白い花園のがベッドに飛び込み、ミドリも続くとベッドの反発で白い花園のがふわっと飛んだ。
「疲れた」
「さて、明日はどうするの?アオの事聞いて回る?それとも、デジメンタルのこと調べる?」
この街はデジメンタルの生産が行われている街だとミドリは本を読んで知った。もしかしたらアオに使う事で別の種に変えられるかもしれない事も。
「両方聞いて回る。門のところの記録になかったから、アオの話の望みは薄いけど。白い花園のは?」
「私は……この街の学校のシステムに少し興味があるの。ジャンルは赤いのよりなんだけど、ロイヤルナイツを育てる為の種限定の学校で、擬似的に治安維持する組織を作らせたりとかなんとか独特なんだって、十五年前ぐらいの本の話が確かならね」
白い花園の言葉にへー、そんなのがと言っていたがあまりピンと来てないのが白い花園のには伝わっていた。
「そういえばミドリは学校とかは行ったことあるの?」
「開拓村では正規の学校は一応はあったけども……九歳ぐらいまでかな?」
「へー、私は生まれた時から司書だったから、学校そのものにも興味あるんだよね。知識だけはあるんだけどもいかんせん実体験は基本ないから」
それは楽しみだねとミドリも頷く。ミドリの学校での記憶は朧げだったがある時期まではとても楽しかった記憶はあった。必ず楽しい保証もないとも知っていたが。
もう一度楽しみだねと言ってミドリは早々に寝た。コートこそ脱いだものの服はそのまま、白い花園のは起こそうかと思ったが自分も疲れていたのでそのまま寝た。
次の日の朝、ミドリはチャイムの音で起きた。町全体で鳴らしているらしく微妙に重なって聞こえる。
日光でも浴びようと窓を開け、ふと道路を見て驚いた。
その光景は街の中を河が流れているように見えた。正体は頭の青いデジモンの集団である。明らかに、それはブイモンという種だったのだが、同一種の集団によるものだった。
せっかくだしと白い花園のも起こすと、白い花園のは窓から身を乗り出して目を輝かせ同じ顔のデジモン達が流れて行くのを見送った。
「これだけの数が学校に通ってるって凄い事だよね」
「学校?」
「ほら、昨日の夜言ったでしょ?同じ種ばかり集めて教育するって、しかも、ブイモンは結構な希少種で古代種の一体、寿命も短いんだよね」
そういえば教育の話は聞いたなとミドリは頷いて、急にがらんとした通りにちらりと視線を向けた。
二人はそれからシャワーを浴びて、外の喫茶店で朝食を摂ってお互いの目的を果たす為一度分かれた。
しかし、ミドリも昼前には学校にいた。
最初は宿のデジモンや、通りを歩いていたデジモン、皆似た様な種のデジモンであった、そのデジモン達に尋ねたところ、アオに関してはやはり目撃したという話も何か聞いたという事もなく。デジメンタルに関しては、持ってはいるけど譲れない、欲しいならば学校に行くといいと勧められたのだ。
学校に入るのをミドリが校門の前で躊躇っていると、校門の内側から黒いピアスを角に着けたブイモンが話しかけてきた。
「何か学校に御用ですか?立ち入りは自由になってるので入るのに許可はいらないですよ?ただ、危険でもありますけどね」
「それは、なんでですか?」
「内部は学生達が自治していますから、学校内での犯罪はたとえ殺しであっても犯罪とはならないんです。まぁ、そうした行動を取ると風紀委員会に追い詰められて私刑にされますが」
風紀委員会、とミドリが呟くと、そう風紀委員会ですとそのブイモンは返した。
「この学校は、ロイヤルナイツを造る場所です。一人のロイヤルナイツを造る為、この学校の中に街があるも同然の状況があります。職業訓練校という名目の職人街や商店街、農耕地なんかもあり、生徒会と呼ばれる組織がそれらを束ね政を行う。風紀委員会はまぁ、警察みたいなものですね。そして、悪役もいる」
悪役、とミドリが呟くと、そう悪役ですとそのブイモンは楽しそうに返した。
「スラム街、とでも言えばいいのでしょうね。学校内にもそうした犯罪者の集まる区分があります。生徒会の政の外であり、風紀委員会の力が届かない場所。悪役と悪の巣窟ですね、悪役、ヴィランと私達は呼んでいますが……ヴィランは、そこで犯罪者達の中に規律を作ったりしています。目に余る犯罪は咎め、独自に罰します。ただ、その規律を独り善がりの悪だと考える者も少なくないです。風紀委員会もそう変わらないはずなんですけどね」
なるほど、とミドリはふんわり頷いたがすでにあまりよくわかっていなかった。
「ところでミドリさん、学校には何をしに?」
「デジメンタルについて知りたく……私、名前言ってないですよね」
二、三歩、校門から後ずさると、そのブイモンはその通りですと頷いた。
「この学校はロイヤルナイツを造るところですから、ロイヤルナイツが関わった案件の、その影響なんかは当然、知っている者は知っています。例えば私なんかですけど」
「……それで?何故呼んだんですか?」
「そうですね、その話題を出して欲しいかどうか確かめる為、ですかね。今の私も大分気に障ったようですが、より無神経な奴というのはいますからね。例えばその時どう思ったかなんて聞いたりとか、可哀想になんて言葉を投げかけたりとか、そういう奴に会う前に、知られてるかもしれないと知ってた方が心の準備もできるんじゃないかと」
お節介ですねなんて毒を吐いたミドリによく言われますとそのブイモンは笑う。
「もし学校に立ち入るというなら私が案内しますよ。ロイヤルナイツを造る為の学校ではもちろんありますが、内部には街があるようなものですから、色々なものが揃いますし、デジメンタルももちろん」
怪しいなとは思ったもののミドリはそのブイモンに着いて行く事にした。
高い木が植えられている事でできている壁を越えると、そこには本当にそのまま街があった。
家があり、店があり、その中央に改めて教室棟という建物がある。教室棟を中心に、周りを様々な街が囲んでいるのだという説明にミドリは唖然とする。
そのブイモンと一緒にまずは中央の教室棟まで行く道すがらアオの事を話し、デジメンタルを使ってアオを進化させる事で触れるようになるんじゃないかという事も伝える。
みんな同じ顔のブイモン達の同じ色の目から向けられる視線が少しだけミドリは不愉快に感じだが、物珍しい目で見られるのは慣れていた。
「そうなると行き先はスラムですね。風紀委員会と生徒会の決めた校則ではデジメンタルの取引は現行犯ならそのまま牢屋に入れられますから、取引できるのはスラムぐらいです。まぁ、一応はこれにも抜け穴があるんですけどね?やつらも厳密に自分達の校則に則って動いてないので」
スラムは危険なのでは?とミドリが聞こうとした時、唐突に炎の玉が飛んで来てそのブイモンに直撃した。
ミドリが呆気にとられている内に周りに黄色い蜂のように見えなくもないデジモンが集まりミドリの手を引いていこうとする。
それに抵抗しつつ引きずられていると、両腕を引っ張っていた二体それぞれの頭を白く長く大きな三本指の手が掴み、握り、痛みに耐え兼ねミドリの手を離すと地面に叩きつけた。
「いや、すみません。思ったよりも風紀委員会が動くのが早かったみたいで」
背中に白い翼を生やした、竜の様に見えなくもないデジモン、ガーゴモンがそのブイモンと同じ口調で喋る。よく見ると翼か何かの様な耳に見えるパーツに同じ黒いピアスが着いている。
赤い鎧の竜人や、黒い甲殻の獣が周囲を囲み、そのガーゴモンとミドリに迫ろうとするが、その内の何体かが何かに撃たれて倒れる。
その方向を見ると弓を番えたケンタウロスの様なデジモンが数体いて、そのガーゴモンを援護していた。
そのガーゴモンはミドリをひょいと抱え上げると包囲の乱れた場所を強引に掻き分けてスラムへと突っ込んでいった。
そうして数分もするとその場は落ち着きを取り戻した。死者はいなかったが負傷者の血が点々と残っていた。
そこに、一体のブイモンと一緒に白い花園のがやってきた。
「逃げられたみたいですね。いやいや一緒にいる、というわけでもなさそうです」
その赤い眼鏡のブイモンは、白い花園の方を少し見ると、微笑んだ。
「大丈夫です。必ず解放させてみせますし、やつは必ず接触して来ます。やつは私達と交渉する機会を伺ってるところがありますからね」
その眼鏡のブイモンは手の中でピンクのデジメンタルを弄っている、それは優しさのデジメンタルという種のデジメンタルだったがその視線は笑っておらず、優しさを感じるのは白い花園のには難しかった。
その時、スラムではスラムらしくない格調高い部屋にミドリが通されていた。外から見た時はスラム、つまり貧民街の名に対して確かに相応な建物に見えたが、地下に潜ると途端に別世界に入り込んだようになっていた。
「ヴィランのアジトへようこそミドリさん。飲み物は何がお好きですか?」
黒いピアスのブイモンがそう聞いて来たので紅茶に、砂糖とミルクたっぷりなのがとミドリが少し申し訳なさそうに言うと、一体のブイモンがすっと部屋から抜けでていった。
そのブイモンはあっという間に戻って来たと思ったらミドリの手元にすでにたっぷりの砂糖とミルクの入ってるらしい紅茶を置き、足りなかったらとミルクと砂糖、そしてお茶請けなのかジャムタルトも出して、黒いピアスのブイモンの前には真っ黒なコーヒーを差し出して、下がっていった。
「そういえば……自己紹介がまだでした。この学校にいるヴィランの次期頭目、メランと言います。簡単に言うならばこの街で二番目に悪いやつ、って事です」
メランはそう茶化す様に言ったが、少し恥ずかしかったのかコーヒーを一口飲んだ。
「なんというか……かなりすごいって事ですね?」
「そうですね。そう言う事も出来るかもしれません。しかし、私よりも現在の頭目の方がより素晴らしい方です。頭目によってスラムの犯罪率は大幅に低下しただけでなく、目に見えて平和になりました。頭目は学業の成績は最悪で、スラムに落ちるしかなかったものの、長所と短所を見極める力はずば抜けていた。裏切らず、自分を最大限活用して運用できるものを側に置き、適切な場所に適切なものを、スラムにいるもの達が皆、得意なことがあり不得意な事がある、成績が悪いから元手がないから言われたってできやしないというものには支援を厭わず、それでいて鋼の様な冷酷さで悍ましい罪を犯すもの達を捉え、風紀委員会に差し出して行きました」
少し、熱が入りすぎましたとメランはコーヒーに口をつけた。
「頭目さんの事がお好きなんですね」
ミドリがそう言うと、メランは苦笑した。ふと、ミドリが周りを見て見るとみんなが少しニヤついたりしている。
「すみません。私達にとっては頭目が好きだというのは最早当たり前のことになってたもので、改めて言われると少し恥ずかしかったんです」
とにかくよほど好かれているらしい事はミドリにもわかって、なんとなく嬉しくなる。
「……ここからが、私にとっては本題になります。ミドリさんがデジメンタルを手に入れる話にも関わって来ます」
ふっとスイッチが消えた様にその場にいたブイモン達から笑顔がなくなった。
「現在、頭目は風紀委員会の牢にいます。成績で分けた予算の割り当ては生徒会の決めたルールで、それを無視する頭目のやり方は犯罪と捉えられていたわけです。風紀委員会は、実質的な蜜月で、重大犯罪者を引き渡すことで大きな干渉を受けない様にしていた訳ですが……奴等の中にそれはそれは潔癖なやつがいまして、生徒会と手を組んで頭目を逮捕しました。そして、頭目の刑期短縮、つまり実質的な釈放を餌にヴィランの解体を要求しています」
ミドリはまるで自分のことの様な怒りを覚えていた。これは実質、自殺しろと言ってるに等しい。
組織を作ってるから抵抗できていて、交渉に持ち込めてもいるわけで、解体したらヴィランの側は滅ぶしかないだろう。さらに言えば、頭目が本当に解放されるかも怪しい。
「そこに、運良く来て下さったのがミドリさんです。生徒会は面子を気にします。生徒会は卒業後多くがこの街の政治に関わる事になります。野心もあるでしょう。しかし、その自分の代の時に珍しく学校の中にまで来た旅人がヴィランに誘拐されて救出も奪還もできずに終わればそれは、明らかな失態です。風紀委員会に物資面での話を持ち出したりしてなんとしてでもと圧力をかけるでしょう」
ミドリは提案もされないうちからどうすればいいかとメランに問いかけた。ミドリは人間が嫌いだ。その、人間の嫌いなところを今の話は思い起こさせた。
「……ミドリさんには、交渉材料になってもらいます。頭目との人質交換です」
「わかりました」
ミドリがあまりに早く快諾したこともあり、メランは少し戸惑った。
「正直に言えば、私はわざとあなたの感情を煽るような事を喋ってます。あなたが政府や警察や社会正義といったものが嫌いだろうと考えて、私は喋ってる。さらにデジメンタルを餌にしてあなたを利用しようとしている。それでもあなたは利用されてくれますか?」
「もちろん、断る理由もなさそうだし」
ミドリはやっぱり賛成した。本当に断る理由がないのだ。相手は気に入らないし、デジメンタルは手に入る。さっき襲われたことなんてまるでなかったか全く気にしてない様で、実際気にしていなかった。
では取引の方を生徒会に持ちかけにとメランがそこにいたうちの一人に行く様に伝えると、突如入ってきたブイモンがそのブイモンが出ようとするのを止めた。
「生徒会の上層部が壊滅しました!詳しい状況はわかりませんが、死者も出た様です!」
その発言にその場が固まる。
すぐ動いたのはメランだった。
「状況の確認を最優先とします!しかし、風紀委員の動向を絶対に見逃さない様に!こちらも頭目がいない……混乱してつけ込まれない様に!」
一体どうなってるんだとメランは爪を軽く噛んだ。
一方、白い花園のの前ではさっきまで風紀委員会のトップにいたブイモンが倒れ伏していた。そのブイモンを見て赤い眼鏡の、二足歩行の獣の様な、赤いグローブやヘルメット、強靭な足が特徴のデジモン、カンガルモンは微笑み、その首に向けて容赦のない借りを放った。
赤い眼鏡のカンガルモンは、首があらぬ方に曲がったブイモンを見て少し後ずさる白い花園のに大丈夫だと言った。
「今回のことは、既に私の友達には伝達済みです。生徒会の頭も、風紀委員会の頭も、綺麗なものにならないといけません。腐敗は悪です、搾取も悪です、悪は滅ぼされなければならない」
返り血に汚れたカンガルモンの姿が消え、そこには綺麗な姿のブイモンが現れる。
「私はあなたを傷つけません」
そう言って近づこうとしていると、その部屋に、泣きながら一体の黒い甲殻の四足歩行のデジモンが入ってきて首の曲がったブイモンに縋り付く。
それを見て赤い眼鏡のブイモンは優しさのデジメンタルを使ってカンガルモンに姿を変えると、顎を蹴り上げ、昏倒させた。倒れたそのデジモンは黒いデジメンタルと一体のブイモンへと姿を変える。
「すみませんね」
赤い眼鏡のブイモンがそんな事を呟いていると外から物音がした。
そして、今のブイモンを追ってきたのだろうデジモン達が部屋に入ってくると即座に申し訳有りませんと赤い眼鏡のブイモンに謝った。
「あぁ、そんな謝らないで。君達の配置を決めたのは私です。それでも抜けられたならばこれは私の責任か、この先輩が余程頑張られたのでしょう。それに、ちょうどこの状況を伝達する為に誰か呼ぼうとしてたところです。頼めますか?」
そのデジモン達がそれぞれ出て行くと、赤い眼鏡のブイモンは先輩と呼んだブイモンを拘束し、ついさっき自分が殺したブイモンを見下ろしながら胸に手を当て目を瞑った。
一瞬、白い花園のはここから離れようかななんて思ったが、すぐに黙祷を終えたのでやめた。
「白い花園さん、もしかして私のことが怖いですか?」
「う……ん。それは、怖くないって言ったら嘘になるかな。レウコンと会ってそんなに経ってないし」
白い花園のとこのレウコンというブイモンが会ってからこうなるまで実はそう時間はかかっていなかった。
白い花園のは今日の早い内に学校に入り、風紀委員会と接触、色々と話を聞こうと思ったところ、先に話を聞きたいと言われて自分の話をし、相手の話を聞く前にミドリらしき目撃情報があってそこからは気がついたらトントン拍子に流されていたという形だ。
「そうですよね。考えてみれば自分だけ盛り上がってちゃんと説明もしてませんでした」
レウコンが苦笑する。
「この学校はロイヤルナイツを産む為の孵卵器です。でも、この学校の中でここ五十年ロイヤルナイツは生まれてません。それは、何かが間違ってるからだとずっと思ってました。生徒会の役員達や風紀委員会の委員長など、頭の方ばかりが得をし、下の方から搾取する。こうしたシステムに風紀委員会に入ってきた頃から疑問を持ってきました。地道に地道にパトロールしてきた同輩が、先輩が徐々に追い詰めてきた者を捕まえてしまい手柄を偶々掠めとる様な形になってしまった。実際は先輩が追い詰めたからこそパトロールに引っかかったとも言えるわけで、両方の手柄でしょうが、それで先輩は失墜、先輩の手柄を掠めとったと同輩も失墜、そんなのを何組も見てきました」
それは合理的ではない、とは言い切れないと白い花園のは思った。腐敗していきすぎれば確かにマイナスが上回る。しかし、同じ様な思考の持ち主が集まれば意思決定は素早くなるのもまた確かだ。
「私がこうした愚痴を誰かに漏らすと、その誰かは大体こう言います。組織があってこそ正義があるのだと、安定させるにはそれも仕方がないのだと」
ただ、私にはそれに納得が行かないところがありました。とレウコンは言う。
「何故安定させなければならないのかと。それは生徒会の仕事ではないのかと」
レウコンは目を大きく見開いた。
「そうして疑問を持ちスラムに出入りする様になりました。すると、そこは安定なんてしてませんでしたよ。安定したのはヴィランの頭が出てきてから!それまでは授業に出る事すらしない……いえ、出てもしょうがないから出ないという者達が多くいました!卒業までの間、ただ時間を潰すだけの者達が多くいました!また、なんとか這い上がろうと罪を犯すしかないものもいました!私達が安定させていたのは生徒会の役員の学内における相対的な地位ぐらいでした……そこでやっと気付きましたよ。奴等は自分達がルールを作れる立場だからと強盗をルールにしてやってるだけの罪深い存在で、奴等は罪の元を振りまく存在でした。ただ、それを崩すと学校全体に大きな揺れが起きる、混乱も起きる、正義は実行したらそれは誰かを苦しめることになる!」
その手の中のデジメンタルが忙しなく転がされていた。
「前から……倒す準備だけは進めてたんです。いつか倒す、いずれ倒す、その内に正義を実行するのだと、でも誰かが苦しむからと言い訳を積み重ねていました。でも、そもそもロイヤルナイツはそういうものではない。個人の正義を圧倒的な力で周囲に押し付ける存在、それがロイヤルナイツ。自己主張であり自己満足であり自分勝手がその本質……だけども、とやはり実行できずにいました」
手の中のデジメンタルがまるで炎の様にゆらりゆらりと言葉の調子に合わせて光ったり消えたりを繰り返す。
「あなたの話を聞いて、あなたの同行者の名前を聞いて、私は、誰かを苦しめない正義などないのだという事を思い出しました。先達がそれをしている事も思い出しました。そうして私は正義を実行しました。私は利己的です、自分勝手です、これは私の正義の主張でしかありません。だからこそ私は絶対に、白い花園さんが私の思う善良な誰かの一人である限り傷つける事はありません」
白い花園のはその言葉を信じた。レウコンの目は爛々と、それ自体が光を放ってるかの様に輝いている。そうした目は何度も白い花園のは見てきていた。寝食を忘れて没頭する研究者が目当ての本を見つけた時の顔がそうだった。
その目は心の中に満ちた何かの出口だった。
「体勢を立て直したら次はヴィランを潰しにスラムに行きます。生徒会の横暴があっての事なので情状酌量の余地はありますが、ヴィランが何かを奪うのは大抵中間層からです。その行為に私の正義はありません」
そういえば滞在期間を聞いてませんでした。滞在している内にお見せできるといいのですが、なんて言うレウコンに、白い花園のは心が惹かれていくのを感じた。
きっと、きっと何かを成し遂げる。根拠のない確信が胸の内を占め、それを側で見たいとすら思う、そんな力があった。
夜になったが、ミドリと白い花園のは、ホテルに戻る事はなかった。
「生徒会役員の二割が死亡四割が投獄、風紀委員会内部でも要職が幾らか投獄され……職業訓練校の方では役員と繋がりのあった者達を風紀委員会に差し出す様な動きがあると……スラムの中でも怯えて自首したりする動きが出始め、風紀委員会は忙殺されていると……酷いですね……」
メランがそう言うと、周りのブイモン達は皆どうするかという事を考えてか迷ってか、それとも裏切りを警戒してか忙しなく視線を動かしている。
そんな中で、一晩の内に結構な厚遇される事に慣れたミドリは落ち着いて食後の紅茶に砂糖をダバダバ入れていた。
昨日怒りの矛先を向けた相手は死んだ、ちょっと拍子抜けしていたのだ。
「白い花園さんはどうも積極的にレウコンの補佐をして、抜けた要職の仕事を果たしている様ですね、いずれいなくなる、出世に絡まない存在だからか非常にスムーズに機能させている様ですよ?」
「司書としてやってた経験の賜物ですかね」
そう言ってミドリがペーストの様になった紅茶を飲むと、メランはミドリが特に止められる訳ではないことや、なんというか、あまり関心があるわけでもないのに気づいて角の根元を掻いた。
「どうするんですか?」
ミドリの問いにメランはふーと一つ息を吐いてから口を開いた。
「攻めます。というよりも攻めるしかない、が正しいですかね。風紀委員会の力は今の内乱の影響が残る内に限りなく削っておきたい。それに、忙殺されてる今こそ頭目奪還のチャンスでもあり、今弱ってるのはうちも同じ、頭目を奪還もできず、こちらの力を増すこともできずに向こうが体勢を立て直したら潰されます」
だから攻めるしかないとメランはその身を白い魔獣へと変えた。
「一応、ミドリさんにも同行してもらいます。レウコンは元から潔癖な気がありました、今回もその結果の様です。手遅れでないなら被害者は助けようとするでしょう。つまりはやっぱり人質役です。そして隙を見て白い花園さんを連れて学校から出て行くのがいいでしょう。報酬のデジメンタルはホテルの方に持って行かせます」
「わかりました。だけども、白い花園のが行かないって言ったら私は白い花園のの気持ちを優先するので、置いて行きます」
少し、メランは戸惑ったがその場合は白い花園のの安全は保証できないという事を告げた。ミドリはそれに頷いた。
メランの呼びかけにレウコンは応じてあまりに少ない手勢を連れて運動場、訓練場などとして造られた施設に現れた。メランの側も連れているデジモンは同じぐらい少ない。自分達の方のパニックを抑えるために残さなければならなかった人数と、救出に向かわせた人数とを差し引くと連れてこれたのは数名だった。
ミドリを白い大きな手で鷲掴みにしたメランと、やはりすでにデジメンタルを使っているレウコンがその真ん中で向かい合い、まずレウコンが手を出した。とても人質を気にしたとは思えな躊躇いのない攻撃に、メランはミドリを放り投げ、そのパンチをなんとか受け止めた。そうするとレウコンは即座に飛び退いた。
二人はじりじりと間合いを合わせ、時にフェイントを交えてお互いの出方を探る。
消極的になる理由がそれぞれの今なっている種にあった。
ガーゴモンは石像を生み出す能力がある。用途は色々考えられるが、単純な落下でも綺麗に当たれば確実に意識が飛ぶ。最悪死ぬ。但し、生み出すだけなのでそれを当てることには難がある。大抵は巨体で圧倒してしまえばいい、だがここでカンガルモンという種の素早さや体格に見合わないパワーが邪魔になる。無論、正面から普通に殴り合えばパワーにおいてはガーゴモンが僅かながら勝る。そうなれば抑え込むなりして終いだ。
しかし、カンガルモンは普通に殴り合わないならば瞬間的にガーゴモンより強い一撃をも出せる。ガーゴモンが種の特性として持った技が石像を生み出す事ならば、カンガルモンのそれは利き腕から繰り出す強力なパンチだった。連発はできないが、やはりこれも綺麗に当たる場所に当たれば意識が飛ぶか死に至る。しかし、ガーゴモンの巨体で確実に決めるには相応の手順がいる。
膠着状態になったので、ミドリが白い花園の方に行こうとすれば、レウコンが連れてきたデジモン達が立ち塞がり、それをメランの連れてきたデジモン達が食い止める。
「どうする?私はこれから学校の外に出ようと思うんだけど」
「私はレウコンの側にいるのもいいかなって」
わかったとミドリが白い花園の横を素通りしようとすると、白い花園のは待ってと手を伸ばし、爪をミドリの皮膚に向けて立てた。
「どうせならミドリも見守ろう?もしかしたら、あの二体のどちらかがロイヤルナイツになるのかもしれない」
ミドリは一瞬、どうにか抗おうかと動いたが、すぐ痺れるのを察して自分から地面に寝転がった。
メランとレウコンの戦いは、その時、レウコンに軍配が上がろうとしていた。脚に強烈な蹴りが入り、メランは両手をついてしまった。顎は下がっていて、脚を蹴ったレウコンはそのすぐ下にいる。強烈なストレートこそ当てられないが、強靭な脚力と腕力から成るジャンピングアッパーがその顎を捉えた。
ふらりふらりと、メランの足は地面から浮き、視界も歪む。レウコンの姿は何人もに見え、このまま倒れてしまえば意識は失われるだろうと朧げに理解した。
しかし、その視界に、ふと倒れるミドリが見えた。揺れる視界ではミドリが自分から寝転んだなどわからず、流れ弾でも当たったように見えたが、それがきっかけか、所謂走馬灯か、メランの脳裏に過去の情景が広がった。
メランもまた頭目に拾われたデジモンだった。
腕っ節の強さと高い知能を持って産まれたが、あまりにもじっとしていられなかった。そもそもじっとしているだけでも苦痛なのにつまらない授業や何かはさらにやっていられない、当然集中なんてできやしない。何かを覚えるだけのものなんてのは拷問の様で、しかし、メランはその特性に気づかなかった。なまじ頭がいいばかりに興味があるなどして集中しやすい事や覚える事が少なくて済むものに関しては申し分なく、なんならそうした部分においては人並み外れたものがあった。しかし、できないところは徹底的にできず他の個体ができるのにできないのはなぜだろうと同じ様にやろうとして努力した分は空回りし、他の何かを犠牲にし、次第に落ちぶれていった。
授業以外の時間をスラムで潰す様になってすぐ頭目に出会い、その能力を頭目は買った。頭も良く腕っ節も強い、すごい才能だと言って、相性が良いだろう集中する事が得意で物覚えがよく、だけど要領が悪く応用力に欠けたブイモンと組ませた。つい体を動かしたくなるのも、歩き回りながら考えて何が悪いと許してくれた。
その内に自分の扱い方もわかる様になり、気がつけば校内でも指折りの実力者の一人に上げられる様になっていた。
頭目の元で誰かの才能が輝くのが、スラムに活気が出てくるのが、下を向くしかなかった誰かが笑う様に手伝えるのが、メランの喜びだった。
デジメンタルに感情の類の名前がついてるのは理由がある。それはそうした感情の強さによって効果が増すからだ。その条件が明らかでない光、奇跡、運命はよくわからない言葉になっていたが、メランの心を満たしたものは確かに光のデジメンタルを輝かせた。
ガーゴモンの拘束具が弾け飛び、白い体は膨らみ、ブイモンだった時の様な青色が体を覆い、鳥の様な翼はその目と同じ赤い色の皮膜を持つ翼へ変わる。その姿はエアロブイドラモンという種のものだった。
進化するということはデータの更新である。異常な状態は正常へ。クリアになった視界には、念の為にと深追いしていなかったカンガルモンの姿が映る。
振り出した拳はカンガルモンが退くより速く、その体を弾き飛ばした。
レウコンはすぐに立ち上がった。その体は、メランがそうして進化した様に光を纏っていた。
奇しくも、あまりに遠くに飛ばされた事でその視界には白い花園のとミドリが入る様になっていた。
そうすれば脳裏に浮かぶのはデジタルワールドでは知るものの殆どいない、しかし、確実にロイヤルナイツによって起こされた悲劇だ。
一つの開拓村と地域のデジモンのトラブルからデジタルワールドと人間界の戦争は始まった。最初は縄張り争い、先に手を出したのは人間、知性がある事を認めないものと認めるものとが内部で争った末に、開拓を進める上で都合がいい認めない側が勝り、認める側を村から追い出した。
そうして縄張り争いは規模を増していく。人間界から怒涛の勢いで開拓民が来ると、一部のデジモン達が結束し始め、対抗、そして、それに人間は負けそうになり、最早新しく土地を資源を得ようという以上に今まで取ったところまで奪われかねないと核爆弾を持ち出した。そして、その使用がそれまでは所詮いざこざと干渉していなかったロイヤルナイツの一体を動かす事になった。
アルフォースブイドラモンは人間が生活の為に侵略をするならそれもよいと見ていた。所詮人間は弱いし、自分達を脅かすほどのものでもないからと。しかし、核爆弾はその一帯の自然を汚染するものだった。しかもその場所に人間は住めないし住まない。これがアルフォースブイドラモンの正義に反した。
アルフォースブイドラモンは即座に事態を収めた。デジタルワールドにいる中で偉そうな人間を適当に殺して回り、人間のゲートを利用して人間界に、そして、各国の軍の上層部や首脳陣を虐殺して回るという多少雑だが迅速で被害も少ない形で力を誇示し、和平を持ちかけた。
そうして軍は引き上げ国も引き上げ、一部の人間が取り残された。
デジモンの恐ろしい力が、自分達のした事が開拓でなく侵略だと気づくと人々はデジタルワールドを神に約束された土地かの様に扱っていた態度から一変して、国を叩き国の支援を受け開拓していた企業を叩き、攻め込まれない為に謝罪をしないといけない、何か責任を取るべだと叫び、責任を取るべき誰かの死刑を望んだ。
つまり、分かりやすい生贄を必要とした。それはアルフォースブイドラモンがどうとかデジモンがどうとかではなかった。アルフォースブイドラモンの立会いのもと和平交渉をした人間達はそれに意味がない事を知っていた。知っていたが、その人間達は自分が殺される事と、自分達がころされることでいよいよ今までの国家のシステムが無に帰す事を恐れ、世論をある方向に誘導した。
一番最初にトラブルを起こした村が悪い。デジモンの知性を認めず武力行使に出る事を決めたものが一番悪い。軍の行いに関してはすでに責任を取るべきものが死んでいるのだからここの人間を殺すべきだと。
そうして選ばれたのが送り込んだ時に確かに主要人物だった数名。実際は、上に申し送りもされていたし、銃器の調達もあって、企業の耳にも政府の側にも報告が行っていたのでその誰もが責任者として適切とは言い難いが、特に適当でない人間が一人いた。ミドリの父親だった。
ミドリの父親は最後まで反対し、ミドリは開拓村の学校でいじめに遭い、家族揃って嫌がらせを受け続け、そして最後には一家揃って村から追い出された。それを、止められなかった責任と称して死刑を求めた。
しかし、ミドリの父親はその話をグリフォモンの元で聞き、自分がいかないと暴動で人が死ぬと言われて死刑にされる事を受け入れた。
それがレウコンの知る大衆の為に犠牲になった一つの家族の話。
最大多数の幸福をと考えたならばその行動は正しい、だけどもレウコンはそれを否定する。なぜならば彼らは悪くないし責任を取るべきものでもないからだ。
そして改めて強く思う。自分は、その正義を曲げてはならないと。大衆が流動した様に、歪んではならない、屈してはならない。必要な犠牲だったなどと罪なき誰かの涙を求め、責なき誰かの血を求める様な事を容認してはならない。
レウコンの体を覆う光は黄金色になり、伸ばした手が触れたデジメンタルは形を変えた。
次の瞬間にはもうそこにブイモンはおらず、輝く黄金の鎧を纏ったデジモンがいるだけになっていた。
まずいとメランは次の手が撃たれる前に殴りかかったが、まともに当たってもそのデジモン、ロイヤルナイツの一体に数えられるマグナモンは揺らがない。
カウンターのパンチが顎に入るとメランの意識は飛んで倒れ込み、あっけなく戦いは終わる。
「メランを最優先で、目を覚ます前に特別房に運んで下さい。こっちはデジメンタルさえ取り上げておけば適当に手錠かける程度で一先ず大丈夫です」
残りのメランの側のデジモン達をハンコでも押している様に軽く叩きのめすとレウコンはそう言って、ミドリと白い花園のところに歩み寄ってきた。
「ミドリさんは大丈夫ですか?」
「私の麻痺毒で痺れてるだけ、死んだりとかはしないわ」
「そうですか、できたら後でお話を伺いたいので、丁重にと皆に伝えておいて下さい」
マグナモンになったレウコンの活躍は凄まじかった。いや、マグナモンである事を考えればそれはむしろ当然であったかもしれない。夜になり、手足の痺れが取れてきたミドリのところに現れた頃には、風紀委員会の管理している牢は溢れそうになっていた。
ソファの上に寝かされたミドリの前の席にレウコンが座る。その隣には白い花園のが、そして、レウコンの後ろにはミドリの腕よりも太く見えるワイヤーで繋がれたメランがいた。
「一度、ミドリさんと話したいと思っていたんです。あなただったら、誰を罰するだろうか聞きたくて」
「無神経な質問ですね」
メランがそう嫌味を言うと、レウコンはその通りですねと微笑んだ。
「でも私は聞いておきたいと思うんです。あなたは誰を一番罰するべきだと思うかを。それがおそらく私の正義を変えることはないでしょう。しかし、人間界の様な規模の大きな群体での事例はデジタルワールドではまずありません、だから聞く意義があります」
白い花園のが、一度席をはずそうかとミドリの耳元で聞くと、ミドリは大丈夫と呟いた。メランの視線が気遣わしげだったが、ミドリはそもそも動揺も困惑もしていなかった。
誰が悪いかなんて事は、すでに考え尽くした事だからだ。
ミドリと白い花園のはそれから二週間後に街を出た。
白い花園のが後ろを振り返るとレウコンの姿は金色の流れ星のようにあっという間に見えなくなり、ぎゅっと、ポンチョに新しく着けたバッジを両手で抱えた。
ミドリの答えを聞いた後、レウコンは白い花園が付いていきたいと申し出たのを断った。
レウコン曰く、ロイヤルナイツは正義の為孤独であるべきだという事で、しかし、もし何かあれば駆けつけて判断すると二週間の内に発信機を用意して渡した。ミドリから離れない様にという言葉と一緒に。
白い花園のはまだ知らないが、ミドリの荷物の中には数個のデジメンタルが入っていた。それはメランの脱獄の為の手筈を整える為に色々とした報酬だった。
おそらく、数日内には学校内はヴィランの天下になるのだろう。エアロブイドラモンに対抗できる戦力がないという理由で。
元の頭も新しく指揮をとるはずだったレウコンもいなくなった風紀委員や、まとめて頭を潰された生徒会も大いに弱体化する。学内には新たな秩序が出来上がるだろう。
それでいいのかどうかはまた別の話。それが定着するかどうかもまた別の話だ。
「……ミドリは、本気で誰も恨んだりとかしてないの?」
ふと白い花園のがそんな事を言った。するとミドリは恨んではいるよと返した。
「私は、いじめられた事も追い出された事もお父さん殺された事も全部恨んでるけど、特定の誰かは恨んでないし、誰も罰しなくていいと思ってるのも本当」
白い花園のは少し迷ってからそれはなんでと聞いた。
「多分、人間がそういう生き物だってわかったからだと思う。多数や強い方が正しくて少数が弱い、それだけでしかないってわかったから、友達がいじめる側になるのも、お父さんがいじめられる側になるのも、いじめた人達がまるで元からそうだと思ってたとばかりにお父さんや私を庇う事を言って一緒にいじめていた誰かをいじめるのも、全部、人間の習性みたいなものだってわかったから」
ミドリの目に浮かんでるのは失望だった。それは、人間へのそれか、デジモンでも社会を作るとそうなる事を少し垣間見てしまったからか、白い花園のには分からなかった。
あ、でもとミドリは少し笑ってコートを少しまくって使ってないベルトの穴に着けた四つ葉のクローバーのピンを見せた。
「一人一人で見ると、その習性でそうなっちゃった、私をいじめる側に回るしかなかったのに謝ってくれて、コートもくれて、美味しいご飯も奢ってくれてベッドもお風呂も貸してくれる様な人もいるから、みんなが嫌いって訳じゃないんだよね。これはそんな友達とお揃いなの。コートもね」
あとは、メランやレウコンも私は好きとミドリは笑った。白い花園のもつられて笑った。
その頃、街の中では住民達がこんな会話をしていた。
「あの旅の方は当たりだったね」
「お陰でまた新たなロイヤルナイツが産まれた」
「そうなると、ここから数十年は捨て世代か?」
「アルフォースブイドラモンもマグナモンもいるのよね。過去ブイモンからコアドラモンになってエグザモンになったという話もあるけど、私は一例しか知らないわ」
「そうしたのはほぼ例外と見るべきでしょうね」
「そうだな」「そうね」「そうでしょう」「その通りだ」
その部屋の中に同意する声が続々と続いていく。
「ロイヤルナイツの名の下に、私達教員も励みましょう。生徒達が進化できなくともなれなくとも、それは、いずれ産まれるロイヤルナイツとそのロイヤルナイツが救う多数の誰かの為の必要な少数の犠牲に過ぎないのだから」
その声に、部屋の中には拍手が鳴り響く。
窓から見える景色の中で、ブイモン達が命を散らしながら抗争していたが、そこにいる誰もそれを気にも止めていなかった。