ー 株式会社『ユグドラシル』• 所長室 ー
「…以上が機動部隊の報告です」
タブレットを片手に秘書である女性はそう伝えた。
眼の前にいるこの『イグドラシル』の最高責任者である所長に。所長はその報告を聞いたあと手に取っていた報告書を机に置いた。
「なるほど、つまりは取り逃がしたと」
「そうなりますね、いかがされます?」
「うーん…取り敢えずアレの捜索は続行ということで、もし見つけたら殺さずに捕まえてきてね」
「承知しました。そのように報告してまいります」
秘書である女性はまっすぐと所長室から立ち去っていった。
「さて、アレの捜索については彼らに任せとくとして‥。君には別の案件をお願いしたいな」
そう言うと所長は視線を部屋にできていた暗闇の方へと向けた。
『‥‥‥。』
そこには強く目に入る青のコートと顔を覆う黒いヘルメットを被った男が立っていた。
『要件は』
男の声は素性がまれないようにだろう、音声変換をしており機械音のような声をしていた。
所長は男に自身のパソコンの画面を見せた。そこには赤い恐竜とともに行動していた少女の姿があった。
「これは昨日機動隊員達が例のアレを見失って数時間たったあとの映像だね。」
『珍しいタイプのデジモンを連れてるな。コイツラがどうかしたのか?』
「たしかに珍しいタイプのデジモンだけど、僕が知りたいのはそこじゃないんだ」
するとマウスのカーソルを少女に合わせて画像をアップした。
『このボロボロのガキか?』
全身ボロボロな所以外普通のこどもに見えるが‥。
「実は彼女ね、現実世界に体がないんだよ」
『!?』
「不思議だよね。彼女のことが気になって調べてたんだけど名前も年齢も出身地も、なにも情報がないんだ」
そんなことがあり得るのか、男は驚きを隠せなかった。
「気になるよねぇ~このコ。だからさ、ちょっと調べてきてほしいんだ♪」
『‥‥どうせ拒否権なんざねぇんだろ』
「えー、そんなことないよ〜。‥‥でもまぁ」
所長は椅子から立ち上がり男の肩に手をおいて耳元で囁いた。
「君があの子達を簡単に見捨てるようなやつじゃないって知ってるからさ。おねがいね。」
肩を数度優しく叩き、所長は部屋を出ていった。
『‥‥‥クソ野郎が』
一人、蒼の男を残して。
[newpage]
〜???〜
目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。
(ここは‥たしか私、あの変なやつに襲われて‥そして誰かが助けてくれて‥)
私はゆっくりと体を起こし、周りを見渡した。
やっぱり見知らぬ空間、誰かの家の部屋だということだけしかわからなかった。
「‥‥!そうだ!ギルモンは!!」
そう思い立ちベッドから降りようとしたが
「う~ん‥ムニャムニャ」
すぐ隣で寝ていたギルモンに気づき安堵した。
襲われたときの傷はどうやら癒えており幸せそうな寝顔をしていた。
「ギルモン‥よかった‥」
私は胸をなでおろす。自分のせいでギルモンに何かあったらと思うと胸が苦しくなった。
「おや?やっと目が覚めたのかい?」
突然聞こえた声に驚き、声の方を向くと、部屋の入口に立っている一人の少年の姿があった。
「えっと、きみは‥」
「話は後々。さ、起きられそうだったら下に降りてきてほしい。君のことを色々と聞きたいからね、あ、その子も連れてくるように」
僕は先に言ってるよ。と少年は言い、部屋を出ていく。
私はギルモンを起こしてベットから降り、部屋を出て一階へと降りた。
一階へ降りるとあの少年が階段の下で待っていた。
「こっちだよ」
そう言うとすぐ下にある扉の中へと入っていった。私とギルモンは少年の後を追うように扉の中へ入ると、あのとき助けてくれた男の人がいた。
「あの‥」
「怪我の方はもう大丈夫か?」
「え?」
そう言われ自分の体を見渡した。よく見ると倒れる前と服装が違うし、治療もされてたことにも気づいた。
「はい。どこも痛くはありません」
「そうか、なら良かった」
「あの‥ここは‥」
「ああ、すまない。先に教えとくべきだったな、ここは現実世界にある俺の自宅兼仕事場だ。あえて『現実世界』といったのはお前が『仮想空間』である『アヴァロン』のエリア0で気絶したから、わかりやすくな。」
「な、なるほど‥」
「それと自己紹介がまだだったな。俺の名前は『安藤 和人(カズト)』だ。ここで探偵をやってる、そして‥」
「はいはーい、僕は『ディテイモン』、彼のパートナーデジモンだよ〜」
安藤さんの横から割るように入ってきた少年は先程私達を案内した人だった。
‥‥?今この人『パートナーデジモン』って言った?
「え?デジモン?」
「あー、いまは人間の姿を‥取ってるからわからないよね。」
そう言うとの少年の周りが光だし姿形が変わりだした。
「この姿ならわかるかな?エリア0で一度見たと思うけど」
光が消え、眼の前に現れたのはたしかにあのとき見た大きな二足歩行の青い猫だった。
「え!?ど、どういう!??」
「あー‥説明すると長くなるからこれは後で説明する。ディテイモン飲み物持ってきてくれ」
「はーい、和人はブラックでいいよね。君は?」
デジモンから少年の姿に戻ったディテイモンは少女に聞いてきた。
「お、同じので‥」
「オッケー!ギルモン君は?」
「ブラックってにがい?」
「人によるけど苦いよ〜」
「うーん、にがいのにがて‥」
「じゃぁミルクにしよっか!」
「!うん!!」
ディテイモンは「それじゃあ入れてくるねぇ〜」。と言い残し部屋を出ていった。
「立っとくのも何だ、そこのソファに座るといい。俺も座る」
「は、はい‥」
対面式に置かれたソファとその間にある長机。そして向かい合って座る私達。
「さて、あらかたお前の質問には答えたな。こちらからもいくつか質問させてくれ」
安藤さんは真剣なおもむきで私の方を見た。まるでここからが本題だというように。
「“お前”は、何者なんだ?」
それは私が一番知りたい質問であった。
だから私は包み隠さず今までのことを話した。
[newpage]
〜安藤探偵事務所 一階 仕事部屋 〜
「記憶もなく、倒れていたところをギルモンが助けてくれたと‥そして記憶の手がかりを探すためにエリア0をフラフラしていたらあの正体不明のヤツに襲われた‥‥か」
「はい」
「‥嘘は‥‥付く利がかいか。」
「記憶がないだけじゃなく現実世界に本体もなく、更には彼女についての個人情報すらない。こんなことをありえないんだけどねぇ‥」
飲み物を淹れて持ってきたディテイモンがそう呟いた。
ますます私の事がわからなくなってしまった。現実世界に本体すらないとか……。
‥‥ん?『現実世界に本体がない?』
「あ、あの。現実世界に本体がないって‥じゃあなんで私はここに?」
「ん、あぁそれはな‥」
珈琲に口をつけていた安藤がその疑問に答えた。
「ディテイモンに頼んでそのまま連れてきた」
「……え?そ、そのまま??」
「おう、そのまま」
「え?そんな事が可能なんですか??」
安藤は珈琲を飲み干し、カップを机においた。
「本来ならそんなことは出来ないはずなんだが、何故かお前は例外だったらしくてな。デジモンがデータの世界からこちらの世界に来る感覚でディテイモンが連れてきたんだよ。」
「ボロボロの君達を放って置くわけにもいかないし、ギルモンならまだしも、君は大分賭けだったけどね」
なんか…凄いことを聞いたような気がする……。
「まぁ、ここまで質問しておいてなんだが。お前、行くあてはあるのか」
「あると思います?」
「……ねぇよな…」
「はい」
「……」
沈黙が続く、翌々考えたらわたしには行く宛も帰る宛もないんだ。するとディテイモンが提案してきた。
「だったらカズト、記憶が戻るまでの間、君の助手にしたらいいんじゃないかい?」
「「!」」
「おまえ、簡単に言うけどな」
「いいじゃん、丁度人手が足りなくて困ってたでしょ。ここで探偵の助手をしていれば君は人手が増えて仕事が楽になるし、彼女は記憶の手がかりを探せるし、WIN WINだろ?」
そこまで言うと安藤そんはかんがえるように黙った。確かに安藤さんにも私にも利益がある…なら‥。
「あの!私からもお願いします‼」
その言葉に驚いた安藤さん。
「自分が何者か知りたい、どうしてあそこにいたのか…どうして渡しに関する記録すらないのか‥‥。お願いします!足手まといにはなりません!!絶対に!!」
「ほらほらカズト、彼女もああ言ってるんだしいいじゃないか。それとも、君は記憶もなくか弱い少女を追い出すほど非道な探偵だったのかい?」
ニマニマと黒い笑顔で言うディテイモンに困ったようにため息を付く安藤。
「別に追い出すなんて言ってないだろ‥はぁ、わかったよ」
「!じゃあ」
「ああ、ただし助手になるからには覚悟しとけよ。探偵の仕事はお前が思ってる以上にきついぞ」
「はい!頑張ります!!」
「よーし!君の今後は決まったとして‥‥君はどうするギルモン?」
「ん?ボク?」
そういえば一緒に来ていたギルモンはどうするのだろう。そう思い私もギルモンに聞いてみた。
「ボクは君と一緒にいる!キミと一緒にいると楽しいし、大好きだもん!」
「でもギルモン、おじいちゃんのことはどうするの?」
「あ、そうだった。う~ん、う~~~ん‥‥」
「おじいちゃん?」
「あ、えっとこの子の育ての親で、確か名前は‥“ジジモン”…だったはず」
「うん!ジジモンのおじいちゃん‼」
そこまで聞くと安藤さんは少し考え事をした。
「もしかして‥デジタルワールドにいる『育て屋のジジモン』のことか?」
そう質問するとギルモンは驚いたあと嬉しそうに「うん!」と返事をした。
「『育て屋』?」
「ああ、昔お世話になったことがあってな。まぁこの話はいつかするよ。それよりあのジジモンのところのガキだったのか、ならすぐに連絡いれれるぞ」
「ほんとう!?」
安藤は作業机に向いパソコンを操作した。すると画面にギルモンが話していたジジモンが写った。
「おじいちゃん!」
『む!ギルモンか!!』
「じいさん久しぶりだな」
『おお、カズトくんか。久しぶりじゃのぉ!』
「急に連絡入れて悪いな、実は‥」
『まぁまて、話を聞く前にじゃ』
そうするとジジモンはギルモンの方を向き
『ギルモン!!!!お主またリアルワールドのネット空間に行ったな!!あれほど勝手に行くなと言ったじゃろうが!!!!!!』
「ごめんなさーーーい!」
ジジモンの怒声が部屋中に響きわたった。
『なるほどの、事情はわかった』
小一時間ほどの説教が終わりようやく本題へと話を進められた安藤。ちなみにギルモンはすごく反省してるのか怒られてちょっと凹んでいた。
『ギルモンがそう望んだのなら、好きにするといい』
「いいのかじいさん」
『なに、ギルモンがそう決めたのだろう。ならわしからは言うことはない。それに…』
「じいさん……?」
少しの沈黙の後、ジジモンは首を振りなんでもない素振りを見せた。そしてギルモンに向き直る。
『ギルモン』
「なに、おじいちゃん?」
『その子についていくというのなら、力のあるお主がしっかり守ってやるのじゃぞ。』
その言葉を聞き、ギルモンは「もちろん!」と力強く頷いた。
『そして名も知らぬ少女よ』
「は、はい」
『記憶もなく、自身のことで手一杯で大変だろうが、どうかギルモンのことをよろしく頼む』
「はい!」
私も力強く返事をした。
『それじゃあカズト君、探偵家業頑張るのじゃぞ。また困ったら依頼するやしれんしの』
「その時はどうぞご贔屓に、じゃあな」
『うむ』
そして会話が終わるとパソコンの画面が消えた。
「それじゃ、ギルモンの保護者からの許可もおりたことだし。改めて二人共、ようこそ我らが安藤探偵事務所へ。歓迎するよ♪」
「探偵の仕事は大変なことが多いぞ、泣き言は言わせないからな」
「はい!精一杯頑張ります!」
「ボクもボクも!!」
こうして、記憶のない私はギルモンとともに安藤探偵事務所にお世話になることになりました。
ここから始まる私の新たな物語は、どんなお話になるのか。
これから出会う人達はどんな人なのか。
大変だけれど、胸がドキドキして、楽しみです!