アコちゃん時空(ニンゲンとデジモンがいい感じに暮らしている世界線)のオチのない短編3本です。時系列はバラバラです。
1.「振り回される」
女子小学生の放課後の話です。(ベルゼブモン)
2.「兜率天の日月」
テイマーバトルがバチクソ強すぎてテッペンから降りられないテイマーとパートナーの話です。(アポロモン、ディアナモン)
3.「夢は夢のままでいい時ってある」
新入社員が夢見る話です。(ルーチェモンFM)
◇振り回される
「アコちゃん、テイマーバトル部今日収集かかってたじゃん、行かなくていいの?」
「アコ入った覚えないんですけどー」
「隣のクラスの幸前くん呼んでたじゃん」
「あいつが勝手に言ってるだけだしー」
女子だけの帰り道、アコはうんざりした顔で深くため息をつく。
帰りの会終了と同時に、隣のクラスから駆け込んできた自称テイマーバトル部部長の幸前ススムが大声でアコを呼んだ。
「今日テイマーバトル部河川敷集合な!!アコ!今日こそお前を倒すからな!絶対来いよ!!」
……という感じで。
この小学校には、不思議と強いテイマーバトラーが集まっているからか、テイマーバトルが大好きなススムが勝手に部員を引っ張りこんでいるわけだ。
「別にさーアコ行かなくてもいいじゃーん。しおちゃんとキクちゃん行ってるしー」
「え!キクジくんも行ってるの??」
「キクジくん行くなら私も見に行こ!アコちゃんついてきてよぉ」
「はぁ〜〜〜〜〜?」
クラスメイトのキクジは美しい見た目とクールな雰囲気、物腰のやわらかさで女子に人気のある男子。多分学年で1番人気がある。
女子としてはかっこいいキクジの姿を拝みたいところだ。1人だけで行くのは緊張する、だがアコが行くなら友達についてきたというテイにできる。
「じゃあアコちゃん後でね〜!」
「キクジくん楽しみだね〜!」
「えーーーーーーーアコいきたくないんですけどーーーーーーーー!ねーえーーーー」
ススムよりも強引に押し切ってきた友人2人に、アコは抗議するが全く効果はない。
手を振り去っていく友人2人の背中に頬をふくらませていたら、ばさ、と羽音が降り立った。
「ベルちゃん、ただいまー」
「おかえりアコちゃん、ススムくんから連絡来たからさ、迎えに来たよ!荷物置いて早く行こうよ!俺久々にギギちゃんと思いっきり戦いたいんだ〜体動かさなきゃね〜っ」
パートナーのベルゼブモンが背中のランドセルを回収しながらそう言うものだから、アコはバッ!と後ろを振り返る。
ニコニコと嬉しそうな笑顔で、尻尾をゆらゆらさせてソワソワしているその様子に、アコは更に頬を膨らませて眉根をこれでもかと寄せた。
「もーーーーー!!」
※
◇兜率天の日月
「レーヤ、また私たちバトルはお預け?」
「レーヤ、俺たちまで辿り着く相手はまだか」
スタジアムから立ち去る背中を追って、ディアナモンとアポロモンはそれぞれ不満を口にする。
普段のラフな格好とは違う、多少かっちりとした服に身を包んだパートナーの背中は、どこか切なく見える。
スタジアムから控え室に繋がる薄暗い回廊の中、星を宿した瞳が僅かな光を捉えて輝く。
それなのに、感情は薄く虚しいもののように見えた。
「ごめんね、次はちゃんと活躍させてあげるから」
先程打ち倒してきた挑戦者は打倒チャンピオンに息巻いていたようだが、とんだ期待はずれであった。
露払い役のアキレウスモンが挑戦者のパーティを半壊まで薙ぎ払ってしまえる程度に。
2体のパートナーであり、現在テイマーバトルランキング1位の『チャンピオン』……久世レーヤは、あまりにも強すぎる。
戦うのは実際自分達デジモンであるが、的確な指揮と、相手の戦法を把握し即座に対策を組む知識の深さと判断力。
恐ろしいまでのテイマーバトルへの才能と、説明が出来ぬ異常なまでの幸運ー主人公補正ー。
ディアナモンとアポロモンはそれを痛いほどに知っていた。
だって、自分達はレーヤの隣でずっと強くなってきたから。
「あの子、早く来ないかな」
ぼそ、と呟く。
「ハックモンを連れた子がね、いるんだ。この前初めて会った時、ぼくは輝きを見た。ぼくはあの子がここまで上がってくるって信じてる」
腕を広げて、星を宿した瞳を細める。
恍惚にも似たような色を帯びた声音。
「はやく戦いたい、あの子と!どんな戦い方をするのかな、楽しみになるよ!宇宙一素晴らしいバトルになるはずだよ!」
世界中から挑戦者が現れ、それを薙ぎ倒してきたテイマーバトルのチャンピオンが恍惚を持って語る相手に、いつ会えるか。
「ああ、楽しみだな」
「ええ、とっても楽しみね」
アポロモンとディアナモンは顔を見合せた後、笑顔をパートナーへ向ける。
今しばらく、弥勒菩薩ーマイトレーヤーの脇に控える日光と月光として。
アポロモンとディアナモンは宇宙を秘めてその背中を追う。
※
◇夢は夢のままでいい時ってある
「最近〜ネトプルで恋愛ドラマ見てるんだけど〜。エンジェモンと女の子が恋に落ちちゃうってやつがあって〜すっごく面白くって〜♡」
「知ってる!アレすっごいイイよね〜!優しくて強いエンジェモンが大好きになっちゃった女の子にどう接したらいいか分からないのがエモいよね〜♡」
新入社員の賑やかな会話に、パートナーのデジモン達がうんうんと深く頷いて相槌をうつ。
現在ネット独占配信されている『天使の羽に包まれたなら』は、エンジェモンと女性の恋愛を描いた人気作である。
ちょうど今シーズン1が終わりを迎えそうなその辺だ。
「はぁ〜天使型デジモンと恋してみた〜い、優しく強く守られた〜い」
「夢だわ〜お姫様抱っこされたぁい」
昼休みの僅かな時間は乙女の夢見る時間……とばかりに妄想する2人は深くため息をつく。
さて、昼休みも間もなく終了に近い。
2人は持ち場へと向かう。
軽快な靴の音を鳴らして、カードキーを翳せば、ドアが開き
「ほぉお〜〜〜〜〜〜♡♡♡しゅてきぃぃぃ〜〜〜〜〜〜♡♡♡」
恍惚とした嬌声に近い感嘆の言葉が体を突き抜ける。
部屋の真ん中には、仕立てたばかりであろうシワひとつないスーツを纏った美しいデジモン……ルーチェモンFMが椅子に腰掛けていた。
口角を緩やかにつりあげ微笑み、伏せた流し目は妖しげな色気を纏い、まつ毛の長さが際立つ。
白の羽と黒の翼を動かして、自然に組まれるポージングはモデル顔負けだ。
そして、それに向けてカメラを構える女が1人。
「ルチェさまカッコよすぎりゅ♡♡カッコよすぎましゅ〜〜〜〜♡♡顔面国宝♡♡大正義♡♡大優勝大天使〜〜〜〜〜〜〜〜♡♡」
「まーね。ルチェってさあ、美しいからなんでも似合っちゃうんだよねえ。でしょお?」
「おっしゃるとおり〜〜〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡♡♡」
その場にしゃがみ、そして床を転がりながらローアングルでカメラを連射する女はルーチェモンのテイマーで、新入社員の先輩にあたる人物だ。
このコンビはテイマーとパートナーの関係ではあるが、主従関係は完璧に逆である。※ルーチェモン曰く「ルチェってさあ、従えてる下僕も有能な訳」
噂によればあれやこれや一線超えているだなんだ……と言われているが定かでは無い。
「ルチェさまだいしゅき〜〜〜〜〜〜♡♡♡ あっヨダレ出た ジュッ」
……ただ、仕事もできて、ちょっとおっちょこちょいだけど新入社員にも優しい先輩社員が理性をぶっ飛ばして表情筋ユルッユルのデレデレ顔でルーチェモンを撮影する姿に、新入社員2人は数十分前の「天使型デジモンと恋愛してみた〜い」の言葉をかなぐり捨てるように撤回するのであった。