白騎士団』と関係あるカードのようですが……」
大概な量のカード売ってるなと猗鈴は思ったがらそれも口には出さなかった。
「あ、これすごいよ猗鈴さん! 卵白騎士団のカードを条件無視で特殊召喚できる能力がある!!」
「それすごいの?」
「卵白騎士団使うならば限度いっぱい入れたい強さ。卵白サポートに引っかからない弱点はあるけど、初動が弱い卵白騎士団の欠点を補ってくれるいいカードだよ! イラストも綺麗だし」
なるほど、と猗鈴はよくわからないまま卵王族カスタードプリンセスを見た。
スレンダーで長身、朗らかな笑みを浮かべた美人。猗鈴はその姿に、スレンダーではなかったけれども、どこか夏音のことを思い出していた。
そんな猗鈴の横で、袋を切っただけで中身を出してなかったパックを覗いていた男の子が、急に猗鈴の袖を引っ張った。
「ねーちゃんねーちゃん!! 光ってるの見えてる!!最高レアこっちにもいる!!」
「……まぁ、魂のカードはこっちだろうけど……」
猗鈴がそう言いながら出したカードには、卵王白騎士カスタード・パブロバ×××というカードだった。
それは、パブロバの盾と槍に、カスタードらしい黄色のソースがかけられたものを持った女性騎士。その顔はプリンセスに似ていたが、髪は肩までで少し筋肉質でもある。
「すごい、すごいよ猗鈴さん! これ卵白カードとしても扱うってあるから卵白サポートも入るし、このカードの効果は卵で指定されてるからどっちも使える!」
そして、そのカードを見ていると、猗鈴は鏡を見ているようなそんな錯覚を覚えた。
「……これが、私の魂のカード」
そう認めて目を瞑ると、猗鈴にはなにかが自分に語りかける声が聞こえた気がした。
子供の言うそれとはもう一段深い次元でそのカードは猗鈴と結びつく力があった。
「米山くん、なにか言った?」
「え? いや、なにも……あ、ほら美園さんあったよこれ! 三年ぐらい前に僕が店のストレージ整理した時に集めといた『卵白騎士団』カードと『卵白』指定サポートカード! そのカードを使うならきっと役に立つよ!!」
正直ゲームの話は理解できてもなにが面白いのかよく猗鈴にはわからなかった。なので、猗鈴は便五の話を聞いてるフリをして、近くのカードスリーブやカードをストラップにできるアクリルケースの方を見ていた。
「……で、花火大会の日にはこの店でお祭りに合わせて大人の部と子供の部と大会があるんだよ。大人の部は実質中高生の部だけど、このゲームは基本的に市場価値は0だから、大人も子供も金銭面で差はあまりないし」
ふんふんと頷きながら、猗鈴はストラップにしてもつける場所がないななんて考えていた。
「美園さんも出てみようよ」
「うん、そうだね」
「じゃあ、決まりだね。花火大会の日は、うちの屋台で手伝いをして、その後はカードの大会出て……よかったら、そのあと一緒に花火も見たり」
「うん、いいと思う」
ふと、猗鈴は便五の耳が赤くなってるのに気づいた。
「……どうしたの? 顔、赤いよ?」