フォーラム記事

ちこ
2022年9月23日
In デジモン創作サロン
初めましてこんにちは。 へりこにあん様主催のお彼岸企画に参加させて頂いた者です。 3,000字前後の短い文章になりますが、どうぞよろしくお願いします。 初サロンへの作品投稿になるのでドキドキです。 デジタルワールドにとある見晴らしの良い丘があった。 そこは街や集落といった場所からは離れており耳が痛くなる程の静寂だけが空間を支配していた。 まるで世界中の誰からも忘れ去られてしまったかのような……そんな寂しさすら感じさせる丘の上には不自然に一つの大きな岩が聳え立ち、自らの存在を強く主張している。 岩山などではない草原の丘に突然生えた謎の巨大な岩。花の輪を掛けられデジ文字で何かを刻まれていることからそれがただ自然と生まれた岩ではない事は明らかであるが、果たして誰が一体何の為にここへ置いたものなのだろうか。 周辺はとても綺麗な緑で溢れているだけにデジモン一体見つからないのが不思議だった。 前述した通りの忘れられた場所か、或いは隠された土地なのか、それとも此処を住処とした何かを畏れて居るのか。 その疑問は突如として静寂を斬り裂くようにして聞こえた羽ばたく音と丘を丸ごと覆い尽くしてしまうほどの巨大な影によって解消される。 昼間だというのに薄暗い闇に包まれ、風を打つ翼の音だけが響き渡る丘に舞い降りたのは赤い竜だった。 炎が燃え盛っているような翼に凶悪さが隠しきれず滲み出た面構え。全身がクロンデジゾイドで覆われた身体にまるで地獄から這い出てきたかの如く邪悪な風貌をした真紅色の竜──邪竜メギドラモンだ。 成る程、デジタルワールドに存在する竜型デジモンの中で最凶にして最も邪悪、並び立つとされる四大竜たちには及びもしない凶悪さを持つとされる彼の竜の住まいであるならばデジモンたちが畏れて近付かないのは納得であろう。 そんな畏怖の対象とされているメギドラモンは腰から長く伸びた尻尾の先端を器用に地面につけるとするすると身体を下ろし、荒々しい登場の仕方と比べて随分と静かに地面に降り立っていた。 その手には不釣り合いな小さな包みが収まっており、何かしらの目的を持ってここを訪れたであろう事が見て取れる。 「よォ友。今年も来てやったぞ」 暫くの間メギドラモンは何かを確認するようにジロリと周囲を睥睨していたが、やがて花の輪が掛けられた岩へと視線を移し声を発した。 聞いたものを押し潰し恐怖に打ち震わせるだろう重低音が辺りに響き、放たれた言葉はその声色に相応しい不遜な口ぶりであった。 だがよく観察してみれば偉ぶった態度とは裏腹に岩を見つめる大きな黄金の瞳は優しい色を映しており、少なくともここは彼の大切な場所である事が伺えた。 ここであった懐かしき過ぎ去りし日々を思い返すように瞳が細められ、天を仰ぐ。 遠い過去へと想いを馳せているのだろうか。 その姿だけを見るならば誰もこのデジモンが邪悪と知られるメギドラモンとは想像が付かないのではないか。 ついそう思わせてしまうほど、あまりにもそのメギドラモンは世に知られる姿からはかけ離れていて穏やかな雰囲気を纏っていた。 ただただ緩やかに時間が過ぎる中、カサリと風を受けて手にした包みが揺れた事でここへ来た当初の目的を思い出したらしい。 視線を岩へと戻し、誰に聞かせるでもなく軽く咳払いをすると壊れ物を扱うようにそっと手にしていた小さな包みを岩の前へと置く。 「テメェが好きだった酒だ。感謝しろよ?手に入れるのが大変だったんだからな」 包みを解いて現れる二本の酒瓶を同じく包みの中から現れた二つの大きな盃にそれぞれ注ぎつつ。メギドラモンの口から語られるのはこれを手に入れるのにどれだけ苦労したのかという一つの冒険譚であった。 いつも酒を造っているデジモンが知らない間に拠点を移していたのでまずは探す所から始まり、ようやく見つけるも酒を造る材料がないというのでデジタルワールド中を飛び回って集めてくる羽目になり。 集める旅だって簡単なものではなく相当な苦労の末に集められたものであった上、酒を造るの際にもトラブルが起きて。 苦労の連続の果てにようやく手に入れる事が出来たのだと彼は語る。 それはまるで幼い子供が1日の思い出を母親に語って聞かせるかの如く。楽しげな姿であった。 そうして一度語り出せば次から次へと話題が浮かぶのか、メギドラモンの口は止まらない。 「そういやテメェが初めてこの酒を呑んだ時の事、覚えてるかよ?俺ァ忘れてねぇぜ、俺が大事に大事に取っといた酒瓶を俺が見てない隙に一人で全部呑んじまった姿をな!……ったく、アレは何百年も前に知り合いから貰った奴だったんだぜ?うめぇ酒だからチマチマと呑んでいくつもりだったのによォ……何が『漢はそんなみみっちぃ事は言わねぇもんだ』だ、もう手に入らねェかもしんねぇモンを大事に取っといて何が悪いんだっての」 今でこそ毎年のように酒を用意して貰えるようになったがかつては呑んだが最後、手に入るかわからないものだったという。 彼の話に出る登場人物はそんな事気にしないポジティブ思考というかある意味豪快な人物だったようだが。 話の内容やこれまでの対応からメギドラモン自身が相手に心を許しているのはわかるものの、皆から畏れられている邪竜を前にしてその態度とは相当肝が太い存在である。 否、そんな相手だからこそメギドラモンも心を許し好物を用意する程に懐いているのかもしれない。 当のメギドラモンはとっておきを取られ悔しかった気持ちも同時に思い出したのか恨めしそうに岩を睨みつけるが、その行為に意味などない事を理解しているのだろう。 深く深くため息を吐くだけでそれ以上は恨み言を口には出さず、並々と注がれた盃の一つを手に取りもう一つの盃にぶつけて高々と掲げるとそのままぐいとあおった。 呑み込み切れなかった分が口から溢れて地面を濡らし、ぐっと口元を拭う。 どこか人間臭さを感じさせる仕草だった。 「っかぁーー、うめぇ!!やっぱコイツは最高の酒だな!!ツマミでも持ってくりゃ良かったぜ。最近美味いツマミを作ってるとこを見つけてよォ……テメェにも食わせてやりてェくれェうめぇんだよ」 どれだけそのツマミが美味いか、どこでそれを見つけたのかを語る瞳は嬉しげであったがどこか寂しげでもあった。 それは聞かせる相手から反応がない虚しさからか、もう飲食を共に出来ない寂しさからか。 彼の瞳から読み取ることは出来なかった。 恐らくメギドラモンにとってとても大切な、掛け替えのない存在であったのだろう。 それほどまでに慕っていた存在が今彼の隣に居ないこと、ここへ来た目的を考えれば何があったのか自ずと答えは出てしまうが。 しんみりと沈みかけた気持ちを切り替えるように緩く首を振りまた酒をあおる。 思い出話を聞かせるように呟いてはまた酒をあおり、気付けば岩の前には空になった二つの盃と二つの酒瓶が転がるのみとなり。 そろそろお開きかというところで彼が見たのはやはり岩だった。 「俺ァ長生きだからよ、まだまだテメェよりは生きるだろうさ。だがいつかはそっちに行くし、うめぇ酒が手に入りゃまた会いに来てやっからよォ。土産話を楽しみにしとけ。つってもテメェの事だ、俺が居なくても楽しくやってるんだろうがな」 呆れたように。しかし愛しげに。 初めに友と呼び掛けた岩に向けられる眼差しはどこまでも暖かくて優しくて。 メギドラモンと呼ばれるデジモンらしからぬものであった。 夕暮れ時。 世界が自らと同じ真紅色に染まる中、持って来たもの全てを包みに纏めて飛び去っていくメギドラモン。 その後ろ姿を岩の影にいつの間にかひっそりと立つ一人の男が見送っていた。 『ああ、待っているとも。酒もテメェの土産話もな。だからテメェはもっと長生きして人生を楽しめ。儂の大事な友、メギドラモンよ』 そう呟き一つ残し。 男はメギドラモンの姿が小さくなり見えなくなるまで見守ってから姿を消した。 男の側にあった岩には乱雑な字でこう刻まれていた。 ──親愛なる友にして我がテイマー、ここに眠る──
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