「おやおや、これは熱烈な歓迎だね」
「これを歓迎と受け取る貴様は心底呆れる。いや、それこそが王の余裕というやつか?グランドラクモン」
人型の悪魔と呼べる容姿を前にし聖騎士は右手に装備したパイルバンカーを向ける
グランドラクモンと呼ばれた悪魔は軽く笑う
「これはこれは、今の俺はマタドゥルモンだと言うのに・・・お供のナイトモンを20も引きつれるとは、流石は騎士王の名を冠するロードナイトモン様だ」
「貴様にはこれくらいしなければな逆に失礼だろう?」
「確かに俺は賑やかなのが好きだが・・・これでは逆に騒がしいと感じる・・・まあ、別に良いだろう。最近は退屈で仕方がなかったんだ。・・・ククク、自分の手で楽しみは見つけないとか」
まるで新たなおもちゃを見つけたかのようにマタドゥルモンは不敵な笑みを浮かべる。ロードナイトモン達も相手が相手なだけに慎重な姿勢を取る
先手を取ったのはマタドゥルモンだった
軽やかな身のこなしで包囲を突破しようと地面を蹴る
無論、そんなことはさせる気は毛頭ないナイトモン達は大剣を用いて無理やりにでも止めようとする。
「ベルセルクソード!!」
その手に持つ身の丈ほどある大剣を両手で振り回す
大剣には淡い光が纏われており、恐らくはナイトモン由来のエネルギーなのだろうと推測する事ができた。
だが、身の丈ほどある大剣を振り回すという事は尋常ではないエネルギー、そして隙が生まれる事を意味する。
無論、そんな隙を吸血鬼王と呼ばれる存在が察知出来ないはずがなく
「遅い遅い!!」
余裕のある身のこなしで一振り一振りを紙一重で躱していく
あと1秒早く振れば掠るかもしれない
だが振る速度を上げてもずっと紙一重で悪魔は躱わす
「ッチィ!!」
「おやおやこの程度で余裕無くなってるのかい?だらしないねえ!!」
苛立ちが頂点に達しそうな騎士を相手に悪魔は余裕で挑発を続ける
頭に血が上れば登るほど、攻撃は大振りになり隙は大きくなっていく。
そして倒すという思考に支配されれば大剣の輝きも必然と増す。
そして輝きはエネルギーである。ならば必然と騎士はエネルギー不足になる。
「・・・・・・!」
「おやおや、息が切れているように見えるが大丈夫か?もしやもう終わりなのか?」
「ああ、終わりだ!!」
騎士はあろうことが自らの武器である大剣から手を離す。いや、手から離れたと言った方が正しいかもしれない
勢いに任せて空に飛んだ
ナイトモンは息を切らしており、膝を曲げ手を付いていた
「薄情だねえ、まあ、やりたい事をさせてもらうが!」
「ッ!!」
周りに他のナイトモン、それどころかロードナイトモンですら居なかった。それも当然だろう、近づいていればベルセルクソードに巻き込まれるのがオチだ。
マタドゥルモンが右手をナイトモンの首筋に突き立てる。ナイトモンは無防備な箇所であることも影響して強い痛みを感じる。それでも歯を食いしばり痛みの声を最小限にする。
「鎧でも覆いきれない箇所はさぞ痛いだろうねえ!」
マタドゥルモンの高笑いが響き渡る
だがその高笑いも何か掴まれる感覚によって終わる
ふと自身の右腕を見るとナイトモンが両腕で掴み、握っていた
「ん?この程度の束縛で
「いくら吸血鬼王と言えども今の、完全体としての力ではこの腕は振り解けまい!今です王よ!!」
その声と共にロードナイトモンは力の限りアルファルトの上を駆ける。
そして右腕のパールバンカーをマタドゥルモンに向ける
「アージェントフィアー!!」
パイルバンカーから衝撃波が打ち出され、粉塵が舞い上がる
「・・・甘いか」
そう呟くと共に鎧から伸びる帯刃で粉塵を吹き飛ばす
そこには倒れた1人の人間がいた・・・
いかに冷徹な王といえども、部下に対し非情な訳ではない
守護を司るロイヤルナイツと言えども良き王とは何かについても考える騎士王はゼロ距離での攻撃を躊躇った。
もし、ゼロ距離での攻撃であればナイトモンごとチリも残さずに消滅した事だろう。
「あくまでも俺だけを殺そうとした・・・その理由は」
「ッ!?」
影に身を潜めていたマタドゥルモンが人間の体を掴む
首筋に右手を当て、左手で体を起こす
「俺がダークエリアの居城で何もしてないとでも思ったのか?この世界の性質くらい把握してる。そもそも俺が単独で現れてる時点でその可能性を考慮しないのは愚の骨頂よ」
「まさか・・・最初から」
「お前さんは騎士だ、部下の犠牲は覚悟できても部下が体を借りているだけの人間を殺すことなんてできやしない甘ちゃんだからな・・・ああ、いや訂正しよう、お前さんらも在り方に縛られているだけだったか」
「在り方に縛られている・・・?」
「ああそうだ、事実お前は部下もろともであれば俺に一撃は与えることができただろうな。だがお前は本能的にそれを拒絶した。大方、体を借りているだけの人間ごと滅ぼすのに抵抗があるんだろう?」
マタドゥルモンが一語一句発するごとにロードナイトモンは両腕が震えていった。
そんな様子を見てマタドゥルモンがある種、嘲笑とも取れる笑みを浮かべていた。
「おおっとすまない、こちらも興味深い駒を使ってしまってね。それにそれ以上の価値となる次のターゲットは見つけていたのだが、芽吹くまで時間が必要でね・・・悪いが今は暇つぶしの時間なのだよ。・・・実験、検証してみたいこともあるしな」
「実験・・・だと?」
「ああそうだとも・・・ほら彼をみてみると良い、俺の実験結果を君に、君たちにも見てもらわなければな」
マタドゥルモンがそう言うと倒れていたはずの人間が立ち上がる
「・・・バカな」
「ウギうぎゃああ」
だが、どこか様子がおかしかった
一歩、また一歩と足を進めるにしてはどこかぎこちなく目に光はなかった
焦点が定まっていない目にふらふらな歩き方
段々と黒く変色していく皮膚を見るとまたドゥルモンはふと呟く
「・・・予想通りといえば予想通りの結果だが、多少のイレギュラーくらいは起こって欲しかったものだな」
「ああああああああああ!!!!!」
「良い悲鳴なのは認めるが・・・少し見飽きた。骨が弾け飛び、地肉を撒き散らす光景もインパクトがあれど飽きるもの・・・さてと、あとは君たちの健闘を祈ることにしよう」
マタドゥルモンが姿を消し、残されたのは異形となりつつも人の面影を残す怪物と騎士たちだけだった
「・・・以前に比べれば検証は複雑だが、それでも調べるべきことは明確だった。以前は純粋な人間に直接力を注ぐことによる人体の崩壊、変貌を観察してきた。だが今回は既にデジモンとしての力を宿している者に力を注ぎ込む実験・・・貴重な駒を使って見つけたイレギュラーの検証をするために」
ティーカップを置き、ビスケットを一枚口に含む
「結果はまるでビスケットのようだ。デジモンとデジモンに挟まれたことによって中身のペーストがどうなるのか、大抵は拒絶反応でぐちゃぐちゃになるのだろう。凹凸が噛み合わなければバラバラになる。だが、ごく一部は融和か否か、噛み合うと凄まじい力を発揮する。これはさらなる観測、検証が必要なんだろうな。・・・まるで光と闇のようだな」
小さく笑い、闇へと溶け込む
「まあ混ぜれば拒絶反応でキラーマシンとなる。直接見なくとも、結果は見えている。さてと、再び観察を始めるとしよう」
前回の彼岸送りに続いて感想を書かせて頂きます、夏P(ナッピー)です。
最初にグランドラクモンの名前が出た時点で既に警戒していましたが、一応今の姿はマタドゥルモンとのこと。自分のことを完全体と卑下しつつ「居城で何もしていなかったと思ったか?」とまで言う辺り、心意気はグランドラクモンのままっぽくて素敵。ベルセルクソードといえばサイスルで何故か即死技扱いを受けた大技なのにヒュンヒュン躱されるとは……そしてファッ!? 人間!? 時のオカリナでナボールがアイアンナック化してたみたいな奴か!?
というわけで、この時点で心がパニックでしたが、つまりロードナイトモンが戦力として連れていた20体全部人間ってこと……? ロードナイトモン様といえばウイルス種なのも込みで普通にバンバン部下ごと始末していくようなイメージがありましたが、このロードナイトモンは(人間だから?)部下を巻き込まないよう企図したりと心優しい。
最後のビスケット好きは誰だ……!? キラーマシンと言われて最初に浮かんだのがドラクエのキラーマシンでつまりガードロモンorメカノリモンだったのは内緒。
それではこの辺で感想とさせて頂きます。
どうも、今回は企画にご参加いただいて本当にありがとうございますてとちんさん。
そして結局感想を送るのがここまで遅れてしまって申し訳ありません……。
いつぞやの(企画とは関係無く)ハロウィンに投稿されたお話と同じ世界線……のそれと思わしき吸血鬼王氏と、ロードナイトモン率いる騎士団の対決……の果てになにやらパンデミック(?)の様相。
なるほど、わからん(ぇー)。
いや、ある程度の推測は出来るのですがこの話だけではわからない事が多すぎて……要するに騎士王たちはグランドラクモンを討伐するにあたって現実世界で活動するために人間の体を用いていて、戦闘中かそれ以前かにグランドラクモンが『実験』のために何かしら仕込んで暴走させて……むむむ? これは……まだまだ続編があるじゃな?(名推理)
それでは、今回の感想はここまでに。
まぁ何はともあれ、企画作品を投稿していただいた時点でありがたいです。重ね重ね、今回は企画へのご参加ありがとうございました。