待って!
人とデジモンの入り乱れた雑踏の中、それに呑まれかねない小さな姿へ手を振ると。
ハリネズミを思わせる容姿の無邪気なデジモンは、笑顔で跳ねながら大きく手を振った。
「こっち、こっちだよ!○○○!」
ここはバトルパーク。
デジモンを連れた人間達が、自分のパートナーと仲間の強さを競い合う場所。
デジモン連れの人間にとって一種の社交場ともいえるこの場所で、一人の学生とそのパートナーであるハリネズミに似たデジモン・エリスモンは訪れている。
「今日はリーグ進出目指すんだったよね」
「そのはずなんだけど…ミチ、まだか…」
カフェ『トラッフル』が縁で交友を深めている女子高生のミチからメールがきてないか確かめる。
今日は、リーグ進出を目指すため、事前に特訓に行こうと誘われていたはずだ。
「…ミチとプロットモン、まだ来ないのかな」
「そうだね」
今日は学校だからそれで遅いのだろうか。
仕方ないから、軽く一戦のつもりで待とう。
そう言うとエリスモンは持っていたたい焼きの残った部分を一口で頬張った。
ーー
バトルパークにおいて重要なのは、パートナーとの息の阿吽はもちろんだがパートナーと仲間のスペック、相手チームのデジモンとの相性。
仲間に指示を出し、完全体・スティフィルモンへ進化したパートナーの戦いぶりに声を張り上げた。
「もう一息…お願い、ここで決めて!」
「OK!…『ギガクリムゾンダイブ』!」
必殺技を大将格のフレイドラモンへ叩き込む。
それで勝負は決まった。
(……スティフィルモンに進化して頼もしくなったのは良いけど……)
未だに脳裏をよぎるは、非デジモン存在であるスパイラルへの反応による暴走。
しかし、その不安要素も、スパイラルが関わってこそのもの。
突然の事態でスパイラルが絡むようなことがなければ、スティフィルモンは非常に頼もしい姿を見せてくれる。
「後でまた、たい焼きが食べたいな…お腹すいちゃった」
「んもう、リーグ進出してから!それとご飯食べる直前のおやつはだめだよ」
「ちぇーっ」
赤い棘と強靭な肉体で武装した姿だが、内面はまだまだ幼さのあるエリスモンと変わらない。
次の一戦までにミチが来ないかと、スマホを確認していた時。
スティフィルモンの目の色が変わった。
「………ねえ、○○○」
「どうし…っ、スティフィルモン?」
チラ見するだけして見過ごしかけた。
スティフィルモンの目に宿る鋭い光。
理性は失ってはいないようだが、戦いたくて仕方のないといった様子だ。
そんな、スティフィルモンの視線の先を追って、目を瞬かせた。
「あのデジモン……?」
それは、一人の若い男性が連れているデジモンだった。
シルバーブルーの毛並みに銀のドッグタグ、ダメージの入ったジーンズを履いた狼男のような容姿。
「ワーガルルモン?」
それは、これまでも何度かバトルパークで見慣れた姿だ。
エリスモンや成熟期に進化したフィルモンの時では、何ともなかったはずの顔である。
「……ごめん、○○○。もう我慢できない!」
「な、何を!?」
止める間もなく、スティルフィモンがワーガルルモンへと向かって駆け出す。
ワーガルルモンとパートナーの相手は緊張をほぐすためか談笑を交わしていたのだが、完全体と思しき見慣れぬデジモンを前に姿勢を正す。
「あ、あのっ…!」
「なんだ?」
ワーガルルモンは飄々然と、第一声の後に言葉に迷うスティフィルモンを見つめた。
追いつき、急ぎ説明に入る。
「すみません。スティフィルモンが、ワーガルルモンと戦いたいらしくて…」
「良いよ、こっちも次の試合が控えていたからね。…ワーガルルモン、なんか覚えがあるか?」
相手は笑って流し、パートナーに訊ねるが否の返答が返ってきた。
「すまん…覚えがない。レオモンのようにそこまで因縁のあるデジモンはいないはずなんだが。……いや、因縁、ではないか」
少し思考を巡らした後、ワーガルルモンはスティフィルモンに聞く。
「お前、俺と戦いたいってのは別に恨みとかそう言うんじゃないんだな?」
「……うん。なぜかわからないんだけど、キミの姿を見たら急にウズウズしてきたんだ。キミと戦いたい、力比べがしたいって」
「ハハッ!ご指名のようで何より」
朗らかに笑い、パートナーの方を向き直る。
「ちょっと、コイツと手合わせしてくるわ。アンタも、しばらく待っててくれないか?」
「大丈夫だよ」
「それじゃ、…お前なんて名前だ?」
「スティフィルモンだよ」
「スティフィルモン、な。それじゃ始めようぜ」
ーーーー
「ごっめーん!定期試験で赤点取っちゃって、追試で居残りさせられた!」
バタバタと騒がしくこちらへ走ってきたのは、長い栗色の髪の少女。
必死に走ってきたのか額が汗ばんでいる。
彼女のパートナーのプロットモンも、心なしか疲れた顔をしている。
「そういえばエリスモンは?」
「それなんだけど…」
バトルパークに隣接したコロシアムの方を見る。
そこでぶつかり合う二体のデジモンに、少女ミチは驚きのあまり目を見開いた。
「え?スティフィルモン、他のデジモンと戦ってる!?あれ、大丈夫なの?」
「見た感じ、大丈夫じゃないかな。暴走も全然してないもの」
落ち着いて、となだめながら、プロットモンはその光景を眺めた。
「正直、暴走した時の事考えると不安なんだけど、それとも違うみたい。ワーガルルモンのパートナーも、景気付けにはちょうど良いってOKしてくれたよ」
「そうなんだ…それなら、良いけど」
ああ、なんでだろう。
…とても楽しい。
ワーガルルモンと打ち合いながら、スティフィルモンは滾るものを覚えていた。
なぜこんなにも清々しい思いなのかわからない。
今までこんな思いはしたことがなかった。
………ああ、そうか。
目を、開く。
今だから、わかる。
自分は○○○○ではなかったけれど、○○○○と変わりない所もあったのだ。
上を仰ぎ見る。
数多のスパイラル達の気配がそこにある。
なら、やるべき事は一つだ。
(ボクは知ったんだ。皆と過ごしてきて楽しかったこと、大変だったこと、何もかもが)
拳を握りしめる。
力が漲った。
そして、大事で大切な人の声が、聞こえた。
(……○○○。ボクは、…俺は、きっとキミの元に)
全てはこの為に。
拳を握りしめながら、走る。
駆け抜けながら、その姿はスティフィルモンとしての姿よりも勇ましく。
光が弾け、螺旋となって、彼はその中に消えていったーー
初めましてみなみ様!度々お見かけしておりましたルツキと申すものです。
私もバトルパークはこれで合っているのか…?と思いながらやっていました。なかなかプラグインまで手が回らないので、強いの来るなよ〜と思いながらやってBPメダル数枚とか貰ったことがあるくらいでした。
デジモンの種族としてのライバル意識などをどう捉えるかは創作では考えどころだったりしますが、デジモンらしさを感じるポイントでもあって個人的には描写が有ると嬉しくなります。
デジモンにおいての〝心(感情)〟は外せないテーマのひとつですよね。
リアライズ含め他作品の〝心〟に影響されてデジモンの世界は広がっていくんだな〜そしてこれからも広がっていくんだろうな〜と感慨に浸らせて頂けたすてきな作品でした。
…と纏まりの無い文章になりましたが、こちらを感想とさせて頂きます。
乱文失礼いたしました!
企画RRAに参加頂きありがとうございます。
バトルパークもデジモンリアライズではかなり大きな要素でしたもんね。
スティフィルモンの設定のワーガルルモンライバル意識はすっかり忘れていましたが……そういう普通に考えたら種族に引っ張られる不都合な部分さえもスパイラルから産まれたエリスモンには愛おしいと……
とても心に響く短編でした。
改めて、企画に参加頂きありがとうございました。
後語りー!
まさか投稿できるとは思いませんでした!!
こちら、五十嵐電脳探偵所第16話が現在、投稿直後に承認待ちという謎の対応を受けているため、もしこちらもダメだったら……は杞憂でした。
というわけで!へりこにあんさんの企画、今回も参加させていただきます。
デジモンリアライズですが、始めた時期が終了が公式発表されるより一年前のことでして。
デジモンリンクスも随分昔にやった事があったのですが、辞めてしまった時期も早くデジモン熱が戻ってきた今始めたことがきっかけでした。
自分がデジモンリアライズで主にやってたことが、バトルパークでの戦いでして。
というのも、他ソシャゲとの兼ね合いから無課金でやることは決めてたためガチャを回すのに必要なデジルビーの稼ぎ場所として重宝していたのです。
……本当は、対戦は苦手なのですが。
それでも、頑張って勝ち抜いてデジルビーをゲットのため戦い続けました。
……そういう反面、ストーリーの方は全く追えてないのです。
サ終発表された後にようやくストーリーを進めたのですが、最後はカーネルへ行ってそこでもんちゃんの過去を見た所で終わってしまいました。
……もう少し早くストーリー追ってれば良かったな、と。
一方デジモンの育成は、推しや好きなデジモンが偏ってか、素材にとやかく炎熱系が足りずレイドもひたすらヒイヒイ言いながらの周回だったのを覚えてます。
シルフィーモン、最大レベまで育てたかったな…(そこかよ
最愛の推したるブラックウォーグレイモンを育てる機会を得たのは本当に良かったし、初オメガモンとしてお迎えした超勇気のオメガモンXはガチで強くて頼りになった。
デジモンリアライズ、もっと長く遊びたかった。
本当にありがとう。