これまで
5
「子どもたちから離れろ!」
耳になじんだ声が響いたのはその時だった。ぼくはどきりとして振り返る。そこにあった見覚えのある顔に、おもわず大きな声が出た。
「父さん!? なんでここに……」
「ナルミ。もう大丈夫だ。その化け物から離れろ。そっちの人からもだ」
父さんは黒い警棒を持ちながら、いつでも手を拳銃のホルスターに伸ばせるようにしている。拳銃について知りたがるぼくに、こんなのどかな町じゃ一生必要ない、とよく幸せそうに語っていたのを思い出す。
父さんの横には、他にも数人の大人がいた。そのうちの一人、隙のない雰囲気の女性にヒロトが声を上げる。
「……ママ?」
「ヒロト、恐竜――『古代種第Ⅴ号』見つけてくれたのね。でも危ないから、早くこっちに来なさい」
「見つけた? 俺が……?」
「探すって張り切ってたでしょう? バイタルブレスの座標が普段は行かないくらい山奥に行ったから。それで助けに来られたのよ」
「あ……」
当然だ。お母さんから教わった方法でぼくのバイタルブレスを追ったんだから。ヒロトの母にも当然それができる。ヒロトはそのことに思い立ったのか、口をぱくぱくさせた。
「ち、ちがうんだ。えっと、ママ、恐竜はいなくて……」
ヒロトがそうやってブイモンをかばおうとしたことに、ぼくは少なからず衝撃を受けた。借りを返しているつもりなのだろうか。
彼は申し訳なさそうな目をこちらに向けてきたが、うまく反応を返してはやれなかった。ぼくはぼくでなんとか父さんを説得しないといけなかったからだ。
「近頃ナルミが冷蔵庫から色々持ち出しているっていうからまさかと思ったが……そのまさかだったとはな」
「父さん、誤解なんだ。こいつは……」
「ナルミ、そいつは怪物だ」
「ううん。ぼくの友達だ。それに渡せないよ。こいつが家に帰らないと、町が大変なことになっちゃうんだ!」
「それは、そこにいる女の人から聞いたのか」
父さんが鋭い目をハルラに向ける。その横で、ヒロトのお母さんがうんざりしたようにため息をついた。
「真藤ハルラ。あなた、私の息子にまで妄想を吹き込もうって言うの? 少しは私の部下らしく振る舞ってほしいものね」
ちょっとびっくりするくらいの激しい口調だ。しかしハルラはどこ吹く風だった。
「なんのことですか、主任? 私は何も悪いことはしていないし、嘘もついてないですよ」
「でも、その子達に言っていないことがある。違うかしら。希少なサンプルである古代種第Ⅴ号を連れて脱走したことは話したの? それから半月、私達が大騒ぎしてたことも、自分に都合の悪いことはみんな黙ってたんでしょう?」
「その、第Ⅴ号っていうの、やめてくださいよ。この子はチビモンで、今じゃブイモンって立派な名前があるんだから」
ハルラは不機嫌な調子で告げる。
「あのままの環境にいたら、ブイモンは間違いなく死んでた。今生きてるのはナルミくんのおかげですよ」
「国の所有物を勝手に持ち出していい理由にはならないわ。それに百歩譲ってそうだとしても、元気になったなら連れ帰れば良かったじゃないの」
「あんな場所に? 冗談じゃない。この際だから言っておきますけど、ブイモンは誰の所有物でもないの。それより聞いてください、状況は深刻なんです。イグドラシルが……」
「いい加減にしなさい!」
ヒロトのお母さんがヒステリックに怒鳴ったので、ぼくもヒロトもぼくの父さんも、みんなうろたえてしまった。
「そんな与太話はもう沢山なの。たまたまデジモンの存在を知ってたから付き合ってあげてたけど、私含め、もう誰もあなたのばかげた妄想なんか相手にしてないわ。この上で子どもにまで悪影響を与えようって言うなら、第Ⅴ号と一緒にあなたを拘束するだけよ」
そう言う彼女の後ろから、数体のずんぐりとした影が表れた。ガスマスクをつけたゴム袋のようなその体は、小鳥のさえずる森の中にはあまりにも不釣り合いだった。
「トループモン」
ハルラは苦々しげに呟いた。
「デジモンから吸い出したエネルギーをゴム袋に詰めて戦わせるなんて、ほんとぞっとする」
「必要なのよ。あなたみたいなのがいるからね」
突然現れた新しいデジモンに、父さんは見るからにうろたえたようだった。
「おい、なんだこれは」
「木ノ本さん、あなたに依頼したのは息子さんに関する手がかりの提供だけです。邪魔をしないで下さい」
「冗談じゃない。あんた、自分の子どもに銃を向けるのか!」
「デジタルモンスターのみを拘束する弾丸です。心配はない」
「だからって!」
お父さんが怒ってくれている間に、ぼくはヤシャモンに目配せをした。さっきの彼は風よりも早かった。トループモンと呼ばれた兵士を倒せなくとも、自分だけでも逃げられればと思ったのだ。
けれど、ヤシャモンは黙って首を振った。ぼくたちに銃が向けられている中で逃げ出せないのだ。それが分かってしまうほどにその瞳は雄弁で、それがとても辛かった
「ママ、少し話を――」
「後でね」
ヒロトの訴えをあっさりと流して、彼の母は指を鳴らす。その瞬間、とループモンの腕についた銃が放つ光がヤシャモンに当たった。彼は力なく膝をつき、ブイモンに姿を戻す。
「ブイモン!」
「近寄らないで。それはこちらで確保します。木ノ本さん、息子さんと帰って下さって結構ですが、くれぐれもこのことは内密に」
「……分かり、ました」
1体のトループモンがブイモンの体を抱え上げ、残りがハルラを囲む。彼女はぼくの方を見た。
「ハルラ」
「ここで『私が話したことは全部嘘なんだよ!』ってごまかして、君が巻き込まれないようにしたら、悲劇のヒロインっぽいかな」
「ハルラ、何を……」
「でも、それはできない。それじゃブイモンが助からない。この町も」
彼女はニッと、少しさみしそうに笑った。
「残念だけど、私はここで退場みたい。後は頑張れ、ナルミくん」
「ハルラ!」
「やりたいことをやればいいの。君ならできる」
すごい自由研究、つくるんでしょ?
口の動きだけでそう言って、彼女はぼくの前から去って行った。
6
帰り道に、父さんがハルラについて教えてくれた。
正確には、口をきこうとしないぼくに、父さんが勝手にハルラの過去を語ってきかせたのだ。
ハルラは十数年前。あるデジモンと一緒にいるところを国に保護されたのだという。塾帰りに30分ほど連絡が取れなくなり、探しに出た父親が帰路の途中で呆然と座り込んでいるのを見つけたのだ。
デジモンはジャンクデータで構成された低級のもので、おまけに死にかけだった。駆除してデータを採取することも考えられたが、それをきいたハルラは死にものぐるいで抵抗し、奇妙な証言をしたのだという。
電脳空間の向こう側にある異世界に行っていたのだ、と彼女は語った。そこであるデジモンと出会い。数年にわたる冒険をしたというのだ。
いろんな仲間と出会い、いろんな敵と戦い、最後にはその世界のホストコンピュータである世界樹「イグドラシル」の助けを得て帰ってきたのだという。
彼女の話は荒唐無稽だった。しかし彼女はその話を細部まで、何度でも同じように語ることができたから、一度は信じられたのだという。
そしてハルラは国の保護を受け、相棒だったという死にかけのデジモンと共に。デジモンの研究機関で働き出したのだ。
けれど、彼女はうまくなじめなかった。デジモンが確保され、実験が提案される度に、彼女は彼らに人道的な扱いをするよう声高に主張した。国にとっては、ただの奇妙なコンピューターウィルスだったデジモンにだ。主張の根拠を求められれば、彼女は自分が経験したという数年の冒険から、きわめて感情的な根拠を引っ張り出してきた。
その主張は他の職員の研究を阻害することもあり、ハルラは職場で孤立してしまった。彼女を嫌う同僚達は、彼女がただの妄想狂であることを証明するために、何度も意地悪な質問をぶつけた。
数年冒険した記憶があるのに、実際行方不明だったのは30分だけだったじゃないかと問われれば、こちらとあちらの世界では時間の流れが違うのだと答えた。
一緒に色んな敵と戦ったにしては、その「パートナーデジモン」は余に弱々しいじゃないかと言われれば、彼は立派に戦って傷ついたのだ、と抗議した。
その世界のホストコンピュータとさえ知り合いだったのなら、もういちどその世界に行く方法、少なくとも観測方法くらい示せるはずだ、と誰かが言えば、少し唇をかんで、それはできない、と答えた。
気がつけば、彼女の話を信じるものは、誰もいなくなっていた。
ぼくは怒った。そんなの、あまりにひどいと思ったからだ。
父さんに言っても仕方ないと思いながら、何度も父さんにわめき散らした。あの場所で味方になってくれなかったのが、すごくすごく悲しかったのだ、とは言えなかった。
あの樹の声を聞いた。ハルラの話は本当だ、と言っても、聞く耳を持ってはくれなかった。
「お前は子どもだ」
最後に、ついに父さんも怒鳴った。
「こういうことは大人に任せるんだ。しばらく外出禁止にするぞ。バイタルブレスも没収だ。だいたい、こんなものがあるからいけないんだ。」
後は売り言葉に買い言葉で、ぼくはご飯にも手を付けず、部屋にこもって、悲しくなって泣いた。お父さんの言う通り、ぼくは子どもだった。友達ひとりも助けてあげられない、弱っちい子どもだった。
7
3日が経った。ブイモンもハルラもいないと、夏休みの一日はこんなに長いんだ、と思った。
父さんとはまだ口をきいていない。母さんがなにかを言ったのだろうか、早々に外出禁止は解除されたけれど、バイタルブレスは取り上げられたままだった。外を歩いてみても、できることなんか何もなかった。
しかたないから、部屋で過ごすことにした。お気に入りの漫画を1巻から読んで、それから明日やる分の宿題をやって、それでも暇だったからその次の日の宿題もやった。
そんなことをしているうちに、宿題はほとんどやり終えてしまって、自由研究だけが残っていた。3日前まであんなに書くことがあったのに、もうメモ用のノートを開いても、何も浮かんでこなかった。
むしゃくしゃして「まとめ」の欄に「人と恐竜は友達になれないことが分かりました」とでかでかと書いてみた。
取り返しのつかないことをした気がして、紙が破けそうになるまで消しゴムをかけた。
それでもまだ罪悪感は晴れなくて、スニーカーのかかとを潰して履き、外に出た。
そこにヒロトがいた。彼はぼくの家のインターホンの前で挙動不審な動きをしながら、あたりをきょろきょろと見回し、玄関から出てきたぼくに気がつくと、びくりと体を震わせた。
「あ……」
「何の用?」
「い、いや、あの」
彼はしどろもどろになって、顔を赤くしたり青くしたりした。
「謝りたくて、この間のこと」
「ヒロトは、謝るようなことしてないよ」
「それでも、なにか話したくて」
「ぼくと? バカにしてるんじゃなかったのかよ」
「……ごめん」
彼がまたうつむいて謝るので、ぼくは自分が悪者のような気分になった。
「……あと、1週間だろ」
「……」
ぼくは黙った。何のことか聞くまでもなかった。あと1週間、それまでにブイモンを取り戻さないと、この町が、この世界が危ないのだ。
でも、だからといってなにができるわけでもない。ぼくは話をそらすことにした。
「ぼくに会うこと、お母さんに止められなかった?」
「知ってたら止めるだろうけど」
ヒロトは苦笑した。
「あの人。今はずっと研究所にいて帰ってこないんだ」
「お父さんは?」
「東京で単身赴任」
「……それじゃあ、ずっと家に一人?」
「そう」
なんだか、想像もできないくらいにさみしい話だな、と思った。ぼくや荒木で生まれ育った子どもたちには、そんな暮らしを想像できる人はいないだろうと思った。
そしてはっとした。都会の子どもたちは、裏山や駄菓子屋みたいなぼくたちの遊び場にはめったに来ない。ぼくはきっと都会の子どもだけで楽しいコトをしているんだろうと思っていた。でも、もしかしたら彼らもそういう所で遊びたかったのかもしれない。そんな彼らをよそ者扱いして締めだしたのは、「みんなの遊び場」を「秘密の遊び場」にして独占したのは、ぼくたちではなかっただろうか。
「行くよ」
「え?」
「どうせ暇なんだろ。誰とも遊ばないでこんなとこに来るなんて」
「そういう気分になれなくて」
「じゃあ、ぼくがお前の家に遊びに行く。文句ないよな」
ヒロトは驚きに目をぱちくりさせて、頷いた。ぼくはスニーカーのかかとを直して、遊びに行ってくる、と母さんに言った。
8
ヒロトの部屋は、駅前のぴかぴかのアパートの一室だった。ぼくを家に上げると、彼は冷蔵庫からオレンジジュースを出して2人分注いだ。我が家では母さんによって1日のジュース摂取量が厳正に管理されていたから、なんだかすごく悪いことをしているような気分になった。
「ブイモン、だっけ」
ごくごくとジュースを飲み干してグラスを置き、ヒロトが口を開いた。
「俺、アイツのこと、助けたいって思う」
「どうして」
ぼくはびっくりして尋ねた。
「助けてもらった借りがあるし。あのままじゃあ納得いかないだろ。ナルミは?」
「そりゃあ、納得してるわけないよ。でも、できることなんか何もない。ブイモンが今どこにいるかさえ分からないんだ」
「それなら分かる」
ヒロトがそんなことを言ったから、ぼくは驚いて目を大きく見開いた。
「分かるって?」
「うん。この間の帰り、ママがみんなに指示してたんだ。『ネットを使って東京まで送るのは脱走の可能性があって危険。月末に護送チームが町に来るまでは、研究所の閉じたサーバーに閉じ込めて、私が見張っておく』ってさ」
このセリフについて、ずっと考えてたんだ、とヒロトは言う。
「つまりブイモンはママの職場の閉じた――ネットにつながっていないサーバーにいるってこと。ネットを使わないのは『脱走の危険性があるから』。それって、逆を言えば、ネットに繋いでやれば、ブイモンは自分で出てこられるんじゃないか?」
たしかに、とぼくは頷いた。ハルラが言うには、もともとかなり弱っていたブイモンは、この町に来てかなり元気になったという。今のブイモンなら、道さえ用意してやれば自分から外に出られるかも知れない。
「でも、サーバーのある部屋にだって鍵が掛かってるだろ。ヒロトの母さんだって見張ってる。そこに忍び込んで、サーバーをネットに繋ぐなんてコトが……」
「そう、難しい。それに他にも問題はある。ママの連れてるあの兵士みたいなデジモンだよ。俺たちもいたとはいえ、ブイモン、あいつらに大勢に囲まれて、抵抗できなかっただろ?」
ううむ、ぼくはうなる。ブイモンの力を信じてやりたいところだけど、進化してヤシャモンになったとしても武器は木刀だ。銃を持ったトループモンの軍団に1人で立ち向かうのは無謀だろう。
「じゃあ問題だらけなんじゃないか」
唇をとがらせたぼくに、ヒロトは肩をすくめた。
「そうだ。だから君を呼んだんだよ。ナルミ。なんか良い方法無いかな?」
つまりこいつは、ぼくと一緒にブイモンを助ける方法を考えようとしているのだ。そのためにわざわざ、ぼくの家までやってきていたのだ。
「なんで、お前がそんな……」
「その話、今しなきゃダメか」
「別に」
「じゃあ、後にしようよ。とにかく俺さ、まだなんかできる気がしてるんだ」
ぼくたちは子どもだ。何もできない。そう思っていた。いや、まだそう思っている。でもだからって、方法を考えない理由にはならない。ヒロトを見ていて、そんな当たり前の事を思い出せた気がした。
「でも。むずかしいな~」
「な」
ヒロトはぐしゃぐしゃと頭をかきむしりながら、テーブルに突っ伏した。その向こうに彼の机が見える。本棚には、ぼくのものと同じ宿題の束が並んでいた。
「自由研究」
ぽつりとぼくが呟くと。ヒロトが体を起こしてこっちを向いた。
「え?」
「自由研究だよ。お母さんと一緒に、ブイモンを調べるって言ってたろ。あれ、どうなったの?」
「ああ、あれ」
彼は苦笑いをして首を振った。
「なんにもない。ママから『恐竜みたいな生き物を見たことがないか』って聞かれて、俺が一人で浮かれてたんだ」
「ぼくもどうしようかな、ブイモンについて書いてたんだけど」
「マジ?」
「ヒロトがバカにするから、すごい自由研究やらなきゃと思ってたんだけど、そっちもテキトーならこっちもテキトーでいいかもな」
「だな。学校であんなの発表したら、ママに本気で怒られそうだ。一緒に卵の殻でも溶かす?」
「夏休み中に、ブイモンを助けて、おまけにトループモンにも負けないくらいにパワーアップしてもらう方法、考えたら、それが自由研究にならないかな」
「それもあり」
ぼくとヒロトはいっしょにくすくす笑った。すごい自由研究をつくって、それが世界を救ってくれたら、どんなに素敵だろうと思った。
そして、閃いた。
「……それだ」
「え?」
「だから、すごい自由研究だよ!」
興奮のあまり立ち上がったぼくを、ヒロトはぽかんとした顔で眺めていた。
「自由研究で、この町を救うんだ!」
9
夏休み最後の1週間も半ばを迎えたその日。あの老木の告げたタイムリミットの最終日。
『大丈夫かな。ナルミ、うまくいくよな……』
ヒロトが不安そうに呟く。ぼくも気持ちは同じだった。うまくいかなかったら、友達のブイモンはどこかに行ってしまう。それどころか、この町もどうなるか分からないのだ。
それでも、心のどこかに、ワクワクしている自分がいた。
「きっと大丈夫だよ。それよりさ、これがうまくいったら、いろんなことがひっくり返るんだ」
大人と子ども。
荒木の子どもと都会の子ども。
人間とデジモン。
「ぼくたちが勝手に引いてた区別の線が、初めから無かったみたいになくなるかも知れない。それって、最高だろ?」
『それは……いいかもな』
呟くと同時に、互いのバイタルブレスが鳴る。
『俺の方はオーケーだ。全員タブレット持って町中でスタンバってるって』
「こっちも大丈夫。みんな、お茶の間のテレビのリモコン、確保したってさ」
この計画に協力してくれた子どもたちからのいくつもの連絡を確認し、ぼくは最後に時計を見る。
「……時間だ。いくよ、みんな!」
●
道ばたに立つ子ども達の掲げる画面が、大人達も見るお茶の間のテレビが、一つの放送を流す。
●
どうも! 荒木小学校5年の木ノ本ナルミです。今緊急でこの動画を回してます……って、一度言ってみたかったんですよね。
見てくれてるみんな、ありがとう。通りすがりのあなたも、是非耳だけでも聞いていって下さい。
今日、ぼくは自由研究の発表をします。
変ですよね。夏休みが終われば、いやでも自由研究の発表会があるのに。こんなふうにして、色んな人の前でやるなんて。
ちゃんと理由はあります。……普通に学校で発表したら、怒られちゃいそうだから。
先に言っちゃいますか。テーマは「恐竜と人が友達になることについて」。ふふふ、内容が気になってきたでしょう。
それじゃあ、始めますね。
あ、その前にスタッフの紹介しなくちゃ。自由研究発表には必要ないんだけど、せっかく動画配信してるからね。
今日、スタジオ提供とか、カメラとか配信とか、色々やってくれてる、同級生の日暮ヒロトくんです。はい、なんかしゃべって。
「……どうもー、よろしくおねがいします」
ははは、なに緊張してんの。
●
交番前で配信を見せられた父さんは、きっとお茶を吹き出しているだろうな、なんてことを思う。
「な、なななななナルミ!?!?」
駄菓子屋に行った子も一人はいるはずだから、オババも見ていると思う。近所のちびっ子も一緒に見てくれているかも。かっこよく映っていると良いんだけど。
「あらあら、ナルミくん、いつから芸能人になったの?」
でも、それより何よりカンカンだと予想されるのが、ヒロトのお母さんだ。オフィスに閉じこもっているだろうから、最初に気付くのは他の研究員さんだ。
「しゅ、主任! 外で子どもが、こんな配信を!」
「なに? 私仮眠を……ヒロト!?」
「あの、主任。こ、この子ども部屋、うちと同じです。あの集合住宅じゃ……」
「そうだ。それに、この壁紙……ま、まさか、私の家で?」
びっくりだろう。自分の息子が、会うなと言っていた子どもと一緒に動画配信。しかも背景は自分の家の子ども部屋と来ている。
でも、本当のびっくりはこれからだ。
●
はい、というわけで、最初に恐竜というのはちょっと嘘でした。まあ、こういう「釣り」みたいなの? 実際にもよくあるしね。
はい、そうです。デジタルモンスター。デジモン。そういうのがいるんです。
あ、疑ってるでしょ。はい、これが写真。これが動画。
「そういう偽動画、最近簡単に作れるよ』
おっと、スタッフに痛いとこ突かれちゃった。そうですよね。こんな青い恐竜がいるなんて、普通は信じられませんよね。
だから今日は、本人に来てもらいます。本人であってるかな。本竜?
「本デジじゃない?」
ははは、ウケる。
このデジモン、ブイモンって言うんですけど、デジタルな生き物なので、色んな電波やケーブルに乗って移動できるんですよね。特にブイモンは力が強いので。
ま、国――そう、国は全部知ってます。知っててぼくらに隠してるんですね――では、捕まえたデジモンをオフラインの場所に置いておけば大丈夫なんじゃないかって思ってるみたいですけど。
●
もちろん嘘っぱちだ。でもこれを見たらヒロトのお母さんは不安になるだろう。大丈夫だと頭では分かっていても、確認せずにはいられない。おまけにデジモンの存在が大暴露されたときた。
「主任……、これ、町中で子ども達が上映してます!」
「……至急本部に連絡! この動画投稿サイトでの配信や、SNSへの転載を何としても止めさせて。文章だけの投稿は後回しで良い。どうとでもできるわ。それから空いてる人員は街に繰り出して、片っ端から子どもたちを捕まえて! とにかく、荒木町だけで情報をせき止めるの!」
「了解」
「あと、あなたたち、うちに行ってこの配信の大本を止めてきて。206号室。バイタルブレスの遠隔操作で鍵は開けておくわ。……私は第Ⅴ号の様子を見に行く」
現場は大混乱、どんな賢い大人達も、当たり前の疑問に意識が向かない。
そもそもなぜ、取り締まられると分かっていてわざわざ自分たちに放送を見せたのか? そこに気付かない。
だから、サーバールームの鍵を開けて、入室して、ブイモンが相変わらずそこにいるのを見たときには、もう遅い。
『主任、主任! 聞こえますか!』
「今サーバールームよ。第Ⅴ号は問題ないわ」
『主任のおたくに伺ったんですが、誰もいません! 全くの無人です。配信は続いてるのに!』
「……どういうこと?」
『さあ、さっぱり……しゅ、主任!? サーバーになにかしましたか?』
「いえ、なにも、どうかした?」
『緊急用のアラートです。……そのサーバー、たった今、オンラインになりました』
●
はい、ドッキリ大成功。
いや、ごめんなさい。さっきデジモンを呼ぶっていうのは、ちょっとした演出だったんです。きっと今ごろスタジオに怖い大人がいっぱい乗り込んでるんじゃないでしょうか。
あ、ぼくたちは大丈夫です。
これ、録画なんで。
●
サーバールームに、ばちばちという音が響く。続いて、ぺたり、というなにかが着地する音。
振り返ったヒロトのお母さんが見るのは、サーバーを抜け出して現実世界に現れたブイモンと――。
「ヒロト……?」
「ごめんね、ママ」
無線LAN接続機器を持って引きつった笑みを浮かべる。彼女の息子の姿だ。
●
おっと、もう時間みたいだ。でも大丈夫。
この続きは、現実(リアル)でお楽しみ下さい、なんてね。
10
自分の持ち場で待機しているぼくのバイタルブレスから、ヒロトの側の会話が聞こえてくる。
母親の横をすり抜けてダッシュし、うまく研究所の外には出られたらしいが、そこで囲まれてしまったらしい。この規則正しい足音はおそらくトループモンだ。ぼくたちがデジモンの存在を暴露しちゃったから、向こうもデジモンを隠す気ゼロの対応をしてくる。当然と言えば当然だ。
「ヒロト、待ちなさい! ……なんで、どうしてなの?」
「ごめん、自分でも、よく分かってないんだ」
絶望したような母の問いかけに、毅然としたヒロトの言葉が重なる。
「でも、ママが誰かを悲しませているのは、分かっちゃったから」
「……第Ⅴ号があれば、研究が飛躍的に進むの。それがお母さんの生きがいで、夢なのよ。どうして分かってくれないの」
ヒロトが拳を握りしめる音がする。
「……ママ」
「なに? なにか言って、ヒロト」
「俺、ママが好きだよ。それに、あんまりワガママとか言ったこと、ないだろ」
「そうよ。本当のあなたは良い子のはずなの。しっかりして」
「それなら、本当のこと、言うけど」
彼はきっと泣いていたんだと思う。その涙をぬぐう時間があって、それから、大きく息を吸う。
「ママが嫌なヤツになって、俺のこともほっといちゃうような、そんな夢なら、ぶっ壊れちゃえばいいんだ!」
彼はそう言って、くるりと回れ右をし、トループモンに向って走り出す。
ひゅっと、彼の母が息を呑む音が、ぼくの方にまで聞こえた。
「そう、そうね。ヒロト……」
彼女はぶつぶつとなにかを呟いて、それから、言った。
「……トループモン、拘束用弾丸用意。必要なら撃ってでも、捕まえて」
じゃきり、と銃を構える音。それでも、ヒロトの足音は止まらない。
勢いの良い発砲音がした瞬間、それをかき消すような爆発音が響き、通信は途切れた。
●
「お、おれ……。大丈夫だ。でも、なんで大丈夫なんだ……?」
突然の爆発による煙が晴れ、ヒロトはぽつりと呟く。
「ナルミとの通信、切れちゃった……って、ブイモンは?」
煙の向こうを見上げる彼の耳に、間延びした女性のかすれ声が響いた。
「あーあ、ナルミくんは損したね。ここにいれば、カッコイイの見逃さずに済んだのに」
ブルーのワンピースに野球帽の女性――真藤ハルラが、ぼろぼろの自転車をこぎながら、そこにいた。
「……ハルラさん? なんで」
「うん。マンションで軟禁状態だったんだけど、町がずいぶん面白いことになってたから」
「はい」
「窓割ってきちゃった」
「窓を」
「そうそう、割ったの」
唖然とするヒロトに、ハルラはなおも語り掛ける。
「しっかし、ヒロトくん、最初はクソガキだと思ってごめんね?」
「はい?」
「君は勇敢な人だったみたい。嫌い合っていた相手に歩み寄る勇気、大切な人にダメって言える勇気、こうと決めたら真っ直ぐに走れる勇気」
そう言いながら彼女が指さす先、トループモンを吹き飛ばした爆発の爆心地には、燃える炎のような鎧に身を包んだ竜戦士が立っていた。
「――フレイドラモン。バイタルブレスは、君の資質を『勇気』だと見なした。誇るべきコトだよ」
「俺が、ブイモンを……?」
その通り、とでも言いたげに、フレイドラモンはヒロトを振り返り、力強く頷いた。
「そういうこと。でも話は後、自転車貸してあげるから、走って走って。あの炎なら、このトループモンの壁も突破できる」
「あ……はい。えっと、お母さんは」
「私に任せて」
ハルラに真っ直ぐ目を見てそう言われ、ヒロトは頷くと、自転車にまたがり、フレイドラモンと共に走り出した。
●
「……真藤ハルラ、やっぱりあなたなのね」
「どうも、こういう成り行きになっちゃうんですよ。損な役回りです。ま、今の主任ほどじゃないけど」
そう言って肩をすくめるハルラを、ヒロトの母は感情のない目で見つめ、やがて、手首のバイタルブレスを操作した。
「主任命令よ。荒木町全域に、暴動鎮圧装備のトループモンを配備して……もう、デジモンの存在はバレちゃってるのよ。やりなさい」
ピッと言う音がして通話が切れると、彼女はハルラに向かい合った。
「子どもが何をしても、どうせ捕まるわ」
「怖いことしますね。でも、うまくいくかな。残りのありったけを集めても、まだここにいるトループモンの方が多いでしょ」
「あなたを捕らえたら、ここのトループモンも町中に回す」
「そうですか、それなら――」
ハルラはそういって、目の前の相手を真っ直ぐに見据える。
「私がここで足止めをする価値はあるってことですね」
「何言ってるの」
ヒロトの母はあざけるように言う。
「今のあなたに何ができるって言うの。デジモンもいない。ひとりぼっちの人間が。やっぱり、ただの妄想好きの嘘つきなのね。知れてすっきりした」
「いますよ、デジモンなら」
そう言って彼女が取り出すのは、古いゲーム機だ。
「この子が、自分も命をかけてなにかしたいって言ったから、私、ここまで来たんです」
「まさか、あの死にかけのジャンクデータで戦うつもり?」
「そうですよ、そうです」
「ちょっと、本当に笑わせないでよ? あんな出来損ないに、何ができるって――」
べちゃ、という音。それから悪臭。ヒロトの母は顔を歪め、自分の服についた、ピンク色の汚物を見る。
「悪口言うからですよ。臭いでしょ。ウンチ」
そう言うハルラの傍らには、緑色の体をぬらぬらと輝かせたデジタルモンスターがいた。
「ヌメモン、ほんとに最後の戦いだね」
ハルラは呟く。ヌメモンはその目をぎょろりと動かして、彼女を見た。
「ううん。私、今ここであなたと戦えて嬉しい。今までの、どんな冒険よりも」
ヌメモンも同意するように頷き、次の汚物を構える。それに対応するように、トループモンの群れも銃を構えた。
「行こう。10年モノのパートナーの絆、見せつけてやろう」
そう言って彼女はすう、と大きく息を吸った。
「ナルミくん、ヒロトくん、それに少年少女たち!」
誰に語り掛けるでもなく、彼女の唇は言葉を紡ぐ。
「あなたたちはまだ子ども、できないことだらけ、知らないことだらけの、弱っちい子ども。早く大人になりたいとか、思うのかもね。でも、私もふくめて、大人ってのはさ、何にも持ってないから、何でも知ってる様な顔して、強がってるだけなんだよ」
彼女の頬を弾丸がかすめるが、その言葉は乱れない。
「君たちはまだ何も知らない。でも、それでいて君たちは全部持ってる。私達が、どれだけ願ったって手に入れられないモノを」
だから――。
11
「走れ! この世界は全部、君たちのモノだ!」
どこかでそんな声が聞こえた気がした。
町は大変な騒ぎになっているようだった。トループモンの群れに対し、ぼくの仲間の子どもたちは町を巡り、自宅待機を呼び掛けていた。あのデジモンはヒロトとブイモン以外には何もしないはずだから、それでみんなは安全というわけだ。
ぼくはみんなのバイタルブレスを通して、町の様子を逐一確認していた。ぼくたちの自由研究は大好評で、みんなの心を大きく動かしたらしい。誰かの勇気が、友情が、愛情が、知識が、純真が、誠実さが、やさしさが、ブイモンを支える希望の光になる。それがぼくたちの、いかにも子どもっぽいプランだった。
ヒロトの自転車に案内されながら、ブイモンは町を走る。色んな人々の感情に突き動かされて、次々に姿を変えて。
「すごいや、まるで、虹みたいだ」
ぼくは呟いた。と、誰かがそれに言葉を重ねる。
「虹が見えるのは、遠くに立っているからこそだ」
びっくりして振り返ると、そこには、あせだくのおまわりさんが立っていた。
「父さん!?」
どうしてここが、そう驚くぼくに、彼はけらけらと笑う。
「いやあ、ナルミがとんでもないことを始めたのを見てな。そういえば、この森の木が光ったと話してたことを思い出した。きっとここにいると思ったんだ」
「話、覚えてたんだ」
「ごめんな、信じてやれなくて」
「……いいんだ」
ぼくは体育座りをして、膝の間に顔を埋めた。
「いいんだ。ぼくこそ、無茶してごめん」
父さんがぼくの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「寂しい役も引き受けて、えらいぞ」
「……バレてたか」
ぼくの役目、それは、あの山の麓でブイモンを待つことだった。もし万が一うまくいかなかったら、誰かが最後まであの古木を説得しなくては。そういう、大事で、確かに少し寂しい役だった。
「でも、こういう仕事が大事だってのは、父さんから教わったからさ」
そう、口の中で呟くぼくの耳に、遠くから声が聞こえた。ぼくは慌てて立ち上がる。
「ヒロトが来たかも」
「ほんとか! どこだ!」
「まだ見えない」
「父さんも見えないな。どれ」
そう言う間に父さんはぼくの体を抱きかかえて、空に掲げた。驚きの声を上げるぼくの目に、見覚えのある自転車をこぐヒロトと、虹を背負って町を駆け抜けるブイモンが見えた。
12
「ブイモン!」
ぼくが声を上げるのと、ブイモンがぼくの胸に飛び込んでくるの、ほとんど同時だった。青い恐竜はうれしそうにその石頭をぼくにぐりぐりと押しつけてくる。それが嬉しくて、少しさみしかった。
ぼくも彼も分かっていた。こうして再会できたことが、同時にぼくたちのお別れのはじまりでもあると。
山をかき分け、あの大樹のそばに立つ。
ブイモンが近づけば、それはあのときと同じように、黄色みがかった光を放った。
《これは……人の子が、約束を果たしたか》
大樹はまるで意外だと言わんばかりで、失礼なヤツだと思う。
《おや……竜の子よ。その『奇跡』は、私の力ではないな、どこで拾ってきた?》
大樹にそう問いかけられ、ブイモンは誇らしげに、胸をとんと叩いた。
《……そうか、ならば、約束を守りし人の子よ、ささやかな礼だ。最後に別れの時をやろう》
それだけ満足そうに呟いて、木は輝いたまま沈黙してしまった。それでも、その光が段々とブイモンを包んでいくのが分かる。
「ブイモン」
ぼくが話し掛ければ、ブイモンは目を合わせてくれなかった。きっと泣き顔を見られたくないのだ。そう思ったのは、きっとぼくも同じだったからだ。 ふたりともそうなら、最後のあいさつは決まっている・
「……またな」
ぼくはそれだけいって、拳をブイモンに突き出した。
青い恐竜は目をぱちぱちさせてぼくの拳を見つめ、ごつん、と、石頭をぶつけてくれて。
そうして、ふっとどこかに消えた
結局のところ、恐竜と人が友達になる、ということがどういうことなのか、ぼくにはまだは分からない。
でも、それでも、なんとか分かることは沢山あって。
それは、出会ったときの胸の高鳴りだったり、助けになりたいという強い気持ちだったり。
別れの時の、止めどない涙だったりするのだ。
12
騒動が落ち着いて、びくびくしながら外に出てきた人たちは、空にかかった大きな虹を見た。
真藤ハルラもその中にいた。その中には、ぼろぼろの服と、画面にヒビの入ったゲーム機を持って、ぽつぽつと歩いている。
「……やったんだね。ナルミくん」
彼女は、ちょっとだけさみしそうに、でも誇らしげに笑みを浮かべた。
と、彼女の横に、一人の老婆が立つ。
「あら、駄菓子屋のオババさん、どうかしました?」
彼女はそれには返事をせず、ただ、ハルラの背中を撫でた。
「えらかったねえ」
「……!」
「頑張ったねえ」
「いや、この場合、頑張ったのもえらかったのも、どう考えても子ども達で……」
「えらい、えらいよ」
「あらら、私、子どもに思われてる?」
「ほんとうに。おつかれさま」
「……」
気がつけば、ハルラは膝を突いて、大粒の涙を流していた。そしてえらかったよ、がんばったよと繰り返しながら、しわくちゃの手が、いつまでもその頭を撫でていた。
13
あんなことがあったのだから、もしかして当分夏休みは明けないのでは。そんなぼくたちの淡い期待を打破るように、嘘みたいに普通な新学期がやってきた。
東京から怖い人達がやってきて、デジモンのことについては箝口令が敷かれた。けれど、ぼくとヒロト以下、騒動に関わった子ども達はお咎めなしだった。大人もたまには、自分たちの間違いを認めるのだろう。
ぼくのお父さんは少しだけ忙しそうにしている。えらい人達に今回の顛末を説明するのだといって。似合わないスーツ姿を見せてくれた。
ヒロトのお母さんは休職願を出した。東京からはお父さんも来て。しばらくは家族3人で過ごすらしい。ヒロトとはぎくしゃくしてしまっているけれど、自由研究発表会には顔を出すと聞いている。
ぼくとヒロトを中心として、荒木の子どもと都会の子どもの間には歴史的な講和条約が結ばれた。ぼくもヒロトも。謝らなきゃいけない相手が沢山いたと分かった。駄菓子屋の客入りも今までの2倍になって、オババもほくほくしている。
そして――。
「おはよう、ナルミくん」
「ハルラ、何で学校にいるの?」
8月のある日の朝、昇降口には、緑のつなぎに箒を持ったハルラがいた。
「いやさ? あの事件の後、私まったく、まーったく心当たり無いんだけど『公衆衛生を著しく損なった』とか言われて、罰として町の掃除とか、色んな整備やらされてたの。そしたらなんか、性に合うなって思って。なってみました、用務員さん」
「なってみました、じゃなくってさ」
こういうエキセントリックなところは変わらないようで、ぼくはため息をつく。
「でさ――今日なんでしょ。自由研究発表会」
「うん」
ぼくは描き込みでびっしりのノートと、丸めた模造紙を誇らしげに掲げた。
「ヒロトと。こないだの動画の続きをやる」
「頑張りなよ。用務員さんも、見てるからさ」
そういってハルラが突き出す拳に、ぼくも笑って拳をぶつけた。蝉時雨が、ぼくたちの間に横たわっていた。
そうして、ぼくたちは未来に進んでいく。やがて何もかも失って、大人になると知っていても、明日の予定も分からない日々を。それでも。
決して消えない、青い竜の思い出と、再会の約束を、胸に抱きながら。
《おしまい》
ノベコンお疲れさまでした!
感想を配信で喋らせていただきましたので、リンクを下に貼っておきます!
https://youtube.com/live/PuxrEcaLWnc
(12:30~感想になります)
あとがき
斑目あきらってだれですか??? ぽえぽえ???
と、いうことで、「デジモンレインボウズ」読んでいただきありがとうございます。そしてノベコン参加者の皆様、お疲れ様でした。マダラマゼラン一号です。
マダラはノベコンに2作品投稿しました。片割れはこの有様なんですが、個人的には「ノベコン」と言われたときはこの「レインボウズ」の方を今は想起します。そして、これからもそうなんだろうなってかんじです。
別件の締め切りとか仕事の繁忙期とか色々ある中で、締め切り前3日で一作仕上げなくてはならなくなり、もともと書いていた作品を「とてもこの時間では書き切れぬ」とぶんなげ1からほぼ寝ずに書いた作品がこれです。
と、いうわけで、見ての通りの尻切れトンボ、絶対二つの作品に分けた方が良いプロットに、焦りが文にも現れていて、無理矢理話を畳んだにおいがします。
正直自分が審査員でもこれは落とすなっていう作品ではあり、サロンに投稿する時は追記して完全版にしようかとも考えていたんですが、今読むとこれはこれで締め切り直前の、みんなで限界執筆してたときの「熱」みたいなのがパッケージングされているなと思い、そのまま投稿することにしました。
上でつらつらと反省点を述べちゃいましたが、この作品が嫌いかと言われればそんなことはなく、むしろ気に入っています。キャラもストーリーもみんなだいすきで、これからも色んな所に流用するかも知れません。見つけたときはにこっとしてあげてください。
最後に、個人的なイメージソングはtwillの「STAND UP」です。皆様が虹の一色でありますように。
では、またどこかで。 ありがとうございました。