※注意
1章以降の章は、前半章・中盤章・後半章・終盤章の4つの区分と、奇数章組と偶数章組の2グループに別れています。
同じ区分内では共通のイベントが発生しますので、混乱無きよう、その点はご留意ください。
また、本企画では執筆者ごとに世界観がパラレルワールドの扱いとなっており、『主人公』および『ヒロインの外見』が異なっています。その点もご注意ください。
第2章 退廃斜陽都市 陽都 は
執筆者 :へりこにあん様
区分 :前半章
グループ:偶数章組
主人公 :三角一月(ミスミ イツキ)
となります。よろしくお願いします。
以下、本編です。
*
この街に太陽はない。この街に平和はない。
太陽がないから二葉は芽吹かない、太陽がないから二葉は育たない。
それでいいと、それでいいはずだと毒婦は一人ごちる。
この世界の未来を知り、そのくだらない運命の悪戯の数々に、作られた運命に失望した。
毒で人間性は爛れ、愛に街は蝕まれ、分厚い曇り空は天に蓋をする。
折れた灯台の代わりに背伸びして掲げた篝火に、虫の様に群がってくる。
灰色の空の下では光も影もはっきりしない。
それでいい、それでいい。
いずれ硫黄の雨が降って影は焼き尽くされる。
それで永遠に太陽は輝かず、二葉は芽吹かない。
それでいい。篝火だけが灯りでいい。
「揃ったかな。第二の相異点は『ドレンチェリーを残さないで』の相異点。三角はこの作品は知ってるかな?」
吸血鬼王の言葉に三角一月が首を振ると、シフがずいと前に出た。
「『ドレンチェリーを残さないで』は、へりこにあん氏の探偵ヒーローものパロディ小説です」
「パロディ?」
「はい、『作中のキャラが作品のファンだから、変身アイテムなどが似通っている』という体での直球のパロディと、元の作品から要素を抽出した知ってる人はわかるパロディとを組み合わせ、大筋としてはシリアスな探偵ヒーローものになっています」
「この相異点が第二の相異点として選ばれたのは、この相異点が比較的安全な相異点であると予想されるからです」
名城が話を引き取る。
「安全、というと……」
「私達の常識では大体の人はパートナーがいるし、人間界にもデジモンはありふれていますよね? しかしこの相異点では、デジモンは異常であり、特別な存在。規模感も陽都という架空の都道府県一つで完結し、完全体でもかなりの脅威として描かれている為、究極体クラスのエインヘリヤル一体でも現地勢力から考えると過剰戦力になり得る相異点です」
「……でも、最初にしなかったってことは、その、なんかあるんですよね?」
「先輩、この作品は、娯楽小説の形をとっていますが、デジモンと人間の共生に対してのパートナーのいない人間の不安を描いた風刺作品としても扱われる小説なのです」
ふと、作品について聞いたことを思い出した。これはパートナーがいない人間による娯楽の皮を被ったヘイト小説だという話を、文学部の友人が話していた。
「この作品ではデジモンの力を得るアイテム、デジメモリは薬物としての扱いですし、それをほとんどの一般人キャラは自分の欲望を叶えるツールとして使う。パートナーのいない人間には対抗する術もなく蹂躙されて、デジメモリと人間の間に適切な制御を挟んだ主人公達がそれを解決していく構図。これをデジモンと人間の間に一線を引き、現代の共生ありきの考え方に対する批判的主張であると読む人は多くいます。作者のへりこにあん氏はこの作品は娯楽小説で政治的な主張はないとしていますが……氏はパートナーを持っていないそうです」
「じゃあ、シフも見つけられたら迫害されたり……」
「そう、戦闘力的には脅威でなくとも作中のキャラクター達からことごとく嫌われてしまえば調査自体が難しくなる。例えば主人公達が殺されていれば、必ず殺人事件として放送されているだろう世界観だからね」
いや実に行きたくない世界だねとグランドラクモンはわざとらしく肩を抱いた。
「あともう一つ付け加えるならば、この作品は壊す為にどう介入するべきか、がわかりにくい」
「どういうことですか?」
「作品のメインの筋は二つ。姉の真実を知ることと、魔王リヴァイアモンの復活の阻止。しかし、未完の作品なのです」
「なら、姉の真実を知ることができなくするか、リヴァイアモンを復活させるかをすれば……」
「そこだよ。もしそれが、『作者の構想と一緒』だったらどうなる?」
「そんなことありますか……?」
「あり得るね。この作者曰く作品のテーマは常に愛。『姉の真実と復活したリヴァイアモンの打倒を天秤にかけ、姉という過去を吹っ切り、今そばにいる家族のような人達に愛を向ける』とかが想定されたエンディングだった場合……姉の真実を知ることができなくても、リヴァイアモンの復活が成されても、『家族愛』の物語の決定的な破綻にならない可能性がある」
どういう経緯なら作品を壊せるかわからない。ということは、ノルエルがどう介入しているかわからないということでもある。
「だとすれば……主要キャラの殺害、とか?」
相異点Dの記憶が頭に浮かぶ。あれは、エンジェウーモンを中心として結果的には子供達はほぼ全滅している状況だった。
「その可能性が高いでしょうね。でもその場合も……作中の誰が聖解を使ったかがわからない。この相異点は作中の始まりの時期と推定されます。一話限りのゲストキャラ中心に物語が動いていますし、後の話で出てくる因縁のあるキャラも当然この時からいるわけで……」
ノルエルがいつどこでどのように介入したかから調べる必要があり、その有力な手がかりもない。『危険性は低いが、馴染みの薄い世界であり、さらに何が起きているか予測し難い相異点』が陽都相異点なのだ。
「どういう改変がなされているかわからない以上、本来の形はなるべく知っておくべきだ。シフ、頼むよ」
「はい、ドレンチェリーを残さないでの主人公は怪死した姉の死の真相を知ろうと探偵に依頼した美園猗鈴という19才の女性。姉のプレゼントに紛れ込んでいたウッドモンのデジメモリを使って変身し、国見天青という探偵の元で人間をデジモンに変えるデジメモリを販売する組織との戦いに身を投じながら、姉が何故デジメモリを持っていたのか。少し疎遠になっていた姉は一体何者だったのかを探って行くストーリーです」
「今の話に出てきた美園猗鈴、国見天青、この両者は作中時期を問わず善良なキャラと描写されていることから、今回の現地ガイドの第一第二候補です」
名城が補足する。
「天青との交渉は私が……」
そう言って、少し前に出たのは、一体の白いワンピースを着て一応人間に見えるようにしてるらしいダルクモンのエインヘリヤルだった。ユミル相異点の後に召喚されたエインヘリヤルだ。
「拳の聖女は、ドレンチェリーを残さないでの過去にあたる短編で国見天青と接点があるし、姿はダルクモンでも中身はオニスモン。完全体で強キャラ扱いの同世界観ではダルクモン時点で吸血鬼王を殴り倒した彼女は最強クラスの扱いだ」
「吸血鬼王を?」
一月はちらりと所長の身体に入っている吸血鬼王を見た。
「僕も少し読んだが、今の人とデジモンの関係が気に入らない作者らしい作品だ。ルーチェモンが統治していて人と関わってない古代が至高。その時代のルーチェモンを最強として贔屓していて、その因子を継ぐ彼女もということだね。僕と同じ種の彼女は強い種のアイコンとしてかませにされたらしい」
失礼しちゃうねと吸血鬼王は笑って言った。
「あれ、ミラーカさんは……? 確か柳さんもこの作品の……」
一月が思い浮かべたのは、前の相異点で頼もしい味方だったエインヘリヤルと、そのあと召喚されて自分につきまとうエインヘリヤル。彼女達も戦力として申し分ないはずだ。
「連れていきなさいよ!!」
相変わらずぼろぼろの服のミラーカに止められながら、ピンクのセーターを着たデコを出した女性がこちらに叫びかけている。それが柳真珠だった。
早い段階からラタトスクにいるエインヘリヤル、普通の完全体相当でエインヘリヤルとして強いとは言い難いが、それでも現地に詳しい筈だ。
「彼女達はどっちもバーサーカー……戦力としては頼もしいが、ミラーカは夜になると、柳真珠もメフィスモンに遭遇して、どちらも暴走する可能性があります。敵性現地存在がいても弱そうなので……」
「霧の結界は……」
「『デジモンプレセデント』の世界のものである霧の結界は『ドレンチェリーを残さないで』の世界ではおそらく使えません。それに……彼女は『この第二相異点のミラーカと原作のミラーカが混ざってエインヘリヤルとして出力された存在』らしいんです」
そういえば聞いたことがあるかもしれないと一月は少し考えて、察しちらりと後ろを見ると、抗議しようと暴れつつある真珠をミラーカが顔面鷲掴みして頭を地面に押し付けていた。
「私がメフィスモンの敵になるわけないでしょ! 連れっもがが」
喋れない様に口の中に拳を押し込み、ガキっと顎が顎が外れるようさらに強く押し込んだ。治せないように頭を横向きで地面に膝で押さえつけるとミラーカは両手をひらひらと一月に向けて振りつつ微笑んだ。
「が、がんばってね」
ミラーカに手を振り返しながら、少し疑ったことが恥ずかしくなる。この相異点の因子が混ざって変質しているということは、この相異点でミラーカは原作と違った状態にあるということ。
一月はこの相異点でノルエルから聖解を受け取った原作キャラがミラーカであるかもしれないと一瞬疑ったことを恥じた。
「まぁ、二人とも暴走の危険性を考えて今回は同行しないが、こっちからのモニターができるようになったら彼女達の知識や土地勘が役立つ時も来るだろう」
「まぁ、そういう訳だから、もう一人は私。拳のおばあちゃんが暴力担当なら私は推理諜報担当ってことになるのかな」
青いポニーテールの眼鏡女子がニヤニヤ笑って一月の背中をばしんと叩いた。暴力ってと拳の聖女は嫌がっていたが、気にしている様子はなかった。
「幽谷雅火は同作者の作品で都市伝説を解き明かし退治する役割。この相異点のベースは探偵ヒーローものですから、『探偵』は重要な要素になります。探偵役ができるエインヘリヤルとしての選出です」
探偵ヒーローものの知識は一月にはあまりなかったが、ヒーローものということは味方と敵があり、正義と悪があって、大抵は正義が勝つ。正義側の属性を持つことは世界観を味方につけることになるのかもしれない。
「じゃあ、コネクトダイブの準備に入りましょうか」
「あ、そうだ。『ドレンチェリーを残さないで』には『やばい女』がよく出てくるらしい。刺されない様にね」
吸血鬼王が呑気にそう呟いた。
「え? それどういう……」
一月がそう聞き返そうとしたが、もうコネクトダイブは始まって、何も聞けないまま転送が始まる。
意識がなくなる前に一月が最後に聞いたのは、異常を示すアラート音とシフ以外のエインヘリヤルが転送できないという名城の声だった。
目を開けると空中で、曇り空が見えた。
「あ」
ひどい浮遊感、頭を下に落ちて行く感覚。ひとまず頭を抱えてみるが、この高さではどうなってしまうかは目に見えている。
「いぃぃい、やぁぁぁあだぁぁあぁあ!!」
情けない悲鳴は曇天に吸われていき、コンクリートの地面が下で待っている。
胃からは思わず吐き気が込み上げ、涙はぼろぼろと零れ落ちて空中に散らばった。
あぁ、これで私も世界も終わりかぁと半ば諦めかけた時、ガシっと誰かに掴まれて、下へ落ちる動きから今度は斜めに揺られる。
そうしてどこかのビルの屋上に飛び立って、その腕の中から下ろされた時、一月の吐き気は限界を超え、溢れ出した。
「危ないところだっ……大丈夫!?」
涙目でよく見えなかったが、女性の声がした。腰におもちゃのようなゴツいバックル付きのベルトをつけたパンツスタイルの茶髪の女性。背はシフと同じで190はありそうだった。
「おかげさまで、尊厳以外は五体無事です。助かりました……」
ありがとうございますと一月が口にだすのとほぼ同時に、どこかから絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえた。
「ここ、廃ビルだから降りる時足元気をつけてね!」
『エントモン』
そう電子音が鳴って、黒い雲の様なものが女性の手のあたりから吹き出した。一月がやっと涙を拭って目を開けると、もうそこには誰もおらず、雲の様なものもなくなっていた。
『先輩! ご無事でしたか!』
「うん、胃の中空っぽになったけど全然大丈夫……シフはどこ?」
『シフは無事だけど、むしろなんで君は無事なの? 出現地点から落下したにしてはちょっと離れてるみたいだけど……』
「なんか、でっかいベルトつけた大きな人に助けられて……他のみんなは?」
『二人とも相異点に入った瞬間弾き出されてしまってその後コネクトダイブできない。相異点自体にロックがかけられたみたいですね』
名城の言葉に続いて、カンカンと階段を登ってくる音をさせシフが現れた。
「先輩、怪我してませんか?」
「大丈夫〜、ゲロ踏まない様に気をつけてね。あ、名城ドクター、テディちゃん、シフと合流しました」
『こちらでも確認しました。』
「一瞬先輩の反応が上空にあって落下したようでしたが……」
「えと、長身の女性に助けられて……もしかしたらエインヘリヤルだったのかも」
「それはないですね。こちらの観測では人間と、デジモンに近い反応が重なった存在がいたことになっていますが、エインヘリヤルとは異なります」
「もしかして美園猗鈴さんではないでしょうか。彼女達はデジモンそのものにはなりません」
「おそらくそうだろうね。ドレンチェリーを残さないでではデジモンの力を使うがあくまで人である事に焦点が置かれる事がよくある。人と重なった点に『デジモンとは異なる』観測結果が出るのもおそらくそのためだろう」
アレが美園猗鈴、姉を失って探偵になった主人公。
『三角、シフ、周囲の状況はどうかな? どこか明らかにおかしなところはあるかい?』
そう言われて一月はビルの上から辺りを見回す。
治安は悪そうだ、道端には乞食のような子供もいる。曇天で薄暗いからか、昼だというのに歓楽街らしい通りにはギラギラとネオンが光り、カタギじゃなさそうな男達や酔っ払い、派手なドレスの女達が歩いている。
「治安がすごく悪そうです……」
『そういう世界観です』
「いえ、ドクター。流石に治安が悪すぎます」
そう言って、シフは画像を送った。
『……確かに、一見普通なのに治安が悪いのが本来のはずですが、悪すぎますね……』
『一月、シフ、そこは都市部なのかな?』
吸血鬼王はそう問いかけた。
「そうですね。都市部だと思います……建物も高いし密集してて……あ、なんか大きな壁が見えます。特徴的だし、どこかわかったり……」
一月は遠目に街を横切る様に立つ壁を指差すと、シフもそれを見た。
「……いえ、私の記憶では、ドレンチェリーを残さないでではあんな壁は出てきません。陽都のランドマークといえば、ソルフラワーという元電波塔の観光施設だったはず」
シフの言葉に一月も辺りを見回したが、ビルはあっても電波塔は見当たらなかった。
『とりあえず、壁の方に行って調べてみましょう』
「「了解」」
一月とシフは、そう言って陽都の街を歩き始めた。
「奇妙な格好の奴らが繁華街に現れたらしいんだけどぉ。ノルエルが言っていたラタトスクって奴らじゃないのか?」
その白いコートを不自然なまでにベルトで絞めたガラの悪い女は、そう言いながら頭にぐるぐると包帯を頭に巻き始めた
「どうやらそのようだが……ボマーモン、人間に化けてるのにわざわざ目立つ格好をするのはどうなんだ」
軍服の女性はそう一言言って、グラスの中の粘度ある透明な液体を一口飲み、口の端をぺろと舌で舐めた。
落ち着かないんだよ、頭になんか巻いてないと。とボマーモンと呼ばれた包帯女は返した。
「で、どうするソフィ、爆破しにいっていい敵……なんだよな? 確か」
「確かに蹂躙したら気持ちよかろうがな、駄目だ」
ソフィは一応肯定しつつ、バッサリと切り捨てた。
「……じゃあ、グラビモン」
「ソフィが駄目だからという態度で聞いてくるのも気に食わんが、今はできないという判断には私も同意だ」
フッとソフィがグラビモンを鼻で笑った。
「私の方が優秀だと馬鹿から見ても明らかだからボマーモンは先に私の名前をあげたのがわからないのか?」
「馬鹿の評価が当てになると思ってるあたり、私の方が優秀なのは明らかだな」
は?なんだ?とソフィとグラビモンがにらみ合う。
「おーい!! 俺が馬鹿なのはそうなんだけどよぉ……なんで駄目なのかを教えてくれよぉ、すねるぞ」
机を拳で軽く叩きながら、ボマーモンはそう言った。
「別に、勝手に拗ねてくれても一考に構わんが」
「ソフィぃ……まじでわかんないんだってぇ……」
涙目でポケットから個包装のクッキーを差し出すボマーモンに、仕方ないやつめと言ってクッキーを受け取った後、ソフィは話し出した。
「……五年前、我々は電子人理に召喚されたエインヘリヤル達に聖解を奪われ、奪った奴等は我々の陣営とほぼ相討ちになって一人を残して全滅した。それは知っているな?」
「あー、あいつ? フユウミだっけ? 探偵のやつ」
なんか違う気がするとボマーモンは首を傾げた。
「普通に考えるならば、もし奪取出来たらと隠し場所は示し合わせていたはず。しかしやつは取りにいかない。これもいいな?」
「うん、わかる」
ボマーモンは首をがくんがくんと大きく縦に振って頷いた。
「あの『探偵』はおそらくラタトスクを待っているのだろう。ただ自分が奪取しても聖解の破壊方法がない、故に待っていると考えられる。なので、ラタトスクを殺すとしてもやつに認知させてから、調査を開始させ、聖解を回収する直前に横取りしてそのまま殲滅が望ましい」
「んー……質問していいかぁ?」
「お前が言いたいのは、現状を見るに既に聖解は回収されてるのではという話だろう? あの『壁』と『夜』は私達の介入ではないからな」
ソフィはわかっているとそう答えて透明な液体を飲んだ。
「ぐひひ、ソフィは流石あたまいいなぁ!」
「で、それに関しては確かに聖解の関与は疑われるが……五年前のエインヘリヤル達、大胆にも目に付くところに一人残してくる奴等だ。そっちの仕込みの可能性もあるし、そのどちらも正面からは消耗が大きい。もし『探偵』にも聖解の場所がわからなかったとして、やつを泳がせれば勝手にリスクを取って調査してくれる。もう手元に聖解がない以上余計な消耗はよくない」
「とりあえず、ソフィもグラビモンもそうだって言うなら間違いないんだろうけど……他のエインヘリヤル達ぐらいは狩っといてよかったんじゃねぇかな? 今からでもダメかな? 探し物苦手そうなやつから」
ボマーモンの言葉に、ソフィは小さく舌打ちをした。
「……まぁ、我らが尊大なるテイマーには崇高なお考えがあるそうだ」
ソフィは心底嫌そうに口にし、グラビモンも不機嫌を露わにする。
「うーん……エインヘリヤルってやつは大変だなぁ。ていまー? ってのも偉そうってことしかわからんし……」
ボマーモンは何とかしてやりたいんだけどノルエル爆破してもダメって話だもんなぁと口をもごもごさせた。
「まぁお前に心配してもらうことでもない。あと、いつ思い出すかと放置してたが……あの『探偵』のエインヘリヤルの名前はフユウミじゃない、春川早苗だ」
ソフィはそう言って、透明な液体の入ったグラスを軽く揺らした。