・あらすじ・
定められた制度により、自分のパートナーと離れることが宿命づけられた。
辰真もまた自分のパートナーと離れてしまうが、その際に再会の約束をする。
高校となった辰真は部活中、火事に見舞われてしまう。
その炎の中でパートナーの影を見た辰真が炎の中に飛び込むとデジタルワールドへたどり着く。
そこでパートナーと再会を果たすが、相手は暴走状態になっていた。
辰真は暴走したパートナーを食い止めるべく奮闘する。
デジモンデュエリング-再会と約束-
この気持ちを一言で言い表すなら、半身を失うような感覚だ。
「じゃあ、宜しくお願いします。さ、辰真」
呼ばれて、手に持っている端末を置こうとする。だけど途中で手が止まった。
「タツマ……?」
舌足らずな声がオレを呼ぶ。
隣を見れば黒い鱗に覆われた竜型のデジモンが不安そうにオレを見ていた。
「ヴォーボモン……」
「ヴォアァ……」
小さく鳴いて、羽の先にある爪でオレの袖を握る。そして寂しそうに笑った。
「ヴォーボモン……っ」
オレは思わずヴォーボモンを抱きしめる。いつもは固いと文句を言ってた感触がこれで最後かと思うと、更に悲しくなった。
本当なら離れたくないって大声出して泣き喚きたかった。そんな事をしたって何かが変わる訳じゃない。オレだけ特別に免除出来るはずがないんだ。
「また、会おうな。約束だ」
オレは小指を差し出した。
キョトンと目を丸くさせていたヴォーボモンがオレと差し出された小指を交互に見つめる。それから自分の指の一本を小指に絡めてきた。
約束だ。必ず、またお前に会いに行くよ――。
1
なにが起きたか、分からなかった。
「――辰真っ!」
名前を呼ばれてハッとなる。誰かが俺の肩を掴んでいた。
「なにしてんだ、早く逃げるぞ!」
そう言われて現状を理解する。
熱が、肌を刺す。火の粉が宙に舞い、黒煙が晴天だった空を汚す。そして真っ赤な炎が、高校を容赦なく包み込んでいく。炎の奥で、音を立てながら崩れていくのが目に入った。
「は!? 火事!? なんで!?」
開口一番がそこそこ間の抜けた言葉になってしまった。
「知らねぇよ!」と叫ぶように言ったのはサッカー部の先輩だ。
「とりあえず早く逃げるぞ! すぐに救急車も来るだろ!」
ほらっ、と先輩に促されて俺も避難することにした――その時。
「―――ォォオオ……っ」
声が、聞こえた。悲しそうな鳴き声だ。俺は何故かその声が、知っている声に思えた。
「え……?」
咄嗟に校舎の方を振り向く。炎の向こう側で確かに見えた大きな影に、俺は目を見開いた。
「デジモン……!?」
大きな翼を広げたそれは竜のように見えた。影はすぐ炎と同化して消える。
俺の見間違いかもしれない。でも、妙な胸騒ぎがした。手首にあるミサンガを握りしめる。
(そういえば――)
〝アイツ〟の属性も、炎だ。
途端に心臓が早鐘を打った。嘘だろ? まさか、この火事は〝アイツ〟が引き起こしたって言うのか――!?
頭の中で疑問がぐるぐる回る。
「おい、辰真!」
「すみません、まだ取り残されてる人がいるっぽいんで、助けに行ってきます!」
「は!? あ! おい!」
先輩の制止なんて振り切って、俺は走り出す。水道から汲んだ水を頭から被り、それから炎の中に飛び込む。
一瞬にして滴っていた水が蒸発した。熱気が身を包み、黒煙で視界が一気に悪くなる。舞い上がる火の粉が容赦なく喉を焼く。煙を吸わないよう、口と鼻を手で押さえながら炎の中を突き進む。
(これで見間違いだったら、確実に死ぬっつーの!)
でも見間違う訳がない!
子供の時から一緒にいた、半身みたいな〝アイツ〟を!
気休め程度でも手で煙を払いながら突き進む。すると、次第に視界がひらけていった。
は、と目を丸くする俺の目の前に、見覚えのある光景が飛び込む。
少し湿っぽい空気感と生い茂る緑。じゃり、と砂利を踏む感触。
先ほどまで、文字通り肌で感じていた雰囲気とは真逆ののどかな光景に唖然となる。
目を擦ったり、何度も瞬きを繰り返して目の前に広がる光景を確かめる。ついでに頬もつねってみた。――痛い。現実だ。
ここまでしてようやく見ている景色が現実だと理解し、俺はポツリと呟いた。
「デジタルワールド――!?」
◇
「いや、確かにデジタルワールドに行く切っ掛けって特に決まってないらしいけど、火事でも大丈夫ってどういうことだよ!? それでいいのかよ、デジタルワールド!」
俺は頭を抱えた。
ちなみに口走ってる内容はほぼ八つ当たりみたいなもんだ。ってか声なんか変じゃね? 煙を吸わないようにしてたけど、喉はカラカラだし。それか?
とりあえず俺は歩き進めていった。
〝アイツ〟の姿を探すのに辺りを見渡す。……デジタルワールドに来たのは久々だけど、こんなに木ってデカかったっけ?
まじまじと周りを観察して歩いていると、ガサッと大きな葉が揺れた。
俺は瞬時に足を止めて、音がした方へと爪先を変える。出来るだけ物音を立てないように近づいて、葉っぱの隙間から向こう側を見る。――〝黒い〟羽が見えた。
「見つけたぞ、ヴォーボモンッ!」
相手の脇に手を差し入れ、そのまま勢いよく抱き上げる――つもりだったが、相手の体が予想以上に大きくて俺は思わずよろけてしまった。
「おっ、とっとっー!?」
たたらを踏んでなんとか体勢を整えようとするが、思ったより体に力が入らない。やっぱり炎の中に飛び込んだのは無理があったか――!?
「おーっと!? なんだなんだ、どうした坊や?」
てっきり後ろに倒れるかと思ったが、背後から俺を支えてくれる人がいた。いや、デジモンか? だって成人男性並みの体格の俺を簡単に抱き留められるなんてデジモン以外、いないだろ?
それに坊やなんていう年でもないし。どのぐらいのデジモンか知らないけど、そこそこ大きいデジモンにとっては人間なんてまだまだ子供だもんな。
「んー、あいにく僕デジモンじゃあないんだなぁ」
「は?」
言われて俺は仰向けのまま、背後を見る。
爺さんかと思うぐらい綺麗に整った白髪が目に入る。でも困ったように苦笑を浮かべている顔は、どう見ても若い。でも俺と同じ年には見えない。ざっと三十路前後かな? 登山とかでよく見かける服を着ていた。
それにしても、ずいぶん人間要素が多いデジモンだなー。大抵、目元は隠れてる印象だけど。
「ユキムラよ、名刺を見せてはどうだ?」
俺の手元から凛々しい声がする。んん?
「ヴォーボモン、お前いつからそんな凛々しい喋り方に――」
なったんだ、と言いかけて。ゴクン、と唾と共に言葉を飲み込む。
俺が〝アイツ〟だと思ってとっ捕まえたデジモンは全く人違い、いやデジモン違いだった。同じ竜種だが俺が探してるのは黒い鱗を持つ奴で、このデジモンは緑色の鱗が特徴的だ。
「す、すみません間違えました! どちら様デショウカ……!?」
心の中では大パニック中な俺!
めっちゃ恥ずかしい!
でも、しょうがないよな!? だって羽が黒だったから……!
俺はチラッと抱えてる竜型デジモンの羽を見た。黒だと思っていた羽は――赤!!
(黒じゃねえええ!! ヤベエッ、完全に〝アイツ〟のことで頭いっぱいで、見間違えた!!)
「とりあえず、一旦腰を据えて話そうか? 僕、腕がそろそろ限界……!」
後ろで男の人が声を引きつらせて言う。
俺は慌てて体を起こして、改めて後ろにいた男の人と向き合った。
「ですよねー! 高校生抱き留めてたら、そりゃ腕ぷるぷるしますもんねー! すみません!」
「え、高校生?」
「え?」
男の人が驚いたように言う。つられて俺もキョトンとした。
「君、どう見ても小学生でしょ? 五、六年生ってところ?」
俺は言い返そうと口を開きかけて、気づいた。さっきまで仰向けに見ていたから正確な視線の位置などわからなかった。――視線が低い。
俺は手元にいるデジモンを見た。てっきり小脇に抱えられる程度のサイズかと思っていたのに、今の俺と同じくらいの大きさだ。
俺の頭の中に疑問と、一つの答えがよぎる。いやいや、まさか、そんな!
「あー、これで分かる?」
男の人はパチンッと指を鳴らす。すると、長細い鏡のようなスクリーンが表れた。鏡面に〝今の俺〟の姿が写し出される。
俺は抱えていたデジモンをとりあえず下ろして、自分の姿を確認する。
部活で鍛えた、がっしりとしてるはずの体 ――ではなく、小さな体。手足も短いし、目つきも丸みを帯びて幼い感じがする。ぺたっと自分の頬に触れる。骨ばっているはずの輪郭は少し肉があって柔らかい。
…………な。
「なんじゃこりゃあああああぁぁっ!!」
訳も分からず俺は叫ぶしか出来なかった。
◇
「毒島 辰真くん、現在高校二年生でピッチピチの十七歳。放課後、部活中に学校が火事になり、そこに別れたはずのパートナーの姿を見つけて、それを追ってきたらデジタルワールドに来て、気づけば小学生の姿になっていた、と」
男の人――ユキムラさんの説明に俺はそうです、と首肯する。
いざ状況を整理すると、とんでもないくらい無茶してないか俺。
色々と状況を整理しないといけないのでユキムラさんの提案通り、座って情報交換することになった。
「まあ、デジタルワールド側が勝手に外見を変えた説を推すね、僕は。デジタルワールドもデジモン達も、子供の方が好きみたいだし」
ユキムラさんは自分の膝にいるドラコモン(さっき俺が持ち上げていた竜型デジモン)の頭を撫でながら言う。
「デジタルワールド側が勝手にって、そんなこと出来るんですか?」
「自我がないだけで意思はあるよ。それにデジタルワールドって、基本的に何でもありなトコロあるし。どっちにしろ、そっちの方が都合が良いでしょ。別れたパートナーと再会するのも」
「?」
俺が不思議そうに首を傾げると、ユキムラさんは更に丁寧に教えてくれた。
「別れた時の君と十七歳の君、どれぐらい成長してるか分からないけど、パートナーの中じゃ、この姿の方が記憶に残ってるっぽいってことでしょ? 女の子とか特にそうだけど、人間って人によっちゃ面影もないくらい成長するからねぇ。まあ、デジモンの進化に比べたら些細なもんだけど」
つまり、再会してもパートナーデジモンが気づいてくれない可能性があるってことか!
で、デジタルワールドが気を利かせて、思い出深い姿に変えさせてくれてる、と。
マジでなんでもありじゃん、デジタルワールド。すげえ。
「――ユキムラよ」
ドラコモンが頭を上げてユキムラさんを見上げた。
「先ほど、この者が別れたパートナーと再会する為と言っていたな。この者は何故パートナーと別れたのだ?」
俺は思わずドラコモンを見た。……今、なんて言った、このデジモン。〝何故別れた〟だって?
感情のまま怒声を上げそうになるのを必死に我慢する。
無意識のうちに、眉間に皺が寄っていた。俺の表情がよほど険しいものだったのか、ユキムラさんが申し訳なさそうに苦笑する。
「悪い、ドラコモンにパートナーはいないんだ。だから、デジタルワールドと人間世界の間に結ばれた協定なんて知らないんだよ」
そう返された言葉に、今度は俺が驚いた。
「今じゃパートナーデジモンがいる事が普通になってるが、だからといって人間もデジモンも、全員が全員パートナーがいる訳じゃない。おさらいも兼ねて、今世界がどうなってるか説明するわ」
頼む、とドラコモンが頷く。
◇
人間とデジモンの交流自体は、実はかなり前から密かにあったらしい。
表沙汰になったのは、およそ三十年くらい前。デジタル技術が発達すると同時に、そこから自立的に世界を展開しているデジタルワールドという異世界を観測した。
それを機にデジモン達が現れるようになった。主に、子供の前に。俺も物心ついた頃には既にパートナーデジモンがいたし。
デジモンは見た目の良し悪しはあれど、みな一様にパートナーに尽くした。心身ともに寄り添ってくれる唯一無二の存在に、子供達の情緒は正しく育っていった。
――だが、良い事尽くしでもなかった。
「ある日、子供達は大人になることを拒んだ。パートナーデジモン達は良くも悪くも純粋無垢だからさ。諫めるっていう行動は絶対に取らない。結果、どうなったか。子供達をデジタルワールドへ連れて行っちゃったのよ」
「デジモン達による大量失踪事件ですね」
付け足すように俺が言う。
ユキムラさんはげんなりとした顔でそう、と頷いた。
「親は子供をさらわれたって大抗議。国側も対応しようも、相手が未知な生物且つ、デジタルな存在だから、物理的な対処が何一つ効かないワケ。まあ、結果的にデジモン側のお偉いさんがなんとかして、事なきを得たんだけど。ただ、そのあとが、それはそれはもう、大変で大変で……」
「なにが起きたのだ?」
「人間ってのは家族を持って、子供を作る必要がある。が、パートナーデジモンに依存して、同じ人間を愛せない輩が出るようになった。中にゃ、無事に家庭を持てた連中もいたみたいだが、でも長続きせずに離婚が多発。結局はパートナー以上の存在はいねぇっつって、未婚者が続出。社会問題にもなったなー」
当時を懐かしむように言いながら、ユキムラさんは遠い目をする。
この人、見た目若いのにそんなことを知ってるってことは、実際は結構年くってるのでは?
「人間のお偉いさん方が頭を悩ませた中、デジモン側のとあるお偉いさんがこんな提案を持ち掛けてきた。一生傍に居続けるのではなく、制限を設けては――と」
ドラコモンが察したように聞く。
「では、その制限が?」
「『パートナー解消制度』って言って、人間がパートナーデジモンに依存しないのと同時に将来性を考えた、素晴らしい協定なのさ」
ユキムラさんはおもむろに胸ポケットから煙草を取り出し、吸い始める。
「最初の頃は二十歳前後ぐらいからだったけど、今は何歳ぐらいで別れるの?」
「今は十一、二ぐらいです。中学に上がる頃合いで、パートナーと別れます……」
「うわぁ、だいぶ引き下げられてんのねぇ。まあ、確かに大量失踪事件の子供達もそれぐらいだったし、妥当っちゃ妥当かもだけど」
「別れたパートナーデジモン達はどうなる?」
ドラコモンがユキムラさんを見上げて質問を投げかける。凛々しい口調の割には、本当になんにも知らないんだなぁ……。
ユキムラさんは相手の頭を優しく撫でながら、軽い口調で答える。
「デジタルワールドに帰されるよー。勿論、ちゃんとお別れの言葉とか諸々済ませて。パートナーデジモン達はデジヴァイスと一緒に子供達の前に現れるから、パートナー解消の際はデジヴァイスを返却するのが決まり」
「どこに?」
「デジタルワールド観測所っていうのが人間世界にあるんだよ」
「パートナーデジモン達はそれを承諾しているのか?」
「基本的には。元々育成目的で人間たちに預けてるようなもんだって、デジモン側のお偉いさんは言ってたっけねぇ。中には『そんなこと知ったこっちゃねえ!』っていうタイプもいる。今回みたいに」
そういえば、と俺は気になっていた事を尋ねてみた。
「ユキムラさん達はどうしてデジタルワールドに? というか、大人もデジタルワールドに来られるんですね?」
俺が子供の頃、パートナーデジモンと一緒によくデジタルワールドに来ていた。だが、その中で大人の姿を見たことが無い。見かけるのはみんな、同じ年頃の子供だけだった。
「大人でもデジタルワールドに来られるわよー。ただ大人の場合、制限がある。デジタルワールド観測所で、こんな用件且つ、仕事でデジタルワールドに行くよって、デジモン側のお偉いさんにお知らせして、許可が得られたら」
個人的にその手続きがめっちゃめんどいから省略したいんだけどね、とぼやきも付け加えて教えてくれる。俺に対して警戒心がなくなったのか、なんか口調が徐々にフランクな感じになってる気がする。まあ、俺もその方が話しやすいから助かる。
「僕はそのデジタルワールド観測所の人間でね。それこそ元・パートナーデジモンっぽい子がすんげぇ暴れてるらしいから、様子を見てきてくれって言われてさ」
「へえ~」
「そうそう、たっつん、こんな子知らないかな? 今回騒動を起こしてる子らしいんだけど」
そう言ってユキムラさんはスクリーンを表示させた。先ほどとは違い、見やすい正方形の映像だ。ユキムラさんの言う、今回の騒動を起こしたっていうデジモンの姿が映し出される。
そのデジモンは翼竜っぽい姿をしていた。頭から伸びる角を始め、翼の先や手足の爪、尻尾という至る場所が熱を帯びて光っている。
そして何より、一番目を引いたのは――全身くまなく覆われた〝黒い〟鱗。
「名前は『ラヴォガリータモン』。岩竜型のウィルス種。レベルはⅤ――完全体だ」
「完全体!?」
ユキムラさんの言葉に俺は思わず驚いて立ち上がった。
「ありえない! 別れるまで〝アイツ〟は成熟期までしか進化出来なかった――」
そこで、ハッと慌てて口を噤む。
ユキムラさんは表情一つ変えず、静かに俺を見つめていた。まるで俺の言葉の続きを待っているように。
俺は答えるのを躊躇った。色々と、思考が追いつかない。
だって、ユキムラさんはさっき騒動を起こしたデジモンだって言ってて……。なんだよ、これ……どういうことだよ……。
「……そいつは……」
残りの一言を口にするのが、こわい。教えたら〝アイツ〟はどうなる? 排除されるのか?
「――大丈夫だ」
厳かだけど静かな声がした。ハッと視線を上げれば、ドラコモンが俺を見ている。
「私もユキムラも、このデジモンをどうこうしようとは思っていない。ただ奴らよりも早く、保護という形をとらねばならんだけだ」
保護という言葉に安心しつつ、しかし俺は眉をひそめた。
「奴ら?」
「ドラコモン、その話は――」
ユキムラさんの言葉を遮るように、地鳴りと共に地面が揺れ始めた。最初はゆっくりだった揺れが次第に激しくなっていく。周りの木々が互いに激しくぶつかり合う。
「じ、地震……!?」
デジタルワールドで!?
人間世界と勝手が違うとはいえ、俺は咄嗟に頭を守るために身を屈めた。その時、俺の足元が盛り上がった。
「えっ!?」
地震で地割れが起きたのかと思ったが違う! 隆起した地面から覗いたのは奈落なんかじゃなかった!
溶岩が固まったみたいに固い鱗が視界いっぱいに広がった。炎のように熱を帯びた鱗が光っている。そいつの体から噴き出る粉塵が舞い上がって、容赦なく目に入る。俺は痛みで目を閉じた。
地中から飛び出してきた奴の背中にしがみついて、一緒に空へと上昇する。
「たっつん!!」
ユキムラさんの声が下から聞こえてきた。
薄く目を開けると、彼とドラコモンの姿が小さくなって見える。
「ラヴォガリータモン!」
ユキムラさんが、俺がしがみついているデジモンの名前を口にした。
ラヴォガリータモン――間違いじゃなければ〝アイツ〟だ。
デジモンの進化は個体によっては全く面影がない奴もいるけど、お前の姿は昔から変わらない。
安心した気持ちよりも、疑問と不安が募る。
わからないんだ。俺と別れたあと、お前になにがあったっていうんだ! なあ、教えてくれよ――!
「ヴォーボモンッ!」
2
『やっぱ背中に乗れるっていいよなー』
『ヴォア?』
『ラヴォーボモンの背中、すっげぇ砂ぼこりって言うか、塵吐くから乗れないだろ? それに足短いからガルルモンほど速く走れないし』
『それ、成熟期だから! もっと進化すればワーだって、タツマを乗せられるし!』
『えー、そうかー? もっとゴツくなるんじゃねえの?』
『……それはそれでワー好み! 目指せ、インペリアルドラモン!』
『めっちゃゴツいじゃねえか』
『ワーがインペリアルドラモンになったら、特別に背中に乗せたげる! 感謝しろし、タツマ』
『お、言ったなー。頼みにしてるからな! 絶対に背中に乗せてくれよ!』
『ワー、約束を破らないから安心しろし!』
◇
「ヴォーボモンッ!」
今はラヴォガリータモンという姿であることは解っちゃいたが、俺は成長期の時の名前を呼び続けた。
「ヴォーボモン、俺だ、辰真だ! 覚えてるか!?」
振り落とされないように背中にしがみつきながら叫ぶ。
顔が俺の方を向く。炎みたいに赤く発光している目と目が合った。これじゃあ、自我があるかどうか分からない。
もう一度名前を呼びかけようと、口を開いたその時。
「タ……ツ、マ……?」
相手の口から、はっきりとそう聞こえた。進化した姿だからか、声は幾分低いが忘れもしない!
俺は嬉々として表情を綻ばせた。
「そうだ! 俺だ、辰真だ!」
「グゥウウ……ッ」
嬉しそうにしている俺とは対照的に、向こうは苦しみ出した。
「ど、どうした!? どっか痛いのか!?」
「ガアッアアアアアァァァァッ!!」
一際大きく吠えて、そいつは急降下し始めた!
うおおぉぉ!? スピードがさっきとは段違い! もはやジェットコースター並みだ!
必死にしがみついてても、シートベルトがついてないアトラクションなんて簡単に振り落とされる!
「っ!」
子供の小さな手じゃ、長く捕まることなんて出来ないのは当たり前で。
加えて次第に高くなっていく鱗の熱に耐えられず、俺は手を離してしまった。
見る見るうちにアイツとの距離が開いていく。
俺は、せめて落下先が柔らかい場所であることを祈って目をきつく閉じた。
数秒後に訪れた背中の衝撃に、ぐっ、と呻き声を上げる。思ったよりも早く訪れた衝撃は、だが想像していたものより強くなかった。それに落下というより、抱き留められたような感覚がする。
「ニンゲンの子供? 何故このような場所に?」
頭上から聞こえてきた声は、ユキムラさんでもドラコモンの声でもない。
俺はすぐに目を開けて現状を確認する。俺を抱き留めてくれたのは騎士っぽい雰囲気を持つ人型デジモン。
「え、えーと、どちら様ですか……?」
「………………」
騎士っぽいデジモンは俺の質問に答えず、視線だけをアイツに向けた。俺も慌ててアイツの様子を見た。
黒い体が翻る。炎みたいな目が俺を捉えた。
「タツ、マ……」
ゴウ――ッ! 炎が渦を巻いてラヴォガリータモンの体を包み込む。炎の向こう側で、うっすらと影が浮かび上がったのが見えた。翼竜の姿はそのままに、シルエットが更に大きく変わっていく。
そのシルエットには見覚えがあった。学校で見たやつと同じだ。偶然だというには似すぎている。
「進化、する……」
俺の言葉に呼応するように炎が霧散する。
現れたそいつは、先ほどより強靭な体と巨大な翼と巨躯を持っていた。
騎士っぽいデジモンが舌を打つ。
「ついに究極体まで進化したか!」
騎士デジモンの声を聞くや否や、ラヴォガリータモンだったデジモンが鋭く俺達を見る。細い瞳孔を持つ目が、まるで肉食獣みたいな雰囲気を醸し出していた。
(食われる――!?)
俺が体を強張らせていると、騎士デジモンは庇うように俺を抱きすくめた。
次の瞬間、ラヴォガリータモンだったデジモンの長い尻尾が俺達を薙ぎ払う。俺達はなす術もなく、吹き飛ばされた。
「グオオォォォ――――!!」
咆哮が聞こえる。
何故か俺には、その声がひどく悲しそうな声に聞こえた。
ヴォーボモン……どうしちまったんだよ、お前……。
次々と巻き起こる出来事をただ唖然と傍観しながら、俺の思考は一度そこで止まった。
◇
「――起きよ、タツマ、タツマよ」
ペチペチと頬を叩かれて、俺は薄く目を開けた。見慣れた小竜のシルエットが目に映る。
「ヴォー……ボ、モン……」
「よく見よタツマ。私はそなたのパートナーではない」
申し訳なさそうな声で言われ、ぼんやりとした輪郭が次第にはっきりと見える。シルエットは見慣れているのに、相手の全身を覆う鱗の色は望んでいた黒ではない。
「ドラコモン……俺、は……」
「ヴォルケニックドラモンに吹き飛ばされたらしい」
「ヴォルケニックドラモン……」
「進化した、そなたのパートナーだ」
頭の奥から、あの悲しそうな咆哮が聞こえた気がした。
横たわっていたらしい俺は、ゆっくりと起き上がる。手元でガサッと音がした。見れば大量の葉っぱを丁寧に敷いた即席の布団が目に入った。そこで寝かされていたらしい。
「これ、ドラコモンが?」
「いささか不格好ではあるが、そのまま地べたに寝かせる訳にもいかなくてな」
「ありがとう。おかげで体を痛めずに済んだよ」
「ほかに痛みを感じる場所はあるか?」
軽めに手足を動かしてチェックする。特に何処か痛みを感じる場所はなさそうだ。そう伝えると、安心したように「そうか」と呟くドラコモン。
「ユキムラよ、タツマが起きたぞ」
ドラコモンが背の高い木々に向かって、そう話しかける。するとユキムラさんが、あの騎士っぽいデジモンを引き連れて姿を現した。
「おはよう、たっつん。ケガはないかしらー?」
「大丈夫です」
ユキムラさんの後ろにいる騎士っぽいデジモンが気になりつつも、俺は答えた。
「ドラコモンが作ってくれた即席の布団のおかげで、体も痛めずに済んでます」
「それは良かった」
「あの、後ろのデジモンは――」
「ああ、やっぱり気になるわよねぇ、このコ」
ユキムラさんの親指が騎士っぽいデジモンを指し示す。
話題の矛先が自分に向けられたとしても、騎士っぽいデジモンは微動だにせず、腕組みをして仁王立ちの如く立っていた。肝っ玉が据わっているというか、貫禄が凄い……。
俺はたぶん、お決まりな言葉が返ってくることを予想しながら礼を言った。
「あの、さっきは助けてくれて、ありがとうございます」
「結果的にそうなっただけで、助けた訳ではない」
思った通りの返事が返ってきた。本当にそんなセリフを口にする存在がいるんだなと思いながら頭を上げる。
騎士っぽいデジモンが真剣な目で、俺を見据えていた。
「お前はあのデジモンのテイマーなのだろう? ならば、あの場でケガを負わせる訳にもいかなかった。自分のせいでテイマーがケガを負ったとなれば、あのデジモンの暴走は更に加速するばかりだ」
「そーう? 本音としてはヴォルケニックドラモンの暴走を止められるかもしれないって思って助けたんじゃなーい? 実際、起きるまでこうして待っててくれてんじゃないのよ。堅実さと引き換えに、素直さもどっかに落としてきたの、ドゥフトモン?」
「ユキムラ……ッ」
騎士っぽいデジモンは『ドゥフトモン』と言うらしい。ユキムラさんが口を挟めば、獅子っぽい人相の目が睨むように見る。なんだかこの二人(正確には一人と一体)は顔見知りのようだ。
「どっちにしろ、究極体まで進化した以上、単体で止めるには骨が折れんじゃない? 共同戦線と行こうじゃないの、ドゥフトモン。それこそ、こっちにはヴォルケニックドラモンのテイマーがいるんだし。効果はあるんじゃない?」
するとドゥフトモンの表情が険しくなった。
「貴様ッ……! このような小さな子供を使えというのか……っ!?」
「いや、俺、こう見えも17さ――」
17歳だという言葉は、しかしユキムラさんが俺の口を手で塞いだ事で言えなかった。
「お前の上司は有名な人間アンチじゃん。なら、ここで人間とデジモンの築いたものを見せないでどうすんのよ」
ドゥフトモンが何かに気づいたように、ピクッと反応を示す。
「なるほど、それが貴様の目的か、ユキムラ」
「口で言ってわからねぇなら、現物見せた方が説得力あるでしょーよ」
「貴様にしては、まともな正論だな」
「あら褒めてくれるの? ありがとドゥフトモン」
「事実を述べただけだ。まったく、全然、これっぽっちも、褒めてはおらんが?」
そう言って、そっぽを向くドゥフトモン。心なしか、さきほどと違って口調が少し柔らかいような気がするんだが……?
「さて、たっつん」
ゆっくりと手を離し、ユキムラさんは俺と向き合う。
「現状を把握するだけで精一杯だと思うし、唐突でマジ申し訳ないんだけど、僕達には今たっつんの力が必要なワケなのよ。たっつんとしても自分のパートナーの暴走、どうせなら自分の手で止めたいじゃない?」
確かにそうだと俺も思う。
事情は、まだまだ全然呑み込めないし、なんで成熟期までしか進化しなかったアイツが完全体――さっきは究極体にまで進化出来たのかも分からない。なんで、暴走してるのかも。
俺はドゥフトモンを見た。同時に思い出したことがある。
ドゥフトモンとユキムラさんは知り合いのようだった。だがユキムラさんが「共同戦線」と口にしたということは、この二人は相対する立場なんだろうと推測出来る。
それにヴォルケニックドラモン――もとい、ラヴォガリータモンが現れる前に、ドラコモンはこんな事を言っていた。
『奴らよりも早く、保護という形をとらねばならんだけだ』
〝奴ら〟と指すのがドゥフトモンなら、話は繋がる。
「……確認なんですけど、ユキムラさんとドラコモンはアイツをどうこうしようっていうつもりは、ないんですよね?」
保護という言葉だけで今日知り合った人を信じられるほど、俺は純粋ではない。疑い深いと思われようが、再三聞いておかねば安心するなんて出来ないんだ。
「ほう……子供にしては、なかなか頭が回るものだな」
何故かドラコモンではなく、ドゥフトモンから鋭い視線が飛んできた。それを手で制するユキムラさん。
「まあ、そうよね、口約束ほど信ぴょう性が無いものなんてないしー。だから、たっつんにはコレ預けておくね」
そう言ってユキムラさんは懐から、ある物を取り出して俺に渡す。妙に手に馴染むそれを見た途端、俺はくっと目を剥いた。
「デジヴァイス……!?」
「――の改良版。それはヴォルケニックドラモンの成長期・ヴォーボモンが持っていたやつを改良したから、実質きみのデジヴァイスだ。……申し訳ないねぇ、回収したきみのデジヴァイスを、勝手に改良して……」
「ユキムラ、それは秘匿ではないのか!?」
ドラコモンが慌てて声を上げる。思わず俺も驚いてユキムラさんを見た。
「いーのいーの。あのデジモン止めるのに、一々メンツなんて気にしてられないわよ」
「しかし、それではお前の評価にも響くだろう……!」
「折角、テイマーくん自ら果敢に止めに行こうとしてんのに、僕ら大人が協力渋ってどーすんの。メンツ気にして協力渋った挙句に信用まで失うなんていうコンボ、嫌だよ僕」
ドラコモンの語気が強くなる一方で、ユキムラさんは変わらず剽軽な態度のまま反論する。ドラコモンの眉間に少し深い皺が寄った。
「……このデジヴァイス、改良したって言ってましたね? なにが出来るんですか?」
「元々デジヴァイスにはパートナーデジモンの育成に必要なプログラムが一通り揃ってる。改良版はそれに加えて幾つかの捕縛用トラップデータと〝強制退化〟のプログラムを加えた。ただ、あくまでも試作品で、あそこまで暴走したデジモンも、今回が初めてだから、効果の有無は正直分からない」
返ってきた説明を聞きつつ、俺はまじまじとデジヴァイスを眺める。
一見は普通のデジヴァイスだ。腕時計のように手首にはめられるデザインをしている。長方形の画面には、いつもならパートナーの状態を教えてくれるデータが表示されるはずだった。
「……ユキムラさんは、どうしてデジヴァイスを俺に渡したんですか? 秘匿なんでしょう?」
ユキムラさんは一瞬、面を食らったような顔を浮かべた。すぐに何食わぬ顔で答える。
「秘匿であったとしても、それをきみに渡したことで僕は自分のクビが飛ぼうが何されようが別にイイよ。きみらパートナーの為になれるなら、僕のクビなんて安いもんさ。それに自分のパートナーを、知らない奴がとっ捕まえるより、自分で止めた方が良いでしょう?」
そう言ってユキムラさんは朗らかに、笑った。
その時、俺は確信した。――この人は大丈夫だ。決して上辺だけの善意で、俺に協力している訳じゃない。パートナー達の事を想って、動いてくれている。
俺はデジヴァイスを両手で握り締めた。
「俺は、ヴォーボモンの暴走を止めたいです。そして、もう一度アイツと話したい」
ユキムラさんは嬉しそうに笑ってくれた。
ドラコモンが驚いたように目を見開く。
ドゥフトモンも口元は獣を模した鎧に覆われて見えないが、安心したように息を吐いた気がする。
「僕らが分かっている情報は、全部共有しておくね。移動しながらで大丈夫?」
「それはいいですけど、移動するってどこに? アイツがいる場所、どこか心当たりでも?」
ハハハ、と乾いた笑みを浮かべるユキムラさん。
「問題はそこよねー。正直言うと全く見当がつかないのよ。たっつん、よく一緒に行ってた場所とかある? 暴走してても本能的にパートナーと一緒に過ごした場所に行ってるんじゃないかと、僕は思ってね」
「そうですねぇ……よく行く場所は、それこそ観測所側が提供してくれた範囲でしか行ったことないですし」
「となると、北部になるわねー。ここは南部エリアだから、場所的にめっちゃ真逆。ココから徒歩でってなると、フツーに一週間ぐらいかかりそうよ。どっか近場の駅に出られたら、トレイルモン辺りに乗れるんだけどねぇ」
「……タツマと言ったな、その想い出の場所とやらは複数あるのか? 特によく行っていた場所でも構わんのだが……」
ドゥフトモンからの突然の質問に、俺は戸惑いながらも答える。
「よく行ってたのは、湖があるキャンプ場です。ちょっと森を抜けたら、すぐ平原だったんで、サッカーの練習には丁度いいし、グランピングタイプのキャンプ場だったから、寝泊りにも便利で……」
「湖のあるキャンプ場……? もしかして、あそこか!」
ユキムラさんがなにかに気づいたように声を弾ませた。
「でも、どっちにしろ、北部エリアですよ?」
「いや、実はね、北部エリアを統治してるデジモンが、東西南北それぞれの名所となってる場所をそのままコピーして北部エリアに点在させてんのよー。で、南部エリアは湖が名所だから、そこをキャンプ場にしてるってワケ」
「コピーってことは、そっくりそのままで?」
「キャンプ場はさすがに設置されてないけど、事情を知らなきゃ騙されるレベルではあるね」
「じゃあ、次にヴォルケニックドラモンが向かった先は……!」
言いながら俺の声も、嬉しさに弾んでいた。
俺の言葉に続くように、ドゥフトモンが目的地を口にする。
「――南部エリアの名所・レイクタウンだ」
3
『タツマ! コレ、あげる!』
『え、なに急に? おやつかなんかの交渉かー?』
『違うし! ワーからの誕生日プレゼントだし! 感謝しろし!』
『ヴォーボモンから?』
『タツマは今年で小学六年生だから、十二歳になるんでしょ?』
『なるけど、誕生日プレゼントってフツー、誕生日に渡すもんじゃないのか?』
『あ、そっか! なら誕生日の時に、また渡すし! 返せし!』
『おいおい。折角貰ったもの返せってムリだろ。ヴォーボモンも、渡す時間違えたからって言われて、お菓子返せるか?』
『むむー。それはー……ムリだし……』
『じゃあ、今開けたっていいだろ? ってか開ける。問答無用で開ける。中めっちゃ気になるし』
『ふ、ふふん! ワーの技術にビックリしろし!』
『――これ、ミサンガ?』
『そうだし! どうだし、ワーにしてはよく出来てるし!』
『ちょっと不格好だけど、……ヴォーボモンの手じゃ、当たり前だよなぁ』
『タツマが作るヤツより、ワーの方が立派だしー』
『お、なんだケンカか? サッカーでケリつけるか?』
『受けて立つし!』
◇
「――ブロッカーデ!」
獣姿のドゥフトモンが、素早い身のこなしでヴォルケニックドラモンに斬りかかる。
不意打ちともいえる攻撃に、ヴォルケニックドラモンの反応は遅れた。数ヵ所ほど攻撃を受けたようで、厳つい顔をしかめて吠える。
獣型になっていたドゥフトモン(ユキムラさん曰く、レオパルドモード)に乗って、俺達はレイクタウンまで一気に走り抜けてきた。
ユキムラさんの言う通り、その場所は俺達がよく通っていたキャンプ場そのままだった。そして案の定、ヴォルケニックドラモンはそこにいた。何かを懐かしむように湖の上に漂っていたところを、ドゥフトモンが攻撃を仕掛けたのだ。
彼から降りて、戦いの被害が被らない範囲で俺はユキムラさんから改良版デジヴァイスの操作を教わる。
粗方の説明を受け、言われた通りに操作をする。
ヴォルケニックドラモンが空高く羽ばたくのが見えた。距離を取るというより、逃亡に見えた。
「ヴォーボモンッ!」
俺は必死に呼びかけた。
爬虫類特有の目が、俺を見つめる。
「……タツ、マ……」
ヴォルケニックドラモンの動きが止まる。その一瞬の隙を逃さぬように、俺は罠を展開した。
ヴォルケニックドラモンの四方を格子状の光が走り、取り囲む。翼と尻尾ははみ出てしまったが、そうする事で同時に動きを封じる枷の役目も担っている。
「グアオォォォォッ!!」
当然ながらヴォルケニックドラモンは暴れた。しかし翼を羽ばたこうにも、粒子が絡まって動かないようだった。尻尾も同じく。
俺の隣でユキムラさんが「よしっ」と声を上げた。
「あとは強制的に退化させてしまえば――!」
その時、ヴォルケニックドラモンの体から凄い勢いで炎が舞い上がった。
「ガアアァァアアアアアアッッ!!」
咆哮に合わせて火炎が翼と尻尾に絡み、纏う。すると次の瞬間、翼が大きく羽ばたいたと同時に檻が壊れた。
「おいおいマジか!」とユキムラさんが驚く。
ヴォーボモン……! なにがお前をそうさせてるんだ……!?
俺の疑問に答えるようにデジヴァイスが独りでに反応する。画面に表示されているのはヴォルケニックドラモンのパラメーターだ。
数字はあくまでも目安程度だが、テイマーはこれでパートナーの体を気遣う。
その中で体力は百パーセントで表示される。これで相手の体力も把握できる――と思っていた。
「なんだ、これは……っ!?」
数字がバクっていて、上手く読み取れない。デジタル表記であることも相まって数字が逆さだったり、変なところで途切れたりしている。
「…………?」
俺は妙な違和感を覚えて表示されているそれをよく見る。目の錯覚かもしれないが徐々に文字に見えなくもない。
「H、E、L、P……」
〝助けて〟……?
次いでエラーの文字が表れ、次に表示された文字列に目を通す。
『複数ノ感情ヲ確認中。感情処理……エラー』
俺は弾かれたようにヴォルケニックドラモンを見た。
確証はないが暴走した原因が分かった!
「ヴォーボモン、お前は――!」
「グオオオオ!!」
まるで俺の言葉など聞きたくないように吼えるヴォルケニックドラモン。それだけではなく、こちらに向かって突進してきた! 鋭い牙が並んだ口内が見える――!
俺たちの前に一つの影が飛び出す。ドゥフトモンだ。俺の襟元を咥えると、背に乗せてその場から高く飛んだ。その下でヴォルケニックドラモンが虚空を噛みしめる。
「なんでユキムラさんじゃなく、俺を!?」
「幼い子供より優先される存在などいない。それに、アイツなら心配するだけ野暮だ」
そう言って顎で下をしゃくるドゥフトモン。促されるまま下を見れば彼の言うとおり、ユキムラさんは難なくヴォルケニックドラモンの噛みつきを避けていた。ドラコモンを小脇に抱えながら。
運動をしていると目が鍛えられる。特に身体能力が高い人は見分けられるようになった。
ユキムラさんの軽快な身のこなしは、培われた経験がそのまま表れている。しかも球技よりも陸上寄りの動きだ。
「つくづく思うけど、あの人何者なんだ!?」
「観測所のニンゲンだと、奴自身も言っていただろう?」
「観測所の人って、やっぱり体力無いとダメなのか!?」
「やっぱり……?」
ドゥフトモンが胡乱気に聞き返す。しかし、その疑問に答える間もなく、ヴォルケニックドラモンは俺達に狙いを定めてきた。
「ヴォーボモン!」
進化先の名前を叫んだって、アイツにきっと届きやしない。
俺は諦めずに、ずっと一緒にいた成長期の名前を口にする。
ドゥフトモンが空中を蹴って相手の尻尾や炎を避けていく。ヴォルケニックドラモンの周りをぐるぐる回るように飛行し、相手の隙を伺うような動きをする。
メリーゴーランド状態に少し酔う。三半規管も子供並みかと毒づいた瞬間――!
ヴォルケニックドラモンの口から炎が放射される!
「ブロッ――!」
ドゥフトモンが前脚の爪を構えて上体を起こした。その拍子に、不意を突かれた俺は思わず手を離してしまった!
あ、と我ながら間の抜けた声が零れる。
その声を聞いたドゥフトモンが慌てて俺を振り返る。
「しまった!」
急いで俺の元に駆けつけようとするも、ヴォルケニックドラモンが放った炎がそれを邪魔する。
湖に落ちる直前、ヴォルケニックドラモンの目が大きく見開かれたように見えた。そうであって欲しいという俺の願望だったのかもしれない。
成す術もなく、水中を漂う。
水面越しに大きな影が見える。ドゥフトモンかと思ったら、その影はあまりにも大きかった。――まさか。
俺は瞠目した。
小さく開いた口から空気と共に、言葉が零れる。
「ヴォー……ボ、モン……」
湖の中に大きな影が入り込む。
見慣れた黒い鱗で覆われた翼で俺を包み込む。獰猛さが増した顔が心配そうに、こちらを見つめると鼻先を近づけて――きゅう、と一声鳴く。
次の瞬間、ヴォルケニックドラモンから眩い光が放たれた。
◇
『――……っ』
泣き声が聞こえる。
赤ん坊みたいな泣き声。
俺に兄弟はいないけど、同じくらい一緒に同じ時間を過ごしていた存在はいた。そっと手首に巻いてあるミサンガに触れる。
「ヴォーボモン……」
俺は暗闇の中でアイツの名前を呼ぶ。返ってくる反応も無いと思っていたのに、一つの灯火がぽつん、と突然現れた。
最初は陽炎のように揺らいでいた灯火がみるみるうちに形を変え、次第に見知った姿になっていく。
『ひっく……えぐ……、っ……』
俺に背を向けて、そいつは――ヴォーボモンは泣いていた。手である翼で顔を覆い、体は小さく震えている。
「やっと会えたな」
ヴォーボモンは肩を震わせた。ゆっくりと、こちらを振り向く。
『タ、ツマ……?』
「ああ、俺だ」
『タツマ!』
嬉しそうに顔を綻ばせて、真っ先に俺に飛びつく。俺は反射的に抱き留めた。その時、自分の姿がもとに戻っていることに気づいた。
『タツマ、たつまぁ! 会いたかったあ! 来るのが遅いし!』
「仕方がないだろ。パートナー解消後はなかなか会えないのは知ってるだろう?」
『知ってるけど、知らないし! だって約束したのは、タツマの方だし!』
ヴォーボモンは強くそんな事を言うが、涙声のままでは説得力がない。鼻もずびずびいってるし。
「そうだな。約束したのは俺だ。あの時、お前と別れてから、また会う為に色々と考えてたんだしな」
俺の未来予想図では、再会まであと五年ほどかかるはずだったんだが……。
「ヴォーボモンこそ、俺と別れたあと、なにかあったのか? 悪いデジモンに意地悪でも言われたのか?」
幼稚な理由過ぎて、それは無いだろうと自分でも思う。しかし馬鹿には出来ない根拠もある。デジモンは無垢であるが故に、善悪の物差しが人間より曖昧だ。
『ワー、強いから意地悪なんてされてないし』
ぷいっとそっぽを向くヴォーボモン。自分の強さを低く見られたと思ったらしい。
俺は「違う、そうじゃない」とすぐさま首を振った。
「お前の強さを疑ってる訳じゃない。お前が暴れてた理由を知りたいんだ」
原因と考えられるのはデジヴァイスに表示されていた文字列。実際それを見たユキムラさんは納得していた様子だったし。
「ヴォーボモン」
呼びかけると、ヴォーボモンは更に俺の首に強くしがみついて顔を見せようとはしない。
『ワーにも、わかんないし……』
ポツリと呟かれた声に、いつもの覇気はなかった。弱々しい口調のままヴォーボモンは続ける。
『最初はタツマと約束したから、ちゃんと待ってたし。でも、いつまで待っていいか、段々分からなくなって……そう思ったら、悲しくなってきて……!』
声に嗚咽が混じり始めた。
『悲しいと思ったら、今度は理不尽さに怒って……一通り怒ったら、今度はなんか悔しくって……! 気づいたら、色んな感情で頭いっぱいになってた……! でも心の中は、ぽっかり穴が空いたままだし……!』
だんだんと俺の服を握りしめる力が強くなる。地味に爪が皮膚に食い込んで痛いが、なんとか耐える。
『ぐすっ……! 頭の中ぐちゃぐちゃしてて、気持ち的にはずーっと気持ち悪いままだったんだし!』
――ああ、そうか。
ヴォーボモンの背中を優しく撫で、俺は目を伏せた。
言いたいことも、思うことも色々とあった。
寂しい思いをしてるのは俺も一緒だとか。折角再会してもお前が暴れてるから素直に喜べないとか。ユキムラさんの話を知った今じゃ、パートナーと別れさせるの早すぎないかとか。
口にしたのは、そのどれでも無かった。
「泣くならいいぞ。ここには、俺しかいないんだし」
『なんか、ワーの知ってるタツマよりおっきくなった分、大人ぶってるし。ムカつくし……』
「そのムカつきも、俺が受け止めてやるよ。その代わり、俺の言い分も聞いてくれよ? それでお互い様ってことで、いいだろう?」
『ん、それなら、いいし。タツマの愚痴、聞いてあげられるのはワーだけだし』
すっかり昔の調子に戻ってきたヴォーボモンを見て、俺は小さく笑った。
◇
ふと目を開ければ目に入ったのは水中の光景ではなかった。同じ青でも済んだ青空が見える。
背中越しに感じる地面の感触。今回はさすがに火急だったからか、ドラコモン特性の葉っぱの布団はなかった。
「お、たっつん、おはよー」
傍らにいたユキムラさんが片膝で頬杖をつきつつ、俺を見下ろしていた。
「ユキ、ムラ……さん」
「とりあえず任務完了ってことで、お疲れさん。そして、おめでとう」
言われて俺はハッと自分の胸元を見た。
見覚えのある小竜が、すやすやと寝息を立てて眠っていた。昔と変わらない寝顔に、ほっと安堵する。
「ヴォルケニックドラモンは退化したし、脅威も去ったワケで。お前はどうする、ドゥフトモン? お前の仕事は僕らとは逆。このデジモンの初期化、もしくは消去だ」
バタバタしていたから、すっかり忘れていた。
そこで改めてドゥフトモンの任務の内容を知った俺はヴォーボモンを守るように、小さな体を抱きしめた。夢みたいな所では元の姿に戻っていたというのに、ここではまた小学生の姿のままになっていた。くっ、もどかしい……!
ドゥフトモンは俺とヴォーボモンをしばらく黙って見つめ、――目を閉じた。
「そのデジモンは、既に大人しくなっているのだろう? 退化した時点で初期化、および消去する必要がなくなった」
その言葉に俺は強張らせていた体から、ゆっくりと力を抜いた。
「いやー、良かった良かった」
軽く拍手をするユキムラさん。
その時、湖の中央に灯火が一つ音も無く現れた。気づいた俺が声を上げると、ユキムラさんもドゥフトモンもそれに注目する。
灯火は前後に数を増やしていく。一列になると、ゆらゆらと波を打つように動いたかと思えば、やがて縦横無尽に動き出した。
数秒と経たない内に、定位置におさまった灯火はピタリと止まる。図形というよりは何かの文様を描いたような配置だ。
すると数多の灯火は水面から浮上し、宙に漂う。それから星座のように線が浮かび上がった。描かれた線から導かれた姿がゆっくりと立体感を得て、顕現する。
それは幾重もの翼を持つ、朱い鳥だった。
4
『ひーまー』
彼は暇潰し程度に、スクリーンに表示されている文字列を流し読みしていた。
ふと一つの書き込みに目が留まる。咄嗟にスクロールしてしまい、慌てて戻す。
『〝別れたパートナーデジモンと、今度はビジネスパートナーとして一緒に働けたら嬉しいのに〟……ふーん。まあ、新しい方針展開ではあるかしらね』
だいぶ昔に起きた「大量失踪事件」を機に、デジタルワールド側はパートナー関係に年齢制限を設けた。人間側もどう対処していいか分からなかったこともあり、その提案を呑むほか無かった。
人間も大概自分勝手だが、向こうから勝手にやってきたくせに、いざ悪者にされた途端、掌を返すのはどうなんだ。見方次第では責任転嫁や育児放棄とも捉えられる。
『これを唱えてる子が、無自覚激重感情の持ち主じゃないことを祈るけど……』
デジモンを都合の良いモノとして見ている人間は少なくない。しかも無自覚であるパターンが多いので、余計にタチが悪い。
『そう考えたら、それを取り締まる組織があってもいいかもね』
ニヤと笑い、スクリーンの端に表示されている電話のアイコンに触れる。プルルル……と馴染み深い音が鳴る。すると、すぐに「はい」と応答する声が返ってきた。
『あーもしもし? 今まで暇を持て余していたユキムラでーす。えー何の用で連絡したのかってー? いやあ、なかなか面白そうな話を聞いてねぇ。そちらの意見もぜひお聞きしたいな、と。という訳で〝青龍殿〟と代わってくれる?』
◇
全身に炎を纏ったその鳥が現れた途端、周囲の温度が上がった気がする。
俺は滲み出る汗を拭った。
嘴を模した顔から、四つの目が俺を捉える。瞬間、今までに感じたことがないプレッシャーで体が動かなくなった。金縛りに近い感覚だ。
ほう、としゃがれた老人みたいな声が聞こえてくる。
「顔色一つ変えぬか。――否、変えられる余裕も無し、か」
四つの視線が俺から外れて、傍にいるドゥフトモンに移る。
「ドゥフトモンよ、何をしておる? よもや己が境遇と重ね、同情心でも芽生えたか?」
俺は視界の端でドゥフトモンを見た。ユキムラさんとの接し方や俺がヴォーボモンを止めたいと言った時に見せた反応から、ドゥフトモンもそうであることはなんとなく察しがついた。そのパートナーが誰なのかも。
ドゥフトモンは静かに答えた。
「いえ、スーツェーモン殿。これ以上の仕打ちは、もはや断罪ではなく、ただの暴力と見えるでしょう。デジモン達の目もあります。そうなれば、貴方様への不満が募るだけです」
「くくっ、さすが頭も、口も回る奴よ。しかし、一度ヒトに毒された我が同輩を、そのまま無罪放免というのも、少々虫が過ぎる。そうは思わんか?」
スーツェーモンと呼ばれた鳥型デジモンの周りを炎が渦巻く。ヴォルケニックドニモンは火山のように少し暗い赤色の炎だった。スーツェーモンの炎は明るい色をしていた。容赦なく空気を燃やし、熱気と共にプレッシャーを与えてくる。
「タツマ……」
俺の胸元でヴォーボモンが動き出す。
「ヴォーボモン、起きたのか!」
「タツマ、逃げるし」
ヴォーボモンは俺の腕から抜け出すとスーツェーモンに向かって歩き出した。ただ暴走した反動なのか、足取りは覚束ない。
「ヴォーボモン、何を言って――!?」
「ワーが狙いなら、タツマ、悪くないし。先に迷惑かけたの、ワーだし……それに、ワーがタツマと別れたの、このデジモンのせいだし!」
ヴォーボモンが口走った真実に、俺は言葉を失った。このデジモンが、俺とヴォーボモンを別れさせた……?
たっつん、とユキムラさんが俺を呼びながら、親指で半ば乱暴にスーツェーモンを指した。
「朱雀殿――スーツェーモン殿こそ、パートナー解消制度を発足した張本人なんだよ」
「どうせ罰を受けるんだし――!」
言いながらヴォーボモンの体が光に包まれた。
「ここで一つ、罪を重ねたところで変わりない!」
一瞬にしてヴォルケニックドラモンに進化し、スーツェーモンの元へ飛翔する。口を大きく開けば、炎がスーツェーモンに向かって放射される。
「――愚かな」
炎がスーツェーモンを飲み込む――直前、炎は見えない壁に弾かれるように四方に散る。そのままヴォルケニックドラモンの方へと跳ね返っていった。
ヴォルケニックドラモンは炎に包まれながら落ちる。炎の中でシルエットが小さくなっていったのが見えた。
「ヴォーボモン!」
俺は慌ててヴォーボモンの元へと駆け寄る。思っていた通り、退化したヴォーボモンはぐったりと地面に倒れていた。鱗の隙間から白煙が上がっているのが見えたが、いても立ってもいられなかった俺はヴォーボモンを抱えた。服越しに伝わってきた熱が肌を刺す。
「炎を司る我に、同じ炎で挑むか、愚か者め」
冷酷な声が頭上から降り注ぐ。睨むようにスーツェーモンを見上げる。
「そこを退くが良い、ヒトの子よ。我がいかにヒト嫌いであるとはいえ、無差別に攻撃するほど愚かではない。だがパートナーの業を、己も背負うというのであれば、共に罰しても良いのだが……」
「――別に、構わない」
「なんと……?」
「別に構わない! 元はと言えば俺が約束を取り付けたのが原因だ! コイツがあそこまで苦しんでいた原因は俺にある!」
ヴォーボモンにまで背負わせない。俺も同罪なんだ。
だから、この痛みも罪も、喜んで受け止める!
「………………」
スーツェーモンは虚を突かれたように動かなくなった。数拍の間を置いて、ようやく「そうか」と言葉を発する。
「では、言葉通り、断罪を受けるが良い。安心せよ、ヒトとの協定が存在している以上、貴様の命までは取らぬわ。精々長い間、眠りにつくと良い。今回の出来事が、夢であったと思うぐらいにはな」
その言葉を聞いて、俺はヴォーボモンを強く抱きしめた。起きたあとも、その感触が現実であったと思い出せるように。
俺達の周りを炎が取り込む。そして――。
「そこまでだ、スーツェーモン」
俺とスーツェーモンの間に誰かが立ちはだかる。ヴォーボモンと同じくらいの体格に、背中には飾りみたいな小さな羽がある。全身を覆う鱗の色は――緑色。
「すまぬ、タツマよ。私はそなたの真意を疑っておった」
ドラコモンは軽く俺の方を振り向いて、もう一度すまぬ、と頭を下げる。
「そなたが真にパートナーを想う、良きニンゲンであることが分かった。そなたのパートナーであるヴォーボモンは、そなたのようなテイマーを持ち、なんという果報者か」
するとドコラモンの体が光に包まれた。小さかった体が次第に大きくなっていく。雷を帯びた長い胴体が、炎を消すように俺の周りをぐるりと囲む。
ドラコモンだった巨大な龍は持っていた宝玉をヴォーボモンの前に翳す。すると宝玉から生まれた淡い光がヴォーボモンの体を覆い、熱を宿していた体を冷やしていく。身じろぎをして間もなく、ヴォーボモンの目が開く。
「ヴォーボモン……!」
俺は嬉しそうに頬を綻ばせて、すぐに龍を見上げた。
「ほう、よもや貴様まで加担していとはな、チンロンモン」
俺が質問を投げかける前に、スーツェーモンの言葉が飛び掛かる。どうやらチンロンモンと呼ばれた龍型デジモンとは顔見知り――いや、同格のデジモンであるらしい。チンロンモンから感じる威圧感がスーツェーモンのものとほぼ一緒だ。
「そなたとて抱く思想は同じであろう、スーツェーモンよ。この者に僅かな希望を見出した。故に、タツマをこの世界に呼んだ。違うか?」
その言葉に俺は炎越しに見えたシルエットを思い出す。
翼を広げた竜のような影。ヴォルケニックドラモン――ヴォーボモンかと思って、俺は炎の中に飛び込んだ。
今思い返せば竜に見えていたのは、ただの俺の願望だったのかもしれない。スーツェーモンの影だと言われれば、妙にしっくりくる……。相手の属性も炎だし。
そこで俺は首を捻った。――ん? ということは?
「もしかして、高校が火事になったのは……」
「いや、それはただの事故だと思うよ」
ユキムラさんが手を左右に振って否定する。
「デジモンが意図的に人間世界に対して攻撃的な行動はしないよう約束されてるし。いくらヒト嫌いな朱雀殿でも、そこら辺の約束はちゃんと守れる堅気よ~。ただデジタルワールドと人間世界を行き来できる移動権限はスーツェーモン殿も持っているから、行使した際に少なからず影響が出て、結果火事になったっていう説が濃厚かしら?」
納得したと同時に疑問が浮上する。何故ヒト嫌いであるスーツェーモンが俺を呼んだのか。
その疑問に答えてくれたのはドゥフトモンだった。
「スーツェーモン殿は、ずっと探しておられたのだ。真にパートナーを想うテイマーを」
「ドゥフトモン……!」
スーツェーモンが鋭く睨むも、ドゥフトモンは構わず続けた。
「チンロンモン殿同様、ニンゲンとデジモンの関係性に終止符を打つべきかどうか、悩んでおられた。そこで飛び込んできたのがラヴォガリータモンの暴走だ」
俺の腕の中でヴォーボモンがビクッと反応する。申し訳なさそうに顔を伏せるヴォーボモンの頭を撫でつつ、俺はドゥフトモンの話を聞く。
「暴走したパートナーデジモンは今回が初めてではない。初期化、もしくは消去という処罰は、いつも通り行われる予定だった。しかし、チンロンモン殿とユキムラがラヴォガリータモン――ヴォーボモンの保護に打って出たという話を聞き、スーツェーモン殿は私には表向きの仕事を与え、裏ではテイマーであるお前を呼んだ。真にパートナーを想うのであれば暴走を止められるはずだと」
要は試したのだ、と締めくくり、ドゥフトモンは小さく肩を竦めた。
「更に言えば、移動権限を行使する際、移動先はご自身が守護するエリアになる。お前が観測所経由ではなく、単身でデジタルワールドに移動した事と、姿を現したのがこのエリアであることが何よりの証拠だ」
スーツェーモンはバツが悪そうに視線を外す。
「……今回もいつも通り、厳正な処罰を下し、それを見て終わるつもりだったわ」
ポツリと呟き始めるスーツェーモン。しかし、と視線だけで俺を見る。
「そこなテイマーが、妙なものを身につけておったのだ」
「は……?」
み、妙なもの……?
スーツェーモンは嘴で俺の手首を指す。昔、ヴォーボモンが俺の誕生日に作ってくれたミサンガが目に入る。
途端にヴォーボモンが驚きと恥ずかしさで声を上げた。
「ヴォアアアッ!? タタタタタツマ! まだつけてるし、ワーが作ったヤツ!」
「そりゃあ持ってるだろう? お前が折角作ってくれたヤツだし、俺の誕生日プレゼントなんだし」
「さっさと捨てろし! 今のワーなら、もっとキレーな形で作れるし!」
「え、嫌だけど? つーか、お前が作ってくれたコレのおかげで、俺は不安になりそうな時も頑張れたんだぞ?」
「――そうだ。それが、貴様を呼んだ理由だ」
スーツェーモンが改めて真っ直ぐ俺とヴォーボモンを見据える。
「ニンゲンとは、かくも薄情ぞ。あんなに大切だと宣いながら、時間と共に忘れていく。一度パートナーとして絆を築いたデジモンは、本能でそれを察するのだ。大切だと思っていた存在から、己の存在が少しずつ消えていく感覚をずっと感じ続ける。それを嘆いた結果、暴走する者は少なくない。だが、そやつは違った」
「タツマはワーのことを忘れてなんかいなかった。また会うっていう約束も、守ってくれた。でも、いつまで待てばいいか分からなくて、それが苦しくて……」
「今までと違う理由で暴走し、加えてそれを招いたのは外ならぬ、テイマー自身。果たすつもりのない約束を取り付けたというのであれば、ニンゲンとデジモンの関係性に終止符を打つ理由として使うつもりだった。だが、貴様の心には常にパートナーの存在があった」
ふっ、と目を細める。小さく笑ったように見えたのは気のせいか?
「――見事だ、テイマーよ。チンロンモンの言う通り、認めよう。真にパートナーを想うテイマーがいるということを」
俺とヴォーボモンは互いに顔を見合わせて笑顔を浮かべた。しかし、そのあとに続くスーツェーモンの言葉に再び表情を曇らせる。
「だが、デジタルワールドに猛威を振るった罪までは取り消せぬ」
そればかりはチロンモンも、ドゥフトモンも気まずそうに視線を逸らす。そんな中、チンロンモンが言った。
「タツマよ、ヴォーボモンを我々の元に暫く預けてもらいたい」
「……処罰の為、ですか?」
「いや、処罰は先ほどスーツェーモンが行ったであろう? 現にヴォーボモンは怪我を負い、そなたもその影響を受けた」
ヴォルケニックドラモンがスーツェーモンに返り討ちにされたことを思い返す。あれが処罰でいいのか……!?
案の定、スーツェーモンが「あのような些事が、処罰になるか!」と反論している。
「タツマを召喚したのは、そなたであることは明確であるぞ、スーツェーモン。無断且つ、利己的な理由での召喚は協定に反する行為ぞ。忘れた訳ではあるまい?」
チンロンモンからの直球な正論に、相手はぐっ、と言葉を詰まらせる。表情は解りづらいものの、渋面を浮かべていることだろう。そっぽを向いてしまい、そのまま押し黙る。
「しかし、ヴォーボモンには暫く観測所の監視が付くこととなろう」
「チンロンモン、俺とヴォーボモンが会えるのは、これで最後か?」
俺が何より気にしなければならないことは、その一つだ。
今回は色々とイレギュラーが重なって予想以上に早い再会が出来た。それがもう一度出来るとは考えにくい。
例え今回が最後だとしても、俺は夢を諦めるつもりはない。
ヴォーボモンと別れたあの時から、ずっと胸に抱き続けていた夢。今は、それを叶えようとしている下準備中なんだ。
「わからぬ。そう厳しく取り締まられる事もなかろう。……デジモンにとっての時間が、ニンゲンが感じるものと同じとは限らんが……」
一緒に過ごしているからつい忘れがちだがデジモンの時間という感覚が、人間が感じているモノとは微妙に違う。彼らにとっては一年も十年も大して変わらない。
俺はヴォーボモンを持ち上げようとして、たたらを踏む。ユキムラさんが俺の背中を支えてくれた。改めてヴォーボモンの脇に手を回して持ち上げる。
「タツマ……」
「ヴォーボモン、また進化出来るか?」
俺の言葉が予想外だったのか、ヴォーボモンはキョトンと目を丸くした。
「約束しただろう? 俺を背中に乗せてくれるって。ラヴォガリータモンの背中には乗ったけど、ヴォルケニックドラモンの背中にはまだ乗ってないなぁ。約束、破らないはずだったよなぁ?」
ヴォーボモンはかつての記憶を思い出したように「ヴォアー!」と鳴く。
「当たり前だし! ほら、とっととワー下ろすし! ワーの背中に乗っていいのはタツマだけだし!」
泣きそうな顔で、嬉しそうに笑うヴォーボモン。
そうだな、と俺も笑った。
◇
黒い竜とその背中に乗っている少年を遠目で見守りながら、ユキムラは煙草を取り出した。慣れた手付きで、ドゥフトモンが先端に火をつけてくれる。目だけで礼を言い、ふーっと紫煙を吐く。
「ドゥフちゃんさー、今回自分から朱雀殿に協力を申し出たでしょ? 元・パートナーデジモンが暴走してる件全部に出張ってるって話聞いてるよー?」
チラリと視界の端で元・パートナーだった騎士を見る。が、当の本人は目を閉じて黙秘をしていた。
「お前はなんだかんだ優しいし、辛いのも分かってるから、好きなだけ暴れさせてスッキリさせてあげてたんでしょ? 今回もそうするつもりだったんじゃない?」
ユキムラとドゥフトモンはパートナー解消制度が出来るより以前に、パートナーであった。本来であればパートナーを解消する必要は無かったのだ。――だが別れなければならなかった。
「……この姿に進化して良かったと、つくづく思う」
ポツリとドゥフトモンは呟く。
「お前とのパートナーを解消する事になったとしても、同じ境遇のデジモン達にこれ以上辛い思いをさせずに済む」
彼らがパートナーを解消した理由は〝進化〟だった。
ドゥフトモンが現在所属しているのは、十三体の聖騎士型デジモンで形成された組織である。
聖騎士型に進化出来るデジモンは限られている。
進化先の一つとして、当時まだ成長期だった彼は聖騎士に進化出来る素質を持っていた。その素質を買われたが、引き換えにユキムラとの別れを強いられた。
不意にユキムラはドゥフトモンの頭に手を伸ばす。こちらの意図を察して、ドゥフトモンは身を屈んでくれた。鬣のような金髪を撫でてやる。聖騎士型とはいえ、外見は獅子を模した姿をしているから、心なしか気持ちよさそうに喉が鳴っているのが聞こえる。
「ユキムラよ」
チンロンモンが声を掛けた瞬間、目も留まらぬ早さでドゥフトモンがユキムラから離れた。何食わぬ顔で腕を組み、悠然と辰真達の様子を眺めている。
ちなみにスーツェーモンは居心地が悪くなったのか、早々と姿を消している。
「そなたが提案した例の話だが……今回の件で、スーツェーモンも賛同した。私とスーツェーモンの連名で、立ち上げることが決定した」
その言葉を聞いて、ユキムラは満足気に笑う。
「それとスーツェーモンからの言伝だ。〝一年以内に最低でも、あと三人見つけよ〟と」
「ぶはっ!?」
ユキムラは大きく咽た。驚いた顔のまま、チンロンモンを見る。
「い、一年で三人……!? たっつん並みのパートナー想いのテイマーをですか!?」
「でなけれぱ、この話は無かった事にするそうだ。新しい制度を取り入れるのも時間がかかる。少なくともニンゲンにとって、五年程度はかかるものでな」
そう言うチンロンモンの視線の先には、パートナーを背に乗せて空を自由に飛び回っているヴォルケニックドラモンの姿がある。
ユキムラもつられて、今回出会った一対のパートナーを見た。特に、自分のパートナーデジモンの背に乗って、外見の年相応に楽しんでいる少年を。
「三人ってことは、たっつんは既に頭数に入ってます?」
「当然だ。勿論、彼が同意してくれればの話だが……」
「同意するでしょう。あれだけパートナーの事を想う子だ。これでおしまい、とは考えにくい」
あの子が抱いていたパートナーへの熱意には、色々と驚かされた。恐らく生半可な気持ちのままでは、パートナーの暴走まで食い止めることは出来なかっただろう。
ユキムラの脳裏に、だいぶ前に見つけた書き込みが横切る。――まさか、あの書き込みをしたのは……。
◇
飛行を一通り満喫した俺とヴォルカニックドラモン(今は退化してヴォーボモンになっている)はユキムラさん達の元へ戻った。
「タツマ……」
ヴォーボモンが不安そうに俺を見上げる。また手放すことを経験するなんて思わなかった。
このままヴォーボモンを連れて逃げるという選択もあった。しなかったのはヴォーボモンがそれを望まないのもそうだし、俺もこの一時を最後にするつもりはないからだ。
だから俺は毅然と、ユキムラさんを見た。
「ユキムラさん、ヴォーボモンのことを宜しくお願いします」
深々と頭を下げる。
「その前にたっつん、一つ聞いていい? たっつん、確か高二でしょ? 進路希望ってもう出した?」
まるで親のような質問に面を喰らう俺。
ユキムラさんの隣でドゥフトモンがめっちゃ怖い顔をしている。そういえば俺のことをずっと小学生だと思っていたんだった、このデジモン……。
「えーっと……時期的にまだですけど」
「差し支えなければ教えてくれる?」
「――デジタルワールド観測所」
俺が口にした返答にドゥフトモンは目を瞠り、ユキムラさんは嬉しそうに目を細めて笑む。
「ヴォーボモンと別れたあの日から、俺はずっと再会を夢見てきました。どうしたら再会出来るか考えたら、安直だけど観測所で働いた方が早いかなって思いまして……」
「うん、好都合! ありがとう、たっつん! そして良いニュースだ!」
「良いニュースですか?」
「たっつんの活躍を見た朱雀殿と青龍殿がこの度、観測所に新しい部署をつくることを決定したワケよ! 〝ビジネスパートナーとして、パートナーデジモンと一緒に働ける〟部署ね!」
衝撃的な言葉だった。一瞬、言葉の意味を理解できなかった。
〝別れたパートナーデジモンと、今度はビジネスパートナーとして一緒に働けたら嬉しいのに〟――それは、俺が昔から思い描いていた夢だ。
「たっつんが観測所に無事就職した暁には、その新しい部署に入ってもらうんだけど……ほかに希望する部署があるなら、この話は無かったことに――」
「やらせてください!!」
食い気味に即答する。高ぶる気を落ち着かせようと努めるものの無理だ。
俺は早口で言った。
「俺の、夢だったんです……! それを叶える為に、俺は観測所に行くつもりでした。それが今叶うんです! お願いします!」
姿勢を正して深く頭を下げる。
俺とユキムラさんを交互に見ていたヴォーボモンがしびれを切らして、ユキムラさんの服を引っ張って聞いた。
「ワーは、どうなるし?」
「きみは、たっつんが来るまで訓練を受けることになるねぇ。早い話、今回みたいな暴走デジモンが現れたら、それを止めて欲しいってワケ」
ふんふん、とヴォーボモンは相槌を打つ。
「だから、今回の別れはあくまでも一時的なもの。早くて五年後、また会えるよ」
「タツマ! 聞いた!?」
ヴォーボモンは嬉々として俺の所へ駆け寄ってきた。
「五年後また会えるって! またワーを待たせたら、許さないし! 今度はさっさと来るし!」
元気よくピョンピョンと跳ね回る。
前回とは違う、未来ある別れに安心して無意識のうちに笑みが零れる。同時に泣きそうにもなった。
「そうだな、ヴォーボモン。次も会えるな」
黒い小竜を抱きしめる。
「今度も寂しくて泣くなよ?」
「泣かないし。今度はタツマが泣くし」
「ハハハ、そうかもな」
俺はヴォーボモンと向き合って、小指を差し出した。
「また、会おうな」
キョトンと目を丸くさせていたヴォーボモンが俺と差し出された小指を交互に見つめる。それから自分の指の一本を小指に絡めてきた。
「約束だ」
必ず、またお前に会いに行くよ――。
◇
――さて。
ヴォーボモンをユキムラさんに預けて人間世界に無事戻ってきた俺は、予想以上の事態に見舞われて、……とにかく大変だった。
まず俺は普通に学校の玄関から帰ってこられた。先生たちや救急隊員の人達の唖然とした表情と向かい合いながら。
それはそうだった。俺の背後には燃えて黒く焦げてしまった校舎があったから、俺がほぼ無傷でいる事に誰もが驚いた事だろう。
それから本当に無傷なのか、後遺症の有無を確認する為に即入院して精密検査地獄を味わった。この時ばかりは少しだけ自分の軽率な行動を反省した。
以降は変わらぬ高校生活に戻り、いつもの通りの生活を過ごしていた。
前までは焦りがあった。今は思ったより早い再会を果たしたからか、余裕を感じる。
それでも油断することなく、俺は思い描いていた未来の為に進む。
エピローグ
「おい聞いたか? 今年から新しい部署が立ち上がったらしいぞ」
「しかも今年入ったばかりの新人が配属されるんだろう?」
「その新人、なんでも筆記と実技、全部合格点を軽々と超えたって話だぞ」
「凄いな。なんてヤツなんだ?」
「確か……」
◇
「ようこそ、毒島辰真」
俺の前には、その責任者であろう一人の男が座っていた。白い髭が真っ先に目に入る。初老の印象を持つ男は精悍な顔立ちではあるがサングラスで目元を隠している為、表情は分からない。
「私がデジタルワールド観測所治安維持部隊の責任者『タオ・ツァ』だ」
タオ・ツァさんの声に、妙な引っかかりを覚えながら俺は敬礼を返す。
「本日付けで配属されました、毒島辰真です」
「うむ。そなたの活躍は知っている。この部署は今回新しく設立されたもので、あらゆる事が初めてとなるだろう。しかし、我々の役目は変わらない。我々の役目はデジタルワールドの治安を守ることだ。そして、それは人間一人では成しえぬ。パートナーの助力があってこそだ」
入りたまえ、とタオ・ツァさんが扉に向かって声をかける。
ギィ……と扉がゆっくりと開き、そこから一体のデジモンが姿を現す。小柄な体には黒い鱗によって覆われ、翼の先には小さな爪が三本備わっている。そいつは俺を見るなり、喜びに目を輝かせた。
互いに嬉しさを噛みしめながら、顔を見合わせる。
「名はヴォーボモン、今日からそなたのパートナーとなるデジモンだ」
幼少時と変わらない相棒に、涙腺が緩む。
前は言えなかった言葉を、俺は口にした。
「――約束通り、会いに来たぞ、ヴォーボモン」
ヴォーボモンは満面な笑みを浮かべ。
「今度は遅れずに会いに来てくれたね、タツマ」
ゆっくりとヴォーボモンに近づき、俺はその場で跪いて手を差し出した。
「〝また〟よろしくな、ヴォーボモン」
「ワーこそ、よろしくだし」
ヴォーボモンの小さな手が、俺の手を握った。
◇
後に治安維持部隊を皮切りに、人間とデジモンの関係性は更に良好へと進み、デジモンをビジネスパートナーとしての取り組みは大々的に広まっていった。
時に蘇った巨悪と戦い、時に世界の命運をかけた戦いを繰り広げるが。
それはまた別の話――。
終わり
ノベコンお疲れさまでした!
感想を配信で喋らせていただきましたので、リンクを下に貼っておきます!
https://youtube.com/live/J_ydKSMlVGU
(59:20~感想になります)
・あとがき・
今作は【デジモンノベルコンペティション2024】に応募した作品となります。
主人公のパートナーは恐竜系、名前が「た」で始まる、といった従来のデジモンイメージから考え着いたものです。
個人的に究極体であるヴォルケニックドラモンのデザインがめちゃくちゃ好みでした!!
あと真面目なドゥフトモンが自由奔放なパートナーに振り回されている姿が見たかったです。
余談ですが「タオ・ツァ」を並べ替えると「アオタツ」となり、更に変換すると……?