5
「サンドリモン、ツムギはどこだ!?」
「ツムギ……ああ、あのニンゲンの子供ですわね」
玉座に悠然と座っていたサンドリモンは顎に手を当てて、すぐ思い出したように答える。
「来て早々、ピエモンが何処かに連れて行きましたわ」
「どこに!?」
サンドリモンが吾輩を真っ直ぐと見つめる。隠れているものの、その下にある目は、確かに吾輩を射抜いていた。
相手は特に何もしていない。究極体であれば強いプレッシャーを与えることも可能だが、それさえない。本当にただ見ているだけだ。その視線が、怒りで誤魔化している部分を暴こうとしている。そんな気がした。
思わず気後れしてしまう気持ちを叱咤して踏み止まる。その不安定な足元を崩すように、サンドリモンは言った。
「あなた、騎士なのでしょう? なのにどうして、あの子の傍におりませんでしたの?」
静かに投げかけられた言葉が、重くのしかかる。
反論は、出来なかった。
サンドリモンの視線から逃げるように顔を背ける。頭上から、溜息が一つ零れた。
「ああ、なんて、弱い方。それでよく騎士など名乗れるものね」
肩がビクリと震える。
いつもならば強気に言い返せたはずが、今では事実として突き刺さる。
自然と目線は下を向き、気づけば足元を見ていた。
吾輩の脇から影が二つ、前に出る。ウォーグレイモンとメタルガルルモンだ。
「オメカモン、今はそいつと話してる場合じゃない!」
「ここはボク達に任せて!」
二体が視線を向けて頷く。それに応えるように、吾輩も頷いた。
ぐるぐる回っていた重たい思考を捨てて、体を反転させる。見えたのは広間の扉。それを乱暴に蹴り、廊下に出た。
……バタンッ。
乱暴に蹴破られた扉が、ゆっくりと閉まる。
黙って眺めていたサンドリモンは、小さく溜息を一つ付いた。──妙にイライラする。あの自称・騎士デジモンを見ていると、余計に。
「しもべを使って、オメカモンを追わないのか?」
サンドリモンは残った二体のデジモンの内、メタルガルルモンを見た。
「あら、それはあなた達の方ではなくて?」
「どうしてボク達がオメカモンを追うんだ?」
ウォーグレイモンが訝しげに聞く。その隣でメタルガルルモンの視線がわずかに逸れたのを、サンドリモンは見逃さなかった。
「あらあら、あのような荒業を目の前で見たのに、まだアレを普通のデジモンだと思っていますの? それは、ふふっ、なんとまあ……」
「どういうことだ!」
「あなた達がワタクシの城に来られたのは、誰のおかげですの?」
「それはオメカモンが……」
そこでようやくウォーグレイモンはハッと息を呑んだ。
「まさか……オメカモン、は」
「Xデジモンだ」
呟かれた言葉は、信じがたい真実。
ウォーグレイモンは驚いて隣を見る。決然とした表情を浮かべたメタルガルルモンが自分を見ていた。
「あれは、ガラスの靴のデータを組み替えて出来たチート行為だ」
「でも、チート行為が出来るからってXデジモンだっていう証拠はないよ! 普通のデジモンだって、バグを使えばチート行為は出来るんだし!」
「オメカモンを初めて見た時から不思議に思ってたことがあったんだ。なんで、オメガモンに似てるんだって……オメカモンは憧れてマネてるって言ってたけど、そう簡単に姿かたちまでマネは出来ない。それが出来るのはバグデジモンだけだ」
「バグだったら、ボク達が気づかないはずがないだろう!?」
尚も食い下がるウォーグレイモン。
メタルガルルモンは辛そうに眼を閉じた。相方の気持ちもわかる。自分だって信じたくない。それでも目の前で見た事実は、彼がそうであるという事を示唆していた。
「オメカモンのデータ容量自体が小さい。あれはバグとも判断しがたい、データの残骸から生まれたタイプなんだよ」
「そんな……」
「もう、よろしくて?」
重たい空気に落ちる声。二体は弾かれるようにサンドリモンを見た。
ガラスの靴を履いた足が、床につく。すらっと立ち上がった彼女は、しかし虚空を見据えていた。
「……やっと、王子様が来たと思ったのに……」
美しい外見からは想像出来ない、子供っぽい拗ねた声だ。
「その子の強い眼差しは、別の誰かの物でした。ワタクシは、その者が強ければ良いと思っていましたわ。それが、あんな弱くて、口ばかりの不敬者の為だなんて……!」
言い放たれた語気に怒りが滲み出てくる。それに呼応するように彼女の周囲から放たれた凄絶なプレッシャーが、強風として押し寄せる。
究極体以下であれば確実に膝を突くぐらい強い。しかし、相手と同じ究極体であるウォーグレイモンとメタルガルルモンは真っ向から耐えた。
「まあ、経緯はどうであれ、ガラスの靴を持ってワタクシの城に入った以上、アナタ達も王子様候補として歓迎致しますわ」
プレッシャーが明らかな敵意へと変わる。
ウォーグレイモンとメタルガルルモンはすぐさま身構えた。
それを一瞥し、サンドリモンは唇の端を吊り上げて笑う。両手を広げ、高々と告げた。
「さあ、踊りましょう──?」
◇
いない。
いない。いない。
「ツムギッ!!」
手あたり次第、扉という扉を開け、部屋という部屋を調べてもツムギの影さえ見当たらない。
今度は螺旋階段を駆け上がる。登っていくにつれて、広かった階段が狭くなっていく。その先にある部屋が、探していない最後の部屋だ。
ドアノブに手をかける。ガチャガチャと鍵がかかっている音がした。
「オメカキック!」
吾輩は片足に力を入れ、強く扉を蹴破った。長らく使用していないからか、埃が舞う。
「ツムギ……!!」
今度こそいることを祈って部屋の中に入る。
しかし、無情にもツムギどころか、ピエモンもいない。
「くそっ!」
苛立ち気味に床を叩いた。感情に任せて物に当たるのは、騎士のポリシーに反するが、そんな余裕はなかった。
吾輩が床を叩いた途端、そこを中心に波紋が広がり、床がたゆむ。データが分解を開始し、0と1が浮かび上がる。
今度は、ゆっくりと両手を床につけて、そこを覗き見る。
「この〝下〟に、いるのか……?」
問うても答える声はいない──と思っていた。
〝──オメカモン〟
確かにツムギの声が聞こえた。
吾輩は迷わず床にダイブした。城の構造から考えれば、この部屋の下は螺旋階段になっていた支柱だ。そんなものなど初めから無かったかのように、データの海が広がる。実際の水ではないものの、体が沈む感覚がある。
水中をもがいていると、吾輩の足はゆっくりと地についた。
顔を上げた先には巨大な額縁。近づくと、吾輩の姿が映し出された。鏡だ。巨大な鏡がひとりでに立っている。
「この先か……?」
触れると、手がその中に沈んだ。考える間もなく、吾輩は鏡の中に入った。
中もまた鏡だ。額縁に納められた巨大な鏡。それも迷わず潜った。
それを数回繰り返した頃、景色が変化する。
長い、長い廊下。いや、回廊に近い。左右をあの額縁の鏡が囲っている。
妙に見覚えがあるのは、ツムギと一度来ているからだ。確かテーマパークに来て早々入った、ミラーラビリンスとかいうアトラクションだったか。
(そんな暇はないというのに……!)
吾輩は駆け出した。とりあえず鏡にぶつかるまで一直線に走る。そこから左右どちらに曲がるか決めれば良い。
思ったより早く鏡に当たった。左右に首を動かし、それぞれの様子を見ていると、目の前にあった鏡が何かを映し出した。
自ずと視線が移る。映し出されたのはツムギだ。咄嗟に呼びかけようとしたのを止める。
よくよく見ると、映っているツムギの背丈は吾輩より小さかった。幼年期デジモンのように這うツムギの傍らに、誰かが立っている。顔はよく見えてないが、直感的にツムギの親という存在だと理解した。
『良い子ね、ツムギちゃん』
親はツムギの頭を撫でて、そう言う。ツムギも撫でられて嬉しいのか、きゃっきゃっと喜んでいる。
そこでブツン、と映像が切れた。今のは、ツムギの過去か……?
この先、行き止まりの度にこういった映像が流れるというのか?
吾輩は幾ばくかの後ろめたさを感じた。確かに、自分はツムギのことを何も知らない。聞けば快く答えてくれるだろう。だから、別に何の心配も不安もない。
なのに、──なんだ、この胸騒ぎは。
本人の許可もなく、過去を覗き見る行為など騎士道に反するからか。
ならば、今度は観ずに突き進めばいい。そう決めて、この場は一旦、右へ爪先を向けた。
◇
次に観た映像の中では、ツムギは少し大きくなっていた。
本当は見ずに通りたかったが、左右どちらか選んでいる間に鏡が映像を開始してしまったのだ。
『良い子だね、ツムギ』
『良い子ね、ツムギちゃん』
親も一人から二人に。ニンゲンの親は二人いるのが普通らしいので、彼らがツムギの両親というやつなのだろう。それぞれが褒めながらツムギの頭を撫でる。そこでもツムギは笑っていた。
また唐突に映像が途切れる。
見終わった後、吾輩の胸にはツムギを帰さねばという使命感だけが強く残る。
次は左。いつゴールにたどり着くか分からんが、進んではいるはずだ。
そして、次は直感を信じて即座に曲がろう。そうすれば鏡も映像を映す時間などあるまい。
次の突き当りに差し掛かり、吾輩は直感的に左側を選んだ。角を曲がり、──何気なしに下を確認した途端、踏み込んだ足に力を入れ、そのまま後ろへ跳んだ。
「あっ、ぶなかった……」
左側の廊下は空虚な穴が空いていた。もしも確認せずに突き進んでいたかと思うと、ぞっとする。
視界の端で鏡が光る。しまった……!
鏡に映るツムギの身長が見慣れた高さになっていた。こう見るとニンゲンの子供はデジモンのように進化せず、背だけが伸びるのが特徴的なのだな。
両親がまたもツムギの頭を撫でて、こう言う。
『お父さんとお母さん、今日も帰りが遅いんだ』
『でも、ツムギちゃんは良い子だから、一人でお留守番出来るでしょう?』
『ツムギは良い子だもんな?』
ここで吾輩は違和感を覚えた。この両親、毎回ツムギを褒めているが、いつも『良い子』だと言う。その言葉が妙に引っかかった。
『うん、わたし、いい子だから、一人でお留守番できるよ』
そう答えたツムギは笑っていたが、どこか寂しげだった。
映像は、そこで終わる。
未だ胸騒ぎはしたまま、吾輩は右側へ走る。少しでも、嫌な予感が消えるように──。
◇
『今度のお休み、遊園地連れて行ってくれるの!? やったー!』
映像の中でツムギは無邪気に喜ぶ。
遊園地──テーマパークに来た時、ツムギがそう口にしていたのを思い出す。テーマパークのモデルはニンゲン世界の物だから、あって当たり前ではあるが。
吾輩はもう観ない事を諦めた。歪みのせいか、この空間はどうあっても吾輩にツムギの過去を見せたいらしい。こうなってはツムギを無事に助け出したあと、素直に謝ろう。
腹を括ってツムギの回想を鑑賞する。
今回はツムギが喜んで終わりかと思えば、映像は切り替わった。
『ごめんね、ツムギちゃん。お母さんもお父さんも、お休みの日にお仕事が入っちゃったの』
『でも、ツムギは良い子だから、我慢できるよな?』
見る見るうちにツムギの表情が曇る。それでも笑顔を浮かべて、答えるのは──。
『うん、わたし、〝いい子〟だから、我慢できるよ』
今にも泣きそうなのも我慢して。
そんな切ない表情を映しながら、プツン、と。今回の回想は終わった。
「────……」
吾輩は言葉を失った。同時にテーマパークを訪れた時に見た、ツムギのはしゃぎっぷりを思い出して、全てを理解する。
──あの子は、行けなかったのだ。
あんなに楽しみにしていたのに。
「……?」
右手に痛みを感じて、そちらに視線を落とす。気づかないうちに鏡を殴っていたらしい。
殴ったのは何故なのかと自問自答をする。
あの子のささやかな願いを叶えてあげなかった両親にか。
あの子の心境など露とも知らず、振り回されていた事を煩わしいと思っていた自分にか。
どちらに憤っているかと言われれば、両方だ。
鏡が両親宛てであるなら、自分にもなければ不公平だ。そう思った吾輩は、そのまま自分のことも殴った。
◇
今回の映像は今までとは違った。
夕日と公園らしき場所が映る。並んである遊具は幼年期デジモン達の遊び相手をしていた時に目にしたことがあるから、一通りどんなものかは知っている。
その内、ツムギはブランコに乗っていた。足を動かしては小さく揺らしている。心なしか表情は暗い。前回観ていた回想の続きであれば、表情の意味も自ずと分かる。
不意にツムギが顔を上げた。その視線を追うように視点も移動する。何かが浮いていた。白く発光するそれを見た瞬間、胸騒ぎが確かな警鐘として鳴り響く。
朧気だったそれの正体が、次第にハッキリとする。──蝶だ。
もちろん、デジタルワールドには似たような姿をしたデジモンがいるだけで本物は見たことがない。少なくとも吾輩はどこかの街で、形を模した飾り物を見かけたことがあるぐらいだ。
『──ム……ギ……、ツ……ギ……』
蝶は名前を呼んでいた。ツムギの名前を。
ツムギがブランコから立ち上がった。
「待て……」
その言葉は、吾輩の口から意図せずして零れた。疑問を抱く前に続けて口走る。
「追うなツムギ!」
虚像のツムギには、当然ながら吾輩の声など届かない。
蝶を追いかけるツムギ。その後ろ姿は映像の中で終わらず、なんと他の鏡に移って反映された。
「ツムギ!」
吾輩はツムギを追った。その先がゴールかなんて考えもしなかったが、先ほどのような落とし穴などのようなトラップはないと確信めいた自信があった。
突き当りに差し掛かったところで、鏡が映像の続きを映し出す。
吾輩は食い入るように観た。
水の流れる音が聞こえる。ツムギは蝶を追って、川の近くまで来ていた。
「待て、待ってくれ……っ」
口から零れる言葉は、もはや懇願だ。
観えているのは過去だ。変えられない事柄なのだ。頭では分かっていても、願わずにはいられない。
目を逸らせ、と警鐘が鳴り響く。
目を逸らすなと、理性が告げる。
「やめろ、ツムギッ!! その先は──!」
『あっ』
吾輩の悲痛な叫びと、ツムギが嬉しそうな声を上げたのは、ほぼ同時だった。
小さな手が蝶を捉えた。瞬間、あの子の表情がパァッと明るくなる。だが、蝶を捕まえる為に乗り出した体は川の上にあった。
そして、為す術なくツムギの体は川へと落ちる。大きな水音と同じく、水柱が立った。
それから浮かび上がってきたのは、ツムギが背中に背負っていた赤いカバンだけ。持ち主を失ったカバンは虚しく川を泳ぐ。見えなくなるまで映像は続いた。
映像は、すぐ隣の回廊の壁に移り、切り替わる。
映っていたのはツムギの両親だ。片方は両手で顔を覆って俯き、もう一人がその背中を撫でている。彼らの前にはテレビがあった。そこから流れる音声に、吾輩も耳を傾ける。
『昨日の夕方、雪野つむぎちゃん、九歳が行方不明となる事件が発生しました。警察が最後に目撃された周辺を捜索したところ、川につむぎちゃんの物らしきランドセルが浮いているのが発見されました。警察は引き続き、つむぎちゃんの捜索を続ける模様です』
抑揚に欠けた声が、ツムギが行方不明になったことを伝える。
俯いてる方の親からすすり泣く声が聞こえた。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ツムギちゃん……』
吾輩はふらふらと回廊を歩き出した。道が続く限り、映像は終わらない。
未だすすり泣く声は聞こえてくる。まるで贖罪のように。時に、吾輩を責めるようにして。
警鐘は止めど、胸騒ぎは収まっていなかった。まだ悪い予感が続いているのかと思うと足が重くなる。
ツムギがデジタルワールドに来た切っ掛けがアレだとすると、これ以降は吾輩と出会ってからになる。
「出会って、から……」
気づけば次の行き止まり。
視界に映った映像は、見覚えがある。そうだ。ツムギが吾輩の上に着地した時だ。
あの時、何故か急に空を見たくなって見上げたら、ツムギが降ってきたのだ。映像は吾輩の記憶のまま、寸分違わず再生されている。
ツムギが吾輩の上に落ち、吾輩がぐぇ、と呻いた。そして目の前にいたニンゲンの子供と目が合い、──何を、思った?
(吾輩は、あの時、ツムギを見て……)
〝安心した〟のではないか?
……いや、まさか! そんなことはない! 逆に何故ツムギを見て安心などする? 吾輩はニンゲン世界での、あの子がいなくなったことなど知らないというのに!
(知らぬ土地で、右も左も家も分からない、誰もが困る状態になっていたのだ。だから吾輩が送り届けてやらねばと思った。それが〝吾輩の使命〟であった、から……)
鏡にもたれかかりながら吾輩は、その場でへたり込んだ。
──何故、ツムギを見て安心したか、わかった。〝絶好の機会だ〟と思ったからだ。
デジタマから生まれず、幼年期も成長期も経験せずにいる身。加えて、かの騎士を真似たような半端な容姿に、特に同レベル以上のデジモン達からは指をさされて嗤われた。
騎士としてと謳いつつ、本当は自分の存在を証明するようにしていただけ。自分が何者か分からないままでは不安で身が潰れてしまいそうだったから、誤魔化すために奔走し続けていた。
そんな中、ツムギと出会った。
(そう、か……ツムギを呼んでいた、あの蝶は)
──吾輩だ。
吾輩がツムギをデジタルワールドに呼び寄せたのだ。こんな自分でも誰かを助けられるという安心感を得る為だけに!
家に帰さねばという強い使命感は、無意識のうちに感じていた罪悪感から来ていたものだと判る。
自分が掲げていたのは正義などではなかった……!
騎士道精神など微塵もなく!
ただ、誰かを助けたという実績が欲しかっただけ!
(なんと、浅ましく、いやしいのだ……)
鏡が新しい映像を映し出す。
吾輩はぼんやりとした目で、それを眺めた。目に入ったのは吾輩と出会ってから、デジタルワールドを旅しているツムギの姿だった。
そういえば最初の頃、迷子になることはあまりなかった気がする。少し離れることもあったが常に吾輩の視界に入るような距離にいた。
テーマパークに行く切っ掛けになったチラシを貰った時、ツムギは目を輝かせてそれを見ていた。思い返せば遊園地に行けなかったのだから、焦がれていたのも当然だ。
無邪気に笑うツムギを見ていられなくて、視線を逸らす。
──遊園地だぁ……! いいな、行ってみたい! オメカモンにお願いしたら、連れて行ってくれるかな? いい子のままだったら、大丈夫だよね?
突如として聞こえた声に反応して、吾輩は顔を上げた。
ツムギはチラシを見たままだ。チラチラと吾輩を見て、話しかけようかどうか迷っている素振りが見える。独り言にしては妙にハッキリと聞こえた。今のはツムギの心の声なのか?
『オメカモン、オメカモン! コレ見て!』
『テーマパーク? ああ、最近出来たという噂の』
『わたし、ここに行ってみたい! だめ、かな……?』
『良いぞ。実を言うと、吾輩も気になっていたのだ。ツムギも長旅で疲れておろう? ここで疲れを癒そうではないか』
吾輩の言葉を聞いて、ツムギが驚いたように目を見開く。
『連れて行って、くれるの……?』
ツムギがどのような気持ちで聞き返したのか、当時の吾輩は知らない。だから怪訝そうに首を捻った。
『ツムギがそう言ったのではないのか? 吾輩の聞き間違いか?』
するとツムギは瞬く間に笑顔になって吾輩に抱き着いてきた。
『ありがとう、オメカモン!』
映像が切り替わる。
次にテーマパーク内で、ツムギが迷子になった時だ。吾輩が探している間に、迷子センターで保護されたツムギが映し出される。
──どうしよう……。
映像の中でツムギは不安そうな顔を浮かべていた。
迎えがなかなか来ないから不安になっていると思ったのか、スタッフデジモンが次々ツムギにお菓子やらジュースを渡す。そういえば再会した時、沢山持っていたな。
それでもツムギの表情は晴れずにいた。
──どうしよう、迷子になっちゃった。オメカモンに迷惑かけちゃった……帰るって言われたら、どうしよう……。
ああ、そうか。吾輩はツムギのことを目を離せば、すぐ迷子になると思っていたが、本当の迷子になったのはこの時、初めてだ。
このあと映像の中で吾輩が迷子センターに駆け込んできた。途端、ツムギの表情が華やぐ。
『オメカモン、わたしのことを探してくれたの?』
『うむ、迷子のお知らせを聞くまで、探しておったぞ。当然ではないか!』
『心配した?』
『当たり前であろう?』
『そっか、心配かけてごめんね』
──いい子じゃなくても、オメカモンはわたしの傍にいてくれるんだ! うれしいなぁ!
あの言葉に含まれていた意味など、当時の吾輩は知る由もない。己の短慮さをとことん恥じた。
映像がまた変わる。
今度はアグモンとガブモンと出会ってからだ。サンドリモンの城を脱し、ガゼボで食事をしていた時の映像。
『アグモン達がいてくれたら、お父さん、きっと……』
──早く、帰ってきてくれるよね……。
あの時、不自然に途切れた言葉の、本当の続きを知った。
『きっと、喜ぶと思うな~』
そう言うツムギの表情は今までと比べて、少し笑顔が固いように見えた。本音を飲み込んだのは『良い子』であろうとした結果なのか。
映像が転換し、次に映し出されたのはツムギと向かい合わせになっているサンドリモン。我々がハグルモン達に追われていた裏側の出来事だ。
いつになく真剣で、強い眼差しをしているツムギ。
『いい子になりますから、オメカモン達を帰してあげて下さい!』
お願いします、と頭まで下げて。口から出たのは強がりでもなんでもなく、我々を帰して欲しいという願いだった。
『あ、あの! 折角貰ったガラスの靴、お返しします!』
ツムギは慌てて自分の足に手を伸ばすと、履いていたガラスの靴をサンドリモンに差し出した。
『あら、どうして? 悪いデジモンのだから?』
『だって、お姫様の靴、ボロボロになっちゃったから……』
ツムギの視線を追ってサンドリモンは自分の足を見遣った。ウォーグレイモンに反撃した際、軽く損傷したらしく、ガラスに見立てた足には亀裂が入っている。
『あなたのおかげで、お姫様になれました。ありがとうござまいす!』
こんな時でも、あの子は笑っていた。
サンドリモンは何も答えず、差し出されたガラスの靴を受け取る。さすがにツムギ以外の心境はわからない。向こうは口元以外が隠れているから尚のこと。
『だから、オメカモン達を帰してあげてください。わたしが、いい子になれば、オメカモン達は元の世界に戻れるんですよね……?』
『分かりました。その願い、叶えてあげましょう』
サンドリモンが動かない代わりに、彼女の後ろにいたピエモンが歩み寄る。ひょいっ、とツムギを片手で抱き上げた。
ツムギは落ちないようにしがみつく。しかし、小さな手は確かに震えていた。強く振る舞っていても、何をされるか想像がつかない状況下で、怖くないはずがない。
どうして、そこまでして頑張るのか。その答えを示すように、ツムギの心の声が聞こえる。
──こわい、こわい……っ。でも、これでオメカモンが姿を変えなくてすむから。ケガをしなくて、よくなるから……!
その時、最後に見たツムギの顔を思い出した。怒っているような、泣いているような、複数の感情が入り混じった顔。
吾輩には怒っているのか泣いているのか、分からなくて。何故そんな顔をするのかも分からずじまいで。
今、その理由が分かった。
ならば自分がすべきことはなんだ?
ツムギが頑張っているのに、吾輩はここで立ち止まり、自責するだけか? 懺悔をすることか?──否!
吾輩は立ち上がり、自分の頬を両手で強く叩いた。当たり前だが頬が痛い。おかげで、すっかり弱り切っていた心を奮い立たせることが出来た。
吾輩の動きに合わせて、ツムギから預かっているカーディガンの裾が踊る。結び目に触れると、微かに花の匂いがした。温かい気持ちにさせる匂いは、ここにいない子供の姿を簡単に思い出させてくれる。
「ツムギ……っ」
吾輩は走った。ただ、がむしゃらに。
見るべき回想が終わったから、足止め代わりの突き当りなど、もう無いはず。と思ったら、正面に大きな鏡が立ちはだかる。
吾輩は背負っていたペンを構え、──映し出された光景に手を止める。
「ツムギ!」
回想は先ほどので最後だったはずだ。
では今見ている光景は? まさか、現在のか!?
「待っていろ、ツムギ、今迎えに行く!」
吾輩は床を強く蹴り、鏡に向かってジャンプする。そのまま勢いをつけて鏡の中に飛び込んだ。
どんな顔をしてツムギに会えばいいかなんて、まだわからない。
けれど、必ず帰すという気持ちに嘘は無いのだ。
6
突き破る勢いで鏡の中に入ると、大きなステージが目の前にあった。吾輩が着地したのは、それを見守るようにして設置された観客席。
テーマパークのアトラクションで見たことがある。乗り物を乗るタイプではなく、どちらかと言えばスタッフ側が用意した見世物を発表する場だ。
ステージの真ん中には、人ひとり寝られる大きさの台座が一つ置かれている。その上で横になっている人物を見て、吾輩は思わず叫んだ。
「ツムギ!!」
寝かされているツムギに駆け寄り、小さな体を起こす。身じろぎさえもしないツムギに、吾輩はいささか悪い予感を募らせる。
しかし、よく耳を澄ましてみると、すやすやと寝息が聞こえてきた。よく眠っているのを確認し、脱力してしまう。まあ、無事でよかった。見たところ、ケガも無いらしい。
胸を撫で下ろしていると不吉な音を拾い上げる。ビシッビシッ……弾かれたように視線を上げれば、亀裂が目に入った。罠か……!?
ツムギを抱えて、後ろへ跳び退る。そこで気づいた。亀裂は空間そのものに出来ているということに。
「な、んだ、これは……?」
状況が理解できないまま、目の前に広がる亀裂の世界を見渡す。
そこへ、一定のリズムを刻みながら拍手が向けられる。
「ありがとうございます。これで、わたくしの最後の願いが叶えられました」
「ピエモン!」
ようやく姿を現した元凶に食って掛かりたかったが、ツムギがいるので断念する。代わりに強く睨みつける。
ピエモンはすぐに我々から視線を外し、亀裂の世界を見つめた。
「わたくしは一つ、勘違いしていたようです」
「勘違い?」
「ニンゲンはデジタルワールドに歪みをもたらす存在だと、あなたに説明しましたが……どうやら、お嬢さんではなかったようです」
吾輩は言い返す言葉を飲み込んだ。
「お嬢さんはいわば、その力を増幅させる為の存在。歪みをもたらす存在そのものではなかった」
「………………」
ピエモンの言葉で、吾輩はガブモンの言葉を思い出す。
『バグって広がるんだよ。そうなってくると、今度は歪みが発生しやすくなる』
『なんせ、本来であれば出来ないことが簡単に出来ちゃうからね』
『Xデジモンは存在自体がバグだから、ある程度の攻撃は受け付けないんだ! ついでにどんな物でもすり抜けちゃうから、障害物にぶつかることもない!』
どうやら目を背けていたのは、ツムギの事だけではなかったらしい。
同時に、納得した。最初から吾輩だけが歪みを感知出来た理由も、歪みが見せる幻覚を頻繁に目撃するのも、空間をすり抜けられるのも。そして、ツムギを呼べることが出来たのも。
ピエモンの目が吾輩に向く。口の端が不気味に吊り上がる。次にこのデジモンが何を口走るか、吾輩はなんとなく予想がついた。
「あなたですよ! わたくしを進化させた歪みをもたらしたのは!」
ピエモンの言葉と共に、空間が崩壊する。ステージだった空間が大小様々な大きさの欠片となって弾ける。
0と1が星のように散らばる空虚。その中で浮かぶ欠片は、不気味な雰囲気にちょっとした幻想的なムードを演出してくれている。
表情一つ変えない吾輩を見て、おや、とピエモンが少し驚いた声を上げた。
「あまり驚いていないようですね?」
「驚いて欲しかったか?」
「違うと否定してくれたら、また歪みが生まれると思っていたのですが……」
ピエモンが吾輩に喋りかけながら、欠片の一つを手に取る。しばらくその中身を眺めていると、突然興味をなくして放る。別の欠片を手にすると、同じく眺め始めた。
「貴様の本当の狙いはなんだ。不正進化では飽き足らんか」
「わたくしは、力が欲しいのです」
てっきり答えないと思っていたが、思いのほかピエモンはあっさり答える。が、吾輩はその答えに納得がいかなかった。力、だと……?
「強さならば、とっくに手に入れただろう! その姿は、お望みの究極体だ!」
「こんなものではない!」
即答すると共に、ピエモンは持っていた欠片を手の中で砕く。
「強くなければならない! このままでは足りない! まだ強くなれるはず!」
そんな強い言葉に反応して、ある一つの欠片が光り輝く。
迷うことなく、ピエモンの手がそれを捉える。中身を確認すると、うっとりした顔で笑った。
「ああ、あった、これだ」
次の瞬間、欠片に手を突っ込んだ。吾輩がぎょっと見守っていると、欠片から0と1が浮かび上がったのが見えた。データを分解している……?
すると、分解されたデータが、そのままピエモンの体へ吸い込まれていった。
「貴様、まさかデータを取り込もうとしているのか!? 急激なデータの変化に耐え切れず、自壊するぞ! やめろ!」
止めようにもツムギを抱えたままでは満足に動けない。吾輩は黙ってピエモンの様子を見守るしか出来なかった。
もうこちらに一片の興味もないらしい。一心不乱にデータを取り込みながら、なにやらぶつぶつと聞こえる。その中で、意外な名前がピエモンの口から零れる。
「このデジモンのデータさえ取り込めば、わたくしはもっと強くなれる……! サンドリモンより、強く!!」
何故ここでサンドリモンの名前が出てくるのか。吾輩には分からない。ピエモンとサンドリモンの間にはなにかしらの因縁があるのか?
思案してる間に、ピエモンの体から重厚なプレッシャーが突風として放たれる。吾輩はなす術なく、吹き飛んだ。
片手でしっかりとツムギを抱えていたが、一緒に吹き飛ばされた欠片の一つが腕に当たり、一瞬力が抜けてしまった。
「しまった、ツムギ!」
瞬く間に吾輩の腕からツムギが滑り落ちる。
態勢を立て直そうにも、無重力状態で上手く体を動かせられない。
もたもたしている間に、キラリと光るものが目に入った。腕を動かして、なんとか避ける。後ろからガキンッ、と金属がぶつかる音がした。
ツムギを追っていた目を一旦そちらに向けて、状況を確認する。
二本の剣を逆手に構えたピエモンが吾輩の目の前にいた。しかし、相手の様子が明らかにおかしい。
口からは涎が零れ、時に獣が唸っているみたいな声が零れる。もはや言語を喋れないのはわかった。光が失われた目はギョロッと細い瞳孔が覗き、吾輩を捉える。
なんのデータを取り込んだのか。その正体を、吾輩はすぐに知る。
ピエモンの体から赤味を帯びたオーラが滲み出てきた。ゆっくりと体を覆っていく。次いで聞こえる咆哮に、身が竦む。
「まさか……」
よぎる可能性を否定したい気持ちと、逃げられない現実が目の前にある。
吾輩は大きくなっていく影を、ただ見上げることしか出来なかった。
「貴様が取り込んだデータとは、まさか……!」
人型だったシルエットが竜の影を形どる。太い尻尾が軽く動いただけで空を切った。宙を浮いていた欠片の幾つかが音を立てて壊れる。
亡霊だったそれは、次の瞬間、確かな存在感を以て顕現する。
「メギドラモン……!」
「オオォォオオ──────!!」
メギドラモンが咆哮する。
歪んだ空間の場だというのに、空気が振動してメギドラモンの狂猛を伝えてくる。
明確な敵意が──いや、奴に感情という感情は無い。目に映るもの全てを食らいつくすまで止まらない、そういうデジモンだ。
(なんということだ!)
よりにもよってメギドラモンのデータを取り込もうとしていたとは!
(どうする? どうするどうするどうする!?)
考えがまとまらない。
足が動かない。目の前にいる邪竜から目を逸らせない。
今自分が呼吸出来ているのかさえも怪しい。
それぐらいの威圧感があった。到底、勝てる相手ではない。本能が告げる。理性が訴える。
ならば逃げねば! せめてツムギを安全な場所に移動して、それから──! それから……?
(ウォーグレイモンとメタルガルルモンは今尚、サンドリモンと対峙している最中だ。なにより、この場から脱する方法などあるのかっ……?)
無い。
今やこの場はデジタルワールドでも、ましてやニンゲン世界に近い空間でもない。いわば次元の狭間だ。だからバグを使って、メギドラモンのデータを掘り起こせた。
退路も無い。勝算も無い。無い無い尽くしで行きつくのは、最悪の結果だ。
(吾輩はまた、ツムギを帰せないのか?)
……?
〝また〟?
「──────!」
疑問に思っているのも束の間。メギドラモンが雄叫びを上げながら羽ばたく。ある程度の高さまで上昇すると、顔を吾輩たちの方へ向けた。牙が並んだ口を大きく開ける。その喉奥から白い炎が見えた。
まずい! あれは全てを灰にする!
せめてツムギだけは身を挺して守らねば!
最後に見たあの子の表情と回想で知れた心情がよぎったが、我が身が可愛くて騎士など名乗ってはおられん!
宙を掻き、足を動かしてツムギの元へ!
くっ、こんな状況下でも進化出来ぬというのか! いや、Xデジモンたる吾輩に進化出来るか否かなど怪しいところだが。
その時、ザザッ──。視界にノイズが走る。次に襲ってきたのは眩暈。
もう少しでツムギに辿り着くというのに、突然の体調不良だと……?
吾輩は眩暈も視界不良も無視して、必死に手足をバタつかせる。ツムギの傍につくまでの間、ノイズに紛れて様々な景色が映り込む。なんなんだ、一体……!
ついでに幻聴まで聞こえてくる。すすり泣く声だ。一つではなく、数多く聞こえる。死を悼む声から感謝の言葉まで。色んな声が聞こえる。
背に、熱気が伝わる。メギドラモンが白い炎を放ったのか!
「ツムギ……ッ」
吾輩の手がツムギに触れた瞬間。ブツンッ──吾輩の意識は突然、途絶えた。
◇
──雨が、降っている。
ぽたぽたと、雫が。
はらはらと、花が。
しくしくと、涙が。
自分は今横になっているようだった。周りには小さなデジモン達が多くいて、彼らから悼む声と感謝の言葉が聞こえてくる。
腕を上げようとするも動かない。またも自分の意思とは関係なく、体が動いているらしい。
周りにいたデジモン達が次々といなくなる。最後のデジモンが花を吾輩の体に添えて言う。
『たすけてくれて、ありがとう!』
その言葉が。
初めて言われたはずの言葉が、妙に懐かしく思えて。同時に、とても悲しくなった。
涙が流れる。ああ、と零れる声が、自分のものではないのに驚いた。
てっきり以前のように、自分の視点だと思っていたが今回は違うらしい。今自分は誰かの体にいる。取り憑いている、と言った方がいいのか?
一体、誰の体なのか。
すぐに、その答えを知る。
両手がゆっくりと持ち上がる。降りかかっていた花々が零れていくのが見えた。その特徴的な腕を見た途端、目を見開いた気分になる。
右には狼の頭、左には竜の顎。ボロボロになって損傷が激しいが、間違いない──デジタルワールドを救った英雄、邪竜と戦った騎士、〝オメガモン〟。
吾輩が取り憑いているのは、どうやらオメガモンらしい。
待て待て待て待て! 何故吾輩はオメガモンの体に取り憑いているのだ!? というか何故、かの騎士の視点のままなんだ!? せめて天から見守る形で本物の騎士の姿を見たかったわ!
吾輩が悔しがっていると、オメガモンが独り言のように呟いた。
『……次は、あの子が来る為の準備を、しなければならないな』
何故か、その言葉が指す人物がツムギのことだと思った。ツムギの心の声がわかるように、今はオメガモンの心情がわかるのかもしれない。
オメガモンが深呼吸をするように、大きく息を吸う。すると、おもむろに両腕を自らの体へ入れ込んだ!
『ぐっ……!』
オメガモンが苦痛に呻く。その痛みは吾輩にも伝わり、ぞわぞわと悪寒が走る。
デジモンのデータは展開する際、多少なりとも痛みを伴うと聞く。自分を構成しているデータをさらけ出すのだから、当然と言えば当然だが。しかも自然に出来る業でもない。
……待て。では、オメガモンが出来るということは……!
その悪い考えの答えが、すぐに出た。
オメガモンの体から0と1の数字が表れる。体から手を出し、数字を弄りだす。思っていた通り、データの組み換えだ。
何故だ? お伽噺ではオメガモンはこのまま深い眠りにつくはず。眠るどころか、これからも動こうと模索している。全く真逆の言動に理解が追いつかない。
そこに追加されるのがツムギのことだ。あの子となんの関係がある?
唯一わかったのは、オメガモンが今やろうとしているのは明らかなチート行為。
『バグだらけの体では、さすがに記憶までは引き継げんか……それでも、この役目だけは他の者には任せられん。我ながら、諦めが悪いとは思っているが……』
データの改ざんが終わったのか、体が淡く光り始める。
オメガモンは深く息を吐いた。
『本来であれば、正規の方がいいんだろうが……あの子は、あの姿が好きだから……な』
その言葉を最後に、目が閉じられる。
暗闇の中で、体の大きさが変わっていくのが分かる。退化した……?
ずっしりと実感を得た新しい体に、吾輩は息を呑む。──この、感覚は。
目が開く。パチパチと数回、瞬きをする。
元・オメガモンだったデジモンは、むくりと体を起こした。見慣れた視界の高さ。辺りを見回すと体を覆っていた花は消え、代わりに足元には身丈ほどのペンが。騎士だったデジモンが、そのペンを拾う。幼年期デジモンが作った工作みたいな短い手が目に入る。
そして、よく知っている声で一言言うのだ。
『はて、吾輩はどうしてここにおるのだ? 吾輩は、誰なのだ……?』
……ああ、そうだ。
すべて、思い出した。
吾輩は。
──〝私〟は──。
◇
メギドラモンの白い炎が我が身を包む寸前、右腕の砲身が火を噴く。放たれた冷気は瞬く間に白い炎を凍らせて粉砕する。その隙間からメギドラモンと目が合った。
今度は向こうが慌てる番だった。こちらを確認した途端、細い瞳孔を持つ目が大きく見開かれる。一拍を置いて牙を揃えた口から唸り声が聞こえる。
「ガアアァァアアッ──!!」
怒り狂うように叫ぶ。
その雄叫びに、ツムギがようやく目を開ける。
「……オメカ、モン……?」
「違うぞ、ツムギ。今の〝私〟は──」
メギドラモンから次は火球が放たれた。それを視界の端で捉えながら、左腕の剣で寸断する。
「オメガモンだ」
ツムギが、え、と目を丸くさせた。キョトンとした顔が面白くて、つい笑みが零れる。
「起きて早々すまないがツムギ、振り落とされないようにしっかり掴まっていてくれ」
「え? あ、うん?」
ツムギは未だ現状が把握できない様子だが、しっかりと私にしがみついてくれた。私もツムギを落とさないよう、片腕で支える。
「すぐに、終わる」
私は短くそう宣言し、鋭くメギドラモンを見る。
メギドラモンが口を大きく開け、こちらに向けて突進する。食らいつく瞬間に上空へ避ける。メギドラモンの頭上で身を回転させ、そのまま背中へ一閃。
咄嗟に尻尾で反撃してきたが、そのままグレイソードで切り落とす。
痛みに悶え、暴れるメギドラモン。
メギドラモンの頭が動く。口から炎がちらついたのが見えた。
ツムギを支えている腕を変え、狼の頭から砲身が伸びる。私が冷気を放つのと、白い炎が吐き出されたのは同時だった。
冷気と炎が、ぶつかり合う。ほぼ同じくらいのエネルギー量。勝敗を分けるのは、単純に力だ。
「うおおぉぉおおっ!!」
冷気を放つ力を強めた。その分、少しずつ白い炎から照準がずれる。
私は無重力空間に足場を生成した。踏ん張って照準を直そうとするも、なかなか砲身が上手く動かない。
不意に小さな手が私の右腕に触れた。見れば、ツムギが手伝ってくれている。ああ、本当にこの子は──。
私は真っ直ぐメギドラモンを見据えた。ツムギの助力もあって照準は再び白い炎を、そしてメギドラモンを捉える。
「そこだっ──!」
冷気が、一筋の閃光となって白い炎諸共、メギドラモンを貫く。赤い鱗で覆われていた体が白く凍る。
完全な氷漬けとなった次の瞬間、バラバラに砕け散った。ツムギに氷の欠片が当たらないよう、マントで覆って守る。
作った足場を消す事なく、私はその場にツムギを下ろした。
「ありがとう、えっと、オメカモン?」
「違うぞ、ツムギ。オメ〝ガ〟だ」
「……姿、変わっちゃったね。おめでとう、でいいのかな?」
ツムギは笑っていたが、悲しそうだった。理由はもう、分かっている。
「ツムギ、これは進化ではない。私は、元の姿に戻っただけだ」
「元の、姿……?」
「その昔、メギドラモンとの戦いを終えた私は無事だったデータをかき集めて、一時的に退化をしていた。それがオメカモンだ。仮の姿、という方が分かりやすいのかもしれんな」
「じゃあ、もうオメカモンには戻れないの?」
……そう、露骨に残念そうな顔をされると色々と複雑だ。いや、私としても別にオメカモンの姿に不満があるとかではないが……。どうせなら元の姿にも懐いて欲しかった気もしないではない。
ツムギを安心させるためにも私は一度、オメカモンの姿へ退化する。
「もちろん、この姿にもなれるぞ! ほら、ツムギの大好きな吾輩だぞ!」
「オメカモン!!」
両手を広げて抱擁を待っていると、間髪入れずタックルじみた勢いで抱きしめられた。そ、そうか、よほど吾輩の方がいいのか、ツムギよ……。
「……ごめんね、オメカモン。またオメカモンの傍から、離れちゃった……」
ごめんなさい、と小さく謝る。
この子の心情を知った今となっては、その言葉の重さがしみじみと伝わる。
吾輩は、俯くツムギの頭を撫でた。
「吾輩こそ、すまぬのだ。そなたの気持ちなど知らずに、無神経なことを言った」
「……わたし、嬉しかったの。オメカモンがわたしを探してくれて、心配してくれて……」
でもね、と言った声からは既に涙声になっていた。しゃくり上げながらツムギは続ける。
「わたしのために、ケガなんて、してほしくなかった……っ!」
思えばツムギはサンドリモンの城の時から、吾輩の身を案じていた。そのことに早く気づいていれば、と後悔ばかりが募る。
「ツムギ、ほら、見るのだ。今回、吾輩はどこもケガなんてしておらぬぞ?」
「うん、よかった……よかったぁ……!」
「うんうん、思う存分泣くと良い。吾輩が無事であることが、実感できるまで」
今まで泣けなかった分まで。
その思いはそっと胸にしまい、吾輩は泣き続けるツムギの背中を優しく摩り続けた。
◇
「もう大丈夫なのか、ツムギよ」
「うん、ありがとう、オメカモン」
笑っていても赤い目元が痛々しい。
「それじゃあ、戻ろう! アグモンもガブモンも心配してるよね」
「………………」
「でも、ここからどうやって戻れるんだろう? オメカモン、帰り道分かる?」
「……ああ、知っているとも」
吾輩は作った足場から道を作り出す。もうここまで来たら、とことんバグを活用しておこう。
道は淡く煌めいて視認しやすい。ツムギは手を叩いて喜んだ。
「わ、すごいね! 天の川みたい! この先を進めば、お姫様の城に戻れるの?」
「──……」
「……オメカモン?」
応答を躊躇っている吾輩を訝しんで、ツムギの表情から喜色が消える。
吾輩は、意を決して、答えた。
「違う。この道を進んで、辿り着くのは──そなたの帰るべき世界だ、ツムギ」
「帰るべき世界って……」
「ニンゲン世界だ」
ツムギが驚いて、吾輩を見る。
「ただ吾輩が作れるのは道だけで、帰るにはツムギが本当に帰りたいと願わなければならないのだ。決して後ろを振り向くことなく、ただ真っ直ぐに進んで」
「い、今じゃなくていいよ! ね、また今度の時に──」
「今度は、無いのだ」
ツムギの言葉を遮るように吾輩は静かに、強く言う。
「今我らがいるのは次元の狭間。デジタルワールドでもニンゲン世界でもない。だが、デジタルワールドよりも、ここが一番ニンゲン世界に近い。ここに来られたのは偶然なのだ。だから、デジタルワールドへ戻れば、ニンゲン世界に帰れる保証は、もう……」
「だ、大丈夫だよ! またいつか来れるよ! それこそ、偶然……ね? だから、今じゃなくていいよ、オメカモン」
お願い、と。そんな言葉が聞こえた気がした。
ピエモンの言う通り、ツムギは帰りたくないのだ。
それでも吾輩には責任がある。例え、この子が知らなくとも。この子がいなくなって嘆く両親を見たら、この子をこれ以上、吾輩の我儘で引き留めることは出来ない。
だから吾輩は、冷酷に突き放すしかないのだ。
「駄目だ、ツムギ」
「やだ……」
「ツムギ」
「やだっ!」
「ツムギッ!」
我儘を言うな、という言葉を言いかけて──別の言葉を口にする。本当なら、この言葉だけは言いたくなかった。どんな叱責よりもツムギを追いつめる一言。
「ツムギは『良い子』だろう……?」
「──……」
ツムギの目が、ゆっくりと大きく見開く。泣き止んだばかりなのに、また涙をためて、ショックを受けたような顔で吾輩を見つめる。
「……うん、わかった」
さきほどの癇癪が嘘のように静かに首肯する。泣くのを我慢して、必死に笑おうとするツムギ。
「わたしは『いい子』だから……これ以上、オメカモンを困らせたく、ないから……っ」
あの言葉は仮面だ。どんな状況でもツムギの感情を押さえつけてしまう、重厚な仮面。
事情を知らないままであれば、いたたまれなくて目を逸らしていた事だろう。
今はしっかりとツムギの顔を見て、涙を拭ってやる。それから、一本のクレヨンを取りだしてツムギに渡した。
「これをやろう、ツムギ」
青色のクレヨン。晴天の空のような色で、個人的には気に入っている一色だ。
「これで、少しは寂しさが紛れると良いが……」
「いい、の……?」
「代わりに、預かっていたこのカーディガンなる上着を、このまま吾輩に譲ってはくれないか? これをニンゲン世界では物々交換と言うのだろう?」
ツムギはキョトンとした顔を浮かべ、すぐに頬を緩めた。
「わたし、友達とプレゼント交換したことなかったから、すっごく嬉しい!」
吾輩の手から躊躇いがちにクレヨンを受け取る。それを胸に抱くと、もう一度吾輩を抱きしめた。
「たくさん我がまま言ってごめんね、オメカモン……大好きだよ」
「うむ、吾輩も好きだぞ、ツムギ。あちらでも元気でな」
「うん」
別れを惜しむように、ゆっくりとツムギの手が離れる。
「決して後ろを振り向いてはならぬぞ。振り返ったら、道に迷ってしまうからな」
「オメカモンも、ちゃんと帰るんだよ?」
「……もちろんだとも」
吾輩に背を向けて、ツムギが星の道を歩き出す。最初はゆっくりな歩行だったが、次第に早歩きになって最後には駆け足になった。
ツムギの後ろ姿が徐々に小さくなり、やがて見えなくなる。
これでいい。〝前回〟は喧嘩別れだったから。いや、前々回もだったか?
さすがに前々回以前のことは覚えておらんな。なにせ、細かいところは〝毎回違う〟のだから。
吾輩は踵を返した。帰路につく為──ではない。
ツムギと別れたあとは、必ず奴がやってくる。
「──────!」
無重力空間なのに、それを無視して空気を震わせるほどの咆哮。
吾輩の目はまだ何も捉えていない。が、眼前の空間は微かに揺らいでいた。そこに何かが存在していると示すように。
吾輩は自分のデータを展開し、組み替える。〝吾輩〟から〝私〟へ。復元進化──リ・リューション。
「今回で終わらせる。そう思い続けて、これで何度目だ? あの子が無事に帰られたかどうか、今回も見届けられなかったな」
私がグレイソードを抜くのと同時に、揺らいでいた空間が爆ぜ、邪竜の姿を顕現させる。さきほどまで対峙していた邪竜は、その姿を大きく変えていた。
「メギドラモンXか」
Xデジモンの出生は大きくわけて二種類ある。ハグルモンXのように、複製したデータを基にデータを改ざんし、意図的に能力値を底上げする方法。
もう一つは損傷していないデータを寄せ集めて、再構築する方法。この方法でも能力値の底上げは可能だが、データの振り分け方次第では偏った能力値になる。
メギドラモンXは元の姿より禍々しい見た目になっていることから、破壊に振り切っているのが分かる。元より理性など感じられないデジモンではあるが、今の姿では例え私が死んでも躯まで喰らわねば止まらんだろう。その証拠が過去の──否、これから見るデジタルワールドの惨状だ。
『オメカモンも、ちゃんと帰るんだよ?』
『……もちろんだとも』
嘘は言っていない。そう思ったから答えた。帰るべき世界が、例え過去でも。
メギドラモンとの戦いは、ここでは終わらない。我々の決着は過去へ辿り着いてから着く。
それは同時に、同じ時を繰り返すということ。その後、私は力尽きてオメカモンとなり、ツムギと出会い──そして、またこの場所へ、この時へと巡ってくる。
ずっとずっと、この繰り返しだ。
果たして、なにが始まりだったか、もう覚えていない。
「グオオォォオオ……!!」
忌まわしき邪竜が吠える。
感傷に浸っている時間もなく、新しく生まれ変わった邪竜が襲い掛かってくる。
嗚呼、恐らくまた繰り返されるのだろう。次回も、せめて笑ってツムギを見送りたいものだ──。
断章
「……?」
何か、聞こえた気がする。
わたしはしゃがんで、後ろを振り向こうとするのを必死に我慢してた。なにか聞こえた気がして、顔を上げたらひらひらと何かが飛んでいたのが見えた。──うっすらと光ってる、白いチョウチョ。
「チョウチョ……」
わたし、知ってる。
学校の帰りで見かけた、あのチョウチョだ! わたしはそれを追いかけて、川へ落ちて……それから気づいたらデジタルワールドへ来て、オメカモンに会えたんだ。
『ツ、ムギ……ツムギ……』
チョウチョから声が聞こえてくる。オメカモンと、同じ声。
「あのチョウチョ、もしかして私のカーディガン……?」
どうしてそう思ったのかなんて、わたしも分からない。ただなんとなく、そう思っただけ。
じゃあ、オメカモンは……?
──悪い予感がするのは、気のせいなの……?
その時、オメカモンがくれたクレヨンが光った。
わたしは驚いてクレヨンを見ると、まるで雷みたいな強い光になった。まぶしい……!
……光、おさまった……?
恐る恐る目を開けてみてみると、そこにあったのはクレヨンではなく細長い箱みたいなもの。
「なに、これ……?」
せっかくオメカモンから貰ったのに、へんてこな物に変わってしまっている!
カタカタ……クレヨンだったそれは震えだして、縦に向きを変えた。カチカチと音がして、ぞうきんをしぼるみたいな動きをした。そうしたら、先端からスクリーンが出てきた。学校でみたことがあるやつだ! 映っていたのは──。
「オメ〝カ〟モン!」
今の姿はオメカモンが憧れている騎士の方だった。分かっているけど、ついオメカモンの名前で呼んじゃう。
何かと戦っている様子っぽいけど、なにと戦っているんだろう?
オメカモンが避けたところへ、戦ってた相手が映った。ああ! 氷漬けになったあの竜!
相手のデジモンは大きな口を開けて、オメカモンを食べようとしている。飲み込まれないようにオメカモンは必死に抵抗して避けた。
でも、体の所々が、あのお姫様の足みたいにヒビが入ってて、とても痛そう。
「助けなきゃ……!」
オメカモンの言いつけを破ることになってしまう。それで怒られるかもと思った。でも、オメカモンに怒られるならいい! 一緒にいられるなら、それでもいい!
わたしは勇気を出して後ろを振り向いた。オメカモンは道に迷うって言ってたけど、わたしが歩いてきた道はちゃんとある。
安心して進もうとしたら、突然わたしの体はガクンッて傾いた。
「っ!?」
道を踏み外したみたいに、体はあっという間に道から落ちてしまう。
落っこちないように手を伸ばしてみたけど、取ってくれる人なんて、いないよ──!
「ツムギ!!」
誰かがわたしの名前を呼んで、手を握ってくれた。
わたしは泣きそうになるのを我慢して、大きな声で言った。
「ウォーグレイモン! メタルガルルモン! お願い! 一緒にオメカモンを助けて!!」
7
メギドラモンXが迫る。鋭い牙を向けて、そのまま私を噛み砕こうとする。
「グレイソード!」
炎を纏った刃で一閃するも、相手はひるむことなく突っ込んできた。やむを得ず紙一重で避ける。
私の体は、限界を迎えつつあった。
右の砲身はひび割れ、左の剣も刃こぼれしている。纏っている白い鎧もボロボロだ。トレードマークのマントはどこかへ飛んでいったらしい。しかし、それらを気に留めている暇など無かった。
前回と比べると、消耗が激しい。相手の行動パターンを一々全て覚えている訳もなく、毎回新鮮な気持ちで挑んでいる。実に、いらない仕様だ。
目の前を飛ぶ、炎の塊を切り落としていく。
その間に、メギドラモンXが私の周りを飛び回っていた。何を、と私が注意深くメギドラモンXの動きを伺う。本体の動きに合わせて動いていた尾が、とぐろを巻く。
私を捕えようとする尾から逃げるため、私は上へ飛んで回避する。が、万全な状態ではない体では私が想像しているより一瞬だけ動きが遅い。それが命取りだった。
とぐろを巻いた尾に、片足が取り残された。ぐんっ、と足が引っ張られる。
ガルルキャノンの砲口をメギドラモンXに向ける──直後。
「ッガッオオオアアアアァァァ!!」
突然メギドラモンXが暴れ出した。破壊を目的とした動きではなく、痛みから逃れるような悶え方だ。そして痛みが生じた箇所へ腕を伸ばす。そこにいた一つの人影を認め、驚いた。
翼のように展開されている盾は、私の左肩に備わっているものと同様のもの。今は凛々しい目つきであるが、元の優しい性格はそのままだ。
「ウォー、グレイモン……?」
その時、飛び込んできた別の声に私はゆっくり目を見開いた。
「オメ〝カ〟モンッ!」
あの子の声がするのは、果たして気のせいか?
〝吾輩〟の名前を呼ぶのは、果たして聞き間違いか?
──否。
私が視線を向けた矢先、飛んできたのは小さな子供。腕を大きく広げ、私の首にしがみつく。私は、その子が落ちないよう咄嗟に支えた。
一緒にやってきたであろうメタルガルルモンと目が合った。話はあとで──目だけでそう言い残すと、すぐにウォーグレイモンと合流し、メギドラモンXと戦い始める。さすが二体で共に行動しているだけあって、息がぴったり合っている。
経緯はどうあれ、〝私〟がオメカモンであることは理解しているらしい。話す手間が省けて助かる。
さて。私は、妙に威勢の良い子供──ツムギを見る。本来であれば怒らねばならないのに、私は困ったように言った。
「ツムギ、何故ここに? 後ろを振り向くなと言っただろう?」
「ごめんなさい……」
しゅん、と目を伏せ、申し訳なさそうに謝るツムギ。でも、と言葉を続けながら、強い眼差しで私を見つめる。
「オメカモンの使命ってわたしをお家に返すことでしょう? じゃあ、わたしがお家に帰れたかどうか、ちゃんと見てないとダメだよ!」
その言葉に、私は返す言葉をなくした。
同時に頭の隅に微かにあった、ある感情が顔をのぞかせる。同じ時間を繰り返している内に、いつの間にか蓋をしていた願い。
今まで、ツムギがこうして引き返してきたことはなかった。
家に帰れたんだなと思いながら、それでもこの子をちゃんと送り届けられない事がいつも心残りだった。
「それにね、オメカモンはわたしがいい子じゃなくても、一緒にいてくれるって信じてたから!」
恥ずかしそうに頬を染めてツムギは笑う。まるで花が咲いたような笑顔。
「待っててね、オメカモン! ケガ、すぐにこれで治してあげるからね!」
そう言って、ツムギは手に握っていた細長い箱のようなものを見せる。私が渡したクレヨンに面影が似ているが……。
「ツムギ、それは?」
「デジヴァイスっていうんだって。〝なんでも出来るアイテム〟って教えてもらったんだよ?」
デジヴァイス。なんでも出来る。……まさか!
「でも、これどうやって使って、ケガを治すの?」
ツムギの質問に答えるようにデジヴァイスが勝手に動き出す。
カチカチと音を立てて捻れば片方の先端から六角形のスクリーンが表れた。スクリーンは私の体をスキャンすると、大まかに十ヶ所のポイントに分けて損傷したデータを分かりやすいよう可視化する。おもに両腕と両足を始め、左肩と頭部が赤く表示されていた。一番損傷が激しい場所ということか。
そして最後に、全体的なダメージを計算して大きく表示する。損傷率は──八十二パーセント。
「八十二って、高いの? 低いの?」
「最大が百だから、その内の八十パーセント以上、ダメージを受けている計算だな」
「だいぶ高いよ!? どうすれば治るの!?」
「いや、そう慌てることもない、ツムギ」
見てみるといい、と私は損傷率の数字を指す。八十二だった数字は八十、七十五と徐々に下がっていく。
「数字がだんだん減っているのが分かるか? それは私のケガが治っている証拠だ」
そう説明するとツムギの表情が華やいだ。
損傷率の数値が下がっていくのにつれて、ボロボロだった体が見る見るうちに修復される。数字として表れているからか、私も次第に体の好調さを実感する。
十パーセントを下回ったところで数字は止まる。残りは修復不可ということだろう。寧ろ、バグだらけの体で十パーセント以下まで修復出来たこと自体が凄いことだ。
ツムギが嬉しそうに手を叩いて喜ぶ。
「よかった! 全部のヒビ、なくなったね!」
「ああ、これでメギドラモンとの決着もつけられる。ツムギ、そなたは──」
「一緒に行く!」
私の言葉に被るようにして、ツムギは力強くそう告げる。
「今までオメカモンが守ってくれた分、今度はわたしが守るから!」
デジヴァイスがあるから、という意味ではない。ツムギは心から、私を守ろうという強い気持ちを抱えていた。
では、その気持ちに、私はどう応えるべきか。──決まっている。
「今度こそ、私から離れるではないぞ、ツムギ」
ツムギが目を大きく見開く。泣きそうな顔で笑み、そして、しっかり頷いた。
ツムギを連れ、ウォーグレイモン達と合流する。
ウォーグレイモンが私に気づいてメギドラモンXから一瞬だけ目を離した。その僅かな間に、炎を纏った手がウォーグレイモンを掴む。
「ウォーグレイモン!」
ツムギとメタルガルルモンが声を上げる。
私はすぐにガルルキャノンを放つ。
同時にメギドラモンXは握っていたウォーグレイモンをこちらへ投げ飛ばした。投げ飛ばされた勢いは速く、ウォーグレイモンが回避できる余裕などもない。
「ガルルトマホーク!」
冷気の弾丸がウォーグレイモンに当たる直前、メタルガルルモンの腹部から放たれたミサイルが飛翔し、相殺する。
直撃は免れたとはいえ、余波を受けたウォーグレイモンの背中と右足が凍り付く。
「ウォーグレイモン、大丈夫か!」
「大丈夫!」
駆け寄ってきたメタルガルルモンに、ウォーグレイモンは素早く現状報告をする。
メギドラモンXが炎と化している翼を広げて羽ばたく。すぐさま追いかけたが、翼から渦巻く炎に邪魔をされて断念する。
「ガアアアアッ!」
咆哮が、無重力な空間に振動を与える。
渦を巻いていた炎がまるで蛇のようにうねり、体に絡みついてくる。グレイソードで薙ぎ払い、一旦距離を取る。
「っ!」
「メタルガルルモン!」
どちらかが息を呑んだ。ウォーグレイモンの慌てた声で、それがメタルガルルモンのものだと知れる。
視線を移せば、メタルガルルモンの片足に炎の蛇が絡みついていた。そのまま首元までとぐろを巻き、牙を剥く。
そこへウォーグレイモンが腕に備わっている爪で殴り掛かる。炎は霧散して難は逃れたものの、ウォーグレイモンの腕から煙のように0と1が巻き上がる。そこから現れた彼の腕には、さきほどまであった武器がなくなっていた。
メタルガルルモンの方も分解まではされていなくとも、炎が絡みついていた箇所はデータが乱れていた。
このまま長期戦になれば危険だ。
「オメカモン、あれなに?」
私が二体の許へ駆けつけようとした時、ツムギの指が、上を──メギドラモンXを指す。
暗闇の中に、不気味な白い陽炎が見える。破滅を宿した熱が伝わってくる。全てを灰にする白い炎。強化された今の状態では、その破壊力は想像を絶する。
舌を打ち、急いでメギドラモンXの許へ飛ぶ。
メギドラモンが身を翻しながら両手と尻尾を振るった。それぞれに宿していた炎が刃として襲い掛かる。
それらを掻い潜って奴の体まで迫る。グレイソードを構え──。
文字通り、身を焦がす痛みを感じた。続いて圧迫感。私の目は反射的にメギドラモンXから外れ、自分の体を見る。炎を纏っている太い尻尾が私の体に絡んでいた。鎧から、じゅぅぅぅぅ……っと熱を発する音が聞こえる。
嫌な予感がした。構えた剣先を尻尾へ変えるが、メギドラモンXの方が先に動いた。
尻尾を一度大きく振りかぶり、そのまま叩きつける勢いで投げ飛ばされる。障害物がないせいで、速度は増すばかり。
幸いなのは、ツムギが私にしっかりしがみついて離れていないことだった。
改めてメギドラモンXの高い戦闘力を知る。この場には究極体が三体もいるのだぞ……!? いくらバグとはいえ、チートも甚だしい!
思えば、何度繰り返しても、この場で決着なんぞ着いたことがなかった。過去に行かねば勝負はつかないという仕組みだというのか……!?
冗談ではない! 今回は、今までに起こらなかった事象が起きているのだぞ!
なにより、ツムギを帰せぬままでは──終われん!
私はグレイソードを虚空に突き立てた。何もないはずの空間に、刀身が突き刺さる。少々耳障りな音を立てながらスピードを落としていく。
速度が緩やかになった頃合いで、刀身の半ばで刃が音も無く折れる。私は心中で折れた刃を労い、メギドラモンXを見上げる。──はっきり見えた。邪竜の口から、白い炎が吐き出される瞬間が。
メギドラモンの時よりも遥かに破壊力が桁違いなのが分かる。驚くべきはその範囲だ。制限が無いこの場では分かりづらいが、島一つぐらいは軽く消滅させられるほど広い。逃げ場など、無い。
ガルルキャノンを構える。最初の時のような相殺は難しい。せめて僅かな隙間さえ出来れば、そのまま突き進める──!
二つの影が私の前に立ちはだかり、我々の方を振り返った。その動きが、やけにゆっくりに見える。白い炎は、すぐそこまで迫っているというのに。
ウォーグレイモンも、メタルガルルモンも、何も言わず。ただ、──微笑んだ。
「────……」
言葉を交わした訳ではない。ただ笑いかけただけ。呼吸するような、僅かな時間。
長い、長い──それこそ数分、数時間という、長い時間に思えた。まるで最後の別れであるかのように。
白い炎に向き直り、それぞれが構える。
「ガイアフォース!」
「コキュートスブレス!」
二体の技が、白い炎とぶつかる。
力の差など歴然。それでも微かに空いた隙間から、メギドラモンXの姿が確認できた。
私は二体の脇を過ぎ、ツムギと共に白い炎の中を駆け抜ける。
チャンスは一度。与えるは一撃!
でなければ、決着など着かぬ。もう一度、繰り返すだけだ。
いや、終わらせる。必ず、終わらせてみせる──!
すると突如、白い炎が弾けた。
細かい光となってメギドラモンXの周囲を漂い、奴の翼や手、尻尾に絡みつく。自分にまとわりつく粒子を鬱陶しげに振り払うメギドラモンXだが様子が変だ。先ほどまでの勢いがない。見えない枷で、動きを封じられている感じだ。
私の足元に光の道が現れる。視界の端で、ツムギが握るデジヴァイスが強く光っているのが見えた。
光の道は、メギドラモンXの近くで途切れていた。私は迷わず最後の道を蹴って、飛ぶ。道だった光が弾け、メギドラモンXの頭上まで私を導く。
今まで以上に血走った眼に、私の姿が映る。
無いはずのマントが大きく広がる。流麗だった白い鎧は、より荘厳な雰囲気を持つものへと変わる。
私は、左腕を高々と振りかぶる。
「オート──!」
竜の顎から伸びる剣は、無い──はずだった。
折れた部分に光が集まり、刀身の形を成す。
「──デリートッ!!」
力強く、光の剣を振り下ろす。
手応えは、──あった。
邪竜の巨体が、ゆっくりと動く。私を見つめていた目が、静かに閉ざされる。一拍の間を置いて、メギドラモンXの体からデータが零れ始め、巨体は0と1に分解されていった。
「オオォォオオ……!」
最後に聞こえた叫び声は断末魔か、慟哭か。我々には分からない。
ただ一つわかったことは、──すべてが、終わったということ。
「やった……」
最初に呟いたのは、ツムギだった。
「やった! やったね、やった!」
ツムギがはしゃぐ姿に、私は全身で息を吐いた。終わった……ああ、ようやく。全てが、終わったんだ。
そこでハッと、後ろを振り向いた。ウォーグレイモン達は無事なのか。
二体は互いの体を支え合うようにして立っていた。私の視線に気づいて、ウォーグレイモンは手を、メタルガルルモンは尾を振る。
「二人ともぶじだったー! 勝てたよー!」
ツムギが手を振って応答する。
「ツムギ」
私の呼びかけに、ツムギはすぐさま私を見た。
言うことは沢山ある。でも、最初に言うべきは決まっている。
「──ありがとう」
騎士たるもの、感謝の気持ちは忘れてはならん。
ツムギはニッコリと笑った。
「わたしも、ありがとう、オメ〝ガ〟モン!」
この時、ツムギが初めて〝私〟の名前を呼んでくれた。なんだか気恥ずかしさを感じた私は逃げるように〝吾輩〟に戻った。
「オメカモン!」
さきほどよりも更に嬉しそうに吾輩を抱きしめる。
「うぅむ……やはり複雑だなぁ……」
吾輩がそう言うと、ツムギは声を上げて笑った。
8
「じゃあ、ツムギはこのままニンゲン世界に帰るんだね?」
ガブモンの言葉にツムギがうん、と頷く。
メキドラモンXとの死闘後、ウォーグレイモンとメタルガルルモン、両名の治療をざっと終わらせた。幸いにもデータが破損するほどの負傷は負っておらず、吾輩もツムギも胸を撫で下ろしたものだ。
「本当は、もっとみんなと一緒にいたいけど、帰るなら今しかないんでしょう、オメカモン?」
「残念だが、ニンゲン世界への帰るチャンスは今しかないのだ」
「そっかぁ……ボク、もっとツムギと話してみたかったなぁ。他の仲間たちにも紹介したかったし」
アグモンが残念そうに肩を落とす。
ガブモンも同じく、目を伏せて小さく頷いた。
吾輩は励ますつもりで、二体の肩をそれぞれ叩いた。
「今生の別れではないのだ。またいつか再会出来ようぞ。ツムギにも、吾輩にもな」
「え?」
二体が同時に声を上げ、吾輩を見る。
「お、オメカモンもツムギと一緒に行くの?」
聞いたのはガブモン。
吾輩はドンッと自身の胸を叩いた。
「吾輩の使命はツムギを無事に家に送り届けることなのだ。それをいーっつもメギドラモンめが邪魔をしていてな! これでようやく使命を全うできるというものだ! 今度は吾輩が、いつデジタルワールドへ帰って来られるかわからんが、まあ、いつか戻ってこれよう!」
「オメカモン、それは……」
相手が何かを言わんとしているか、だいたい察しがつく。吾輩は笑った。
「いやはや、これは長旅になるぞ! 土産話を楽しみにしていてくれ!」
「おみやげー! 楽しみー!」
アグモンが無邪気に諸手を挙げて喜ぶ。相方ほど純真になれず、ガブモンの目が切なげに揺れた。
では──さらばデジタルワールド。いざ行かん、ニンゲン世界!
「ねえ、オメカモン、あれ、なあに?」
──と、意気込んでいたところを水を差すように、投げかけられるツムギの声。
むむ? ツムギが何か見つけたようだが、こんな空虚な空間に、なにか気になるようなものなどあっただろうか?
大人しくツムギが指し示す方向へ視線を向ける。ぼんやりと、虚空が揺れている。陽炎に見える、その小さなシルエットの正体に気づいた途端、吾輩もアグモン達も身構えた。
「ハグルモン!?」
メギドラモンはハグルモンを依り代にして具現化していた。メギドラモンを倒したことで、奴も解放されたのか。
ハグルモンは吾輩達に気づいていなかった。身を縮ませて、何やらぶつぶつと呟いている。敵意は今のところ、感じられないが……。
考えあぐねいていると、ツムギが近寄って行った。咄嗟に引き留めようとする吾輩に大丈夫、と小声で告げる。
「ハグル、モン……? どうしたの?」
ツムギが声をかけると、ハグルモンの体が大きく飛び跳ねる。ようやく吾輩達の存在に気づいて、わなわなと震え始めた。そして歯車の手で、頭を庇うように蹲る。
「ご、ごめんなさいごめんなさい! わた、わたくしは、ただ……! ただっ……サンドリモンの為に……!」
予想だにしていなかった名前にその場の全員が驚く。そういえばピエモンの時にもサンドリモンの名前を言っていたな。
「お姫様が、どうしたの?」
ツムギが優しく聞く。
ハグルモンは、少なくともその子供が自分に害を与えないと分かったようだ。恐る恐るツムギを見上げる。が、すぐに視線を気まずそうに泳がせる。
「わ、わたくしは、サンドリモンの為に、強くあろうとしたのですっ……か、彼女は、強いデジモンにしか、興味が無かったから……彼女が選ぶ『王子様』は、彼女より強くてはいけない、から……!」
王子様とな?
ツムギはそっか、と納得しているのに、吾輩だけ分からないとはなにやら腑に落ちぬ!
吾輩はガブモンに視線を送り、補足説明を求めた。
「サンドリモンは元々自分の『王子様』探しに、強そうなデジモンを自分の城へ呼んでは戦いを挑んでボコボコにしてたデジモンなんだ。おかげで、その悪名だけは広がっててね。オレ達も今回のバグは、もしかしたらサンドリモンの仕業じゃないかって目星をつけていたんだ。空間を移動できるなんて芸当、そう簡単に出来るものじゃないからね」
「あの城とガラスの靴は、サンドリモンの能力なのです。特に城は本来、位相がズレて存在している為、バグが起こりやすい。そうならないよう力を制御する為、サンドリモンは城から出られないのです……」
ハグルモンから告げられた更なる情報に吾輩はおろか、ガブモンも驚いた。
同時に納得出来た。ニンゲンがバグを増幅させるなら、最初に城で歪みを感じ取れたのも頷ける。元々そういう形で存在しているなら蜃気楼に見えるのも当然である。
そういえば城から脱した時も、サンドリモンほどの手練れなら我々を追いかけることも簡単だったろうに。そうしなかったのは、それが理由か。
「彼女は、自分が美しくて強いだけだと言っていました。でも、わたくしは知っているのです。倒したデジモンが、自分が待ち望んでいた『王子様』でないと知った時、彼女はとても寂しそうな顔をするのです……」
「だから不正進化をしてまで、サンドリモンの『王子様』になろうとした、と?」
実に愚かしくて、浅ましい理由だ。しかし吾輩は、その理由をくだらない、と冷たく切り捨てたくは無かった。
気づけば、何故、と言葉を発していた。
「そこまでして、サンドリモンの傍にいたがる? そなたにとって、あのデジモンはどのような存在なのだ?」
「サンドリモンは……わたくしの、命の恩人なのです」
ハグルモンはゆっくりと、自身について語り始める。
「わたくしは元々どこの生まれか分からないデジモンでした。気づけば、サンドリモンの城の前にいたのです。サンドリモンの使い魔達がわたくしを見つけ、そのまま彼女に拾われました……」
自分と境遇が似ていることに驚きつつも、妙に納得してしまった。
今まで考えたこともなかったが、過去のデジタルワールドで〝吾輩〟が生まれた時、倒されたメギドラモンはどうしていたのか。メギドラモンXが倒されたことで、こうしてハグルモンが現れたということは、今までもそうだったのだろうか。
「彼女は……高飛車で傲慢で、人によく無理難題を押し付け、めちゃくちゃな我儘を言う、まさに女王様のようなデジモンです。でも、わたくしはそんな彼女に沢山良くしていただきました。だから、わたくし自身が強くなって彼女の『王子様』になろうとしたのです。わたくしなりの、恩返し──そのつもりでした……」
ハグルモンが改めてツムギを見上げる。次に吾輩を見た。今度は、目を逸らすことなく、真っ直ぐと。
「だからといって、あなた達を傷つけていい理由にはならないのです……本当に、ごめんなさい……」
もう一度、ごめんなさい、と深く頭を下げる。
ハグルモンの頭を撫でながら、ツムギは優しく言う。
「お姫様にも、謝ろう? きっとハグルモンが帰ってくるのを、待ってるよ」
「そう、でしょうか……?」
「そうだよ!」
その問いに力強く肯定したのは、まさかのアグモンだった。
「ボク達がここに来る前に、サンドリモンが言っていたんだ。『もしハグルモンを見つけたら連れ戻してきて』って」
ハグルモンの元へ駆け寄り、手を差し出して言う。
「だから、一緒に、帰ろ?」
ハグルモンは困ったようにツムギを見上げた。
「大丈夫だよ。お姫様、きっと待ってくれてるよ。だって、どれだけ我がままでも、その分、すっごい優しかったでしょう?」
ハグルモンの頭が小さく上下に動く。
それからアグモンの手を見つめ、おずおずとその手に触れる。すると、ハグルモンの体から光が溢れだした。光はやがて体の中心部へと集束し、ハグルモンの姿かたちは消えて卵型のシルエットへと変わる。デジタマだ。
コロン、とデジタマが転がる。アグモンは寂しそうに、デジタマを抱き上げた。
「え、なに? どういうこと? ハグルモン、どこに行っちゃったの……?」
状況を飲み込めず、ツムギは混乱して周囲を見回す。当然ながらハグルモンの影さえ見当たらない。
「バグが修正されたんだ」
もはや恒例となってきた、ガブモン先生の説明会。以前はバグの発生とその末路を聞き、今回はバグが修正された後の流れの説明だ。
「バグが修正されたら、そこから発生してたバグも修正されて、なくなる。元々ハグルモンの存在自体が、通常のメギドラモンを倒したことで不安定だったんだ。かろうじてバグで存在出来てたって感じだね。でも大丈夫。デジタルワールドに戻ったら、いつか孵化して、ハグルモンになるはずだよ」
最後の一言を聞いて、ツムギがホッとする。
「このデジタマは、ボクたちがちゃんとサンドリモンに届けるからね」
「うん、お願いね。アグモンも、ガブモンも元気でね……?」
眉を八の字に歪ませながら大粒の涙をボロボロと流すツムギ。唇を横一文字にして固く閉ざしているのは嗚咽を我慢しているからだ。
「いいよ、ツムギ、我慢しないで?」
アグモンが傷つかないよう慎重に爪で涙を拭う。
ツムギからすすり泣く声が聞こえる。その背中を、ガブモンが優しく撫でながら言う。
「本当はもっと話したかったけど、ツムギはニンゲンだから、元の世界に帰らなきゃ」
小さな頭が小さく動く。
「今度はニンゲン世界のこと、沢山教えてね。特に美味しい食べ物とか!」
途端、場の空気が少し変わった。凍り付いた訳でもなく、白けた訳ではない。強いて言えば張りつめていた糸が、だらしなく緩んだ感じだ。
ガブモンは呆れた様子で呟く。
「……アグモン、少しは食べ物から離れなよ」
「えー。だってさガブモン、ニンゲン世界の食べ物、気にならない?」
「いや、きっとこっちと変わらないよ」
「そうかなー?」
今の状況を忘れさせるような、そんな他愛のない会話。これには思わずツムギも泣くのを止めて、クスクスと小さく笑う。
「うん、うん! 今度会ったら沢山教えてあげるね、おいしい食べ物も!」
アグモンとガブモンは互いに顔を見合わせると嬉しそうに微笑んだ。
そのままツムギの目が、吾輩に向く。涙に濡れながらも、決然とした強い眼差し。その目に宿る感情を悟る前に、笑顔で隠される。
「帰ろう、オメカモン。一緒に」
〝一緒に〟──その言葉が、とても重く、尊く感じる。
「ああ、帰ろう」
……おっと、忘れていた。
吾輩は普通に差し出そうとしていた手を一旦下ろした。片膝をついてツムギに向かって頭を下げると、改めて手を差し出した。無駄のない所作で騎士らしく振る舞う。
騎士の卵から、本物の騎士への第一歩。
「では、お手をどうぞ、ツムギ姫?」
ツムギは照れ臭そうに、この手を取ってくれた。
◇
遠ざかっていく一人の子供と一体のデジモンの姿。0と1の星々が周囲を照らしていても、暗闇の中には変わりない。友人たちの姿は、すぐに視界から消える。
「ツムギもオメカモンも、行っちゃったね。……ねえガブモン……オメカモンのこと、本当にこれで良かったの?」
アグモンが確認するように聞く。
その回答に相応しい言葉を持ち合わせておらず、ガブモンは俯くしかできなかった。
黙り続けているとアグモンが、あれ、と不思議そうな声を上げる。
「ガブモン、後ろになにかついてるよ?」
え、とガブモンは器用に手を後ろに回す。指摘された場所に、なかなか手が届かない。
見かねたアグモンが代わりに取った。
一瞬ゴミかと思ったが、何もない空間にゴミがつくというのも不思議な話だ。二体して訝し気に首を傾げていたら、アグモンの手元でチュウッと鳴き声がした。それから見覚えのある使い魔がひょこっと顔を覗かせた。
「あ、きみ、確かサンドリモンの!」
「待って、この子何か持ってる」
目を凝らしてネズミが持っているものをよく見る。暗がりでも光って見えるそれは──ガラスの靴。
瞬間、ガラスの靴から光が放たれた。
「うわぁっ!?」
アグモンとガブモンをすっぽり覆う光。あまりの眩しさに二体は目を閉じた。そして、
「ようやく戻ってきましたの。ワタクシを待たせるなんて、やっぱりマナーがなっていませんわ」
聞き覚えのある声だ。
二体が恐る恐る目を開けると無重力空間から一転、全体がガラスで出来た城の中にいた。もっと目を丸くさせたのは、目の前にいるデジモンが自分達を出迎えていることだ。
「サンドリモン!?」
サンドリモンは玉座に優雅に座り、頬杖をつきながら自分達を見下ろしている。
ふと仮面で隠されているはずの目が、アグモンの手に持っているデジタマで止まった。何かを言いかけた口が、一拍置いて、言葉ではなく溜息を吐く。
「本当に、あなたはおバカさんですわ、ハグルモン」
そう言いながら組んでいた足を解き、おもむろに玉座から立ち上がる。まっすぐとアグモンが持つデジタマへと歩を進める。
「城から出られないワタクシに、テーマパークを作ろうと言ってくれたこと、覚えてます? ワタクシ、結構あなたが考えたココ、気に入ってましてよ?」
アグモンとガブモンは黙って、サンドリモンの言葉に耳を傾けていた。
確かにハグルモンの言う通り、高飛車で傲慢な物言いではある。だが涼やかな声には、その分の優しさも含んでいた。
「確かに強い『王子様』が来ることはなかったですけど、みな一様に楽しげに笑ってるんですもの」
デジタマに伸ばされる手。
アグモンは躊躇いがちに、持っていたデジタマを渡した。
サンドリモンの手が優しくデジタマを抱き上げる。慈しむようにも、労うようにも見えた。
「でも、あなたは一つ勘違いしてますわ。なかなか『王子様』が来ないからといって、自分が代わりに『王子様』になるとか、馬鹿じゃないんですの。いえ、言い直すわ。大馬鹿者ですわ、このおバカさん」
ストレートな罵倒が、見えない槍となってデジタマに刺さる。
聞いていて気分の良いものではない。ましてや自分たちはハグルモンが今までどんな想いを抱いてサンドリモンの傍にいたのか聞いている。
「サンドリモン、ハグルモンは……!」
我慢出来ず、アグモンが口を出した、その時。
「今思えば、あなたはあの子に負けないぐらい、強い目をしていましたものね」
サンドリモンは今まで自分が座っていた玉座にデジタマを乗せた。デジタマが微かに震える。なんだか居心地が悪そうだ。
サンドリモンもそれに気づいて、あら、と意外そうな声を上げる。
「ワタクシをエスコートするなら、玉座の座り方ぐらい覚えなさい。あなたに相応しい姿になるまで、その場所を貸してあげるわ」
言い方は偉そうでも、声は慈愛に満ちていた。アグモン達の視点では顔は見えないが、きっと優しく微笑んでいるだろう。
サンドリモンは優雅な仕草で身を反転させると、二体と向き合った。
「先ほど、なにか言いかけてましたわね。もしかして、今回のバグ事件について、ワタクシ達を取り締まるつもりかしら?」
「いや、オレ達はバグを修正する力はあるけど、取り締まる権利までは持ってないよ」
「それに、サンドリモン達が捕まったら、テーマパークはどうするの? 折角みんな楽しんでるーって、さっき言ってたでしょう? ボク達も、まだまだ楽しみたい!」
ねー、とガブモンに同意を求めるアグモン。ツムギのように同じテンションで返せないガブモンは「そ、そうだね」と苦笑を返す。
「……あのニンゲンの子は、帰りましたのね。あら、あの自称・騎士の卵もおりませんの」
アグモンもガブモンもピタリと口を噤む。
数拍の間を置いてから、アグモンが重々しく口を開く。
「……オメカモンは、ツムギと一緒にニンゲン世界へ行ったよ」
サンドリモンはただ一言、そう、とだけ答えた。
「ますます気に入りませんわ。あの子にどれだけ爪痕を残す気ですの、あの不敬者」
サンドリモンほど強く反感はないが、アグモンもガブモンも同じことを思っていた。
(オメカモン……)
ガブモンはツムギと共に笑って別れた友を思い返す。
いつか戻ってくると、本人は言っていた。彼が普通のデジモンであったなら、その「いつか」を心待ちに出来たのに。
(でも、バグが修正された今では……)
もう間もなく、そう遠くない未来で。
彼の存在は、消えてしまう。
◇
薄暗い空が、端から少しずつ白けていく。今は、夜明け頃だろうか。
「ツムギよ、大丈夫か?」
「大丈夫。ちょっとだけ寒いだけだから。オメカモンは大丈夫?」
「吾輩は大丈夫だぞ」
ひんやりとする程度の寒さは感じるものの、動けぬ寒さではない。
吾輩はツムギと手を繋ぎ、改めてニンゲンの世界を見渡す。
自然が溢れるデジタルワールドと比べると、角ばった建造物が多い。地面も、土より硬く整えられている。サンドリモンのテーマパークほどではないが、似たような道が続いている。これでは吾輩も迷子になりそうだ。
そんな中、ツムギは迷わず歩き続ける。歩は、比較的ゆっくりめだった。
「すまぬ、ツムギ。そなたから貰ったカーディガンだが、貰って早々無くしてしまった……」
「ううん、気にしてないよ。それにね、あのカーディガンがオメカモンに会わせてくれたから!」
吾輩は不思議そうに首を捻った。まあ、ツムギが落ち込むどころか嬉しそうなので、良しとしよう。
建造物に紛れて、ひっそりと点在している自然が目に入る。規則正しく整列した木々が真っ直ぐ連なり、トンネルのようになっている。
「ここの道を通ったら、家までもうすぐだよ、オメカモン」
吾輩の手を引いて、ツムギは木のトンネルを歩く。
風が吹いた。木々から葉っぱが零れ、舞い落ちてくる。
道の半ばで、急に足が動かなくなった。足だけではなく腕も重く感じ、視界が霞がかかって見える。ついに、か──。
バグは修正された。そこから続いて発生したバグも、連鎖的に修正される。バグから生まれた自分も、例外ではない。
ツムギが、無言で吾輩を抱き上げる。後ろから抱きしめられている形ゆえに、吾輩からはツムギが今どんな顔をしているか分からぬ。
この子は知っているはずだった。分かっているはずだった。
家に着けば、終わりだと。
でも帰りたくないとは、言わなかった。
何も言わず、何も聞かないから『良い子』の顔をしているのではないかと不安になる。
「わたし、誰かと一緒に帰ったことってあまりないの。こうして誰かと一緒に帰るの、実はすっごくあこがれてたんだよー」
明るくそう言うツムギ。声からして、嬉しそうに笑っていることを願うばかりだ。
木のトンネルを抜けた先をしばらく進んでいくと、ツムギがあ、と声を上げた。そこで足が止まる。
眼前には、大きさが様々な建物が並んでいた。吾輩の目には全て同じように見える。その中の一つが、ツムギの家なのだろう。
足を止めてから、なかなか歩き出そうとしないツムギ。吾輩はそっと呼びかけた。
「ツムギ……」
「……ハグルモンにはね、あんなこと言っちゃったけど……でもね、わたしも、こわいよ……」
吾輩の腹部にある手が、震えている。言い知れぬ恐怖から身を守るように、ぎゅっと強く吾輩を抱きしめる。
何度、同じ時を繰り返しても分からなかったことがある。ツムギは何故、頑なに帰りたくなかったのか。
『良い子』ではなくても良い世界が、よほど心地よかったのか。ずっとそう思っていたが、それだけではなさそうだった。
「お母さん、お父さん……ほ、本当は、わたしがいなくなって、良かったって思ってるんじゃないかって、考えちゃって……!」
後ろからすすり泣く声が聞こえる。ツムギの目から零れたであろう涙が、吾輩の頭に当たった。
ツムギは吾輩を抱いたまま、その場で蹲る。吾輩の頭に顔をうずめながら、ぽつぽつと呟く。
「心配してなかったら、どうしようっ……わ、わたしが、帰ってきて、迷惑だったら、どうしようっ……!」
「それは無いぞ、ツムギよ」
気だるい体に鞭を打ち、なんとか身をよじってツムギの頭を撫でる。
「デジモンに仲間意識はあれど、家族というものは分からぬ。しかし、心配という気持ちを抱くのに、違いなどなかろう?」
涙に濡れた目が吾輩を見つめる。不安げに揺れる目を真っ直ぐ見つめ返す。
「心配するのは大切であるから、大切だから心配をするのだ。それは仲間も家族も、同じことであろう?」
「でも、お母さんも、お父さんも、大切なのはわたしじゃなくて、お仕事だよ……だから、お家に戻っても、きっと誰もいない……」
吾輩はあることを思いつき、悪戯っぽくツムギに言った。
「もしも誰もいなかったら、その時はまたデジタルワールドへ行こうぞ。確かそういうことを家出というんだったな。よし、家出だ。誰もいなかったら、家出をするぞツムギ」
すると、ツムギの表情が安心したように緩んだ。
本当はツムギも分かっているはずだ。ただ、この子に刻まれた記憶がそれを否定する。
事実、両親がツムギと向き合ったことなど回想を見る限り、一度もない。だから最悪なことも考えてしまう。
けれど、吾輩は知っている。ツムギが行方不明となってから、両親がどれだけ心配しているかを。
再び吾輩を胸に抱き、ツムギは歩き出した。
並列している建物の一軒。その前で足を止めたツムギは、恐る恐る扉の隣にあるボタンを押した。
数秒の間を置いて。
扉越しに聞こえる慌ただしい足音。それから扉からガチャリ、と硬い音がして、ゆっくりと開かれる。その隙間から見えた顔は、ツムギと似ていた。
「つむぎ、ちゃん……?」
母親はツムギを確認すると、目を大きく見開いて固まる。
「あ……」
「つむぎちゃん……っ、つむぎちゃん!」
ツムギが何かを言う前に、母親はその体を抱きしめた。泣き崩れるようにツムギと共にその場に座り込む。
「ああよかった! 本当に、よかった……っ!」
「おかあ、さん……」
ツムギの片手が、相手の服を小さく掴む。母親の温かさを実感して、ボロボロと涙を流し始めると、ついに声を出して泣き出した。先ほどの比ではない涙が、頭上に降り注ぐ。
吾輩はそれを黙って聞いていた。口を挟める状況ではない以前に、この身はもうまもとに動かないのだ。腕を持ち上げる事も、視線を動かすことも出来ない。
かろうじて残っている聴覚だけが余すことなく、すべての音を拾い上げる。
もう一つの足音が聞こえてくる。確認出来ないが、恐らく父親だろう。
「つむぎ……! つむぎっ!」
思っていた通り、父親だ。次いで今まで以上の力で圧迫される。近づくなり、母親ごとツムギを強く抱きしめたらしい。
「すまなかった、つむぎ」
「ごめんなさい、つむぎちゃん」
ぽたぽたと、懺悔が零れる。
「寂しい思いをさせて、構ってやれなくて」
「もう『良い子』じゃなくていい、いいのよ」
はらはらと、温かさが満ちる。
「おかえり、つむぎ」
「おかえりなさい、つむぎちゃん」
しくしくと泣いていたツムギが顔を上げ、二人を見る。鼻を啜って涙を拭い、大きく息を吸って。
「お母さん、お父さん」
本来であれば、この目には何も映らないというのに。今は、はっきりと目に焼き付く。
不安も心配も全て取り払った、晴れやかなその笑顔だけは。
「──ただいま」
ずっと、気がかりだったことがある。
あの子は目を離すと、すぐに迷子になってしまうから。
振り向かずに、まっすぐ、自分の家に帰れただろうか。
心配をしていた〝私〟に〝吾輩〟は答える。
ああ──あの子は。
無事に帰れたのだ。
エピローグ
「雨、止んだわねぇ。良かったわ、絶好の遠出日和ね!」
「つむぎ、用意はいいかい?」
「うん!」
「あら、その人形も持っていくの?」
「オメカモンだけ仲間外れはだめよ、お母さん」
「ふふ、そうね」
「でも、本当にお仕事大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。お父さん達のお仕事、ちゃんと終わったし、つむぎと一緒にテーマパークに行きますって、職場の人達に言ってあるんだ」
「そういえばお父さん、チケットは? ちゃんと持ったの?」
「あ! テーブルに置きっぱなしだ!」
「もう、つむぎちゃんの事を気にかけている場合じゃないでしょう!」
「今取りに行ってくるよ。つむぎ、先に外で待っててくれ。あ、知らない人について行っちゃダメだぞ?」
「大丈夫だよー」
ある住宅から、一人の少女が外に出る。手には大きめの人形を抱えていた。
ふと少女は空を見上げた。
先ほどまで大雨が降っていたのに、すっかり止んでいる。
快晴の空に掛かる一つの橋を見つけ、少女は声を上げた。
虹だ。その鮮やかな色合いは、人形の背にある身丈ほどのペンと同じ。
すると突然、目が涙で滲んだ。訳も分からず流れる涙を拭おうとしたが、止めた。
何気なしに、持っている人形を見る。工作みたいな見た目と、落書きしたような顔が特徴の人形。誇り高き騎士の卵。
きっと雨が止んだのは、ずっと自分を守ってくれた彼のおかげだ。
もう、名前を呼んではくれないけれど。
もう、手を繋いで、一緒に歩くことは出来ないけれど。
物いわぬ人形になってしまった騎士を優しく抱きしめると、少女は虹を見上げ。
「──ありがとう」
太陽のような笑顔を浮かべた。
終わり
ひーやん様、コメント失礼いたします、先日お声掛け頂いた鰐梨です。
こちらの作品に関する紹介コラム記事を当方のサイト
https://waniwanip.jimdofree.com/
内のコーナー『鰐梨の文書目録』に掲載致しました。本記事執筆に際しまして多大なるご協力頂きましたこと、誠に感謝しております。ありがとうございました。
ノベコンお疲れさまでした!
感想を配信で喋らせていただきましたので、リンクを下に貼っておきます!
https://youtube.com/live/6Fsl_3c8wyU
(29:34~感想になります)
あとがき
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今作は【デジモンノベルコンペディション2024】に応募した作品となっています。
割と本気で入賞狙いで書いたものなのだったので落選という結果にとてもショックでした。
少なくともこういった形で表に出せたことで一安心しております。
個人的に読みやすさ重視と人外×少女の王道的なストーリーに焦点を置いて書いた一作となりました。