・・・・・・
(ここは・・・・)
思わず呟いた言葉が頭の中で反響していく
(そっか・・・ここは夢なんだ・・・)
自分がどんな状態なのかを認識(?)したその者は空を漂う雲のような感覚を感じ、委ね、流されていく
(夢なら何かの光景・・・覚えてなくてもいいから見たいなあ・・・勝手な妄想でもいいから・・・)
その者は夢なら夢らしいものを見たかったと心の中で思う
(・・・ん?あれは・・・?)
少し変わったものが見えた
何かが戦っている・・・それも一対一程度じゃない・・・恐ろしいほどの数・・・まさに軍隊とでも呼べそうなほどの数だった・・・
(でも、なんだろう・・・人間じゃ・・・ないよね・・・)
それは明らかに人間とはかけ離れたものであった
一言で表すなら
『異形』
(こんなのを夢で見るなんておもわn・・・・
そこで夢は終わった
正確には終わってしまったの方が正しかったかもしれない
今日もまたいつも通りの1日が始まる
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
pppppppppppppppp
目覚まし時計のアラーム音で意識がだんだんはっきりとしてくる
「もう、朝なのか・・・変な夢・・・見ちゃったな」
目をこすり体を起こす
時刻は朝7時30分を示している
周囲を見渡すと人影が一つ…起きたことに気づくと
「お!起きたね、結(ゆい)ー!!」
そう言って結と呼ぶものに飛びつく制服姿の中性的な容姿をした人間『新月 廻陰(しんげつ みおん)』
「ぐほぉおおお?!!」
当然である、まだ体を起こしただけで下半身は布団の中なのだ
不意に勢いよく抱き着かれた苦しさと己穏の体重が布団を挟んだとはいえ下半身に一気にかかって痛むのだ
「おはよう~!朝ごはんとお弁当はできてるから早く着替えて遅れないように学校行こうかー!」
気にもしない様子で朝の支度が出来てると言う
「それより・・・早く・・・抱き着くのを一回やめて・・・足が痛いし動けないよ姉さん」
「あ・・・ごめん」
どうやら廻陰は一切気にせず本能(?)のままに抱き着いていたようだ
弟の結に指摘されて初めて気づいた様子で
廻陰は顔をしょんぼりさせて渋々、立ち上がった
「抱き着かれるのは嫌いじゃないんだけど・・・時と場合をちょっと考えてほしいなあ」
「うん・・・ごめんね」
どんどん姉のテンションが下がっていくのに危機感を感じた結は話題の転換でこれ以上下がないように図る
「ところで今日は何作ったの?」
定番中の定番の朝の話題で切り抜けようとする
「フレンチトーストを挑戦してみたんだけどどうかなーって、私の舌だと問題なかったけど結の口に合うかが心配で・・・」
「今までの姉さんの料理で姉さんが食べられたものは大体僕も食べられたから問題ないと思うけど・・・食べてみないとわからないかなー」
たまに姉が作る凝った朝食に期待と不安が渦巻く
就寝着から制服へ着替えダイニングテーブルの椅子に座りお皿に乗ったフレンチトーストを手に取り口へ運ぶ
その様子を廻隠が横から覗き込む…まるで反応を間近で見たいと言うかのように…
結果的に言えばかなり美味しかった
不覚ながら無心で貪るように食べてしまい美味しいという言葉しか浮かばないくらい…記憶が飛んでいると思えるほどの美味しさだった
「ふふ♪どうだった?」
結果など横から覗き込んでいたら分かりきっているのに廻隠は結に聞く
どうやら本人の口から感想を聞きたいようだった
盛ってもすぐバレてしまうので正直に言った
「記憶が飛んでしまうくらい美味しかったです」
その言葉に廻隠は笑顔になって
「じゃあさっさと行きましょうねー、もう8時だよー」
「え?・・・嘘っ!?」
どうやら本当に記憶が飛んでしまっていたらしい
慌ててお弁当とカバンを持って二人は家を出た
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
8時20分
二人は自分たちが通っている高校『明光学園』に着いた
登校時刻である30分に近いのもあって生徒が道路にはみ出るほどいて大変混雑している
「はあ・・・今日体育あるなあ」
そう呟く結に廻隠が
「確か『持久走』だったっけ?まあ私もきつかったから気持ちはわかるよ」
すかさずフォローを入れていく
「姉さん的には記録を取られるから変に意識するからじゃないの?2時間ぶっ通しで走ったりもするのに」
「変に緊張するときって疲れないのかなー?」
「いや疲れるけど姉さんはいろいろとおかしなところが・・・っとじゃあ僕はこの階だから、またあとで」
日常会話をしていたらいつの間にか自分のクラスのある5階へ着いてしまったようだ、姉のクラスは7階だ
「じゃあまたあとでねー」
そう言って二人は別れる
それから2つほど教室を通り過ぎて結の所属するクラス『1-E』の教室に着き、上履きに履き替え自分の席で身支度をする
するとそこに
「よう!おはよ、今日の体育持久走だよメンドクセーよな?」
「そうだねーはっきり言って走りたくないね」
結と親しげに話す友人『新庄 頼賀(しんじょう らいが)』
「それって体育全般嫌いなんじゃね?あれ?」
「剣道とか柔道、空手は好きだよ?部活のは嫌いだけど」
「なんで部活のは嫌いなんだよ・・・わけわからんのだが・・・」
「だって基礎体力つけるためにーとかで走らされるんだもん」
「・・・・・」
思った以上に理由が酷過ぎて頼賀は絶句する
その時チャイムが鳴りSHRが始まる
一方そのころ廻陰は
自分の教室である『2-D』でさっさと身支度を整えてぼーっとしていた
(いつも通り過ぎるのもつまらないな・・・恐らく結は頼賀君と帰るだろうし)
7時間ほど先を考えてため息をつく・・・暇だ・・・と
(影が薄いのもなー友達ができないし交流がほとんどないしで)
(かといって存在感が大きすぎるのも面倒な人に絡まれるしで嫌なんだよなー)
自身の抱えるジレンマに気づく者はおらずただ時間が過ぎていった
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
お昼休み、生徒が校内で取れる唯一長めの休み時間、大抵はこの時間に昼食を購買やら食堂やらお弁当を食べて午後の授業に臨む
「結ー今日の弁当の中身はなんなんだ?今日も廻隠さんの手作りなんだろ?」
結の昼食は姉の廻隠特製手作り弁当、なんでも栄養素の調節が容易で食費もあまりかからないからだそうだ
「なんでいつも大変なのにお弁当は凝ってるのかな?毎日同じもので飽きないようにしてるって言うし……ん?弁当箱以外にも何かある…?」
変な袋も入っているのを見つけ、取り出してみる…付箋付きの保存パックだった
『今日の結のお弁当にも入っているぶりの照り焼きだよ!頼賀君もぜひ食べてみて感想を教えて!』
「………………………」
付箋を見て2人は沈黙した
しばらくして結が沈黙を破る
「昨日5切れ作ってたのはそれが理由だったのか…」
「え…なんで俺なんだ?」
当然の疑問だが、結にはなんとなく察しがついているようで
「僕が特に仲良いのが頼賀だからじゃない?よく家でも頼賀の話出すし、たまに会うから頼賀の事を少しは知ってるのもあると思うよ」
「!?俺の話!?いったい何話してんだ!?」
自分が恐れている廻隠がどんなイメージで自分を見ているのかに恐怖と不安がありながらも好奇心が輝いていく
「うーん」
少し思い出すように頭を捻って
「色々バカやったり勉強で悩んだりほんのちょっとバカにしあったり、あんな友達が居てくれて嬉しい、アイツがいるから学校が楽しいとかかな?」
盛ったりしている様子が全くない自分に対する気持ちを聞いて頼賀は無意識的に赤面してしまう
え!?なんかまずいことでも言った!?という結の焦った声も届かない
「もう…これ以上言わないでくれ…俺がもたなくなるから…」
顔を向けることが出来なくなった頼賀は廻隠特製ぶりの照り焼きをさっさと食べて静かに「おいしい」と零した
当然結には聞こえない程度の大きさで
「ああ言われて…恥ずかしくならない奴がいるのかよ」
若干の怒りに似たものを含めて呟いた
残るは2限、もうひと頑張りしますか
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
放課後となった
「じゃあ一緒に帰るか?結」
頼賀から話を振られる
「良かった…落ち着いたんだね」
「まあな…」
感情の整理はついたが影響は深く残る…こりゃ数日はキツイかなと頼賀が内心思っていた時
「じゃあ今日はちょっと寄り道してみようかなーって思うんだけどどうかな?」
まるで現代の普通の高校生の会話をしていることを知ったら姉はどう思うのだろう・・・複雑な感情を抱きながら答える
「・・・なあ」
「?どしたの?」
ちょっと怯えたような様子で頼賀が口を開いた
「お前の・・・姉さん・・・廻陰さんに一言言わなくてもいいのかなーってちょっと心配になって・・・ほら廻陰さんお前に対して色々と目を光らせたりしてるだろ?怖くて・・・あとぶりの照り焼きの感想とかも…」
「大丈夫だよ、姉さんのことだから今日僕が頼賀と一緒に帰ることぐらい予測してると思うよ。ぶりは私から伝えても良いはずだし…もしかしたら教室に凸ってくるかもだけど」
「それはそれで怖いんだが!?」
廻陰の存在自体は薄いが、弟の結に対しての過保護具合は関わりの深いの人たちには結構知られている
あとは自分の腕前に対する評価にも敏感だったり
たまに校内で噂になるくらいだ。ブラコンだとかで
姉が弟のことを思ってくれるのはありがたいが・・・流石に限度があると思いたい
更にはどこからキャッチしたのかわからない情報まで揃えてくるという・・・地獄耳にも限度がある程度まで
なお、頼賀はそんな感じでトラウマを持っているので廻陰のことを恐れている人のうちの一人である
愛情は本物だと感じてはいるが圧が強い
それも3年とは訳が違うくらいの圧が
結も過保護具合がなければ完璧なくらいなんでもできる姉に頭を抱えている
「なんか言われたら僕も謝るから!心配しないで・・・?」
「・・・お、おう」
二人そろって同じ存在に恐怖している頃、屋上で一人の影があった
屋上にだけ少し強めの風が吹き髪がなびく
「今日は何かが起きるような気がする・・・」
「そうか・・・それでお前はどうするつもりなんだ?私とお前の力ならば未然に防ぐことも出来ると思うが?」
そこには1人しかいないはずにもかかわらず二人分の声がする
「いや、直接関わることはしないよ、少なくともあの子が危なくなったら・・・話は別だけどね」
「ま、これはお前の人生だ。どうするかの最終判断はお前に任せる」
「ふふっ、ありがとう・・・『相棒さん』」
そう言うと一つの影は完全に姿を消した
一つも痕跡を残さず・・・に
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「取り合えず本屋行きたいかなー駅前の」
校門を出てそう話す結
「本屋?珍しいな、参考書でも買うのか?」
頼賀から本当に珍しがられていると声から感じる
「さあ、どうだろうねー当ててみてよ!」
結は自分でも難しいことを頼賀に言ってみる
「当ててみろって・・・結構きついな・・・考える時間をくれ」
そう言うと頼賀は考え込んだ
結がわくわくしながら待っているのが容易に想像できて思考を加速しようとする
(結が本屋だと…本、本、本・・・漫画、小説はほとんどデジタルでしか読んでないし紙媒体でも図書館で借りている・・・漫画・小説以外の・・・それも結がわざわざ俺と一緒の時に買いに行くやつといえば・・・)
(結の趣味で俺の知っている奴は・・・)
思い浮かんだ答えは
「デジモン・・・図鑑的な奴か・・・?」
「あーやっぱり分かっちゃう?」
何とか正解を導き出せた頼賀は一息つく、そして
「お前高校生にもなってまだデジモンにハマってるのか?流石にもういいんじゃないか?」
デジモン・・・正式名称デジタルモンスター
デジタルに存在するモンスターとして世にでたタイトルで当時は大人も子供もやりこむといったレベルになったりもしたがピークは過ぎていったが一定のファンがいて根強い人気がある
たまに大きなSNSでトレンドになるレベルで
出たのは俺たちが生まれる少し前だったか、俺の知る限り中学で結に出会った時には既に姉共々ファンとなっていた・・・俺も結ほどじゃないが好きなデジモンがいたりでそれがきっかけで仲良くなったという経緯がある
それと同じ趣味を持つ姉弟とかに憧れたりもしたが・・・頼賀はあいにく一人っ子である
そういう意味では・・・デジモンに感謝している。こんなにも楽しい奴とめぐり合わせてくれたしで
「好きなものがあってもいいじゃない!大人に近いからと言って好きなものを手放す理由にはならない!」
「まあそれはごもっともなんだが・・・」
結のポジティブ思考についていけなくなる・・・
話題を変えようかなーとも思っていた時、結が立ち止まった
それもすこしやっちゃったみたいな顔で
「どうした?」
不安になって声をかける
結が恐る恐る口を開く
「道一本間違えちゃった・・・」
「なんだ、だったら路地裏でもいいからさっさとその一本の修正しようぜ」
結が道を間違えるなんてめったなことだったが、いつもの調子で返すことが出来た
結が小声でごめん・・・ごめんと呟きながら近くにあった長めの路地裏に入っていった
「路地裏なんて滅多に入らないからなーなんか新鮮な感じがするよ」
二人とも比較的大きな道を通るだけで家へ帰ることが出来る、結はマンションで頼賀は一軒家だが・・・
「アニメでもあったよねーこういう路地裏。姉さんもたまには普段と違うところ行きたいって言ってたしその気持ちわかる気がしてきたよ」
現代の高校生だとあまり通らない路地裏に二人は興奮する
しかし頼賀の興奮は一瞬で恐怖に塗り替えられていった
いや、正確には異質な空気によって本能的に危機を感じたのだ
ふっと周りを見渡す
何もなかったが不安が収まらない・・・心拍数が増加し冷静な判断が出来なくなっていく・・・
結が心配そうに大丈夫?と声をかけたがほとんど耳に入らなかった
まだ夕方でもそれなりに日が長いはずにもかかわらずいつの間にか太陽光がほとんど届かなくなってきている
ただ目の前にない何かに恐怖を覚え・・・震えるだけ・・・
次の瞬間
恐怖の正体が目の前と後ろに現れるのを感じた
結が周りを見て何かをつぶやいたように見えた
数を言っているのか特徴をつぶやいたのか・・・頼賀には分からなかった
少しだけ慣れたのか自然と五感がいつもの調子を取り戻していく
そこにいたのは人間は少し違う『何か』であった
それは一言で言えば
『怪物』とも『異形』
取れるものであった
なぜ少しと思ったのかはわからない
でもなにかが・・・
直感で自分たちと似たものを感じたのだ
目の前にいるのは『ちょい悪ウサギ』っぽいやつと『棍棒を持った緑色の鬼』っぽいやつ
背後にも目を向ける
『赤いティラノサウルス』っぽいやつと『毒キノコ』っぽいやつだった
不思議とそれらには見覚えがあった
そして疑問が出来た
デジモンの種類にも似たような奴がいたはずだ
デジモンは空想の産物のはず・・・もし仮に居ても今までそんなニュースやつぶやきはなかった
なぜ今になってこんな路地裏で現れた
それに待ち伏せとも考えられるタイミングであった・・・出来過ぎている
そんなことを考えていると結がデジモン(?)相手に口を開いた
「あのーそこを通してもらえませんか?僕たちこの路地裏を通り抜けたいだけなんですよ」
相手を刺激しないように用件を伝えようとしていた
よくこの状況でいつもの声で話せるなと感心してしまいそうだった
(だが言葉が通じないデジモンもいる・・・)
本当に大丈夫なのかと心配していると
「トオしテやってモいイが、あリガねゼンぶおイテけ」
背後の『赤いティラノサウルス』がぎこちないが日本語を話した
「!!???!?」
(しゃべった・・・今まぎれもなく日本語で喋った)
現状の恐怖に理解不能な恐怖がプラスされる
(もう訳がわからねぇよ・・・夢なら覚めてくれよ・・・)
理解が追い付かず混乱していく
一方で結は特に驚いた様子もなかった
肝が据わっているというレベルではない・・・慣れているとだけでは言えない
落ち着きすぎている!!
「金銭ねぇ・・・残念ながらほとんど持ってないのさ、あるとしてもおつりの五円だけ・・・」
結の様子からしてそれは本当なんだろう・・・本を買う手段はなにも現金だけではない
本屋であれば図書券やら図書カードやらでも買える
それを聞いた『緑色の鬼』があきれたように俺にも聞く
「おい!おめぇはどんぐらい持ってんだよ」
今度は割と流暢に話していて驚いた
緑色の鬼がサッサと答えろと急かしてくる・・・割と単純な悪とは言えないような気がした
気を取り直して口を開く
「200円・・・普段からお金はあまり持ち歩かないから・・・」
これくらい渡して無事で済むなら・・・と頼賀が思っていると
「それぽっちだけじゃ足りねぇな!!」
予想通りの言葉をウサギもどきが叫ぶように言った
(デスヨネー)
「・・・通らせてもらえず引き返させてもくれない・・・何をするつもりなんですか?」
結がそう言って頼賀ははっとなる
行くのも引くのも出来ない・・・
(金銭はおまけ程度で最初からこれが狙いだった!?)
今度は毒キノコもどきが口を開いた
「お前のその目が気に入らねえし金の量も気に入らねぇ!!じっくり痛めつけてから財布や金目の物を頂かせてもらうぜぇ」
毒キノコもどきがしれっと追いはぎ宣言をすると4体は構えた
それを見て結も迎撃の体制みたいに腰を低くする
「4-2でも多勢に無勢じゃないか・・・」
嘆きながらも仕方なく避ける準備はする
次の瞬間、熱気を感じた
すると結が頼賀の首を掴んで無理やりかがませた
その刹那
人間の頭くらいある火球がすぐ上を通り過ぎて行った
少し遅れて何かに当たって溶ける音が聞こえた
すると身近で何かが焦げる音がした。はっとなって見ると今の一瞬で抜けた髪の毛が跡形もなく塵になっていた
そこで頼賀はぞっとする
もし結がとっさに無理やりかがませなければ髪だけではなく、良くて顔、悪くて全身やけど・・・それか焼死体になっていたかもしれなかったからだ
「分が悪すぎるな・・・」
結が悔しそうな口調で零す
さっきの火球は結がいなかったら避けられなかった
それを理解したとき頼賀は、自分が足手まといだと痛感する
(力でダメなら・・・頭で・・・)
そう考えた頼賀は既視感を感じていた・・・
(待てよ・・・仮にあいつらが人並みの知能を持っているデジモンでもアニメとおんなじ感じで行けても不思議ではないのでは?少なくともあのウサギもどきと毒キノコもどきは成長期だったはずだ。なら・・・四肢と頭で無理やり倒すことも出来るのでは‥?)
一筋の希望を見出したが現実は甘くない
残っている恐竜もどきと鬼もどきは成熟期・・・成長期の1個上の基本的な戦闘段階の2段階目
しかもさっきの火球からして攻撃が当たれば無事では済まないのは明白・・・
顔を上げてみると結が目だけ俺に向けていた
その顔はまるで「OK察したわ」とでも言っているかのように笑顔だった
(これでも3年の付き合いがあるんだ。賭けてみるしかない!)
次に動き出したのはウサギもどきだった
飛び込みながら拳を作って殴ろうとしてくる
頼賀は隙の大きい攻撃を見逃さず、すかさず足で蹴り落とす
「ぐへぇ!?」
完全に慢心でもいていたかのような反応だった
「おらよ!」
しかし次の瞬間、鬼もどきの蹴りが腹に命中してしまう
「しまっ・・・」
蹴りが腹にクリーンヒットしてしまい脇の壁まで吹っ飛ばされてしまう
(油断しちまった・・・)
1on1ならまだしも二対四なのだ・・・一人ずつ欠けたらそれこそ絶望的だ
それも厄介な成熟期クラスがまだ二体もいる・・・手負いを庇いながらだったらこの先は誰でもわかる
このままだと確実に負ける
最悪の事態に近くなり焦るが手負いが焦ったところで何も変わらない
これ以上戦闘に介入出来ず、下手をすれば人質にされかねない
幸い相手はまだ人質を取るような行動はしない様子だった
怪我の痛みが響き口元を拭うと汗とは違う何かが付いた
「ちっ、吐血か口を切ったか」
もし仮に吐血なら最悪の事態・・・臓器の損傷を考えなければならない
なんとか壁に寄りかかり体を起こす
すると結が一人でなんとか三体を相手に攻撃を捌いているところを見ることが出来た
こうなってくると相手は手段を選らばなくなってくるだろう・・・仮に殺しても今のこの世界ではデジモンを捕らえることはほぼ不可能なのだから
「くそっ!せめて俺も成熟期を一体くらい足止めできれば・・・」
反撃のタイミングを見誤った自分を責めることしかできない自分に涙がこぼれ落ちる
(あいつがわけわからん連中相手に戦ってるのに一人泣いているなんて…情けねぇよ、俺)
結がちらっと一瞬だけ頼賀の方を見る
その顔は悲しそうだった
「なんでだよ・・・なんでなんだよ・・・」
結のその表情を見ることが出来た頼賀はさらに自分に対しての悔しさを、情けなさを感じていく
「なんであいつは自分のことよりも俺のことを気にかけるんだよ・・・」
悔しさではちきれそうになった時
結が捌ききれなくなりバランスを崩した
この隙を逃さなぬように鬼もどきが棍棒を振りかざす
ドゴーンッッ!!
何か硬いと硬いものが当たる音がした
口より身体が先に動いていた
一瞬だけ痛みが引いたような気がした
でも今はそれに感謝する
守れれば・・・
自分の気が済めばそれでいい
結は 自分を庇った頼賀(とも)を見て限界まで目を見開いていた
庇った本人の顔は
苦痛に歪んだ表情ではなく
満足そうな表情をしていた
理屈では説明できない状況になり全員の動きが一瞬止まる
頼賀は結の真横に倒れた
結の無事を確認して
「よかった・・・」
そう言い
新庄頼賀の意識は途切れた
初めまして、夏P(ナッピー)と申します。投稿されたものを読ませて頂きましたので感想をば。
ブラコン姉さん!? なんかいきなり強烈なキャラクターで登場しましたが、てっきり姉さんは起きること全部理解してる感じだったりするのかと思いきやそーいうことでもないのでしょうか。でも屋上にいた影と姉さんは同一人物じゃないだろうしなー。
というわけで、実は主人公が結クンではなく頼賀クンだったのではと思うぐらいに心理描写の中心が頼賀クンに。そうかここでピンチのところにパートナーが現れて……生身で戦うの!? そこに一番驚かされたかもしれません。しかも成熟期2体混じり相手に! 結クンは明らかに戦闘慣れしているような描写ですが、これは純粋にデジモンを知ってるからなのか他に要因があるのか。
では続きをお待ちしております。