『牛鬼の首』
作・森川 美魚
(緞帳)
(鈴の音)
男:ああ、鈴だ。また鈴の音だ。
(男、上手袖より登場。駆けこむようにして、下手側のサスペンションライト(以下、サス)へ)
男:(耳を塞いで頭を抱えながら)俺が何をしたって言うんだ。誰にだって、経験くらいはあるだろう。(客席側を向いて)なあ、そこのあんた。見たところ、学生さんだな? (クラスメイト×)友達と、怖い話で盛り上がった事はあるか? あるよな?(別の観客の方を向いて)そっちのあんたは? なあ? あるだろう?
……そうだ。誰でもやるような事じゃないか。ホラー映画の馬鹿な若者みたいに、黴臭い田舎町の頭のおかしい因習を貶したでもない。しめ縄の向こうに忍び込んでガラクタみたいなご神体を壊したでもない。ましてや、人さまの恨みをかったりだとか、傷付けただとか--殺した、だとか。そんな真似は誓ってしちゃいないんだ! なのに、なのに
(鈴の音)
男:ひいっ!(腰を抜かしてその場にへたり込む)
(鈴の音を2回 その後、猫の鳴き声)
男:(上手側を向いて、視線を落とす)はあ、はあ、ね、猫……紛らわしいだろうが!
(男、サスの光の外に身を乗り出して、ものを奪い取るような仕草)
(驚いた猫の声)
(男、鈴を拾ってサスの下に全身を戻す)
※ここで使う鈴は小道具として舞台上に先に置いておく。蹴ったり動かしたりしないように、注意。
(男、しばらく呆然と鈴を見つめる。次第に蹲り、泣き始める)
男:う、うう……。どうして、どうしてこんな事に。死にたくない。まだ死にたくないよ……。
(男、舞台に鈴を持った手を叩きつけ、そのまま泣き続ける)
(男、再び拳で舞台を叩く。音響はそれを合図に鈴の音を鳴らす)
(男、泣くのを止めて動きを止め、数秒後、顔を上げる)
男:ああ、そうだ。ひょっとして、ひょっとすると。俺は助かるかもしれない。だって、そうだ。あいつは。あいつはまだ生きているじゃないか。(身体を起こす)そうだ。話したあいつは生きていて、聞いた俺ばかりが死ぬだなんて、そんなの、道理が通らねえ。
(男、這い寄るように前へ(舞台から落ちないように)。客席を見渡す)
男:なあ、あんたら。ここはひとつ、人助けだと思って、聞いちゃくれないか。……いや、おかしな真似なんてしやしねぇよ。話を、話を聞いてもらうだけさ。きっと、面白いと思うぜ? なんたって、あんたら。わざわざこんなところに来るくらいなんだ。
(サス、徐々に光を落とす)
(ホリゾント、暗い青)
男:好きなんだろう、怖い話。聞いていけよ。
(ストップモーション)
(舞台照明がシルエットになったのを確認してから)
男:『牛鬼の首』っていうんだ、この話は。
(暗転)
(鈴の音)
*
「じゃあさ、ホラーとかいいんじゃない? 低予算ホラー!」
そんなに大声を出さなくても、お前の声は最初から蝉になんか負けちゃいねぇよと俺は眉を潜めた。
だが、美魚(ミオ)の提案自体には概ね賛成だった。元よりアクセルべた踏みの見切り発車。俺達のささやかな『反乱』には、最初から行くアテも大義も無く、で、あれば、高尚な目的を掲げ品の良い古典劇を手本にしがちな顧問に対抗するには、むしろ安っぽくて俗っぽい怪奇モノが妥当なようにも思えて。
「しかし侮るなかれ! POV方式ホラーがいまや手垢がつく程乱用されているのは、低予算ながら世界的大ヒットをかました作品があったから! さらにさらに、パニックサメ映画の金字塔だって、セットの完成が遅れたのを逆手に取って、前半は全くサメを出さないままに「怯える人々」ばかりを撮って逆に観客の恐怖を煽る煽る! ……ようは、魅せ方次第で、エラソーな題材使わなくたって、みんなに面白がってもらえる作品は作れる、ってハナシ!」
「そうそう。問題は一高校生に過ぎない俺らが、知識も技術も無しにそんな大それた傑作を作れるか、って所なんだがな」
「わっはっは、ほんとそれなー!」
美魚は豪快に笑って、俺は肩を竦めた。
「ま、やってみようぜ。案外素人の頭で作った方が、馴染みがあるからウケるかもしれない」
「その意気だぜ青少年。とりま、お祝いをしよう!」
「何にだよ」
「方針が決まった事に!」
それから、と。
彼女は脇に置いていたスポーツ飲料のペットボトルを掲げる。
「私達の、多分輝かしき船出に、乾杯!」
「……乾杯」
そんなノリノリになる事か? と思わなくも無かったが、仕方が無いので、ノってやる。
なにせ、美魚はこれからの戦友で、そして普通に、友達なのだ。
俺達は、ペットボトルの側面を、中身がちゃぽんと揺れる音と共にぶつけ合わせた。
講堂の正面。
燦々と日差しの降り注ぐ、夏休みの真っただ中。
俺と美魚は、演劇部部員。
演劇部の、演劇部嫌い同盟の同志だった。
*
自転車通学が可能な範囲内にある公立高校の中で、ここの演劇部が一番クオリティが高いと聞いたから。というのが、今の高校に進学した理由だった。
しかし蓋を開けてみれば、ここの演劇部は部活動とは名ばかりの、演劇部顧問の個人劇団。
脚本・演出は全て顧問。自分の祖父の事をいちいち「おじいさま」と呼んだりする程度には育ちの良さを伺わせるこの英語教師は当たり前のようにシェイクスピア作品に傾倒していて、だから、その手の、妙に意識の高い舞台しか、俺達はやらせてもらえなかった。
分かる者には良さが解る--ようするに、春と秋に行われる大会の審査員にはウケるように作られた物語は、俺のような青二才にはオチの意味さえ図りかねるハナシばかり。
当初は何度も自分のセンスを疑いもしたが、舞台後に回収される同年代向けのアンケート用紙には「よくわからなかった」と一言添えられている事がほどんどで、どうやら俺の頭は引き続きまともでいてくれているらしい。
俺は、そんな大人だけが楽しい「よくわからない」ものをやりたいがために演劇部に入ったんじゃない。
素人なりに1つの舞台を1から作り上げて、自分では無い誰かを思いっきり演じて、見たい人にただただ単純に「面白かった」と手を叩いてほしかっただけなのだ。
なのに
「まめみむめもまも、まめみむめもまも、まめみ……」
講堂の出入り口。下駄箱の周りをゆっくりと歩き回りながら1人、ま行の発音トレーニングに勤しむ。
さ行とは行とま行は油断すると発声時にすぐひっかかりが出るので、とりあえずこれをやっていれば周囲からとやかく言われる事は無かった。
今回俺に割り振られた役は、通行人Cとデンマーク王子ハムレットの亡き父王と、それからオープニング時のバックダンサー。
台詞があるのは通行人Cだけで、あとは動きでの表現となる。この足運びも、ハムレットの前で舞台を横切っていく亡王の練習の一環だ。老王の訴えは、ハムレット役が勝手に解説してくれる手はずになっている。
ダンスはどうせ後で他の部員たちと合わせてやるので、その時に。……いや、本音を言えば、踊るのは嫌いなのだ。うちの高校のダンス部は陽キャの皮被ったチンピラの寄せ集めで、そのクセ(だからこそ、かもしれないが)文化祭では観客の視線を独占する連中は、俺の中では敵同然。あんなやつらと同じような真似をしていると思うと、ハッキリ言って、癪に障る。
(……文化祭、か)
ふとその単語を繰り返して、俺はさらに憂鬱になった。
県大会が、文化祭の1週間後に控えているのだ。
故に顧問の認識では「文化祭は県大会のリハーサル」となっており、専用の脚本等は用意されていない。俺達は顧問謹製の小難しい脚本を演じねばならなかったし、当然のように、ウケは悪かった。
それでも、そんな事にかまけている場合では無い。というのが顧問の弁で、部員はクラス別で開催される劇で役割を持つ事すら認められていない。
コイツ、高校生の青春を何だと思っているのだろう。と俺は内心憤っていたが、顧問の次に力のある部長と副部長は顧問に心酔していて、だから、誰かが何かを言い出せる雰囲気には、とてもならなくて。
「何だ、今の音は! ……今の音。い、ま、の、お、と。い、ま。ま、ま……」
通行人Cの台詞を、音に区切ったりしながら繰り返す。
別に、端役を振られる事が嫌なんじゃない。台詞が多い役だけが上等だとは思っていない。
だけど気乗りもしない舞台のための練習はこの後2時間は続くのだ。それの繰り返しが、あと3ヶ月。
「何だ、今の音は!」と宣いながら下駄箱前を歩き続けて潰すには、いささか長過ぎると辟易しても許されるだろう。
加えて6月の、むしむしと汗ばむ空気は、俺の嫌気を助長するばかりだった。
「なんだ、いまのおと、おと……」
「あっ、ごめん。台詞の練習中?」
と、鈴のようによく通る声を背後からかけられて、俺は脚本に落としていた視線を上げて、振り返る。
そこに居たのは、同級生の森川 美魚で。
「えっと……もうダンス練習?」
「ううん、衣装合わせ! ちょっと来てもらって良い?」
美魚は裏方担当の部員。所作は静かで、気配が無く、いつも突然現れるような印象を受けるのに、声だけは本当に大きい奴だ。今だって相応にびっくりさせられた。
しかし言葉はこんなにしっかり耳に届いているのに、彼女の言葉に心当たりが思い浮かばず、俺は小さく首を傾げた。
合わせる程の衣装、何かあったっけか。
もう、大まかには決まってた筈なんだけれど。
とはいえ従わない理由も無い。
俺は、美魚の後について、学校全体の共用スペースである講堂の2階にある、演劇部の厳密な意味での部室--先輩達から寄贈された衣装や小道具置き場兼、裏方担当部員たちの作業部屋--に、足を踏み入れる。
低い丸机の上に、美魚の言う『衣装』とやらは、乗っていた。
「え? これ、手甲?」
「そ! いわゆるガンドレット!」
黒い手袋に段ボールを張り合わせて作られたそれは、見た目が見た目なだけに手作り感満載ではあるものの、デザインや構造そのものは鎧騎士の腕回りとなんら遜色無い。
「ほら、手ってモロに年齢出るじゃん。手袋使おうかって話は出てたんだけど、紛いなりにも王様が、それだけっていうのも味気ないでしょ? だから、作ってみたの。まだ顧問に許可は取ってないけど、このくらい遊ばせてもらわなきゃ私もやってられないっていうか」
「え、すごいじゃん。これ、森川さんが作ったんだ」
「美魚でいいよ。タメだし、同じ部活の仲間じゃん。それに君は、どうやら見る眼がある!」
へへーん、と自慢げに笑いながら、ガンドレットを手に取った美魚は、見せびらかすようにしてそれを俺の方へと突き出す。
「ホントはもっと、こういうの作りたいんだけど……先生の脚本って、そんな雰囲気じゃないじゃん。今回は劇中劇にハムレットがあるから、まだやりがいあるけどね」
「これ、先生にはナイショだよ」と、美魚は取って付けたように舌を出す。
言わないよ、と。対して俺は、くたびれたような声が出た。
「俺だって、もっとこういうのを付けててもいいような、普通の話をやってみたいよ」
そして、ひょっとすると初めて、この部活に対する愚痴を聞いて、気が緩んでしまったのだろう。
つい口にした言葉にハッと我に返った時には、美魚はぱちくりと、目を瞬いていて。
「……」
「えっ、と……」
お前の話を内緒にする代わりに、俺の失言も黙っていてほしい。
そう、持ちかけるべきかと、口を開きかけて――
次の瞬間、美魚はずい、と俺の耳元に顔を寄せ、
「ねえ、この後さ、時間ある?」
自分の声の大きさを自覚しているのか。他には誰にも聞かれないよう、極限まで潜めたその声で、そんな言葉を、囁いた。
「……お、おう」
女子に、そんな至近距離で話しかけられた事は生まれてこの方初めてで
ただでさえ高温多湿に湯だっていた頬から絞り出すように、俺は辛うじて、肯定の言葉を息に乗せて吐き出すのだった。
これが、美魚と俺が手を組んだきっかけ。
*
美魚がこの高校に進学したのも、ここが自転車で通える範囲内にある高校の中で、一番演劇部の評判が良かったからなのだそうだ。
「なのに、蓋を開けてみたらびっくり仰天、顧問の私物劇団かってーの!」
近くのカラオケ屋。ワンドリンクの1時間コース。
なけなしの小遣いを出し合って頼んだポテト盛りをアテにちびちびとソフトドリンクのグラスを傾けながら、美魚が酔っ払いを装ってくだを巻く。
「私、本当は脚本がやりたかったんだよね。なんなら演出も。だけど、生徒がそれやらせてもらえるのって、卒業公演の時だけって話じゃん。聞いてないよ、もう……」
これまで演者としてやりたい舞台をやらせてもらえないと肩を落としていた訳だが、裏方、もっと言うと脚本家志望者は、さらに悲惨であったらしい。
そも、卒業公演は、3年生全体の「やりたい事」を総括して脚本を作ると聞いている。思い通りの1本なんて、どちらにせよ出来たものではないのだろう。
「だからせめて、評価だけでもしてほしいって、コレ」
ばさ、と。美魚はエナメルバッグから取り出した紙の束を、机の上に投げ置いた。
一番上の紙には、パソコンのWord機能で試行錯誤した事が滲み出る、辛うじておしゃれっぽく加工された色付き影付き斜め文字の明朝体で『空耳虫』と題が打たれている。
「見せたの、顧問に」
「って事は、脚本?」
「そ! ……でも、読んですらもらえなかった。テスト作成とシェイクスピアの翻訳に忙しいから、あなたも今は学生の本分に集中しなさい、って。テストはしゃーないけど、シェイクスピアは先生が好きでやってるんじゃん! そこで著作権法を順守する大人力があるなら、子供に経験の場を設けてもバチは当たらないんじゃないですかー!?」
唐突にマイクの電源をonにして、「ですかーですかーですかー」とセルフエコーにエコーをかける美魚。
……俺はその傍らで、思わず美魚の書いたという脚本を取った。
「なあ、えっと……美魚。これ」
「読んでいいよ。っていうか、読んで欲しくて出した」
「……」
「読んで」
促されて。
俺は紙束のページをめくった。
それは、自分の事を蜘蛛だと思って虫ばかりを食べる娘と、彼女になんとしても普通の食事をさせたいと試みる青年の物語だった。
青年は一計を案じ、架空の虫--人々に空耳を聞かせる眼に見えない虫・空耳虫の話を娘に語り聞かせ、案の定空耳虫を食べてみたいと願った彼女に、そのための下準備だと一般的な食事を覚えさせていく……と、まあ、大まかなストーリーはそんな感じである。
なんとなく聞いたような話ではあるし、所々に素人特有の演出の拙さが見え隠れしている。
だけど美魚の言葉選びは高校生にしては巧妙で、会話のテンポも悪くない。コメディチックなやりとりと奇妙な世界観は、けして読んでいて嫌になるようなものではなかった。
そして何より、最後には2人はお互いの在り方を認め合って、少女の照れ隠しの言葉を青年が空耳と勘違いして終わる……と、ありきたりながらも、解り易い大団円で――少なくとも、県大会に向けてやっている劇の、主人公がハムレットの有名な一説を命題のように客席に投げかけて終わるエンディングよりは、俺好みで。
「いいじゃん。面白いよ、これ」
「本当?」
さしもの美魚も、自分の作品を人に読んでもらうとなると不安だったようだ。
ほっと胸を撫で下ろしてから、彼女はにっと微笑んだ。
「食べ物の小道具作るのとか、ちょっと憧れなんだよね。食品サンプルとか好きだからさ。それで、何かと食事シーンの多い話に仕上げたのでした!」
「ちょっと難しそうだけどな、物を食べる演技って。でも、俺これやってみたいよ。ちょっと演じてみても良い?」
「もちろん! はは、よかった、カラオケ屋さんにしといて。相手役は私がやるよ。下手だけどそこは許してね。……どのページがいいかな?」
「ここがいいな、青年が娘に空耳虫のフリして話しかけるところ。誤魔化し方が雑で好きなんだ」
「あはは、何ソレ! でも作者冥利に尽きるな、そう言ってもらえると。……それじゃあ、早速。「あら、もしかして、今の声は」」
「「ヒャア! クモノオヒメサマニキカレテシマッタァ!」」
「ぶふっ、ちょっ、待って、待って! どこから出してるのその声!! ひー! うそでしょひひっ!?」
「「ヒョエエエエェ~タベナイデ~! オタスケヲォ~ヲォ~ヲォ~」」
「ひひひひひやめてマイクでエコーかけないで! あはははお腹痛いんだけど!?」
こうして、部活の方針に不満を持っていた者同士、俺達はあっという間に打ち解けて、それから、美魚の書いた脚本の話や演技の話、好きな本や映画の話。あとは普通に学校での出来事なんかでも盛り上がって。
一曲も歌なんて歌わないまま、すっかりしなびたポテトをだけは、退出時間ぎりぎりになってから半分ずつ一気に頬張って。
「あー、楽しかった! 高校入学してから一番楽しかったかも!」
「俺も、まさか美魚がこんなに面白いやつだとは思わなかったよ」
「それ、君が言う?」
店を出た俺達は、駐輪場でお互いの自転車に軽く体を預けながら、名残惜しむようにこの1時間の所感を述べるのだった。
帰り道は、逆方向なのだ。
「今日はありがとうね。……自分の書いたものが日の目を見られて、本当に嬉しかった」
「大袈裟だなぁ」
「そんな事無いよ。たった1人の読者でも、たった1人の演者でも。0と1とは大違いなんだから」
「それは一理ある。……台本を書いてもらわなきゃ、演技も始められないからな」
どちらともなく、にっと笑い合う。
別の客がこちらに歩いてくるのが見えて、俺達は自転車の鍵を回して、駐輪場を出た。
「ねえ、次は明日の昼休みにどう? 他にも考えてるネタがあるんだ」
「奇遇だな、俺は顧問の愚痴をまだ言い足りてない。俺、購買行くから、そこで落ち合おうぜ」
「了解! じゃあ」
また明日。
まともに言葉を交わしたのは、今日が初めてだったとはとても思えないくらい自然とその言葉が出て、
次の日も、また次の日も。同じ約束を交わして、毎日違う話をした。
俺達だけで文化祭に出ようと、先に言い出したのがどちらだったかは、忘れてしまったけれど。
そんな提案がどちらからともなく出てくるまでに、そう大した時間はかからなかった。
*
「『牛鬼の首』?」
「うん。『牛の首』は知ってる?」
部活終わりのカラオケボックス。
差し出された、昨日出来上がったばかりだという台本は、今回はご丁寧にファイリングされており、それだけに美魚の本気度が伺える。……最も、ファイル自体は彼女に預けていた俺の私物なのだが。
「えっと、聞いた事あるような。怖い話だっていうのは判るけど。都市伝説の一種だっけ?」
「ふふん、ただの都市伝説と侮るなかれ! 『牛の首』は、一説によれば江戸時代から存在する怪談なのです! というワケで、モチーフにしても著作権法は許してくれるでしょう。向こうが南蛮の古典なら、こっちは江戸っ子の粋を見せつけてぇ~、あっ、やろうじゃぁねぇかぁ!」
「よっ、オモダカヤ」
脚本を俺に手渡して空いた手を虚空に構え、美魚がそれっぽく見得を切る。俺も適当に知っている屋号を被せた。
たっぷり数秒付き合わされてから、美魚は「それでね」と、何事も無かったかのようにこちらへと向き直る。
「『牛の首』っていうのは、「怖過ぎて聞いた人は死んじゃうから誰も内容を知らない怪談」……ようするに、「ものすごく怖い話」っていう形骸だけが1人歩きしている都市伝説なの」
「なるほど。ホラーの題材としちゃぴったりだし――中身は無いようなもんだから、逆を言えば、好きなようにいじくれるって事だな?」
「流石。話が早くて助かるわ~」
そう言って次に美魚が出してきたのは、彼女のスマートフォン。
画面には、牛の頭と人に似た上半身、そして蜘蛛のような下半身を持つ、毒々しい色合いの怪物の絵が表示されていて。
「で。これは牛鬼?」
「そ。そのまま『牛の首』にするのも何だったからさ、ここはひとつ、大妖怪の力も借りてやろうじゃないかと思ってね。……好きなんだ、牛鬼。妖怪の中では一番ね」
「牛鬼推しって、正直初めて見たな。俺の知ってる妖怪好きは、みんな大体、巨大な一つ目のついた黒い球体みたいな妖怪が好きだったよ」
「多分だけどね~、君の友達が好きだったのは、その妖怪自体じゃなくて可愛いロリッ娘だったんじゃないかなぁ」
まあロリコンと叱られたい人達はさて置き、と、美魚は改めて、スマホの中の異形の妖怪を見下ろした。
「牛鬼ってね、各地に伝説があるの。「海からやってくる巨大な化け物はみんな牛鬼呼ばわりだったんじゃないか」って推測する学者さんもいるくらいなんだって」
Wikiに書いてあった、と自慢げに、美魚。
作品作りの資料にその手の情報サイトを使うなと、特に作品を作らせてはくれない顧問が言っていたので、これもある意味で反抗のつもりなのかもしれない。
「基本的には、人や家畜を襲うどうしようもない化け物なんだけど……でも、その中には恩を返すために人を助ける義理堅い牛鬼の話もあってさ。見た目は恐ろしい怪物でも、中身は案外人間に近いのかもしれないと思うと、ほら、なんだか親近感湧かない?」
わからなくはないかなと俺は笑った。
そして彼女の識る牛鬼像が、彼女の紡ぐ物語の原点になっているのかもしれないと思うと、なおの事、どこか惹かれるものがあった。
思い返せば、最初に見せてもらった『空耳虫』も、解り合えなかった2人が、最終的にはお互いを認め合うお話だった。
他に構想を聞かせてもらったり、実際に見せてもらったものにしてもそうだ。
思想や文化。果ては種族をも超えて。
誰かと誰かが解り合う話が、美魚の書きたい物語らしい。
「まっ、今回はホラーだから、どうしようもない化け物方面の牛鬼なんだけどね」
「でしょうね」
ただまあその辺はテーマ次第といったところか。
しかし裏を返せば、解り合う物語に造詣が深いからこそ、解り合えない怪物の描き方にもまた理解が生まれるのだろう。
いよいよ美魚に急かされて脚本を開けば--きっと、彼女の今持てる知識や技術をふんだんに詰め込んだのだろう。
そこに在ったのは、足元から虫の這い上がって来るような、じわじわと意地の悪い物語。
『牛の首』という空っぽの怪談に、『牛鬼』という幾つもの伝承が有る故におぼろげな怪異が上手い具合に噛み合って、場面を想像するだけで、恐怖に
そして、主人公--いや、ありふれた切っ掛けから思いがけず牛鬼に目を付けられた哀れな犠牲者。名前すら無い『男』を演じるのが、この俺だと思うと
俺が、こんなに面白い役を演じていいのだと思うと、興奮に
肌が、粟立った。
俺は、きっと、ずっと。
これをやりたかったのだ。
「主人公は君で当て書きしたから。多分、演じやすいと思う。演じやすいと、いいんだけど」
「演じるさ。演じたいんだ。いや、すげーよ美魚! こんな大役、3年の公演でも振ってもらえるかどうか」
「またまた大袈裟な! ふふ、でも、ありがとね」
美魚は眉でハの字を書きながら、いつもより少しだけ声のトーンを落とした。
「ちょっとだけ、不安だったんだ。私のやりたい事ばっかりになってるんじゃないかなって。それに、どこまでいってもシロートだもん。演出の安っぽさって、脚本から滲んじゃうからさ」
「そんなことねーよ。俺は、むしろこっちの方面はからきしだから……全部美魚に投げっぱなしになってるなって、正直、申し訳なかった」
そうなの? と美魚は笑い、
そうだよ! と俺も笑った。
思わぬ本音を曝し合って、お互い気が晴れたのだと思う。
俺達は、本音ですら無い作り話を、本気で演じ始めるのだった。
俺は牛鬼に目を付けられた哀れな男の台詞を読み上げて、
美魚は部屋の照明を点けたり落としたり、スマホを操作してSEを鳴らしたりしながら、出来得る限り舞台の照明や音響を再現してみせた。
最後に、俺は死にゆく男の悲鳴を上げて――
「……なんだろう、ここまで良かったのに、これだけどうもしっくりこなかったな」
非日常が、日常に戻ってしまう。
美魚もまた、部屋の照明を元の明るさに戻すと、うーんと首をひねっていた。
「カラオケボックスとはいえ人の居る所だから、遠慮しちゃってるんじゃない?」
「でも、本番はもっと人の居る所……に、なるといいんだけど。何にせよ舞台上でシャウトしなきゃいけないんだぜ? 多分、場所の問題って言うより……経験不足、だと思う」
「確かに、普段上げないもんね、こういう恐怖のあまりの「ぎゃー」って悲鳴」
どうしても「嘘っぽさ」が出てしまうのだ。
日常生活での恐怖体験なんて、クソでかい蜂に突進されて「うおっ」とか反応してしまう程度が精々である。
「どうしよう、代わりに咀嚼音的なSE入れるとか。もしくは直前の台詞から削って、シルエットで逃げ回る男をやってもらうとか?」
「いや、SEだと余計嘘っぽくなっちゃうし、シルエットは多分、うちの設備じゃ動き回ってる画は厳しいんじゃないかな。それに、イメージはできてるんだ。消え入るようにじゃなくて悲鳴をぶつ切りにして、男が牛鬼に喰われたのを表現したいんだよ。クソッ、美魚の脚本は完璧なのに……!」
「完璧じゃないよ、君と一緒。私も素人なんだから。高く買ってくれるのは嬉しいけど、脚本を買いかぶり過ぎて演出と演者が共倒れなんてかっこわるいでしょ? だから、ほい、コレ」
頭を抱える俺の手を、美魚は鞄から取り出した、なにやら細い物体で突く。
目をやってみると、それはまだ袋に入ったままの、新品の赤ペンだった。
「気付いたところとか、変えてほしいなと思うところがあったら、それでどんどん脚本に書き込んで欲しいの」
「? これ、消えないペンだろ? それに赤だと目立つぞ」
「だからいいんじゃない! 修正を更に修正する事になったとしても、「修正しようと思った何かがあった」ってトコロまでは消したくないんだよね」
そう言うと、美魚は筆箱から自分の赤ペンを取り出して、最後の悲鳴の後に「叫びきらずぶつ切りに」と付け足す。
「……君はさっき「美魚に丸投げで悪い」って言ってたけど、ぶっちゃけ脚本作りはここからが本番だよ! 演者視点で引っかかったところとか、どんどんツッコんでもらわなきゃ」
真の意味での完璧にはならないとしても
見てくれた人が、惰性では無く心から閉幕に手を叩いてくれる舞台を作る。
それが、私達のやりたい演劇じゃない? と、美魚はどこか悪戯っぽく、にっと笑うのだった。
「……そうだな」
アンケートに「よくわからない」と書かれて返って来るのが、不満だった。
演劇というひとつのジャンルそのものに造詣が深い人だけに、じゃなくて、見た人が、ただ、楽しんでくれる、心を動かしてくれる作品が「俺のやりたい物語」なのだ。
そして演劇である以上、演じる者がいなければ、どれだけ出来が良かろうとも、脚本は台詞ばかりの本に過ぎない。
俺は脚本のページをいくらか戻して、一度上手の袖にはけるシーンに「下手側の方がいいかも」と書き込んだ。
「直前の動き的に、こっちにはけた方が自然かなと思うんだ。実際に動いてみなきゃわかんないけど、だからこそ両方試したいっていうか」
「ん! 了解した。今度鍵の返却私の当番だから、その時こっそり試してみよう」
うん、と頷いてから。
でも、と俺は、もう一度最後のページを開いた。
「ここの悲鳴は、やっぱり、俺が練習してなんとかするべきだと思う。したいんだ」
「……そっか。そこまで言うなら、役者さんに頑張ってもらわなきゃだね」
ただ、問題の練習に関しては――と、俺も美魚も、首をひねる。
「「何だ、今の音は!」の前に、悲鳴を入れるとか? それで練習するとかどうよ」
「通行人Aが真っ先に叫ぶんだよな……」
「そうだった。うーん。悲鳴の練習、悲鳴の練習かぁ……」
ぶつぶつと呟きながら、思案顔の美魚。
しばらくして、彼女はぱっと顔を上げた。
瞳が、きらきらと光を帯びているようにも見える。
「あのさ、今度の休みって、空いてたりする?」
*
「キャー!!」
お前が上げてどうするんだと思ったが、一応練習の一環だという事を思い出して、俺も負けじと腹から声を出す。
演劇部は腹式呼吸による声量が命。腹式呼吸には腹筋が必須。そして腹筋の後には3倍の背筋をしなければ筋肉の見栄えが悪くなる。あとダンスに体幹が必要だから足腰も鍛えろというのが顧問の弁で、実のところ演劇部というのは、文化部の顔をした運動部である。
と、言う訳で。鍛えているので、声は出た。
だが、恐怖の悲鳴には程遠い。スリル自体は滅茶苦茶あるのだが、いかんせん俺達は、楽しんでいた。
久方ぶりの、部活の休み。
俺と美魚は、県外の遊園地に来ていた。
「久々に乗ったけど楽しいね! なかなかいい声出てたでしょ」
「だから、お前が叫んでどうすんだってーの」
「でも、ジェットコースターなら気兼ねなく叫べるでしょ? ほら、次はお化け屋敷行こう。お化け屋敷で恐怖を研究して、次のジェットコースター搭乗の際にその成果をお披露目するのです!」
欠片も色気の無い、動きやすそうなTシャツとジーンズ姿の美魚は、しかし制服姿しか知らない俺には少しばかり新鮮で、率直にそう伝えると「君の私服姿は舞台で見慣れてるから全く新鮮味が無いね」と笑われてしまった。
「もしかして、デートのつもりだった? んもう、最初にそう言ってくれたら、もっと背中の開いてるせくしぃな服着て来てあげたのに」
「まさか。むしろそんな雰囲気じゃ無くて良かったよ」
「あはは、私も良かったよ。君がアオハルと色恋沙汰を混同して考えるようなヤツじゃなくて。そんな奴には青春ならぬ文春砲です。どっかーん!」
美魚のフリだけの拳が、俺の脇腹を突く。
俺は「ぐあー」と叫びながら吹っ飛んだ。わざとらしい演技だったが、今日の美魚にはすこぶる好評だった。
最初の最初に耳元で囁かれた時には顔を真っ赤にしていた記憶があるが、今同じ事をされたとしても、俺は同じ反応は出来ないだろう。
美魚は、友達だ。
戦友であり
……親友だと、向こうもそう思ってくれていたらいいな、と。そういう意味では、特別だったりもするのだけれど。
そうやって、馬鹿やりながらお化け屋敷を回って。いい歳こいて2人してビビり散らかして。
絶叫系をあるだけ巡って、乗る度に思いっきり叫びまわして。
演技の研究と銘打ってヒーローショーで名前も知らないヒーローを応援してみたり、渇いた喉に割高な値段を要求する遊園地の自販機に憤慨してみたり。
1日中、俺達は遊び倒した。
「本当に楽しかった~っ!」
最寄駅の改札を抜けるなり、美魚がうーんと身体を伸ばす。
だな、と、俺も相槌を打った。
夏休みとはいえ平日なのと、閉園時間より多少余裕を持って出てきたのが功を奏したのか、ホームは多少混んではいるが、満員電車ですし詰めといった事態には陥らずに済みそうである。
俺達が最前列なので、ひょっとすると、運が良ければ、座れるかもしれない。
「で、どう? 今日一日『練習』しまくって、悲鳴のコツはつかめたカンジ?」
「んー……うん。少なくとも、前より声は出せるんじゃないかな」
それに、悲鳴は兎も角、お化け屋敷が意外と本格的で、恐怖を感じた時の心の動きはヒントを掴めたかもしれないと述べると、それは良かったと美魚は微笑む。
アナウンスが入った。
電車が通過するらしい。俺達が乗るのは、この次の電車だ。
「あのさ」
名残惜しむように、しかしどこか晴れやかな様子で、美魚が口を開く。
「こんな事言ったら、君は怒るかもしれないけど……最近、部活で顧問の劇やるの、実は前程嫌じゃないんだ」
「……うん、俺も」
そっか
良かった。と。美魚は前を見て、にっと笑う。
それはきっと、やりたい劇じゃなかったとしても、一緒に劇を作りたい友達が出来たからだろう。
最近、周りからの演技の評価も良くなってきた。台詞がひとことしか無くても、ただ、舞台を歩くだけでも。褒められて悪い気はしない。
美魚の方も作った小道具の評判が良くて、ハムレットの相手役であるオフィーリアの衣装にも、彼女が手を加える許可が下りたらしい。
俺達はこの夏、めいっぱい部活に叛逆するための脚本を作るつもりでいるけれど
だけどもし、夏休みが明けて、文化祭の参加書類を提出する段階で、顧問にそれを取り下げられたとしても――きっと、俺も、美魚も、後悔はしないだろう。
その時はまた、カラオケ屋で1ドリンクと1品だけを頼りに、2人きりの公演をやるまでだ。
そう思える程度には、俺達の青春は、急に色鮮やかに輝き始めていて
だから、明日は、もっと楽しくなって
『牛鬼の首』の脚本も、俺の演技も、もっと完成に近づいて
「え?」
突然、背中を押された。
電車がホームに、入ってくるのが見えた。
*
死のうと思っていた。
線路に飛び込んで自殺しようと思っていたら、目の前にい仲睦まじくしているカップルがいて、腹が立った。
自分がこんなに苦しんでいるのに、当たり前みたいに幸せそうにしている奴らが居るのが許せなかった。
そう思ったら、身体が勝手に動いていた。
犯人の弁を纏めるとそんな感じで、俺がそれを知ったのは、美魚の葬式が終わった後だった。
美魚は、電車に轢かれて死んだそうだ。
辺りは血の川のようになって、身体も碌に、残らなかったのだそうだ。
俺は電車の側面に接触して、ホーム側に弾かれて、どこかで強く頭を打ったらしい。
数日間、目が覚めなくて。覚めてからも、ずっと悪い夢の中に居たようだ。
病室に押しかけてくる大人たちは、そんな俺の今の気持ちを、恋人を失った俺の気持ちを教えてくれと何人もが何度もせがんで来て。
その度に、俺は、彼女は恋人では無く友達だったのだと、うわ言のように、繰り返していたようである。
*
牛鬼が見え始めたのは、いつの頃からだっただろう。
退院を許され、マスコミや出歯亀の見舞客も激減し、ようするに、美魚の死に対する興味が、世間から薄れ始めた頃だった筈だから。それはきっと、8月の終わりの頃だったのではないだろうか。
ふと、唐突に蝉の声が止んだと思ったら、鈴の音が聞こえたような気がして。
そうして顔を上げたら、その怪物が、佇んでいたのだ。
腐ったような紫色の牛の上半身。黴の緑色を模した鬣。
赤いラインの模様が走る毒蜘蛛の下半身にも頭がついていて、それは鋭い牙の覗く大口を常に開いて見せつけていた。
それは、美魚がかつて見せてくれた牛鬼だった。
「……ずっと、疑問だったんだ」
俺は日がな一日眺め続けていた美魚謹製の脚本をようやく閉じて、目の前の牛鬼へと語りかける。
「牛鬼って言えば、牛の頭と蜘蛛の身体がくっついたような怪物なのに。美魚の見せてくれたアレは。……お前は、そういうのじゃなかったから」
牛鬼は、何も言わない。
微動だにもしない。
なのに時折、ちりん、ちりんと、牛鬼の角の先から垂れる金の鈴が、美しい音を立てている。
鈴の音は、美魚の声のようによく通った。
「なあ、ひょっとして。美魚は牛鬼だったんじゃないのか?」
問いかける。
牛鬼が、何も言って返さないのを良い事に。
「美魚が言ってた。一飯の恩を返すために、人を助けた牛鬼の話……人を助けた牛鬼は、代償に、身体が溶けて、死んでしまうんだって」
血の川のようだと
その様子は、例えられたらしい。
「なあ、あの時背中を押されたのは、俺だった筈だ。俺だけだった筈なんだ。死ぬのは、俺だった筈なのに」
現に俺は、電車と接触自体はしているのだ。
咄嗟に俺を引き寄せた反動で、今度は美魚が投げ出されたとでも言うのだろうか。きっとそう考える方が妥当なのだろう。
だけど、納得がいかなかった。そうはならないだろうと、頭がその展開を思い描く事を拒否し続けていた。
「どうして俺の代わりに美魚が死んだ? どうして美魚の家族は娘を死なせた俺をなじりに来ない? どうして美魚の身体は残らなかった? どうして――美魚が教えてくれた牛鬼は、お前なんだ」
牛鬼の顔には布が垂れ下がっていて、彼と目を合わせる事は出来ない。
しかしご丁寧にもその布に書かれたかの怪異の名が、答えを物語っているようだと、そう、判断する他に無くて。
「美魚は、牛鬼だったんじゃないのか?」
思想や文化。果ては種族をも超えて。
誰かと誰かが解り合う話を創りたがっていたのは--彼女が、そういうものでありたいと、願っていたからではないのかと。
俺は、ただ。訊ねたかったのだ。
「……」
ちりん、と。また小気味良い音が響いて。
刹那、思い出したかのように、蝉が夏の終わりを足掻くみたいに、勢いよく声を上げ始めた。
いつ、落としたのだろう。
牛鬼の居たところには、俺のスマホが落ちていて。
ひょっとすると、投げたのかもしれない。文字の向こうに透いて見える、同級生からの好奇や同情が嫌になって。
だがその時、俺は立ち上がって歩み寄り、しばらくぶりにスマホを手に取った。
顔認証によって拾い上げるなりセキュリティが解除されたロック画面をスワイプで流すと、画面の向こうには、当たり前のように先の牛鬼が待ち構えていて。
「……」
それは、美魚から送られてきた、脚本の理解度を上げるための資料だった。
比較的最近に出回ったという、牛鬼の怪談話。
『牛鬼の首』のベースのひとつとなったその物語では、しかし『牛の首』から取り入れた要素のように、人が死んでしまうのではなく――
*
俺は次の日、あの遊園地の最寄り駅を訪れた。
外出の理由は、せめて、美魚の死んだ場所で手を合わせたいと。そんなものだった気がする。
よくもまあ、口から出まかせが出来たものだ。
仕方が無い。俺はどうやら、まだまだ役者でいる気のようだったから。
駅は夏休みの最後を謳歌しにやって来た学生や家族連れでそれなりの賑わいを見せていて、ここで誰かが死んだなんて、たちの悪い怪談話以上には、きっと誰も考えもしないだろう。
ホームの向こうに鈴の音を鳴らす牛鬼が見えるだなんて、そんなこと。誰も、信じてはくれないように。
駅を出てすぐ、線路への侵入を防ぐフェンス沿いに、俺は目を皿のようにして、目的のものを探し続けた。
途中、アルミを巻いた花用ではない瓶に粗末な仏花が備えられているのを見つけたが、両親に言ったように、手を合わせるような真似はしなかった。
美魚はこんなところで死んだわけじゃない。
美魚は、こんなところで死にたかったんじゃない。
こんなところに花を供えられたら、まるで彼女がここからフェンスを乗り越えて、自分から電車に飛び込んだみたいじゃないか。
だが、何の因果か。皮肉なのか。
俺が目的の物を見つけたのは、その花の、ほんのすぐ近くで。
目的の物を手にしたからか。
遠巻きに俺を眺めていた牛鬼は、気が付けば俺の視界の端、ぎりぎり姿を確認できる位置から、俺の事を見下ろしていて。
で、あれば。きっと間違いは無いのだろう。
俺が拾ったのは、石の欠片だった。
巻き上げられて、ここまで跳ね飛ばされたのだろう。
石は、渇いて赤茶けた液体に塗れていた。
牛鬼の血だと、そう思う事にした。
*
文化祭への出演は、思ったよりもすんなりと受理された。
顧問が俺を止めなかったのは、彼女の脚本を読まずに突き返したうしろめたさ故か、あるいは俺が長らく休んでいる間に、代役をきっちりと立てていたからか。
部員たちも、気持ち悪いくらい俺に協力的だった。
フィクションの登場人物にも負けず劣らず、すっかり悲劇の主人公じみた存在となった俺にスポットライトを当てるのには、きっと胸が躍ったに違いない。
まあ、よかった。
いくら演技を練習したとしても、美魚の考えてくれた素晴らしい演出を実行するには、どうしても1人の手では足りなかった訳だから。
案外、牛鬼も頼めば手伝ってくれたかもしれない。
……なんて。いいや、どうだろう。彼らは人を助けると死んでしまうから、そんな親切心さえ、命取りになるのかもしれないし。
かくして舞台は整い、時は訪れ、幕は上がった。
客の入りは上々だった。
普段は演劇部の番を屋台巡りの時間と思い込んでいるような連中も、「亡くなった恋人の書いた脚本を演じる学生」というキャッチーさには惹かれたのだろう。
直前のダンス部の発表と比べると空席は目立ったが、それ以上に客席の中央を陣取る牛鬼の方が目を引いて、俺としては、気にするほどの事ではないように思えた。
始まるなり、上手からサスに駆けこんで来た俺を見てクスクス笑ったり声を潜めて何かを話している奴も居たが、物語が進行するにつれて、ここに居るのが俺であって俺では無いと、理解させられたのだろう。
会場は、とても静かだった。
時折、鈴の音が響く以外は。
「……」
最後の場面転換。
鈴以外の音をまるで立てる事無く、暗転の暗がりの中、蜘蛛の脚で器用に観客たちを跨ぎながら、こちらにやって来た牛鬼が壇上に上がる。
俺は観客たちにも、照明や音響を操る部員たちにも気付かれないように気を付けながら、懐からあの日拾った、牛鬼の血がついた石の破片を取り出した。
少しだけ加工して、先を尖らせてある。
俺は石を握り締めて、手の平の奥へ、奥へと破片を喰い込ませた。
不思議と、痛みは感じなかった。
ぱっ、と。サスペンションライトの光が俺の頭上に落ちる。
背後の牛鬼が眩しそうに首を傾けて、角の鈴が、ちりんと揺れた。
*
(男、音響に合わせて手元の鈴を鳴らす仕草)
(俯いて、しばらくしてから顔を上げる)
男:これが、俺の聞いた話の全て。経験した事の全てだ。
(男、鈴を足元に投げる(※踏んだり舞台から落としたりしないように注意))
男:(くたびれたように)はあ、はは、ははははは。あんたら、聞こえるか? 鈴の音は聞こえるか? 聞こえないなら、俺の話をただの与太だと嗤ってくれ。
(数秒、沈黙)
男:ああ、静かだ。久しぶりに、静かだ。そうか、やっぱり、誰かに話せば良かったんだな。それとも、俺は夢を見ていたのかもしれない。だって、そうさ。おかしいじゃないか。聞けば牛鬼に憑り殺される話だなんて、そんなもの、存在する訳が無い。きっと、ただ怪談の恐ろしさに、あてられちまってただけなんだ。
(鈴の音)
(男は気付いていない(ふりをしている))
男:『牛の首』って怪談は、あんまりにも恐ろしいものだから、聞いただけで人が死んでしまう。そんな噂だけの物語に中身を詰めた野郎はとんでもない己惚れ屋だったんだろうさ。『牛の首』でなく、『牛鬼の首』と。そう、名付けたくらいなんだから。
(鈴の音)
男:(まくしたてるように)だっておかしいだろう? 言葉を介して感染するように人に憑りつく牛鬼だなんて、聞いた事が無ぇ! 俺だって色々調べたさ。牛鬼ってのは、人を襲う妖怪。それはわかる。だけど、話を聞いただけで相手を殺すだなんて、そんな、そんな話は
(鈴の音)
男:話は、見つからなかったんだ。だから、なあ。あんたら……聞こえてなんか、いねぇだろう?
(鈴の音)
男:鈴の音なんて鳴っちゃいないと、俺に、そう、当たり前の事実を教えてくれよ……。
(鈴の音 連続で3回)
男:ひぃっ!
(男、下手袖側を見て飛び退き、尻もちをつく)
男:違う、違う。これも幻だ。鈴の音と一緒で、幻だ。なあ、なあ? そうだよな?
(男、客席に問いかけながら、ゆっくりと後退る。視線はなるべく上の方で)
(鈴の音は等間隔で鳴らし続ける)
男:どうしてだ? あいつは生きているじゃないか。俺は話した。俺も話した! あいつと同じように、この『牛鬼の首』を語り聞かせてみせたじゃないか!
(男、尻もちの姿勢から這うような姿勢になって、舞台上を逃げ回る)
(男、ふと動きを止め、こわばった表情で恐る恐る背後を見上げる)
男:なあ、まさか。ひょっとして、お前。
(もう一度尻もちの姿勢に成り、じりじりと後退しながら、舞台の中央へ)
(少しずつ間隔を狭めながら鈴の音を連続で鳴らし続ける)
男:い、嫌だ、嫌だ。こっちに来ないでくれ! 俺を一体どうする気なんだ、俺達は友達だっただろう。やめてくれ。嫌だ、嫌だ!
(徐々に基本照明を落とし、ホリゾントを暗い青)
(男、舞台の中央で体勢を崩して動きを止める)
男:たすけ……ギャアアアアアアアアアア!!(叫びきらずぶつ切りに)
(ストップモーション)
(悲鳴と同時にホリゾントを赤にしてシルエット)
(鈴の音。一定間隔で、緞帳が降りきるまで)
男、嫌な音を立てながら身体を変貌させる。
男、舞台を降りる。
男、人を襲う。
異変に気付いた客席から悲鳴が上がる。構わず人を襲う。
男、牛鬼になる。
(緞帳)
俺は、美魚に会いに行く。
終
遅ればせながら、拝見しました。
まず最初にドドンッと効果音が付きそうなイラストからすごいインパクト!!
なるほどギュウキモンが出てくるのね?
あわよくば主人公がアニメみたいにギュウキモンになっちゃうのね?
そんなノリで読み始めて、演劇!高校生!顧問クソ!そして青春!!
そう、中盤は眩し過ぎて目を覆いたくなるくらいの青春シーンが!
やめろ、こいつは俺に効果抜群だ!!!
そしてその青春が突然の幕引き。
いきなり過ぎて、鈍器で頭を殴られた感じでした。
最後の舞台上のシーンはいろいろと想像が膨らみますが、読者に結末を委ねるということだったので、自分としては、
『全部が全部演劇だった』
に1票とさせてください。
全部が森川美魚作の『牛鬼の首』というお話だったと!!
お話以上に衝撃的だったのは快晴さんが元演劇部員だったことでしょうか。
なるほど、お話の書き方が一味違う理由に納得!
以上、楽しませていただきました。
失礼いたします~。
例えるなら、食べられる植物と称されたそれが口に含んだら予想以上に甘く、散々味わったところで「それ実は彼岸花だよ」と明かされ毒で悶えるけど最期に幸せな走馬灯を見るような、そんな作品だなと感じました。
う~んうまく例えられない……
おどろおどろしい演劇台本から始まり、かと思えば俺君達のあまりにも爽やかな青春描写が続き、でもって幸せの頂点で急転直下の戦友たる美魚ちゃんの死……そして残された俺君が一人で冒頭の続きを演じて最後には……と。
感情が何度も何度も揺さぶられて大変なことになっているはずなのに、終始続きが気になるワクワクで読む手が止まらなかったです。
最後の俺君に関しては、「美魚ちゃんの死を受け入れてこれからも素晴らしい演技を見せてほしい」という願望と「でも気づいちゃった以上受け入れるしかないんだよな……」というある種諦めみたいな感情がグルグル僕の中でこんがらがってえらいことになってました。
台本部分を赤字で色分けし、それをラストの締めに繋げていく構成力も圧巻の一言です。演劇部経験者の快晴さんだからこそのリアリティが際立っておりました。
世間より一足先に真冬の夜を味わったかのような、そんな文字通り「肌が、粟立った」ホラー小説でした。
あと美魚ちゃんはめちゃめちゃ可愛かったです。爆ぜろ俺君
これはアオハル、恋愛じゃないけど確かにアオハル──と思ってたらこれだよ! 夏P(ナッピー)です。
まだまだ役者でいる気のようだったから、の言の通り見事なまでに最後の最後まで役者だったのか俺。だってもうとっくにわかってたんだろうし答えは出てたんだろう? それでも舞台の最後までやり切った上で行った(往った? 逝った?)んだものな。タイムリーにも程があるギュウキモン、いやそう明言したわけでもない牛鬼(うしおに)をベースにこんな話が描けるんだなーと感服致しました。前半は「Wikiにそう書いてあった」でいやWiki頼りかいイイイイイイと笑ってたのにこんなことになるとは。背中の開いたせくしぃな服とかネタにしてた本人が背中どころか色々見えちまうことになってどうする、ジェットコースターやお化け屋敷のところまではキョンから佐々木との過去を聞いた時の古泉の如く「それはそれは学生時代の淡い思い出という奴ではないですか」と呆れた顔してたんだぞ俺。
事故現場で手を合わせるとこまでは、学校の怪談よろしく、最後に美魚さんが「忘れ物:私の首」とか現れたらどうしようとか警戒していたのにそんな予想もぶっ飛ばされていきました。最後は狂気だったのだろうか……いや、多分“俺”は正気のままだったんじゃねえかなと思うし思いたい。
冒頭とラストを脚本風に記す物語は稀に拝見しますが、ネット小説かつフォント変更可能なことを利用して改訂や推敲で表現するのその手があったか……。
それではこの辺で感想とさせて頂きます。
『牛鬼の首』大変楽しく読ませていただきました。
簡単ですが、感想をば。
勝てないな、と、思いました。
っていうのはですね、拝読した時には既に私も自分の企画用作品を書き上げていたわけなんですけれども、ああもう不戦敗でいいから投稿やめとこうかなという思いが過るくらいの敗北感でした。勝ち負けじゃないんで自分のも結局えーいと投稿しましたが、計量時点でKOですよこん畜生。何食ってたらこんなお話書けるんですか。
こういう表現が正しいのかわかりませんが、美しい話だったと思います。
色々歪んでるんです。思い通りにゆかない部活動、理不尽な死別、そして結末に至るまで。美魚と過ごした日々のキラキラがとても眩しくて、猶の事歪みが浮き上がって。
その歪みが最後に浮き上がり切る瞬間に、背筋が粟立つような美しさを感じてしまったのです。
頑張って言葉にしてみましょう。演劇をベースに、演じることと変貌することの境界が曖昧になる様を表現するっていうだけでゾクゾクするのに、そこに抜擢するデジモン、そして怪談のチョイスが最高でした(デジモンのチョイスが先かも?)。そして冒頭とクライマックスの台本部分が無茶苦茶いいアクセントになっていて、どこか観劇を鑑賞したような読後感もあり、それがとても新鮮でした。めちゃ良かった。
……なんか上手く語れてない気がするんですが私の語彙だとこれが限界ですね! とにかく! 良かった!!! です!!!!!(勢いでなんとかする)
快晴さんのこういう作品また読みてー! と思いの丈を書き綴ったところで、感想とさせていただきます。
素敵な作品、ありがとうございましたー!(叫びきらずぶつ切りに)
(緞帳)
俺は、快晴の腕を食いに行く。
虚構が現実を侵す。蝉時雨の幻聴が聴こえる程にそういう面白さに満ちた作品でした。
脚本的な書き方にその脚本を書き換える赤字。ギミック的な面白さもありつつ、それがまたホラーとして盛り上げる要素になっているとは……物語という現実がリアルタイムで塗り替えられていくような感覚は新鮮でした。
そして、敢えて友達と書いてヒロインと読ませる女、美魚。なんて眩しい魔性の女なんだ。
短くまとまりありませんが、これにて感想とさせていただきます。
私は昔からジャパニーズホラーの短編集が好きで、小説は勿論、映像作品も多く嗜むなどしてきましたが……貴作を読みながら、久しぶりあの時の感情が湧き出る湧き出る……!
かけがえのない日常からの転落を前にした胸のざわつきに吸い込まれ、静かに結末へと進んいく様、たくさんの意味を持つであろう赤い色、それに彩られた閉幕に息を飲みました。一つのホラー作品として本当に楽しませていただきました!
次作品も楽しみにしております!
組実
快晴さんの文章……うめ……うめ……
彼岸花の蕾が開きに参加して頂きありがとうございます。
主催のへりこにあんです。
和歌山の牛鬼とお彼岸の関連性に加えてまた彼岸花の別称からのアプローチもとなれば、これはギュウキモン=お彼岸と捉えてもいいのやもしれません。ギュウキモンは間違いなくお彼岸らしいデジモンと言えますね!
気を取り直して感想です。
表紙のギュウキモンの首が描かれた台本を自分の首にあてる図、後から見ればあからさまなまでにキュウキモン化を示唆しているのに初見だと雰囲気の良さに圧倒されて全く気づきませんでした。とにかく引き込まれる背景と合わせた色遣いが素敵です。
本編でも色の使い方がとても上手いなと思いました。話を読んでいる途中までは訂正の赤ペンで、しかし最終的にはそれまで人間だったのにそこから逸脱してギュウキモンになったことを示唆する表現に変わり、そこで起こっただろうことなんかと合わせると血の色のようにも感じられる。
青春部分の甘酸っぱさからの急展開、ホラー部分も背筋がゾクゾクしてたまりませんでした。
最後にあらためまして、彼岸花の蕾は開きに参加して頂きありがとうございます。大変面白く読ませて頂きました。
あとがき
愛媛県宇和島市では、7月22日~24日にうわじま牛鬼まつりという、『牛鬼』の名がついた山車を引いて回るお祭りが開催されるそうです。このようなお祭りがあることから、この期間は暫定的に「牛鬼が存在する期間」とする事が可能だと思われます。
ところで本編にも登場した「人を恩返しで助けて死んでしまった牛鬼」こと和歌山県の三尾川という地域に登場する牛鬼は、私の確認した資料では、恩人と出会って2か月後に、大雨で川で溺れた恩人を助けたと妙に具体的な記載がありました。
牛鬼の活動時期を前述の時期と仮定すると、7月22日~24日の2か月後は丁度お彼岸。9月は台風の時期でもあり、大雨による災害が起きるという展開にも矛盾しません。
で、あれば。このお話に登場するギュウキモンは、モチーフにした話的にお彼岸という期間に相応しいデジモンだと推測する事が可能なのではないでしょうか。
……え? ちょっと力技過ぎる?
じゃあほら、ギュウキモンって、下半身が蜘蛛じゃないですか。
彼岸花って、英名がspider lily、即ち蜘蛛百合らしいですよ。
お彼岸の時期の象徴とも言える彼岸花と類似点のあるギュウキモンは、この上なくお彼岸っぽいデジモンだと言えるでしょう。Q.E.D.
はい!(強引) というわけで、この度は『牛鬼の首』を読んでいただき、まことにありがとうございます。好きな妖怪はえんえんら。快晴です。
……この小説、ギュウキモンはおろか、デジモンという単語すら出て来ないのですよ。
アニメ出の「ギュウキモンエキスを注入されるとギュウキモンになる」のギミックを利用したとはいえ、本当にデジモン小説か不安になったので、表紙イラストでデジモン要素を足すという暴挙に出たのですが、いかがでしたでしょうか。
あまり内容について語ると野暮にしかならない話なので、結末に関する解釈は読者の皆様に委ねようと思います。
作者として言えるのは、「作中の舞台は大成功だった」という事だけですね。
さて、裏話を少しだけ。
快晴も昔演劇部だったのですが、その頃からぼんやりと「見えない怪物を見えているかのように演じる舞台」をやってみたくて、まあ高校生に出来た話では無かったのでネタだけがずっとくすぶっていたのを、今回部分的に供養させてもらった形です。
あと自分で言うのも何ですが、美魚ちゃんはなかなか可愛く書けたんじゃないでしょうか。こんなに可愛い友達がいる主人公君に対して、読んだ人は爆発しろと思ってくれたんじゃないでしょうか。そう思ってくれたなら幸いです。
それから、これは完全に余談なのですが、第54回全国高等学校演劇大会で最優秀賞を受賞した『河童』という舞台がありまして(※念のため言っときますが母校のでは無いです)、多分この界隈の人間には刺さりそうな話なので、この『牛鬼の首』を見て実際の高校演劇の脚本に興味が出たという方がいらしたら、インターネッツで調べれば無料で読めるので、是非読んでみてください。オヌヌメ。
と、とりとめのない話をいたしましたが、今作が読んで下さった方のちょっとした暇つぶしにでもなってくれれば、作者としてそれ以上に嬉しい事はありません。
そして、素敵な企画を発案してくださったへりこにあん様に心からの感謝を。本当にありがとうございます。
私、快晴はデジモン創作サロン内単発作品企画『彼岸花の蕾が開き』にあと2作品、お彼岸の中日と最終日に投稿予定ですので、もしもお時間等ありましたら、そちらも楽しんで頂ければと思う次第です。
そういう訳なので、次回もご縁があれば、お会いしましょう。
この度は本当に、ありがとうございました!