世界のあらゆるもの、あらゆる言葉は表裏一体である事が多い。
朝と夜、光と闇、善と悪、喜びと苦痛、他にもいろいろ。
どのようなものであれ、対極とも呼べる側面を持たない概念は少ない。
たとえば、特異なコンピューターウィルスの変異によって生まれたとされる生命体――デジモン達が生きる、数多の電子情報の集積によって形作られた世界、通称デジタルワールドと呼ばれるそれにも裏の側面、対極となる世界が存在する。
すなわち、ダークエリア。
自然豊かで文明も善き形に発展の傾向にある表の世界の住民から見れば、自然は腐敗し文明は悪感情を沸き立たせる形でしか発展しない醜悪なる世界。
そこに住まうデジモン達もまた、必然的に見た目や習性、性質など様々な面で悪性の方向に偏っている。
悪魔に吸血鬼、幽霊に死神など、光の当たる場所で生きている者たちからすれば「おそろしい」の一言では済ませられない、驚異的な力を有する情報を基とした種族がこのダークエリアには生息しており、時に彼等は表の世界――デジタルワールドへと侵攻しようとする時があり。
また逆に、デジタルワールドの方からダークエリアに『墜ちて』しまうデジモンもいる。
墜天使の種族などはその筆頭だろう。
デジタルワールドに住まうデジモンと、ダークエリアに住まうデジモンは、基本的に相容れない。
住んでいる世界が、生きるにあたっての境遇が、形作られた社会の常識が、何から何まで異なるのだ。
同じ言葉を扱えても相互理解などは不可能に等しく、同じ世界で生きようとすればどうしても擦れ合ってしまう。
そして、そんな世界だからこそ必要とされる役割というのも、また存在した。
土地だけは広大なダークエリアの一角、数多くの倒木が散見される亡骸の森。
その中にあるとある場所で、ダークエリアという環境をある意味において象徴する種族が立っていた。
全身が黒い甲殻に覆われ、前足と後ろ足に指から生えるそれとは別に鋭利極まる鉤爪を生やした、地獄の番犬と称されもするデジモン――その名もケルベロモン。
彼は何やら苦々しい表情で、あるものを見ていた。
それは、一言で言えば花園だった。
見方によっては毒々しい、赤い彼岸花が辺り一帯に花園を形成していた。
先にも述べた通り、ダークエリアにおける自然とは基本的に腐敗しているものだ。
倒木や枯葉、汚泥に潰れた果実などなど。
誰かがそうなるように仕向けたわけではなく、ダークエリアに存在する自然は基本的に「終わった」形で生じているものなのだ。
当然、糧となるものが見つかるなどケースは基本的に無く、この世界に住まう生き物の殆どは飢えを凌ぐために別の生き物を喰らう事で命を繋いでいる。
それが当たり前であり、こうした花園が形成されることなどは基本的には無いのだ。
この世界に存在するあらゆるものは、表の世界の住民にとって「忌み嫌うもの」の情報が集積され、形作られているのだから。
「…………」
であれば、この彼岸花は何を表すものか。
表の世界に咲いているものと同様に、彼岸花とは上から下まで全てに毒を含む植物。
毒だから、嫌われて当たり前のものだから、ダークエリアに咲いている――などというわけではない。
ダークエリアに生息するデジモンであるケルベロモンが、他者から「地獄の番犬」と称されている事からもわかるように。
ダークエリアとはそもそも、死した存在のデータが辿り着く領域のことであり。
だからこそ、ありとあらゆる発生物は既に「終わった」ものだ。
生命があるように、当たり前のように、眼前に咲き誇る彼岸花もまた「終わった」物の一つ。
つまり、それは。
「――人間の無念が漂着したもの、か。この時期は本当に多くなるな」
デジタルワールド、並びにダークエリアを形作った根源。
デジモンという存在が生まれる発端ともなった、人間の世界から流れついた情報――その中で最も毒性の強い「無念」の情報、その一つのカタチであった。
人間の意識というものは、良くも悪くもデジタルワールドに影響を与えるものらしく。
時にその感情のデータは、自然の形で世界に現出する事がある。
目の前の彼岸花は、その中でも最悪のカタチだった。
曰く、死んで果たされなかった願い。
曰く、死して消えない恨み辛み。
曰く、死後の無念そのもの。
ダークエリアに咲く花々には、どれもこれも少なからず悪感情が宿っている。
何の準備も無しに触れてしまえば、触れたデジモンは花に宿る感情に染め上げられてしまう。
恨みを宿した花に触れれば世界を恨み、悲しみを宿した花に触れれば心は絶望に染まり、何にせよやがて世界にとっての「よくないもの」と成り果てる。
そして災難なことに、何にせよ結果として強くなれる事から、むしろ望んで触れようとするデジモンもダークエリアの中にはいるのだ。
人間の感情とは、デジモンにとって良くも悪くも進化の鍵となりえるものなのだから。
特に、人間の世界において彼岸開きと呼ばれるこの時期は、こうした花々が多く咲き誇る時期であり。
ケルベロモンは、あるデジモンの命令により人間の世界から流出した「よくない感情」の発露とも呼べるこれ等の花々を取り除く役割を担っていた。
今年も、彼岸花の咲く地域を回っては役割を果たしている。
即ち、
「ヘルファイアー」
咲き誇る花々を、ただ美しく見えるだけの異物を、焼却処分しているのだ。
時に彼岸花に触れ、その感情に染め上げられたデジモンを発見した場合は、そちらも駆除の対象となる。
彼の名前はケルベロモン。
情報によって形作られた地獄、ダークエリアに住まう番犬であり。
その悪性を駆除する者である。
◆ ◆ ◆ ◆
既にへりこにあんさんの作品で説明されている通り、ケルベロモンは現世と地獄を行き来することが出来る番犬。
即ち、この世とあの世の距離が近くなるとされる彼岸にぴったりの種族なのでした。以上、説明終わり!!!!!!
どうにか2000文字程度ですが2作目を投稿しました。色々急いで拙いところもあるかと思いますが、どうかご容赦を……。
デジモン化じゃない……だと……?
まあそれはもう一作の方で楽しませていただくとして。
ダークエリアを妖しくも美しく彩る花々。
しかしそんなところに生える花がただの花なわけがなく……というのが、これまでデジモンファンが持ってたダークエリアのイメージを覆すようで面白かったです。
だいたい真っ暗な大地と紫色の空ばかり思い浮かべますからね、僕とか。
ダークエリアの門番たるケルベロモンに『花を燃やす』という役割を持たせたのも新鮮でした。
赤い彼岸花と青い炎……きっと焼け野原になる直前の景色は二色のコントラストがさぞ美しいのでしょう。
そんなところで短いですが感想とさせていただきます。
彼岸花には毒がある。正しくは人から生まれた毒が彼岸花になる。暗黒の花という最古参があるためか、人界と表裏一体が故に無念という呪いが美しくも妖しいヤバげなフラワーになるのもデジタルワールドらしいと感じます。字面だけなら奇妙な話ではありますが。
だからこそ、それらを弔うように焼却するケルベロモンの役割が重要なのは言うまでもなく。気持ちのよくなさそうな仕事を淡々とこなす彼の姿には一層影が濃く見えるようでした。
滑り込みとは思えない程に、短く簡潔ながらも奥行きのある世界観に浸れる作品でした。
こちらも簡潔にはなってしまいますが、これにて感想とさせていただきます。
彼岸花の蕾が開きに参加して頂きありがとうございます。
まずはお彼岸判定ですが、ケルベロモンはベターにお彼岸ですね。はいはいお彼岸お彼岸とすっと受け入れられる実にお彼岸らしいデジモンです。
さて、話の内容ですがこれ自体が連載のプロローグのようなその先を思わせるような作品でした。これからもきっとケルベロモンくんは毎年彼岸花を焼くのだなぁと思うとなんだか少し思うところも出てくるような……
まさかユキさんが二作目を投稿されるとは思っていなかったので嬉しい驚きでした。
彼岸花の蕾は開きに参加して頂き本当にありがとうございました。素敵な作品楽しく読ませていただきました。
オイ待てデジモン化関係ねーじゃねーか!? 夏P(ナッピー)です。
というわけで、絶対彼岸花は死してダークエリアに無念や怨念、情念が流れ着いた人間の成れの果てであり、放っておくとそれがやがてダークエリアに住まうデジモンとなるのだ……実は俺(ケルベロモン)もかつては人間だった……が来るかと思ったのに至って違った。なんて時代だ。
でも折角だから人間の感情が流れ込んで咲いた彼岸花がダークエリアのデジモンにすら悪影響を与えるという設定は使えるぞ! 書こうぜ! この設定で一本!
ケルベロモンは悪い面のおかげで忘れられがちですがワクチン種なんですよね。コイツ半年に一度彼岸花火葬祭りしてんのか……。
それではこの辺で感想とさせて頂きます。