『友の誓い』を交わしたデュナスモンはゆっくりと立ち上がる。同時にこの空間での終わりが近づいているのだろう。デーブルや自分が腰かけていた椅子もまた砂で出来ていたかのように光の粒になって消えていく。それを横目にしながら、今まさに自らが尋ね、保留されていた友人からの『答え』を聞くためにまっすぐにヘクセブラウモンに視線を向ける。
「では、頼む」
ヘクセブラウモンはその言葉を聞いて、微かに俯く。何か考えていることがあるのだろうか。その俯く時間は確かな『間』を持っていた。その間が終るとこちらを見ている客人の、いや、今や友となった者に視線を向けながら語り出した
「ボクは君を元の姿に戻してあげたかった」
相手は黙ってこちらを見ている。それが続けてくれ―そう意味だとわかるとヘクセブラウモンは自分が思っていることを言葉に乗せる
「でも、ダメだった。君を元に戻す為に必要なリストア領域が最大レベルの権限によって既に失われていたからね。本当……神様はこれだから嫌いなんだ。どうやっても君を元に戻すことだけはお気に召さないらしいね」
「我が主とはそういう存在だからな」
拗ねる子供のような仕草をみせた相手に耐えるのが難しくなったのか、デュナスモンが微笑をし、口を開く。思い出を噛みしめるように、そしてそれが事実なのだという確信を持って。友の反応がどんなものか想像は出来ていても実際にみるとではやはり思う所がある、そういった様子をヘクセブラウモンは見せた
※あとがき※
どうも、おでんなドルモンですー! 第9話となります! 色々と含みのある所もありますがこんな感じになりました!最後にかけつけたデュークモン、いいですよね(自画自賛) ということで次回10話が最終回となります! もう少しだけお付き合いくださいね さてでは次回 第10話でお会いしましょうー!!!
「麗しい真紅の騎士の君、もしよければボクの『手伝い』をしてはくれないかな?キミの盟友であり、ボクの友である『彼』との因果があるこの青い魔法使い、ヘクセブラウモンの、ね」
更に青の魔法使いは告げる
「此処に来たという事はキミにも『願い』があるということ。そしてその『願い』の為にもこれは必要なことだと思うよ」
はたから見れば意味がわからないことだろう。だが青の魔法使いには何かが【視えた】のだ―
真紅の騎士は断ることもせず、ただ―何をすればいい?と尋ねてくる。『彼』の事情はもう全て把握しているんだね、そういうかのように青の魔法使いは笑みを浮かべる。そして一つ提案を挙げる
「この【閉じられた箱庭】に新しい国を作りたいんだ。『魔法』がデジモン達を導く国をね……名前はそうだなぁ……そう『ウィッチェルニー』がいいな」
白い竜が起こした温かい風が、その場にいる二体の元を吹き抜けていく。それは賛美のように、そして新たな世界の鼓動のように―
次回【最終話】「魔法の国のおとぎ話」
そんな時だ、異形の竜が現れた向こうの空が割れ赤い光が地面に落ちてきた。そしてその赤い光はこちらに向かってくる。それを見た青の魔法使いは軽く一息吐いて、口を開いた
「おやおや……今日は本当にお客さんが多いね」
その赤い光が目の前に降りてくる。それは白銀の鎧と赤い冠、そして揺るがぬ信念を纏うような赤い外衣を携えていた。それを見ればその者が誰なのか【視ず】ともわかる。我が友の友人、ロイヤルナイツのデュークモンだ
「デュナスモンは……っ」
ただ一言だけ告げられる。それはここがどんな場所なのか、目の前にいる者がどんな存在なのかを理解して来た証拠であった。自らの主の禁を破って此処まで来たのだろう。良く見ると鎧の所々に亀裂が入っているのがわかる。おそらく特異点であるこの箱庭に消えた盟友の場所へ無理やり、移動してきたのだろう。天文学的とも思える位相の数々を越えて。そしてその負荷に持ち前の白銀の鎧は寸前で耐えたということだ。青の魔法使いは目線をそっと温かい風を纏う槍に目をむける。それを追うようにデュークモンも宙に浮き輝きを放つ槍に目をやる。そして何がおこったのか理解した様子で一言訪ねてきた
「……安らかに眠っただろうか」
「ああ、一片の悔いもなくね……キミには礼があると言っていたね」
「そんなこと……良いというのに」
真紅の騎士はそっと噛みしめるように漏らした。そんな中、青の魔法使いはその騎士に言葉を掛けた
「すごく、綺麗だよ」
光の柱が消えていくと、そこには一本の槍が浮かんでいた。黄金の光を纏ったようなその先端に竜の飾りと広げた羽の如き曲線を描く刃、そして槍の先にはまるで握られたように翡翠色のクリスタルが輝きを放っていた。その槍を温かい瞳で見つめながら言葉が紡がれる
「君のまっすぐで鋭い『意志』が槍となり、ボクの『魔法』によって生まれた『魔槍』―名をデュナス。ボク達の友情の証であり、未来への希望」
そう言うと、槍から風が吹き始める。そしてその風は閉じられていた箱庭全体に吹き始めるのだった―
仮想世界から戻ったヘクセブラウモンは最初に立っていた場所で目を開ける。その正面には今まさに獲物の元に降り立ち、咆哮をあげるデクスという存在に堕ちた異形の竜の姿あった。ヘクセブラウモンの瞳には哀愁が浮かんでいるように見えた。そして激しい咆哮の後、鋭く巨大に変化しデクスの瞳がちょうど掌の赤い部分に浮かび上がった右手が迫ってきていた。それと同時に自らの足元に青白い紋章と共に円形の陣が展開される。友との約束を成す時が来たのだ
その時だった―刹那、想定の外である一つの『間』が生まれていた。振りかぶられた右腕が獲物と見据えたモノの……いや『ヘクセブラウモン』というデジモンの前で静止していた。展開されていた陣が消えていき、その主が竜の方に目を向けると右目は既に浸食の影響を受けていたがその反対側、左目に真っ赤に力強く輝く瞳が浮かんでいた。そう、そこにはデクスと化した異形ではなく、デジモンであり、白き竜である『デュナスモン』の面影があったのだ。その静止した右手に静かに、そして優しく青の魔法使いの両手が添えられる
「やっぱり、デジモンというのは愛おしいものだね。奇跡というものをこの目でみられるなんて思ってなかった」
竜は何も語らない―だが、その澄み切った赤い瞳は静かに揺らめく。その瞬間『お前も同じデジモンだ』そんな友の声が聞こえた気がした―ヘクセブラウモンの朱い瞳から光が軌跡を描き、流れていく―
「ボクは『あの時』、あの仔の手を取れなかった……それが後悔だった。だから君のこの手は離さない」
ゆっくりと『二体』を包み込むように足元に青白い紋章を帯びた円形の氷の陣が拡がっていく。だが寒さなど感じない。そこには『温かさ』だけがあるのだから。陣が完成するとヘクセブラウモンが握った右手の部分から黄金の輝きが白き竜を覆っていく。そして竜はその光を受け入れるように静かに左の瞳を閉じる。しばらくの後、光は竜を完全に覆い、その輝きは強さを増していく―大きな光の柱が何もなかった暗い天に向かって伸びていく
「君という存在は『兵装』として変化し、実体化する。もちろんデクスの因子は君と共に永遠に眠りにつく……というよりも君とデクスは一つに融合を果たす。もう暴れまわることもなく、誰にも害を与えぬ存在になる」
そう説明し、一度目を瞑る。それは少し前に見た『その者の行く末を【視る】』仕草だった。とすれば何かの未来を見ているのだろう。刹那ののち、目が空けられる。その表情はとても柔らかく温かさを感じさせた
「ボクの提案を受け入れた君はいずれ、誰かを救う……そしてそれは大きな運命を動かすことになる」
友のそんな表情を瞳に映したデュナスモンにはもはや疑念などは浮かんでいない。ただ、そうか―と告げる。そしてそんな存在になった自分自身でも誰かの為に何かを成せるという未来があるということに、とても感動しているように語るのだった。
「先程の言葉は訂正する……我が友が決めたことならば、それに従おう」
「ありがとう。そして……そろそろ時間だね」
「ああ。元の世界に戻った時、デクスとしてオレがお前を襲うことがあれば構うことなく事を成してくれ」
ああ、わかったよ―その空間での最後の言葉が交わされる。そして二体がいる空間の地平線からすっと『暗さ』がせまってくる。それはこの空間自体が収縮している、つまりはもうその空間の維持が出来なくなっていることに相違ないということだ。見つめ合った二体の身体が光に包まれ、消えていく
「イグドラシルが過去に立案・計画したモノの中に【Legend-Arms】というデータがあった」
「Legend-Arms……?」
それは聞いたことがない―そうデュナスモンが反応した。それを見た相手は話をつづける
「これはデジモンを【兵装化】するという構想から出来たものらしい。ボクはこれを応用して、君を『特異点』という特性を持つボクと『共有化した兵装』という位置に確立させる。つまりボクの『所有物』にするってことだね。そうすることにより、君のデータをイグドラシルはサルベージすることが不可能になる」
話を聞いている相手は理解が追いつかないような表情を浮かべている。それでも話は続けられる。もうこの方法しかない―その一点の想いによって。
「この時点で何も干渉がないということはつまり神様はそれを行ってもいい……つまり監視対象に推移するから構わないってことか。ふん、なんだかいい気持だね、うんうん」
自己満足という言葉が似会うような雰囲気としたり顔のような目と口の動きが目にとれる。更に言えば、うきうきしている、という言葉もお似合いだろう。そこまでくると置いてきぼりにされている状態の相手から声が上がるのも無理はない
「まだ理解出来ていないんだが、それをすることでオレは……いや、デクスはどうなる?事と次第によっては、オレはそれを受け入れられないが……」
ああ、そうだよね。でも大丈夫だよ―とやっと会話の相手の方を向いたその顔はとても嬉しそうに見えた。一息ついた後に説明が始まる
ちょっと待って今考えるから―そう言うとヘクセブラウモンは何もない空間にまるでピアノの鍵盤でもあるかのように右手、左手を大きく広げて指を動かす。するとその指が鍵盤を弾くような動作をした瞬間だ。そこに青白いコンソールパネルが出現した。それは『特異点』という存在が『エニアック』と繋がっていることを物語っていることを証明するに十分な光景だった。パネルには大量の情報が併設されたモニターに羅列され続け、今もなおその量は膨大に表示されている。その作業をするヘクセブラウモンの表情は先ほどまでの駄々をこねた子供のソレではなく、友を想うデジモンその者の持つソレに見えた。
「見つけた、これだ―」
コンソールパネルを触っていた右手が動きを止める。パネル上部のモニターにはあるコードが青白く選択された状態で点滅している。やっと動きが静かになった所でデュナスモンが口を開く
「一体どうしたというんだ、ヘクセブラウモン」
「ボクは君を消さない、そして神様に一矢報いてやる方法を見つけたよ」
テーブル越しに対面していた時と同じように軽快な口ぶりと雰囲気を取り戻した声が気持ちよく響く。驚いた友の反応など、気にもしないかのように。ちょっと待ってくれ―話が違うというような発言も、もはや届いていないように自分の考えを最早一方的に切り出したのだった
「やっぱりボクは納得いかないっ……!」
「何を急に……!?」
ここに来て何を言い出すのか、とデュナスモンがその意味も含めた言葉を漏らす。だが、そんなこと今は関係ない―そう言うかのように言葉が覆ってきた
「ボクの魔法を使って君を一片も残らずデリートすることは可能だよ。でもね、イグドラシルはそれでも君のデリートされたデータをサルベージするだろう。ボクが君に行ったようにね」
駄々をこねる子供のような言い方だったが、そこに込められた強い『感情』に気圧されるように言葉が出てこなくなったデュナスモンは続けられる言葉をただ聞くことしか出来なかった
「サルベージされたデータはきっと解析されてまた別の計画や実験に応用される。そうすればまた君のような存在がまた生まれるかもしれない。ボクはそれが気にいらないんだよ」
それは―と言葉がやっと出てくるがすぐ別の言葉にかき消される。だが、その言葉を聞いたデュナスモンは開いていた口をゆっくりと閉じる
「それは君を、いやボクの友を穢し侮辱する行為に等しいからね……それだけはボクは我慢できない」
「ヘクセブラウモン……」
「そういう所が本当に君らしくて尊敬するけど、ここは悲壮そうな雰囲気を出してもいい所だとボクは思うけれどね」
すまないな―そう軽く笑ってみせる友の姿。そしてその後の表情ははっきりとした相手からの『答え』を待つものに変わっていた。軽くため息を吐いた後、それに応える言葉が続く
「君が先刻尋ねた答えは『出来る』だ。君をデリートするためのシークエンスを邪魔する権限は行使されていない。だからボクの『魔法』を使えば君、いやデクスとなった竜をこの世界から消し去ることが可能だよ」
その言葉を聞いた相手は大きく呼吸をする。上下に動く鎧が重なって響く音が一際大きく、重く、広い空間に響いた。その後、言葉が続く
「なら、やってくれ。残滓の一欠片すら残らぬように。お前の手で逝けるのなら本望だ」
わかったよ―そう言った者もまた覚悟をするように呼吸をして俯く。そして中々下がり気味の頭は元の位置には戻らず間だけが空く。デュナスモンはどうしたのか、そう言いたそうに相手の方を覗き返答を求めたいといった雰囲気を出し始めていた。その時だ。俯いていた姿勢が勢いよく元に戻り、大きく声が発せられた