終わったかに見えたヘクセブラウモンからの『問いかけ』だが、『三つ目』が用意されていた。そしてそれがデュナスモンへの『最後』の問いだという。微かな胸の憤りは拭われ、デュナスモンはその問いに向かい合うのだった
「やり残したこと……か」
「悔いていることでも構わないよ。気持ちを楽にして考えてくれればいいさ」
椅子の背もたれに寄りかかり両腕を軽くあげる素振りをしてみせながら、ヘクセブラウモンは軽快な様子で話しかける。それに対してデュナスモンは深く考えるように瞳を閉じ、頭を前に傾け右手を顎あたりに軽く当てる。しばらくの間があいた後、デュナスモンが切り出す
「……三つ、オレには『残してきたモノ』がある」
「それは何だい?」
デュナスモンはもう一度先ほどと同じ素振りを見せる。今度はすぐに言葉が続いた
「オレの『愛した者』達だ─―」
詳しく話してもらえるかな?―その問いかけに対してデュナスモンは静かに頷き、語り始める
※あとがき※
どうも、おでんなドルモンです! 今回は第七話になります。早いものですねぇ(しみじみ)っということで今回はヘクセブラウモンからの問いかけの3つ目のお話になります。それに対してのデュナスモンの過去、そして元いた箱庭であり世界の大切なものの話になってます。
さてさて物語はいよいよ終盤へと差し掛かります。この二体のお話もうしばらくお付き合いください。 では第八話でお会いしましょう~ではでは
「三つの問いを通して、ボクは君の中に【視る】だけでは知り得なかった『デジモン』という生き物を確かに感じた。そしてそこに敬い、愛するだけの価値を見出したんだ」
デュナスモンはヘクセブラウモンをまっすぐに黙ってみつめていた。ヘクセブラウモンは続けて口を開く
「――ならばボクは敬愛する客人へ、『対価』を贈りたいと思う。『保留』にしたことへのボクの『答え』を示す前に、ね」
その言葉にデュナスモンが反応する
「対価……? 一体何の……オレはお前に何もしていない。ただ一方的に傲慢な願いを押しつけただけだろうに――」
「もらったよ」
間髪入れずに言葉が返される。はっとデュナスモンは相手を見つめる。
「君はボクの『三つの問い』に嘘偽りなく応えてくれた―そしてかつてのボクが忘れていた『大切なモノ』を思い出させてくれた―デュナスモン、対価を受け取るに既に値しているんだ、君は」
すっと再び澄んだ光がデュナスモンの鎧をつたう。そんなことはない――そういうように黙って左右に頭を振る姿がそこにはあった。その姿を見つめながらヘクセブラウモンは言葉を紡ぐ
「デュナスモン、君に贈る『対価』は三つある。受け取って欲しい」
次回「敬愛と対価」
デュナスモンのその姿を見て少しの間両目を閉じていたヘクセブラウモンが、ゆっくりと瞳を開いた後に言葉を紡ぐ
「デュナスモン、ボクは今、君に一つの『感情』を抱いているんだと思う」
「感情?」
「ボクにもこんな感情がまだあったんだと驚いているのだけれど……きっと言葉にするなら『敬愛』というものだろうね。ボクと向き合い、話を重ねてきた君は【捕食者】などではなく、まぎれもなく『騎士』だったと思っているからだよ」
そんなことは―そう言いながらデュナスモンは目を逸らしつつ言葉を返してきた
「……オレは沢山の世界に死をまき散らした傲慢な竜だ。デジモンですら、もうない。ただ死をまきちらす者の残滓にすぎない」
その言葉を聞いた相手は頭を左右にゆっくりと振った。言葉が再び返される
「いや……君はデジモンだよ。己の行いを恥じ、悔やみ、残された愛する者達を憂う……そう、それはデジモンとして生きたからこそ生まれた想いだ。それは尊く、儚く、そして美しいものだ」
「ヘクセブラウモン……」
優しい雰囲気を出しながら青い鎧の主は笑いかける
――涙。
――とても澄んで、暖かいもの。
――ボクはいつから涙を流さなくなったのだろう
――そう、きっとあの時。あの手を――
ああ、なんて……『愛おしい』のだろう
「……なるほどね。でも意外な答えだったかな。てっきり、今の状況になったことを悔やんでいてそれが最大の心残りなのだと思っていたからね」
ヘクセブラウモンの言葉を聞いて、デュナスモンは、ふっ―と微かに笑みを溢す
「確かにオレは……この茶会が始まった時から、いやずっと己の過ちを後悔し続けていた。だが、そうではないと思い直したのだ」
「それはどうしてだい?」
「後悔したとしても、もう遅いこともある――オレのことがそれだ。そんなことよりも自分が愛した者達の未来を憂うことの方がよっぽどつらく、悲しく、そして同時に色あせず、変わることなく愛おしいことに気が付いたのだ……」
デュナスモンの両の瞳から大粒の涙がこぼれていた。その涙はとても澄んでいて、とても清らかだった。鎧を何度か伝ったあと、それは途切れていった
「オレはあまり里には帰らなかった。帰ったとしてもほんの数日くらいなものだった。何故ならオレは自警団である組織がある遠く離れた大陸で隊員たちの指導や訓練に明け暮れていたからだ。そんな中でオレを誰よりも慕ってくれたデジモンがいた」
「どんなデジモンだったんだい?」
「組織に入ったばかりの頃はドラコモンだったが、努力家だったその子は他の誰よりも訓練や修練に励み、成熟期のコアドラモンを経て完全体のウィングドラモンに進化を果たし、気がつけばオレの右腕として、副隊長の位置に立つまでに成長してくれていた」
軽く頬に手を当てながら聞いていたヘクセブラウモンが口を開く
「それほど君のことを尊敬していたんだろうね」
「かつてはそうだったのかもしれない。だがオレはあの時、デーモンとの戦いの場面で自分の願いだけを優先させた。その結果オレはいなくなり、残された者達がどうなったか気にはなっていた。そして一番気になったのはその後のウィングドラモンのことだ。口は悪いほうだったが根は誠実な子だったからな……突然消えたオレを恨んでいるかもしれない。もし地に伏せるほどの想いをしているのだろうかと気がかりになっていたんだ」
デュナスモンは元の世界に置いてきた三体のデジモン達のことを事細かく語っていた。その様子を見ていたヘクセブラウモンには相手の語る様子が暖かく、柔らかい雰囲気に感じられていた。そこでヘクセブラウモンが言葉をかけた
話を聞いている相手はソーサーからカップを持ち上げて口に付けてから静かに戻し続きを促す
「弟のチビモンもブイモンへと進化を果たした。兄であるブイドラモンよりも元気で明るく、活発で兄と同じように優しい子だった。だが、時間が経過してもその子にはそれ以上の進化の兆候が表れなかった。修練もちゃんとこなしていたから経験不足というものではないということだったが、もしかすると『成熟期以降への進化自体が出来ない』身体なのではないかと、里の医者であるデジモンは提言していた。その子が仮にブイドラモンに進化出来たとしても、定めを背負うことになる。そして本当に進化出来ないというのならまた別の苦悩がその子を襲うのだろう。だがオレは親としてその子に何もしてやることがもう出来ないのだから――」
「なるほどね……そして次が三つ目かな」
「ああ」
お互いの視線が一度合った後、すぐに最後の話が切り出される
「元いた箱庭、デジタルワールドにはオレが生まれた里がある。心地よい風が吹く場所だ。その近くには大きな滝が流れていて、その滝に隠れた洞窟の中である日二つのデジタマを見つけた。オレはそのデジタマを里に持ち帰ることにした。里は行く場を無くしたり、事情を抱えたデジモン達が集まって出来たものでオレの父親もそこで生まれた。だから放っておけなかったんだろうな。結果、そのデジタマからはチコモンが二体生まれることになった」
続けていいよ――そういう素振りをヘクセブラウモンがした
「先に一体が幼年期を経て成長期のブイモンへと進化した時だっただろうか。片方はまだチビモンだった。里の皆はその二匹を可愛がって育ててくれた。だが、その時からオレは……不安を覚え始めていた」
「生まれてきた二体が『古代種』だったからだね?」
「ああ、そうだ。結果的に兄にあたるブイモンはブイドラモンへと進化した。料理の上手な優しい子だった。オレは自身が抱える種の定めを伝えなければいけない立場になった。ある日、オレはそのブイドラモンに自らの種が持つ定めのことを話した。だが……そこで一つ悔いが生まれてしまった」
ヘクセブラウモンは静かに相槌を打つ
「オレは自分の定めに対してあまりに無頓着だったのだろう。先にある強さ、それだけを見ていたオレはその事が他の者にとってどれだけの意味を持つのか……浅慮すぎた。『ブイドラモン』として生まれ持った定めを聞いたその子はひどく悲しい目をしていたのを今でも覚えている……数日伏せていたが、それからは何事もなかったかのように振る舞ってくれたこともありオレも安堵させられたが……その子がこれからを生きていく先で自らが持つ定めに思い悩み、苦しむことが悔やまれる……」
「それが一つ目なんだね。二つ目は?」