※注意
このお話は去年ぷらいべったーに投稿した、『デジモンプレセデント』最終回後の、とあるハロウィンのお話です。時間軸的には『デジモンプレセデントスピンオフ』よりも後のお話。
オリジナルデジモン有ですので、その点もご注意ください。
以下、本編です。
*
「は、ハッピーハロウィン! ……なん、ちゃって……」
言う前から赤かったリューカちゃんの顔は、言い終えるなり隣で笑顔で佇んでいるヴァンデモンの仮面よりも真っ赤に染まってしまった。
ハロウィンといえばカボチャだけれど、これじゃあまるで、リンゴみたいだ。
「ハッピーハロウィン、リューカちゃん」
そんな彼女につられて、俺の頬まで熱を帯びてきたけれど、俺の場合はパートナーがパートナーなので、どちらかといえばオタマモンの亜種ってところだろうか。いや、そういう話じゃないんだけれども。とりあえず、俺の仮装の代わりという事で。
「というか、急にどうしたのゲコか? リューカさん」
お互いの顔をまともに見られないまま顔を赤らめる俺達に代わって、当の俺のパートナー・オタマモンが玄関に顔を覗かせる。
俺のミューズが疑問を口にするのも無理は無い話で、なんていったって、去年までのハロウィンは、俺達にとって「普通の日」に過ぎなかったのだ。
もちろん街の装いや近所の子供達へのお菓子のプレゼントだけじゃなくて、ハロウィンモチーフの曲を上げた事はあるし、その曲の再生回数がその日だけやけに増えたりだとか、行事ごとに疎いまま生きてきたわけじゃないんだけど、「俺とリューカちゃんにとって」という視点で見た時に、何か特別な事をしてきたわけじゃないっていうのも事実であって。
ハロウィンといえば、パンプキン。
パンプキンといえば、パンプモン。
……ヴァンデモンのパートナーとして長年迫害されてきたリューカちゃんにとって、パンプモンが主役と言っても過言では無いこの日は、あんまり気持ちの良い日じゃ無かっただろうから。
俺自身、あまり話題に上らせないように、気を付けていたのだけれど。
でも今日のリューカちゃんは、黒い髪を紺色の蝙蝠の飾りがついたクリップで留めて、裏地の赤い漆黒のマントを羽織っている。……っていうか、どう考えてもコレ、ヴァンデモンのマントだよな? ヴァンデモン、今マント着けてないし(多分リューカちゃんに貸し出すためだけに進化したのだろう)。
急ごしらえ感は強かったけれど、普段の彼女の事を考えると、とんでもない変化のように思えて。
リューカちゃんはオタマモンからの問いかけに「ええっと」と言葉を詰まらせ、ちらりとヴァンデモンの方に視線を流したのだけれど、相変わらず俺関連の事についてはリューカちゃん自身に喋らせようと、ヴァンデモンも躍起なようだ。細めた目と弧を描く唇には、なんというか、あたたかな圧を感じずにはいられなくて。
……たっぷり数秒使って、リューカちゃんは意を決したらしい。
マントの端をぎゅっと握って、彼女は赤らんだままの顔を上げた。
「その……やっぱり、これからは、ちゃんと。ソーヤさんと、こういう行事ごとを、お祝いしてみたくて……」
恋人、ですから。と。
付け加えられた消え入るような声をバッチリ拾えてしまった自分の耳に、今日ほど感謝した事は無いだろう。
ハレルヤ
ハレルヤ
ハッピーハロウィン
「ま……マジェスティック……!」
「はいはい、嬉しいのは解るゲコけど、浸ってないで先にリューカさんに上がってもらうのゲコよソーヤ」
「っと、それはそう。ごめんリューカちゃん、気が回らなくて」
「い、いえ。急に押しかけたのは私の方ですし……」
「リューカさんも遠慮しないのゲコよ!」
恋人なのゲコから! とこっちは普通に、オタマモン。
リューカちゃんも俺も、この冷え込み始めた秋の終わりの空気を前に、のぼせてしまいそうな有様である。
と、いくら顔が熱くても肌寒い夜だ。お互い風邪をひく訳にもいかないので、今更になってしまったが、リューカちゃん達に部屋に上がってもらう。
作業用机のチェアに彼女を座らせて、俺は奥にあるベッドに腰かけた。
「ええっと」
改めて、リューカちゃんの方を見やる。
撫でつけた金髪に闇色のマント、というのは言うまでも無くヴァンデモンのマジェスティック☆ポイントの1つなのだが、リューカちゃんの艶やかな黒髪にも、闇の王のマントはよく映えている。
見ればマントの下の衣装もヴァンデモンの貴族趣味と軍服を足して二で割ったようなあの衣服に色を寄せてある、いわゆるパートナーの概念コーデというヤツだと気付いて俺はとってもほっこり、顔もにっこりするなどしていた。
「仮装もマジェスティックだぜリューカちゃん」
「ふふ、ありがとうございます、ソーヤさん。そう言ってもらえると、私もヴァンデモンも嬉しいです」
自分の服装よりも、ヴァンデモンのマントが褒められたと思って嬉しいのだろう。リューカちゃんの微笑に卑屈さは無い。
もちろん俺はリューカちゃんの服飾センスもマジェスティックだと思っているのだが、彼女の魅力はそのパートナー思い故の謙虚さにもあるのでここは発言を割愛。
と、
「時に、ソーヤさん」
自分の言葉の取捨選択に勝手にうんうんと頷いていた俺が知らぬ間に一息入れて。改めて、意を決したようにリューカちゃんが口を開く。
「ハロウィンですので……トリック・オア・トリート! ……なんて、言っちゃっても、構いませんか?」
めっちゃかわいい。
「そりゃもちろん!」
若干上目遣い気味に、恐る恐る訊ねてきたリューカちゃんに困っている等と僅かにも誤解されぬよう、俺は間髪入れずに答えてみせる。
しかし--予想だにしない訪問であっただけに、それ用のお菓子は用意していない。
ただリューカちゃん用に買ってあるアイスはある。一先ずそれを渡して、この後一緒にケーキ屋さんにでも--
――いや、違うな。
「じゃ、お菓子が無いから、トリックの方でお願いしようかな?」
俺はリューカちゃんが困るかもしれないとは思いつつ、そちらの選択肢を口にする。
今日はハロウィン。
俺にだって、『イタズラ』を仕掛ける権利は、ある筈だ。
もしリューカちゃんが本当に困ってしまうとしたら、その時はそれこそそれがちょっとしたイタズラのつもりであった事にして取り下げて、予定通り2人と2体でケーキなり買いに行けば良いのだから。
だから--そう、思った、わけなのだけれど。
「そうですか」
リューカちゃんは、意外にも俺の提案をすんなりと了承して、チェアから立ち上がった。
顔には、ややぎこちない笑みを湛えている。頬も赤いが、これは引き続きだろう。
その時、何やらオタマモンを引き留めて相談? を持ちかけていたヴァンデモンと、その後ろに続いて俺のパートナーも部屋に入って来た。
2体ともニコニコと、それこそいたずらっぽい笑みを浮かべてみる。どうしたどうした。マジェスティックなんだが?
と、
「ソーヤさん、隣、失礼しますね」
デジモン達に気を取られている内に、リューカちゃんがぴょん、と跳ねるようにして、俺の隣に腰かけてきた。
「へ?」
振り向く俺の頬を、蝙蝠の羽を模したマントの襟がふわりと撫でる。良い生地だ。
じゃなくて。
「リューカちゃ--」
「ヴァンデモン、お願い」
「ソーヤさん、ちょっとごめんね」
にゅっ、と。
俺達の間に割り込むようにして、ヴァンデモンが顔を出す。
俺は、不意に、リューカちゃんのヴァンデモンの、あの1999年の個体と違って蜂蜜の色をした瞳を覗き込むことになって--
*
「……あれ?」
目が覚めると、俺は屋外に居た。
不思議と寒くは無いけれど、時刻は変わらず夜のまま。
そして、俺の住まいではないけれど、この景色には、見覚えがある。
1ヶ月と少し、居候させてもらっていた、雲野デジモン研究所。その屋上だ。
と、
「すみません、ソーヤさん。あんな、騙し討ちみたいな真似をしてしまって」
申し訳なさそうな、リューカちゃんの声。
振り返ると、そこにはリューカちゃん--なんだけど、先程とは違った姿の彼女が佇んでいて。
人でありながらデジモンのような。
貴族でありながら獣のような。
魔王然としているけれど、どこか小悪魔っぽい。
ヴァンデモン・ヴェノムヴァンデモン・ベリアルヴァンデモン。そして、ピコデビモン。
彼らの要素を全て携えながら、そのどれにも似ているようで、似ていない。『多島柳花』の名前から取って柳の幽霊の名を冠した、人とデジモンの融合体である存在--
「ウィローオウィスプモン!?」
思わず、声がひっくり返る。
確かこの姿は、特例の進化という扱いで在り続けるために、普段成って良いものじゃ無かった筈じゃ
「えっと、その、落ち着いて下さいソーヤさん。ここはソーヤさんの夢の中なので、現実での出来事じゃ無いんです」
「へ?」
「私もウィローオウィスプモンの姿になってはいますが、その、よく『声』を聞いてもらえれば、ソーヤさんなら解ってもらえるかと」
「あ、本当だ」
気が動転して思わず聞き漏らしてしまっていたけれど、今のリューカちゃんの声は、デジモンの声じゃ無い。どころか、ジョグレス相手であるヴァンデモンの声が混ざってすらいない。
目の前にいるのは、ウィローオウィスプモンではあるけれど、純度100%のリューカちゃんだ。
「でも、なんでリューカちゃんだけでウィローオウィスプモンに? というか、俺の夢の中って?」
「ピコデビモンに、人を眠らせる能力があるのは御存知ですよね? あの子は、ヴァンデモンの時でも同じような事が出来るんです」
まあ、ヴァンデモンに催眠能力があるのはみんな知っている事だ。オタマモンが「お株を奪われちゃうゲコね」と肩を竦めていたのを覚えている。
「それで、俺の事眠らせたって感じ?」
「はい。それから私の事も眠らせてもらって……こうやって同じ夢の中に居て、私がウィローオウィスプモンの姿になっているのは、ヴァンデモンのマントを媒介に私が『あの子達』から借りている能力です」
「……って言うと、まさか」
「『マインドイリュージョン』と言えば、伝わりやすいでしょうか?」
さらっとすごい事してるぅ。
あんぐりと口を開く俺に、リューカちゃんもそろそろ申し訳なくなってきたのかもしれない。
彼女はただでさえ前傾の姿勢をさらに丸めて、両手の二股に別れた三つ指で顔を覆ってしまう。
「その……ご、ごめんなさい、ソーヤさん。いけない事だとは解っているのですが、どうしても、ソーヤさんに見せたい物があって……でも……やっぱり、こんな事するべきじゃなかったですよね。すぐに起きられるようにはしてあるので、そこは心配しないでください。今すぐ、技を解除--」
「見せたい物って?」
ぴくり、と、リューカちゃんの方が跳ねる。
リューカちゃんは、ヴァンデモン種特有の赤い蝙蝠の仮面に覆われた顔を、ゆっくりと上げた。
「お、怒らないんですか、ソーヤさん」
「ヴァンデモンの様子を見るに、俺のミューズに許可は取ったんだろ? オタマモンが心配無いって判断したなら、俺も全然問題無し! むしろ、二度あることは三度あるっつっても、またウィローオウィスプモンの姿を見られるとは思ってなかったからさ。ラッキー! って感じ」
イタズラなんだろ? コレ。と笑いかけると、またリューカちゃんの顔はみるみる内に赤色に染まってしまって、仮面と境目の区別がつかなくなってしまう。
かわいい。
「……ありがとうございます、ソーヤさん」
でも、リューカちゃんもあの時のままじゃなくて。
すみません、じゃなくて、ありがとう、ではにかんでくれる彼女は--やっぱり、前にも増して、魅力的で。
俺もつられて、微笑むのだった。
「でも、イタズラはここからが本番なんです。……怒らないで、くださいね?」
なんて、油断していたのがよくなかったのかもしれない。
それは一瞬の出来事だった。
身体を起こしたリューカちゃんの姿がすっと消えたかと思うと--俺の両足が、屋上から離れたのだ。
「へ?」
ばさり、ばさりと。
羽ばたきの音が、2度、3度。
その度に凄まじい勢いで、見る見るうちに地面が遠くなり--気が付けば、俺は空を飛んでいて。
「えっ、ええっ!?」
「お、驚かせてごめんなさいソーヤさん! でも、どうしても見てほしかったんです」
頭の後ろでリューカちゃんの声が聞こえて、すうっと気持ちが落ち着くのを感じ取る。
……背中に、硬い金属に近い感触がある。恐らく、ウィローオウィスプモンの胸の鎧だ。
となると、腰の回りの温もりは、彼女の腕になるのだろうか。
俺は、ウィローオウィスプモンに抱きかかえられて、空を飛んでいるらしかった。
「私、僕達(わたしたち)になって空を飛んだ時、すごく、感動したんです。ソーヤさんみたいにうまく言語化出来ないんですけれど……すごいな、って。嬉しいなって」
「……」
「だから、夢でもいいから。ソーヤさんに、同じ景色を見てほしかったんです。……ソーヤさんと一緒に、空を飛んでみたかったんです」
デジモンになる、という感覚は、俺には解らない。
でも、リューカちゃんは暗黒の海の調査の時にはいつもウィローオウィスプモンになっているという話で、彼女にとってその感覚は、日常的なものになりつつあるのだろう。
だからこそ、恋人である俺に自分の事を知って欲しかったのだ。……と思ったのかなぁと推測するのは、傲りが過ぎるだろうか?
俺は視線を落として、街を見下ろす。
ハロウィンの夜の街は、きっと平時と大した変わりはないのだろうけれど、建物の窓から洩れる明かりや街路灯、車のライトまで怪しく揺らめいているように見えて、いつもの街である筈なのに、どこか別の世界のようにも見えた。
何より、顔を上げれば、ここはどこよりも星空が近くて。
「綺麗だよ」
俺は心からの感想を、飾らずに口にする。
「リューカちゃんには、負けるけどね」
リューカちゃんが困ると解りつつ、イタズラだけは、付け加えて。
「……あの、ソーヤさん」
「ん?」
「次、そんな事言ったら、私、落っことしちゃうかもしれませんからね? ソーヤさんの事」
「はっはっは。リューカちゃんはそんな事しないって、俺、知ってるもんね」
「……もうっ」
と、耳元にリューカちゃんの顔が近づいた気配があった。
「しませんよ」
アンデッドの王の要素を持つ今のリューカちゃんの息は、ひんやりと冷たい。
「だって、ソーヤさんの事、大好き、……です、から」
なのに俺の全身は、一拍おいて一瞬のうちに、爆発するかと思う程カッと熱を帯びるのだった。
*
「んあっ」
びくり、と身体が跳ねて、目が覚める。
高い所から落ちる夢を見た訳でも無いのに。
「おはようソーヤ。……おかえり、って言うべきゲコか?」
「お……おう、ただいま、オタマモン」
ベッドから体を起こす。
時計はあれから1時間後を指していた。
……リューカちゃんとヴァンデモンの姿が、見当たらない。
「ヴァンデモン達なら、ソーヤが気持ちよさそうにアホ面で寝てる内に帰ったゲコよ」
「一言辛辣ッ! ……って、え、リューカちゃんに見せても大丈夫な寝顔だった!?」
「保証しかねるゲコね」
「ひいん」
指先で自分の顔に触れてはみるものの、寝ている時の面までは予測できない。なんてこった。とりあえず涎垂らしてはいなかったっぽいのだけは救いか。
……と、そんな事をしている内に、俺はふと、俺が横たわっていたちょうど頭の後ろ辺りに、小さな袋が1つ、置かれている事に気がついて。
「ん?」
手に取ってみると、それはドーナツの入った袋だった。
ウィローオウィスプモンの髪を纏めているリボンと同じ、ピコデビモンの触覚(?)を模した濃いグレーのリボンでラッピングされた袋には、もう1枚、小さなメッセージカードが差し込まれていて。
「……」
「イタズラは勘弁して下さい」と、蝙蝠に縁どりされたカードには、オレンジ色の文字でそう書かれていた。
俺は袋を開けて、シンプルなドーナツを口に運ぶ。
「甘いゲコねぇ」
俺の気持ちを代弁するかのように、オタマモンがそう呟くのだった。
ギャアアアアアアアアアアアアアア君ら何歳だアアアアアアアアアアアアアア。夏P(ナッピー)です。
というわけで申し訳ございません遅くなりましたというかこれはどう考えてもハロウィンリアルタイムで読ませて頂くべきだったし感想も書くべきだったいやまあとりあえずPふざけんな!
Pというかリューカちゃん込みで二人揃って幼稚園児……いやギリ小中学生みたいなことを! は、ハロウィンで恋人同士だのマント借りる為にヴァンデモン進化させてコスプレでやってくるとかこれどう考えてもそういうry だのトリックオアトリートだけど今日はいたずら確定だの凶悪な前フリ連打しつつ普通に帰ったってお前いやお前ら! 撃て! 博士でも兄さんでも妹でも誰でもいい! こやつらを撃てー!
タイトル貰ってたので、てっきりPが倦怠期…ナワケアルカー…もといスランプとか悩み抱えて悶々ととかそういった話を予想してましたが、普通に鼻血と血反吐噴き出して出血多量で担架onするレベルの激アマ話でございました。こーいう話なら無限に読みたい。Pの無自覚なのか策士なのかわかりませんが、自然と顔からPもとい火が出るクサい台詞を乱発できるのは、まあこれは天下取れる男だぜという確信。
そしてPはああ言ってたが……オタマモンそーいや赤いるじゃん!
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。