―コキュートス―
それがこの世界の……いや、『箱庭』の名称。ボクが【視る】ことが出来るデータの奔流の中にそんな記述があったのを覚えている。この『デジタルワールド』という仮想空間には【管理者】と呼ばれるモノが作った無数の『箱庭』が存在しているらしい。此処はその中の一つであり【存在自体していない】ことになっている箱庭というのだから、管理者というモノはよっぽど暇を持て余しているのだろうと、ボクは常日頃から思っている。ああ、たしか―【イグドラシル】とかいったかな呼び名は。
―この箱庭には『命』というモノは存在しない―
―世界の端から吹き荒む凍てついた冷気によって蝕まれ、デジタマが生まれることも、仮に生まれたとしても生きていくことなど不可能な場所だ―
いや、かつては……かつてとはいつのことだったかな?
もうどのくらい時間が経っているのかすら覚えていないんだよね
もしかしたら時間という概念さえ冷気によって凍ってしまっているんじゃないかな。
まあ、寒さなんてものさえ今のボクには感じられない物なのだけれど―
もちろん、この凍てついた箱庭にも暖かい陽の光が差していた頃はあった。夜には綺麗な星が煌めいていたような気がする。それを表現する感情はもう無いのだけれど。その時のボクのデジモンとしての個体名は『ブルコモン』といったかな。少しやんちゃで、一緒に生まれた仲間達と楽しく暮らしていた。決して豊かとはいえなかったけれど、食べ物もあって平和な日々が過ぎていた。しばらくして、仲間達はそれぞれの進化を遂げていった。強い、弱いという概念はあったけれど皆共に生きていたんだ。
―その時がくるまでは。
夏Pさんへ 一度お礼の文をかいたのに手違いで消してしまったのでもう一度さらにお礼の気持ちをこめます!(次からは気を付けよう自戒) とても嬉しい感想を長文で書いて頂いて本当にありがとうございます! 夏Pさんと同じでボクも色んなデジモン小説を読んでいて楽しいなって思う点がまさに登場するデジモンをどういう風に文字で表現するかっていう点だと思うのですよね! あーこの人はこういう風に表現するのかーって感嘆しちゃいますよねっ。ボクの文でも感嘆という言葉で伝えて頂けて嬉しい嬉しいです! ヘクセブラウモンが言っていたのはその通りX抗体の方の意味で、今のデュナスモンは中間のような異形の姿をしていますので【視た】彼がそういう言い回しをしていたわけですね! お目が高いっ。更に、ブルコモンからのワープ進化を経ての特異点化なのでその通りです。 イグドラシルの名前が出たりしているので、色々な想像をして頂いているのも感謝です! 3話目から順次核心にせまっていくのでまた是非読んで頂ければと思います。 デュナスモンとは一体? そしてこの物語がどこに着地するのか、想いをはせて頂ければ幸いです では長くなりましたが3話でお会いしましょう!感想ありがとうございました!!!
二週間ほど経ってしまい申し訳ございません、夏P(ナッピー)と申します。
一話が最新話の内に感想書かせて頂きたかった……ッ! 個人的に他の方々のデジモン小説を読む際に着目するポイントの一つとして種族名を使わずにそのデジモンをどう文字で表現するかというのがあるので、執筆の方で初めて見るヘクセブラウモンはそう表現されるのか──と感嘆しておりました。二話でデュナスモンを指して「もう一つの姿」と述べていたのはX抗体版でしょうか。
二話にて既に生い立ちが明かされるとはなかなか順調な。ブルコモンからのワープ進化かコレは……? イグドラシルの名前も出てきて最初の敵? なのかそれともキーパーソンなのかわかりませんがデュナスモンも絡んでいるので、ロイヤルナイツ系の話になっていくのでしょうか。
それでは第三話もお待ちしております。
Closing Gardenの2話目になります! 今回はヘクセブラウモンの生い立ち、そして1話目のデュナスモン周りの補完になります。次回から二体のお話とかがどどーんと始まっていく予定です。個人的にヘクセブラウモンの性格?はお気に入りと推しポイントの一つですのでお時間有るときに読んで頂けたりすると幸いです。ではでは、3話でまたお会いしましょうー!
※編集して文字など変わる場合がありますのでご了承ください※
『―――』
「ああ、そうだね……珍しく、此処にお客様が来るみたいだ」
氷の大地を隆起させて作った大きめの長椅子に腰かけていた者にデジノーム達が囁く。もちろん言語で会話しているわけではなく、感覚と理解が合わさった信号的なモノだろう。組む足を左右で変え、肘をついた右手に頬をつけながら頭上の虚空に目を向けていた。すると真っ黒な空に青白い波紋がまるで水面のように起こった。その波紋の真ん中からデジモンの姿が現れた。ふぅん―面白いモノを見つけたような軽い声が聞こえた。
「通常の……いやもう一つの種類でもない、か……なるほど『浸食』されてるのかな」
再度組んだ足の左右を変える。今まさに現れたモノが何であるか、何が目的なのか、視ることをせずとも理解するには容易いといった雰囲気をヘクセブラウモンという存在は出していた。その異形のデジモンは咆哮した後、まっすぐにこちらに向かってきた。それを見て少し困った溜息が漏れる
「……やれやれ、そんな姿じゃゆっくりお茶も出来ないね」
氷で出来た長椅子から立ち上がると今まさに目の前に降り立たんとしている異形のモノをみやる。そして―それなら、こうしよう、そう言葉を放ち右手を軽くあげると親指と中指にあたる箇所をパチン、と鳴らしたのだ―
目の前には大き目のテーブルが置かれている。お気に入りの色のテーブルクロスが丁寧に敷かれている。椅子も二つ用意されている。こちらの装飾もお気に入りだ。そしてその片方の椅子には今招いたばかりの『お客様』が座っている。先ほどの異形のような姿ではなく、綺麗な白と金、そして紫を基調とした鎧を携えた『デュナスモン』の姿がそこにはあった。もう片方にはヘクセブラウモンが優雅に腰かけている。当の客人は何が起きたかわからない素振りを見せながらこちらに視線を向けていた。
「さて、お茶はいかがかな? ああ、すまない。飲めるタイプだったかな?」
客人の驚いているその様子をふふっと笑みをこぼしながら、口元には手を添えられている。
「……な、何……が」
掠れたような、まるで今まで言語を忘れていたように動揺した声を出す客人に向かって再び声を掛ける
「ようこそ、閉ざされた箱庭のお茶会へ。ボクの名前はヘクセブラウモン。この箱庭の主だよ」
突然始まったお茶会。テーブル越しに見つめ合う二体のデジモン。この出会いは偶然、いや必然だったのだろう。今、一つのお話の幕は上がったのだ―
次回 03「問いかけ」
視界が以前より高くなっていた。ふと両手を目の前に出してみると青い堅いモノに変わっていた。視線を近くにあった氷の壁に向けて、顔を近づけるとそこにはブルコモンだった獣の姿はなく、左肩に竜のような特徴を持つ鎧に包まれたデジモンがそこに居た。それがボク自身だということに気付くまで時間はかからなかった。同時に『全て』を理解した。その姿、つまり究極体へと進化を果たしたボクは神様、いや【管理者】の戯れのおかげで、あらゆるデータの奔流から可能な限りの知識を【視る】ことが可能になっていたのだ。視るといってもここは0と1で出来たある種最も単純な作りの世界なのだから未来を見ているわけじゃぁない。【特異点】という存在になり【エニアック】と呼ばれるコアコンピュータの一つとリンクしたボクはそれを介して行われる【超高度演算能力】によって『発生する可能性のある事象』を知ることが出来る、そんな程度のモノだ。
まあ、そんなことは置いておくとして、そんな存在になったボクの周囲にはいつの間にか【デジノーム】と呼ばれるデジモンあらざる存在が漂っていた。いや、最初から近くにいたんだ。普通のデジモンでは見えなかっただけで……つまり、ボク自身も既にデジモンの理から外れたのだというのも理解できた。ブルコモンの時に確か神様を恨んだ気もした。でも、既にボクの中にはそんな感情も思い出すこともない。
一つの箱庭で起きた天災―
たまたま生まれていた管理者なき箱庭の命は冷気の渦に消えた―
ただ一体だけ、所謂管理するものがいなくても存在することが出来る事象―
【特異点】と化したボクを除いて、ね―
……まあ、昔のことを思い出すのは刹那だ。此処は時間がとまったように静かだし、『隣人』と呼ぶようになったデジノーム達と『ボク』がいるだけ。
ある時、世界の向こうから凍てついた冷気の壁が突然現れた。それによって世界の中心へと冷気の浸食が始まり吹雪が吹き始め、瞬く間にしてボクたちの生活は豹変した。食べ物が採れなくなっていった結果デジモン同士で争いが起き始め、やがて殺し合いにまで発展した。己が個体として強いか、弱いかという概念がそれをさらに加速させていった。そして、争うことを拒否したボク達は数少ない仲間と冷気と吹雪に覆われていく世界のある小さな洞窟で凍てつく寒さを乗り越えようとしたんだ。
一匹……また一匹と冷気によって蝕まれたモノ、飢えで息絶えるモノが現れた―
それまで何とか火を起こしてくれていたデジモンも居なくなった。元々洞窟に籠ったくらいでは外で命を蝕んでいく冷気に太刀打ちなんて出来なかったのさ。今思えばだけれど、ね。
―それでも死にたくないと、ボクの手を掴んだ子がいた―
ボクより小さくて、笑顔がとっても明るい子だった。ボクはその子をどうしても護りたかったらしい。それまでいた洞窟も冷気によってもう住めなくなるのも時間の問題だと分かったからボクはその子を連れて二匹で吹雪の中を探し始めた。どこかに……せめてこの子だけでも助けられる場所を……ってね。
―その時ボクの手を掴んでいた手が……割れた。
幼い手は氷の欠片になって砕け散った。ボクの見ている前で……そしてその無常な冷気の波は周囲を呑み込んだ。世界が冷気の壁に覆われて凍てつき、そして消え去った―
―気が付くと、あれほどに響いていた吹雪の音が止んでいた―
眼を開けられた。
そこには何もなかった。
ただ黒く染まった空と氷の大地が世界のどこまでも続いていた
―何故、ボクはまだ存在しているのだろう?―