フォーラム記事

九音ナユリ
2020年6月21日
In デジモン創作サロン
続くかは未定です。独自解釈・設定、他諸々ありです。  空は快晴、桜の映える温かな小春日和。  駅前の桜並木。駅へ向かう人々はせわしなく手元で端末を操作しながら信号が切り替わるのを待っており、彼らの眼前を電動化によって騒音とは無縁になった自動車が僅かな風切り音を残して通り過ぎてゆく。  車道の信号が青から黄へ、黄から赤へ。  急流のように止まることを知らないかに思えた車たちがぴたりと止まり、今度は歩行者たちがガヤガヤと音を立てながら横断歩道を通り過ぎてゆく。先ほどの車などよりよっぽどうるさい。  スーツのサラリーマン、細長いカバンを肩に部活へ向かうと思しき中高生、どこかへ遊びに行く様子の家族連れ。様々な人種が思い思いに会話をしながら、最近改築された近代的外観をした駅の入口へと吸い込まれていく。  だが__。  ドゥッ!!と彼らの前方、その駅が爆発したかのような轟音を上げたちまち雑踏をかき消した。  日差しを照り返し輝いていた建物上半分は巻き上がる噴煙に覆い隠され、その煙の奥で巨大な影が蠢いている。どう考えても日常にはありえない異質な光景。  穏やかな休日、突如駅前で発生した惨事にけれど道行く人々は誰も見向きもしない。まるで轟音も徐々に晴れていく噴煙も存在しないかのように駅へと足を進めていく。  残り僅かとなった噴煙を赤茶色の五指が掻き払う。  そこに現れたのはどこか愛嬌さえ感じさせる巨獣の顔だった。垂れた耳、まん丸い眼、笑っているかのように開かれた口。三本の角が生えた帽子を被ったかのようなその姿は、しかし酷く不気味にも見える。盛り上がった肩に巨大な棘。ゴリラのような二本の腕と二本の脚、だがその先には肉食獣のように鋭い爪が伸びている。何より数メートルはありそうな巨体はまず間違いなく怪物と言って差支えないものだろう。 「ウァ、ア……」  駅の側面に事も無げに立ち、濁った声と共にその顔を宙へと向ける。視線の先を深紅の体躯が身をよじらせるように通り過ぎていった。まるで水の中と言わんばかりの動きで空中を泳ぎ、獣の怪物へと迫っていくそれもまた怪物であった。巨大な二つの鋏を備えたエビの怪物。 「ガァァァァアア!」  咆哮を上げ螺旋を描くようにしながら深紅の怪物は獣の怪物へと突き進んでゆく。その軌跡に僅かに青白いノイズのような小さなキューブが散る。 「ウァ」  獣の口元がつり上がる。笑みが深くなる。同時にその背中から獣に似つかわしくないミサイルのような何かが放たれ、目前に迫ろうとしていた深紅の怪物を迎撃した。  再びの爆発、轟音。それも頭上で起きたはずのそれに、やはり歩行者たちは意識を向ける様子はない。 「何だあれ?見えてる情報にはあんなのなかったぞ」  道路を渡り人気の無くなった横断歩道の前でひとり立ち尽くす青年が吹きあがる煙を見上げて眉をしかめていた。彼の視線の先、駅側面に立つ獣の怪物の横には『ウェンディモン』、爆発に呑み込まれた深紅の怪物がいるであろう箇所には『エビドラモン』と文字が浮かんでいた。他にも通常の人間の視界には表示されるはずもない数々のデータが並んでいる。ウェンディモンの下にもいくつかの詳細なデータと共に『デストロイドボイス』『クラブアーム』の文字。  彼だけが現実に重ね合わされた電子世界のレイヤーを正確に認識していた。 「チッ、今ので大分削られた。溜めてたBitも十分じゃないってのに……!これじゃ成熟期の維持に必要な量もほとんど残らねぇぞ」  忌々し気な言葉と裏腹に彼の指が握った携帯端末の上を素早く走っていく。画面に表示されていく情報はそのまま彼の見る現実に反映され、未だ爆風に囚われた深紅の怪物__エビドラモンを丸くターゲッティングしたアイコンが点滅する。開いたウィンドゥが高速でスクロールしある名称でぴたりと止まる。  『高速プラグインD』  彼の指が端末を叩きアイコンが赤く点滅した瞬間、爆風を突き破るように上空へと深紅の疾風が飛び上がる。そのままV字を描くように鋭い角度で駅に立つ獣、ウェンディモンへと深紅が疾走する。一瞬ではあるもののエビドラモンを見失ったウェンディモンは自身を両断する二つのハサミに抵抗することができなかった。 「ウガァアァアァ!?」  驚きとも苦痛とも取れる叫びを上げながら裂けたウェンディモンの体が青いデータに分解されていく。意味を失い崩れたデータはその端から、地面へ乱暴な着陸を果たしたエビドラモンへと吸い込まれていく。  みるみるうちに小さな姿へと変わっていくウェンディモンだったが、その途中白い真円が周囲に現れ矮小化した体躯を呑み込んで消えた。 「バックドア……まぁ、そうだよな。脱落はなしか」  視界に表示されていたウェンディモンの情報が消える。同時に先ほどまで重力を無視して立っていた怪物の姿も跡形もなく消えていた。  『バックドア』。成長期以下のデータ量のデジモンを自らの端末へ緊急退避させるオプション機能。しかし使用回数は限られており使い切ってしまえば、敗北したパートナーは全てのデータをロードされる他ない。  幾度もの爆発、衝撃が繰り返されたにも関わらずウェンディモンが立っていた駅、その周囲にも破壊の後は残っていない。町を行く人々の足並みも変わらない。駅の入り口を塞ぐように横たわるエビドラモンの体を感慨もなく通り抜けていく。ウェンディモンとエビドラモン、二体のデジモンの戦いは現実と重ね合わせのもう一つの世界での出来事でしかなかった。 「あぁ、派手にやり過ぎだ。そも、なんでこんな場所で仕掛けてきたんだ。……元々一対一で勝てる見込みはなかったてか。……まぁいいや、他のテイマーが来る前にさっさと逃げるぞ、エビバーガモン」  長い前髪をくしゃりとかき上げながら、走り抜ける車を飛び越え彼の元に着地するエビドラモンだった自身のパートナーに声をかける。 「了解であります。ゴシュジン殿」  ハンバーガーを頭にかぶったようなピンクのデジモン、エビバーガモンが短い手足を大きく広げてその言葉に応える。 「別に良いけどさ、なんでご主人なんだ?」 「セッソウをパートナーに選んでいただいたのです、ゴシュジン殿と呼ばずして何と呼びましょう」 「……別に名前でいいって行ってるんだけどな」 「いいえ、セッソウはゴシュジン殿を尊敬しておりますので!お名前をお呼びするなど畏れ多い」 「どこで覚えてくるんだそういう言葉……まぁ、いいや。とりあえず今回はトントンだ。あいつのバックドアを削れただけ良しとするか」 「うぅむ、セッソウの外皮は中々に固い故、あまりダメージを実感しにくいのですが……Bitは失われていくのでありますな」 「しばらくはまたネットに潜ってデータ集めだ」 「あ、でしたらセッソウ行ってみたいサーバーがあるのですが」  幾度も繰り返したやり取りを口にしながら彼と彼のパートナーは駅と反対方向に歩き出した。端末をわざわざ顔に当てるような通話風景も無くなった現在、さして珍しくもなくなったどこかの誰かと会話するそのテイマーはやがて雑踏の中に紛れて消えていった。
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