オリジナルデジモン小説アンソロ『DiGiMON WRiTERS2』に参加した際の作品。アプモンをデジモンにする話
世界の中心にいるのはいつだって自分で。自分はきっと特別な存在だと心のどこかで思っていて。望めばある程度何にだってなれると、人は何歳まで思うのか。少なくとも子供の頃は、そう思うものだ。夢は叶う。物語の主人公のようになれる。華々しい人生を送れる、誰もがそう思っていただろう。そして、できないものはできないし、自分は物語の主人公のようにはなれない、そう気づき、目の前の小さな幸せの為に日々精一杯生きるのが大人になっていくことだ。
だが、それを受け入れられる人間ばかりではない。子どもの頃の万能感が頭をよぎり、本当にこれでいいのか、自分にはもっとふさわしい場所があったのではないか、どうして自分はこうなってしまったのだろう、そんな風に考えて考えて考えて苦しむ者もいるのだ。だから、小説投稿サイトに素人が書き込む物語や、話題のライトノベルなどに俺TUEEと言われる主人公無双のストーリー、現実を否定する異世界転生物が蔓延る訳なのだ。
そう、望んでいるのだ、今の自分じゃなく未来の自分が輝ける場所を。夢物語のように。真の自分がそこにあると信じて、いや、望んで、すがりついて。それが人間の一側面。ならばこそ、それを与えてもらえたなら、それが悪魔の契約書にサインする物であると理解していてもどうして拒めようか。
○
それは、突然だった。つまらない上に字が汚い教授の授業を、出席点だけ回収する為に最後数分顔を出し、別の授業での代返の貸しを使ってわかりやすくまとめ直した友人のノートを借りるいつもの日常のはずだった。話題のドラマとかの無駄話を学友と交わし、遊ぶ金欲しさにつまらないバイトをこなし、後は寝るだけという、そのタイミングにそれはきた。
『あなたは主人公ですか?』
スマホの画面に浮かんだ謎のアプリアイコン。目玉を模した不気味なそれをインストールした覚えはなく、本来アプリの名前がある部分には何も書かれていないという怪しさ満点のもの。消えかかっているのか点滅を繰り返しつつ薄くなっていくそれを、ヤバイものなのではないかと思いつつ押してみたら、赤い画面に黒文字でこう書かれていた。スワイプしてみれば、YESとNOのボタンが続く。
ベッドから起き上がり、さてどうしてみようかと考える。普通なら、これ以上操作はせず、アンインストールだろう。どう考えても怪しい。変なウィルスでも仕込まれていてもおかしくない。でも、一度押してしまえば、二度押したって同じようなものだ。そもそも最初に怪しいアプリを起動した時点で決まっていた。何か面白い事はないかと、退屈な日常を彩る何かはないかと、自分自身の心が惹かれてしまっていたんだと。考えるまでもなく答えは決まっていた。YESを押す。
「キミの主人公になりたいという思いは確かなようだ。それならば簡単さ。ほら、私とともにくればいい!」
そんな声がどこからともなく聞こえてきたと思った次の瞬間。スマホの画面から光が溢れ、青年の視界を覆う。そして、画面に触れた指が飲み込まれていく感触を彼は味わう。
「ひっ、な、なんだこれ!?」
恐怖に彼が慌てふためくよりも前に、それは彼を吸い込んでしまう。後には、持ち主のいなくなったスマホが床に落ちる音が虚しく響くのみであった。
◎
粒子が散らばる真っ暗な空間が、青年の目の前に映る。時折何かの影が揺らめいたかと思えばすぐに消える、不気味な世界。その中心にいたのは身体中に目玉のついた白銀の巨体。それは聞く者だれをも魅了するだろう心地よい男の声を発する。いきなりの出来事に慌てふためく心すら落ち着かせていく程の怪しい魅力すらある声を。
「はじめまして、私はカリスモン。キミの名は?」
カリスモンと名乗った白いのが優雅な挙動で礼をする。やや芝居がかった動きで大げさでもあるが、様になっている。まるで、そう、魅力あふれる俳優の演技を見るかのように。
「キミの名は?」
突然の展開についていけず青年が黙っていると、再度カリスモンが尋ねてくる。有無を言わさず、答えなければならないプレッシャーを与えている。そもそも状況を把握する意味でも事情を知っていると思われるカリスモンとのコンタクトを取る必要はある。青年は口を開く。
「僕は、古川英輔。えっと、カリスモンって言ったっけ?ここは?」
「ふむ、いい名前だ。主人公にふさわしい。そして、その質問だが、なかなか説明が難しい。ここは、電脳の墓場とでも言うべき場所さ」
ほら、悪霊が渦巻いているだろう?と冗談交じりに言うカリスモン。揺らめいたと思えば消える影のことを指しているのだとわかる。
「電脳の墓場…?」
「デジタルワールドに受け入れらなかった、デジタルモンスターに変化できなかった、デジタル生命体のたまり場、というのが正確だがね」
「デジタルモンスター?」
「そうだな……いちいち口で説明するのも面倒だ。私の能力を披露しよう。英輔、さあ、私の目を見て」
屈んで、カリスモンが目を合わせてくる。全ての目に射抜かれると抵抗する気力すら抱けない。恐怖か威圧か、魅了かはわからない。少なくとも英輔自身の自覚としては、恐怖でも威圧でもなかった。
目を通してカリスモンの知識が英輔に流れ込んでくる。デジタルモンスター、人工知能を持ったウィルスが進化したモンスター。そして、それが生きるのがデジタルワールド。カリスモンは、アプリモンスター。アプリ生命体。デジモンとは出自が違えど、同じネットの海に生きる近しい存在。だからこそ、デジタルワールドにも受けいれられ、デジタルモンスターとして活動できると考えていたのに。
「流れ着いた私は、異物としてあの世界から弾かれた。この崇高なる私が、そんなことあってたまるものか!あの世界で長時間存在を維持ができないなどと!」
カリスモンが拳を握り熱く語る。その悔しさの感情も、目を通して伝えられており、英輔自身さえも自分のことのように思ってしまう。それすらも、カリスモンの持つアプリモンスターとしての洗脳の能力の一部の影響なのだろうが、英輔は危機感を抱けない。抱かない。
「彼らのようなデジモンのなりそこない、ミラーボールモン、ゾンビモン、ホーリーデジタマモンといった名前だけで存在を確立できていない幻霊(デジモン)たちも何故生まれる? 何故他の異世界から流れ着きデジモンとなった存在も数多いるのに、この私が、彼らが!」
カリスモンの周りに渦巻いていたデータが一瞬だけ何かの形をとる。ミラーボールに手が生えたようなモノ、蠢くゾンビのような姿のモノ、天使の卵のような姿のモノ。この場にいる全てのデジモンと言えてデジモンでないモノたちがカリスモンに呼応し、そしてカリスモンにも影響を与えているのだろう。
「だから、キミが必要なのさ、英輔。私があの世界で存在を維持する為に必要な力として」
カリスモンが右手を掲げる。その先に集まるデータの粒子。そして、左手を英輔に向けると、カリスモンの身体にあるのと同じ目玉をつけた球体が複数現れ、英輔の周りを飛び交う。同時に赤い光線を英輔に放つ。バーコードを読み取る機械や、情報をコピーする際のスキャンのように、英輔の情報を収集しているようだった。
「キミは、私が人間世界に放った、主人公願望を持つモノたちへの呼びかけの中でもっともはやく応えてくれた。選ばれたモノだ。キミのその憧れ、渇望は必ず我が助けとなる。そうだろう? だから、力を貸してくれ」
カリスモンの左手からあらわれた目玉達が、光の放出を終え、右手に集う粒子へ向かい飲まれていく。何をしようとしているのか、英輔にはわかる。それすらも、先ほどの知識の共有で与えられているから。絆の証、カリスモンが言うところの自分が与えられる力の象徴を作ろうとしているのだと。
「ところで、他の奴らはみんなまともな姿を取れていないのに、カリスモンはこの中で唯一まともな姿なのはどうしてなんだ? 僕の力を借りる必要なんてないんじゃないのか?」
だが、カリスモンが与えてくれた情報は、カリスモンが最低限必要だと判断したものだけで、英輔が疑問を抱く内容のフォローまではできていない。だからこその質問だった。
「あぁこれかい? デジタルワールドに入り込むために、偶然にも存在した同名のデジタルモンスターにとり憑き取り込み、我が血肉としたおかげさ。もっともそのデジモンも人為的に造られた存在で、種としての確立も不十分という我々に近しい存在だったのだが。……だからこそアクセスできた訳だが、デジタルワールドでの私の存在の完全な確立には繋がらず、存在の維持には課題が残った」
左手を自身の胸に当て語る。その説明の最中も、カリスモンの右手の上で、形づけられていく何か。丸と四角を組み合わせたかのような黒い装置が、少しずつ出来上がっていく。これこそが、カリスモンがデジタルワールドに長時間存在する為のアイテム。英輔を主人公にする為の装置。二人にとってのキボウとなるもの。カリスモンの意地と執念の産物。アプリモンスターとして淘汰され、神へと至る為の力として利用された事から決別する。その為に選んだ輝かしい祝福される未来への扉。その名は、
「デジヴァイス……」
「そう、これが私とキミが対等な関係を築く証となるもの。私をパートナーデジモンの枠に当てはめ、あの世界での存在証明として維持に一役買うものさ」
世界の危機に対して、デジタルワールドはしばしば人間の力を借りる。その際、パートナーデジモンというシステムを使う。そのパートナーデジモンとはある種普通のデジモンとは違い、危うい存在であるとも言える。人間から力をもらい世界の危機に立ち向かうだけの強力な力を発揮する代償なのか、基本的には本来デジタルモンスターの持つ進化に制約とも言うべきものが課せられ一時的なものとなる。だが、それでも、そのシステムを流用し、パートナーデジモンとしてのカリスモンとなるのであれば、あの世界で存在を維持できる。世界を欺く事ができる。そういう結論であった。
「好都合な事に、世界を救う為の人間の選別が今このタイミングで起こっている! 今なら容易く潜り込めるのさ、我々が。一人増えようが誤差の範囲と認識してくれる今ならば! 真の選ばれるべき存在であった私が、キミが!」
デジヴァイスを英輔の方へと向かわせつつ、カリスモンが語気を強めて両手を振るう。自身や英輔を指差し言う。一緒に歩もうと。強大な力を持つモンスターであるカリスモンに必要とされている。しがないどこにでもいる大学生であった自分が。その事が気持ちを高揚させる。
「さあ、英輔、仕上げだ。ペアリングといこうじゃないか。もう一度答えてくれ。キミは私と本当の主人公になる、そうだろう?」
英輔の目の前に浮かぶデジヴァイス。そこから光が浮かび上がり、スクリーンのようなものが表示される。再び映し出される『あなたは主人公ですか?』という問いかけとYES・NO。もう一度、YESを押そうと手を伸ばす。これで退屈な日常から冒険の舞台へと足を踏み入れられる。
「どうした? 英輔、何故押さない?」
YESのボタンに触れる直前で手が止まる。本当にそれでいいのか、洗脳の能力を持つカリスモンにいいように使われているのではないか、疑念が、不安が英輔を縛る。先ほどのアイコンを押した時のようにゲーム感覚で押していいものではないのだから。
「安心して、もう怖がらなくていいんだ。幸せになるのなんて簡単さ。ほら、私といっしょにくればいい」
英輔の隣に移動したカリスモンが右腕を掴む。そして、YESを共に押すよう促してくる。洗脳による強制ができるのだから、こうするという事は自身の意思で決められるという事。これを断る事もできる。自分じゃない誰かでも……それでいいのか?
「さあ、英輔。決めてくれ」
カリスモンを見やる。目と目が合うその瞬間、フラッシュバックする幼き日の記憶。棒きれを聖剣に見たて、勇者を気取った。ゲームや漫画のヒーローに憧れ、自分もそうなるんだと心をときめかせていた在りし日の自分。そっくりそのまま夢見ていた自分になれる訳じゃないにしても、このカリスモンとなら近い事ができる。そのはずなのだ。
これを仮に断った先にあるのは何だ? 単位を取って、就職活動して、卒業してつまらないどこにでもいるサラリーマンになって下げたくもない頭を下げて……、それでいいのか? 今からでもスリルを、冒険を、他の誰もが経験できないような事をする未来の方がいいのではないか?
次の瞬間、カリスモンと共にYESを押していた。その瞬間、輝きを放ち、白銀にデジヴァイスが彩られていく。 カリスモンの色だ。そして、画面横の枠だけがメタリックレッドに輝きを放つようになる。英輔の望む主人公の色。戦隊ヒーローでもなんでも、赤こそ特別という思いが反映されているのだろうか。
「成功だ」
デジヴァイスの輝きがこの世界を照らしていく。それが他の幻霊達と違い、実体をもってそこにいたといえるカリスモンを、より存在が確かなものへと昇華していく。何故だか英輔にはそれがわかる。
「キミは私のパートナー……いや、我々に限ってこんな言葉で括るのはやめにしよう。システムこそ利用したが、我々はもっと違う関係だ。互いに互いを必要とするのは同じだとしても、我々はもっと対等な、そう、バディとでも言おうか。キミは私のバディで、私はキミのバディデジモンとなった。そのリンクが私の変化をキミに伝えたのだろう」
その感覚を不思議がり、カリスモンに尋ねた結果の回答。対等な関係という言葉が嬉しかった。先程までとは違う。先程までなら、自分以外の誰かでもきっとカリスモンにはよかった。だが、今は、これからは、リンクした自分がカリスモンにとってかけがえのないものになり得て、また自分もカリスモンが絶対に必要な立場となれたと確信を持てるようになったのだから。
「さて、そのデジヴァイスにはデジモンの情報を表示する機能もあるはずだ。教えてくれ、英輔。デジモンとなった私がどのように認識されているかを」
自分達のものとなったデジヴァイスの機能を確かめるという意味でも、幻霊という立場から脱したカリスモンを確かめるという意味でもそれは必要な事だ。言われたようにすぐさまデジヴァイスを手に取り、色々とボタンを操作する。先ほどのスクリーンの表示のように、カリスモンの姿とパラメータ、説明文を浮かび上がらせる事に成功する。
「『カリスモン、完全体。突然変異型。ウィルス種。古川英輔のパー……いや、バディデジモン。新種につき詳細なデータはなし』だって」
「ふむ、完全体に割り振られたか。いや、まだ進化の可能性があると考えれば喜ばしいか」
顎に左手を当て考え込むカリスモン。自分の強さに自信があるからこそ、完全体という枠組みには若干の不満を覚えたのだろう。それだけ強い存在のバディになれたのだと、更に興奮する。一種のハイになっていて何事にも浮かれるような状態になっているのだが、誰が英輔をせめられようか。
「さて、これからどうしようか、カリスモン。何をすればいい?」
「それなんだが、しばらく待ってもらえないか? 我々のデジヴァイスを用意でき、私がデジタルモンスターとして存在を確立できたが、我々がイレギュラーである事に変わりない。できれば、選別の後、他の人間達が招かれている時に紛れ込みたい。だから」
「……わかったよ。それまでどうしてたらいい?」
「しばし、また今までのような日常を過ごしていてくれ。退屈な想いをさせるだろうが、なぁにこれまでのキミとは違う。すぐに私が迎えに行くさ、相棒(バディ)」
カリスモンが虚空へと手を翳す。その先に、光り輝く0と1の粒子が飛び散る薄紫色の裂け目が構築されていく。おそらくはもといた世界へと通じているのだろう。つまらない日常の待つ世界。それでもすぐに来るべき日があると思えば、足取りは軽く。再びカリスモンと会うまでに色々と準備ができる。両世界の時間の流れに違いがないとしても、長旅になるのならしておく事もあるだろう。それもまた面倒でつまらない事だが、それすら愛おしい。だって自分は、
「じゃあね、カリスモン。はやく僕を呼んでくれよ。僕はキミの」
バディなんだから、特別なデジモン・カリスモンの。
「あぁ、約束するよ。そう遠くない内に必ずまた君を喚ぶ、我らが冒険の世界へ」
両手を広げて高らかに、謳う。そんなカリスモンを視界に入れ、来るべきその日を夢想し、心の底から湧き上がる歓喜に身を焦がしながら英輔はゲートをくぐった。
●
「さて、これで完全な肉体は得られた」
デジヴァイスによってもたらされた輝やきも失せ、再び暗く染まった世界に佇むカリスモン。自らの身体の感覚を確かめるように関節を動かす。今までとの違いを実感する。確かにここにある、存在の揺らぎはない。
「この私を打ち破った力も手に入れた」
この世界へ流れ着くきっかけともなった自分を倒したアプモンがいた。同じ極グレード。外的要因による力の上昇値に差はなく。勝敗を分けたのはただひとつ。相手には手を組んだ人間がいて。こちらにはいなかった。それだけだ。だからこそ、バディ。デジタルワールドに受け入れられる存在への昇華の為にも。
「さて哀れな幻霊たち(デジモンになれなかったもの)よ。私は既にデジタルモンスターとなった。だが、バディデジモンとなった事で、戦力ダウンは否めないだろう。今はまだこの姿を維持できているがいずれは並……いや成長期だったか、そのような姿になる。それは仕方ない。受け入れよう、だがそれでも、少しでも強くありたくてね。この私に力を捧げる気はないか?」
人がカリスマに引き寄せられるように、ゴーストデータとなっている幻霊達を引き寄せ吸収する事がカリスモンにならできる。存在が確立していない時点では、カリスモン自身の自我にまで影響を及ぼしていただろう。だからこそ、この瞬間まで放置していたのだ。既にくらった本来のデジタルモンスターとしてのカリスモンや、ここに至るまでに擬似的にリンクし吸収した一部のアプリモンスター以外の幻霊達を。
「せめてものよしみだ、このままここで彷徨い続けるのもいいだろう。私に力を捧げてもいいと思う者だけ残ってくれ。私の力となるのであれば、仮初でも君らに肉体を与える事を約束するが」
デジヴァイスを創り出せたのも、世界を欺こうと画策するのも。全ては、幻霊から抜け出す為に喰らい、得た極アプモンの力の不完全な再現があればこそ。その偽装の能力と洗脳の能力。そして、究極体クラスの肉体。それでもまだ足りない。止まらない、かつてのような敗北を我が身に与える事のないように。究極の存在から、幻霊のような不安定な存在に陥る事のないように。恐怖も屈辱ももういらない。絶対的なカリスマには不要なのだから。
無意識ではあるが、主人公になる事への憧れを捨てきれなかった英輔とは、また別の意味でカリスモンも取り憑かれていた。こうであるべき自分に。
「数多いる中で20体か、少ないが、まあいい。約束しよう、キミたちの選択が間違いではなかったと! 後悔なんてさせないと! 私とともに、いや、私たちとともに幸せになろうじゃないか! さぁ、今こそ私のもとに来るがいい」
暗黒騎士のような風貌の影。おどろおどろしい竜のような姿の影。巨体に長い腕を持った魔獣の影。20いる全ての影がカリスモンへと引き寄せられていった……。
◎
「英輔? おい、どうしたんだよ」
先程まで普通に話していたのに、急に虚空を見つめ黙りこんだ相手を不思議に思い、友人が話しかける。英輔はそこで初めて彼の存在を思い出し、今までにない程穏やかな笑みを浮かべる。そんな態度にもちろん戸惑っていると、口を開く。
「ごめん、佑。僕も行かなきゃなんない」
終。
【カリスモン…突然変異型・完全体・ウィルス種。他人に暗示をかけることを得意とする。巧みな話術で対象を洗脳し、意のままに操る能力を持つが、本来デジタルモンスターではない。アルカディモンのパワーデータの一部が組み込まれ造られ、誕生以後種として確立できず淘汰されていたデジタルモンスターとしてのカリスモンのデータを取り込む事で個体としてデジタルモンスターへと変化した(存在の完全な確立には更なる要因が必要であったが)。存在の特異性と本来のアプモンとしての段階から完全体として顕在するに至ったが、その力は究極体に匹敵する。必殺技は、自分自身の力だけでなく周囲に存在する力を惹き付け束ねて放つ、超高密度の高エネルギー弾『ゼーレゲヴァルト』と幻霊としてデジタルモンスターになれなかったデータ達に仮初の肉体を与え攻撃させる『イミテーションノイズ』】