リハビリがてら、2,500字もいかないような超短編の雰囲気投げときます。
「今日はいつもと違うことをします」
そう言ってのけた上司の格好は、いつもの紫の衣装ではなく赤い衣で。はてと考える前に、その横にはソリ。それに腰掛けて手を振ってることを考えるに運べという指示なのはわかった。衣装がいつもと違う点も、ソリと合わせて考えると答えは出てくる。
「何故サンタの真似事を……」
主人は、七大魔王の一員に数えられる程の実力者。色欲の罪を内包するという意味では、そういう姿をするのもおかしくないのか? いやでも魔王だし……と混乱しつつもソリに近寄れば、空中に浮かんだ紋章によって、ソリに繋がる器具が胴体につけられる。
「迷い子を導くって意味では、プレゼントみたいなものじゃない? せっかくだし、季節感大事にしてみました」
普段であれば、主人に寄り添い、時には背に乗せての領土の巡回を行うのだが、何か普段とは違う目的があるらしい。迷い子を導くという意味はわからないが、主人の意向を叶えるのが、従僕の役目である。
「それでどちらまで?」
「最下層コキュートスの中でも、アンタッチャブルとされてる、排気孔まで」
「……その格好で?」
最下層コキュートス、七大魔王に加え、黙示録の魔獣やら、太古から生きし吸血鬼王が生息する魔窟。その中でも、各テリトリーに属さずひっそりと存在する排気孔。かつての主とも言うべきアヌビモンの監視も届いているかも怪しく、ほかのどの魔王たちも手を出さない、データクズの溜まり場。名すら失われたゴーストデータの終着場とも言うべき、利用価値すらないが、手を出すにも悪影響とされる極悪の、底の底。
「この格好だからこそ意味があるのよ、目立つでしょ? なんなら貴方に赤鼻つけて、より強く目印にしてもいいんだけど……」
「文句などありません! 全てはリリスモン様の意思のままに」
返事をして、ケルベロモンは駆け出す。ダークエリア最下層コキュートスの中でも、一番深く、一番無価値であり、各エリアの主達の敵意に直接触れる以外では、最も居心地が悪いとされる排気孔へ。
「……しかし、悪い子にプレゼントを届けると言うブラックサンタのがあっているのでは……」
悪に寛大な暗黒の女神として、褒賞などを授ける様は、ある意味では赤いサンタと大差ないが。あえて、別の、ブラックサンタを例に挙げて、小粋な話題を繰り広げようとする従者の鑑の振る舞いだと思いながら背に語りかける。道中退屈そうに、ソリへの振動を吸収し周辺の環境にも影響されない術式を展開しながら、快適に景色観覧をしている主人にだ。(なお景色は、お世辞にも良くない、吹雪に覆われた極寒の大地を駆けているので。魔法の恩恵でこちらにも零度の影響などないが)
「いやよ、黒一色になるじゃない私の場合。地味でしょ。目立つ赤とかのがいいわ」
「そうですかね、黒一色みたいな風貌の私には、シックっていうところでいい気もしますが…」
「貴方の黒は、いいでしょうけど、この黒髪が目立たないの嫌じゃない? どこぞの仮面もナルシストも金髪な分、この黒髪映えて大好きなのよ私」
「統一より強調って訳ですか……」
基本人形でない自分にはよくわからない拘りがあるのやもしれないと考え、それ以上の追求はやめて、目的地へと降るスピードを上げることにする。
「あ、でも、黒い箱はいいかもしれないわね。私や貴方を乗せて移動する、貴方が走らなくてもよくて、私が貴方の毛並みを触って楽しむの」
人間世界にはそういう乗り物があると、並行世界の、自分たちのような組み合わせの個体が使ってた、という。なるほど、そういうものもあるのかと感心する一方で、自身の足を使ったソリの移動、あるいは背に乗せる、その喜びに勝るものなのだろうか、と首を傾げるところでもある。
「あら、早速気づいてきたわね、悪意ども」
そうこうしてる内に、目的である排気孔エリア内に踏み入れていた。途端に周囲に溢れ集ってくるは、生き霊にもならない、形すらおぼつかないナニカたち。しかし、理解する、文字や画像でインターネットに溢れかえる人の悪意、それらがこれだと。
「さて、あなたの出番よケルベロモン。姿を変えて、これらを解き放て」
「迷い子を導くって、俺がやるんですか⁉︎」
「私という存在に触れ合っても浄化される程の知性もない、所詮悪意のカケラなんて、噛み砕くか焼くしかないので、適材適所というやつよ。道標になる目印を私、処理をあなたって」
ほらほら、と手を振って促される。何を言っても仕方ないので、即座に人狼モードへと変化し、『インフェルノディバイド』をぶち込んでいく。
「いやぁ、やはり年一ぐらいでこういうことしないとダメねぇ、たくさん沸いてるわ」
舞を踊るかのようなくるくる主が回れば、ひっきりなしに霊にもなれない不確かなものが現れてくる。噛み砕き、焼き続ける。
「こういうのが溜まって、深怨なる手の意思だとかそういうのになるのよ、たまに処理しなきゃ私たち魔王よりもタチが悪い」
虚無だのなんだの言う負の塊だの、魔王よりも悪質な何かが生まれる、排気孔だと放置するから気づかないのだと、愚痴る主。他の魔王たちも、吸血鬼王もこういうことには関心を向けないのだから、と。暗黒の女神とも称される程の存在としてはほっとけないのだろうと思う。だからこそ、自分も彼女に拾われたのだから。
「まだまだいくわよ〜、一回ここ綺麗にしちゃいましょう。陰の気なんてどうせまた溜まるけれど、どうせなら一度、ここがダークエリアで一番澄んでる状態になるぐらいに徹底的にやりましょう」
終われば、ご褒美に臓物(と書いてデジコアと読む)の煮込みでも振る舞うという主の声によりいっそう火力を強く作業をこなしていくのだった。
……悪い子(主人の意に沿う者)に臓物を振る舞うって、それこそブラックサンタだなぁ、と思いながら。
〈終〉
サンタ服のリリスモンは公式です、以上。
ほうクリスマスに短編とは……と思って投稿日見たらクリスマス過ぎててダメだった。夏P(ナッピー)です。
ダークエリアにトナカイ演じられるような奴いたか……と思ったらケルベロモンだった。かつての主とか言ってますがアヌビモンお前の進化先じゃねーか! リリスモン様がサンタやるって聞いたからテメーさては成熟期の頃テイルモンUber……と戦慄しましたが臓物(ハラワタ)的な意味で津村斗貴子だった。クリスマス言いつつ一緒に大掃除やってんじゃねーかッ!
来年はスレイプモン捕まえてきてトナカイ役やらせようぜ!
ところで異形の手の者言われて最初に浮かんだのtriのクワガーモン掴んだ黒い手ですがアレ何だったんだろうな……。地味に人狼モード披露してるケルベロモン燃え。
それではこの辺りで感想とさせて頂きます。