ヤマもないしオチもないです
日常生活に馴染むデジモンの話です
「父ちゃん……どうじよう……」
真夏の昼下がり。
虫取り網を持って飛び出していった一人息子が泣きながら実家の神社へと帰ってきたものだから、扇風機の前で事務作業をしていた神主と非常勤の巫女は驚いて外へ飛び出した。
「どうしたお前。コンゴウモンとヤタガラモンと出かけたんじゃないのか」
「でかけたよ!でかけたんだけど、途中で強いデジモンと会っちゃって……」
「怪我はないの?」
「怪我はないよ、でも……コンゴウモンとヤタガラモンが……」
言い淀む少年の様子に、神主と巫女は不安を募らせていく。
「まさか、敵に負けて……?!」
「敵に勝って……」
うちの御祭神になっちゃった……。
その一言に、神主と巫女が顔を見合わせる。
そして、少年が指差した先。御神木の影に隠れるその巨体のデジモンの姿を捉えた。
地域に根付くちいさな社。素戔嗚尊を祭神とする八坂神社の境内に絶叫が響いた。
・・・・・・
「……ってことがあったよなあ」
「ほんとにびっくりしたよねえ」
地域のちいさな神社であるが、年明けは地域の住民たちがここに初詣にやってくる。
お守りや破魔矢の売り上げを会計アプリで計算する若き神主の隣、分厚い半纏を着込んだスサノオモンが溜まった御朱印帳へと筆を走らせていく。
「真夏のことを今思い出すってなんかあったん?」
「別に、さっきやってきた人……観光客さんかな。スサノオモン見てちょっとびっくりしてたからさ」
「この前お前のDigitterで俺のネタでバズってたから?最近ここに来る旅行客ちらちらおるよね」
「まあね〜新規さんが増えるのはいいことだけど。てか早く御朱印書けよ」
「寒くて手がうごかね〜祭神使い荒すぎ〜」
仕上げの朱印を押し、半紙で余った墨を吸い取って乾くのを待つ。
大きな手を石油ストーブで炙りながら、上で温まったコーヒーを一口含む。
「さむい〜新年の大仕事終わったらこたつでのんびりした〜い」
「とんど焼きがあるまでゆっくりしたいよな」
「だねえ。御朱印書くの代わって」
「やだよ。お前が一番書くの上手いんだもん。それに御祭神直々の御朱印喜ばれてるから。な?」
「くそ〜夕飯あったかいうどん食いに連れてけよ?!」
じんわりと温まった手を擦り合わせ、スサノオモンは再び机へと向き直る。
悪態をつきながらも、そこまで嫌がっていないことは神主はよく分かっている。
丁寧に筆を走らせる姿を横目で見て、若き神主はゆるく口角を持ち上げた。
少年時代のあの真夏から。
スサノオモンは御祭神と持ち上げられても、ずっと神主の隣にいる大切なパートナーだ。
「……今年も一年頼むぜ、御祭神」
「いきなりなに?!こちらこそ神主」
夕飯はラーメンになった。
台詞回し含めてテンポが良すぎる。夏P(ナッピー)です。
素戔嗚尊を祭っていると言われた時点でピーンと来ましたがコンゴウモンとヤタガラモン!? デジモン史上最大の396匹(だったかな)が育成できるニンテンドーDSデジモンストーリーサンバーストムーンライト(熱いステマ)のジョグレスレシピじゃないか! もう片方はスーパースターモンとマグナモンだったかな……非常勤の巫女という表現にちょっと噴きましたがアレは母親……?
短文でスパっと纏められてはありますが、息子がキチンと立派な神主になっている、そして御祭神となってもパートナーと変わらず共にいるというのがなかなか感慨深かったのです。そりゃうどんよりラーメンだよな!
それではこの辺で感想とさせて頂きます。