懐かしい感じがした
彼と出会う前に
私を支配していた感情
それは『悲しさ』
彼と出会って、私の世界に光を刺してくれた
少し離れていても連絡を取り合っていた
だから心の支えであった
でも
あの時私は支えを失っていたはずなのに・・・
なんで『絶望』しきれなかったのか・・・
あの・・・剣がいっぱいあるデジモン
とても懐かしかった
何でなのかは分からない
でも今すぐには気にならなかった
失わなかった・・・それだけで十分だったから
目が覚めるとそこは病室だった
菜月芽衣は身体に不自由はなかったが少し怠いような気がした
(お、お目覚めか)
直後に響いた、あの時のデジモンの声で目を見開く
「え?デュラモン!?どこに!」
周りを見回したがデュラモンの姿はなく、いたのは車いすに乗っている新庄頼賀とパイプ椅子に座っていた新月廻陰、新月結の姉弟だけであった
突然の大声に三人とも驚き、芽衣は自分の発言に恥ずかしがってしまった
(落ち着てくれ・・・俺は今君の中に宿っているんだ)
「私の中に・・・ってどういうこと!!」
「姉さん、やった本人なんだから説明してください、頼賀もいるんだから」
「やった本人はアルファモンだ・・・正確には私じゃない!」
「その時ちょうど気を失ってたから俺にも説明プリーズ」
二人から説明を求められて廻陰は慌てるが一瞬のうちに落ち着く・・・いや雰囲気が変わった
「初めまして、菜月芽衣・・・私はアルファモン、廻陰に宿っているデジモンだ」
????????
「あ、ライガの時と同じ顔をしてる」
「え?頼賀君は知ってたの?」
「病院から出る前日に状況説明された・・・一応芽衣は昨日一日丸々昏睡してた。だから・・・3日前くらい?」
一日昏睡してた・・・?衝撃の事実に動揺を隠せない
(うーんとな、君があいつらに暴行された時の傷と俺を宿した時の俺のダメージが合わさって昏睡する結果になったとか・・・だそうだ)
(デュラモンは無事なの?)
(まあ一応、身体が散り散りになる感覚はないし)
「傷とかは俺の中にいるパルスモンが自然治癒能力を強化してくれたから俺も芽衣も何とかなったっていう感じ。エリスモンもパルスモンも俺たちの無事を喜んでるよ」
彼の口から出たエリスモンとパルスモン・・・その名前には聞き覚えがあった
「それって数年前まで育ててたデジモンの名前だよね・・・?え?今の頼賀君ってどういう状態なの?私と同じ感じでデジモンが宿ってるの?」
「うーん大体おんなじかな?でも少し違うのが宿った経緯が違うかな。俺だけなぜか育成してたデジモンが二体も宿るっていう結果になってる・・・結構イレギュラーな存在だとも」
まあと言い
「今が無事だから問題ないかな!」
どこまでポジティブなのか・・・だが一度死んだのならそうなるのも納得してしまうような気がした
「すまないが事情の説明をさせてもらってもいいかな?」
「「あっはいすみません。どうぞ」」
頼賀と芽衣が声を重ねて謝る
「では、芽衣君、君は倉庫での出来事をどこまで覚えているかい?」
アルファモンに言われ思い出してみる
「えっと・・・頼賀君がデジモンになって姿が見えなくなったけど雰囲気で勝ったのが分かって・・・気が緩んだ感じで倒れたのかな・・・?」
「君は肉体のダメージがあったにもかかわらず、極度の緊張状態で意識を維持していた。そのため一安心して倒れてしまった・・・デュラモンと君がどちらも危険な状態であり、なおかつ波長が合ったから私はデュラモンを君に宿すというのを提案し、実行した。結果は成功。拒絶も何もなく今に至った。ダメージの方は先ほど頼賀君が言った通りだ。パルスモンのおかげで明日には退院できるだろう」
「・・・パルスモンってある意味強すぎじゃない?宿ってる本人だけじゃなくほかの人のも強化できるなんて」
「一家に一体パルスモンてか・・・まてまてまてごめんそういうわけじゃ!!エリスモンもとめっ・・・」
悪乗りで口に出した瞬間に頼賀が慌てはじめ車椅子の上で倒れこみ気を失う
「あーこれはパルスモンの怒りを買ったみたいだねー」
結は面白おかしそうに笑っていた
「ふふふ、なかなか面白そうだ」
アルファモンまでもが笑っていた
頼賀が目覚めるまでに頼賀が病室で聞いたことをそのまま話し自体の説明をする
「デジタルワールド・・・?えぇ・・・頭が追い付かない」
「うん、よかった。ある意味普通の反応で・・・頼賀があまり驚いてなかったからさ」
結は何を心配していたのだろうか・・・でも割とどうでもいいことなのは明白だったので
「頼賀君は変なところ感覚ずれてるから」
「わかる」
芽衣の幼馴染としての付き合いの長さからの感じ方に廻陰が真っ先に反応する
「あの、廻陰さんがそれ言ったらいけないような・・・?」
恐る恐る復活した頼賀が口にする
「?何故だい?」
「結のことになると殺意マシマシの雰囲気になるから」
「結が可愛いからね!!それに結は私が守ると決めたから!!」
堂々と言うとその人の結の方は参った様子で
「過保護は勘弁してください・・・時々ある空回りした時も酷いので・・・」
「結もいろんな意味で大変なんだね・・・」
悩みの種であることを察しフォローする
フォローはするがやはり気になるので
「んで、どんなことがあったの?」
「二人で銀行行ってたら立てこもりに遭遇してぶちギレた姉さんが立てこもり犯五人を三秒で全員昏倒させたり」
「「え?」」
「通り魔がナイフで僕のお腹を刺そうとしたときは瞬時に見抜いて素手でナイフつかんで握りつぶしてその人を拘束したり」
「「ナイフを握りつぶす!!?」」
二件だけでも訳が分からないレベルでこれ以上は発狂の危険があったのでこれ以上はまた今度とした
「なんでそんなことが出来るんですかね?」
頼賀は恐怖を通り越して諦めとも呆れともとれる言葉しか出せなくなった
「結に手を出そうとするやつらには容赦しない」
そしてと続ける
「例え君たちであったとしても結に手を出すなら殺すから」
その目はだれも信用しておらず、冷酷でいつでも殺せるというのを感じた
思わず頼賀と芽衣は恐怖する
「ま、」
しかしすぐにその顔はいつもの穏やかな調子に戻り
「そうなることはないだろうね。だって結の大切な友達だから」
そう言って微笑む
あまりにも雰囲気の差がありすぎて芽衣は緊張が解けた反動でベッドに倒れこんでしまった
「今の何・・・?私の知ってる廻陰さんじゃない」
一方の頼賀は体制を崩して車椅子から転げ落ちていた
「エリスモンの気配の強化が無くてもわかる・・・やばい人だ・・・」
二人の底知れぬ恐怖に内に宿る三体
頼賀に宿るエリスモン
(これがミオン・・・?僕怖い)
もう一体、パルスモン
(なんだよ・・・まるでこれまでに殺すのに何のためらいもない・・・いや、今までに何万と殺してきたような雰囲気だったぜ・・・)
芽衣に宿るデュラモン
(なんだ・・・?これが人間なのか?信じられないほどの殺気・・・)
三体とも恐怖や危惧といった不安を感じており、共通の認識としては
『敵に回してはいけない』
だった
不穏な雰囲気に耐えられなかったのか結が口を開き
「姉さん・・・ものすごく危険人物に見られてますよ?僕と本音で話してくれなくなったらどうしてくれるんですか?」
「結が無事でいてくれれば私は何だって良い」
「じゃあ姉さんを埋めないと」
「大根になった気分で見守らせてもらうさ!」
「誰かこの人を止めろ!!!!!!」
「「お前くらいしか止められないんだよ!!!!!!」」
「??人参、玉ねぎ・・・ジャガイモの方が良かったか?」
「「「違う!!!そういう問題じゃねえええええええええええええ!!!!!」」」」
恐ろしくも賑やかな病室に全員が日常を感じていた
「・・・とりあえず明日俺たちは退院として、明後日終業式じゃねぇか・・・病院生活で残りの学校消えたんだが・・・」
「結辺りって疫病神なんじゃないの?」
「ししししし失礼な!!」
「結、何を話すにしろ相手の目を出来る限り見なさいな」
1人の絶望
1人の疑いの目
1人の必死の否定
1人のフォロー
(ふふ、やはりこの姉弟は面白い)
(否定しきれないんだな・・・)
(疫病神呼ばわりは言い過ぎだな)
(ヤクビョウガミってなに?)
(お前は知らなくていいんだよ・・・知らないほうが幸せな時もあるんだ・・・)
(????そう・・・なの?)
宿るデジモン達も複雑でありながらも各々平穏を感じていた
そして夏で長い日が暮れ姉弟は去った
二人と三体となった病室で過去を語り合う
「にわかには信じ難いんだけど・・・本当に育成してた二体なの?」
「そうだと・・・思うんだけど・・・」
(ねえ、ライガはメイのことが好きなの?)
(いきなりどうした!?エリスモン)
(だってライガは少し前に「メイは大丈夫かなあ」って心配してたし、今すっごくうれしそうなんだもん!)
(あー確かにめっちゃ笑顔だな。両親も良いって言ってるんだったら結婚しちまえば?俺達も問題無いしな)
(いや、なんでお前らも結婚させようとしてんだ!幼馴染の心配くらいしてもいいだろ!!)
(だったらライガとメイの出会いとか聞いてみたい!)
「はっ!!?」
動揺のあまり声が漏れる
それはもちろん芽衣にもきかれ
「どうしたの?」
「・・・エリスモンが俺たちの出会いとかについて知りたいって言ってきてて・・・」
(お、それ俺も興味ある)
「デュラモンも興味があるって・・・別にいいんじゃない?聞かれて困る話じゃないんだし」
「俺は困る!!」
「なんで?」
「小さいころとはいえ・・・覚えている限り恥ずかしいから・・・」
「相棒さんたちにも聞かれたくないほど?」
「・・・うん」
少し間が空き
「そうねぇ、であったのは四歳くらいの頃かな・・・今からだと十一年前くらい、もしかしたらもう十二年になるかもだけど」
「何語りだしてんだお前!!」
スルーされて語りだされ頼賀は激怒する
「えーだって」
と意地悪な笑みで続ける
「頼賀君の恥ずかしがる顔が久しぶりに見てみたいんだもん」
「お前はそういうやつだったな・・・やらかしたあ」
つまり新庄頼賀は間抜けにも芽衣の性格を忘れてしまい墓穴を掘ってしまったのだ
そんな頼賀の嘆きを無視して芽衣は続ける
詳しいことは曖昧なんだけどね
公園で理由もわからずに泣いていた私に頼賀君が近づいてきてね。こう言ったみたいなんだ
「いっしょにあそぼ」
ってね。幼かったからこういうことが出来たんだと思う
手を差し出されて私はその手を掴んだ
偶然にも家が近かったから遊ぶ頻度が多くなって、たまに家の用事で家を空けないといけない時に預かったり預けられたりする仲になってね
どんどん交流が続いていったんだ
そんな中で二年がたった
五歳くらいになると少しは考えて行動できたりしてね
私は自分が泣いている理由について告白したことがあってね
「私が小さいころにお兄ちゃんが死んじゃって・・・それで・・・それで・・・」
「じゃあ僕が守るよ!!」
「え・・・?」
「僕が芽衣ちゃんを守る!芽衣ちゃんの笑顔が好きだから!!」
そんな感じで私は頼賀君に惹かれていった
「ふふ、頼賀君が恥ずかしがるのもわかるんじゃない?そして私はそんな頼賀君の姿を見るのが好きなの」
「だから・・・やめろって・・・」
((ライガ・・・))
「もうやだ・・・せめてこの場に結たちがいないのが救いか・・・・」
「でも・・・そんなに恥ずかしがることじゃないと思うんだけどね」
「なんでだよ・・・」
「だって頼賀君が優しいっていうことなんだから・・・じゃなかったらその子たちがあなたのことが好きだっていう理由がちょっと想像つかないな」
「地味にひどくない!!?それ俺に優しさ以外に長所ないってことだよね!!?」
「うん、そうだよー?だって運動神経は並で良くも悪くもなんでも普通なんだから」
でもと続ける
「優しいから私にとっての支えになってる。その子たちも・・・きっと優しいままでいてほしい、そんな願いがあるんじゃない?」
(うん!僕はライガにずっと優しいままでいてほしい!!ライガにずっと笑っていてほしいんだ!)
(ああ、そうだな・・・ライガが幸せなら俺達も幸せなんだ・・・たまには俺たちに悩みを打ち解けてもいいんだぞ?)
「・・・なんでみんなそんなに・・・」
そこで言葉は途切れ嗚咽となる
(ふ、誰でも弱い部分はある。彼の場合は自分に関すること・・・か)
(いいじゃない、そういう部分があっても。そういうところも頼賀君の魅力なのよ!ああ、楽しい。いじくりまわすの楽しい!!生きてるって感じられる!!!!!)
(随分と鬼畜だな)
それぞれの思いを吐露し、関係を知ったデジモン達は確かなつながりを感じていた
唯一デュラモンだけ、芽衣の性格の悪さに苦笑していたが
(ねぇ、ライガ扉の前に誰かいない?)
嗚咽が収まってきた頼賀にエリスモンが伝える
扉を開けてみると
「あーあバレちゃったかーふふ」
二人の担当医、新月藍がいた
「「・・・まさか」」
最悪の可能性を考え口にしてしまう
「ごめんねー調子はどうかなーって確かめに行こうとしたらね、話し声が漏れてたから耳を澄ませて聞いてみちゃったのよ」
「・・・どこからなんですか」
「頼賀君と芽衣ちゃんの出会い話辺りからかしらね」
割と最初からだと・・・?
今まで何にも気配を感じなかったことに恐怖する・・・
もしくは熱中しすぎて気づけなかったか・・・
「大丈夫よ、あの子たちには言わないでおいてあげるから。そもそも今は別居してるし言える機会は少ないと思うけど」
そう言いながらもくすくすと笑っていた
「でも意外ねぇ」
「な、何がですか!」
藍の言葉に少し強い口調で真っ先に頼賀が反応してしまう
「だって、二人のことはあんまり知らないからどうしてあそこまで互いを思い合ってるのか不思議でしょうがなかったのよ。どうりでご両親があれこれ相談していると納得したわ」
「いったいこれでどこまで把握したんですか?」
「さあ、私は誰の心にも深くは立ち入らないと決めているからね」
そう言いながらさっさと確認を済ませる
「まあ、なにはともあれ二人が五体満足でよかったよ」
「そういえば・・・誰に運ばれたんだっけ・・・?」
芽衣が今までが盛り上がりすぎてスルーしていたことに疑問に持つ
「廻陰と結が抱えて運んできたのよ」
えぇ・・・
と困惑する
「廻陰はね、ただ結を守るだけじゃなくて、結の幸せを守りたいっていう思いがあるからあなたたちを助けようとするのよ。結が友達を亡くしたら・・・絶対に悲しむでしょうしね」
それにお続ける
「廻陰と結は互いに両親を亡くしているから・・・一個でも年上でお姉ちゃんだから・・・っていう責任感もあるのよ」
「そんなに暗くならないで!夕食食べて早めに寝なさいな」
じゃあと藍は病室から出て行った
確認をすると時刻は夜七時を回っていたようだ
じゃあと別れ自分の病室に戻る頼賀
(姉弟ねぇ・・・)
(?あの二人がどうかしたの?)
(いや、ただ気になってな)
(気になった?)
(何か・・・廻陰さんがあそこまで変わる理由は分かったけど、流石に異常な気がする。だって考えてみてよ。あの雰囲気は自分のことを考えずに結だけのことを考えている・・・そんな感じだった。誰もが自分の命を大事に思うはずなのに・・・)
(・・・それくらいミオンはユイのことが大好きなんじゃないかな?)
(いや、エリスモンそれで片づけるのは・・・考え過ぎかな?)
(疲れてるんじゃね?まあランの忠告通り早めに寝とけ)
(そうさせてもうかな・・・)
(じゃあ僕は寝るね)
(俺も)
(え?早くない?)
((おやすみー))
その一言の後には二体に精神を集中させると寝息が聞こえる程度であった
まったく・・・と思いながら寝てくれたのは好都合だと感じる
そう思いながら荷物から取り出したのは一冊の本
横からのぞくとざっと三百ページ分はあるように見えた
そして留め具にもこだわられているちょっとだけ高級感のある本であった
「この日記帳のことを見られないのはいいことかな?」
ふふ、と笑ってしまう
7月17日 火曜日
そこまで書いて手が止まる
何書こう?流石にこればっかりはエリスモンやパルスモンにみられるわけにはいかないのでわざわざ寝静まるのを待ったのだが・・・
だから書きたいこと全部書いてしまえ!!
と浮かんだこと、思ったことを手あたり次第文章にしていく
とりあえず最低ラインまで書くことが出来、頼賀も寝ようとした
時刻は午後10時を回ろうとしてしまっていた
日記を書くのに2時間以上も使うとはと頭を抱える
ま、と寝静まっているエリスモン、パルスモンに目をやる
寝顔を拝みつつ
(君たちに出会えてよかった・・・この気持ちは嘘じゃないってわかる気がするよ・・・)
微笑みつつ日記帳を留め具で閉じる
元あったカバンにしまい
眠りにつく
一時の平穏に
素敵な出会いに
幼馴染の無事に
感謝をして穏やかなまま眠りにつく
夢の中でエリスモンとパルスモンを抱きかかえられた気がした・・・
ああ・・・君たちに触れてみたいと新たな願いが出来てしまったようだ
穏やかなまま意識が消える