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フォーラム記事

九音ナユリ
2023年4月29日
In デジモン創作サロン
全くご無沙汰だったのですが面白そうな企画を見て書き始め……全く間に合わなかったので1話というていで投稿です。 一応構想はあるのですが、続くかどうかは未定です。 独自解釈・設定、他諸々ありなのでその辺りご了承ください。  どれだけ緩やかであろうとふたつの世界の交錯には悲鳴が混じる。木々が風に吹かれ木の葉を落とすように。森を駆けるネズミが上空の鷹に見つかる様に。星の衝突が大地を砕き、摩擦で大気を焼き尽くすように。  たとえ目に見える異変がなかろうと───衝突とは、遭遇とは、出会いとは、両者に無理をもたらす。それは言い換えれば「今までと同じではいられない」ただそれだけのことなのだけれど……。  ただそれだけのことで、大切なものも失われてしまう。  ───digi-rise a 3─── 1  からりとした地中海の風が白い街並みを吹き抜ける。  微かに柑橘の香りを運ぶ潮風はジリジリと陽光に焼かれる肌に心地いい。金や茶、白、ブラウン、雑多な髪と肌の色が道行く中で、周囲とやや趣きの異なる顔つきの黒髪の青年は両手で広げたパンフレットの地図を必死ににらみつけていた。 「ん~っと……ここが、あれで…………あそこがこれで?」  人のよさそうな顔が必死に眼をすぼめる姿はどこか滑稽に見える。その上、手にした地図をグルグル回し、姿勢もそのたび変えていくのだから、道行く人の中には路上パフォーマンスと勘違いして口笛を鳴らしていく者もいる。 「ぬぬぬぬぬ……」  実際には異国の地で道に迷っているだけなのだけれど。 「エィ!」  地図とのにらめっこを続けて数分、首を90度、地図を380度傾けていた青年に甲高いソプラノの声が飛ぶ。 「ん?」  青年が視線を向けるとそこには声の主にふさわしいクルクルとした栗毛の少年が立っていた。自分の存在に気づいた青年へともう一度「エィ!」と声をかける。 「な、んな!?あ、えーっと、ちゃ、チャオ?」  驚きつつ覚えたての言葉で何とかコミュニケーションを取ろうとするのだが、少年は現地人らいい流暢な───碌にこの国の言葉も覚えずに来てしまった青年には欠片も聞き取れない───言葉づかいで何か話しかけてくる。 「ま、待った待った、わかんないっす!?あー、えーっと……ノン、かぴー」  何とか言葉がわからないことを身振り手振りで伝えると、少年は無言で青年が手にしている地図を引っ張った。青年と地図を交互に指し示し、何処へ行きたいのかを教えろとジェスチャーで示す。 「あ、もしかして道を教えてくれるんっすか……ありがたい!あーえっと……ぐらっつぇ、ぐらっつぇ!」  かろうじて覚えていた感謝の言葉を口にし、身振り手振りで自分が向かおうとしているとある洋菓子店の位置を地図で示した。地図上をなぞる青年の指先を見ると栗毛の少年は青年の手を引いて歩き出す。 「クィ、クィ!」 「こっちなんっすね!いやぁ、マジで助かるっす!!」  彼は思わぬ親切に感激し、その導きに従って路地を曲がっていく。足を踏み入れた先が、埃っぽくラテンの陽光も届かない裏路地へ続くことも気づかないまま。 □□  □□□ □ □ □  少年の先導に任せ5分ほど歩いたところで青年もなにかがおかしいことに気づき始めていた。白く美しかったはずの壁はスプレーで描かれた雑多な落書きに覆われすすけていた。割れた窓ガラスや砕けた何かの木片が道端に散乱している。何より、あんなにも賑やかだったはずの町の喧騒がここではひどく遠くに感じられた。 「えーっと……ホントにこっちであってるんっすか?」  少年に声をかけてみるも答えは返ってこない。言葉が通じてないのか、しばらく困惑したものの青年は自らの足を止めることで意思表示することにした。 「すとっぷ、すとっぷっす!……わかるっす?」  何とかコミュニケーションを成立させようと笑顔を浮かべて話しかける。先ほどは身振り手振りで通じ合えたのだ、今だって……。  彼の楽観的な考えは、振り返った少年の胡乱気な目つきに吹き飛ばされる。最初に声を掛けられた時のにこやかな笑みは何処にもない。  何か、青年にはちっともわからないが罵倒と思しき言葉を早口で吐き捨てながら少年は乱暴に彼の手を引き、薄暗い道の先へ連れていこうとする。 「ちょ、ちょちょっお!なんなんすか!?どうしちゃったっていうんすか!?」  小柄な少年を振り払うことは躊躇われ、かといってついていく気にもなれずその場で立ち往生位になる。“言葉が通じない”。先ほどは軽く飛び越えられたように思えたその壁が、彼の前に高くそびえ立つ。 「チッ、たく馬鹿ひとり連れ込むことも出来ねぇのかよ役立たずが」  その時、青年にも理解できる言葉が道の先から聞こえてきた。  同時に、少年もその言葉を理解したのかビクリと肩を震わせる。  先ほどとは打って変わって必死な声。母国語で何かをまくしたてる。青年にはその様子が許しを乞うているように見えた。 「あーあー、うるせぇんだよ!わーったわーった!マ、ここまで連れてきたから多めに見てやる」  少年はその言葉にホッと安堵の息を漏らすと、先ほどまで必死に引いていた青年の手を放り出し、道の先へ駆けだす。ちらりと振り返った表情にはしてやったとでも言うようなニマニマとした笑みが浮かんでいた。  青年はその表情に見覚えを感じ眉を寄せる。  自分より弱い奴を見下し悦に浸る表情だ。あまりいい思い出はない。 「……」 「見たところこの国の言葉も碌にわからねぇ観光客って感じだが……オレの言葉はわかるよなぁ」  そう問いかける声は自国の言葉として青年にはっきりと聞き取れるものだった。ただ、不思議とこの国の全く言葉の異なる少年にも同じように通じている様子だった。  そういう言葉が話せる存在に青年は心当たりがあった。  ズン、ズンと重々しい足音が青年へと近づいてくる。とてもでないが人間のものとは思えない。やがて小山ほどもありそうな巨体が青年の前に姿をあらわす。  全身が茶褐色の毛でおおわれた狒々のような姿だった。体のいたるところをまるで鎧のように無骨な岩が覆っている。何より目を引くのがその相貌。顔のほとんど、額から眼の下、そして下あごも灰色の岩に覆われている。唯一覗く巨大な口にはのこぎりの様に鋭い歯が並びその奥から獣の呼気が漏れ出ていた。  それは人に非ざる化け物───、モンスターだった。 「へへへ、お前みたいなガキにだまされる間抜けはいいカモでよぉ……痛い目見たくなかったら身ぐるみ全部おいていきな。何もかも今すぐ差し出すってんなら……マ、パンツくらいは見逃してやるぜ」  自分の言葉にアヒャヒャとガラの悪い笑い声を上げ、その狒々のような化け物───バブンガモンは最後の駄目押しとばかりに巨大な腕をゆっくりと青年の頭上に掲げる。岩に覆われ、その先から黒々とした鉤爪が伸びるソレが頭上から迫る圧力は、対峙する人間を恐怖で縛り付けるに十分すぎる。筋骨隆々の大男だって腰を抜かして命乞いをした。  だというのに───。  迫る腕をまるで暖簾でもくぐる様にひょいと青年は避け、一歩距離をつめる。  怪訝な視線をバブンガモンに向ける。 「デジモンこんなところで追剝……しかも子供を使ってとか……マジっすか?」 「は……?」  これまでここに連れてこられた人間はだれだって自分の姿に怯え、慄いてきた。それはバブンガモンが少年に“そういう人間”を連れて来させていたからでもあった。  それはつまり、今の世の中になってもデジモンとあまり接点がない、慣れていない、パートナーを持たない人間。コイツは───そうではない。 「オンブロォ!!テメェ、テイマーを連れてきやがったなぁ!」  獣の怒声。振り返ることもなく自分の背後にいた少年、オンブロへ怒りをぶつける。大気を震わせる咆哮に少年はギョッとし、後ずさろうとして───、足をもつれさせ地面に転がった。獲物を連れ込んだことでようやく逃れたはずの恐怖が再びオンブロの体を支配していた。  だが、その怒声を真正面で浴びたはずの青年はひるむ様子はなく、むしろそれに対抗するように声を張り上げる。 「ダセェことしてんじゃねぇ!!」  胸を張り、自分よりふたまり近く大きなデジモンを彼はにらみつける。先ほどは虚を突かれたバブンガモンだが、今度はそれを蛮勇と笑い飛ばす。 「ハッ、誰に口きいてると思ってんだ……俺様に逆らって唯で済むと思ってんのか?テイマーだからって力が強いわけでもねぇ!テメェは雑魚一匹に代わりねぇんだよ!!」  大きく振り上げた手のひらを青年へ振り下ろす。先ほどとは比べ物にならない速さを備えた岩掌は人間などたちまちにミンチに変えてしまうだろう。 「うわぁっと!」  間一髪、青年は大きく後ろへ飛びすさることでそれを逃れる。バブンガモンの背後からその様子を見ていたオンブロは、驚きの声を上げながらも青年が決して焦っては、ましてや怯えてはいないことに気付いた。それは彼の常識ではありえない事だった。人間があの凶暴なバブンガモンに怯えないなど。その上、立ち向かおうとするなど。  少年は知らない、青年には共に危機に立ち向かえるパートナーがいるということを。後ろへと飛びのきながら、取り出した携帯端末の意味を。 「もうちょっと寝かせてやりたかったけど……わりぃベアモン!」  青年───夏八木カズマが声を上げるのと同時に彼の手の中の携帯端末が光を放つ。 「チッ、やっぱりパートナーもいやがったか……!」  その光が晴れると、そこにカズマの頼もしいパートナーが姿を見せる。 「……ん~むにゃ…………むにゃ……」  うつらうつらと船を漕ぐ、頼もしいパートナーの姿が。 「ハッ……ア、ヒャヒャヒャ!!どんなヤロウが出てくるかと思えば寝ぼけたチビ一匹かよ」 「カズマぁ~……うるさい。まだ眠い…………もう、ちょっと…………むにゃ……」  カズマの腰に届くかどうかという背丈。青いキャップを逆さに被った小熊の姿をしたデジモン。カズマのパートナー・ベアモンは時差ボケの真っ最中だった。 「ちょちょっちょ!ベアモン!起きるっす!ちょっとマジな感じのシーンだから!!」 「う~ん……」  地中海を臨むとある町。あの冒険から3年。  二十歳を目前にした夏八木カズマは異国の地でゴロツキのデジモンにからまれていた。
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九音ナユリ
2020年6月21日
In デジモン創作サロン
続くかは未定です。独自解釈・設定、他諸々ありです。  空は快晴、桜の映える温かな小春日和。  駅前の桜並木。駅へ向かう人々はせわしなく手元で端末を操作しながら信号が切り替わるのを待っており、彼らの眼前を電動化によって騒音とは無縁になった自動車が僅かな風切り音を残して通り過ぎてゆく。  車道の信号が青から黄へ、黄から赤へ。  急流のように止まることを知らないかに思えた車たちがぴたりと止まり、今度は歩行者たちがガヤガヤと音を立てながら横断歩道を通り過ぎてゆく。先ほどの車などよりよっぽどうるさい。  スーツのサラリーマン、細長いカバンを肩に部活へ向かうと思しき中高生、どこかへ遊びに行く様子の家族連れ。様々な人種が思い思いに会話をしながら、最近改築された近代的外観をした駅の入口へと吸い込まれていく。  だが__。  ドゥッ!!と彼らの前方、その駅が爆発したかのような轟音を上げたちまち雑踏をかき消した。  日差しを照り返し輝いていた建物上半分は巻き上がる噴煙に覆い隠され、その煙の奥で巨大な影が蠢いている。どう考えても日常にはありえない異質な光景。  穏やかな休日、突如駅前で発生した惨事にけれど道行く人々は誰も見向きもしない。まるで轟音も徐々に晴れていく噴煙も存在しないかのように駅へと足を進めていく。  残り僅かとなった噴煙を赤茶色の五指が掻き払う。  そこに現れたのはどこか愛嬌さえ感じさせる巨獣の顔だった。垂れた耳、まん丸い眼、笑っているかのように開かれた口。三本の角が生えた帽子を被ったかのようなその姿は、しかし酷く不気味にも見える。盛り上がった肩に巨大な棘。ゴリラのような二本の腕と二本の脚、だがその先には肉食獣のように鋭い爪が伸びている。何より数メートルはありそうな巨体はまず間違いなく怪物と言って差支えないものだろう。 「ウァ、ア……」  駅の側面に事も無げに立ち、濁った声と共にその顔を宙へと向ける。視線の先を深紅の体躯が身をよじらせるように通り過ぎていった。まるで水の中と言わんばかりの動きで空中を泳ぎ、獣の怪物へと迫っていくそれもまた怪物であった。巨大な二つの鋏を備えたエビの怪物。 「ガァァァァアア!」  咆哮を上げ螺旋を描くようにしながら深紅の怪物は獣の怪物へと突き進んでゆく。その軌跡に僅かに青白いノイズのような小さなキューブが散る。 「ウァ」  獣の口元がつり上がる。笑みが深くなる。同時にその背中から獣に似つかわしくないミサイルのような何かが放たれ、目前に迫ろうとしていた深紅の怪物を迎撃した。  再びの爆発、轟音。それも頭上で起きたはずのそれに、やはり歩行者たちは意識を向ける様子はない。 「何だあれ?見えてる情報にはあんなのなかったぞ」  道路を渡り人気の無くなった横断歩道の前でひとり立ち尽くす青年が吹きあがる煙を見上げて眉をしかめていた。彼の視線の先、駅側面に立つ獣の怪物の横には『ウェンディモン』、爆発に呑み込まれた深紅の怪物がいるであろう箇所には『エビドラモン』と文字が浮かんでいた。他にも通常の人間の視界には表示されるはずもない数々のデータが並んでいる。ウェンディモンの下にもいくつかの詳細なデータと共に『デストロイドボイス』『クラブアーム』の文字。  彼だけが現実に重ね合わされた電子世界のレイヤーを正確に認識していた。 「チッ、今ので大分削られた。溜めてたBitも十分じゃないってのに……!これじゃ成熟期の維持に必要な量もほとんど残らねぇぞ」  忌々し気な言葉と裏腹に彼の指が握った携帯端末の上を素早く走っていく。画面に表示されていく情報はそのまま彼の見る現実に反映され、未だ爆風に囚われた深紅の怪物__エビドラモンを丸くターゲッティングしたアイコンが点滅する。開いたウィンドゥが高速でスクロールしある名称でぴたりと止まる。  『高速プラグインD』  彼の指が端末を叩きアイコンが赤く点滅した瞬間、爆風を突き破るように上空へと深紅の疾風が飛び上がる。そのままV字を描くように鋭い角度で駅に立つ獣、ウェンディモンへと深紅が疾走する。一瞬ではあるもののエビドラモンを見失ったウェンディモンは自身を両断する二つのハサミに抵抗することができなかった。 「ウガァアァアァ!?」  驚きとも苦痛とも取れる叫びを上げながら裂けたウェンディモンの体が青いデータに分解されていく。意味を失い崩れたデータはその端から、地面へ乱暴な着陸を果たしたエビドラモンへと吸い込まれていく。  みるみるうちに小さな姿へと変わっていくウェンディモンだったが、その途中白い真円が周囲に現れ矮小化した体躯を呑み込んで消えた。 「バックドア……まぁ、そうだよな。脱落はなしか」  視界に表示されていたウェンディモンの情報が消える。同時に先ほどまで重力を無視して立っていた怪物の姿も跡形もなく消えていた。  『バックドア』。成長期以下のデータ量のデジモンを自らの端末へ緊急退避させるオプション機能。しかし使用回数は限られており使い切ってしまえば、敗北したパートナーは全てのデータをロードされる他ない。  幾度もの爆発、衝撃が繰り返されたにも関わらずウェンディモンが立っていた駅、その周囲にも破壊の後は残っていない。町を行く人々の足並みも変わらない。駅の入り口を塞ぐように横たわるエビドラモンの体を感慨もなく通り抜けていく。ウェンディモンとエビドラモン、二体のデジモンの戦いは現実と重ね合わせのもう一つの世界での出来事でしかなかった。 「あぁ、派手にやり過ぎだ。そも、なんでこんな場所で仕掛けてきたんだ。……元々一対一で勝てる見込みはなかったてか。……まぁいいや、他のテイマーが来る前にさっさと逃げるぞ、エビバーガモン」  長い前髪をくしゃりとかき上げながら、走り抜ける車を飛び越え彼の元に着地するエビドラモンだった自身のパートナーに声をかける。 「了解であります。ゴシュジン殿」  ハンバーガーを頭にかぶったようなピンクのデジモン、エビバーガモンが短い手足を大きく広げてその言葉に応える。 「別に良いけどさ、なんでご主人なんだ?」 「セッソウをパートナーに選んでいただいたのです、ゴシュジン殿と呼ばずして何と呼びましょう」 「……別に名前でいいって行ってるんだけどな」 「いいえ、セッソウはゴシュジン殿を尊敬しておりますので!お名前をお呼びするなど畏れ多い」 「どこで覚えてくるんだそういう言葉……まぁ、いいや。とりあえず今回はトントンだ。あいつのバックドアを削れただけ良しとするか」 「うぅむ、セッソウの外皮は中々に固い故、あまりダメージを実感しにくいのですが……Bitは失われていくのでありますな」 「しばらくはまたネットに潜ってデータ集めだ」 「あ、でしたらセッソウ行ってみたいサーバーがあるのですが」  幾度も繰り返したやり取りを口にしながら彼と彼のパートナーは駅と反対方向に歩き出した。端末をわざわざ顔に当てるような通話風景も無くなった現在、さして珍しくもなくなったどこかの誰かと会話するそのテイマーはやがて雑踏の中に紛れて消えていった。
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九音ナユリ

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