静寂に包まれる 今どうなっているのか分からない 誰かの鼓動と共に 何かの線が聞こえる 病院で何度も…何度も聞いたあの音に近いものが 死んだのならこうはならない 恐らくこれは走馬灯 なにかあったときに記憶が巡ってくる…っていう ああ…俺は死ぬのか… あいつを支えるって決めたのに あいつのあんな悲しそうな顔をもう見たくなかった… けどなにも出来なくて… でも・・・このままで終わらせたくない まだ何も出来てないじゃないか・・・ まだまだこれからだっていうときに 何もできないまま終わるなんて・・・
新月結は急いでいた
いや、正確には新月結だったもの・・・か
今は『ヒシャリュウモン』というデジモンとなって空を駆けていた
以前に追っ払った不良の上と思われるものたちに友人である新庄頼賀と菜月芽衣がさらわれていたため、一刻も早く助け出す必要があったのだ
(足止めでも完全体五体・・・姉さんは大丈夫だろうか)
(問題ねぇだろ、俺たちが追撃で一体落としたしお前に危害加えようとしてるのが明確な奴らを廻陰が容赦しないしな。それに奥の手もあるしな)
足止めの相手を姉の廻陰に頼んだ結の心配にヒシャリュウモンの力の大本であるオウリュウモンが語り掛ける
(ま、今は目の前のことに集中しろ。姉を信用しているならなおさら・・・な)
(うん、ありがとう)
オウリュウモンの言葉で再び前を向く
目的の場所が見えたあたりで目の前に立ちふさがるものがいた
それはこの場合、まったく予想できなかった相手だった
思わず口を開く
「なぜ・・・あなたがここに・・・ジエスモン!!」
「お前が不吉な気配の正体か?」
白い骨のようなものが浮かびあがったかのような姿に両腕と尻尾に大きな剣を持ったデジモン『ジエスモン』がそこにいた
そしてそのジエスモンはアルファモンが探しているロイヤルナイツの一体であった
「まさかここでジエスモンと遭遇するとは・・・予想もしなかったな・・・」
「なんだ?その様子ではお前がこの気配の大本であると?それに時空のゆがみも感じた!お前は何を企んでいるんだ!」
口ぶりからして今表に出ているのはジエスモン自身のようだった
どうやらジエスモンは別の事情でここに来たらしいが誤解されてしまっているようだった
アルファモンの探している仲間である以上、変に戦うことが出来ず、かといってこのまま通してくれそうな雰囲気ではない
足止めして廻陰が来るまで持ちこたえるか・・・それとも説得をするか・・・
「すみませんがこちらは急いでいるんです。友達がさらわれてこのあたりにいるはずなんです」
「そう言って僕をだますつもりか!!」
「ああ・・・話が通じてくれないよう・・・・」
自分の口では無理だと悟った結はダメもとで
(ねえ、オウリュウモン)
(なんだ?)
(説得できない?)
(無理だな、アルファモンならともかく俺はロイヤルナイツとはほぼ無関係だしな。信用してもらえる要素がない)
何かの間違いで何とかなってくれとも思ったが難しそうだった
ならば最終手段として
「すまないが、僕はあんたに恨みとかそんなものはないが・・・非常事態なもんでね、押し通ってでも行かなきゃいけないんだ!」
「そうか、なら僕がお前を倒す!」
結にとっては不本意な戦いではあったが避けて通ることは出来そうになく
完全体VS究極体(ロイヤルナイツ)の戦いとなった
戦い自体ははっきり言えば膠着していた
ジエスモン自体ロイヤルナイツの方でも経験が浅い方であるためオウリュウモンの戦闘経験が共有されている結にとっては完全体のヒシャリュウモンでも捌くだけなら何とかなってはいた
相手の動きに合わせ少しずつカウンターを入れて隙ができるのを待つ・・・それが結の選択であった
「どうした!捌くだけでは倒せんぞ!!」
「ロイヤルナイツの言葉・・・ずしッと来るなあ・・・」
徐々にこちらが押されていった
(やっぱり相手の素の能力の高さを戦闘経験で無理やりカバーしてるだけだからなあ・・・)
(究極体の力使うか?今回はやむを得ないとして許容できるが)
今回の相手はただの究極体ではなくロイヤルナイツ・・・新米ではあるが、それはつまり想像もできないポテンシャルを秘めているという意味にもなる
唯一、この状況で突破できるとすれば究極体、『オウリュウモン』に進化すること・・・しかしそれはこの相手では賭けに等しかった
(『シュベルトガイスト』・・・もし全方位カウンター技をされたらどちらもただでは済まなくないのは明白・・・頼賀と芽衣を助けるどころじゃなくなる)
(なるほど、図鑑の情報ではあるが確実に相性が悪い技があるとわかっているから渋ってたわけか)
(え?警戒しないの?)
(すまん、俺はとりあえず斬るみたいな感じだからな。考えるのはアルファモン(あいつ)の仕事だったし)
(それでいいのか・・・)
相棒(オウリュウモン)の回答に戦闘中でも苦笑してしまう
ヒシャリュウモンの姿でも苦笑しているのが分かってしまうのか、ジエスモンが攻撃の手を緩めずに問答を始めた
「っ!おまえ、何がおかしい!」
「いや、あなたに関しては何もおかしく思ってない。ただ相棒がこのタイミングで困惑する回答をするもんで、ね!」
そう答えると結はジエスモンと距離を取る
「相棒・・・だと?お前は今一人のはず・・・一体どういうことなんだ・・・?」
「一人で戦っているわけじゃないっていうこと」
必要最低限の情報だけで済ませる
だが、これまでジエスモンとコンタクトが取れなかったことを考えると人間の体に宿り姿を隠していたと考えるのが妥当か・・・単体ならば起きるはずの消滅の兆候もない
(問題は共存か乗っ取っている、もしくは本当は人間側が表の状態で使役されている状態なのかだ)
共存しているのであれば比較的状況の説明がしやすいが使役されている場合は意識を目覚めさせなければならない。それに変に情報を伝えることも出来ない。最悪精神が取り込まれている形で融合してしまているかもしれない。乗っ取っている場合は元の人間の精神がどう影響してしまっているのか・・・昔やっていたゲームでは人格を変えてしまうほどの影響があるときもあった。
常に最悪を想定しておけ
(いつだったかアルファモンに言われたことがあったかな)
最悪を想定・・・?
最悪・・・?
そういえば状況に動きが・・・?
結はハッとなる
ジエスモンと戦っていたことで頭から抜け落ちていた要素があった
『時空のゆがみも感じた!』
確かにジエスモンはそう言っていた
一番の可能性としては
デジタルワールドとリアルワールドがつながった可能性・・!
結は急いで気配を研ぎ澄ます
するとかすかに見える倉庫で完全体レベルのデジモンの戦闘を感じ取ることが出来た
そしてそのうちの一体の気配が消えかけであった
(しまった・・・ジエスモンの攻撃を捌くことに気を取られて・・・もしこの消えかけの気配が頼賀ならばまずい!)
背後から攻撃を受けるのも厭わない形でジエスモンを無視してでも先に行こうとする結に
(・・・待て、俺たちが来た方向から一体・・・さっきの五体の内の一体が来るぞ!!)
オウリュウモンの言葉を聞き後ろを振り返る
全速力でこちらに飛んで来る吸血鬼・・・完全体のヴァンデモンがいた
その目は必死な目であった。恐らくは廻陰が取り逃がしてしまったが追われているということなんだろう。結を人質に出来れば戦況が変わると考えるのは容易かった
そして必殺技の構えをする・・・狙いは間違いなく結(こちら)だったが
その射線に結を追おうとするジエスモンが被る
だがヴァンデモンは構わずに必殺技を放とうとする・・・邪魔だから排除しようとする。ただそれだけなのだ。そして結のなっているヒシャリュウモンではもうそれを止める手段がなかった
(こっちに集中していて気づいていない・・・!?まずい!)
いくらロイヤルナイツでも背後からの不意打ちに大ダメージを負わないという保証はない
そしてもし仮にジエスモンに何かあればこちらにも大打撃を被るのは明らかであった
(狙いは僕だ・・・明確な敵じゃないジエスモンにここでダメージを受けてはいけない・・・!)
(この世っていうのはなんでも出来るわけじゃない。俺はお前が頼賀たちを優先しても咎めないぜ)
(おそらく姉さんはすぐそこだけど今は間に合わない・・・なら!!)
「ナイトレイド!!!」
ヴァンデモンが必殺技を放つ
「何!?背後から!!」
目の前に熱くなり過ぎていたジエスモンは不意をつかれる
急いで受けの体制をしようとしたが
さっきまで向いていた方向から自身が追おうとしていた竜(ヒシャリュウモン)が割り込む
(な・・・なぜ急に戻ってきた・・・まさか!!)
ヒシャリュウモンがジエスモンを庇い『ナイトレイド』を全身に受ける
「ぐうっ!!あああああああ!!」
ジエスモンには意味が分からなかった
仲間でもなんでもなく今遭遇したばかりの、それも敵であるはずの存在が庇うなど
ヴァンデモンの必殺技を受けヒシャリュウモンが飛ぶことを維持できなくなり地面に落下するところでジエスモンが両手でキャッチする
「なぜ庇ったんだ・・・敵であるはずなのに」
ジエスモンにとって解せない問であった。進化レベルはジエスモンの方が完全体の1段階上の究極体であるにも関わらず庇う行動に・・・
それに対して結(ヒシャリュウモン)は少し笑って答える
「あんたにとっては敵かもしれないけど、こっちにとっては違う。深手を負われるとアルファモンが困ってしまうから・・・かな」
ジエスモンにとっては信じられない内容であった
このデジモンが自分と同じロイヤルナイツであり抑止力であるアルファモンの仲間であったことに動揺を隠せない
一方でヴァンデモンの方は会話の内容は分からなかったが白いデジモンが動揺している様子を確認した瞬間、追撃を放とうとする
「ナイトレイド!!!」
「誰の許可を得て」
一瞬だった
気配を感じる間もなく
『それ』はいた
「弟に手を出している」
放つより早く
後ろを向くよりも早く
胸を刺し貫かれた
「ガアッ!!!?」
その光景を見てジエスモンは動くことも出来ずにいた
動くことが出来たのは
胸を刺し貫かれたヴァンデモンを空に放り投げた『赤い竜』がこちらに寄って来た時であった
「結・・・!大丈夫か!!」
赤い巨体をしたデジモンは自身を庇った竜のことを『結』と呼んでいた
「何とか大・・・丈夫、姉さん、それ・・・よりあっちを・・・頼賀たちを・・・」
絞り出すように結が話した・・・
ああ、わかっている・・・そう言い赤い竜、ドルグレモンとなっている廻陰がジエスモンの方に顔を向ける
「あんたは・・・ジエスモン・・・なぜここに?・・・ん?そうですか、じゃあジエスモンと話をつけて」
なにかと話しているような話し方をして
一瞬で雰囲気が変わる
「ジエスモン、君が無事なようで良かった・・・私はアルファモン、と言っても今は完全体のドルグレモンだがね・・・彼女の身体を借りて今君と話している。」
その竜は自身ををアルファモンと名乗った・・・
「今僕が無事なのは庇ってくれたからです・・・あなたがアルファモンというのであれば姿ぐらい見せてください。そうでなければあなたをアルファモンと認識はできません」
「ふむ・・・信用してもらうには致し方がない・・・か。いいだろう、一瞬だけだが究極体となろう。ただしあまり究極体での活動はできないことを分かって貰いたい」
そう言うとドルグレモンは光に包まれ一瞬だけ黒い鎧に青いマントをした騎士となった
「・・・」
「これでどうかな?信用してもらえるといいのだが」
「わかりました・・・あなたを信用しましょう・・・ですがあなたは『空白の席』のはずのです!事態を教えてもらいたい」
「ああ、約束しよう。だが今は私の仲間であるこの子らの友人に危険が迫っている。それもデジモンの力を悪用している者たちによってだ。私にとっても無関係では済まない事件なんだ。まずはそれを何とかしたい。協力してくれるかい?」
「庇ってもらった礼には足りませんが・・・はい。もちろんです。僕も確かめたいことがあるので」
「ああ、頼む。それとその子を頼む。今はダメージが大きく身動きを取れる状態ではないのでな・・・守ってほしい。廻陰、用が終わった、変わるぞ」
そう言うとアルファモンだった雰囲気が戻る
そして三体のデジモンは異変の中心へと急ぐ
「うっ!!」
鈍い痛みが全身に広がり感じる
(殴るなり蹴るなり・・・好き勝手・・・頼賀は・・・)
男に暴行されていた少女、菜月芽衣は自分の前に暴行されていた新庄頼賀に目を向けた・・・
「ん?そいつのことが気になるのか?」
煽っているようにも思える様子で暴行するのをやめた
(むかつくけど・・・確認するなら今しかない)
片足を引きずる形で立ち上がり、全身すり傷と打撲の身体で頼賀に駆け寄る
(さっきから頼賀が動いてない・・・普通なら痛みで暴れたりするはずなのに・・・強大な再生力があっても痛覚は感じるはずなのに)
疑問の中で最悪の可能性が浮かび、必死に否定しようとする
芽衣が頼賀の腕に触れ動揺する
「ッ!?そんなはずっ!!」
勘違いだと思いたかった
そんなはずないと思い
今度は胸に・・・心臓の上に手を触れる
「そんな・・・・」
そして絶句した
男たちは特に気にもしない様子で「ん?」と言っていたが今の芽衣には届かなかった
「『心臓が動いてない』なんてそんな・・・嘘・・・嘘だといってよ!!」
自分の肌で、その手で感じたはずのものを否定するかのように
芽衣は頼賀の頬をつねったり叩いたりしたが全く反応がなかった
芽衣の目から大粒の涙がこぼれ落ちる
芽衣の嗚咽を聞いた男たちは状態を悟り
「へぇ~そいつもうくたばっちまったか・・・よえーな」
「女がうるせえから同じところに送ってやってもいいですかね?」
「好きにしろ。どうせ死体でもやることは変わんねぇんだからよ」
男たちにとって二人はただの道具であった
自分たちが強いコマを得るための・・・
男の一人が芽衣に近づいたとき
空が斬れた・・・正確には時空が
思わず男たちはその先を見る
芽衣も涙でぼやけた目でその先を見る
そこから現れたのは金色の姿をし、両手が剣となっていてさらに背中に大剣をもつ・・・
『デジモン』であった
そのデジモンが現れると斬れた時空はふさがった
「へぇ・・・なかなか強そうじゃねーか・・・あいつもコマにしましょうや!」
そう言い男たちはデジモンの身体はデジモンへと変化した
ある者は黒い人狼、ある者は昆虫の身体に竜の腕を持った異形・・・様々な姿に変わるが芽衣は一切目を向けずに何かに取りつかれたかのようにただそのデジモンだけを見ていた
男たちが変化したデジモンの一部が先手必勝のごとくそのデジモンに向かって走り出したその時
一瞬のうちにそのすべてを薙ぎ払った・・・少なくとも十は居た数を一瞬で・・・
そして薙ぎ払ったデジモンが芽衣たちに飛んで来る
心臓が止まっているとはいえ頼賀を見捨てることのできない芽衣は無謀だろうとわかっていても覆いかぶさって守ろうとする
が、芽衣には一切の衝撃がなかった
否、届かなかった
あのデジモンが薙ぎ払って飛んできた男たちが変化したデジモンより早く芽衣と頼賀の前に立ち、そして弾いた
(守ってくれた・・・?)
芽衣が顔を上げるとそのデジモンの背中があった
こちらが顔を上げたのに気付いたのか
そのデジモンは顔だけをこちらに向けて
「俺は『デュラモン』だ・・・大丈夫か?」
とだけ言った
デジモンが現れるだけでも訳分からないのに自分の意志で守ってくれて心配までしてくれている・・・
残酷なばかりではないと希望を持てた気がした
それになぜかは分からないけれど安心感があった
芽衣はうなずき
「私は大丈夫・・・でも彼が・・・頼賀が・・・」
倒れている頼賀に目をやりながら答える
それを聞くとそのデジモンは前に向き直りながら小さな声で何かつぶやいた
芽衣にはその言葉を辛うじて聞き取ることが出来た
俺が・・・守るんだ
そう呟くと守ってくれたデジモンは一瞬で残った男たちを薙ぎ払う
(すごいはやい・・・これがデジモン・・・頼賀がはまってたやつ・・・)
何が起こっているのかは分からなかったがあのデジモンが戦っているのは分かった
芽衣に出来たのは見ることだけだった
数分が経ち、残りが三体となった
だが、芽衣たちを守ったデジモン『デュラモン』は自身の身体の異常を感じていた
(おかしい・・・身体が散り散りにになるようだ・・・くっ)
その様子を芽衣が見て異変を感じ取っていた
(あれ・・・?デュラモンの身体から・・・なんだろう光みたいなのが散っているような・・?それに苦しそう)
そしてついに膝をついた
さらに息が荒くなっていた
その様子を見て人間状態の時に黒いコートと帽子を被っていたリーダー格の男・・・今は黒い鎧、マントを纏い、赤い槍を持ったデジモン・・・『ダークナイトモン』が口を開く
「ふふふ・・・流石にこの数では君であってもどうにもならないということかな?いや?それとも元からダメージがあって傷口が開いたのかな?」
嘲笑いながら考察を立てていた
デュラモンはその言葉に耳を貸さずによろけながらも立ち上がる
(まだ倒れるわけには・・・折角師・の気配がするというのに)
それに
守らなければならない
本能に似た何かがそう叫んでいた
選択肢は二つだった
一つ目は二人を抱えてこの場を離れるか
二つ目はこの身体に鞭打って三体の相手をするか
一つ目は現実的ではなかった
完全体・・・それも三体からこの手負いの身体で撒ける可能性が低かった
二つ目も難しかった
自分の身体がどこまで持つかによる賭けであった
「ぐ・・・ならば」
とデュラモンが構えると
「無駄な抵抗はやめておとなしくしたまえ、自分の命を縮めるめるだけだぞ?」
ダークナイトモンが降伏を促す
「断る・・・ここで見捨てたら後悔してしまう」
それにと続ける
「俺の17年間の修行の意味が無くなる」
決意の目をしていた
その目を見るとダークナイトモンは
「なら、死ね」
2体の配下を差し向けるが
(持ってくれよ・・・)
デュラモンは両手の剣を構え
「グラスラッシュ!!」
自身の必殺技で配下である2体を一撃で斬る!!
それに間を開けず
ダークナイトモンの懐に潜り込み
「はああああああああああああああああ!!!!」
背中の大剣を使い、わき腹に一撃をたたきこむ!!
「ぐあああああああああああ!!」
たまらずダークナイトモンは苦しみながら右手に持つ槍で反撃する
「ぐ、おおおおお!」
堪えながらまた少し、また少しと傷を広げていく
「ええい!ならば望み通り殺してやるぞ!!」
ダークナイトモンが自身の武器である槍で
「ツインスピア!!」
必殺技を放つ
「ぐ!!」
鈍い音が響き
デュラモンの大剣が砕け芽衣の方向に吹き飛んだ
「デュラモン!!」
思わず芽衣が嗚咽の混じった声で叫ぶ
「随分とてこずらせてくれたな・・・だが、もう終わりだ」
ダークナイトモンが再び余裕そうな口調に戻る
残った芽衣はただの平凡な日常で過ごしてきた人間
廻陰や結みたいに鍛えたりしていない、並程度の身体能力
だからたとえダークナイトモンが深手を負っていようとも関係がなかった
いや、そもそも芽衣はデジモンを宿しているわけではない。
故にダークナイトモンの視認は出来なかった
それでも雰囲気だけで察知することはできた・・・デュラモンがいた影響だからだろうか
(いや・・・こんなところであんな奴らに殺されるなんて)
芽衣は泣きながらも希望を捨てようとはしなかった
幼馴染である頼賀が死んだとしても
守ってくれていたデュラモンが倒れたとしても
諦めていい理由にはならなかった
頼賀の手を握り立ち上がろうとする
(何も出来ずに・・・ただ泣いているだけで終わりたくない!)
「え?」
芽衣は何が起きたか分からなかった
ただ分かったのは
『手を握られる』感覚だった
「・・・ガ」
ぼんやりと声が聞こえた・・・声自体は初めてのものであったがどこか懐かしかった
「・・ーい!」
なぜかは分からない・・・
『二人分』の声がした
段々と意識がはっきりしていく
目を開けるような感覚を取り戻すとそこに『灰色と黄色の針のような毛をした』ものと『シューズを履いて黄色い体をし白い角みたいな前髪をした』ものがいた
思わず驚き後ずさりする
「良かったーやっとライガと会えた!」
「俺たちの第一目標は達成だな!」
そう言うとその2体はハイタッチをする
訳が分からなかったが
これってまさか・・・
頼賀にはその2体に見覚えがあった
かつてはデジモンにハマっていたころ、とあるゲームとおもちゃで初登場したデジモンだったのだ
そしてそのおもちゃで特に愛着を持って育てていた2体であった
「まさか・・・『エリスモン』と『パルスモン』・・・?」
その言葉を聞いた2体はさらに喜び
「やった!僕のこと覚えてる!!」
「俺のこともだ!!」
と大喜びしてしまった
(ん?『覚えてる・・・・』?まさか・・・!)
「もしかして・・・数年前まであれで育てていたデジモンが君たちだっていうのか!?」
「「うん!」」
なんの疑問もなく2体は声をそろえて言った
ゲームで育てたデジモンと会えるなんてゲームの中でしかなかったのに・・・
一時の夢だとは思えず夢であっても
涙がこぼれ落ちる
「?ライガ泣いてる・・・悲しいの?」
「大丈夫かー」
すぐに涙に気づき心配してくれる
それに答えようと
ただ・・
「嬉しいんだよ・・・でも謝りたいんだ」
「アヤマルって何を?」
エリスモンが不思議そうに聞く
「だって・・・あの頃からずっとお世話出来てなかったし・・・」
デジモンの存在を否定し始めていたあの頃・・・中学3年で親に趣味を否定されてから
デジモンから離れ始めた・・・それからお世話できていなかったことを口にする
「それか?一応保管状態だったから何ともなかったが・・・」
パルスモンが少しだけしかフォローできなかったからかエリスモンが続ける
あのゲームのように純真無垢な笑顔で
「僕たち、ライガともっともっと一緒にいたい!って思ったんだ!それでパルスモンと色々試したりしたんだけど・・・そしたらなんかいつの間にかここにいたんだ!!そしたらライガと一緒に居られて、今ではこうして気づいてもらえてお話しもできてる!僕たち今が一番嬉しいんだ!!」
その笑顔でのその言葉に頼賀の中で何かが砕けるような気がした
ただ・・・涙が止まらなかった
そしてこの言葉以外言えなくなってしまっていた
ありがとう・・・こんな俺を・・・
一通り泣いた頼賀は落ち着きを取り戻し
3人(?)で事実の確認をする
「・・・なるほど、気配の察知と結を庇ったときはエリスモンが強化してくれていたのか・・・」
「ごめん・・・その時の僕じゃそれが限界で・・・」
「謝る必要はないさ、こんな俺を手助けしてくれただけでもありがたいのに」
そしてと続ける
「俺の強大な再生力の正体はパルスモンがやってくれた生体電流の強化による自然治癒の強化ということなのか」
「俺にかかればその程度朝飯前!無事早めに回復してくれて一安心したんだぜー俺達」
「つまり命の恩人っていうことだよね。本当にありがとう」
『ありがとう』という言葉に反応したのか照れくさそうに顔が赤くなり前髪がとんでもなく動いていた
お礼を言われるのに慣れていないのだろうか
思わずくすっと微笑んでしまう
それを見たエリスモンも何かを感じ取ったのか嬉しそうに笑ってしまう
「笑うな!!これはその・・・とにかく笑うな!!いくら二人でも電気ショック喰らわすぞ!!」
恥ずかしさのあまりうまく感情をまとめられないままパルスモンがキレてしまった
「ごめんねーなんていうかギャップを感じちゃったから」
「ギャップって何?」
思わず出した言葉にエリスモンが反応した
「この場合は溝・・・差的な感じかな、ほら普段のパルスモンはクールというかかっこいい感じがしない?そこからのあの照れ具合・・・普段だけしか見てなかったら想像できないでしょ?」
「確かに!パルスモンはお兄ちゃんみたいな感じだけどあんなに恥ずかしそうな顔とか今まで見たことがなかったよ!」
エリスモンは良くも悪くも思ったことをそのまま言葉にしてしまった
「お前らやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ビリッとした音ともに二人分の悲鳴が響いた
夢みたいな感じでも電気ショックはなかなかに効いた
「い・・・いてぇ・・・」
「まだびりびりするぅ・・・」
頼賀とエリスモンがまだ少し痺れているところに
痺れさせた張本人が話し出す
「んで、ライガ、今現実あっちがどうなってるのか把握してるのか?」
「?えーと・・・さらわれて・・・」
少しずつ覚えている記憶を引っ張り出してハッとなる
「芽衣・・・芽衣!!!」
大切な幼馴染のことを忘れてしまうなんて・・・と頭を抱える
「なあ・・・教えてくれ、今の俺はどんな状態なんだ。外は芽衣は・・・」
「えっとね・・・ライガとメイを守ってくれたデジモンが瀕死でなにか・・・消えかけてる・・・多分病院でアルファモンが言ってたことだと思う・・・存在を維持できないっていう・・・そしてそのデジモンが最後の一体・・・黒い鎧をしたデジモンに一撃を入れたところ」
気配に敏感なエリスモンがデジモンについて話し
「メイは無事・・・だけどダークナイトモンだっけ?がどんどんメイに近寄ってきてる」
それと・・・
「ライガの心臓・・が止まってるんだ・・・」
意味が分からなかった・・・芽衣はまだ無事であるが芽衣を守ってくれた正体不明のデジモンは瀕死であり単体であるが故に消滅の危機に瀕していると
だが何より
「俺の心臓が止まってる・・・?」
自分が事実上死んでいるといわれたも同然の発言に血が引いたような気がした
「じゃあ・・俺は・・・もう・・」
膝をつき絶望していると
「再び心臓を動かす方法はあるんだけどね」
パルスモンが言った
「でも心臓を動かせたとしてもあの・・・ダークナイトモンをどうにかしないといけないから・・・」
エリスモンが申し訳なさそうに小さな声で答える
「ねぇ・・・二人に確認したいことがあるんだけど」
頼賀は二人に対して質問を飛ばしてみる
「君たちの力を俺の身体で表現・・・例えば俺の身体をエリスモンとかにはできる?」
2体は多分とうなづいた
「なら次・・・仮にエリスモンになれたとする・・・もう一方の補助って受けられる?たとえば生体電流の強化で足を速くさせたり身体に電気を纏わせたり」
できるけど・・・と答えた
「じゃあ最後・・・どこまでの進化レベルまでできそう?」
エリスモンは
「・・・多分すぐに完全体とか究極体は無理だと思う・・・身体のダメージもあるしある程度慣れたり経験がないと振り回される結果になりそうだから・・・今は成熟期・・・フィルモンまでかな」
パルスモンの方は
「エリスモンとほとんど同じ・・・電気を操るコツとか掴まないと巻き添えやっちゃいそうだから・・・」
2体とも成熟期までの力なら許容できると
それを聞いた頼賀は
「少し賭けになるけど不可能じゃない・・・成熟期程度の力でも構わない、芽衣を守りたいんだ・・・頼める?」
2体は互いに顔を合わせてからこちらを向き
力強くうなずいた
まだ手段はある・・・あとはチャンスをものにするだけ
頼賀は芽衣のもとへ・・・現実へと急ぐ・・・
例えこの出会いが現実でなくとも見捨てられないから
芽衣は握られた手を見て驚く
驚かないほうがどうかしていた
心臓が動かなくなってはや10分ほど
本当なら死んでいるはずの人間が息を吹き返すとは思わなかったから
ゆっくりと頼賀の身体が動いていく
そして芽衣の手に力を入れ立ち上がった
「ん・・・あれ・・・?これどういうじょうきょ・・・!!?え?芽衣の手を握ってゴハッ!!」
状況が呑み込めないまま芽衣が手を握っていることに気づいたが、その芽衣に頬を引っ張たれてしまう
「驚かすなばか!!」
泣きながら罵声を飛ばすが
その目のまま
「良かった・・・死んでなくて・・・」
再び嗚咽が止まらなくなってしまっていた
頼賀は芽衣の背中をさすりながら
「心配・・・かけすぎちゃったかな・・・?」
と声をかける
そこにダークナイトモンが動揺を隠せずに
「馬鹿な!!お前の心臓は止まっていたはずだ!!心肺蘇生もなしに蘇るはずがない!!お前・・・一体何者なんだ!!」
対する頼賀は立ち上がり芽衣から離れ
「さあね。こっちが知りたいくらい・・・と言いたいところだけどどうやらあれも現実だったみたい・・・二人には感謝しなきゃな」
「二人だと!?お前・・・チッ!!ならもう一度殺してくれる!!」
ダークナイトモンが槍を構えると
「殺されるのはごめんだから・・・」
そう言うと小さな声で
「エリスモン・・・パルスモン・・・頼む」
と呟き
(うん!)(おう!)
2体の返事を聞き
エリスモンと自分を重ね合わせるようなイメージをする
瞬間、頼賀の身体は光に包まれる
光が消えるとそこには成長期のエリスモンから進化した成熟期『フィルモン』がいた
「抵抗させてもらう!!」
姿を見れなくなったがその声は芽衣にも届いていた
状況を悟り芽衣はフィルモンとなった頼賀から離れデュラモンのもとへ駆け寄る
「大丈夫ですか・・・」
ダメージを負っているデュラモンへ声をかけた
「む・・・まだ、何とか、だが・・・あの者は一体・・・デジモンになったのか?」
頼賀のいるであろう方向を見てデュラモンは問う
「分からないけど・・・でもあれは頼賀・・・そう思える」
姿は見えないが雰囲気でそう直感する
「ならば・・・見せてもらうとするか・・・!」
状況ははっきり言えばフィルモン側が悪かった
自慢の素早さで翻弄しながら赤い爪でダークナイトモンへ攻撃をするが
(こいつ・・・硬すぎるよ・・・ライガ~)
(俺の電撃を纏わせればいけるか?)
(いや、まだだ。出来れば決め手の時に頼みたい。それより足へのブーストはいつでもできそう?パルスモン)
(合図があればいつでも行けるぜ!)
(どこか・・・弱点があれば・・・)
(ジャクテン・・・?それってあのわき腹みたいなところ?)
(わき腹・・・?)
エリスモンがわき腹と言ったので注視してみると大きく、まだふさがっていない傷跡が1か所だけあった
(次の隙でパルスモンの強化で一気に懐に潜り込み、必殺技とパルスモンの電撃でケリをつける!!)
「その目・・・何かを狙っているな?ならさせずに動くのみ!」
フィルモンがなにかを狙っていることを悟ったダークナイトモンは瀕死のデュラモンとそのそばにいる芽衣に狙いを定め
「アンデッドソルジャー!!」
必殺技を放つ
フィルモンはその方向を見て受け止めようとするが
芽衣が視線を送り指をさしていた
なにかを察したフィルモンは構わず
ダークナイトモンの懐に潜り込んだ
「ふん、最後には見捨てるか」
その様子を見て嘲笑ったが
突然デュラモンが起き上がり
最後の力を振り絞り
両手を構える
「グラスラッシュ!!」
放った必殺技はダークナイトモンの必殺技と相殺し合い再びデュラモンは膝をつく
予想外の事態にダークナイトモンは反応が一瞬遅れ
先ほど翻弄してきたよりさらに早く・・・電光石火のように距離を詰めるフィルモンに対応できず
「ライトニングスティンガー!!」
自身の必殺技でデュラモンが付けた傷跡に爪と針毛を奥深く刺し、エネルギーを流し込む
いくら完全体であっても体の中からエネルギーを送り込まれれば痛いですむはずもなくもろに受けてしまう
「ぐううおおおおお!!」
それでも槍でフィルモンを串刺しにしようとするが
(させねえぜ!!)
突然フィルモンの身体から稲妻がほとばしりエネルギーと一緒に電撃がさらに送り込まれる
感電してしまったダークナイトモンは槍から手を放してしまい
動くこともままならないまま受け続けるしかなかった
「おのれえええええええええええええええええええええ!!」
完全体であるダークナイトモンにとっては屈辱でしかなかっただろう・・・妨害やダメージがあったとはいえ自身より進化レベルが下のデジモンに、死にぞこないに完全敗北することなど
エネルギーと電撃を流し終え、ダークナイトモンが倒れると
爪と針毛を傷から抜くとフィルモンは息を切らしていた
「はあ・・・はあ・・・死にかけてからのすぐにこれは体に来る・・・」
(すごい!本当に倒せちゃった!)
(3人で力を合わせたりあの金色のデジモンの助けもあったけど・・・ギリギリだったな)
芽衣とデュラモンの方を見ると、結末を察したのか芽衣がはち切れそうなほど涙をこらえていた・・・既に泣いていたはずなのに
だが芽衣は力なく倒れる
え?
そしてエリスモンの声が響く
(待って!三体のデジモンが・・・それも結構強いのが来るよ!!)
(んな!!)
「そん・・な・・・アガッ!!?」
身体をそのまま捕まれた
「この私をここまでコケにしたのはあなたが初めてでしたよ・・・せめてお前だけでも殺して差し上げますよ・・・二度と生き返らないようにね!!」
身体が・・・握りつぶされていく
意識が遠のく
エリスモンとパルスモンの声も・・・聞こえなくなっ・・・・
意識が途切れる寸前で
廃倉庫の壁を突き破る何かがいた
憤怒と殺意に満ちた赤い竜がこちらに向かってきて
額の剣で瞬時にダークナイトモンの傷に突き刺した
痛みによってフィルモンを掴んでいた手を放してしまいその身体が宙に浮かぶ
そのままダークナイトモンは地面に叩きつけられ
「メタルメテオ!!」
赤い竜は鉄球を吐き出し
遅れてやってきた辰が追撃と言わんばかりに
「成龍刃!!」
自身を剣とし斬りつけた
その2つの必殺技を受けてダークナイトモンは黒いコートに帽子を被った人間へと戻った
落ちるフィルモンを白い骨のような姿をしたデジモンが抱きかかえ
「大丈夫か?」
と聞く
「なん・・・とか・・・でも、そっちを・・・」
必死に指を芽衣たちの方に向ける
その白いデジモンには金色のデジモンに見覚えがあったようでその名を叫んだ
「まさか・・・!デュラモンか!!」
すぐに駆け寄りフィルモンを赤い竜、廻陰のドルグレモンに託し問いかける
デュラモンは少しだけ目を開き
「ああ・・・わが師・・・ジエスモン様・・・やっと・・・お会い出来ました・・・」
「待て!死ぬな!!ぐっ!!」
手の施しようがない
少なくともジエスモンの目にはそう見えていた
瀕死の重傷を負い、単体であるがゆえに消滅してしまう寸前であった状態では
そこにドルグレモンが近寄り、アルファモンが表に出て
「まだ死んではいない・・・彼を助けるためには・・・芽衣の身体に宿すしか方法はない。致し方のない事態だが・・・芽衣も危険な状態だ・・・いいな?」
アルファモンが同意を求めて意識のある者はうなずいた
ドルグレモンは再びアルファモンの姿、力を使い芽衣とデュラモンが重なり合う
そこでフィルモンとなっていた頼賀は力尽き
人間、新庄頼賀へ戻り意識を失った
遅くなりましてすみませんが追い付きました! 夏P(ナッピー)です。
アカンこの幼馴染ちゃん絶対に酷い目に遭うと警戒していましたが立派だったし珍しい性格しとりますな。最後の倉庫でデスノートに触ってなくてリュークが見えない日本警察状態でしたが雰囲気で感じ取ってる辺り立派だ……この場でデュラモンと組むことになるものとばかり思っていたが違ったか……いややっぱりそうなる!? 姉弟強過ぎだろと言いつついい感じに力をセーブされてるのですな。
ダークナイトモンが最後の最後で突然フリーザ様みたいな台詞を。というか、いきなりダークナイトモンとは、サイバースルゥースでブラックウォーグレイモン&メタルグレイモン繰り出してきたモブを彷彿とさせる「ええ!? 単なるチンピラじゃないの!? めっちゃ強いんだけど!?」感が素敵。これにはノキアも絶句。
エリスモンとパルスモン! ちょうど(ゴスゲ除くと)最新デジモン主人公コンビだ!
それではこの辺で感想とさせて頂きます。