デュナスモンが二つ目に問われたのは『何故、君は【異形の竜】になってしまったのか』というものだった。それは幾多の世界で【捕食者】として殺戮の限りを尽くしてきた自らへの核心に迫るものだったのだろう。ヘクセブラウモンから問われた時のデュナスモンの表情はこれまでよりも一層険しかった。だが、問われたデュナスモンはいずれその問いがくることがわかっていたかのように呼吸を整えた後、口を開く
「我が主、イグドラシルは計画の一つである『箱舟』をいくつかの世界に送った。送られた箱庭の中で起きる事象を監視、観察する為に」
「プロジェクトアークだね」
「ああ、そうだ―許容量に達した箱庭の中にもう一つの新たな箱庭を作りだし適応したデジモンだけを送る。古い箱庭に残った『問題』は我らロイヤルナイツが『解決』の任に就いた」
語られた内容を既に特異点という立場で知り得ているヘクセブラウモンにとってのデュナスモンが敢えて短い単語で表現していたやれ『問題』、やれ『解決』といったことに対しては、大きく呆れともとれる深い息を漏らしていた。だが、それで?―と話の続きを求めてきた
「しかし、計画が監視の段階に入った時だ。実験を行った箱庭の一つで異常な反応を検知した我が主はその箱庭へ調査の目的でロイヤルナイツを派遣することを決めた。だが、その箱庭では実験に使用した『箱舟』の産物である『Xプログラム』の濃度が危険域にまで達していることから派遣するロイヤルナイツには『X抗体』が与えられることになった」
「ふむ―」
「オレはその派遣の任に自ら志願した。元々ロイヤルナイツとは主の命で動き、事を成す。それは絶対でもあり栄誉あることでもあるからだ。しかし、オレはそれ以上に心踊らされたのだ。『X抗体を手に入れた自らの更なる強さ』に―」
そこまで話すと聞く姿勢を一度変えた後にヘクセブラウモンが口を挟んだ。どうやら思うところがあるらしい
夏Pさんへ
うぉぉぉぉ嬉しい感想ありがとうございますー!!
そうなんですよね 経緯を語ってくれるところがこう、デュナスモンの性格とかもろもろも感じられるかなと。 ふふふ、やはりオーバーライトとかの説明はしっかりとわかりやすく入れておきたかったので。
X抗体といえばやはり……この後のお話にご期待ください
感想ありがとうございます!!
気付いたら最後まで行っているううううううう、というわけで夏P(ナッピー)です。
デュナスモンがわかりやすく語ってくれるおかげで非常に経緯がわかりやすい。エアロブイドラモンからデュナスモンへの進化ルートがあったのはロストエボリューションだったかな……? ちゃんとオーバーライトの解説までしてくれるとは貴様できるな……あと人間界で育ったと語ったらしきデュークモンがちょっと気になる。テイマーズ準拠の過去を送ってきたのだろうか。そしてデュナスモン自身がエアロブイドラモンだったら同僚(多分)のアルフォースブイドラモンとはどうなのかしら。
X抗体が絡んでくるとなればデクス! アルファモンを呼べー! 自らの死が希望(願い)と呼ばれたデュナスモンは果たして。
続きも早めに読ませて頂きます。
※あとがき
どうもおでんなドルモンです! 連日連投になっておりますがご容赦ください(五体投地)
Closing Garden第五話になります!!! さて今回はヘクセブラウモンからの二つ目の問いにデュナスモンが答える場面となっております。第一話冒頭から中盤までの【何故】に応えるシナリオにもなっております。こういう形式もあるんだと自分でも勉強になるな、と考えながら書いてました。 さてさて、問いの先に見えた一つの【願い】……二体の物語はどうなっていくのか楽しみにして頂けたら幸いです
では次回 第六話でお会いしましょう また~
「それが……君という存在が失われていく中で芽生えた願い。【パンドラの箱】を開けてしまった君に最後に残った『希望』……というやつなんだね」
静かにデュナスモンが首を縦に振る
すると対面しているヘクセブラウモンが姿勢を正し、口を開いた
「デュナスモン―君の『希望』……いや『願い』というのが正しいのかな」
「……それは―『死』だね」
次回「願い」
「そして此処に辿りついたのだ」
「そして此処に辿りついた―」
ほぼ同時に二体の言葉が重なる。それまで終始黙っていたヘクセブラウモンが口を開いた瞬間でもあった。お互いの視線が合って刹那、ヘクセブラウモンが言葉を切り出した
「―なるほどね。それが『何故、君は【異形の竜】になってしまったのか』というボクの問いの答えというわけだ」
そうヘクセブラウモンが告げた瞬間、間髪いれずにテーブルを両手で叩きつけるようにデュナスモンが席から腰をあげた。度々聞こえていた鎧が重なる音が更に大きく響き渡る。そして息を荒く吐きながら口を開いた
「だから、こうして『オレ』として話せている今―」
その時だ―カチャリ、とソーサーからカップを持ち上げる際に起きた音がその言葉を遮る。そしてその仕草をとったヘクセブラウモンが口元にカップをゆっくりと運び一口注がれていたモノを静かに飲み込むと、そっとソーサーへとカップを戻す。そして溜息まじりの言葉を一つ漏らす
「はぁ……少し気が早すぎるよ、君は」
そう告げられたデュナスモンはゆっくりと無言で元いた席に腰を下ろした。自分が何を言おうとしたか、相手はわかっていてその仕草をしたかが理解出来たからだろう。ヘクセブラウモンが口を開き、言葉を掛ける
「……君の変化はイグドラシルも把握しているはずだけれど?」
首をゆっくりと左右にデュナスモンが振る素振りを見せながら口を開く
「我が主は動かなかった……罰を課すこともなく、沈黙されていた」
溜息交りにヘクセブラウモンが口を開いて一言告げた
「神様というのは冷たいんだね」
「元はといえば自身の中にある『欲望』にも似た感情を抑えることが出来なかったせいだ。だからこそ我が主は沈黙をしているのだとオレは思っている」
それを聞いたヘクセブラウモンはもう一度ため息が混じる息を漏らしながら掛けている椅子の背もたれに大きく寄り掛かる仕草を取りながらも無言で、デュナスモンの話すことに耳を傾けていた
「オレは我が主が座す高次レイヤーへのリンクを自ら切った。……もうオレの中ではデクスの因子が活性化し、オレはオレでなくなり始めていたからだ」
見つめることで相槌をしてくる相手にデュナスモンは言葉を続ける
「……そしてオレは力への渇望、生への飢えをただ満たそうとする【異形の存在】へと堕ちたのだ。それから【デクス】はオレがイグドラシルから与えられた箱庭へ干渉を可能にするコードがある領域まで浸食し、数えきれぬ箱庭に干渉を続けていった。結果、そこには飢えと渇きを永遠に満たすだけの【捕食者】となった哀れな竜がいるだけだった。既に『ソレ』は元々の声も、いや、人格すら持ち合わせてはいなかったのだから―」
「異変、ねぇ……厳密に言えばどんな異変かな?」
瞼を細めながら、ヘクセブラウモンは言葉を漏らした。
「……自分の中で『声』が聞こえるようになった」
へぇ、声ねぇ―と相槌が打たれる
「『もっと強くなりたいだろう』、『今の自分の強さを試したくはないか』と。それは次第に大きい声になっていった。オレはその時確信したのだ……」
ヘクセブラウモンは再び瞼を細め、デュナスモンを見る。そしてこれからデュナスモンが語る事実に対して先に補足を加えるように告げた
「X抗体は君のデジコアに触れた際に変異していた―か」
「そうだ……オレの中に『もう一つの自分』がその時巣食ったのだ。記録にあった【死の存在】が」
ヘクセブラウモンが続く
「【デクス】……キミの力への異常な執着と渇望がX抗体の中に『ソレ』を生み出してしまったということだね」
静かにデュナスモンが頷く。そこで話は止まらず続けられる。
「……その時からオレは戦いに、自分の力を振るいたいという『渇き』を覚え始めた。本来、我が主の命なく箱庭に干渉することは認められていない。だが、その『飢えにも似た渇き』がその一線を越えさせてしまった。激しい飢えに苦しんだオレはある箱庭に干渉していた。事前の調査ではそこは戦闘に特に秀でたデジモン達がいる箱庭だったからだ―」
それで?―そういうような視線がデュナスモンに向けられる
「……気が付いた時には全てが終わっていた。オレは自分の中に他のデジモンのデジコアを取り込んだ感覚があった。足元にはデジコアを失い、データの残滓になるモノ達だけが積まれていた。同時に、『喜び』に似たモノを覚えていた。そして身体の一部がX抗体化していた。そしてまた激しい渇きが襲ってきた。その時だ、オレがもう以前のオレではなくなっていくことを自覚したのは……」
「更なる強さ……ねぇ。君は先程の問いでもそんなことを言っていたね。けれど、だ―イグドラシル直属のロイヤルナイツとなった君の強さはもう通常の個体の『それ』ではないとボクは思っているし、仮に数値化したとしてもそれが事実なのだけれどね」
特異点として【視える】もの、事実をオブラートに包むようにヘクセブラウモンはデュナスモンに告げる。当のデュナスモンもそのことは十分承知だ、といわんばかりに軽く笑いを含んだ息遣いで返した
「ロイヤルナイツとして我が主の命に従って任を果たす。それがデジタルワールドの未来と繁栄、均衡に繋がる―我が主イグドラシルの掲げる理念にオレは賛同した。その為に自分が持ちえる力を振るった。どんなことでもだ。その中で自らの力が通常のデジモンのモノとは比べ物にならないことも理解出来ていた。……だが―」
だが?―と言葉を重ねるように相槌をヘクセブラウモンはその瞳を向けながら一言口にした
「オレはかつての自分、エアロブイドラモンだった時に抱えていた『力への執着心』を捨て去ることが出来ていなかったのだ。『ブイドラモン』という種の持つ定めの鎖から解き放たれた今、更なる強さを、力を手に入れられるという可能性に惹かれた。手を伸ばさずにはいられなかった」
「だからX抗体を欲した、というわけかい」
ああ―とゆっくりとデュナスモンは頷く。ヘクセブラウモンは再び息を漏らしながらも話を続けるように右手をそっと揺らす。それを見てデュナスモンは言葉を続けた
「件の箱庭への調査を志願し、それを主から任せられたオレは『X抗体』を与えられた。X抗体が自らのデジコアに定着する時間はそれぞれ違っているためにオレは派遣の準備に取り掛かった。だが、その時だ。【異変】が起こったのは―」