2022年4月、デジモンリアライズのサービスが終了した。
僕達はなんでも擬人化するもので、そのサービスの終わりを『死んだ』と表現した。
「デジモンリアライズが死んでから、見る夢が変わったんだ」
「……眠りながら見る方の話だよな? まさか手游死霊術師(ソシャゲネクロマンサー)になりたいとか言わないよな」
「そんなのがあるのか……!?」
「いや、ないよ。ないから期待した様な目で見るな」
そうか、と彼は項垂れた。なれるならなりたいと言わんばかりだ。
「……デジモンリアライズがやってる時の夢では、俺は主人公なんだ。エリスモンがいて、俺がいる。エリスモンは俺に笑いかけてくれるし、エリスモンの寝顔も見られる」
「その時点で大分キテるな」
「でも、サービスが終わったら、そこに俺がいないんだ」
元からいないだろとは言えなかった。キテるなと言った時点で、彼は茶化していい顔をしていなかったからだ。
「俺はトラッフルに行ってデジモン達のいる空間にいるのを細やかな楽しみとしているんだが、トラッフルは人気店になって主人公とエリスモンはもう毎日の様には来ないし、彼等がいても、俺は……俺は……遠巻きに彼等が千尋さんやロップモンと笑っているのを見てるしかできない……ッ!」
そう言って彼は唇を噛み締める。実にしっかりした設定だ。
「会話の内容さえ賑やかな店内では聞こえて来ないんだ……ッ! ごちそうさまでした、行ってきますとエリスモンが元気に千尋さんに言って、もんとハックモンと一緒に出ていくッ! それを……ッ、それを……ッ、俺はやっぱり見てるしかないんだッ!!」
僕は彼にせっかくだからとココアを出したのを後悔した。トラッフルで印象的な飲み物といえばやはりココアだ。エレキモンの飲んでたオレンジジュースや慧斗の飲んでいたコーヒーではない。いっそ描写のない紅茶とか出せばよかった。
「わかってる……わかってるさ…… デジモンリアライズの物語は終わったんじゃないんだ。俺達がそこにいないだけなんだ、思えば最初は極めて没個性的だった主人公が! シーズン1の終わり頃には俺達の知らないエリスモンとの思い出を回想してたッ!! その頃から俺達は、彼等の目線を一緒に見ていただけの影だった……ッ!!」
彼の目に涙が浮かぶ、顔も赤くなって感極まっているのが目に見えてわかった。
「元から俺達は、エリスモンとなんていなかった……ッ! でも、エリスモンのそばにいられないことが寂しいッ!」
綺麗な涙だった。大の男が大粒の涙を流している、こんなところを見るのはドラマの中ぐらいだった。
ずずずと、彼はココアに口をつける。
「mir○だな、これ……」
彼は飲んですぐにそう言った。
「……うちではココアといえばそれなんだ」
Twitterで知っている。彼はデジモンリアライズを見て、ココアをココアパウダーを砂糖とねるところからする様になったのだ。
たい焼き機も購入していたし、メフィスモンのバトルチャレンジエディションが行われた時には、モブの女子高生が素クレープの食レポをしていたという理由でクレープを焼いていた。
しかし、こうまで追い詰められているとは思わなかった。
ちらりと僕は彼の背後を見る。そこには、ちょっと気まずそうな顔をしたエリスモンとそのテイマーの女性がいた。
デジモンは現実にいる。知られてないし知られない様にひっそりと人間界では息を潜めている、人間界のあり様によって歴史ごと変わりかねない程強く影響を受ける情報生命体である。
後ろのエリスモンはその一体、女性は政府のエージェントである。
全てのデジモンが管理下にあれば完全秘匿するべきなのだが、そうではないしどうしてもバレそうにもなる部分もある。故にあえておもちゃやアニメ、漫画で存在を示している。そうしておけば、誰も本物の存在は信じず、本物もその影響を受けて形が定義される。
もちろん、作り手側は知らず、管理されてる範囲のデジモンに当てはまる情報もできたデザイン画などから選択して行なっている。そうすることで、管理下にない同種個体も影響されて同じ姿と性質を持つのだ。
「まぁ落ち着けよ……そうだ、もし、もしだぞ? デジモンが実際にいるとしたらどうする?」
過去、明らかな落ち目の時期があってもデジモンが今まで続いてきたのはこれが理由。
新たなデジモンは常々現れ、その度に新しいデジモンが作られる様促しているのだ。そこにいるエリスモンもそうして定義された一体。
「……つくばに住む、そして喫茶店を立ち上げる。俺は、俺は千尋さんにはなれないから、お前が店長だ」
「僕もやるのかよ」
僕は自分のストンと落ちた日本人形の様な髪とやはりストンと壁の様な胸を見て、無理だなと思った。
「……まぁいいや、じゃあ副店長……はロップモンか。キッチンスタッフの腕前を見せてもらおうか」
僕は彼の持ってきたクーラーボックスと大きな紙袋を指差した。今日彼を呼び出した口実は、デジモンリアライズを悼んで(現行作品を楽しみながらの)一周忌たい焼きパーティである。
やろうと決めた時は彼も軽いノリだったのに、いざ一周忌を意識すると悲しみが再燃してしまったのは誤算だった。
「そうだな……材料はこっちで用意してある。四人分って話だったが、誰がくるんだ?」
「それはまぁ、後のお楽しみってことで」
「そうか……とりあえずコンロ持ってきて、この箱の中のやつセットしといてくれ。俺は生地の準備してくる」
彼はクーラーボックスを持って馴れた様子でキッチンに向かった。それを見て、僕はちょいちょいとエリスモン達を手招きした。
「……びっくりしたよぉ。なんで泣いてたの、あの人」
「ボクもびっくりした……ボクじゃないエリスモンの話だけど」
テイマーの女性、堤間陽子(ツツミマ ヒヨコ)と、エリスモンはそう困った様な顔で寄ってくると、小声でそう主張した。
「ひよもエリスモンもごめんね〜。普段はもうちょいまともなんだよ〜、いいとこあるんだからアレで」
「……まぁ、一人暮らしのちーちゃんの家のキッチンの場所わかってるぐらいだから、そういうことなのはわかるけどさぁ」
「あー……わかってくれて助かる」
そう言いながら、僕は棚の中からカセットコンロを取り出す。すると、陽子は紙袋の中から電熱式のミニたい焼きメーカーを取り出した。
「アレ……? これ、ガスコンロ要らないやつじゃない?」
「ほんとだ。聞いてみる……おーい! このたい焼きメーカー、ガスコンロ要らなそうなんだけどー!」
「もう一つ、鋳鉄のたい焼き機が入ってるだろー。ガスコンロはそっち用、外がパリッとして羽付きとか作れるぞー」
だってさ、と僕が言うとエリスモンは羽付きってどんなの?飛ぶの?と陽子に尋ね出す。
陽子は少し止まった後、飛びはしないけどおいしいよ、と言った。この少し止まる感じがなんとなく選択肢を選んでる時っぽい。
とりあえずの準備を終えて落としても割れない木の皿を取りに行く。
「あ、そうだ焼きたてのたい焼きは熱いから、フォークも持って行った方がいいかもしれん」
「アレないの? よく売ってる時に入れてる紙の袋」
「……一応、雰囲気用に幾らか持ってるけど、途中から袋に入れるのめんどくなるだろうからフォークは持ってった方がいい」
「なるほど、あ、生地できたなら僕持ってくよ。代わりにこれ持ってって」
「……なんで?」
「いいからいいから。あと、僕の友達来てるから驚かないでね」
釈然としない顔の彼を先に歩かせると、リビングの入り口で不意に彼はすてーんと転んだ。
「……この唐突な展開、夢か? 尻が痛いタイプの夢か?」
「はじめて聞くタイプの夢分類だ。安心しろよ、現実だから」
「デジライズはノンフィクション……?」
「ストーリーはフィクション、でもデジモンはいる」
「……よし、理解した。落ち着いた。驚かせて申し訳ない、こんにちは。俺は怪しいものではない、斉藤晶(サイトウ アキラ)、後藤千佳子(ゴトウ チカコ)の友人だ」
彼は、晶は明らかに動揺して、落ち着いたと言いながら尻餅をついたままそう言って空に向けて手を差し出した。
僕はその手を掴んでまずは立てと引っ張った。
「いや、本当申し訳ない。もう大丈夫だ。あぁ、皿を拾わないと……」
晶はそう言って皿だけ拾ってフォークを拾わなかったので、僕は生地をちゃぶ台に置いて、フォークを拾った。
「……えと、私はちーちゃんの幼馴染の堤間陽子です。こっちはうちに住んでるエリスモン」
「……こん、にちは」
エリスモンが喋ると、晶はその場で声がかわいいと呟いて膝から崩れ落ちた。
「ふ、ふふ、何度も見苦しいところを申し訳ない。これからたい焼きを作っていくが、何か苦手なものとかがあれば遠慮なく言って欲しい。おかず系用の具も幾らか用意してある」
晶は足をガクガク振るわせながらそう言う。
「手の震えが取れるまで僕が代わりに焼こうか?」
「悪い、そっちのクーラーボックスの中にあんことかカスタードとかは先に作りやすい様に丸めてラップでくるんである。直火焼きは焦がしやすいからまずはたい焼きメーカーの方を使うといい」
「よしよし、晶はそこで思う存分膝ガクガクしててな」
じゃあ、たい焼き焼こうかと僕が言うと、陽子とエリスモンは思わず顔を見合わせた。
「このまま進むの?」
「感激が足に来るタイプだから、彼」
「えぇ、落ち着くまでおとなしくたい焼き指南に専念するので……」
そう言いながら、晶は僕のこぼした生地を拭く。手際がいい、こぼしそうだからと代わった僕の方が手際が悪そうだ。
「そういえば、エリスモンはたい焼き食べたことあるの?」
「あるよ!」
僕の質問にエリスモンは元気よく答え、晶はかわいさと感動で震え出した。
「でも、うちの近くのたい焼き屋さんとか知らないからさ。冷凍たい焼きしか食べさせたことないんだよね」
陽子の言葉にへーと適当に相槌を打ち、エリスモンの方を見る。
「エリスモンは何味が好きー? 僕はカスタード」
「ボクもカスタードすき。でもね、あんこがすき」
「そっかぁ、じゃあまずはあんこからかな? ひよこ、つぶあん? こしあん?」
いつものはつぶと陽子が答えたので、僕はつぶつぶカスタードで三つ焼く。晶の分はまずは焼かないでおく、まだ足が震えている。熱々のたい焼きをぴぇーとか悲鳴を上げながら放り投げられては困る。
「……少し慣れてきた。こっちは任せてくれ」
「まだ足震えているけど大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない。そのミニたい焼き機は三個しか同時に焼けないしな」
確かに、ミニたい焼き機で焼けてるのは人形焼みたいなサイズのたい焼きだ。
大丈夫ならいいけどと言いながら、僕はミニたい焼き機で焼いた表と裏の生地を合体させようとする。いきなり一個失敗して、カスタードのたい焼きが前後逆に重なってひっついてしまった。
「……俺がやるよ」
晶はそう言うと、軽くひょいひょいと残り二個のたい焼きを重ね合わせた。
「あとは焼き目がつくまで焼くだけ。簡単だから、次はエリスモンが自分でやってみてもいいんじゃないかな」
その簡単なのに僕は失敗したんだが、と思いつつ口には出さない。
「え、いいの!?」
エリスモンの笑顔に、晶はのけぞって天を見上げながら、震える手で親指を立てた。
「ひっくり返すとこだけちょっと難しそうだから、一緒にやろっか」
陽子がそう言うと、エリスモンはうんと頷いた。
エリスモンはデジモンリアライズの成立する辺りで、当てはめられたデジモンだから、まだ意識が明確になって五年弱ぐらい。まだまだ子供だ。
「そうだ、こっちの二個の中身はどうする?」
「甘いものばっか食べさせるのも良くないから、おかず系、できれば野菜あるやつがあると……」
陽子の目線は完全に保護者。
「ふむ……ここにキャベツがあるから、ウインナーとトマトも挟んで、たい焼きサンドイッチにするのは?」
「それならエリスモンも食べられるよね?」
「うん、食べる」
ちょっとテンション低めになったのがよくわかる。
「エリスモン。カレーは好きかな?」
「好き!」
「じゃあ、このキーマカレーも挟んでおこう」
晶はそう言って、クーラーボックスからラップで包まれた黄色っぽい茶色の塊を出した。
わーいとエリスモンが喜ぶ横で、陽子はちょいちょいと晶を呼ぶと耳元に口を持っていった。
「あの、そのカレーって甘口?」
「まぁ、千佳子から子供連れてくるって聞いてたんで……」
「ありがとう。エリスモン、甘口じゃないとカレー食べられないの」
かわいい、と晶が呟いたのが口の形でわかった。
「……それにしても、準備よすぎじゃない? 有給取って準備した?」
「いや、今日に備えて今週毎晩何かしら具を用意して冷凍しておき、朝四時に起きてクーラーボックスの中に入れ、適度に解凍しただけだ」
「僕はお前がちょっと怖いよ。たい焼き屋になるつもりか?」
僕の言葉に、晶はそのつもりはないがと言いながら、鋳鉄のたい焼き機を手早く閉じてひっくり返ししつつ、反対で焼き上がったミニたい焼きを小ぶりな袋に入れる。
手際がいい。僕の手伝える部分がなくなってしまった。
「はい、熱いから気をつけてな」
人形焼ぐらいのサイズのミニたい焼きをエリスモンはペロリと食べて。むふと口角を上げた。
リアクションがないので晶の方を見ると、白目を向いて気絶していた。
「……彼,大丈夫? まともに日常生活送れてる人?」
「自信がなくなってきた。こいつなデジタマ預けて大丈夫かなぁ」
デジタマという言葉を僕が発した途端、晶の身体がびくんと震え、黒目が戻ってきた。
「お、蘇生した。たい焼き焦がすなよ」
「大丈夫、大丈夫だ……たい焼きメーカーの方は引き続き甘いのを焼こう。鋳鉄の方は、とりあえず俺と千佳子もサンドイッチ一つぐらい焼いとくか?」
晶はそう僕に聞きながら、先に焼いている分を取り出して袋に入れ、エリスモンと陽子に渡した。
「そうだね。この大人用って付箋つけてあるラップのやつなに?」
「チリコンカンだ。具はカレーとほぼ同じだけど味付けは辛めでトマト系になってる」
ひき肉、大豆、そして玉ねぎ。たい焼きに入れていいよう濃いめの味付けになっていて、間違いないやつだ。
「ふーん……とろけるチーズもあるんだ」
「チーズとバターは甘い系にもおかず系にも使えるからな。シンプルにハムチーズなんかも美味いし、ちょっとはみ出させてチーズの羽を作ってもいい」
「あー、チリコンカンでチーズの羽つけたらお酒に合いそう」
「……お前、酒飲めないだろ」
そう言う晶も強くないのは知っている。大学の時、ビールから飲んでみようとしたが500ml一缶飲みきれなかったと言っていた。350mlが限界の男だ。
「酒に合うやつは割とクラフトコーラでも合う。エリスモンは炭酸飲めるんだっけ?」
生姜とかシナモンとかでさっぱりするからさと補足しつつ、僕はエリスモンの返事を待つ。
「たんさん……? 飲めるよ」
「エリスモン、炭酸ってシュワシュワだよ? 苦手だったよね?」
「うん、にがて……しゅわしゅわきもちわるい」
陽子に言われてエリスモンは手のひらを返す。陽子がお母さんに見えてきた。
「じゃあ、エリスモンは牛乳で割ってみようか。ちょっとクセがあるからお試しで用意するね」
キッチンに行ってクラフトコーラと炭酸水、牛乳に人数分のコップを用意してお盆に乗せて戻ると、晶が泡をふいていた。
「……何があったの?」
「いやぁ……千佳子戻ってきたら本題に入るかなぁと思って、リュックの中を確認したら、見えちゃってたみたいで……」
陽子のリュックは巨大な卵型に膨らんでいた。中に入っているのはデジタマ、エリスモンを部外者に見せたのは関係者にするつもりだったからこそだ。
「やっぱりちょっと無理ないかな? 彼とデジタマ育てるの」
「いや……まぁ、こんな風になるとは僕も思ってなかったけど。僕、自炊もできないしさ。デジモン連れて外食はできないし、好みに合わせて料理もうまくいかないとなるとやっぱり必要かなって……」
「そういう口実で、なし崩しに同棲をしたいと」
「まぁ、それはないとは言わないけど」
僕は誤魔化すようにエリスモンに牛乳で割ったクラフトコーラを差し出した。
「……そんな目論見が、いやしいな」
晶はそろそろいいかと鋳鉄の焼き型の生地の真ん中にチリコンカンを入れ、挟み込んだ。
「はいはい、どうせ僕は卑しい女ですよっと。チーズの羽は?」
「今つけると焦げるから、もう少し中に火が入ってから一度開いて周りに置いてもう一度閉じるんだ」
僕だったらめんどくさくて一緒にやっちゃうだろうな。そして炭の羽ができる。
「へー……エリスモーン、コーラのお味はどうかな?」
「うーん……なんか変な味」
エリスモンはクラフトコーラの牛乳割りを、飲んでと陽子に渡した。陽子はそれを飲んで、結構私好きかもと呟いた。
「……お前、いつから起きてた?」
「気絶はフリだ。先にエリスモン見てるのにデジタマだけで気絶するわけないだろ」
「お前の気絶の基準なんてわかるか」
ずるずると友達の関係に甘んじてきた。高校の頃からの付き合いだから、十年強。知らないことはまだまだ多い。
そしてこいつは僕のことを知ろうとしてるのかわからない。
「で、同棲についての話だが」
「……デジタマの方掘り下げろよ」
「そっちも大切だが、わからなすぎてイメージも沸かん。同棲生活ならまだ想像はつくだろ。住居の話に仕事の話、自炊がデジタマに必要となると……コンロがガスかIHかも気になるな。あとコンロの高さもやや高めの方が安心か。主に俺が使うことになりそうだし」
「同棲はする前提でいいのかよ……まぁいいのか、デジモン好きだもんな?」
「お前のこともちゃんと好きだから安心しろ」
「友達として?」
「ドキドキしてた期間はあったが、今はそうじゃないからなそうかもしれない。まぁ、それでも特別に好きだとは思ってる」
我ながらちょろいもので、息が荒くなってるのか口は乾いてきて、顔もどこか暑く感じる。
「……デジタマと資料置いて帰った方がいい?」
「いや、そんなことないから。ほら、お皿がからだよ、たい焼き食べな。というか僕なんかおかずとかサラダとか買って来ようか?」
「逃げるな逃げるな。とりあえずエリスモンがお腹いっぱいになるまでいさせてもらうからね」
「エリスモン、どれくらい食べるの?」
晶はそう聞いた。まぁ、デジモンの成長期がどれぐらい食べるかは個体差が大きい。明らかに質量以上食べたりする個体もいれば、本当に軽くでいいってこともある。
「いっぱい食べられるよ!」
エリスモンは元気よくそう答えた。
「……言っとくけど、本当にいっぱい食べるからね? 成人男性ぐらいは食べるよ」
陽子はそう言った。
「それは、大変だ……持ってきた分だけじゃ足りないな。小麦粉と卵、あと砂糖。あるか?」
「うちの冷蔵庫はできあい品と冷凍食品とキャベツと卵で埋まっているからない……あ、この前タコパしたからたこ焼きの粉ある! 卵混ぜれば生地できるやつ!」
「なら……鋳鉄の方はお好み焼きでも作るか。肉は……ウインナーでいいか」
「冷凍の焼き鳥とかからあげならあるよ」
「タレ? 塩?」
「どっちもある!」
「塩だ。あと、キャベツの千切りな」
「なんかエリスモンのせいでごめんね」
「いや、エリスモンの食べる量を考えず大人三人子供一人と伝えてきた千佳子が悪い」
それはまぁそうだった。
「よし、晶キッチンに来て! 僕に千切りをやらせたらキャベツが真っ赤になるぞ!」
「……わかったわかった」
キッチンは狭い、僕が焼き鳥を冷凍庫から取り出して皿に出し、晶がキャベツを切っていると今にもぶつかりそうになる。
といってももうこんなことぐらいでドキドキするような付き合いではない。でも、別の理由でドキドキはしていた。
「さっきの話さ、勝手に進めてきちゃってるけど、いいの?」
「……まぁ、よくはないよな。相談しろよとは思う。でも、決定段階までなし崩しにいっちゃった方が情報が漏れないだろうと考えたんだろうなってことも思う」
「いや、それは……記憶消去とかできるから言ってもよかったんだけど、びびって言えなかったんだよ」
「ならよくない。でも、持ってきた話の内容は夢のようだから、俺は今結構ウキウキしてる」
晶は無表情でそう言った。表情筋が死んでいるように見える時がある。
「こっちからも一つ聞いていいか?」
「なんでもどうぞ? スリーサイズでも聞きたいのかい?」
「それも興味あるが……なんでデジモンリアライズを理由に呼び出したのかと思ってな。別にいくらでも他の口実があったろうに」
エリスモンにたい焼きを食べさせられた時点で最高の日にはなったが気になる。と晶は言った。
「……それは、デジモンリアライズのリアライズってさ、Re:Ariseって書くじゃん? こうリ・アライズって切ってることで、従来の『現実に現れる』的な意味に加えて、『もう一度立ち上がる』とか『もう一度現れる』みたいな意味にもなるって考察をこの前Twitterで喚き散らして泣いてたじゃん?」
「喚きはしたが泣いてはないぞ?」
「フィクションとして見ていたデジモンが、現実という形で君の前に再度現れた。これぞ本当のデジモンリアライズってネ! みたいなことを言いたかった訳ですよ」
「なるほどな……」
晶は納得したようだったが、実際はちょっと違う。晶の前に僕自身がもう一度現れたかった。関係を変えるのが怖くて友達として固まり切ってしまった僕でなく、同棲相手として、ともすれば恋人として僕を見て欲しかった。恋人になるという妄想をデジモンを通じて現実にしたかった。
浅ましいやら卑しいやら、考えれば考えるだけ恥ずかしくなってくる。
「デジモンリアライズは一年も前に終わったけれど、僕達のデジモンリアライズはこれからだぜ! 相棒!」
僕はそう言って晶に向けて拳を突き出した。晶は僕の顔を見ると、少し微笑んでキャベツを切る手を止め、僕の拳に拳をこつんと当てた。
「これからは、毎日いい夢が見られそうだ」
いいですか、落ち着いて聞いてください…デジモンはいる。そんなの落ち着けるわけないですよね。
あーデジモンに会いたいなー!!!!
感動が足に来るタイプ(わかる)私は、脳にも来る(フリーズ)…常々、人権失わないように気をつけたい所存。私のリアライズの思い出といえば主に炎熱、水氷、聖、暗黒ほか関係無く全種族オールデイズキャベツというデイリー。なつかしい。欲を言えばあと一年続いてくれれば、ゴスゲ勢も実装されただろうに。アンゴラ系にキャベツを貢ぎたかった…あと貴重な作画資料でした(切実)
千佳子さんは、もちろんいやしい女ですが実は、思わせぶりな晶さんもなかなかですね?
スリーサイズ気になるんかい。と思わず心の中でツッコミました。なかなかお似合いのカップルなのではないでしょうか。ダシにされた陽子さん&エリスモンのキューピッド(?)勢は今後もたい焼きで許して頂けそうですし…すごく美味しそうだから、たい焼き屋やってほしい。
懐かしさも覚えつつ、全体を通して和やかな気持ちで読ませて頂きました。
改めてリアライズの思い出に浸れる機会をありがとうございます!
正直感想になっているか不安な文章ではありますが、こちらを感想とさせて頂きます。
遅ればせながら拝見いたしました。
そして、なんだか切実なタイトルですね!
リアライズが終わってしまった!俺の人生は終わりだ!!みたいな入り方。
きっとへりこにあんさんの思いが全力で乗っているんだなぁと感じました。
登場する食べ物はどれもこれも美味しそうですが、たい焼きはたくさん食べるものじゃないぞ、エリスモンくん!!
コーラが苦手な感じも可愛いぞぉ。
喫茶店を開くうんぬんのくだりで、ようやく『僕』が女性だと気づきました。
これは意図的なんでしょうか?
僕っ子なぞいない!いるとすれば、それはあざとく、いやしい女なんだろうと考えている自分です。あ、リアルの話です。2次的なキャラへのアンチじゃないので殴らないで~~!
・・・あとがきを見て、『いやしい』という言葉が記載されていて鳥肌が立ちました。
すみません、オタクの戯言ですが、吐き出さずにはいられませんでした。
大変失礼を。
主役のお二人には末永く爆発していただければ、読者側も幸いです。多分。
『ご愛読ありがとうございました!次回作にご期待ください!』
と私のセリフではないですが、言いたくなる閉め方!
デジモンリアライズについては、イベントでの掛け合いが特に面白くて、立ち絵も可愛くて・・・
サ終から早1年ですか。
アプリはまだ自分もスマホに残したままになっています。
『ソシャゲネクロマンサー』に俺はなりたい!!
戯言ばかりで失礼しました。
また、この度は素敵な企画をありがとうございました。
楽しませていただきました^^
それではこれにて~。
まずは改めて、素敵な企画の発案、ありがとうございます。そしてリアライズの思い出の眩しさが伝わって来る素敵な物語にも感謝を。冷蔵庫の中がキャベツでいっぱいなの、芸コマで良きですね。結局余らせてしまったなぁと振り返る快晴です。
やらしか女こと千佳子さん、僕という一人称で男友達かと思いきや、徐々に段階を踏んで性別が明かされ、目的が明かされ……と、「実はデジモンが本当に存在する世界の日常風景」で物語としてのアクセントになっていて、やっていることはまあ実際いやしか女ムーブなのに、読後感はとても爽やかでした。千佳子さんも良い夢見れると良いですね。
晶さんもとても限界で良かったです。限界オタク仕草はなんぼあってもいいですからね。油揚げのお饅頭の描写はお恥ずかしいながら存知ないのですが、もちきんみたいな感じなのですかね? ちょっと調べて快晴も作ってみようかしら……。
タイトルが叶う食事風景は見ていて本当に微笑ましかったですし、こどものようなエリスモンが本当に愛らしかったのですが、あとがきのエリスモンがかなりつよつよでふふっとなってしまいました。成長期でもデジモンはデジモンですし、こどもってあれでいてちゃんと自分で考えて空気を読んでいますからね……。こういうリアリティや世界観の掘り下げが短編であってもきちんとなされているが故に物語に奥行きが生まれるのだなぁと、あとがきも踏まえて読み返すとまた違った楽しみ方が出来るのも素敵でした。
リアライズが終わってから変わってしまった晶さんの見る夢が、デジタマから生まれてくるデジモンや千佳子さんと共にまた、彼自身の物語となる姿を想像したりしながら、拙い物ではありますが、こちらを感想とさせていただきます。
主催にしてトップバッターに相応しい素敵な物語を、改めて、ありがとうございました!
あとがき
後藤千佳子
エリスモンやデジタマをダシにいちゃつこうと企むいやしい女。
斉藤晶
家にフライパンよりたい焼き機の方が多い変態。
サクヤモン激突戦で真由さんが油揚げを使ったまんじゅうを作った話を見て、再現しようと砂糖ドバドバ入れたみたらし風味の油揚げを作り、市販の饅頭を中に入れて食べてみたら単体ではまぁまぁだったのにあまりにもひどいべちゃべちゃ食感に泣いたへりこと同じ経験を持つ。
エリスモン
かわいい。たい焼きより陽子の作ってくれるナポリタンが好き。デジライズはプレイさせてみようかという話もあったが、一章後半の内容がかわいそうだったので陽子の判断でプレイさせてない。
識別番号はAA01526824。危険度分類はE(人間と協力関係を築け、制圧も容易)。感知能力の高さから、国の機密にハッカーがどこからアクセスしているか、またそもそもアクセスされていないかどうか等を感知させる予定があり、現在は正式運用に向け警察の監視下で一年間の実証実験中。まぁまぁの人数のクラッカーをムショ送りにした。
堤間陽子
エリスモンの保護者、千佳子の友人。得意料理はナポリタン(一皿で済み、肉も野菜も入れられて、エリスモン向けの味付けにもしやすい為)。デジライズ一章後半のエリスモンがアイデンティティを失っていくところでボロボロ泣き、エリスモンには見せないと誓った。
千佳子とは親同士が仲がよく、また、親がデジモンの研究や利用に携わる立場だった為、信用のおける人間として関わり始めてそのまま仕事に。エリスモン以外にもほぼ自立しているデジモン含め十体程のデジモンを『人間に接する様に接して』管理している。
というわけでキャラ紹介から始めました、あとがきです。
本企画は、デジモンリアライズの一周忌が云々と言っておりますので……とりあえずは一つ、こうして悼むところから始まってこのデジモンリアライズ愛を胸に未来に進んでいこうぜという話がいるかなと。
メインキャラに含むデジモンリアライズ初出のキャラは当然エリスモンです。エリスモンかわいいヤッター!
……なぜかいやしい女が生えてきましたけど、それはそれ。
あとは特に語るべきことはないでしょう、油揚げ使った美味しい饅頭の作り方をご存知の方は教えてください。