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ユキサーン
2021年4月02日

デジモンに成った人間の物語 第一章の二

カテゴリー: デジモン創作サロン

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 フライモンから受けた傷と毒をパルモンの家である程度治療してから、三十分ほどの時間が過ぎた。

 右足の感覚が未だに麻痺している所為で、歩行が難しい様子のベアモンの手を掴んで支えながら、ユウキはエレキモンと街道を歩いている。

 向かおうとしている場所はベアモンの家では無く、これから働く予定である『ギルド』と言う組織の拠点である建物。

 その理由はベアモンから口である程度の説明は受けたものの、どういう組織なのかを見学しておいた方が良いとエレキモンが判断したからだ。

 移動の途中で、最初にベアモンが口を開く。


「それにしても、ユウキが僕等と一緒に『ギルド』に入ってくれると言ってくれて良かったよ。僕とエレキモンだけじゃ、まだ二人だから試験を受けられないし……」

「そういや今更聞くのもアレだけど、何で俺を誘ってくれたんだ? 実力を持った三人じゃないと駄目って言ってたが、それはあのパルモンも当てはまるんじゃないのか?」

「パルモンは『ギルド』の仕事に興味が無いらしいからな。俺等と一緒に『ギルド』に入るはずだった奴が、前まではこの町に居たんだが……な」

「?」


 返答の途中で難しげな表情を見せたエレキモンと、それに連動するかのように暗い非常を薄っすらと見せたベアモンに対してユウキは疑問を覚えたが、事情を知らない自分が踏み入るような事では無いという事だけは理解した。

 そして、重そうな空気を変えるためにユウキは話題を切り替える事にした。


「ところでベアモン、お前大丈夫か?」

「右肩の事? それなら明日まで安静にしていれば治ると思うけど」

「違う違う。右足の痺れとかもそうだけど、飯の事だ」

「……あ」


 そういえば、とベアモンは思い出すように口をポカンと開けた。

 恐らく自分が考えている事が当たっているのだろうと確信付け、ユウキは言う。


「お前の家にはもう食料が無いんだろ? 保存してたと思う魚はお前の朝食で消費して、それでも足りなかったからなのか、または新しく保存出来る食料を探しに森に行ったのかもしれないけど……結局フライモンに襲われて、食べ物にありつく事が出来なかったじゃん」

「………………」

「ついでに言えば、俺は朝から何も食べてない。まだ昼間だから時間はあるが、だからと言ってまたあの森の方に調達しに行くわけにもいかないし、本当にどうするんだ?」


 言葉を聞いたベアモンの表情が、口を開けたまま固まる。

 おそらく、どう返答しようか頭の中で思考しているのだろうが、それは要するに『忘れていた』という事をわざわざバラしているも当然なリアクションだった。

 そんなワケで、この状況で頼れる唯一の頭脳要員をユウキは頼る事にした。


「……エレキモン、どうすればいい?」

「何でお前らの食事情に俺が手を貸してやらないといけないんだ。大体お前らは一食の量が多すぎなんだよ。少しは節約を意識しろ」

「そんなに食べてるつもりは無いんだけど。昨日はあんまり釣れなかった上に、ユウキの分にも食料を割り振ったから少し足りなくなったわけで……」

「そういうワケだ。自分の食料ぐらい自分で確保しろ。『働かざる者食うべからず』って言葉があるんだし、そこの馬鹿を見習って頑張れ」

「まぁ、確かにそこのクソ野郎の言う通りだと思う。あっ、食料調達するなら僕の分もよろしくね。昨日五匹も分けてあげたんだから、お返しには少し色を付けてよね」

「少し前の仲間発言から一転して俺に味方が居なくなったんだが。大体ベアモン、お前のあの施しは無償じゃ無かったのかよ!?」

「そんな事を宣言した覚えは無いし、僕はそこまで優しいわけじゃないから食べ物を我慢出来るほど聡明でも無いよ。命を救ってくれたのは本当に感謝してるけど、それとこれは話が別だからそこの所よろしく」

「……おぅ……」


 この状況で唯一頼れる頭脳要員からは見捨てられ、更に少し前の時間で自分の味方をしていたはずのベアモンからケガをしている者としての特権を利用した断れない要求を投げ付けられたユウキは、一気に表情をげんなりとさせながら言葉を出していた。

 気持ちの落ち込みに連動してなのか、頭部に見える羽のような部位が垂れてもいる。

 そんな様子を見て、エレキモンは前足でユウキの左肩をポン、と叩く。

 慰めの言葉を掛けてくれるのか、と僅かながら期待したユウキだったが、


「いつか良い事あるって」


 そんな都合の良い言葉を掛けてくれるわけが無く、途端に別の意味で崩れ落ちそうになった。



 

 ◆ ◆ ◆ ◆


 


木造や石造の住宅が多く建ち並ぶ中にぽつりと存在する、一風変わった一軒屋。

 天井までの幅がおよそ7メートルはあるだろう広い空間の中に、カウンターや掲示板といった日曜的な物とは異なる家具が設置されており、普通の住宅とはそもそもの目的が違う印象を受けるその建物は、主に『ギルド』と呼ばれる組織が活動の拠点としている場所だ。

 『ギルド』の主な活動内容は、第三者からの依頼を受け、それを遂行する事である。

 今日も依頼はそれなりの量が有り、掲示板には特殊な記号の文字が書かれた紙が複数貼られている。

 だが、それを受けようとするデジモン……否、受けられるデジモンは居ない。

 理由があるとすれば、それは人員不足の四文字に尽きる。

 この発芽の町に住むデジモンの数は『町』と言うには少ない150匹ほどで、のんびり平和に過ごしているデジモンも居れば、自らの手で作物を育てて食料もしくは物々交換の材料として扱うデジモンだって居る。

 だが、それらの仕事とギルドには決定的に違う所がある。

 町の外に、野生のデジモン達の縄張りを通って、この発芽の町とは違う別の『町』に向かわなければならない事だ。

 それには当然危険が伴うため、ほとんどのデジモンは好奇心よりも先に恐怖心を抱く事が多い。

 仮に好奇心によって『ギルド』に入ろうと考えるデジモンが居たとしても、『外』の世界で活動出来るほどの実力が無くては門前払いとなる。

 そして、この町には実力者のデジモンが少ない。

 不足している人員を少しでも補うために、この町の『ギルド』では構成員だけでは無く組織のリーダーすら依頼を受けて活動している事が多く、大抵の場合は建物の中にリーダーを担っているはずのデジモンの姿が無い。

 それらの事情もあって、組織の中で留守番の役を任されている者が建物の中でずっと待機しているのだが、依頼をするデジモンが来るまでの間は特にやる事も無く待っているわけで。


「はぁ……ヒマだ。リーダー早く帰ってこねぇかな。ヒマなんだよ、退屈なんだよ、やる事がねぇんだよ。チクショー……」


 無造作にカウンターの上に寝転がっている三毛猫のような外見をしたデジモンは、退屈げに独り言を延々と吐き続けていた。

 現在、この建物の中には彼以外の姿は無い。

 留守番を任されている彼以外のメンバーが、この日も依頼を受注して活動を開始している所だからだ。


「そりゃあ最近は物騒な噂っつ~か、実際に野生のデジモンは荒れてっしなぁ。外に出ても力の無い奴は死ぬ確立の方が高ぇし、リーダーの判断も間違っちゃあいねぇと思うけどよ……雑用係ぐらいはスカウトした方がいいんじゃねぇかなぁ?」


 一人で言ってて空しくなるが、持ち場を離れるわけにもいかない。

 誰かが尋ねてくる可能性がある以上は、退屈だろうが待っていなければならない。


「……ったく、何かヒマを潰せる物を今度作ってみたほうがいいのかねぇ」


 ふと彼は建物の入り口から見える町の風景に顔を向ける。

 町に住んでいるデジモンが雑談をしてたり、道を真っ直ぐに歩いているのが見える。

 彼は思う。


(ほのぼのしてて平和だねえ。よく『大昔は戦争があった』だとか『世界が滅亡しかけた』とか、そういう出来事が過去にあったと言われてっけど、こういうのを見てると実際はどうなのか疑いたくなるモンだ)


 デジタルワールドには様々な言い伝えがあるが、その目で見て確かめない限り真実なのか偽りなのかを理解する事は出来ない。

 大袈裟に解釈された作り話の可能性もあれば、実際に起きた事実の可能性だってある。


(……ま、昔がどうあれ……今は平和なんだ。深く考える必要はねぇな)


 彼は内心で呟いてから眠そうに欠伸を出すと、一度頭を掻いてから起き上がる。


(……にしても暇だな。いっその事サボって、魚釣りにでも出かけるか?)


 そんな、知られれば絶対に怒られるであろう事を考えている時だった。


「……ん」


 入り口の向こう側から、三匹の成長期と思われるデジモンの姿が見えたのだ。



 ◆ ◆ ◆ ◆



 ユウキはエレキモンに連れられて、とある建物の入り口前に到着した。


「これが『ギルド』の拠点なのか……思ってたのとちょっと違うな」

「何を想像していたのかは知らねぇけど、その通りだ。でかい建物だろ?」

「……まぁ、確かに『ここに来てから見た』建物の中では、かなり大きい方だな」


 そこは人間界で見てきたゲームやアニメに出てくる『集会所』を思わせる様々な内装があり、入り口には何処かで見た事があるような、雫の中に二重の丸が書かれた紋章のような物が彫られた看板が飾られていて、やはり木造で作られていた建物だった。

 エレキモンやベアモンにとってはこの大きさでも『でかい建物』の判定に含まれるらしいが、人間界に存在するビルやマンションを知っているユウキからすれば、この程度の大きさの建物はそこまで大きな物に感じられなかった。


(この二人に『都市』の風景を見せたら、どんな顔をするんだろうな)


 先導して中に入ったエレキモンに続く形で、ベアモンの補助をしながらユウキは建物の中に入る。

 最初に目に入ったのは三毛猫のような外見をした獣型と思われるデジモンの姿だった。


「いらっしゃい。依頼は現在受けられる奴が居ないが、まぁゆっくりしていけ」


 そのデジモンはカウンターの上に体を横に倒した状態で、ユウキを含めた三人に対して言葉を放っている。

 体勢や口調などから、人間の世界ではよく見る40台ほどの年齢の男性を思い浮かべるユウキだったが、ベアモンからすれば特に気にする事が無いらしく。


「ミケモン久しぶり~」

「おう久しぶり……その右腕大丈夫か?」

「ちょっと色々あってね。治療したおかげで大丈夫だから気にしないで」


 ベアモンとエレキモンの知り合いの一人と思われるデジモン――ミケモンはベアモンの右肩に巻かれた包帯を見て一瞬目を細めたが、無事を確認すると『そっか。完治するまでは無理すんなよ』とだけ言っていた。


「アンタは相変わらず暇してるんだなぁ。朝とかは結構忙しいんだと思うけど」

「特に重要な物があるってワケじゃないと思うが、留守番係は必要だろ? チビ共にこういう役回りの奴の苦労は分からんだろうさ。あと少しで依頼に向かった連中が2チームぐらいは帰ってくると思うけどな」

 

 どうやらこのミケモンは、この『ギルド』で留守番係をしているデジモンらしい。


(『あのデジモン』に似てると思ったらミケモンだったか。記憶が正しければ頭が良くて、もの静かで大人しいデジモンだったような気がするけど……見ただけじゃとてもそうは見えないな。あんな体勢でさっきから寝転がってるし……)

「おいそこの赤色。初対面の相手に対して挨拶も無しか? 別に構わないけど」


 ユウキが内心で呟いていると、ミケモンは指差ししながら声を掛けて来る。

 言われてまだ一言も喋っていない事に気付いたユウキは、とりあえず怪しまれないように挨拶と自己紹介を行う事にした。


「俺の種族名はギルモン。色々と複雑な事情があって、今はそこのベアモンの家に居候させてもらってる」

「ふ~ん。その『複雑な事情』ってのが気になるけど、聞くだけ無駄だろうしいいか」


 そう言ってミケモンは体を起き上がらせて、グローブのような物がついている右手で頭を掻きながら自己紹介をする。


「オイラの種族名はミケモン。個体名はレッサーだ。得意分野は情報収集と睡眠。よろしくな」

(得意分野が前者はともかく睡眠って……何?)


 互いに自己紹介を終えると、次に口を開いたのはミケモンだった。


「で。お前等は何でここに来たんだ? 依頼をしに来たようには見えんけど」


 その質問に対して、エレキモンは回りくどい言い方もせずに返答する。


「いや、ようやく『チーム』に最低限必要な頭の数が揃ったからな。そこのギルモンにこの建物の見学と、ベアモンのケガが治ったら俺等で試験を受けたいんだけど、良いか?」

「……なるほどな。分かった、リーダーには伝えておく」


 ミケモンはそう言うとベアモン、エレキモン、ユウキことギルモンの三体をそれぞれ見て、


「それにしても、中々面白いチームになりそうだな。こりゃあ楽しみだ」


 その後、ユウキはギルドの内装に一通り目を通してから、同行者二人と一緒に建物の外に出た。

 見学と言う目的が達成できた以上、いつまでもあの建物の中に居る必要は無いからだ。

 建物を出たユウキが次に成すべき事は、自分自身とベアモンに対する食料の確保。

 そして、その前にベアモンを家に送る事だ。


(……問題は山積みだな)


 そう内心で呟くユウキ自身、不思議とそこまで嫌な気持ちにはならなかった。

 空が夜の闇に包まれるまで、まだ時間は残っている。



 ◆ ◆ ◆ ◆


 

 『ギルド』の見学を負え、怪我をしているベアモンを彼自身の家まで送ってから、およそ一時間と半が過ぎた。

 元人間のデジモンことギルモンのユウキは、あまり体を激しく動かす事が出来ない(と思われる)ベアモンと、何よりこの日の朝から何も口にしていない自分自身の食料を調達するために、先日自分が発見された海岸へエレキモンと共にやって来ていた。

 人間の世界と違い、何所かに時計が置いているわけでも無いので、現在の詳しい時刻は分からない。

 だが太陽が徐々に落ちはじめている所を見るに、夕方になるまでの時間はそこまで残っていないようだ。

 エレキモンから釣りのやり方をある程度聞いた後、早速ベアモンから許可を得て貸して貰った釣り竿を使い、魚が当たるのを長々とユウキは待っていた……のだが。

 岩肌の上に立ち、ルアーの付いた糸を海の中へ投下してから、早十分。


「………………」


 魚が一向に喰い付いて来ない。

 彼自身、人間だった頃は近くに海が無い地域に住んでいたため、そもそも『釣りをする』と言う行為そのものが初体験ではある。

 スーパーやコンビニでお金を使い、購入する事でしか食料を入手した事の無い人間が、いざ食料を自分で入手しようとすると、こうも旨くいかないものなのだろうか……と、元人間のデジモンは思う。

 冷静に考えれば十分しか経っていないが、夜になるまでに食料を確保して町に戻りたいユウキにとっては、一分すら惜しい時間と感じられてしまう。

 ふと砂浜の方に居るエレキモンの方に顔を向けると、何やら前足を使って砂を除けているのが見えた。

 その行動の意図を理解しようとはしないまま、ユウキは小さくため息を吐く。


(……食料を確保するだけで、こんなに手間をかける事になるなんてな……)


 思えば。

 ユウキは、これまで自分で直接食料を確保した事が無かった。

 現在社会では基本的に、食料はスーパーマーケットやコンビニなどで『お金を使えば簡単に手に入る』と認識をしている人間が多い。

 それ等の人間は漁師として海に出ているわけでも、農業を行って汗水を垂らしているわけでも無いからだ。

 ユウキもその一人であり、このような状況に遭遇しなければ考えもしなかったかもしれない。

 そもそも食料を『直接』確保する側の存在が無ければ、例え硬貨を持っていても食料を『間接的』に確保している側は食にありつけない可能性があるという事を。


(……こういう時になって、漁師さんとかに感謝する事になるとは思わなかったな)


 この世界で生きていくためには力だけで無く、生き抜くための知識も当然必要だ。

 人間で言う『社会』で生きるための能力は、デジモン達の生きる『野生』では殆ど役に立たない。

 それ等の事項を再度確認しようとするが、具体的にどうするのかはまだ決まらないし分からない。


(……まるで受験勉強みたいだな。違う所は、落選イコール死亡って事だが)


 自分の目的を叶えるために必要な能力は、たった一人で手に入れるには、あまりに多すぎる。


(……けど)


 今は一人では無い。

 自分よりも強いデジモンが二人、味方になってくれている。

 不安は拭い切れないが、それでも希望は見え始めている。


(大丈夫だろ。きっと……)


 そんな事を考えていると、両手で掴んでいる釣り竿が、ようやくしなり始めた。


 

「……おっ、帰って来たかぁ?」


 所属している組織の拠点である建物の中で寝転がっていたミケモンは、外部から聞こえる音に耳を傾けながらそう呟いた。

 わざわざ体を起こして確認しに向かうまでも無いまま、建物の入り口から三体のデジモンが入って来た。


「……帰還した」

 

 一体は緑色の体毛に子ザルのような外見をしており、背中に自分の体ほどはあるであろう大きなYの字のパチンコを背負った獣型デジモン――コエモン。


「ういーっす」


 一体は鋭く長い爪を生やした前足を持ち、尻尾に三つのベルトを締めており、外見はウサギに似ているようで似ていない、二足歩行が出来る哺乳類型デジモン――ガジモン。


「ただいまもどりました~!!」


 一体は二本の触覚を頭から生やした黄緑色の幼虫のような姿をしている幼虫型デジモン――ワームモンだ。


 彼等の姿を見たミケモンは、最初に一言。


「チーム『フリーウォーク』……近隣の町までご苦労さん」

「マジで疲れたわ。というか、別に目的地までの距離に文句はねぇんだが……」

「……近隣とは言え、行きと帰りに数時間は掛かる。その上、道中に野生のデジモンにも襲われるのだから疲れないはずが無い」

「だけど無事に依頼は達成してきました~」

「ま、お前等の顔を見ていりゃ分かるさ。報酬も貰ってるのが列記とした証拠になってるし」


 そう言うミケモンの視線は、コエモンが右手に持っている布の袋に向けられている。

 彼等のチームが依頼を無事完遂した事を確認したミケモンは、続けて言う。


「今日は時間も押してきてるし、お前等は先に引き上げていいぞ」


 言われて最初に反応したのは、彼等の中ではリーダー格と思われるガジモン。


「アンタはどうするんだ? やっぱり留守番か?」

「やっぱりなんて言うな。他にも帰ってくるチームが居るんだし、何よりリーダーが帰って来ないと留守番を辞められない。勝手にサボったら説教食らいそうだしな」


 もっともそうな理由を述べると、今度はコエモンが冷静な声で言う。


「……いつも退屈そうに寝ている事は、説教されないのか……?」

「別に寝ていたりしねぇよ。ただ横になって、適当にボケ~っとしてるだけだ」


 それを聞いたワームモンは、あからさまに怪訝な視線を向けながら聞く。


「それって要するに寝ているんじゃ……」

「だから寝てねぇって言ってんだろ。そんなに言うならお前等が留守番係やれよ。俺だって外に出て開放感に浸りてぇんだけど、リーダーの指示なんだから逆らうワケにもいかねぇんだ。そりゃあ時折意識が遠のいて色んなものを見るけどよ」

「……それを普通は『寝ている』と言うのではないか?」


 コエモンの言葉を聞いたミケモンは一瞬固まったように無言になり、そこからすぐに言葉を返そうとしたが、


「……ね、寝てねぇよ!!」


 結局、三匹に揃って苦笑いされるミケモンだった。

3件のコメント
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ユキサーン
2021年4月02日

 やがて時間は静かに経ってゆき、空はオレンジ色に彩られた夕焼けに変わる。


「……つ、疲れた……そんなに動いていたわけでもないのに、マジで疲れた……」

「お前、忍耐力無いなぁ」


 ギルモンのユウキは、一応この世界での暮らしの先輩であるエレキモンと共に、食料となる海鮮類が詰め込まれたバケツを二つ持って発芽の町に戻って来た。

 ユウキが右手で持っているバケツの中には、初釣りで手に入れた魚が両手の指の数を少し超える程度の数だけあって、左手に持っているバケツにはアサリやハマグリといった貝類が多く入っている。

 当然前者はユウキが確保したもので、後者はエレキモンが集めたものだ。


「砂浜の所で手を動かしてて何をしてるかと思ってたら、潮干狩りだったのなアレ……てか、貝ってそんなにお腹が膨れるイメージが無いんだけど……」

「ま、俺の方はそれなりに食料が余っているし、たまには趣向を変えてな」

「……大体、お前が持って来てたはずのバケツを、何で俺が持つハメになってるのかが理解出来ないんだが」

「だって俺、今日は戦闘とか色々あって結構疲れてるし~? あと、お前の方がこういう事には向いていると思った。それだけ」

「まぁ、別にいいけどさ……朝から何も食べていないから、腹と背中がくっ付きそうなんだよ」

「良かったじゃねぇか。痩せれば素早くなれるぜ?」

「うん、その言葉から一切喜べる要素を感じないのは何でなんだろうな」


 そんな他人からはどうでもいい会話を交わしながら、ユウキとエレキモンはベアモンの家に到着した。


(……また暗号を残してどっかに行ってるなんてオチは無いよな?)


 嫌な未来図を想像しながらも中に入る。

 幸いにもベアモンは安静を心がけていたらしく、ぐっすりと眠っていた。


(……俺、この世界に来てから色んな事に対して不安を浮かべてる気がするなぁ)


 内心でそう呟くユウキに対して、エレキモンは一度ベアモンの寝顔を確認してから声をかける。


「時間も時間だし、このまま寝かしとく方がいいだろうな。魚を必要な分だけ食って、残りはそいつの分として残しとこうぜ」

「……あ、あぁ」


 エレキモンの提案に同意したユウキはバケツの中から三匹の魚を掴み、目をつぶった状態でそれらを丸ごと一気に口の中へと放り込んだ。

 口の中で何度も嚙み続け、食欲を失いそうな絵図が頭に浮かぶ前に飲み込む。

 魚の苦味と旨味が舌に伝わる中で、ユウキは思った。


(……これ、昨日は特に考える余裕が無かったから思いもしなかったけど、口の中が血塗れになってないか……?)


 何せ、何の調理も行っていない魚を食しているのだ。

 火で内部までしっかり焼いた物ならそのような事は無いが、一度想像してしまうと生々しさから吐き気を感じてしまう。

 だが、この世界で生きる以上は、ナマ物を食べる事を何度も容認する必要がある。

 少しでもこの気分の悪さを解消するためには、最低でも人間が食べる料理に近い形に調理出来るようになるか、野菜や果物などを主食にする以外に無い。

 そうなると、一番に思い浮かぶ調理方法は『火で炙る』事だろう。

 ユウキ自身何度も考えた事だが、改めて確信した。


 自身が成っている種族――ギルモンの『必殺技』をモノにする必要がある、と。


「……おい、食い終わったのなら、ちょっと来てもらいたいんだけど、いいか?」


 そんな事を考えていると、横からエレキモンに話しかけられた。

 特に何も言わずに首だけ縦に振ると、エレキモンはベアモンの家から外へと向かい出す。

 もう一度だけベアモンの様子を確認した後に、ユウキはそれに付いて行くために家を後にした。

 空は、あと数時間ほどで夜の闇に包まれる。


 

 ギルドの管理する建物の内。

 留守番係を任されているミケモンにも、時間の関係からか眠気を徐々に感じるようになっていた。


「……ふぁ~、ねみぃ」


 チーム『フリーウォーク』との会話の後から今に至るまでの間、依頼を達成したチームは次々と帰還している。

 しかし、まだ組織を治めているリーダーは帰って来ていない。


「……ったく、他のチームが受けきれていない依頼を全部行うためとはいえ、時間を掛け過ぎだっての」


 リーダーであるデジモンの強さはミケモンもよく知っている。

 決して短くはない付き合いなのだから当然だが、待たされている側の気持ちを少しは考えて欲しい、とミケモンは思いながら呟いた。

 空はもうすぐ夜になる。

 そうなると視界が悪くなり、夜行性のデジモンが出没するようになるため、決して安全では無くなる。

 それでもミケモンは心配しない。


「……ふわぁ~……あぁ、眠い」


 だが、やはりずっと動いていない状態だと眠気は容赦無く襲ってくる。

 夢と言う名の安らぎに意識が沈んでいく。


(どうせ帰ってくるまではやる事も無いんだし、いっそこのまま眠っていようかね)


 そう考えたミケモンは、睡魔に抵抗せずに瞳を閉じる。

 よほど疲れていたのか、退屈だったのか、数秒ともしない内に喉の奥からいびきが聞こえ出した。


 それから時間は更に経ち、空が夜の闇に包まれ出した頃。

 『ギルド』の拠点である建物の中に、とあるデジモンが入って来た。

 その姿は、暗闇に包まれている所為でよく分からない。


「………………」


 そのデジモンは眠っているミケモンを見るとため息を吐き、静かに右手を額に当てながら内心で呟く。


(……退屈なのは分かるが、重要な仕事なのだから真面目にやってもらいたいものなのだがな)


 やがて左手に持っていた複数の布袋をカウンターの上に乗せると、そのデジモンは建物の外に出る。

 体に月の光が当たり、姿が明らかになる。

 その姿は獅子と人間を掛け合わせたような獣人の姿をしていて、腰元には何らかの刃物を収納するための鞘が携えられており、下半身には黒いジーンズが穿かれている。

 彼は鬣を夜風に靡かせながら、静かに、受けた依頼で向かった場所の事を思い出しながら、こんな事を想った。


(……この『平和』は、あとどのぐらい続いてくれるのだろうな……)


 

 どんな生物でも肌寒さを感じ始める夜中の町の路上にて、ユウキは先導するエレキモンに着いて行く形で歩いていた。

 朝や昼の時には活気を感じられていた街道からはデジモンの姿がほとんど薄まっていて、人間の世界では嫌というほど聞こえていた車の走行音の代わりに元人間の耳を震わすのは、冷たい風の音のみ。

 夜中が静かであるという点に関して言えば、人間の世界もデジモンが生きる世界も大して変わらないだろう。

 違う点があるとするなら、その『夜』の間から活発になる生き物がこの世界には多く存在する事ぐらいだろうか。


(……いや、変わらない)


 人間にだって、暗闇に姿を覆い隠されている時になって『自分の本性』を曝け出す者や、やってはならない事を他者から知られないように狡猾に行う者がいる。

 その中の一人には、ユウキを襲って来た人物も含まれている。

 今になって思えば、あの時は空もすっかり暗くなっていて、辺りには不自然なほどに人が居なかった。

 そんな状況だったからでこそ、何らかの『目的』を果たすために襲って来たのかもしれない。

 結局、あの男は何者だったのだろう。

 皮膚から伝わる異常な冷たさもそうだが、あの男の裾から出た包帯も明らかに非現実的な要素の一つだった。


(……あれじゃあ、まるで……いや、でも、現実の世界でそんな事……)


 そこまで考えた所で、ユウキは思った。

 自分が行方不明になっている事は、現実の世界でどう報じられているのだろうか。

 家族は心配しているのだろうか。

 家族を含めた自分の関係者は皆、自分のような目に遭わずにいられているのだろうか。

 こうしている間にもひょっとしたら、自分と同じように行方不明になる人間は、日々増えてしまっているのだろうか。

 実際に人間の世界から行方不明になってしまった以上、そんな事を考えてもどうにもならない事はユウキ自身も理解している。

 だが、考えずには居られず、どうしても心配してしまう。

 そんなユウキの表情をチラっと見たエレキモンだが、その表情は心配してくれているというより『やれやれ……また考え事かよ』とでも言いたそうな、つまらなさそうな顔だ。

 そんなこんなで、夜中ということもあって特に会話も無いまま到着した場所は、子供が自由に遊ぶ事を目的とした平地の広がる公園だった。

 夜遊びをしているデジモンは見えないようだが、ユウキはまだエレキモンにこの場所に連れて来られた理由を聞いていない。

 到着した所でユウキが理由を聞こうとして、それよりも先にエレキモンが口を開いた。


「ここなら俺の家にも近いし、他の奴らの事を気にする事も無く話が出来るってわけだ」

「そんな事だろうとは薄々思ってたよ。何を話すんだ? わざわざこんな場所に来ないと話せない事なのか?」

「まぁ、少なくともベアモンの近くじゃ言えない事ではあるかもな」


 言ってから、エレキモンは続けて言葉を紡ぐ。


「お前、アイツ……ベアモンの事をどう思う?」

「え?」


 予想外な質問の内容に、思わず呆けた声を漏らしてしまったユウキだったが、考えるように『ん~……』と喉の奥から音を鳴らした後、回答した。


「まぁ……凄く優しい奴だって印象を受けたな。自分の危険も顧みずに俺の事を保護してくれたし、原因の内に俺の存在がある怪我に関しても咎める所か『あんな事』を言うんだし……ここに来てから会った中でも、一番信用が出来る奴だと思っている、かな」


 もっとも、昼の時に言ってた食料に関しての件でのセリフを除いてな、とユウキは言葉を付け加える。

 それらの言葉を聞き終えたエレキモンは、何かを言いずらそうにしばらく口を噤んでいたが、やがて一度溜め息を吐くと共に口を開く。


「ん~、まぁ俺も大体そう思うけど……俺から言わせてもらうと、今回のお前の足手まといっぷりは正直ブチ切れそうになった」

「……だろうな」

「アイツはお前の事を許してるみたいだが、俺はそんなに甘くない。結果的にお前が進化した事によって助かったが、俺は一言お前に言っておきたい事があったんだ」


 エレキモンは一呼吸を入れ、これから共に活動する事になるユウキに対して怒気を放ちながら、言う。


「……もしもお前が原因でベアモンが死んだら、その時はお前の事を殺すつもりでいるからな」


 仕方無い、とユウキは思う。

 実際、自分が原因でベアモンは死にかけたのだから、その友達と思われるエレキモンから、このような事を言われる事ぐらいは覚悟していた。

 むしろ、ベアモンの反応が普通に考えてもおかしいはずなのだ。


「………………」


 ただ、怖かった。

 ユウキがあの時動けなかった理由は、たったそれだけの事。

 故に言い訳などせずに、正直にユウキは頭を下げてから言う。


「……ごめん」

「本当に死んでいたら、謝って済むような問題じゃなかった。だから二度と……足を引っ張るんじゃねぇぞ」

「……ああ」


 今は、自分が弱かった所為で発生した出来事と結果を、成長するための糧にするしか無い。

 そう考えて受け止めるしか、今のユウキには方法が思いつけなかった。


(……人間は失敗して成長するって言うけど、その失敗を成功に繋げられないと意味がねぇ……)


 この『経験』は絶対に無駄にしない、とユウキは心の中だけで呟く。

 もしこれからも同じ事を繰り返してしまうのなら、結局目的を叶える過程で『敵』と遭遇にした時に何も出来ないのだから。


 

 話を終え、エレキモンと別れたユウキはベアモンの家に戻って来た。

 たった一日寝た程度の、愛着と呼べるような物も無い場所で、マンション住まいだったユウキにとっては良いと言える環境では無いが、今のユウキにとっては貴重な安全に眠れる場所であるため文句は無い。

 家の持ち主のベアモンの姿は、毛皮の色と暗闇で完全には見えないが、微かに寝息が聞こえるため眠っているのは間違いないようだ。

 それを確認したユウキは、あまり物音を立てないように注意を払いつつ、自然の産物を使って作られた寝床に体を預け、そのまま目を閉じる。


(……今日は、たった一日の出来事なのに、何だか凄く長いものに感じたな……)


 思えば一日の間に様々な事をした。

 起きてすぐに町を治めている長老と出会い、そこから戻って来ると家の主が居なくなっていて、それを探すために森の中へ足を踏み入れていたら怪物に襲われて、途中で意識が吹き飛んで、次に目を覚ましたら全く知らない場所で眠っていた事に気がついて、その後はベアモンやエレキモンと共に『チーム』を作る事になって――――とにかく色々な出来事が、たった一日の間に発生している。


(……九死に一生とはこの事か。ホント、これからは安心出来る時間が短くなるな)


 心の中でそう呟きながら、意識を夢の中に落とそうとした時だった。


「……んぅ……?」


 ベアモンに対して背を向けるように眠っていた所為で尻尾が当たったからのか、それとも気配を感じ取ったからなのか、言葉になっていない声を漏らしながらベアモンが目を覚ました。


「……ユウキ?」

「ごめん、起こしちゃったか?」

「いいよ別に。家に戻ってからほとんど寝ていたし、嫌な気分にもなってないから」

「……それは良かった。魚も一応ベアモンの分……用意しといた」


 暗闇と視界がハッキリしていない状態のまま、ユウキはバケツを置いていたはずの場所を適当に指差しながら、そう言った。

 ベアモンはそれを聞くと笑みを浮かべ、嬉しそうに小声で|囁《ささや》く。


「ありがとう。これで貸し借りは無しだね」

「……ああ。食料の方はな」

「……命の方は、君が進化して助けてくれたんだし、既に借りは返されてると思うんだけど」

「自分の意志でやらないと、まるで他人に返してもらったような感覚になって嫌なんだよ」


 この部分だけは譲れないと言わんばかりにユウキは言う。

 対するベアモンの方からは、まるで小馬鹿にするような口調の言葉が返ってくる。


「意地っ張りだねぇ……その気合いは、もっと別の所に向けた方がいいと思うんだけどなぁ」

「む、じゃあどんな所に向けるべきなのか、言ってみてくれよ」

「それぐらいは自分で考えてほしいんだけど……まぁ、どうしても借りを返した気分になりたいのならさ……」


 ベアモンは案を言おうとして一度、何を言おうか迷ったように無言になる。

 何を言おうとしていたのか気になったユウキが、質問をするために口を開こうとした所で、やっとベアモンの方から一つの案が出た。


「……よし。じゃあ一回だけ、僕の言う事をなんでも聞いてくれる?」

「……ん? ごめん、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれ」

「だから、一回だけ僕の言う事をなんでも聞いてくれる? って言ったんだけど」


 思わず聞き返したユウキだったが、どうやら聞き間違いというワケでは無いらしい。

 今度はユウキの方が無言になり、考え始めた。

 このベアモンの性格から考えて、流石に危険なことを要求をする可能性は低いだろう。

 だが、言葉の一番最初に付いた『何でも』と言うキーワードがやけに引っかかる。


(……いや、別に大丈夫だろ。それに命を助けてくれたんだし、こんぐらいやってあげないとな……)


 少しだけ考え、ユウキは静かに答える。


「……分かった。その条件で頼む」

「……え? ホントにいいの?」

「あぁ。命を助けられたんだし、そのぐらいはな」

「……そっかぁ」


 ユウキは、ベアモンと背中合わせに寝転がっている所為で気付いていない。

 自分の発言を聞いたベアモンの表情が、まるで悪戯を思いついた子供のように、小悪魔的な笑みを浮かべている事を。

 そして、後々起こり得る出来事を想像する事も無く、ユウキはベアモンに対して、小さな声で気になっていた事の一つを聞く。


「……ところでベアモン。暗くて確認出来ないけど、怪我は大丈夫なのか……?」


 記憶に新しい、本来ならユウキが野生のフライモンから受けるはずだった大きな刺し傷。

 もしあの時、ベアモンが体を張って助けてくれなければこの刺し傷だけでは無く、毒によって体を蝕まれて命は無かっただろう、とユウキは実感している。

 当時その傷から漏れていた鮮血も生々しく、現実の物と受け取れる物だった。


(……あれが、戦いなんだよな……俺が想像していた物なんかより、ずっと恐ろしかった……)


 だが、その一方で。


「あぁ、それなら大丈夫。パルモンが作った薬のおかげで毒は消えてるし、明日になれば完治してるよ」

「……は?」


 恐らく、普通の人間よりも危険な目に遭って来た回数は多いであろう(と元人間は推測している)ベアモンからは、まるで怪我の痛みや辛さを感じさせない声調で返事が返ってきた。

 流石にそれは強がりだろうと思い、ユウキは追求する。


「い、いや、流石にあれほどの刺し傷を受けたら、治るまでにかなり時間もかかるんじゃないのか……?」

「まぁ僕自身でも理由は知らないんだけど、僕は生まれた時からエレキモン達と比べても自然回復力が高いんだよね。だから、このぐらいの傷ならそれなりの時間眠っていれば修復しちゃうんだ」

「…………」


 思わず言葉を失った。

 この世界を生きるデジモン達が、成長期の時点でも人間(一部を除いて)よりもかなり高い能力を持つ事は知っている。

 免疫力や回復力も、確かに人間よりも高いのなら治りも速くて当然かもしれない。

 だが。


(いくら何でも、夕方直前の時間から明日になるまで眠っているだけで、あれほどの怪我が完全に治るなんて……それは流石におかしいんじゃないか!?)


 ひょっとしたらあのパルモンが作って飲ませていたらしい薬の中に、デジモンが受けた傷を癒す効果でも含まれていたのかもしれない。

 そう考える事も出来たのかもしれないが、まだこの世界に順応出来ていないユウキには、その考えを頭の中に浮かべる事も出来なかった。


(……デジモンってすげぇんだな。今一度、それを再確認した気がする)

「ねぇ、何を無言になってるのさ。何も言う事が無いのなら、もう寝た方がいいと思うよ?」

「……あ、あぁ」


 デジタルワールドに来てからの生活の二日目は、間も無く眠りと共に終了する。

 だがそれは、あくまでも二日目。

 これから始まる三日目に何が起きるか、予想する事も想像する事も出来ない。

 だ