エリア0 とある裏路地
???「ふんふふんふ〜ん♪」
人気のないエリア0の裏路地。そこにガラクタを漁る一体の生物がいた。
???「じぃちゃんがあまり“リアルワールド”のネット空間に行くなって言ってたけど、楽しいからこっそり来ちゃった〜♪」
その姿はまるで赤い恐竜だった。
彼の名は『ギルモン』。どうやら内緒でエリア0に来ているらしい。ルンルンと楽しそうに赤い尻尾を振りながら見つけたガラクタ(彼にとってはお宝)を大きな肩下げバックに入れていた。
「〜〜♪…ん?」
次の場所へ移動しようとしたギルモン。しかしギルモンの眼の前を遮るように、小さな光が現れた。
「なんだろう‥これ?」
すると小さな光はゆっくりと移動し始めた。
「あ!待って〜」
光を追いかけるギルモンはある一角にたどり着いた。
そこは大小様々な形のデータの破片がキラキラと中を待っている場所だった。
「わぁ…こんな所あったんだ‥あ!」
するとさっきまで追いかけていた小さな光はある一点に止まりふわふわと漂っていた。
まるで彼をここまで導いていたかのように。
ギルモンは小さな光のとこまで歩みを進めた。
「に、人間だ‥‥」
データの破片の光に囲まれていた、白く短い髪の人間の少女がいた。
初めて見る人間に驚きが隠せないギルモン。いや、驚き以上に、キラキラと光るデータの破片に埋もれるように横たわっている人間がとても…
「…あれ?この人間…怪我してる!?」
よく見ると少女の体のあちこちがボロボロだった。
「あわわわわ!!急いで治療しなきゃ!えっと、えぇ〜〜〜っと!!!」
ギルモンは急いで持っていた鞄の中を漁りだしたのだった。
「う、うぅん‥‥」
ギルモン「あ!起きた!!君大丈夫?」
ギルモンは起きた少女の顔を覗き込んだ。少女は体を起こしあたりを見回した。
「ここは‥‥」
ギルモン「ここはデジタル空間のあまり人がいない所!君ここでボロボロで横たわってたんだよ」
「君はいったい‥」
「ボク?ボクはギルモンだよ!君の名前は?」
「なまえ‥‥なま‥え‥‥」
「?、どうしたの?」
「解らない‥」
「え!?」
「何も‥覚えてない」
「ええーーーーーー!!」
ギルモンの驚きの声がエリア中に響いたのであった。
取り敢えずここがどこなのか、自分が少女を見つけた経緯を話すギルモン。
「ってことなんだけど‥」
「そっか、君が私を助けてくれたんだね。ありがとうギルモン」
「へへへ、どういたしまして」
嬉しそうに照れるギルモンに、少女は微笑んだ。
「そうだ!ずっとここにいるのも何だし、少し歩こうよ、もしかしたらなにか思い出すかも!」
その提案に乗った少女はギルモンと共にあたりを散策し始めた。
エリア0 〜通路〜
「そういえばギルモンは大きなバックを持ってるけど何が入ってるの?」
少女はギルモンの持つ大きなバックが気になったようで質問を投げかけた。
「これ?これね、ボクのお宝がいっぱいはいってるんだ!これとか君を見つける前に見つけたやつ!」
そう言って見せてきたのはキラキラ光る角の丸い破片のようなものだった。
‥‥正直に言うと少女には何がいいのかわからなかったが、きっとギルモンにとってはとても素敵なものなんだろうと考えた。
「おじいちゃんにはあまりリアルワールドのネット世界には行くな!って言われてたんだけど、たまにこっそり来るんだ」
「“おじいちゃん”?」
「うん、おじいちゃん。本当は“ジジモン”って名前なんだけどボクはおじいちゃんって呼んでるんだ。おじいちゃんすっごく物知りで、知らないこといっぱい教えてくれるんだ」
ギルモンが暮らすデジタルワールドの事。生きるうえで必要なこと、デジタルワールドの歴史。
ギルモン自体は難しいことが苦手なようであまり覚えてないらしいが、ギルモンにとって親のような存在のようだ。
「いいおじいちゃんだね」
「うん!大好きなんだ!!」
何気ない会話をしながら二人は様々なエリアを歩いたが、一向に少女の記憶の手がかりは見つからなかった。
「うぅ~‥なんの手がかりもなかった‥」
「せめて名前だけでも覚えていればよかったんだけど‥‥」
少女達は歩き疲れたため、あるエリアのちょうど腰掛けれそうなオブジェに座っていた。
ふと少女は自分たちが歩いてきた道とは別の一本道の方に目を移した。
「ねぇギルモン、この先って何があるの?」
「んー?その先はとっても危険だっておじいちゃんが言ってた。」
「そうなの?」
「うん、君と同じ人間がいっぱいいるんだ」
「そっか、私と同じ‥‥え!?私と同じ人間が!?それほんと!」
「え!う、うん‥」
それは記憶を思い出せる絶好の場所なのでは!?そうギルモンに伝えると、ギルモンは何故かよそよそしくなった。
「ギルモン?」
「あ、えっと‥‥そ、そうだね!きっと記憶の手がかりもあるかもだよね‥うん‥」
「どうしたの?」
さっきまで明るかったのとはうって変わり声のトーンが落ちていた。
「じ、実は昔あっちに行ったことがあるんだけど‥‥その時色々あって‥少し苦手なんだ」
「そうなんだ‥ごめん、君の気持ちも考えないで」
そう謝るとギルモンは慌てた様子でこちらを見た。
「そんなことないよ!それに本当にあっちに君の記憶の手がかりがあるならいかなくちゃ!」
「でもギルモン、行くのが怖いんでしょ?」
「こ、怖いとは言ってないよ!それに友達のためだもん!行こう!」
『友達』、彼はたしかにそういった。
「友達?」
「うん!‥はっ!もしかして、迷惑だった?」
恐る恐る聞いてきたギルモンに「そ、そんなことないよ!」と言った。
「私もギルモンと友達になれて嬉しいよ!」
「ほんと!へへへ‥ボク人間の友達初めてだ」
「私もデジモンの友達初めて‥‥かも?」
記憶がないから自身はないが、記憶を無くす前の私にデジモンの友はいたのだろうか?
それでも彼とは友だちになったのだ。そこは素直に喜ぼう。
そうして二人で笑い合っていたときだった。
ピシッ
まるでガラスにヒビが入ったような音とともに酷い悪寒が二人を襲った。
振り返ると先程まで何もなかったはずの空間に酷く大きなヒビがあった。
それはピシッピシッ!と大きな音を立てながら割れていき
バリィィン!!!
白く不気味な細い腕のようなものが空間を完全に破壊した。
「な、なに!?」
「さがってて!!」
ギルモンは少女を庇うように前へ出てその割れた空間を睨みつけながら威嚇した。
空間から出てきた腕は、割れた空間の穴の縁をつかみそしてゆっくりと本体が見え始めた。
それは人でもなければきっとデジモンでもないだろう。いや、たしかにぱっと見人の形をしているがとてもじゃないが人とは思いたくなかった。
異様に細長い手足と胴体、頭部には黒く鋭い目、そして体中を這いずり回っているかのような0と1の数字。
『不気味』一言で表すならそのような存在だ。
すると突然それは勢いを付け私達に襲いかかってきた。
「『ファイアーボール!!』」
すぐさま反応したギルモンが口から火の玉を“ヤツ”に向かって吐き出し確実に命中した‥はずだった‥
「なっ!?‥‥グッ!!!」
ギルモンが吐き出した火炎弾はたしかに“ヤツ”に当たったはずなのに“ヤツ”は速度を落とすことなくギルモンに攻撃を入れた。
「ギルモン!!!!」
ギルモンは攻撃をくらってしまった。
そして“ヤツ”は少女に攻撃しようとした。
「しまっ‥!!」
「伏せて!!」
そして振り下ろされる腕。それは私を庇ったギルモンに当たり、かけていたバックの紐が切れた。
「ギルモン!」
揺すっても目を閉じたままのギルモン。強烈な一撃をまともに喰らい気を失ってしまったのだ。
「そんな‥ギルモン!!」
そんなことをよそに、“ヤツ”はゆっくりと二人に近づいてくる。
それに気づいた少女はギルモンを庇うように抱き抱えた。
そして眼の前まで来た“ヤツ”は、腕を鎌状に変え攻撃の体制に入った。
(もう…駄目だ‥!)
振り下ろされる腕。来るであろう痛みと衝撃を覚悟し瞳を強く閉じた。
???『ムーンスクラッチ!!!!』
『ーーーーー!!!!!!???』
突如聞こえた声とけたたましい悲鳴のような音。
ゆっくりと少女は瞳を開けると、先程までいた“ヤツ”は倒れ、ゆっくりとデータの破片のように消えて行き、そしてその前には大きな二足歩行の青い猫とヨレタコートを着ている男性がいた。
男性はこちらが見ていることに気づき、ゆっくりと近づいてきた。
???「おい、大丈夫‥じゃないな。そのデジモンはお前のパートナーか?」
「えっと‥あの‥‥」
助かったのだろう。きっと‥‥。そう考えたら全身の力が抜けた気がした。
???「ひどい怪我だな、直ぐにログアウトしろ。そのままじゃ本体に支障が出るぞ」
「‥‥‥」
安心したのだろう糸が切れたように意識が途切れた。
???「おい?どうし‥‥おい!しっかりしろ!!」
男性は少女の肩を揺るがしたが反応はなかった。
青い猫「あんな怖い思いをしたんだ、助かって安心して意識を飛ばしたんだろう。こっちで勝手にログアウトしとこうよ」
青猫の話を聞いた男は心底面倒くさそうな顔をしたあとため息をついた。
???「ったく面倒くせぇ‥勝手にID見させてもらうぞ」
そして男は少女に軽く触れ眼の前に映し出したモニターに目をやる。
しかしその後、男は眉をひそめた。
???「どうしたんだい?」
???「…ない」
???「え?」
???「ないんだよ、現実世界にかならずあるはずの『本体』が‥‥」
???「それってどういう‥‥」
二人はギルモンを抱えて意識を失っている少女をみた。
???「コイツは‥一体何者なんだ‥‥?」
このとき彼等は知らなかった。この出会いが、後に世界の運命を揺るがすことになるなど。
これは人とデジモン達の絆、そして失われた記憶(メモリー)を取り戻していく物語だ。