◇
海沿いに位置する辺鄙なこの街は、今は亡き父の生まれ故郷と聞いた。
別に何の感慨もない。十年以上も前に死んだ、自分に何も残してくれなかった男のことなど今更興味はない。だから訪れたのは偶然、父の母校らしい寂れた高校の校舎の屋上から見える景色は、疎らな灯りを含めても過疎化の一途を辿る田舎町のそれでしかなかった。
白衣を夜風に靡かせ、眼下を見下ろす黒髪の少女はただ無表情である。
「……ダナン」
振り返らずに言う。僅かに空間が歪み、黒衣の騎士が姿を現した。
「確かに……デジタルモンスターの匂いがするな」
咲夜の隣に立ち、屋上から街を見据える仮面の奥で黒騎士は笑ったようだった。
ダークナイトモン、名前をダナン。少女自身が完成させた人工生命体。七年ほど前、弱冠10歳の少女が構築したプロトタイプ、スカルナイトモンは意思も持たずに動く屍でしかなかったが、先般完成を見たデッドリーアクスモンに持たせた感情データは正常に機能していると思えた。とはいえ、彼ら二体を融合(デジクロス)させたことで、このような慇懃無礼な性格になること自体は想定外だったが。
「かつて三度ほど、ゲートが開いたことがあるそうよ」
「なるほど、そういえばあの男の故郷でもあるのだったな」
「……ああ、龍司君」
袂を分かったばかりの同志、否、使えなくなった道具の顔を思い出す。
反吐が出そうなほど甘い男だった。利用価値があると思って取り込んでみれば、デジタルモンスターとの絆、選ばれし子供としての使命、そんな少女からすれば何の価値もないものに振り回されて肝心の時に判断を誤る出来損ない。デジタルワールドを救った英雄としての自分に縋り、現実世界を生きる人間としては故障した、自分に利用されるべき道具としても不出来な半端物。
そんな男に興味はない。それでも殺せず取り逃がしたのは自分の失態だろう。
「だが我々が動かねばならんほどの相手でもないのだろう?」
「……今は手駒が足りないのよ、私達でやるしかないわ」
「違いない。やれやれ……君があの男を取り逃がさなければ、私がこんな面倒事を背負い込むことにはならなかったのだがな」
肩を竦めるダナン。その物言いは父にどこか似ていてどうにも腹が立つもので。
「誰がこんな性格にしたんだか」
「君だ」
「……違いないわね」
言いつつ柵に手をかけ、思い切り夜の空へ身を躍らせた。
傍から見ればまるで投身自殺のように見えたかもしれない。だが同時に跳躍したダナンが少女の細身を抱き上げて空を舞う。一人と一体の影が月夜の空の上で溶け合った。
2022年12月24日。17歳の不知火咲夜は静岡県青葉町を訪れている。
選ばれし子供、この世界とあちらの世界の境界を危うくする人の亜種。それらを残らず駆逐する為に不知火咲夜の生はある。数多の命を手にかけてきたことに後悔はない。デジタルワールドの研究者であった不知火士朗を父に持つ自分は、そう在ることしかできなかっただけのこと。
標的の名はドルビックモン。
ビッグデスターズの一員にして、この街に巣喰う火烈将軍。
『本日ハ晴天ナリ。』
―――――EPIROGUE.2 「For The Future(後)」
恐らく当時の自分は4歳か5歳だったが、その光景を覚えている。
「よく見ておくんだな、咲夜」
できた人間ではなかった。間違いなく父親失格の男だったと言えよう。
それでも2009年のあの日、母に連れられて訪れた秋葉原の地下研究所。
父は確かにそこでそれを、娘である自分に教えてくれたのだと思った。
「里中君、始めてくれ」
「承知しました」
ガラス張りの管制室。そこで陣頭指揮を執る背中はどこか眩しかった。果たして父が何を言っているのか、すぐ前に座る若い女性に何を指示しているのか当時の咲夜には全くわからなかったけれど、それでも幼稚園で顔を合わせる同級生達の親とは全く違うことをしているのだろうということだけはわかる。
ガラスの向こう、地下にも関わらずグラウンドほど開けた空間に、パイプ椅子に腰掛ける一人の男の姿がある。
「いよいよ最期の時だが……遺す言葉はあるか、玉川博士」
父がマイクを取って呼びかけるその男は、果たして虫の息であった。
椅子に両の足首を括り付けられて身動きを封じられているが、それ以前に凄惨な拷問を受けたかのように傷だらけで痩せ細った体は、恐らく拘束を解かれた程度では最早逃げることは叶うまい。色素の抜け切った白髪の残る頭部こそが、辛うじて男が60代から70代の老人だろうことを示していた。
『後悔……するぞ、不知火士朗……!』
それでもスピーカーから聞こえてきた声は憎悪に満ちていた。
ただ憎しみと殺意に染めた声音で老人は父の名を告げる。その意味を当時の咲夜はまるで理解することができなかったが、ただ一瞬だけ振り返って自分のことを視界に収めた父の目を忘れることができない。
涼やかな目。それはどういう意図なのか。どういう感情の発露なのか。
「後悔などしないさ。これまでも、これからも」
再びマイクを取る父。咲夜からは表情を伺えない遠い父の背中。
「そもそもだ、玉川博士。あなたは本来であれば十年前、前田快斗と鮎川飛鳥に敗れた時点で死に行くのが道理だった。そんな惨めに果てるべきだった老人を十年間も生き長らえさせてやったのは他でもない私だ。感謝こそすれ、恨まれる道理などあるまい」
『き、貴様ァ……ッ!』
「十年……そう、十年だ。理論の構築に十年もの時を費やしてしまったが、それだけの成果はあったと見るべきだろう。とはいえ、これは本来ならもっと早く成るものだった。前世紀末に先進国の間で極秘裏に進められていた異世界の開発競争、その中で我が国は怠惰の魔王の捕獲というアドバンテージで間違いなく先陣を切っていたはずだ。だが一人の男が私欲の為に造反を図ったことで全ての研究は頓挫した。……その裏切り者があなただ、玉川白夜」
父の声は変わらない。彼は自分の父である時と同様の何の感情も乗らない声で、ただ拘束した男を糾弾する。
「故に我が国は異世界開拓の分野において大きく出遅れた。むしろ主導権争いからは脱落したと言ってもいい。計画の主導者であった九条兵衛先生は亡くなり、主要研究者のあなたが造反の上に失踪、更には捕獲した怠惰の魔王もまた暴走の果てに討滅されたのだからそれも当然か」
『貴様に何がわかる! デジタルモンスターの価値に気付かぬ貴様に──』
「そこで日本政府は考えた。九条先生でも玉川博士でもない。我が国が再び彼の事業でトップに返り咲くには、やはり魔王を確保することこそが肝要なのだと」
そこで父は一呼吸置く。躊躇いではない。迷いなどでも勿論ない。
「魔王がいなくなったのであれば、新たに生み出せばいいのだ……と」
『な……に?』
スピーカーから聞こえる男の声が凍り付く。
ガラス窓の先に見える老体が椅子の上で痙攣を始める。よく見れば男の手足には何本ものチューブが繋がれている。それらは全て壁際に置かれたカプセルへと繋がっており、各々のカプセルの中には自然界には存在し得ないだろう毒々しい液体が充満し、男の体に流れ込む時を今か今かと待っているようだった。
「博士、無論あなたは光ヶ丘事変の真相を知っているな? 1999年7月、突如現れた巨大な怪物によって光ヶ丘は蹂躙された。当時の政府は混乱の中で箝口令を敷いたが、人の口に戸は建てられないとはよく言ったもの、あの魔獣をやれ恐怖の大王だ、やれアンゴル・モアだと語る声は少なくない……が、真相はそこではない」
『き、貴様まさか……』
片手で父がキーボードを叩くと、ガラス窓に一人の女性の写真が映し出される。
年若く派手な容姿と服装だったが、恐らく十分に美女と呼べる女だった。その下には名前や生年が羅列されているらしいが、咲夜からでは逆になっていて読めない。しかし老人が目を見開いたことからも彼と縁のある人間だろうことは読み取れた。
「この女の末路は記録している……いや、記録したのはあなただから記録されているが正しいか。少なくとも彼女の事例こそが人とデジタルモンスターとの間に存在する、現時点での限界を示している。行き過ぎた繋がりは、両者を一つにしてしまうのだ……と」
前世紀末、東京都練馬区光ヶ丘を突然の災害が襲った。局地的な大地震とも突発的な火災とも言われたそれは消防隊と救急隊の活躍によって被害は抑えられたが、生存者の中で巨大な怪物を見たという声は枚挙に暇が無い。あれこそが彼の予言に謳われる恐怖の大王なのだという説も根強い。
それは確かな事実であり、同時にまた真実ではない。玉川白夜が企図した恐怖の大王とは果たして怠惰の魔王、数年前に日本政府が捕獲して秘密裏に研究材料として確保されていたベルフェモンであり、光ヶ丘に現れた巨大な魔獣は似て非なるものだった。
グランドラクモン。写真の女性、龍崎時雨が育成した吸血王であり、彼女の肉体それ自体を媒介として世界に顕現したアンゴル・モアの正体。
「なるほど、人間の肉体を介せば実体を伴ったデジタルモンスターを生み出すことも容易というわけだ。……そして今ここには、デジモンと繋がりを有する人間の肉体がある」
『よ、よせ……!』
恐怖が乗る。拘束された男の体が無様にも震え出した。
「深き森の王と呼ばれたタイラントカブテリモンの力、それと繋がった玉川白夜(あなた)の肉体、そして教え子達の命を利用してあなたが得た魔王のデータ……」
『や、やめろ……頼む、やめてくれ……!』
父の手に握られているのは青い小型デバイス。
かつて数多の若者によって握られ、デジタルモンスターとの繋がりの為に用いられた加速神器と呼ばれたそれを、父は手元のパソコンに取り付けて小さく呟いた。
「加速<アクセル>」
ドクンと。
ガラスの向こうの男の体が痙攣する。
『がっ……がああああああ!!』
老齢の男がのた打つ様は実に無様で滑稽で、きっと目が離せなかった。
手足の管から流れ込むのは人間界には有り得ない莫大なエネルギー。それが老齢の肉体をやがて内側から押し上げ、盛り上げ、その全身を人ではない者に作り替えていく。血走った目は程なくして真紅に染まり、食い縛られた口も大きく裂けて噛み合わされた牙がガチガチと音を立てる。噴水のように飛び散った鮮血はまるで邪悪なる衣装を形成するかのようで。
既に玉川白夜は死んでいた。故に拘束を引き千切りそこに在ったのは、彼ではない何か。
「ククク……フッ、フハハハハハ!」
それを前に父は嗤う。ただ嗤う。
「見事だよ玉川博士……あなたはどこまでも、どこまで行っても“強欲”だったというわけだ!」
強欲の極みと言うべき人間の肉体。
世界の頂点にも等しい究極体の力。
そして。
長き眠りより目覚めた魔王の意思。
それらを掛け合わせた時、そこに今まで人間界に現れたことのない新たなる魔王が立つ。血のように赤黒いローブとマントを羽織った魔術師めいた姿、尖った鼻と大きく裂けた口は十分に非人間的だと言えたが、同時にどこか玉川白夜の生前を思い出させる雰囲気を残していた。
「強欲の魔王、バルバモン……そう呼ばせて頂こう、あなたを」
咲夜はこの日のことを、父が見せた一連の出来事を殆ど覚えていない。
玉川白夜なる男の名前も父が語った世紀末の真実も加速神器なるデジヴァイスもそれらによって生み出された強欲の魔王のことも数年の後、つまり父と母が死んだ頃には全て忘れ去っていた。
「……いや、全く以って素晴らしい」
それでも覚えているのは。
「これが、あの世界を統べるべき魔王の姿というわけか……!」
現れた人知を超えた魔物を前に恍惚の表情を浮かべている父の姿だけ。
そう、これだけだ。
不知火咲夜が父から受け取ったのは。
命以外には、こんな光景だけだった。
寂れたシャッター街の先、闇夜に聳える中学校の校舎が見える。
先の高校と同様、ここもまた父の出身校なのだろうか。霧が深まるのを見るまでもなく、標的となる紅の竜の気配はそこにある。すぐ裏に小高い山を控える中学校は、夜の田舎町特有のおどろおどろしい雰囲気を讃えてそこに在る。故に標的の対となるテイマー、選ばれし子供はそこの生徒もしくは元生徒といったところだろうか。
「久方ぶりの実戦だ。腕が鳴るな、咲夜?」
「……よく言うわ」
嘯くダークナイトモンを見ることなく言葉を返す。
隣の黒騎士はある魔王のデータをベースに咲夜が開発した、プロトタイプデジモンの内の一体だ。その肉体も感情も全て不知火咲夜の作り出した偽りのもの。
七年ほど前、最初に完成させたスカルナイトモンは精神を定着させることに失敗し、咲夜の命令が無ければ戦うことすらできない不良品だった。その後、偶然手に入れたグレイモンのデータを解析したことやメイルバードラモン達の開発を経て、つい二月前に完成したデッドリーアックスモン、感情データを搭載した彼とのデジクロスにより誕生したのがこのダークナイトモンである。だというのに、誰に似たのか彼は慇懃無礼で生意気な騎士だった。
咲夜は彼を完全体と定義しているが、並の究極体なら十分に相手取れるだけの力を与えており、彼自身にもその自負がある。それが斯様な精神構造を生んだ遠因だろうか。取り急ぎ咲夜はそう定義付けていた。
「ふむ……?」
「どうしたの?」
「……何者かが戦っているようだ、我々の標的と」
「誰か……誰?」
そんなはずはない。事前に情報の精査を行わない自分ではない。
この街に現在選ばれし子供はいないはずだ。
2009年の選ばれし子供である四名は既に所在を確認しており、この街にいないことを確認できている。同様に2014年の選ばれし子供、この街の出身者である菊池隆二は以前まで咲夜の手駒として働き、今は行方を晦ましている。そして同志であった武藤七海は二ヶ月前、その隆二の手で始末させたばかりだ。もう一人の恩田亜子は──いずれ殺害するつもりだが──東京の大学に通っていることが確認できている。
付け加えるなら2019年、三年前にゲートが開いた際には菊池隆二達の活躍により選ばれし子供が現れぬままゲートは閉じられたはずだった。
ならばドルビックモンと戦っている者は果たして誰なのか。
「急ぎましょう」
浮かんだのは焦燥や苛立ちではなく純粋な興味だ。
小走りで通りを行く。濃くなりつつある霧が街を覆い始めている。デジタルフィールドと呼称されるそれは、デジタルモンスターが存在を隠蔽する際に発生するとされる代物だ。デジタルモンスター同士がぶつかり合う時に自動で現出するとも、成熟期以上のデジタルモンスターが自分の意思で発生させるとも言われているが、現時点で原理は定かではない。
だから確かなのは、それだけの存在がドルビックモンと戦っているという事実だけだ。
「……いってぇ!」
どこか場違いに甲高い声が響く。咲夜が霧を抜けた先、中学校の校庭。
「ニトロ、戻れっか?」
「当然!」
頼もしい叫びだ。
吹き飛んで背中から地面に叩き付けられた金色の聖騎士が屈伸、足の力だけで跳躍する。完全体か究極体か、一見して判別できないその聖騎士は、そのまま校庭の中心に立つ少年の隣へと着地した。
彼が相見えるは紅の鱗を有する竜族の皇帝ドルビックモン。閉じた顎から炎を迸らせながらそこに在る。
「選ばれし子供……いえ」
聖騎士だけではない。少年の前に立ち、ドルビックモンと向き合い咆哮するのは夜の闇にあって眩い輝きを放つ金色の巨鳥だ。
聖騎士と巨鳥、どちらも見る者を圧倒する金色。
「ぶちかませ! クロス! ニトロ!」
それを使役する少年の背中は、咲夜にとってどこか眩しいものだった。
苛立っていた。どこかで自分で自分をやり切れていない気がした。
「……お前のそういう顔は珍しいな」
拓斗が波止場のベンチで黄昏れていると、相棒がひょっこりと顔を出した。
エレキモン、名前をクロス。片目を大きな十字傷で潰された隻眼の彼は、かつてデジタルワールドを共に冒険した拓斗の相棒だった。冒険の後は再会を誓って別れたが、ひょんな理由から人間界に訪れた後そのまま留まっており、拓斗の住む街で人目に付かぬよう身を潜めて暮らしている。
「わかるか?」
「三年の付き合いだからな。……大方、母親のことだろう?」
ベンチの隣に腰掛け、相棒は淡々と言う。
図星であった。
「……お前は昔からわかりやすい」
「まだ何も言ってねーんだけど」
「俺達は拓斗のことなら何でもわかるぜ!」
逆側にもう一人の相棒が腰掛けた。ブイモンのニトロである。
「別に頭じゃわかっちゃいるんだよ」
思い切り項垂れた。こんな気分に反して故郷の空は相変わらず綺麗だ。
前田拓斗、この地域ではそれなりに知られた名家である前田屋敷の一人息子。父親である前田快斗は稀代の問題児として有名であると同時に愛されていたらしいが、息子の拓斗もまた隣人からは十分に可愛がられて育った。勉強は苦手ながら父に似ず真面目と言っていい性格は、近所の誰からも言われたものだった。
きっとお母さんに似たんだね。
前田煌羅、物心付いた時から傍にいる美しい女性。今思えば自分以外の誰からも明言されたことはなかったけれど、拓斗は自然そんな彼女を母だと信じていた。恥ずかしげもなく母さんと呼んできた。そう呼ばれていつも柔らかく微笑むあの顔、きっとそれは煌羅を、義姉である女性を少なからず心苦しくさせていたはずで。
そんな拓斗の本当の母が、半年前に帰ってきた。
理由なんて知らない。17歳になって今更母親がどうとか言うつもりもなかった。だから結局、それは拓斗の心の中の問題だけだ。母でない女性を母と呼んでいた事実、そしてそれを一度も訂正してくれなかった周囲への苛立ち、そして本当の母と今になってどう向き合えばいいのかという気恥ずかしさ。
それら全てが自然、あの前田飛鳥という女を母と呼べなくさせていた。
「親父とあの女が……さ」
「母さんをあの女だなんて言うなよな」
「……親父とお袋がさ」
ニトロはこういうところに細かい。
「俺の生まれるずっと前からデジモンと関わってたなんて知らなかった」
半年前、母として現れた前田飛鳥を受け入れられず、また彼女がデジタルモンスターを伴って現れたことに混乱し、拓斗はその逡巡を全てぶつけてしまった。かつてデジタルワールドを救う為に託された力を、あの世界を共に駆け抜けた二体の相棒の力を、ただ苛立ちの為だけに母である女にぶつけた。
それなのに勝てなかった。乱入した父親の快斗とレオルモンのポンデ、それが飛鳥のヴァロドゥルモン“イサハヤ”と一体化したオメガモンによく似たモンスターに完膚無きまでに打ち負かされた。
『なかなかやるな息子よ、だが俺とハニーにはまだまだ勝てねえな!』
そう勝ち誇った父親の姿が忘れられない。
反抗期というものは自分にはなかったと思う。けれど高校二年生になり、涙する義姉から真実を聞かされた後、拓斗は実家の中で居場所を見失いかけていた。父の快斗と母の飛鳥、そして義姉の煌羅、時を経て家族として暮らし始めた彼ら三人は仲睦まじく、一方の自分は間違いなく前田快斗と前田飛鳥の息子であるはずなのにどこがしかの疎外感があった。自分が生まれる前、自分の知らない戦いを潜り抜けた彼らに対して明確な差を実感させられていた。
そんな自分を心配し、母が遠慮がちに気遣ってくるのもまた自分を苛立たせていた。
理由は聞いた。母は昔の政治家の隠し子であったと、デジモンを悪用しようとした人間を知る立場であったと。しがない物書きとしての取材の旅と称してこの15年、家族が巻き込まれないように父のポンデも預かり、デジモンに関する都市伝説の沈静化に奔走していたと聞いた。
立派だと思う。自分達の為だということもわかる。
だけど違う、それでも違う。それなら言って欲しかった。煌羅は義姉であると最初から教えて欲しかった。
(なのに今更母親面するんじゃねーよ!)
その言葉を言えたらどれだけ良かったか。それを飲み込めてしまう程度には、前田拓斗は半端に大人だった。デジタルモンスターと出会う前だったら言えただろう、成人した後だったなら思うこともなかっただろう。子供にも大人にもなり切れない半端な自分だからこそ、こんなモヤモヤした思いを抱えることになる。
「……結局、俺の心の中の問題なんだよ」
自身の胸の内を噛み締めるように同じ言葉を反芻する。
きっとクロスにもニトロにも答えは出せないだろう。だけど聞いて欲しい、そんな甘えがあった。
とっくに冬休みに入っている。誰と遊ぶでもなく暇を持て余し、かと言って早い時間からあの家に帰るのも気まずく、夕焼けに染まりつつある空の下で拓斗は故郷を彷徨っている。
「こういう時、拓斗には彼女でもいれば良かったのになー!」
「……ほう? お前またフラれたのか」
「ちきしょー! 余計なことを言うんじゃねー!」
12月24日。土曜日で部活もない斯様な日に高校生男子が一人でいるというのは、要するにそういうことなのだが、しかし寒空の下で相棒達と駄弁っていると自然と気が紛れて救われるようなのだ。同性同士で戯れる方が楽しい時期というのは誰にでもあるものだが、拓斗もまたそうした時期を迎えていた。
しかし冬の日暮れは早い。あっという間に暗くなってしまう。やれやれとベンチから立ち上がった。
「帰るか、気は進まねーけど」
「その方がいい。家族というのは得難いものなのだろう?」
「お前が言うと重みが……」
そこまで言って口を噤む。クロスは過去に戦いの中で故郷の村を滅ぼされている。
隣を歩くニトロをチラリと見た。クロスを守るべく身を散らしたその村の村長、エクスブイモンの生まれ変わりがニトロだという可能性があると聞いた。だが真実はわからないし、クロスもこれ以上追求するつもりはないようだ。そんな曖昧な繋がりでも自分達は今こうして共にいる、それでいいのだと思う。
「なあ拓斗」
「何だよニトロ、悪いけど晩飯の残りは今日は……」
「違う」
緊張した声音はそのニトロから。寂れた商店街に差し掛かった時、彼は何かに気付いた。
「何か……いる、多分中学校の方だ」
「完全体……いや、究極体か。確かに感じるな」
「え、マジか?」
ニトロだけではなくクロスも隻眼を細める。それだけでただならぬ事態だと直感する。しかし拓斗の知る限りこちらの世界に究極体が現れた例はない。半年ほど前に海沿いで大暴れした自分達と父母のパートナーを除けば、だが。
シャッター街を抜ければ、つい二年前まで自分の通っていた中学校がある。久方ぶりの校門を小走りで駆け抜けて辿り着いた校庭。
「あれは……!」
そこに君臨する存在を前にして、拓斗も思わず息を呑んだ。
通い慣れた校舎を背に見たことのない怪物が立つ。かつて幾度となく相見え、共闘することもあったインペリアルドラモンの戦士形態を彷彿とさせるその巨躯は一目でデジタルモンスター、それも確かにクロスの言葉通り究極体クラスだと理解できる威容。赤黒い竜鱗を全身に覆い二本の足で大地を踏み締めるその様は、まさに竜族の皇帝と呼ぶに相応しかろう。
数十メートルを誇る巨体で今にも校舎を押し潰さんとしていた竜は、現れた拓斗達に気付いたのかゆっくりと振り返った。
「……クロス、コイツ……何だ?」
「俺が知るわけなかろう」
人でありながら竜、竜でありながら人。そんな竜帝の口内には灼熱の炎が渦巻いていた。
「オイ拓斗! なんで俺に聞かないんだよ!」
「いやクロスよりお前の方が詳しいことないだろ……」
「馬鹿にすんな! コイツはドルビックモンだ!」
ニトロの怒声で正体が知れる。竜型デジモンを統率する竜族の長、それが眼前に立つ竜帝であった。
だがドルビックモンは一切の言葉を発する様子がない。竜帝と言われるだけの知性も意思も感じ取れず、こちらを見下ろす血走った双眸は目の前の全てを焼き尽くさんとするばかりで、対話を図ることさえできそうにない。
不意に竜帝がその右拳を大地に叩き付けた。瞬間、周囲を地響きが襲い校庭の至る場所から炎が噴き上がる。バーニング・ザ・ドラゴン、大地の龍脈を自在に操り周囲の地形を変動させるドルビックモンの特殊能力。
とても立っていられない。一人と二匹は思わずその場に膝を着いて震動に耐える。
「うわっ! て、テメー……人の愛すべき母校を……!」
「拓斗! デジメンタル貸せ! 奇跡!」
差し出されたニトロの手に自前の携帯電話──残念ながら未だにガラケーである──を向けると、一瞬の輝きの後に彼の手に黄金の秘宝が出現する。かつてデジヴァイスであった前田拓斗の携帯電話に宿るあの世界の至宝、奇跡のデジメンタル。
「行くぜ! ブイモン、アーマー進化!」
瞬間、閃光を放ったニトロの肉体が黄金の鎧を纏う聖騎士へと姿を変える。
マグナモン、究極体に伍すると言われたアーマー体。成熟期に進化する兆しのないニトロが掴んだ黄金の力は、かつてデジタルワールドを駆けた時の輝きそのままに今また人間界に現れた未知なる敵へ向けて飛ぶ。
「……俺も行こう」
「クロス」
「あの体格差だ、ニトロだけでは荷が重かろう」
スッと前に出るクロス。ドルビックモンの顔面に拳を叩き込んだニトロだが、まるでガリバーに挑む兵隊の如き絵面である。如何に奇跡の力といえど、僅かに竜帝の顔を歪ませる以上の効果は得られていない。
周囲に霧が現出する。究極体に到達したクロスが発生させる電脳霧デジタルフィールド、かつて母と戦った際も彼がこれを発生させたことでデジモンの存在は秘匿できた。頭に血が上った自分はそんなことなど微塵も考えなかったというのに、クロスはどこまでも自分のことを、自分達のことを考えてくれていたらしい。
相棒である。彼は、彼らは。
「案ずるな。お前の母親と戦うよりは気楽な仕事だ」
「……悪いな、あの時は……」
「言うな相棒。案ずるなと俺は言った!」
両足に電気を纏ったエレキモンの体が大地との反発で跳んだ、いや飛んだ。
同時に彼の太陽の如き橙の肉体が変わる。
赤き炎を宿す巨鳥に、そのまま炎を黒く染め上げた怪鳥に。
赤炎と黒炎とを混ぜ合わせ、そこに雷を宿した緑の聖鳥に。
そして。
世界の闇を照らすかの如き、黄金の装甲を身に纏う巨鳥に。
「ぶちかませ……クロス! ニトロ!」
クロスモンとマグナモン。
空を舞う前田拓斗の相棒達がデジタルフィールドの中、久方ぶりに黄金の軌跡を描いた。
声が出せなかった。いや、見惚れていたのだ。
「カイザーフェニックス!」
「シャイニングゴールドソーラーストーム!」
闇夜にその身を光り輝かせる黄金の巨鳥に。
あらゆる攻撃を撥ね除ける黄金の聖騎士に。
そして何より彼らを使役する男の子の姿に。
「……ッ!」
気付けば校庭の金網をグッと握っていた。まるで目の前で行われるヒーローショーに見入る童女のように。
冷静で冷徹な不知火咲夜としての自分が頭の中で告げている。あれはあってはならない者だと、ドルビックモンと同様かそれ以上に今この場で始末すべき存在だと。
一目でわかる。あそこで戦う彼は、彼らは選ばれし子供ではない。そこには使命も宿命も運命もなく、ただあるがままにああしている。自らを選ばれし者と定義して憚らなかったあの男、菊池隆二とはまるで正反対。その在り方はどこまでも歪んでいて、同時にどこまでも自然だった。
そんな彼らは不知火咲夜の半生を根底から覆し得る。
現代において人類は未だデジタルモンスターと繋がる準備ができていない。来たるべき時までデジタルモンスターとの繋がりは現生人類の体制を破壊する毒である。そう提唱して数多の選ばれし子供を殺戮してきたのが不知火咲夜であった。
デジヴァイスすらなく絆とか信頼とか、ただそれだけで共にいる彼ら、共にいられる彼らを認めれば自分の所業は容易く地に墜ちる。
「咲夜、わかっているのだろう?」
傍に立つ黒騎士が告げるまでもなくわかっている。
そう、彼らの存在を許せば不知火咲夜はただの殺人鬼に成り下がるのだと。
「あの小僧どもはドルビックモンを倒すだろう。だが奴らもただではすまない、そこを突くだけの簡単な話だ。わざわざ静岡くんだりまで出向いてきた労力には見合わぬ仕事だが、まあドルビックモンに正面から挑む手間が省けたとも言えよう」
それだけの話だ。いつもと同じ単純な仕事だ。
奇襲の一撃で仕留める、苦しませないだけ感謝して欲しいぐらいだ。似たようなことを数え切れないぐらいしてきたのが自分だ。それどころか泣き喚く小娘を容赦なく踏み潰した、パートナーだけは助けて欲しいと懇願したガキにデジモン諸共槍を突き立てた。そんな風に拭っても拭い切れない血溜まりの中に今の自分は立っている。
そこに放り込む屍が一つ増えるだけのこと。迷うことなど有り得ない。
「ダナン」
取り出した神器を向ける。これ以上の言葉は不要だと言いたげに。
クロスローダー、父の遺した加速神器と異世界のデジヴァイスのデータを混ぜ合わせて完成させた試作品である。
「ほう? だが漁夫の利を掠めるだけなら今の姿でも──」
「……デジクロス」
黒騎士の言葉を最後まで聞くことなく、ただそれだけを呟いた。
「コイツ、固すぎねーか……!?」
ニトロの声が荒い。小一時間は戦っている気がするが、拓斗が腕時計を見ればまだ半刻と経っていない。
しかしクロスとニトロの攻撃を幾度となく打ち付けて尚、ドルビックモンは微塵も堪えた様子を見せない。攻撃こそ激しくなくクロス達もまた手傷は負っていないものの、まるでダメージを与えられていない気がする。言葉を発する様子も無く意思疎通も取れない。かと言って、ひとまず打ち倒そうにも頑強過ぎてそれも困難を極める。そんな形での泥試合はまるで半年前、海上で“母”と戦った時を思い出させた。
尤も、その時に意思疎通を取れなくしていたのは他ならぬ拓斗自身であったが。
「ちっ……!」
嫌な思い出だ。思い出にするには早過ぎるが、とにかくそう思えた。
軽薄で適当な父は昔から、見た目以外自分に似てないと思っていた。穏やかで生真面目な義姉、ずっと母だと思っていた人に自分は似たのだと信じてきた。
けれど違ったのだ。最近になって現れた母、高校生の息子とそう変わらない低レベルな言い合いを父としているが、曲がったことも間違ったことも許せない正義感、真っ直ぐさを持つ母にこそ前田拓斗の起源はあった。父との口論にしても義姉を諭す物言いにしても、そしてどこか気まずげながらも息子である拓斗を気遣う言葉も、全てが全て拓斗が自分ならこう言うだろうと思う台詞をそのまま形にしているのが母だった。
それがまるで鏡を見ているようで嫌だった。そんな母に手も足も出なかった自分が嫌だった。
(なんで……ンなこと思い出してんだよ……!)
だからクリスマスの夜にも無様に出歩いて家に帰れない。
母が自分を気遣ってくれることがわかるから。
父は知らないが義姉もそんな母と拓斗を上手く取り成すだろう。
結局は自分の問題なのに、それを上手く昇華できず周りを気遣わせてしまう前田拓斗は、実に無様だった。
「馬鹿! 前に出過ぎだ拓斗!」
瞬間、ニトロの声で我に返る。
正面でクロスと組み合っていたドルビックモンの口内に火炎が渦巻く。
「やべ……!」
思考に埋没し過ぎて反応が遅れた。放たれる火炎はクロスの肩越しに拓斗を焼き得る。
冷や汗が噴き出す。咄嗟に横へ飛ぼうとするが間に合うかもわからない。
これまでか。そんな境地で竜帝が炎を吐く様を見つめていた瞬間。
「ガアッ……!」
竜の顎が大きく仰け反った。
「……むっ」
その肉体が弛緩し、組み合っていたクロスが拓斗の方へ距離を取る。
正面には天へ向けた顎をカタカタと震わせながらも仁王立ちしているドルビックモン。その威容は先程までと変わらず、だが唯一変わった点があるとすれば、それは竜帝の胸元から白骨化した竜の頭部が生えている、その一点。
それは見覚えのある意匠だった。三年前にあの選ばれし子供のパートナー、気に食わない男であった菊池隆二と共にいたアグモンが進化した姿。
「スカルグレイモン……!?」
だが違う。彼奴は頭部だけだ。ドルビックモンの胸の内から食い破るように出現したそれは、スカルグレイモンの頭を模した何かに過ぎない。そして何より、その白骨竜の大きく開いた口からは明らかにスカルグレイモン由来のものではない長大な槍、血の色に染まる巨大な刃が生えていた。
ドルビックモンの巨体が粒子化していく。デジコアを槍で貫かれた竜帝はほぼ即死だった。
「……危なかったようね」
背後に立つのは黒き騎士。スカルグレイモンの頭部で右腕を覆い、漆黒の翼を広げた優美にすら思える黒衣のナイトであった。
「誰だ……?」
見たことのないデジモンに再び臨戦態勢を取るクロスとニトロ。
しかし拓斗の気を引いたのは、耳に響いた涼やかな声の主である少女であった。むしろそれだけが全てだった。
黒衣の騎士の足元に立つ細身の少女。艶やかな黒い長髪と同色の黒一色の右目──左目は前髪に隠れて見えない──が拓斗の姿を捉えている。身に纏うのは黒髪と、そして従える黒騎士とは正反対のボロボロになった白衣。その下に近隣では見かけないセーラー服を着込んだ彼女は、恐らく年齢だけなら拓斗と同年代と見えた。けれど言葉に反して微塵の感情の発露も感じさせない口の端とその視線は、どこか異質なものを感じさせないでもなかった。
それでも月の見えない曇り空。クリスマスの夜に漆黒の騎士を背負って現れた彼女に、拓斗はきっと。
きっと。
目の前の少年に聞こえない声でダークナイトモン、今はスカルサタモンとスカルグレイモンをデジクロスさせたスーパーダークナイトモンが呟く。
「……理由を聞かせてもらおうか?」
問いは至極当然のものだったけれど、同時に道具(デジタルモンスター)如きに答える必要性を感じない問いでもあった。
足を止め、すぐ背後に立つ黒騎士を振り返る。真意の読み辛い真紅の瞳が真っ直ぐ自分のことを見下ろしていたが、その奥に載せられた感情が不思議とわかる。デジタルモンスターの分際で生意気にもこちらに疑念と不服を抱いているらしい。慇懃無礼でありながら理屈の伴わない行動は好まない、そんなダナンの性格は誰に似たのかと先程思ったものだが。
なるほど、その答えは得られた。ダークナイトモン、彼は父に似ているのだ。
「デジクロス強制解除」
それだけを回答として返した。一瞬で黒騎士の肉体が霧散、スカルサタモンとスカルグレイモンのデータは回収され、ダークナイトモンは二体の小型デジモンへと分離する。
スカルナイトモンとデッドリーアックスモン。彼らがそれぞれ単独でいるのなら人語は解さず、自分の命令がなければ動くことすらない。必然、この不愉快な言動を相手にする必要もない。
今の咲夜にとって、目の前の少年こそが全てだったから。
「……ね、名前は?」
そう問う。おかしな話だ、何故自分はこんなことをしているのか。
「………………」
「あら、死んだのかしら」
ポケーッとこちらを見つめて動かない少年にゆっくりと歩み寄り、その額に手を伸ばした。
何故だか熱い。久方ぶりに感じる生きた人間の体温。
「っ……な、何すんだ……っ!」
「生きてた。……いえ、巻き添えで殺してしまったのかと思ったの」
「死なねえよ! いやむしろ助けてもらったのか?」
真っ赤な顔でそう聞かれる。こちらに聞かれても困るし、そもそも何故この少年は顔を真っ赤にしているのか。
「ドルビックモンとはどういう関係?」
「ああ、アイツはドルビックモンっていうんだっけか。……さっきいきなり現れたんだよな」
この少年は嘘の吐けないタイプと見た。ドルビックモンと何らかの因縁を持っているとか、そのパートナーを知っているとかそうした裏は感じ取れない。彼の口にした通り、本当に偶然居合わせただけなのだろう。
「この街の人?」
「そう言うお前は見ない制服だけど……」
「聞いているのは私」
少しイライラしてきた。人間相手にそう思ったのはいつ以来だろうか?
「生まれも育ちも青葉だよ。前田拓斗ってんだ、17歳」
「……前田、拓斗」
噛み締めるようにその名前を反芻した。
どこかで似たような名前を、聞いたことがある気がした。
「その子達は?」
気付けば成長期の姿に戻っている二体のデジタルモンスターを指差して続けて聞く。
エレキモンとブイモン、知識としては知っていたが実物を見るのは初めての二体は、咲夜の後ろに佇んで一切動かないスカルナイトモンとデッドリーアックスモンを警戒する構えを崩さなかった。この二体は咲夜の命令がなければ歩くことすらない、その事実を知らない以上無理は無いとも言えるが。
「クロスにニトロ、俺の相棒だよ」
「相棒……?」
不思議な響きだ。口に出してみると心地良さがあった。
「君、随分この子達が好きなようだけど」
「いやそりゃ当たり前だろ、相棒なんだし」
一切の躊躇無く答える様は痛快ですらある。
彼は間違いなく選ばれし子供ではない。それは咲夜の有するデータに彼が無かったという客観的事実だけではなくて、いざ実際に会話してみた主観的事実としてもそう確信した。定められた使命宿命運命、そうしたものとは離れたところに彼らは在る。人間とデジモン、本来なら交わることなど有り得ない異なる生物なのに、まるで一緒にいることが当然であるかのように彼らは在る。それは明確に今まで目にしてきた選ばれし子供とは違っていた。
百年か二百年、もっと先かもしれない。いつか世界の垣根なく人間とデジタルモンスターが共に暮らす日が来る。咲夜自身もその前提に研究を続けているいつか来るその未来を、一足先に体現しているのが彼らであると感じた。
「ね、拓斗」
「呼び捨て……」
少し話しましょう、そうした意図で校庭横のベンチに誘ったつもりだったが、彼はまたポケーッとして動かない。
掴めない男だ。読めない男だ。この年頃の男ってこういうもの?
「拓斗は察しが悪いのかしら」
「いや、だから呼び捨て」
「……同い年だから普通でしょう」
「いや年齢聞いてねえし! そもそも自分の質問ばっかで名乗ってもいねえだろお前!」
勢い良く捲し立てられてそういえばそうだったかと気付く。
「不知火咲夜、17歳よ。……よろしく、拓斗」
そう言って彼の手を握ってベンチへ向かった。
握った掌は額と同じでとんでもなく熱かった。風邪気味かしら?
「不知火はどっから」
「咲夜でいいわ。あまり好きじゃないの、苗字」
座って早々まず告げておく。父と同じ苗字は世間的にあまり良い目で見られていないから。
「さ、咲夜はどっから来たんだ? 静岡? 浜松?」
「東京よ」
「へー、東京……東京!?」
行ったことないんだよなーなどと呻いている拓斗の頬を掴んで黙らせる。
私のことはどうでもいい、そう言に匂わせて。
「聞きたいのは、君のこと」
「はっ? 俺?」
「あなたの……相棒達だった?」
拓斗の横に腰掛けた二体を視界の隅に捉えながら続けた。
「この子達とどこで出会ったのか、どう暮らしてきたのか。私が聞きたいのは……それ」
彼の相棒の二体、その内の片方であるエレキモン。片目を大きな十字傷で潰した隻眼の彼が、どこか敵意に満ちた目でこちらを見つめているのを感じながら、咲夜はただ拓斗に話を促した。
「別にいいけど、つまらねえ話だぜ?」
「つまるつまらないは私が決めるわ」
「強引だなぁ……いや、そういうのも好きだぜ……あ、いや好きっていうのはそういう意味じゃなくてな」
「早くして」
「はい」
拓斗はそうして話し始める。
2019年、三年前に偶然デジタルワールドを訪れたこと。そこでクロスやニトロに出会ったこと。かつての選ばれし子供達──名前は伏せていたが咲夜にはすぐ菊池隆二や武藤七海のことだとわかった──と鎬を削り合ったこと。四聖獣や七大魔王との対面を経て集めたデジメンタルのこと。そして最終的に最終戦争の名を冠した悲劇のデジモンと戦い、その心を救って世界を去ったこと。
ついでに。そう言って続ける拓斗。
彼の父母や義姉もまた世紀末にデジタルモンスターと関わっていたこと。その事実を自分は最近まで知らされていなかったこと。特に母は長らく行方を晦ましており、自分は自然と義姉のことを母と認識して母さん呼びし続けてしまい、帰ってきた母に対しての気まずさと義姉に対しての気恥ずかしさが入り混じって最近少々メンタル不調であること。
思春期男子ならありがちな愚痴である。別段彼が思う程おかしな悩みでもないし、同時に別段彼が思う程特別な悩みでもない。
「……仲良し家族って奴ね」
だから率直な感想を言ってやる。
「ばっ……ち、ちげえし! むしろ仲悪いぐらいだぜ!? 親父はいつまでもグータラだし母さ……義姉ちゃんは口うるさいし、お袋はそもそも今更帰ってきて母親ヅラすんなって話だし……!」
「でも家族でデジモンの話ができるのでしょう?」
そういうことだ。それだけのことだ。
きっと彼の冒険や戦いの話以上にそれが彼の話を聞いて最初に浮かんだ印象だった。デジタルワールドもデジタルモンスターも選ばれし子供も関係なく、彼はただ年相応の健全な男子だったから。そしてそんな前田拓斗は父母も義姉も健在で一緒にデジモンの話題を出すことすらできるのだ。
「お前、家族は──」
「死んだわ、父も母も。残ったのはデジモンだけ」
だからだろう。どこかに羨望と嫉妬があった。
選ばれし子供ではなく全ての人々がデジモンと共に暮らす世界。いつかの未来に実現されるだろう理想郷を、彼らは家族単位で既に実現していた。
だから毒。彼らの、前田家の存在は紛れもなく不知火咲夜にとって毒となる。現代において既に人とデジモンが自然な形で暮らせる理想図が存在するのなら、遠い未来にそれを実現するという名目で今の時代に犠牲を強いている自分は何なのか。人とデジモンはまだ関わる準備ができていないとして、選ばれし子供とそのパートナーを数多始末してきた自分はただの殺人鬼ではないのか。そんな自らを正当化する為には彼らを、前田拓斗とその家族を選ばれし子供と認定して殺害するしかないのに。
それなのに、どうして。
「あ、悪い……」
「デジタルモンスターと今も関われていることは父に感謝しているわ。けれど父から貰えたのはこれだけなの。私は君みたいにもっと父や母に教えて欲しかった。デジモンとは何なのか、どうしてデジモンに関わろうと思ったのか……でも死人に口なし、死んだ人からは何も教われない、何も話せない」
どうしてここまで自分の内側を見せようと思ったのか。
長らく他人など利用する為の道具か命を奪って肉塊に変えるものとしか認識していなかったのに、今日の不知火咲夜はどこまで行っても不知火咲夜をやり切れていない。それはきっと彼に、前田拓斗に出会ったからだ。儚くも美しい眩いばかりの金色の相棒達と共に戦う背中を見せられ、その実内面はどこにでもいる普通の男子である彼。そんな彼は父母の代からデジタルモンスターとの関わりを持ち、今も家族単位でデジタルモンスターと共に在る。
「だから私は、ちょっと君が羨ましいな」
言うべきではない、言う必要はない。
それでも。
「お父さんお母さんお姉さん、ちゃんと大事にしてあげてね」
そんな普通の人間のような台詞を。
きっと生涯で一度きりの言葉を。
不知火咲夜は出会ったばかりの少年に告げていた。
曇り空が晴れる。田舎の星々の瞬きが一瞬だけ、拓斗を正面から見据える少女の黒い髪を照らした。
「お父さんお母さんお姉さん、ちゃんと大事にしてあげてね」
そう言った不知火咲夜の姿は天女のようで、心の中で拓斗がわかっていて無視し続けた事実を掘り起こすようで。
「……言われなくても……!」
売り言葉に買い言葉でそう返していた。そうするのが当然だと、拓斗自身が一番よくわかっていたから。
一目惚れと言うのは気恥ずかしい。けれど一瞬でも見惚れた彼女、どこか人間味を感じさせず何を考えているかわからない同い年の少女に本心を言い当てられ、自分のモヤモヤを吹き飛ばされただけでこんなにも爽やかな気分になる。別に聞き上手というわけでも話し上手というわけでもない彼女ともっと話していたい、そう思ってしまう理由を拓斗はきっと知っていた。
けれど許されない。拓斗の携帯電話がメールの着信を告げた。
「げっ……お袋だ。俺のこと探してるんだって……」
「……早速ね」
「………………」
「何よ?」
言葉が出ず、僅か数秒なれど拓斗は隣の少女の顔を見つめた。
「いや……」
「……行ったら?」
背中を押される。無表情に戻った彼女はきっと、自分が一瞬だけ笑顔を浮かべていたことにも気付いていない。
気恥ずかしさにジャケットで頬を隠しながら拓斗は立ち上がる。恐らく一生言えない、誰にだって言えない。数刻前に出会ったばかりの彼女が一瞬だけ見せた笑顔に見惚れたなんてことは。
「あ、折角だからメアド交換しねえ?」
「LINEじゃないの?」
「ガラケーなんだよ」
「スマホに変えたら?」
それは高校でも何度か言われたことだ。
「なんか代えたくなくてな」
「……何故?」
それでも答えは決まっている。
今まで誰にも言えなかったけれど、きっと今日ここで出会った彼女にだけは言える理由だ。
「一緒にあの世界を旅したからな。このケータイも相棒なんだ、俺にとって」
「なあ、お袋」
「……何?」
「昔の話、聞きたいんだけど」
「……煌羅から聞いたんでしょ?」
「ああ、聞いた」
「だったら」
「お袋の口から聞きたいんだ。親父のこと、義姉さんのこと、デジモンのこと……お袋のこと」
「………………」
「あと」
「……何?」
「寒い中、探してくれてありがとな」
「………………」
「………………」
「……拓斗は」
「え?」
「昔の快斗にそっくりだけど」
「それは嫌だな……」
「……性格は、私似かもね」
「それも嫌だな……」
「ちょっと待ってそれ酷くない?」
「どういうつもりだ?」
同じ問いだった。再びデジクロスでダークナイトモンに戻った彼は、咲夜の後ろで先刻と同じ言葉を紡ぐ。
「情報だけ引き出した上で始末するのかと思っていたが」
「そうね、それが正しいと思うわ」
喫茶店で買ったホットコーヒーを喉に流し込み、不知火咲夜は適当な相槌を打った。
駅前から少し歩いた古びたアパートの前に咲夜とダークナイトモンは立っている。木造建築で築数十年、大きな地震でも来たら崩れそうなアパートには目的の人物以外の住人はおらず、そんな彼は二階の部屋に続く階段の前で物言わぬ骸となって果てていた。
恐らく30代前半と言ったところか。この中年男性こそがドルビックモンのパートナーだった。
年齢的にここ数年の選ばれし子供ではあるまい。それに前田拓斗の話を聞く限りこの街で召喚されたとは考えにくい。大方、他の土地で召喚された選ばれし子供でここには仕事か私事か、何らかの理由で引っ越してきただけの男なのだろう。落ちている財布から名前と実年齢だけを確認して手早くメモした。
人間とデジモン、選ばれし子供とパートナー。彼らはあらゆる意味で繋がっており、人間はパートナー無しでデジタルワールドで生きられないのと同様、デジモンも選ばれし子供との繋がり無しでは人間界で生きられない。故に片方が命を絶たれればもう片方も同時に死滅するのは道理である。
ダークナイトモンに胸元を貫かれて果てたドルビックモンと同様、足元の男の胸元にも深く抉られた傷がある。彼が突然胸元を穿たれる意味もわからず死んだのか、それともドルビックモンを何らかの目的で操った末に死んだのか、そんなことは最早どうでもいいことだった。
「一人目よ、ダナン」
狼煙が上がる。各年代の選ばれし子供達のパートナーとして配される中に現れる六体のデジモン、総称をビッグデスターズ。
彼ら全てを討伐するのが不知火咲夜の目的の一つだった。その一角がまず崩れた。火烈将軍ドルビックモンとのそのパートナー、彼らが倒れたことで咲夜の計画は遂に進み出す。どうなるとドルビックモンだけでなくそのパートナーも殺すつもりだったのだから是非もない。
そしてだからこそ、トドメは自分が刺さねばならなかった。ドルビックモンを倒せばパートナーも死ぬ、そのことを知っていたから。
「どういうつもりだ?」
またも同じ問い。そろそろ聞き飽きたが答えねば今後に差し障ろう。背後のダークナイトモンを振り返った。
「……言いたいことがあるのなら言いなさい」
「大ありだ咲夜。今宵の君は何もかも非効率で非合理的だ。先も言った通り、あの小僧達なら恐らく時間はかかるがドルビックモンを打ち倒せた。そんな疲労した彼奴らを我々が刈り取る、それだけの話だったはずだ。それなのに見逃すばかりか己の過去まで晒すなど実に理解し難い。君の目的にそんな人間のような感傷は不要なはずだが」
「そうね、あなたの言うことは正しい」
男の亡骸を振り返ることなく去る。残りは警察に任せておけばいい。
感傷、ダナンの言うその言葉が正しいのだろう。今夜の自分は本当に自分ではなかった。ただ彼にトドメを刺させたくない、人間を殺すという罪を背負わせたくない一心でダナンを使役した。身の上話を聞いた上にらしくない助言までした。普段の自分が今夜の自分を見たら間違いなく嘲笑うだろう。
「今夜だけよ、きっと」
「そう願う。我々の目的の為にもな」
ダナンの言葉に嘘はない。きっと見逃した彼らのことなど明日には忘れているだろう。
「それにしても先の小僧達、特にあのクロスとかいう成長期はなかなかの手練れだったな。下らぬ小僧の身の上話の途中でも油断なく我らのことを警戒していた。恐らく我らに漂う死臭を感じ取っていたと見える」
誰に言うでもない呟き。普段なら屁とも思わぬそれが、何故だか今夜は妙に心を抉る。
スマホを開いた。先程交換したばかりのアドレスからテストと題して絵文字だらけのメールが送られてきている。仮にも男子高校生とは思えない程度には浮ついた内容。
クスッと。そんな意味のわからない音が自分の口の端から漏れた気がする。
「そう、今夜だけ……」
迷惑メールに設定して、スマホを閉じる。
これでいい。きっともう見ることはない。
寂れた街ながら駅前は燦々と今も輝くクリスマスイヴの夜。
少女と黒衣の騎士はその反対、ただ静寂に包まれる夜の闇へと消えていく。
デジモンを道具として闇を彷徨う少女、咲夜。
デジモンを相棒として共に生きる少年、拓斗。
この後の歴史で彼らが出会うことはもうない。
この出会いすら一時の幻だったかもしれない。
イヴだというのに月のまるで見えない暗い夜。
けれど少女の言葉で少年の心が晴れたように。
少年の相棒達が少女の視界を照らしたように。
彼らの親達が世紀末の暗雲を晴らしたように。
きっと未来(あした)は、晴れるだろう──
『本日ハ晴天ナリ。』
~The END~
・不知火 咲夜(しらぬい さくや)
作者拙作(完結済み)の主人公。17歳(2022年12月時点)。
弱冠10歳でデジクロス理論を構築した天才科学者であり、かつてDWの研究を行っていた不知火士朗の一人娘。自らの手で生み出したダークナイトモン“ダナン”を伴って夜の街を彷徨う黒い髪の少女。2019年~2064年の長きに渡り続く連続行方不明事件の黒幕。名前が出なくともあらゆる作品に何かしらの形で絡んでくる。パワプロクンポケットの亀田みたいなもんッスね。
デジタルモンスターを道具とし、全ての他者を骨の髄まで利用し続ける少女。
・ダークナイトモン“ダナン”
不知火咲夜の開発した初のデジクロス対応デジモン。まず第1号として2010年代初頭に完成させたスカルナイトモンは人格データの定着に失敗した意思無き人形であったが、その後グレイモンやメイルバードラモンの開発を経て完成したデッドリーアックスモンに人格データを搭載したことで、両者がデジクロスした際のみ人語を用いるようになる。実は咲夜の父である士朗が遺したバグラモンのデータを基にしている為、両者の関係は“兄弟”に近い。
彼の暗躍で集められたデータが後の究極のデジクロス対応デジモン、シャウトモンの完成に繋がる。
・前田 拓斗(まえだ たくと)
作者処女作(完結済み)の主人公。17歳(2022年12月時点)。
通称たっくん。前田快斗と鮎川飛鳥の一人息子。14歳の頃にDWを訪れ、相棒のクロス&ニトロと共に世界を駆け抜けた少年。選ばれし子供に対抗して「自分で選んだ子供」と自称していたものの、本人と作者が恥ずかしくなったので最近は名乗っていない。父に瓜二つの外見と母譲りの正義感を併せ持つが、飛鳥が母であることを今年の7月まで知らなかったため最近は荒れ気味。
デジタルモンスターを相棒とし、全ての他者と不器用でも絆を育もうとする少年。
・エレキモン⇒クロスモン“クロス”
たっくんの相棒その1。デジモンフロンティアEDオマージュの隻眼のエレキモン。
昔はたっくんを“人間”と呼んでいたが、今は折に触れて“相棒”と呼ぶツンデレ。
・ブイモン⇒マグナモン“ニトロ”
たっくんの相棒その2。全てのデジメンタルを使いこなす天才。
仮面ライダークウガオマージュで主に赤のフレイドラモン・青のライドラモン・金のゴールドブイドラモン・究極のマグナモンを使い分けて戦う。
・菊池隆二(きくち りゅうじ)
名前だけの登場。2014年の選ばれし子供でありオメガモンのパートナー。2019年にもDWに現れ、同い年のたっくんのライバルとなる。
後にパートナーのアグモン“オグマ”を咲夜の手でグレイモン(XW)へと改造され、崎守龍司の名で彼女の選ばれし子供狩りの尖兵として働いていたが、ちょうど半年前の2022年7月にある理由により彼女から離反、現在は行方を晦ましている。
【後書き】
というわけで、本当の本当に今回で完結です。
リアルタイムに合わせようとしたばかりに本編完結からエピローグまで三ヶ月も空いてしまいました。完結編をクリスマスイヴにすることは決めていたので、そうした意味では自分が思ったより速筆だったのが悪かったか……元々は「処女作の主人公であるたっくんの親世代を書こう!」以上の目的はなかったのですが、2019年⇒1997年~2000年⇒2022年と年代が飛びまくる仮面ライダーキバ状態となりました。しかし年代が飛び回りつつチラッと別作品とも絡んでくるのは仕方ない、作者が火の鳥大好きだからな。
それでは、エピローグ含めて12話という作者にしては短編ながら半年もかかってしまいましたが、ここまでお付き合い頂きまして誠にありがとうございました。
◇
初っ端から懐かしい名前が出てきたこともあってか、終始いい意味で懐かしい読み味に浸りながら一気に読み切ってしまいました。
群像劇のように視点が変わるからかそれぞれのキャラの人となりが立っていて、その中でときに思惑が交差しときに思いを託されることの重みが強まっていました。特に気に入ったのは月影銀河ですね。生徒の預かり知らぬところで信念のために行動し、心身ともにボロボロになりながら最期は若人に託す。ああいう風に死にたいものだと思ってしまいそうになります。……いや、やっぱいいです。というか恋人の龍崎時雨は早い段階で視点が回ってきたから、彼女がそっちサイドの狂言回しとして頑張るのかと思ったらそんなこともなく変貌してて完全に予想外でした。
その名の通り快いほどに普段は陽気で暢気ながら決めるべき覚悟を決められる快人と年頃らしく自分の心に素直ながらも大切な人のために踏み出せる飛鳥。そして、かわいくてつよい煌羅。何はともあれ三人の「家族ごっこ」を守られたことで、こちらの気持ちも晴れ晴れとしました。
……それにしても、一話冒頭の親子喧嘩が本当にただの親子喧嘩だったとは。「I am your father.」→「Nooooooooooooo!!」とまではいかずとも、時系列が未来に戻ってバチバチにシリアスな状況がクライマックスに来るのかとハラハラしていたがそんなことはなかったぜ。
遅くなりましたが、これにて感想とさせていただきます。